1 00:00:05,973 --> 00:00:08,275 (澪)お許し下さいませ。 2 00:00:10,177 --> 00:00:14,681 料理は 私の生きる縁です。 3 00:00:14,681 --> 00:00:19,186 それを手放すなど できません。 4 00:00:19,186 --> 00:00:25,359 この命がある限り 一人の料理人として➡ 5 00:00:25,359 --> 00:00:29,162 料理の道を 存分に全うしたく存じます。 6 00:00:35,702 --> 00:00:39,406 (小松原)顔を上げよ 下がり眉。 7 00:00:45,212 --> 00:00:49,917 その道を 選ぶのだな。 8 00:00:51,718 --> 00:00:53,921 はい。 9 00:01:04,831 --> 00:01:07,334 ならば その道を行くのだ。 10 00:01:11,338 --> 00:01:15,142 あとのことは 何も案ずるな。 11 00:01:18,211 --> 00:01:22,516 お前は 誰にも 何も言わずともよい。 12 00:01:22,516 --> 00:01:25,218 全て俺に任せておけ。 13 00:01:28,322 --> 00:01:30,257 分かったな。 14 00:01:30,257 --> 00:01:42,069 ♬~ 15 00:01:45,372 --> 00:01:50,877 多浜重光 このとおりでござる! 16 00:01:50,877 --> 00:01:53,714 ちょ ちょ… 多浜様 そんな いけねぇよぅ。 17 00:01:53,714 --> 00:01:57,584 お武家様が俺らみたいなもんに 軽々しく頭下げたりなすっちゃあ。 18 00:01:57,584 --> 00:02:02,956 いや まずは こうせねば 拙者の気が収まらぬのだ。 19 00:02:02,956 --> 00:02:06,827 弱っちまったなあ。 20 00:02:06,827 --> 00:02:08,762 分かってますよ。➡ 21 00:02:08,762 --> 00:02:12,165 周りのご説得に 思わぬ手間がかかって➡ 22 00:02:12,165 --> 00:02:15,469 お澪坊を受け入れるのが 遅れそうだってんでしょう? 23 00:02:17,037 --> 00:02:22,175 多浜様。 もしや 澪の行儀見習いのお話を…➡ 24 00:02:22,175 --> 00:02:26,513 いえ 後々の嫁入りのお話そのものを➡ 25 00:02:26,513 --> 00:02:29,850 取りやめにしたい いうことだすやろか。 26 00:02:29,850 --> 00:02:33,687 な… 何だって。 ほ… 本当か! 27 00:02:33,687 --> 00:02:36,189 本気で そんなこと言いに来たってのか! 旦那さん いけません! 28 00:02:36,189 --> 00:02:39,526 お澪坊 離せ!多浜様。 離してくれよ!多浜様! 29 00:02:39,526 --> 00:02:42,829 訳をお聞かせ願いませんやろか。 30 00:02:46,867 --> 00:02:52,005 小野寺家は先般申したとおり 三河以来の旗本ゆえ➡ 31 00:02:52,005 --> 00:02:55,876 殿の縁組みは 一族にとっても一大事。 32 00:02:55,876 --> 00:02:58,378 ご親戚筋からの不服も多く➡ 33 00:02:58,378 --> 00:03:02,816 無理に この話を進めても 何一つ よいことはないのだ。 34 00:03:02,816 --> 00:03:06,119 そんなこたぁ とっくに 分かってたことじゃねぇのか! 35 00:03:07,954 --> 00:03:11,825 人の気持ちをもてあそんだあげく 踏みつけにしやがって! 36 00:03:11,825 --> 00:03:14,661 (芳)旦那さん! 37 00:03:14,661 --> 00:03:17,564 つる家の旦那さんが言わはるとおり➡ 38 00:03:17,564 --> 00:03:22,869 今更 それを理由に全てをなしに というのは妙な話だす。 39 00:03:31,511 --> 00:03:33,714 お茶をお持ちしました。 40 00:03:48,061 --> 00:03:51,832 わては商家同士の縁組みしか 知らんのだすが➡ 41 00:03:51,832 --> 00:03:57,537 縁組み前に話が壊れるのは そう珍しいことでもあれしまへん。 42 00:03:57,537 --> 00:04:01,408 もともと片方に 別のお相手がいてはったとか➡ 43 00:04:01,408 --> 00:04:04,644 あるいは… 新たな縁談が持ち込まれて➡ 44 00:04:04,644 --> 00:04:08,515 それが店として格上やったり よう繁盛してはったり…➡ 45 00:04:08,515 --> 00:04:13,320 要するに 元よりも はるかにええお話が来た場合だす。 46 00:04:13,320 --> 00:04:15,355 ブッ…! 47 00:04:15,355 --> 00:04:20,961 (重光のせきこみ) 48 00:04:20,961 --> 00:04:23,330 よし 分かった。 49 00:04:23,330 --> 00:04:26,967 お澪坊は行儀見習いに出さねぇし➡ 50 00:04:26,967 --> 00:04:32,172 どこぞの御旗本の養女にもしねぇ。 51 00:04:32,172 --> 00:04:35,976 小野寺だか 小松原だか知らねぇが➡ 52 00:04:35,976 --> 00:04:38,979 やつのところへ嫁がせたりもしねぇ。 53 00:04:41,348 --> 00:04:43,550 この話は もう終わりだ。 54 00:04:46,219 --> 00:04:48,221 さっさと帰ってくんな。 55 00:04:48,221 --> 00:05:05,906 ♬~ 56 00:05:28,161 --> 00:05:32,966 (早帆)澪さん こたびのこと… このとおりです。 57 00:05:32,966 --> 00:05:36,670 早帆様… どうかお手をお上げ下さいませ。 58 00:05:36,670 --> 00:05:39,573 (早帆)愚かな兄妹をお許し下さいませ。 59 00:05:39,573 --> 00:05:44,411 あなたの心を どれほど踏みにじったことでしょう。 60 00:05:44,411 --> 00:05:48,982 早帆様… 違います。 61 00:05:48,982 --> 00:05:54,187 それは違うんです。 (早帆)いいえ 違いません。 62 00:05:56,690 --> 00:06:00,460 ひとつきほど前のことです。 63 00:06:00,460 --> 00:06:04,130 上役から兄に 縁組みの話がありました。➡ 64 00:06:04,130 --> 00:06:11,004 無論 兄は断るはず。 そう思ったのですが…。 65 00:06:11,004 --> 00:06:15,642  回想 何故です 兄上。 何故 そのような心変わりを。 66 00:06:15,642 --> 00:06:18,311 出戻りとはいえ 大目付のご息女だ。 67 00:06:18,311 --> 00:06:20,347 出世につながることは間違いない。 68 00:06:20,347 --> 00:06:24,651 澪さんは どうするのです。 69 00:06:24,651 --> 00:06:29,356 ハッ 料理人の嫁をもらって 何の益がある。 70 00:06:30,957 --> 00:06:36,329 (早帆)澪さんには とても お聞かせできぬことを…。➡ 71 00:06:36,329 --> 00:06:40,333 よもや 兄があれほどの俗物とは…。 72 00:06:42,969 --> 00:06:46,840 どうか どうかお許し下さいませ!➡ 73 00:06:46,840 --> 00:06:51,511 つる家にも改めてお詫びに伺います。 (戸が開く音) 74 00:06:51,511 --> 00:06:54,214 (おりょう) それは やめてもらえませんかね。 