1 00:00:05,709 --> 00:00:08,959 (海鳥の鳴き声) 2 00:00:40,125 --> 00:00:42,709 (従業員) 野上さん お疲れさまです (野上) お疲れさまです 3 00:00:42,792 --> 00:00:45,000 (従業員) こちら 本日の郵送分です (野上) ありがとうございます 4 00:00:45,084 --> 00:00:46,209 (従業員) よろしく お願いします 5 00:00:53,584 --> 00:00:55,167 (閉める音) 6 00:01:06,667 --> 00:01:07,875 (美袋三条) おおっ… 7 00:01:11,167 --> 00:01:14,750 (美袋)“事実は小説より奇なり”と いうけれど―― 8 00:01:15,834 --> 00:01:20,792 じゃ 奇妙な事実をそのまま書けば 面白い小説になるのかといえば―― 9 00:01:21,167 --> 00:01:22,625 そんなことはない 10 00:01:24,459 --> 00:01:26,917 特に こいつの場合は 11 00:01:30,084 --> 00:01:31,834 おい メル 着くぞ 12 00:01:34,417 --> 00:01:39,959 このふざけた格好のヤツは メルカトル鮎 探偵だ 13 00:01:43,750 --> 00:01:44,959 いや 着くよ 14 00:01:55,709 --> 00:01:58,209 (美袋) おおっ ホホホッ… 15 00:02:01,084 --> 00:02:01,917 (録画ボタンを押す音) 16 00:02:02,375 --> 00:02:03,209 おお… 17 00:02:03,292 --> 00:02:04,250 (メルカトル鮎) アア… 18 00:02:05,042 --> 00:02:07,167 (メル) もう少し落ち着きたまえ 19 00:02:07,334 --> 00:02:10,000 そんなに浮かれて 私の助手が務まるのかい 20 00:02:10,084 --> 00:02:14,459 だって 美人作家とリゾートで1泊なんて 最高のネタになるじゃないか 21 00:02:14,542 --> 00:02:15,709 まったく 22 00:02:15,792 --> 00:02:20,834 そんな性根だから いつまでも 腕が上がらないんだよ 美袋くん 23 00:02:21,459 --> 00:02:24,750 (美袋) 僕は美袋三条 ミステリー作家だ 24 00:02:25,959 --> 00:02:28,542 正直に言って あまりパッとしない 25 00:02:28,625 --> 00:02:29,667 (メル) 面倒くさい 26 00:02:31,292 --> 00:02:32,292 傷ついた 27 00:02:33,209 --> 00:02:35,375 (車の音) 28 00:02:35,459 --> 00:02:36,292 (メル) あっ! 29 00:02:55,459 --> 00:03:00,209 (美袋) 今回の依頼 それは とても奇妙なものだった 30 00:03:03,625 --> 00:03:05,209 3日前のことだ 31 00:03:13,667 --> 00:03:14,625 (美袋) あつっ! 32 00:03:18,375 --> 00:03:19,209 メル! 33 00:03:23,542 --> 00:03:25,584 この間 渡した新作 読んでくれた? 34 00:03:29,792 --> 00:03:31,125 おお! ホホホッ… 35 00:03:51,500 --> 00:03:52,334 (美袋) どうだった? 36 00:03:55,500 --> 00:03:56,792 おい! 37 00:03:57,042 --> 00:03:59,000 ちょ… 捨てることないだろう 38 00:03:59,084 --> 00:04:00,917 せっかく書いたオリジナルなんだぞ 39 00:04:01,000 --> 00:04:03,209 (メル) 何を落胆する必要がある 40 00:04:03,292 --> 00:04:04,750 君に才能がないことぐらい―― 41 00:04:04,834 --> 00:04:07,417 常日ごろ 口を酸っぱくして 言ってるじゃないか 42 00:04:08,709 --> 00:04:12,875 (美袋) いいよな 君は いくつもの事件を解決できて 43 00:04:13,292 --> 00:04:15,542 (メル) 小説家と一緒にしないでほしいね 44 00:04:15,625 --> 00:04:18,500 探偵には 依頼人の人生が懸かってるんだから 45 00:04:19,167 --> 00:04:23,250 (美袋) やっぱり 僕は 君の活躍を小説化するだけの存在なのか 46 00:04:25,875 --> 00:04:27,709 さっきから なに読んでんだよ 47 00:04:29,459 --> 00:04:31,084 (メル) この人 知ってるかい? 48 00:04:31,292 --> 00:04:32,125 (美袋) うん? 49 00:04:33,750 --> 00:04:37,625 おお 鵠沼美崎ね 売れっ子の小説家だよ 50 00:04:37,917 --> 00:04:40,459 まあ 僕は 藤沢葉月のほうが好きだけど 51 00:04:41,250 --> 00:04:42,875 (メル) 藤沢葉月? (美袋) おう 52 00:04:44,125 --> 00:04:46,709 この写真に 一緒に写ってる作家だよ 53 00:04:46,875 --> 00:04:50,584 鵠沼美崎が 21歳で 新人賞の佳作でデビューしたときに―― 54 00:04:50,667 --> 00:04:53,625 藤澤葉月は その賞の大賞を受賞したんだ 55 00:04:53,750 --> 00:04:57,459 それ以来 2人は 二大美女作家として よく話題になるんだよ 56 00:04:57,542 --> 00:05:01,834 (メル) ほう “恋愛小説の旗手” 57 00:05:02,375 --> 00:05:05,834 (美袋) 藤沢葉月は そのあとも 大きな文学賞をいくつも取ってるからね 58 00:05:06,042 --> 00:05:10,709 僕も いくつかは… いや もう 大体 読んだよね うん 59 00:05:11,542 --> 00:05:15,334 あっ 確か 関空の近くに 豪邸を建ててるんだよ 60 00:05:15,417 --> 00:05:19,584 (メル) 同じ小説家でも 君のボロアパートとは大違いだ 61 00:05:19,667 --> 00:05:20,917 大きなお世話だよ 62 00:05:21,459 --> 00:05:22,500 (ドアブザー) 63 00:05:25,250 --> 00:05:26,292 (ノック) 64 00:05:34,250 --> 00:05:37,167 (鵠沼美崎) 先日は お電話で失礼いたしました 65 00:05:38,209 --> 00:05:40,292 鵠沼美崎と申します 66 00:05:40,917 --> 00:05:44,417 お待ちしておりました 鵠沼先生 67 00:05:47,375 --> 00:05:48,209 (美袋) えっ? 68 00:05:49,042 --> 00:05:49,875 えっ? 69 00:05:50,709 --> 00:05:51,875 ええっ!? 70 00:05:54,209 --> 00:05:56,292 どのようなご用件でしょうか? 71 00:05:59,334 --> 00:06:03,750 命を狙われているかもしれないんです 72 00:06:08,334 --> 00:06:13,875 (美崎) 先月から 毎日 赤い封筒に入って トランプが送られてきたんです 73 00:06:14,750 --> 00:06:15,875 (美袋) トランプ? 74 00:06:17,000 --> 00:06:21,084 中には ダイヤの“K”が1枚 入っていただけでした 75 00:06:21,709 --> 00:06:24,459 (メル) ダイヤの“K”ですか 76 00:06:25,459 --> 00:06:32,125 (美崎) そして次の日には ダイヤの“Q” その翌日には ダイヤの“J”が 77 00:06:32,292 --> 00:06:34,584 毎日 封筒で送られてくるんです 78 00:06:34,792 --> 00:06:38,209 それ以外は何もなく トランプだけが 79 00:06:38,750 --> 00:06:41,084 (美袋) あっ カウントダウンですか 80 00:06:43,459 --> 00:06:47,084 (美崎) ダイヤはAまで続いて 81 00:06:49,917 --> 00:06:52,750 その翌日は ハートのKになったんです 82 00:06:53,209 --> 00:06:55,625 そして 次の日は ハートのQが 83 00:06:58,917 --> 00:07:01,459 今朝 送られてきたハートの4で… 84 00:07:05,417 --> 00:07:07,209 23枚目です 85 00:07:08,959 --> 00:07:11,667 (メル) トランプには 何の変哲もないようですね 86 00:07:14,417 --> 00:07:16,500 ホテルにお住まいなのですか? 