75 00:06:57,317 --> 00:07:00,220 早帆様が悪いわけじゃないってことは 分かってますよ。 76 00:07:00,220 --> 00:07:03,456 けど…➡ 77 00:07:03,456 --> 00:07:08,128 澪ちゃんを泣かせた男の縁者とは➡ 78 00:07:08,128 --> 00:07:10,930 あたしだって つる家の旦那さんだって➡ 79 00:07:10,930 --> 00:07:15,468 もう一切 関わりたくないんですよ。 80 00:07:15,468 --> 00:07:39,159 ♬~ 81 00:07:39,159 --> 00:07:41,494 早帆様! (芳)澪! 82 00:07:41,494 --> 00:07:44,831 おまはんのしようと思ってることは あかん。 83 00:07:44,831 --> 00:07:49,169 誰のためにもならん。 84 00:07:49,169 --> 00:07:54,040 もっと早うに気付いてやれたら よかったのに 堪忍やで。 85 00:07:54,040 --> 00:07:57,043 ご寮さん。 そやけど このままでは…。 86 00:07:57,043 --> 00:08:02,615 澪。 小野寺様は 憎まれ役を引き受けることで➡ 87 00:08:02,615 --> 00:08:06,486 おまはんを守り通さはったんや。➡ 88 00:08:06,486 --> 00:08:13,126 そして たとえ 意に沿わん縁組みでも 受け入れると決めはった。 89 00:08:13,126 --> 00:08:16,997 それを無駄にしたら 罰が当たる。 90 00:08:16,997 --> 00:08:49,029 ♬~ 91 00:08:49,029 --> 00:08:53,666  回想 小松原様。 忘れ物です。 92 00:08:53,666 --> 00:08:56,970 要らん。 え? 93 00:08:56,970 --> 00:08:59,672 欲しいなら やる。 94 00:08:59,672 --> 00:09:01,908 ほんまですか! 95 00:09:01,908 --> 00:09:04,611 フッ ほんまだ。 96 00:09:11,584 --> 00:09:16,122 お許し下さいませ。 97 00:09:16,122 --> 00:09:22,462 お許し下さいませ。 お許し下さいませ。 98 00:09:22,462 --> 00:09:27,967 お許し下さいませ。 お許し下さいませ…。 99 00:09:42,782 --> 00:09:44,717 (源斉)澪さん…。 100 00:09:44,717 --> 00:09:47,020 澪さん! 澪さん! 101 00:10:04,070 --> 00:10:06,339 気が付かれましたか。 102 00:10:06,339 --> 00:10:08,842 源斉先生…。 103 00:10:10,844 --> 00:10:15,715 あ… ご寮さんには つる家に行ってもらっています。 104 00:10:15,715 --> 00:10:18,585 店を開けんと…。いけません。 105 00:10:18,585 --> 00:10:21,387 そんな体で 何ができるんですか。 106 00:10:32,131 --> 00:10:37,370 この度のことは 聞いています。 107 00:10:37,370 --> 00:10:41,374 眠れないのも 食べられないのも 無理もありません。 108 00:10:44,244 --> 00:10:47,046 私や ありません。 109 00:10:49,082 --> 00:10:56,389 ほんまに苦しいのは ほんまに傷ついてるのは➡ 110 00:10:56,389 --> 00:11:00,660 私やないんです。 111 00:11:00,660 --> 00:11:03,163 私や…。 112 00:11:07,333 --> 00:11:09,536 分かっています。 113 00:11:12,672 --> 00:11:15,975 あのお方は➡ 114 00:11:15,975 --> 00:11:21,181 澪さんの一途な思いを 踏みにじるような人ではない。 115 00:11:21,181 --> 00:11:23,483 よく分かっています。 116 00:11:26,853 --> 00:11:29,856 申し訳ありませんが➡ 117 00:11:29,856 --> 00:11:34,661 澪さんの苦しみを和らげる薬は ありません。 118 00:11:36,996 --> 00:11:40,867 澪さんが自分で治すよりほかないのです。 119 00:11:40,867 --> 00:11:46,206 澪さんが 澪さんの選んだ道を進むことでしか…。 120 00:11:46,206 --> 00:12:35,521 ♬~ 121 00:12:35,521 --> 00:12:38,358 はい お待ち! (新吉)待ってました! 122 00:12:38,358 --> 00:12:40,293 (秀次郎)どんな料理人 雇ったか 知らねぇが➡ 123 00:12:40,293 --> 00:12:42,695 まずかったら承知しねぇぜ。 124 00:12:42,695 --> 00:12:46,399 (おりょう)お待たせしました。 はい どうぞ。 125 00:12:55,208 --> 00:12:59,712 う~ん! 126 00:12:59,712 --> 00:13:03,316 ああ…。 (裕造)こいつぁ 俺のよく知ってる味だ。 127 00:13:03,316 --> 00:13:06,819 (東助)おうよ。 江戸がどれほど広くとも➡ 128 00:13:06,819 --> 00:13:10,690 この とろとろ茶碗むしを作れる料理人が 2人といるとは思えねぇや。 129 00:13:10,690 --> 00:13:13,192 (丑丸)てことはだ…。 130 00:13:17,964 --> 00:13:19,899 (おりょう)妙だねぇ。 131 00:13:19,899 --> 00:13:23,503 膳の上のお代が みんな少し多いんだよ。 132 00:13:23,503 --> 00:13:25,972 こっちも一緒だす。 こっちもだ。 133 00:13:25,972 --> 00:13:29,976 あの… お帰りのお客さんが これ。 134 00:13:32,679 --> 00:13:36,849 (種市)えっ…。 (ふき)料理人に渡してくれって。 135 00:13:36,849 --> 00:13:40,853 いろいろあるだろうけど 戻ってきてくれて ありがとよって…。 136 00:13:40,853 --> 00:14:16,956 ♬~ 137 00:14:16,956 --> 00:14:20,660 (子どもたち)鬼は外! 福は内!➡ 138 00:14:20,660 --> 00:14:25,331 鬼は外! 福は内! 鬼は外! 139 00:14:25,331 --> 00:14:28,234 鬼だぞ! うわ~! 140 00:14:28,234 --> 00:14:30,970 鬼は外! 福は内! 141 00:14:30,970 --> 00:14:34,173 (子どもたち)鬼は外! 福は内!➡ 142 00:14:34,173 --> 00:14:36,976 鬼は外! 福は内! 143 00:14:36,976 --> 00:14:40,847 若様方 いけません。 今日は伯父上様の大切な日ですよ。 144 00:14:40,847 --> 00:14:43,349 構わぬ。 ほれ。 145 00:14:43,349 --> 00:14:46,185 鬼は外! 鬼は外!そうだ。 146 00:14:46,185 --> 00:14:50,857 フフフッ。 福は内! 鬼は外! 福は内! 147 00:14:50,857 --> 00:14:53,192 鬼は外! 福は内! 148 00:14:53,192 --> 00:14:58,064  回想 おっ これは節分の豆か。 149 00:14:58,064 --> 00:15:01,300 年の数だけ食わねばな。 150 00:15:01,300 --> 00:15:04,937 小松原様は 50くらいですか? 151 00:15:04,937 --> 00:15:11,310 うん。 では お前は 38くらいか。 152 00:15:11,310 --> 00:15:13,312 うん。 153 00:15:22,021 --> 00:15:26,526  回想 そんなに お好きなんですか? 煎り豆が。 154 00:15:32,165 --> 00:15:35,468 ああ 好きだ。 155 00:15:39,038 --> 00:15:43,843  回想 この上なく 好きだ。 156 00:15:52,351 --> 00:15:54,987 殿。 間もなく 先様のお行列が➡ 157 00:15:54,987 --> 00:15:57,056 ご到着でございます。 158 00:15:57,056 --> 00:15:59,192 相分かった。 159 00:15:59,192 --> 00:16:33,960 ♬~ 160 00:16:33,960 --> 00:16:36,329  回想 よいか 澪。➡ 161 00:16:36,329 --> 00:16:41,634 その道を行くと決めた以上 もはや迷うな。 162 00:16:47,039 --> 00:16:50,843  回想 道は 一つきりだ。 163 00:16:50,843 --> 00:17:04,490 ♬~ 164 00:17:04,490 --> 00:17:09,795 伝右衛門殿。 お目にかかれまして 幸甚にございます。 165 00:17:09,795 --> 00:17:12,632 (伝右衛門)こちらこそ。 166 00:17:12,632 --> 00:17:18,437 で 今日は何用で。 167 00:17:18,437 --> 00:17:24,243 吉原にうまいものなしと申しますな。 168 00:17:24,243 --> 00:17:31,951 すなわち 吉原にうまい料理屋を出せば きっと当たる。 169 00:17:31,951 --> 00:17:35,655 伝右衛門殿 このすぐ近く➡ 170 00:17:35,655 --> 00:17:41,460 吉原江戸町一丁目に 店を手に入れられましたな? 171 00:17:41,460 --> 00:17:45,331 だから何だ。 (采女)手短に申しましょう。 172 00:17:45,331 --> 00:17:50,670 あの店を譲って頂きたい。 なんと…。 173 00:17:50,670 --> 00:17:55,508 (采女)私も同じようなことを考え 界隈を探しましたが➡ 174 00:17:55,508 --> 00:18:00,112 あのような出物は またとない。 175 00:18:00,112 --> 00:18:03,983 どうしても あの店が欲しいのです。 176 00:18:03,983 --> 00:18:08,287 ふざけるな! 横取りされてたまるか! 177 00:18:08,287 --> 00:18:17,997 翁屋では 毎年弥生7日に上客を招いて 花見の宴を催すのだそうですね。 178 00:18:17,997 --> 00:18:25,705 その料理のまずいことといったら 桜もしおれて見えるほどだとか。 179 00:18:25,705 --> 00:18:28,140 入れ物を買ったはいいが➡ 180 00:18:28,140 --> 00:18:30,810 ろくでもない料理人しか 雇えないのであれば➡ 181 00:18:30,810 --> 00:18:33,713 早晩 潰れましょう。 182 00:18:33,713 --> 00:18:40,319 登龍楼に譲った方が 世のため 人のため➡ 183 00:18:40,319 --> 00:18:44,156 あなたご自身の身のためですよ。 184 00:18:44,156 --> 00:18:46,492 たわけたことを。 185 00:18:46,492 --> 00:18:50,363 腕のいい料理人ぐらい知っておるわ! 186 00:18:50,363 --> 00:18:53,366 ほう? 187 00:18:53,366 --> 00:18:55,835 嘘ではないぞ。 188 00:18:55,835 --> 00:19:01,107 嘘だと思うなら 花見の宴に来るがいい! 189 00:19:01,107 --> 00:19:03,609 是非 伺います。 190 00:19:03,609 --> 00:19:06,512 まことに腕のいい料理人であれば➡ 191 00:19:06,512 --> 00:19:09,715 私も潔く諦めましょう。 192 00:19:11,350 --> 00:19:13,319 (伝右衛門)そこで思い出したのだ。➡ 193 00:19:13,319 --> 00:19:18,791 お前さんの 見事な鱧料理を。 194 00:19:18,791 --> 00:19:22,128 じゃあ 何かい。 お澪坊に吉原で➡ 195 00:19:22,128 --> 00:19:24,797 花見の宴の料理を 作ってもらいたいってわけかい。 196 00:19:24,797 --> 00:19:27,466 いかにも。 197 00:19:27,466 --> 00:19:31,804 私には分かってますよ。 198 00:19:31,804 --> 00:19:35,307 お前さん そんな とぼけた顔つきをしているが➡ 199 00:19:35,307 --> 00:19:39,645 料理については とことん負けず嫌いだ。 200 00:19:39,645 --> 00:19:44,483 お前さんの意地と誇りにかけて➡ 201 00:19:44,483 --> 00:19:50,189 采女宗馬を今度こそ 打ち負かしてやるがいい。 202 00:19:52,358 --> 00:19:56,362 お澪坊 どうする? 203 00:20:04,837 --> 00:20:09,341 私でよければ お引き受けいたします。 204 00:20:09,341 --> 00:20:14,847 そうか やってくれるか! 205 00:20:14,847 --> 00:20:17,516 うん うん!➡ 206 00:20:17,516 --> 00:20:21,687 よしよし。 又次 お前も手を貸してやりなさい。 207 00:20:21,687 --> 00:20:23,723 (又次)へい。 (伝右衛門)材料のことなら➡ 208 00:20:23,723 --> 00:20:26,192 金に糸目はつけない。➡ 209 00:20:26,192 --> 00:20:30,529 望むものを何でも用意しましょう。 210 00:20:30,529 --> 00:20:36,202 首尾よくいけば 祝儀は弾みますよ。 211 00:20:36,202 --> 00:20:39,538 うん。 ハハハハハハハッ。 212 00:20:39,538 --> 00:20:42,541 (戸の開閉音) 213 00:20:44,877 --> 00:20:48,747 本当に引き受けちまって よかったのかい お澪坊。 214 00:20:48,747 --> 00:20:52,551 花見の膳は ともかく あの登龍楼の何とかってのは➡ 215 00:20:52,551 --> 00:20:54,587 関わらない方が いいんじゃないのかい。 216 00:20:54,587 --> 00:20:57,423 登龍楼と関わるつもりはありません。 217 00:20:57,423 --> 00:20:59,959 え? 218 00:20:59,959 --> 00:21:04,797 澪は料理を 人を打ち負かすための道具に したりはしまへん。 219 00:21:04,797 --> 00:21:06,799 (種市)じゃあ 何で…。 220 00:21:10,970 --> 00:21:13,339 澪さんのこった。 221 00:21:13,339 --> 00:21:17,143 ああして頼まれたら断れねえわな。 222 00:21:20,513 --> 00:21:26,185  回想 (あさひ太夫) 澪ちゃん いつか会おうね。 223 00:21:26,185 --> 00:21:29,855  心の声 うん。 野江ちゃん。➡ 224 00:21:29,855 --> 00:21:34,360 いつか会える。 きっと会える。 225 00:21:39,999 --> 00:21:44,837 なぜ そう次々に たわけたことばかりをするのだ! 226 00:21:44,837 --> 00:21:49,542 吉原の上客など 食べ物の好みは並ではない! 