87 00:07:17,500 --> 00:07:19,000 (美崎) ああ… ええ 88 00:07:19,292 --> 00:07:23,209 今月に入ってすぐ リゾートホテルに仕事場を移したんです 89 00:07:23,459 --> 00:07:26,584 最初は いたずらかもと無視していたのですが―― 90 00:07:26,667 --> 00:07:32,167 ホテルに移った翌日から 封筒が 自宅ではなくホテルに届くようになったんです 91 00:07:32,250 --> 00:07:33,917 それで 怖くなって… 92 00:07:34,250 --> 00:07:35,667 なるほど 93 00:07:36,959 --> 00:07:40,875 困惑の原因が ようやく つかめてきました つまり… 94 00:07:41,334 --> 00:07:46,417 差出人は あなたの身近な人間である可能性が 高いわけですね 95 00:07:49,750 --> 00:07:52,792 でも 心当たりが全くなくて 96 00:07:53,417 --> 00:07:54,417 (美袋) 本当ですか? 97 00:07:54,750 --> 00:07:57,875 あっ この赤い封筒とか トランプの意味も? 98 00:07:58,334 --> 00:07:59,500 (美崎) うーん… 99 00:08:00,209 --> 00:08:05,834 もう少し具体的な脅迫文なら 私もピンと来て 対処できたかもしれませんが―― 100 00:08:05,917 --> 00:08:08,750 本当に 雲をつかむような状況で 101 00:08:08,834 --> 00:08:12,417 (メル) 確かに これでは 犯人の本気度が測れませんからね 102 00:08:12,500 --> 00:08:15,375 普通 わざわざ 脅迫文を出したりするのは―― 103 00:08:15,459 --> 00:08:19,667 対象が おびえたり恐れたりを 期待してのことでしょうが―― 104 00:08:20,084 --> 00:08:21,584 何ぶん 中途半端だ 105 00:08:22,000 --> 00:08:28,250 現に あなたも殊勝な態度のわりには それほど怖がっていないようにも見えますし 106 00:08:29,459 --> 00:08:30,292 (美崎) フッ… 107 00:08:31,167 --> 00:08:33,459 さすが 探偵先生です 108 00:08:33,834 --> 00:08:38,792 訳も分からず 一方的に脅されるのは 私 好きじゃないんです 109 00:08:39,834 --> 00:08:43,167 “是非とも 一矢 報いたい やりこめたい”と 110 00:08:43,500 --> 00:08:45,084 それで 私に調査を? 111 00:08:45,834 --> 00:08:48,542 (美崎) もちろん 調査もお願いしたいのですが―― 112 00:08:48,625 --> 00:08:54,250 いちばんの理由は きっと 3日後にハートのAが届くはずです 113 00:08:54,667 --> 00:09:00,500 もし その日がXデーだとしたら 夜に 何かが起きるのではないかと心配で 114 00:09:00,625 --> 00:09:04,917 赤の封筒に赤のマーク あなたのイメージカラーも赤 115 00:09:05,417 --> 00:09:08,667 ハートのAが カウントダウンの最後になる可能性は―― 116 00:09:08,750 --> 00:09:10,750 確かに高いですからね 117 00:09:11,292 --> 00:09:15,875 (美崎) 幸い ホテルの部屋は1つ空きがあって そこに泊まっていただけるはずです 118 00:09:15,959 --> 00:09:18,542 ホテルには 私から伝えておきますから 119 00:09:18,917 --> 00:09:20,542 引き受けていただけますか? 120 00:09:25,084 --> 00:09:27,959 3日後にお伺いします 121 00:09:29,375 --> 00:09:30,709 (美崎) 心強い 122 00:09:30,792 --> 00:09:33,209 先生に来ていただけたら ひと安心です 123 00:09:33,292 --> 00:09:34,875 …ですが お気をつけください 124 00:09:34,959 --> 00:09:38,875 カウントダウンが 犯人の都合で 変わることもないとは言えませんから 125 00:09:39,292 --> 00:09:40,625 アア… はい 126 00:09:40,875 --> 00:09:43,542 そのときは すぐに お知らせいたします 127 00:09:45,084 --> 00:09:45,917 では 128 00:09:48,250 --> 00:09:49,500 失礼いたします 129 00:09:52,417 --> 00:09:54,209 (ドアの開閉音) 130 00:09:56,125 --> 00:09:57,084 (美袋) なあ メル 131 00:09:57,500 --> 00:10:02,084 メルに依頼したことを犯人が知って 犯行を早める可能性はないのか? 132 00:10:02,167 --> 00:10:07,250 (メル) 全くないとは言い切れないが まず ないだろう 133 00:10:09,167 --> 00:10:11,084 他人に相談されて困るなら―― 134 00:10:11,167 --> 00:10:14,125 そもそも カウントダウンなどというマネは しないからだよ 135 00:10:14,209 --> 00:10:17,209 特に 日にちを区切るようなことはね 136 00:10:17,959 --> 00:10:22,334 怪盗の予告状と同じで その日だけ警戒すればいいはずだ 137 00:10:23,834 --> 00:10:26,625 だから その裏をかくために… 138 00:10:26,709 --> 00:10:30,750 トランプを送らなければ 彼女は 何も警戒していなかっただろう 139 00:10:31,000 --> 00:10:34,542 何をするにしても たやすく遂行できただろう 140 00:10:35,084 --> 00:10:39,334 わざわざ 注意を喚起しておきながら その裏をかくというのは―― 141 00:10:39,792 --> 00:10:41,459 二度手間だと思わないかい 142 00:10:42,042 --> 00:10:45,792 じゃ 3日後に 絶対 何か起こると 143 00:10:46,375 --> 00:10:47,209 ああ 144 00:10:48,542 --> 00:10:50,000 ハァ… 145 00:10:51,250 --> 00:10:53,292 (美袋) そういうわけで 僕とメルは―― 146 00:10:53,625 --> 00:10:59,375 閨秀作家として有名な鵠沼美崎が 滞在するホテルに向かうために―― 147 00:10:59,542 --> 00:11:01,334 白浜までやって来た 148 00:11:02,709 --> 00:11:06,084 (美袋) 毎年 ここに住んでるんですか すごいですね 149 00:11:09,667 --> 00:11:11,750 (野上) 鵠沼さま おかえりなさいませ 150 00:11:11,834 --> 00:11:13,709 (美崎) もう届いてますか? 151 00:11:13,792 --> 00:11:14,625 (野上) はい 152 00:11:21,209 --> 00:11:23,417 (野上) こちらでございます (美崎) ありがとうございます 153 00:11:34,917 --> 00:11:36,250 (美袋) ハートのA 154 00:11:36,584 --> 00:11:39,209 (メル) カウントダウン完了ですねえ 155 00:11:39,292 --> 00:11:40,125 (美崎) ええ 156 00:11:41,375 --> 00:11:43,459 では 行きましょうか 157 00:11:53,875 --> 00:11:56,792 (美袋) いよいよ カウントダウンの完了日というわりには―― 158 00:11:57,459 --> 00:11:59,500 彼女は朗らかだった 159 00:12:00,167 --> 00:12:05,292 事件を重く見ていないのか メルカトルがいるため 安心しているのか 160 00:12:05,792 --> 00:12:07,625 それとも から元気なのか 161 00:12:08,625 --> 00:12:10,250 私には分からない 162 00:12:12,875 --> 00:12:14,792 中もすごい 163 00:12:21,375 --> 00:12:22,834 (美袋) おおっ 164 00:12:23,500 --> 00:12:25,042 すごい 床 165 00:12:27,167 --> 00:12:28,625 おおっ 166 00:12:28,959 --> 00:12:32,292 はぁ~ すごいな これ 167 00:12:40,375 --> 00:12:41,625 (美崎) こちらです 168 00:12:47,834 --> 00:12:48,875 (美袋) 失礼します 169 00:12:50,292 --> 00:12:51,209 (美崎) どうぞ 170 00:12:58,959 --> 00:13:02,667 (美袋) うおお! これは最高ですね 171 00:13:02,750 --> 00:13:05,250 (美崎) これがあって ここを 毎年 借りているんです 172 00:13:05,334 --> 