227 00:21:49,542 --> 00:21:55,014 そんな輩が この店で出すような料理を 求めると思うのか。 228 00:21:55,014 --> 00:21:58,384 何だ これは。 独活の皮のきんぴらです。 229 00:21:58,384 --> 00:22:02,254 見れば分かる。 皮だぞ 皮! 230 00:22:02,254 --> 00:22:08,060 一晩で何十両 下手をすれば何百両と散財する者が➡ 231 00:22:08,060 --> 00:22:13,499 こんな貧乏くさい料理を喜ぶと思うのか。 232 00:22:13,499 --> 00:22:16,802 こんな… ん? 233 00:22:19,839 --> 00:22:22,675 (笑い声) 234 00:22:22,675 --> 00:22:25,978 あ…。 (坂村堂)澪さん ご存じですか。 235 00:22:25,978 --> 00:22:31,684 食通の求める贅沢料理は 三種あるのだそうですよ。えっ? 236 00:22:31,684 --> 00:22:36,188 一つは 金目鯛の目玉ばかりを あら煮にしたもの➡ 237 00:22:36,188 --> 00:22:38,224 一つは 鮑おろし➡ 238 00:22:38,224 --> 00:22:41,527 いまひとつは 白魚の踊り食い。 239 00:22:41,527 --> 00:22:43,829 何でぇ そりゃあ。 240 00:22:45,864 --> 00:22:48,767 廓の上客を ただ喜ばせたいのなら➡ 241 00:22:48,767 --> 00:22:52,771 そうした料理を出せばよい ということですよ。 242 00:22:59,812 --> 00:23:06,485 私は上方の生まれですから 金目鯛なんて魚 知りませんし➡ 243 00:23:06,485 --> 00:23:09,955 鮑をおろすやなんて 聞いたこともありません。 244 00:23:09,955 --> 00:23:15,661 その上 白魚の踊り食いやなんて。 245 00:23:15,661 --> 00:23:19,498 踊りながら食べるんでしょうか。 246 00:23:19,498 --> 00:23:28,207 あっ 食べる人が踊るのではなく 食べられる魚が踊るのだと思いますよ。 247 00:23:28,207 --> 00:23:32,511 多分 ぴちぴちと跳ねているものを 食べるのでしょう。 248 00:23:32,511 --> 00:23:35,848 ああ そうか 魚が…。 249 00:23:35,848 --> 00:23:40,185 いやや 私…。 フフフッ。 250 00:23:40,185 --> 00:23:45,691 よかった。 澪さん 本当にお元気になられましたね。 251 00:23:45,691 --> 00:23:48,727 やはり 澪さんにとっては➡ 252 00:23:48,727 --> 00:23:52,931 料理のことを考えることが 一番の薬なのですね。 253 00:23:55,367 --> 00:23:57,303 食通だからといって➡ 254 00:23:57,303 --> 00:24:00,139 奇抜な料理がおいしいと 思うわけではないでしょう。 255 00:24:00,139 --> 00:24:03,142 それよりも 澪さんらしく料理すればいい。 256 00:24:05,311 --> 00:24:10,649 この度の宴は あさひ太夫とは 関わりのないものでしょうが➡ 257 00:24:10,649 --> 00:24:15,321 あさひ太夫に食べてもらいたいと 思う料理を作ってみては どうですか。 258 00:24:15,321 --> 00:24:18,957 野江ちゃんに。 はい。 259 00:24:18,957 --> 00:24:23,495 それやったら そうですね➡ 260 00:24:23,495 --> 00:24:27,966 まずは だしのたっぷり利いた 甘くない卵焼き。 261 00:24:27,966 --> 00:24:32,805 桜鯛は塩焼きに。 そうや 昆布締めもいいな。 262 00:24:32,805 --> 00:24:37,710 柔らかい早筍が手に入れば わかめと合わせて若竹煮。 263 00:24:37,710 --> 00:24:41,213 ああ それから 甘いものも…。 264 00:24:43,849 --> 00:24:46,352  回想 (野江)澪ちゃん。➡ 265 00:24:46,352 --> 00:24:48,554 ほら。 266 00:24:54,693 --> 00:24:56,695 (野江)ないしょやよ。 267 00:25:05,804 --> 00:25:09,108 (笑い声) 268 00:25:16,148 --> 00:25:20,319 (笑い声) 269 00:25:20,319 --> 00:25:24,957 あ… フフッ。 270 00:25:24,957 --> 00:25:28,160 毎度!毎度。 毎度ありがとうございます。 271 00:25:28,160 --> 00:25:30,162 ご苦労さんです。 272 00:25:33,665 --> 00:25:37,836 こいつぁ 紅花じゃねぇのか? そんなもん 一体どうすんだよぅ。 273 00:25:37,836 --> 00:25:41,140 どうって 料理するんです。 274 00:25:43,175 --> 00:25:46,512 く… 食うってことか? 275 00:25:46,512 --> 00:25:49,982 あ… フフッ。 276 00:25:49,982 --> 00:25:52,051 (種市)分かってんのか お澪坊。➡ 277 00:25:52,051 --> 00:25:56,688 ほんのちょっとの紅を作るのに とんでもねぇ量の紅花が要るんだぜ。 278 00:25:56,688 --> 00:26:00,559 百姓家の娘たちが どれだけ精を出して紅花を摘んでも➡ 279 00:26:00,559 --> 00:26:02,928 一生 自分の唇には載せられねぇ。 280 00:26:02,928 --> 00:26:04,863 それくらい高ぇもんだ。 281 00:26:04,863 --> 00:26:11,470 それをおめぇ く… 食っちまうなんて ありえねぇぜ。 282 00:26:11,470 --> 00:26:15,307 ありえへん ありふれてへん。 283 00:26:15,307 --> 00:26:20,646 花見の席で出す お料理ですから 常と同じでは足りません。 284 00:26:20,646 --> 00:26:26,518 桜を愛で 春の一刻を惜しむような そんなお料理を お出ししたい…➡ 285 00:26:26,518 --> 00:26:31,023 食べる人に喜んでもらいたい そう思たんです。 286 00:26:37,095 --> 00:26:39,965 (芳)剥きもんか。 287 00:26:39,965 --> 00:26:44,470 剥き物は 食事の場に花を添えますから…。 288 00:26:47,339 --> 00:26:50,843 佐兵衛が よう作ってましたなあ。 289 00:27:01,453 --> 00:27:04,456 うわ~! 290 00:27:13,799 --> 00:27:16,702 (お薗)捨吉さん…。 291 00:27:16,702 --> 00:27:19,138 いけません まだ寝ていないと! 292 00:27:19,138 --> 00:27:22,641 世話になりました。 もう大事おまへんよって。 293 00:27:22,641 --> 00:27:26,812 むちゃです。 そんな体で物を売り歩くなんて。 294 00:27:26,812 --> 00:27:28,814 捨吉さん! 295 00:27:32,618 --> 00:27:36,488 わては親不孝もんだす。 296 00:27:36,488 --> 00:27:39,324 不孝に不孝を重ねて➡ 297 00:27:39,324 --> 00:27:43,962 待ってくれてる親に合わせる 顔もあれへん。 298 00:27:43,962 --> 00:27:47,332 こないな わてが生きてるかいなんぞ…! 299 00:27:47,332 --> 00:28:00,145 (泣き声) 300 00:28:04,616 --> 00:28:08,453 宴は 8つ半から暮れ6つ。 