00:13:07,500 (メル) さすが 一流作家だ 173 00:13:07,584 --> 00:13:09,459 どこぞの 三流ミステリー作家とは―― 174 00:13:09,542 --> 00:13:11,375 大違いだなぁ 175 00:13:11,459 --> 00:13:12,500 (美袋) あまりに差がありすぎて―― 176 00:13:12,584 --> 00:13:14,209 嫉妬する気すら起こらないよ 177 00:13:14,584 --> 00:13:18,375 (メル) 嫉妬というのは 近ければ近いほど 強く激しくなるものだからね 178 00:13:18,625 --> 00:13:21,292 (美崎) そんな… 一流作家なんて 179 00:13:21,500 --> 00:13:24,500 そういうのは 賞のひとつも取ってから 認められるものですから 180 00:13:24,584 --> 00:13:27,459 (メル) いやいや 一流作家と どんどん名乗ればいい 181 00:13:27,542 --> 00:13:31,584 そして 優雅な生活をもっと公開するんですよ 182 00:13:31,667 --> 00:13:33,875 後進に夢を与えるためにもね 183 00:13:34,709 --> 00:13:37,250 孤高の探偵とは伺っておりましたが―― 184 00:13:37,792 --> 00:13:41,500 やっぱり メルカトル先生は変わった方なんですね 185 00:13:41,750 --> 00:13:45,125 そんなことをすれば 同業者に 嫌みな女と思われるだけです 186 00:13:45,209 --> 00:13:48,250 (メル) 今更 同業者を気にして どうするんですか 187 00:13:48,334 --> 00:13:51,084 作家として大成されているというのに 188 00:13:51,625 --> 00:13:56,042 そこの美袋くんなんて 何ひとつ得ていないのに 日々 堂々としたものですよ 189 00:13:56,125 --> 00:13:56,959 (美袋) おい 190 00:13:57,542 --> 00:14:00,792 あっ まあ 人は人 自分は自分ですね 191 00:14:01,417 --> 00:14:02,250 フッ… 192 00:14:03,792 --> 00:14:04,625 フフッ… 193 00:14:05,250 --> 00:14:09,500 あっ ところで 今晩は 部屋を替えたりされなくてよかったんですか? 194 00:14:10,792 --> 00:14:15,000 (美崎) 部屋を移ったら 何か負けた気になるんです 195 00:14:15,084 --> 00:14:16,917 (メル) 負けず嫌いなんですねえ 196 00:14:17,084 --> 00:14:18,875 アア… 恥ずかしながら 197 00:14:19,125 --> 00:14:22,917 でも そのせいで ここまで やってこれたと思います 198 00:14:23,625 --> 00:14:25,000 あなたらしいですね 199 00:14:25,084 --> 00:14:29,334 でも たまには 肩肘を張らない生き方をしてみるべきでは 200 00:14:29,542 --> 00:14:31,417 あなた自身が窮屈でしょう 201 00:14:32,042 --> 00:14:34,500 はた目ほど窮屈ではありませんよ 202 00:14:34,750 --> 00:14:39,459 それに それが 創作意欲にもつながっていますから 203 00:14:41,500 --> 00:14:44,250 (メル) フッ… そうだといいですが 204 00:14:47,417 --> 00:14:48,917 (美崎) では こちらに 205 00:14:57,292 --> 00:14:58,292 (美崎) 先生方には―― 206 00:14:58,375 --> 00:15:00,709 この部屋に 泊まっていただきたいんです 207 00:15:00,792 --> 00:15:02,542 (美袋) あっ なるほど 208 00:15:02,625 --> 00:15:05,917 隣の部屋というのは ここのことだったんですね 209 00:15:06,042 --> 00:15:09,209 隣室から どうやって 襲撃を防ぐのかと思ってましたが―― 210 00:15:09,292 --> 00:15:11,750 同じスイートルームなら問題ないですよね 211 00:15:11,834 --> 00:15:14,209 ごめんなさい 言葉不足でした 212 00:15:14,334 --> 00:15:18,417 それに 隣の部屋は 既に埋まっていて 借りられないみたいですし 213 00:15:18,500 --> 00:15:19,542 そのようですね 214 00:15:20,667 --> 00:15:21,500 (美袋) なんで 知ってんだよ 215 00:15:24,417 --> 00:15:28,709 (美崎) アア… ここは 友人や編集者が来たときに泊まる部屋なんです 216 00:15:29,042 --> 00:15:32,667 あっ もちろん 泊まるのは女性だけですよ フフッ… 217 00:15:33,125 --> 00:15:35,667 探偵はよろしいのですか? 218 00:15:36,084 --> 00:15:39,792 ええ 信頼するメルカトル先生だけは 219 00:15:40,750 --> 00:15:42,417 それは光栄ですね 220 00:15:42,625 --> 00:15:45,584 ちなみに 先生の寝室を拝見しても? 221 00:15:45,667 --> 00:15:48,834 (美崎) あっ もちろんです どうぞ 222 00:15:50,459 --> 00:15:52,209 えっ 僕も泊まれるよね? 223 00:15:56,375 --> 00:15:58,875 アア… 散らかっていて すいません 224 00:15:59,875 --> 00:16:03,084 ここは 作業部屋 兼 寝室なんです 225 00:16:05,709 --> 00:16:07,167 外を見ても? 226 00:16:07,875 --> 00:16:08,709 (美崎) ええ 227 00:16:12,667 --> 00:16:13,709 (メル) ほう 228 00:16:14,459 --> 00:16:15,292 ほう 229 00:16:25,334 --> 00:16:26,959 ほ~う 230 00:16:27,625 --> 00:16:30,209 (美袋) おっ おおっ ホホホッ… 231 00:16:35,125 --> 00:16:38,250 (メル) このベランダに 忍び込むことも難しそうですが 232 00:16:38,334 --> 00:16:40,667 今夜は 絶対に ここに出ないでください 233 00:16:41,167 --> 00:16:43,125 (美崎) 分かりました (メル) 絶対にですよ 234 00:16:43,792 --> 00:16:46,667 (美崎) 急に お仕事モードになられたんですね 235 00:16:47,667 --> 00:16:51,750 (メル) 探偵としては あらゆる不安を排除しなくてはいけませんからね 236 00:16:51,834 --> 00:16:53,459 あくまでも 念のためです 237 00:16:53,542 --> 00:16:54,459 それに―― 238 00:16:55,667 --> 00:16:57,209 そこにいる美袋くんが―― 239 00:16:57,292 --> 00:17:00,584 あなたの色香に惑わされて 悪さをするかもしれない 240 00:17:00,792 --> 00:17:02,125 (美袋) なんで 僕? 241 00:17:02,209 --> 00:17:04,917 (美崎) こう見えても 運動神経には自信があります 242 00:17:05,459 --> 00:17:08,709 美袋さんなら… 大丈夫です 243 00:17:09,375 --> 00:17:11,500 (笑い声) 244 00:17:11,584 --> 00:17:12,417 (メル) 大丈夫です 245 00:17:12,500 --> 00:17:15,250 (美袋) なんか この2人 腹立つな 246 00:17:15,459 --> 00:17:17,750 はい 次 いきましょう 247 00:17:26,917 --> 00:17:28,792 (メル) この部屋を 少し見てもいいですか? 248 00:17:29,334 --> 00:17:30,917 (美崎) あっ… ええ 249 00:17:37,542 --> 00:17:39,292 (メル) ちょうど ここに脚立がある 250 00:17:39,375 --> 00:17:41,584 これで 天井の入り口を調べてくれないか? 