301 00:28:08,453 --> 00:28:14,626 翁屋の物でも人でも 存分に使ってよい。 302 00:28:14,626 --> 00:28:17,129 又次さん おはようございます。 303 00:28:17,129 --> 00:28:22,301 ああ。 言われたとおりのもん そろえさせてもらったぜ。 304 00:28:22,301 --> 00:28:27,639 宴の最後に 料理番を客に引き合わせるが➡ 305 00:28:27,639 --> 00:28:29,942 その時は悪いが➡ 306 00:28:29,942 --> 00:28:33,645 又次を出しますよ。 え? 307 00:28:33,645 --> 00:28:40,152 女が料理番では 翁屋の信用に関わる。 308 00:28:40,152 --> 00:28:43,055 旦那さん そいつぁ あんまりだ。 309 00:28:43,055 --> 00:28:48,860 こちらから 澪さんに頼んでおいて。 (伝右衛門)そんなことは分かってる。 310 00:28:48,860 --> 00:28:52,831 いや 間違わんでくれ。 311 00:28:52,831 --> 00:28:55,334 私は女であっても➡ 312 00:28:55,334 --> 00:29:00,305 お前さんを料理人として 十分認めている。➡ 313 00:29:00,305 --> 00:29:08,614 しかし 女の料理と知れれば 宴が台なしになるばかりか➡ 314 00:29:08,614 --> 00:29:13,118 この先の商いにも障りかねないのだ。 315 00:29:14,786 --> 00:29:17,623 せめて…➡ 316 00:29:17,623 --> 00:29:20,659 せめて 客たちが どんな顔をするか➡ 317 00:29:20,659 --> 00:29:24,129 間近で 見さしてやっちゃもらえませんか。➡ 318 00:29:24,129 --> 00:29:27,933 この人が苦労して考えた料理なんだ。 319 00:29:31,003 --> 00:29:34,006 目立たない所で見ればいい。 320 00:29:35,741 --> 00:29:38,243 ありがとうございます。 321 00:29:44,149 --> 00:29:46,084 これは摂津屋様! 322 00:29:46,084 --> 00:29:49,321 いや ようこそ おいで下さいました。 323 00:29:49,321 --> 00:29:54,826 伝右衛門殿。 今年も 楽しみにして参りましたよ。 324 00:29:58,497 --> 00:30:00,799 こちらでございます。 325 00:30:04,670 --> 00:30:08,540 ほう~。 326 00:30:08,540 --> 00:30:12,411 これは趣向ですな。 327 00:30:12,411 --> 00:30:14,613 (近江屋)摂津屋さん。 328 00:30:16,982 --> 00:30:20,686 どうも 遅くなりました。 329 00:30:23,188 --> 00:30:27,059 おや これは また珍しいお方が。➡ 330 00:30:27,059 --> 00:30:31,063 登龍楼のご主人が 翁屋の上客とは存じませなんだ。 331 00:30:31,063 --> 00:30:34,533 いえ うちの客というわけでは…。 332 00:30:34,533 --> 00:30:38,003 (近江屋)さよう 采女殿は 妻もめとらず➡ 333 00:30:38,003 --> 00:30:42,541 おなごに興味がないのかと 思うておりました。 334 00:30:42,541 --> 00:30:48,413 私ごとき者を末座にお加え頂き 痛み入ります。➡ 335 00:30:48,413 --> 00:30:52,551 名高い翁屋の花見の宴➡ 336 00:30:52,551 --> 00:30:56,221 そこに供される膳を賞翫してみたいと➡ 337 00:30:56,221 --> 00:30:59,558 伝右衛門殿に願い出ました次第です。 338 00:30:59,558 --> 00:31:03,962 (上州屋)膳を賞翫? (笑い声) 339 00:31:03,962 --> 00:31:05,897 (井筒屋)なんと酔狂な。➡ 340 00:31:05,897 --> 00:31:09,835 料理番付で不動の大関位を誇る 登龍楼のご主人が➡ 341 00:31:09,835 --> 00:31:13,338 吉原の料理を食べてみたいとは。 (笑い声) 342 00:31:13,338 --> 00:31:19,211 膳のあとには是非 采女殿の感じたことを 聞かせて頂きたい。 343 00:31:19,211 --> 00:31:21,213 趣向ですな。 344 00:31:21,213 --> 00:31:24,216 (笑い声) 345 00:31:40,432 --> 00:31:42,434  回想 (野江)ほら。 346 00:31:44,703 --> 00:31:46,705 ないしょやよ。 347 00:31:48,373 --> 00:32:22,374 ♬~ 348 00:32:22,374 --> 00:32:24,976 又次さん。 349 00:32:24,976 --> 00:32:30,682 これは お客さんにお出ししてから 目の前で お湯を注いで下さいね。 350 00:32:30,682 --> 00:32:34,386 ああ。 お願いいたします。 351 00:32:36,488 --> 00:32:44,696 あんたが采女宗馬を打ち負かそうなんて 考えちゃいねえことは分かってる。 352 00:32:44,696 --> 00:32:52,871 だが この料理を口にした時のやつの顔は この俺だって拝んでやりてぇぜ。 353 00:32:52,871 --> 00:32:57,075 そろそろ運んでもらおうか。 (一同)はい。 354 00:33:01,146 --> 00:33:06,852 ああ 一つは置いてってくんな。 はい。 355 00:33:10,822 --> 00:33:14,025 あさひ太夫に食べてもらおうと思ってな。 356 00:33:15,660 --> 00:33:18,330 ありがとうございます。 357 00:33:18,330 --> 00:33:21,967 さあ 客の顔を見てきな。 358 00:33:21,967 --> 00:33:42,287 ♬~ 359 00:33:42,287 --> 00:33:45,190 ほう…。 360 00:33:45,190 --> 00:33:51,363 常の喜の字屋のごとく 大皿の料理かと思えば➡ 361 00:33:51,363 --> 00:33:54,199 銘々の膳とは…。 362 00:33:54,199 --> 00:34:07,012 ♬~ 363 00:34:24,496 --> 00:34:28,199 どうぞ お箸上げを。 364 00:34:46,351 --> 00:34:51,189 この鮮やかな赤い色は何だね? 365 00:34:51,189 --> 00:34:56,361 (井筒屋)はて 見覚えのあるような ないような。 366 00:34:56,361 --> 00:35:02,567 おや この花びらは。 367 00:35:04,469 --> 00:35:07,138 紅花のようですな。 368 00:35:07,138 --> 00:35:09,808 (天野屋)紅花! 369 00:35:09,808 --> 00:35:16,681 紅一匁 金一匁と言われる紅花を…。➡ 370 00:35:16,681 --> 00:35:22,387 何という贅沢 何という極み。 371 00:35:24,656 --> 00:35:27,959 (摂津屋)では頂きましょう。 372 00:35:31,963 --> 00:35:35,467 ほう これは うまい。 373 00:35:37,502 --> 00:35:39,437 これは おいしい…。 374 00:35:39,437 --> 00:35:41,840 これも おいしい。 375 00:35:41,840 --> 00:35:43,842 これも。 376 00:35:47,178 --> 00:35:50,215 (伝右衛門)これ もっと酒を。 377 00:35:50,215 --> 00:35:56,187 いや。 酒で腹が膨れるのが もったいないのですよ。 378 00:35:56,187 --> 00:36:00,792 そんなふうに思ったのは初めてのことだ。 379 00:36:00,792 --> 00:36:04,462 うん おいしい。 380 00:36:04,462 --> 00:36:06,464 これは おいしい。 381 00:36:08,133 --> 00:36:11,803 すばらしい。 これは うまい。 382 00:36:11,803 --> 00:36:29,220 ♬~ 383 00:36:29,220 --> 00:36:31,222 ご無礼いたします。 384 00:36:35,493 --> 00:36:37,962 こちらが今日の膳を…。 385 00:36:37,962 --> 00:36:57,849 ♬~ 386 00:36:57,849 --> 00:37:01,786 茶碗に注ぐのに 茶ではなく酒なのか。 387 00:37:01,786 --> 00:37:05,457 (井筒屋)それも目の前で ちろりから いきなりとは➡ 388 00:37:05,457 --> 00:37:07,759 なんと不粋な。 389 00:37:18,803 --> 00:37:23,308 翁屋 こ… これは…。 390 00:37:23,308 --> 00:37:31,816 なんと… この 酒に漂う花の儚げな美しさよ。 391 00:37:31,816 --> 00:37:34,619 香りのかぐわしさよ。 392 00:37:36,654 --> 00:37:39,324 (摂津屋)花見の宴とは➡ 393 00:37:39,324 --> 00:37:46,097 春の日に命を削るようにして咲く花を 慈しみ愛でるもの。➡ 394 00:37:46,097 --> 00:37:52,837 紅花を味わい尽くした上に 最後の一献で この満開の桜。 395 00:37:52,837 --> 00:37:59,611 はあ… かように 心に残る宴は初めてだ。 396 00:37:59,611 --> 00:38:04,616 (天野屋)登龍楼の主の舌をも 満たしたことでございましょう。 397 00:38:12,624 --> 00:38:19,831 なるほど どの皿も目に麗しく 見事な味わいでした。 398 00:38:21,633 --> 00:38:31,309 しかし このような料理人を雇うとは 翁屋の名にもとる所業でございますな。 399 00:38:31,309 --> 00:38:37,115 又次は長年 うちの料理番を務めている。➡ 400 00:38:37,115 --> 00:38:41,019 何がいけないと言うのです。 401 00:38:41,019 --> 00:38:43,521 私が言っているのは…。 402 00:39:02,307 --> 00:39:05,610 この料理人のことです。 403 00:39:05,610 --> 00:39:07,545 女? 404 00:39:07,545 --> 00:39:11,916 (天野屋)この娘が… この膳をこしらえたというのですか。 405 00:39:11,916 --> 00:39:14,786 (采女)町場の一膳飯屋ではあるまいし➡ 406 00:39:14,786 --> 00:39:17,121 吉原の大見世 翁屋が➡ 407 00:39:17,121 --> 00:39:21,926 名だたる豪商の方々に 女のこしらえた飯を食わせるとは➡ 408 00:39:21,926 --> 00:39:24,829 笑止千万。 409 00:39:24,829 --> 00:39:29,300 この花見の宴 茶番というよりほかは ありますまい。 410 00:39:29,300 --> 00:39:32,804 確かに この人は女だが 料理番付にも載った立派な料理人…。 411 00:39:32,804 --> 00:39:36,307 又次。 (又次)しかし。黙れ。 黙るんだ。 412 00:39:37,942 --> 00:39:43,314 (采女)こういうことですよ 翁屋殿。 413 00:39:43,314 --> 00:39:49,654 廓の楼主が浅知恵で料理屋など出しても 恥をかくだけ。 414 00:39:49,654 --> 00:39:53,658 江戸町の店は登龍楼に任せるが賢明です。 415 00:39:58,963 --> 00:40:03,468 江戸町の店は お譲り頂けますね。 416 00:40:05,503 --> 00:40:10,341 (采女)ご心配なさらずとも 支払いは店の値打ち以上に➡ 417 00:40:10,341 --> 00:40:13,144 十分にさせて頂きます。 418 00:40:15,179 --> 00:40:20,184 ただし 店とともに売ってもらいたいものがある。 419 00:40:23,054 --> 00:40:26,357 あさひ太夫を よこしてもらいましょう。 420 00:40:26,357 --> 00:40:30,695 な… 何を…。 まさか…。 421 00:40:30,695 --> 00:40:37,201 (采女)吉原のうまい料理屋の看板に これ以上ふさわしい女はいない。 422 00:40:37,201 --> 00:40:41,005 店の女将として 仕込ませてもらいましょう。 423 00:40:43,875 --> 00:40:47,378 存じておりますよ 摂津屋様。 424 00:40:47,378 --> 00:40:52,083 あさひ太夫の旦那の一人が あなた様でしょう。 425 00:40:54,252 --> 00:40:59,824 (采女)通人の粋な遊びも結構ですが ここらで しまいにして➡ 426 00:40:59,824 --> 00:41:04,162 吉原に初めて出来る うまい料理屋のために➡ 427 00:41:04,162 --> 00:41:06,197 お譲り頂きたい。 428 00:41:06,197 --> 00:41:09,667 うちには そのような名前の花魁はいない。 429 00:41:09,667 --> 00:41:12,970 世間が面白がって作り上げた幻だ。 430 00:41:12,970 --> 00:41:18,843 そうです。 あさひ太夫など 断じておりません。 431 00:41:18,843 --> 00:41:25,350 (笑い声) 432 00:41:25,350 --> 00:41:30,855 いかにも 今の吉原に太夫などという位はない。 433 00:41:30,855 --> 00:41:33,691 それを楼主や内儀➡ 434 00:41:33,691 --> 00:41:40,198 ましてや 摂津屋様ほどの豪商までもが 太夫 太夫と もてはやすから➡ 435 00:41:40,198 --> 00:41:46,070 幻の花魁などと呼ばれ 廓の奥深くで守られて➡ 436 00:41:46,070 --> 00:41:49,874 のうのうと過ごしているのだ。 437 00:41:49,874 --> 00:41:53,211 だが 所詮は遊び女。 438 00:41:53,211 --> 00:41:57,548 哀れに思えばこそ 廓から出し➡ 439 00:41:57,548 --> 00:42:00,451 この私のそばに 置いてやろうというのです。 440 00:42:00,451 --> 00:42:02,387 この下衆野郎! 441 00:42:02,387 --> 00:42:06,391 又次 やめろ 旦那方の前だ! 442 00:42:08,659 --> 00:42:11,362 つけあがるのも大概にしなはれ! 443 00:42:13,164 --> 00:42:17,368 誰が 誰があんたなんぞに…。 444 00:42:19,504 --> 00:42:24,709 一目で分かりましたよ。 お前さんの料理だと。 445 00:42:26,277 --> 00:42:30,681 紅花に目をつけたところまでは 褒めてあげましょう。 446 00:42:30,681 --> 00:42:35,987 だが そこから先は まるで一膳飯屋の域を出ていない。 447 00:42:38,356 --> 00:42:43,694 (采女)鯛や鮑を盛ることで 豪華に仕立てたつもりだろうが➡ 448 00:42:43,694 --> 00:42:46,597 そこに添えられたものといえば➡ 449 00:42:46,597 --> 00:42:52,203 わらびに ふき えごまに ぜんまい。 