251 00:17:43,375 --> 00:17:45,417 面倒な作業は全部 僕だな 252 00:17:45,709 --> 00:17:47,750 (メル) まあ いいじゃないか ほら 253 00:17:48,000 --> 00:17:49,500 (美袋) いや “ほら”って 254 00:17:49,625 --> 00:17:50,792 (メル) はい よろしく 255 00:17:51,250 --> 00:17:53,042 (美袋)“よろしく”じゃない (メル) えーっと… 256 00:17:53,125 --> 00:17:54,375 あっ ほら あった! ここだ 257 00:17:54,459 --> 00:17:57,834 (美袋) ちょっと… せめて 持ってけよ これ 258 00:17:59,542 --> 00:18:00,375 はい 259 00:18:04,500 --> 00:18:06,834 ロックかかってて開かないよ 260 00:18:07,750 --> 00:18:09,375 (メル) それなら大丈夫だろう 261 00:18:09,459 --> 00:18:14,167 いかに高級ホテルといえど 天井裏を歩けば 足音は立つだろうし 262 00:18:15,667 --> 00:18:19,625 それにしても この脚立 使い勝手がいいねえ 263 00:18:19,709 --> 00:18:21,709 寝ずの番には ちょうどいい 264 00:18:22,209 --> 00:18:24,500 今晩 これをお借りしてもいいですか? 265 00:18:25,125 --> 00:18:27,459 えっ? いや でも… 266 00:18:27,625 --> 00:18:30,209 (美袋) メル 座るなら イスでいいじゃないか 267 00:18:30,292 --> 00:18:31,417 アッ… ええ 268 00:18:31,500 --> 00:18:34,584 この部屋にあるのは どれでも使っていただいてかまいません 269 00:18:34,667 --> 00:18:36,125 あなたのためです 270 00:18:37,500 --> 00:18:39,959 アア… 分かりました 271 00:18:41,292 --> 00:18:43,084 (美袋) はい もう これで終わり 272 00:18:43,500 --> 00:18:45,209 はい ロックされてます 273 00:18:45,292 --> 00:18:48,125 (メル) セイヤー セイヤー セイヤー (美袋) ちょちょちょ… 何だよ 274 00:18:48,792 --> 00:18:51,125 (メル) これで 盗聴器がないか調べてきてくれ 275 00:18:51,625 --> 00:18:53,417 (美袋) えっ? それも僕がやんの? 276 00:18:53,500 --> 00:18:55,334 (メル) 君の仕事だろう 277 00:18:55,417 --> 00:18:56,959 (美袋) いや “だろう”って (メル) ハハッ… 278 00:18:57,542 --> 00:18:58,750 (メル) ありがとうございます 279 00:19:03,709 --> 00:19:06,125 おおっ すごくいい匂いですねえ 280 00:19:06,209 --> 00:19:07,875 じゃ 俺 探すよ 1人で 281 00:19:07,959 --> 00:19:09,834 (美崎) あっ… お願いします 282 00:19:10,042 --> 00:19:11,334 (美袋) アッ… (メル) ウーン… 283 00:19:11,542 --> 00:19:13,042 ホントに いい匂いだ 284 00:19:13,292 --> 00:19:14,375 探すからね 285 00:19:15,500 --> 00:19:16,667 (美崎) お好きですか? 286 00:19:17,584 --> 00:19:19,042 (メル) あっ おいしいです すごく 287 00:19:19,125 --> 00:19:22,959 あっ でも ちょっと酸っぱい へえ~ でも おいしい 288 00:19:24,042 --> 00:19:26,250 (美崎) ウン おいしい 289 00:19:27,417 --> 00:19:29,584 ドイツで取り寄せたものなんです 290 00:19:35,834 --> 00:19:37,250 (美袋) ウワッ! いっぱい入ってる これ 291 00:19:38,167 --> 00:19:42,209 (メル) へえ~ さすが 物知りですねえ 292 00:19:44,750 --> 00:19:48,167 (美袋) いやぁ 働くと 喉が渇くね 293 00:19:49,209 --> 00:19:50,417 (美袋) メル (メル) うん? 294 00:19:50,709 --> 00:19:52,209 どこにもなかったよ 295 00:19:52,959 --> 00:19:53,917 (メル) ふ~ん 296 00:19:54,500 --> 00:19:56,250 盗聴器はないようですね 297 00:19:57,042 --> 00:19:58,459 ありがとうございます 298 00:19:59,334 --> 00:20:01,500 (美袋) どういう結果になっても―― 299 00:20:01,917 --> 00:20:06,125 この事件は 絶対に小説化させてもらうと心に決めた 300 00:20:06,209 --> 00:20:07,667 ヒロインの名前は… 301 00:20:07,959 --> 00:20:12,084 う~ん そうだ “片瀬江ノ子”とでもしてやろうか 302 00:20:13,750 --> 00:20:16,209 あっ… お疲れさまでした 303 00:20:19,875 --> 00:20:21,584 (美袋) 考え直してやろう 304 00:20:28,542 --> 00:20:29,625 (ノック) 305 00:20:35,625 --> 00:20:38,834 メルカトル先生 お酒は飲みますか? 306 00:20:39,084 --> 00:20:41,459 ええ いただきましょう 307 00:20:41,542 --> 00:20:43,000 おい 仕事中だろう 308 00:20:43,667 --> 00:20:44,667 美袋さんは? 309 00:20:45,292 --> 00:20:47,167 (美袋) あっ じゃ 僕も… (メル) 彼は寝ずの番なので 結構です 310 00:20:47,250 --> 00:20:49,125 いわば 労働担当ですね 311 00:20:49,917 --> 00:20:51,292 (美袋) いつ決まったんだよ 312 00:20:54,584 --> 00:20:57,375 (美袋) おお やっぱり ワインも赤なんですね 313 00:20:57,459 --> 00:20:58,917 白は飲まれないんですか? 314 00:20:59,000 --> 00:21:00,417 (美崎) フフッ… 飲みますよ 315 00:21:00,500 --> 00:21:02,500 (美袋) ハハッ …ですよねえ 316 00:21:03,125 --> 00:21:03,959 (美崎) どうぞ 317 00:21:06,625 --> 00:21:10,084 (メル) 鵠沼先生は いろいろと たしなまれるようだ 318 00:21:10,959 --> 00:21:14,709 (美崎) 私もいいです さすがに心配なので 319 00:21:15,542 --> 00:21:18,375 眠っている間に襲われたら大変ですし 320 00:21:18,459 --> 00:21:20,542 (美袋) うん? なんで 僕を見るんですか? 321 00:21:20,959 --> 00:21:22,167 (笑い声) 322 00:21:23,000 --> 00:21:24,959 (メル) そうですか では いただきます 323 00:21:29,292 --> 00:21:35,667 しかし 先ほど 資料の山を拝見しましたが あなたは本当に仕事熱心だ 324 00:21:35,750 --> 00:21:39,084 フッ… 仕事をしないと落ち着かないんです 325 00:21:39,334 --> 00:21:41,292 ワーカホリックかもしれません 326 00:21:41,459 --> 00:21:45,709 (メル) 富も名声も得て 何が あなたに そうさせるんですか? 327 00:21:51,625 --> 00:21:54,417 (美崎) う~ん… 何でしょう 328 00:22:06,417 --> 00:22:09,084 (美袋) メル そんな飲んで大丈夫か? 329 00:22:12,750 --> 00:22:16,500 (美崎) もし 今夜 何もなければ どうなるんでしょう? 330 00:22:16,584 --> 00:22:20,292 (メル) 可能性としては あした クラブのKが送られてくるかもしれません 331 00:22:20,375 --> 00:22:25,125 (美崎) あっ… じゃ また 26日も苦しまなければならないんですか? 