450 00:42:52,203 --> 00:42:54,705 いずれも贅を尽くすどころか➡ 451 00:42:54,705 --> 00:42:59,210 食うに困った者が口にする かてもの料理。➡ 452 00:42:59,210 --> 00:43:05,483 実に貧乏くさく せっかくの花見の興をそぐばかり。 453 00:43:05,483 --> 00:43:10,955 そういうところに 料理人の格が出るのだ。➡ 454 00:43:10,955 --> 00:43:14,325 場にふさわしい料理というものがある。➡ 455 00:43:14,325 --> 00:43:17,662 そういうものさえ分からぬ者には➡ 456 00:43:17,662 --> 00:43:22,867 吉原の花見の膳など 端から務まりはしないのだ。 457 00:43:28,172 --> 00:43:33,845 ⚟お堪えなんし。 458 00:43:33,845 --> 00:43:38,649 ⚟なりぃせん。 459 00:44:01,005 --> 00:44:03,307 あさひ太夫だな。 460 00:44:08,312 --> 00:44:15,820 (采女)出てきたということは 私の申し出を受け入れるのだな。 461 00:44:26,697 --> 00:44:32,837 (あさひ太夫)「龍宮の➡ 462 00:44:32,837 --> 00:44:45,182 殿の行末 摘む花を➡ 463 00:44:45,182 --> 00:44:58,396 喜ぶなかれ われはめしうど」。 464 00:45:11,809 --> 00:45:14,312 フッ…。 465 00:45:14,312 --> 00:45:33,698 ♬~ 466 00:45:33,698 --> 00:45:37,168 (采女)よろしいでしょう。 467 00:45:37,168 --> 00:45:41,672 太夫の機知に免じて 今日のところは身を引きましょう。 468 00:45:41,672 --> 00:45:44,575 えっ。 469 00:45:44,575 --> 00:45:47,345 江戸町の店については➡ 470 00:45:47,345 --> 00:45:49,847 諦めては いませんがね。 471 00:45:49,847 --> 00:46:05,129 ♬~ 472 00:46:05,129 --> 00:46:10,468 なぜ急に そぶりを改めたのでしょう。 (井筒屋)あの歌は一体? 473 00:46:10,468 --> 00:46:14,805 さほど うまい歌とも 思いませなんだが…。 474 00:46:14,805 --> 00:46:22,313 (摂津屋)「龍宮の 殿の行末 摘む花を➡ 475 00:46:22,313 --> 00:46:27,518 喜ぶなかれ われはめしうど」。 476 00:46:31,322 --> 00:46:34,825 ああ…。 477 00:46:34,825 --> 00:46:37,662 まず この歌には➡ 478 00:46:37,662 --> 00:46:42,333 宴の膳の食べ物が さまざま詠み込まれている。 479 00:46:42,333 --> 00:46:47,204 上の句に出てくる末摘花とは➡ 480 00:46:47,204 --> 00:46:49,840 紅花のこと。 481 00:46:49,840 --> 00:46:53,344 下の句の「喜ぶなかれ」には➡ 482 00:46:53,344 --> 00:46:57,181 昆布と鰈。 483 00:46:57,181 --> 00:47:00,618 「めしうど」には 独活が入ってるし➡ 484 00:47:00,618 --> 00:47:04,121 「めし」はもちろん ご飯です。 485 00:47:04,121 --> 00:47:07,458 (一同)おお…。 (摂津屋)それから➡ 486 00:47:07,458 --> 00:47:11,128 鯛も隠れている。 見つけられますか。 487 00:47:11,128 --> 00:47:14,932 鯛がでございますか? 488 00:47:14,932 --> 00:47:20,137 「龍宮の 殿の行末 摘む花を」。 489 00:47:20,137 --> 00:47:23,941 龍宮城には 鯛がいるはずですよ。 490 00:47:23,941 --> 00:47:27,144 ああ…。 491 00:47:27,144 --> 00:47:30,815 それと 白魚も。 492 00:47:30,815 --> 00:47:32,750 龍宮城に? 493 00:47:32,750 --> 00:47:37,488 いや 「殿の行末」。 494 00:47:37,488 --> 00:47:41,659 白魚は 殿様魚とも呼ばれます。 495 00:47:41,659 --> 00:47:45,329 なるほど。 ハッハッハッハッ。 496 00:47:45,329 --> 00:47:52,670 龍宮とは恐らく 登龍楼のことです。 497 00:47:52,670 --> 00:47:56,173 「登龍楼の主の行末➡ 498 00:47:56,173 --> 00:48:01,445 すなわち この先の命を摘んでしまうような➡ 499 00:48:01,445 --> 00:48:05,616 贅沢三昧の膳を喜ぶことはできない➡ 500 00:48:05,616 --> 00:48:12,289 私は ただの めしうどなのだから」と そういった意味合いでしょう。 501 00:48:12,289 --> 00:48:14,925 めしうど? 502 00:48:14,925 --> 00:48:21,298 古来 和歌にまつわる方々を そう呼びますが➡ 503 00:48:21,298 --> 00:48:28,472 とらえられた人も また めしうどといいます。 504 00:48:28,472 --> 00:48:33,644 采女殿を龍宮の主と持ち上げ➡ 505 00:48:33,644 --> 00:48:38,315 永く健やかに生きてほしいと願い その上で➡ 506 00:48:38,315 --> 00:48:45,823 自分は このまま遊女として 廓で生きるつもりだと➡ 507 00:48:45,823 --> 00:48:52,329 采女殿の面目を潰すことなく伝えた。 見事な機転です。 508 00:48:54,498 --> 00:49:01,806 それにしても 女料理人とは驚きました。 509 00:49:04,308 --> 00:49:10,981 今日一番の趣向でしたな。 (笑い声) 510 00:49:10,981 --> 00:49:18,789 なるほど どうりで 贅を尽くしておりながら➡ 511 00:49:18,789 --> 00:49:24,929 どこか優しく つつましい 慈愛にあふれた味がした。➡ 512 00:49:24,929 --> 00:49:29,633 ちょうど 雛祭りの膳のような。 513 00:49:36,941 --> 00:49:45,683 私は かつて たった3度だけ➡ 514 00:49:45,683 --> 00:49:50,688 雛祭りの膳を食べたことがございます。 515 00:49:52,823 --> 00:49:57,328 遅くに授かった娘のための雛祭りでした。 516 00:50:00,331 --> 00:50:04,501 (摂津屋)思えば 今日の膳は➡ 517 00:50:04,501 --> 00:50:09,807 4つで逝ったあの子への 供養であったような気すらします。 518 00:50:14,178 --> 00:50:16,213 ありがとうございました。 519 00:50:16,213 --> 00:50:20,851 摂津屋様 どうぞ お手をお上げ下さい。 520 00:50:20,851 --> 00:50:31,862 ♬~ 521 00:50:31,862 --> 00:50:36,367 ここらで お開きとしましょう。 522 00:50:36,367 --> 00:50:38,302 (上州屋)そうですな。 523 00:50:38,302 --> 00:50:43,240 私など なじみの八千代の顔が ちらついて ちらついて 我慢なりません。 