332 00:22:25,209 --> 00:22:28,625 (メル) 時間に余裕があるならば 対処する方法は いくらでもあります 333 00:22:28,709 --> 00:22:33,042 その意味では もっと早く 相談しに来ていただけたらよかったのですが 334 00:22:33,709 --> 00:22:36,709 (美崎) どこまで本気にしていいか 悩んでいたものですから 335 00:22:36,792 --> 00:22:40,417 (メル) まあ トランプのカードでは それが普通の反応です 336 00:22:40,500 --> 00:22:45,209 ただ あなたは 普通の人よりも 決断力に優れている 337 00:22:46,000 --> 00:22:49,667 あなたの恋愛小説を拝読して そう確信しました 338 00:22:52,375 --> 00:22:58,292 すみませんが 恋愛小説という表現は 私は好きではありません 339 00:22:59,875 --> 00:23:00,709 ほう 340 00:23:02,292 --> 00:23:06,792 (美崎) ほかの人は知りませんが 私は 女性小説を書いているだけです 341 00:23:06,875 --> 00:23:09,209 その一断面が恋愛であるだけで 342 00:23:09,875 --> 00:23:11,417 “恋愛小説”というと―― 343 00:23:11,500 --> 00:23:14,667 まるで 女性のウェートのほとんどが 恋愛にかかっているようで 344 00:23:14,750 --> 00:23:21,125 (メル) しかし 鵠沼先生の小説の主人公は 恋愛のウェートが大きいように見えますが 345 00:23:21,625 --> 00:23:25,750 (美崎) 確かに 私の小説の登場人物は 恋愛に翻弄されます 346 00:23:25,834 --> 00:23:30,834 しかし その背景には “生”という更に大きな問題が控えています 347 00:23:31,250 --> 00:23:33,584 インタビューでも いつも 答えているのですが―― 348 00:23:33,667 --> 00:23:38,667 私が書いているのは ラブロマンスではなく ビルドゥングスロマンです 349 00:23:38,959 --> 00:23:40,500 デビューから一貫して 350 00:23:40,667 --> 00:23:44,084 (メル) うん? ビル? うん? ビル… ビルドゥングス? 351 00:23:44,167 --> 00:23:49,125 (美袋) 主人公の心の成長や 人間形成の過程を描いたジャンルのことだよ 352 00:23:49,209 --> 00:23:50,417 (メル) ほう 353 00:23:50,500 --> 00:23:53,792 今は 同世代の悩みなども書き始めていますが―― 354 00:23:53,875 --> 00:23:57,959 主人公が克服するのは あくまで 生の諸問題です 355 00:23:58,042 --> 00:24:00,375 この社会で居場所を見つけるための 356 00:24:01,209 --> 00:24:04,000 不見識を謝罪します 357 00:24:04,834 --> 00:24:07,709 ただ 私が見た雑誌では―― 358 00:24:07,792 --> 00:24:12,667 藤沢葉月さんと並んで 恋愛小説の旗手だと紹介されていたもので 359 00:24:13,417 --> 00:24:18,584 (美崎) 藤沢さんは恋愛小説の優れた書き手です 360 00:24:19,500 --> 00:24:22,250 愛のために社会を捨てられるような 361 00:24:23,542 --> 00:24:29,625 でも 私が書いているのは女性小説で 2つは似て非なるものです なのに… 362 00:24:29,709 --> 00:24:32,209 (美袋) すると 雑誌側のミスなわけですね 363 00:24:32,292 --> 00:24:35,292 これだけ訴えてるのに まだ間違える編集者がいるとは―― 364 00:24:35,375 --> 00:24:36,417 困ったものですね 365 00:24:36,500 --> 00:24:39,375 (メル) しかし 若いころは 恋愛は大きな要素ではありませんか? 366 00:24:39,459 --> 00:24:41,709 (美袋) もう いいだろう メル 飲み過ぎだぞ 367 00:24:42,917 --> 00:24:43,750 (メル) これは失敬 368 00:24:43,834 --> 00:24:46,709 (美崎) 確かに 恋愛は大きな要素です 369 00:24:46,792 --> 00:24:50,042 私も翻弄され 視野狭窄になった時期もありますし―― 370 00:24:50,125 --> 00:24:52,917 それを包み隠さず 小説にしました 371 00:24:53,584 --> 00:24:56,584 でも その先が大事なんです 372 00:24:57,459 --> 00:25:00,584 経験を糧にして 目指すべき先が 373 00:25:00,792 --> 00:25:02,459 なるほど 374 00:25:02,584 --> 00:25:05,959 勝ち続けてきたあなたらしい勝者の 美学なわけですね 375 00:25:06,042 --> 00:25:08,750 私も勝つことは好きですから 応援しますよ 376 00:25:08,834 --> 00:25:13,000 しかし たまには 負けてみるのもいいかもしれません 377 00:25:13,375 --> 00:25:17,084 探偵と違って 負けても 命までは取られないでしょうから 378 00:25:17,875 --> 00:25:22,750 負けて得るものがあれば それは 最終的には勝ちではないですか? 379 00:25:23,042 --> 00:25:28,125 (メル) フフフッ… なるほど 前向きで すばらしいお考えです 380 00:25:28,209 --> 00:25:31,792 そこの美袋くんに 爪のアカを煎じて飲ませてあげたいくらいだ 381 00:25:31,875 --> 00:25:34,709 (美袋) 僕は 勝ち負けではなく―― 382 00:25:35,375 --> 00:25:38,334 彼から小説のネタを拾えれば それでいいんです 383 00:25:38,417 --> 00:25:42,542 強いて言うなら 本が出せれば 僕の勝ちですから 384 00:25:42,625 --> 00:25:44,459 (美崎) 分かりやすくて すばらしいですね 385 00:25:44,542 --> 00:25:46,292 (メル) どこがすばらしいか 386 00:25:46,375 --> 00:25:49,375 彼は 私の全てを活字にしてしまいますからね 387 00:25:49,459 --> 00:25:51,167 あなたも気をつけたほうがいい 388 00:25:51,250 --> 00:25:55,125 先ほどの発言も尾ひれがついて 全てが活字になってしまうかもしれない 389 00:25:55,209 --> 00:25:57,875 (美袋) そんなぶしつけな人間じゃありません 390 00:25:57,959 --> 00:26:00,500 こう見えて 口は堅いほうですので 391 00:26:00,584 --> 00:26:03,209 (美崎) 私が活字にする側から される側に 392 00:26:03,292 --> 00:26:05,334 フッ… それは面白いです 393 00:26:06,292 --> 00:26:10,417 美袋さんの前では なるべく 淑女に振る舞わないと 394 00:26:10,667 --> 00:26:14,500 (メル) もし 今夜 何もなくて あした クラブのKが送られてきたら 395 00:26:14,875 --> 00:26:17,459 先ほど “26日も”と言われましたが―― 396 00:26:17,542 --> 00:26:21,542 スペードのAのあとに ジョーカーが送られてくる可能性もあります 397 00:26:21,625 --> 00:26:23,542 そうなれば 27日です 398 00:26:23,959 --> 00:26:24,875 確かに 399 00:26:25,125 --> 00:26:29,667 今は前提条件が乏しすぎて いくらでも 推測が可能な状態です 400 00:26:29,834 --> 00:26:31,292 必要なのは時間 401 00:26:32,084 --> 00:26:34,542 もし 今日が失敗すれば 犯人は考え直すかもしれない 402 00:26:34,625 --> 00:26:36,417 そうなれば ウィンウィンです 403 00:26:38,209 --> 00:26:42,292 探偵さんというのは 犯人のことも考えるのですか? 404 00:26:42,750 --> 00:26:47,834 依頼人の安全が第一ですが 未然に防げるなら それに越したことはないです 405 00:26:47,917 --> 00:26:49,292 1つ 事件が起きる度に―― 406 00:26:49,375 --> 00:26:53,209 誰か1人は 確実に不幸になってしまうわけですからね 407 00:26:53,292 --> 00:26:57,167 一歩 とどまらせるというのも 名探偵の職務ですよ 408 00:27:00,375 --> 00:27:01,584 すばらしい 409 00:27:02,834 --> 00:27:05,292 (雨の音) 410 00:27:05,667 --> 00:27:09,084 (美袋) あっ… また強くなってきた 411 00:27:09,167 --> 00:27:10,625 (雷鳴) 412 00:27:10,709 --> 00:27:11,959 (メル) 失礼しました 413 00:27:12,375 --> 00:27:14,375 そろそろ お開きとしましょうか 414 00:27:14,459 --> 00:27:15,959 (美袋) おお どうした? 急に 415 00:27:16,042 --> 00:27:18,584 (メル) 今夜は十分にお気をつけください 416 00:27:18,875 --> 00:27:20,625 (美崎) アッ… はい 417 00:27:21,584 --> 00:27:24,500 それでは よろしく お願いいたします 418 00:27:26,125 --> 00:27:27,334 おやすみなさい 419 00:27:27,625 --> 00:27:28,709 (美袋) おやすみなさい 420 00:27:38,459 --> 00:27:40,125 (メル) よし 421 00:27:43,209 --> 00:27:44,250 はい これに座って 422 00:27:44,334 --> 00:27:46,375 (美袋) ええっ ホントに これに座んの? 423 00:27:46,459 --> 00:27:47,292 (メル) うん 424 00:27:48,625 --> 00:27:50,167 (メル) いいからいいから (美袋) えっ? 425 00:27:51,625 --> 00:27:54,500 (美袋) アア… (メル) これを君に授けよう 426 00:27:54,959 --> 00:27:57,125 (美袋) なに? これ えっ ちょっと いちばん弱そうなんだけど 427 00:27:57,209 --> 00:28:02,292 (メル) まあまあまあ これで リビング全体を見張ってるように 428 00:28:02,375 --> 00:28:04,542 (美袋) いや 全体って… 429 00:28:04,625 --> 00:28:05,459 (メル) 頼んだ 430 00:28:06,209 --> 00:28:07,167 (美袋) おい 431 00:28:08,542 --> 00:28:11,084 ちょ… いや 依頼を受けたの お前だろう 432 00:28:13,417 --> 00:28:14,250 おい 433 00:28:16,000 --> 00:28:17,250 おい メル! 434 00:28:19,167 --> 00:28:21,459 無責任だな 435 00:28:26,709 --> 00:28:31,709 ♪~「マタイ受難曲」 436 00:28:42,959 --> 00:28:44,042 (雷鳴) (美袋) アッ! 437 00:28:46,459 --> 00:28:47,459 襲撃? 438 00:29:04,917 --> 00:29:09,209 (雷鳴) 439 00:29:11,917 --> 00:29:14,417 (雷鳴) 440 00:29:20,292 --> 00:29:21,500 (美袋) メル 朝だよ 441 00:29:21,584 --> 00:29:24,250 (ぶつかる音) いたっ… ちょ… 代わって 442 00:29:26,959 --> 00:29:31,959 (救急車のサイレン) 443 00:29:37,542 --> 00:29:38,375 (ノック) 444 00:29:38,625 --> 00:29:41,542 鵠沼先生 おはようございます いらっしゃいますか? 445 00:29:43,084 --> 00:29:44,750 (ノック) (美袋) 鵠沼先生! 446 00:29:45,500 --> 00:29:46,500 入りますよ 447 00:29:46,959 --> 00:29:47,834 ♪~「マタイ受難曲」 448 00:29:47,917 --> 00:29:49,000 鵠沼先生 449 00:30:04,042 --> 00:30:09,042 (サイレン) 450 00:30:13,959 --> 00:30:16,000 メル メル! 451 00:30:19,792 --> 00:30:20,792 (警官) お疲れさまです 452 00:30:23,750 --> 00:30:27,417 (美袋) 鵠沼美崎が 転落死しているのが発見されたのは―― 453 00:30:27,584 --> 00:30:30,584 夜が明けて間もない5時半のことだった 454 00:30:31,167 --> 00:30:35,459 発見者は 日の出とともに散策をしていた宿泊客 455 00:30:36,292 --> 00:30:41,625 頭から落ちたらしく 死因は頸椎と頭蓋骨の骨折で―― 456 00:30:41,792 --> 00:30:44,917 転落と考えられる以外の外傷はなかった 457 00:30:45,625 --> 00:30:47,542 衣服がぬれていたことから―― 458 00:30:48,167 --> 00:30:51,750 雨が降っている最中に転落したことは確実で 459 00:30:52,500 --> 00:30:55,834 また 薬物が使用された痕跡もなく―― 460 00:30:56,584 --> 00:31:01,459 意識が正常な状態で ベランダから落下したと考えられている 461 00:31:02,959 --> 00:31:07,959 気象台によると 昨晩の雨は 夜の2時には上がっていたので―― 462 00:31:08,959 --> 00:31:11,042 落下したのは それ以前となる 463 00:31:13,125 --> 00:31:14,750 また 警察によると―― 464 00:31:15,125 --> 00:31:18,792 死亡時刻は 11時から1時の間が濃厚らしい 465 00:31:24,584 --> 00:31:25,417 (美袋) メル 466 00:31:27,334 --> 00:31:29,250 (メル) ダメだったか 467 00:31:30,875 --> 00:31:32,917 (美袋)“ダメだったか”じゃないだろう 468 00:31:33,292 --> 00:31:35,209 ワイン しこたま飲んで 依頼人 死なせて 469 00:31:35,292 --> 00:31:36,792 失態もいいとこだ 470 00:31:39,375 --> 00:31:41,042 どうするつもりなんだ? 471 00:31:48,375 --> 00:31:50,375 (柳 敦夫) 和歌山県警の柳です 472 00:31:52,000 --> 00:31:55,292 君が被害者を護衛していた役立たずの探偵か 473 00:31:55,625 --> 00:31:57,667 (メル) 一応 そういうことになるね 474 00:31:57,917 --> 00:32:00,834 (柳) 昨夜は 被害者と 何時まで一緒にいましたか? 475 00:32:01,167 --> 00:32:04,209 (美袋) 夜11時ごろ お互いのベッドルームに入ってからは―― 476 00:32:04,292 --> 00:32:06,292 僕が リビングを見張っていました 477 00:32:06,500 --> 00:32:09,417 間違いなく 部屋には誰も出入りしてません 478 00:32:10,000 --> 00:32:10,959 (刑事) こちらです 479 00:32:23,167 --> 00:32:28,084 (美袋) 今朝5時半ごろ 僕が部屋に入ったとき ベランダの内鍵は開いていました 480 00:32:28,375 --> 00:32:31,000 何らかの誘導や強制があったにせよ―― 481 00:32:31,084 --> 00:32:34,167 彼女自身が窓を開けたことに 間違いはないと思います 482 00:32:34,250 --> 00:32:37,792 (柳) 争った形跡も 物色された形跡もないですね 483 00:32:38,334 --> 00:32:42,000 (美袋) どうして 鵠沼先生は 雨の中 ベランダに出たんだろう 484 00:32:42,209 --> 00:32:46,500 (柳) フフフッ… のんきなもんですね 三文作家さんは 485 00:32:46,834 --> 00:32:47,667 えっ? 486 00:32:47,750 --> 00:32:50,959 (柳) 今の話だと あなたがいちばん怪しいんです 487 00:32:51,667 --> 00:32:54,959 雨の中 被害者が1人でベランダに出るとは考えにくい 488 00:32:55,042 --> 00:33:00,375 つまり 被害者をベランダに連れ出すには 被害者の寝室に入らなければならない 489 00:33:00,459 --> 00:33:02,959 それができたのは あなただけなんです 490 00:33:03,042 --> 00:33:04,167 (美袋) そんな… 491 00:33:04,667 --> 00:33:09,209 (柳) 被害者から 他殺の痕跡が1つでも出れば あなたは ブタ箱に直行だ 492 00:33:09,292 --> 00:33:12,042 (美袋) いや 僕は リビングをずっと見張ってただけで 493 00:33:12,125 --> 00:33:16,917 (柳) 同室のヘボ探偵は ぐっすり眠っていたんでしょう? 494 00:33:17,375 --> 00:33:18,917 …なら あなたしかいない 495 00:33:19,584 --> 00:33:20,917 (笑い声) 496 00:33:21,292 --> 00:33:23,834 それは あまりに早計だな 497 00:33:23,917 --> 00:33:27,542 拙速を尊ぶのは兵法だけにしておいたほうがいい 498 00:33:27,709 --> 00:33:28,959 何だと? 499 00:33:29,209 --> 00:33:30,334 いやぁ 500 00:33:30,709 --> 00:33:32,542 しかし これだけ騒ぎになってるのに―― 501 00:33:32,625 --> 00:33:37,292 隣の部屋から全く気配がしないというのも 奇妙じゃないか 502 00:33:37,792 --> 00:33:39,084 まあ 君には―― 503 00:33:40,125 --> 00:33:42,959 隣の部屋を調べることを勧めるよ 504 00:33:47,875 --> 00:33:49,167 (ドアの開く音) 505 00:33:52,709 --> 00:33:54,834 (柳) すみません 警察の者ですが 506 00:33:54,917 --> 00:33:57,292 少し お話を伺いたいのですが 507 00:33:58,625 --> 00:33:59,875 客の名前は? 508 00:34:00,334 --> 00:34:03,042 (野上) 石上花子さまと 伺っております 509 00:34:03,125 --> 00:34:04,500 (柳) 石上花子 510 00:34:11,084 --> 00:34:12,667 (柳) どういうことなんだ? 511 00:34:15,250 --> 00:34:17,250 すぐに 石上花子の行方を調べろ 512 00:34:17,334 --> 00:34:19,667 それと 鑑識に この部屋の指紋を採らせろ 513 00:34:19,750 --> 00:34:20,584 (刑事) はい 514 00:34:30,167 --> 00:34:31,500 さてと 515 00:34:32,834 --> 00:34:33,667 (美袋) メル 516 00:34:35,209 --> 00:34:36,500 どこ行くんだよ? 517 00:34:45,167 --> 00:34:48,459 (警官) おい ちょっと 作業してるんで離れてください 518 00:34:55,250 --> 00:34:58,375 (メル) 私は 君を守りたかったんだが 519 00:35:01,375 --> 00:35:02,292 フッ… 520 00:35:03,875 --> 00:35:05,209 じゃ ちょっといいか? 521 00:35:10,875 --> 00:35:12,584 (オートバイの音) 522 00:35:18,250 --> 00:35:20,042 (美袋) おい ちょっと おい… おい! 523 00:35:24,042 --> 00:35:25,084 (メル) ちょっと失礼 524 00:35:25,292 --> 00:35:27,959 鵠沼美崎宛てに郵便物は届いてるか? 525 00:35:28,042 --> 00:35:31,875 (従業員) ああ ちょうど今 こちらが… 526 00:35:33,417 --> 00:35:34,792 あっ お客さま 527 00:35:39,209 --> 00:35:40,084 ハァ… 528 00:35:41,167 --> 00:35:43,709 いやがおうでも あしたは来るんだよ 529 00:35:51,209 --> 00:35:52,625 (メル) 石上花子は? 530 00:35:53,125 --> 00:35:55,792 石上花子の住所は でたらめだった 531 00:35:56,209 --> 00:35:57,959 名前も 多分 偽名だろう 532 00:35:59,292 --> 00:36:01,084 4日前にホテルに来たときは―― 533 00:36:01,167 --> 00:36:03,834 マスクにサングラス つばの広い帽子と―― 534 00:36:03,917 --> 00:36:07,000 夏なのに 手足の先まで覆った服装だったそうだ 535 00:36:10,500 --> 00:36:13,042 石上の部屋からは 指紋は検出されず―― 536 00:36:13,125 --> 00:36:16,375 ただ クローゼットの中には 黒いジャージと靴が残されていた 537 00:36:16,459 --> 00:36:17,917 どういうことなんだ? 538 00:36:18,750 --> 00:36:20,584 (メル) 答えは出ているんだろう? 539 00:36:21,125 --> 00:36:25,000 (柳) 石上を名乗った女が… 女装した男かもしれないが―― 540 00:36:25,084 --> 00:36:28,334 隣のベランダから 足場板を渡して 忍び込んだんだろう 541 00:36:29,000 --> 00:36:31,834 あの板は 中庭から盗まれたものらしい 542 00:36:32,792 --> 00:36:37,125 しかし 被害者は どうして 助けを求めず 窓を開けたんだ 543 00:36:37,209 --> 00:36:41,334 (メル) 部屋に残されていた 黒のジャージや靴は ぬれてた? 544 00:36:41,417 --> 00:36:43,209 (柳) 全くぬれていなかった 545 00:36:43,917 --> 00:36:44,750 (美袋) うん? 546 00:36:45,375 --> 00:36:49,959 被害者が突き落とされた時間帯は 雨が強く降っていたはずです 547 00:36:50,250 --> 00:36:52,084 いくら 軒下とはいえ―― 548 00:36:52,167 --> 00:36:56,042 全くぬれずに 隣のベランダまで渡りきることは不可能だ 549 00:36:56,292 --> 00:37:00,292 すると 犯人は 凶行時に ジャージを着ていなかったことになります 550 00:37:00,584 --> 00:37:06,834 …なら 何のために ジャージを準備して どうして ホテルに残していったのか 551 00:37:07,417 --> 00:37:09,625 (メル) 君にしては珍しい 552 00:37:09,709 --> 00:37:11,000 “珍しい”って何だよ 553 00:37:11,417 --> 00:37:13,042 (メル) 考えてみたまえ 554 00:37:14,209 --> 00:37:17,000 彼女が このホテルに来たのは今月の頭 555 00:37:17,084 --> 00:37:20,417 そして 私に依頼をしたのは今月半ば 556 00:37:21,375 --> 00:37:23,584 そのときのトランプのカードは―― 557 00:37:24,667 --> 00:37:26,209 ハートの4だった 558 00:37:26,292 --> 00:37:30,917 つまり このホテルに来て 初めて受け取ったカードは 逆算して… 559 00:37:32,292 --> 00:37:34,125 ダイヤの5くらいになる 560 00:37:34,792 --> 00:37:37,584 最初は いたずらだと考えていた彼女も―― 561 00:37:37,667 --> 00:37:42,417 宿泊先にまで カードが追いかけてくるに及んで さすがに おびえていた 562 00:37:42,500 --> 00:37:46,459 しかし 不思議には思わないかい? 563 00:37:47,375 --> 00:37:49,042 そんなに おびえているのに―― 564 00:37:50,542 --> 00:37:53,917 ダイヤのAには反応していないんだ 565 00:37:54,709 --> 00:37:58,417 (美崎) ダイヤはAまで続いて 566 00:38:00,084 --> 00:38:02,875 その翌日は ハートのKになったんです 567 00:38:03,042 --> 00:38:05,709 (メル) 赤がイメージカラーの彼女にしてみれば―― 568 00:38:05,792 --> 00:38:09,375 ハートだろうとダイヤだろうと 赤いマークがカウントダウンされ―― 569 00:38:09,459 --> 00:38:12,375 ホテルにまで追いかけてくれば 恐怖するはずだ 570 00:38:12,667 --> 00:38:15,167 まず ダイヤの2の時点で ピークに達するだろう 571 00:38:15,250 --> 00:38:18,292 その時点で 私の元に来てもいいはずだ 572 00:38:19,292 --> 00:38:21,375 もし ホントに送られてきたのならね 573 00:38:21,667 --> 00:38:22,709 狂言? 574 00:38:23,125 --> 00:38:26,084 (メル) つまり この事件の犯人 石上花子は… 575 00:38:33,709 --> 00:38:35,375 恐らく 被害者本人だ 576 00:38:37,834 --> 00:38:38,667 あっ… 577 00:38:38,959 --> 00:38:41,209 (メル) 彼女は 夜になり 足場板を使って―― 578 00:38:41,292 --> 00:38:44,375 隣のベランダから ホテルを抜け出そうとしたんだろう 579 00:38:44,875 --> 00:38:46,042 何のために? 580 00:39:02,875 --> 00:39:04,667 藤沢葉月 581 00:39:07,292 --> 00:39:12,375 鵠沼美崎には 目の上のコブともいうべきライバルがいた 582 00:39:13,625 --> 00:39:18,459 相手は 文学賞を次々と射止めるが 自分は佳作か候補止まり 583 00:39:18,542 --> 00:39:24,250 その上 自分の小説をいくら主張しても ライバルのジャンルでまとめられてしまう 584 00:39:24,750 --> 00:39:29,167 負けず嫌いの彼女にとっては 屈辱的だっただろうね 585 00:39:29,500 --> 00:39:31,459 逆恨みには違いないが―― 586 00:39:31,542 --> 00:39:35,250 一度 思い込むと 憎しみの暴走が止まらなくなったんだろう 587 00:39:35,334 --> 00:39:39,667 ホテルを抜け出し 車を飛ばして 藤沢葉月を殺害する 588 00:39:39,834 --> 00:39:44,375 確か 彼女は 愛犬と2人暮らしだったから 難しくはないだろう 589 00:39:44,459 --> 00:39:49,167 また 深夜だから 泉佐野までは 片道2時間もかからない 590 00:39:52,209 --> 00:39:55,625 大編成のクラシックも 出入りする音を消すため 591 00:39:56,459 --> 00:40:01,459 ♪~「マタイ受難曲」 592 00:40:04,834 --> 00:40:08,417 (メル) この部屋は 私たちが夜通し見張っていたわけだから―― 593 00:40:08,667 --> 00:40:11,667 彼女には 鉄壁のアリバイが存在することになる 594 00:40:12,625 --> 00:40:15,417 鵠沼先生は あの雷の中で… 595 00:40:32,125 --> 00:40:37,375 (柳) じゃ 被害者は 隣のベランダに移る際に… 596 00:40:45,834 --> 00:40:47,084 (雷鳴) 597 00:40:48,292 --> 00:40:49,500 アッ アッ アッ アアッ… 598 00:40:50,042 --> 00:40:52,417 (柳) 足を滑らせたということか 599 00:40:52,917 --> 00:40:56,125 結果的に事故死ということになるだろうな 600 00:40:56,209 --> 00:40:59,250 もともと 板が細いうえに 雨で滑りやすくなっていた 601 00:40:59,334 --> 00:41:00,542 そこに 落雷 602 00:41:00,750 --> 00:41:04,542 板を伝っている最中に 間近で落雷に遭遇したら―― 603 00:41:05,125 --> 00:41:07,042 足を滑らせても しかたがない 604 00:41:10,584 --> 00:41:11,417 そうだ 605 00:41:12,709 --> 00:41:14,750 これがホテルに届いてたんだ 606 00:41:20,500 --> 00:41:21,917 クラブのK 607 00:41:22,417 --> 00:41:26,542 (メル) 恐らく 業者に頼んで 機械的に投函してもらっていたのだろう 608 00:41:26,625 --> 00:41:30,917 本来なら クラブのKが届いた時点で 心配は杞憂に終わり―― 609 00:41:31,125 --> 00:41:33,375 スペードのAまで 事件は先送りとなって―― 610 00:41:33,459 --> 00:41:37,417 とりあえずは めでたしめでたしということに なっていたはずだ 611 00:41:37,959 --> 00:41:39,042 ゆくゆくは―― 612 00:41:39,125 --> 00:41:44,500 私の調査に気づいた犯人が送付を諦めたと いう筋書きにするつもりだったのだろう 613 00:41:44,584 --> 00:41:45,667 (柳) 証拠は? 614 00:41:46,167 --> 00:41:49,375 (メル) 送付を委託した業者を捜してもいい 615 00:41:49,542 --> 00:41:55,167 …が まずは この近くに 不審な乗用車が見つかるだろう 616 00:41:55,750 --> 00:41:58,917 彼女が殺害に使おうとしたセカンドカーが 617 00:41:59,917 --> 00:42:03,209 深夜に赤い高級車じゃ 目立つだろうからね 618 00:42:14,709 --> 00:42:18,667 (美崎) 探偵さんというのは 犯人のことも考えるのですか? 619 00:42:19,875 --> 00:42:21,250 すばらしい 620 00:42:27,834 --> 00:42:28,667 アデュ 621 00:42:48,959 --> 00:42:51,292 君にしては悪くないね 622 00:42:51,875 --> 00:42:53,042 (美袋) …だろう? 623 00:42:53,584 --> 00:42:58,167 美人作家は ライバル殺しを計画し アリバイ作りのために探偵を雇った 624 00:42:58,250 --> 00:43:01,959 しかし 不慮の落雷により 彼女は命を落としてしまう 625 00:43:02,209 --> 00:43:05,667 それを 探偵が見事な推理で解決する 626 00:43:05,750 --> 00:43:07,709 実に よく書けてるよ 627 00:43:07,792 --> 00:43:10,042 何のひねりもないけれど 628 00:43:10,459 --> 00:43:11,875 うるさいよ 629 00:43:12,709 --> 00:43:15,500 でも メルは いつ気がついたんだ? 630 00:43:15,584 --> 00:43:18,167 あれが鵠沼美崎の狂言だって 631 00:43:18,375 --> 00:43:19,584 最初からだ 632 00:43:20,292 --> 00:43:22,084 最初から? 633 00:43:22,292 --> 00:43:27,667 だから 私は 彼女に思いとどまるように 警告し続けたんだが 634 00:43:28,417 --> 00:43:30,917 たまには 負けてみるのもいいかもしれません 635 00:43:31,500 --> 00:43:35,334 探偵と違って 負けても 命までは取られないでしょうから 636 00:43:37,459 --> 00:43:43,792 直接 言えば その場は諦めるかもしれないが 時を置き 再び 殺意が ぶり返すだろう 637 00:43:44,875 --> 00:43:48,667 だから 時には 柔軟さも必要だと訴え続けたんだが 638 00:43:49,792 --> 00:43:52,667 じゃ あの脚立は… 639 00:43:53,250 --> 00:43:57,542 (メル) あれをはしご状にすれば 隣のベランダまで渡るのは たやすいからね 640 00:43:57,625 --> 00:43:59,000 だから 取り上げた 641 00:44:00,875 --> 00:44:01,750 だが―― 642 00:44:03,875 --> 00:44:06,542 足場板を保険で隠し持っていたとは思わなかった 643 00:44:07,125 --> 00:44:13,375 でも それだけ 目端の利く君が あんなに大きな足場板を見逃すなんてね 644 00:44:14,209 --> 00:44:19,000 あの夜 雨が降るまで 絡み酒をしたのも わざとだったなんだな 645 00:44:19,084 --> 00:44:23,750 雨が降れば ベランダからの脱出も 諦めてくれると思ったのだが 646 00:44:26,292 --> 00:44:27,500 もしかして―― 647 00:44:29,167 --> 00:44:34,417 君は 鵠沼美崎が足場板を持っていることに 気がついてたんじゃないのか? 648 00:44:43,625 --> 00:44:47,792 あの夜 天気予報では雨は降らないはずだった 649 00:44:47,875 --> 00:44:50,334 もしかして 落雷も予想して… 650 00:44:50,417 --> 00:44:51,667 まさか 651 00:44:51,750 --> 00:44:55,250 雷神じゃあるまいし どうやって予測するんだ 652 00:44:56,167 --> 00:44:59,292 今日は来客があるんだ もう帰りたまえ 653 00:44:59,375 --> 00:45:02,084 ♪~「マタイ受難曲」 654 00:45:02,167 --> 00:45:03,292 なあ メル 655 00:45:04,584 --> 00:45:06,750 まだ 僕に何か隠してることがあるだろう 656 00:45:06,834 --> 00:45:07,917 美袋くん 657 00:45:08,750 --> 00:45:10,084 もう帰りたまえ 658 00:45:11,500 --> 00:45:12,584 (ドアブザー) 659 00:45:17,459 --> 00:45:18,792 (藤沢葉月) 失礼します 660 00:45:19,375 --> 00:45:21,125 藤沢葉月 661 00:45:22,917 --> 00:45:23,959 なんで? 662 00:45:24,792 --> 00:45:26,209 メルカトル先生 663 00:45:26,917 --> 00:45:30,334 この度は どうも ありがとうございました 664 00:45:33,417 --> 00:45:39,000 2週間前 愛犬が不審死し 身辺に不安を覚えた藤沢先生から―― 665 00:45:39,084 --> 00:45:41,000 相談を受けていたんだ 666 00:45:41,917 --> 00:45:45,042 だから 絶対に 手を出させるわけにはいかなかった 667 00:45:46,000 --> 00:45:47,084 ナイトとして 668 00:45:53,209 --> 00:45:54,709 だから 言っただろう 669 00:45:56,334 --> 00:46:01,500 私は死を防げなかったが 失敗はしていない 670 00:46:04,500 --> 00:46:08,750 (美袋) 私の胸に ひと筋の光がさし込んだ 671 00:46:16,750 --> 00:46:19,209 暗闇の中の光ではなく―― 672 00:46:19,917 --> 00:46:25,042 光の中の闇というべき どす黒い光が 673 00:46:53,542 --> 00:47:00,542 ♪~ 674 00:48:19,834 --> 00:48:26,834 ~♪