524 00:50:43,240 --> 00:50:46,710 (笑い声) 525 00:50:46,710 --> 00:50:50,581 ああ ここでよい。 526 00:50:50,581 --> 00:50:54,451 さようでございますか。 恐れ入ります。 527 00:50:54,451 --> 00:51:18,509 ♬~ 528 00:51:18,509 --> 00:51:22,346 はっ! お前様! 旦那様!お前様! 529 00:51:22,346 --> 00:51:24,281 大丈夫ですか? お前様! 530 00:51:24,281 --> 00:51:26,283 (又次)誰か! お前様!誰か! 531 00:51:30,988 --> 00:51:35,859 「龍宮の 殿の行末 摘む花を➡ 532 00:51:35,859 --> 00:51:40,364 喜ぶなかれ われはめしうど」。 533 00:51:40,364 --> 00:51:43,200 ほんまに驚きました。 534 00:51:43,200 --> 00:51:47,371 あの僅かな間で 宴に出た料理を 歌に詠み込んで➡ 535 00:51:47,371 --> 00:51:50,074 申し出を断るやなんて…。 536 00:51:51,709 --> 00:51:58,882 ただ 申し出を断るために 詠んだ歌ではないと 私は思います。え? 537 00:51:58,882 --> 00:52:05,656 わらびに ふき えごまに ぜんまい 紅花の間引き菜…。 538 00:52:05,656 --> 00:52:12,162 かてものを ふんだんに使ったことを 采女殿は責めたてた。 539 00:52:12,162 --> 00:52:16,967 けれど 澪さんの花見の膳は ただ 贅を尽くしただけの料理ではない。 540 00:52:16,967 --> 00:52:20,170 それを食べた人が皆 健やかに生きていけることを願う➡ 541 00:52:20,170 --> 00:52:23,841 慈愛の膳だった。 542 00:52:23,841 --> 00:52:28,545 この歌が本当に伝えたかったことは そのことでしょう。 543 00:52:30,614 --> 00:52:34,351 采女殿とて 登龍楼の主です。 544 00:52:34,351 --> 00:52:41,525 心の内では 澪さんが膳に込めた 本当の思いに気が付いていたはず。 545 00:52:41,525 --> 00:52:46,363 野江ちゃんは それを見抜いて…? 546 00:52:46,363 --> 00:52:51,068 だからこそ 采女宗馬は身を引いたのでしょう。 547 00:52:53,237 --> 00:52:56,073 見目形の美しさは もとより➡ 548 00:52:56,073 --> 00:53:02,479 芸の見事さ 機転 そして 度胸。 549 00:53:02,479 --> 00:53:07,818 澪さんの幼なじみの野江さんは ただ 運命に翻弄されるだけではない➡ 550 00:53:07,818 --> 00:53:11,822 自ら運命を切り開いていく 強さをお持ちです。 551 00:53:13,490 --> 00:53:30,908 ♬~ 552 00:53:30,908 --> 00:53:35,846 澪 どないしたんや 風邪ひくで。 553 00:53:35,846 --> 00:53:37,848 遠い…。 554 00:53:43,187 --> 00:53:47,491 遠い。 どうしようもなく遠い。 555 00:53:50,360 --> 00:53:54,698 手を伸ばせば届くほど そばにいたのに。 556 00:53:54,698 --> 00:53:57,501 何で こんなにも遠いんやろか。 557 00:54:03,807 --> 00:54:08,312 野江ちゃんの置かれた立場 その身に起きたことは➡ 558 00:54:08,312 --> 00:54:11,815 決して 夢まぼろしなんかでは あれへんのに。 559 00:54:14,818 --> 00:54:16,820 澪…。 560 00:54:16,820 --> 00:54:28,332 ♬~ 561 00:54:28,332 --> 00:54:32,503 それが うちからの祝儀。 562 00:54:32,503 --> 00:54:37,508 そちらが 摂津屋さんたちからのご祝儀だ。 563 00:54:44,848 --> 00:54:51,989 これは又次さんに お渡し下さいませ。 564 00:54:51,989 --> 00:54:57,361 八重桜に お酒を注いだのは 又次さんの機転です。 565 00:54:57,361 --> 00:55:02,332 お湯ではなく 熱くしたお酒を注いだからこそ➡ 566 00:55:02,332 --> 00:55:07,037 桜の花の香りを際立たせることが できたんです。 567 00:55:07,037 --> 00:55:12,009 フッ 相変わらず かたくななことだ。 568 00:55:12,009 --> 00:55:18,482 でも まあ うちからの祝儀を 断らなかったのは何よりだ。 569 00:55:18,482 --> 00:55:21,151 中を確かめなさい。 570 00:55:21,151 --> 00:55:33,330 ♬~ 571 00:55:33,330 --> 00:55:38,836 どうした 不服かね。 572 00:55:38,836 --> 00:55:41,505 多すぎます。 573 00:55:41,505 --> 00:55:44,341 なんと? 574 00:55:44,341 --> 00:55:47,544 こんなに受け取れる 道理がありません。 575 00:55:50,981 --> 00:55:57,854 (笑い声) 576 00:55:57,854 --> 00:56:02,459 欲はないのは知っていたが ハッハッハッハッ。 577 00:56:02,459 --> 00:56:05,362 金は欲しくないのか。 578 00:56:05,362 --> 00:56:12,469 欲しいです。 むしろ 喉から手が出るほど欲しい。 579 00:56:12,469 --> 00:56:16,340 ああ… 安心した。 580 00:56:16,340 --> 00:56:21,478 欲がない輩ほど 扱いにくいものはないからな。➡ 581 00:56:21,478 --> 00:56:26,650 まあいいから それは取っておきなさい。 582 00:56:26,650 --> 00:56:32,155 お前さんの料理には それだけの値打ちがあった。 583 00:56:40,163 --> 00:56:47,037 喜の字屋の仕出し1人前の相場を 教えてやろう。 584 00:56:47,037 --> 00:56:51,541 料理1人前が金一分だ。 585 00:56:53,844 --> 00:56:59,516 つる家なら 50人前といったところだろう。 586 00:56:59,516 --> 00:57:02,919 金一分? 587 00:57:02,919 --> 00:57:09,459 お前さんに人並みに 欲があると分かったから言うが➡ 588 00:57:09,459 --> 00:57:14,631 例の江戸町一丁目の店➡ 589 00:57:14,631 --> 00:57:17,134 お前さんに任せたい。 590 00:57:19,136 --> 00:57:22,939 (伝右衛門) 女料理人であっても腕があれば➡ 591 00:57:22,939 --> 00:57:26,810 お大尽方に贔屓にしてもらえることは➡ 592 00:57:26,810 --> 00:57:30,647 花見の宴で はっきりした。 593 00:57:30,647 --> 00:57:39,356 お前さんなら 年に1,000両 否 もっと稼ぐことも夢ではあるまい。 594 00:57:41,658 --> 00:57:46,830 (伝右衛門) ハハッ まあ ゆっくり考えることだ。 595 00:57:46,830 --> 00:57:51,968 これから元飯田町まで帰るのでは ひもじかろう。 596 00:57:51,968 --> 00:57:54,838 又次に何か作らせよう。 597 00:57:54,838 --> 00:58:10,120 ♬~ 598 00:58:10,120 --> 00:58:12,055 こっちだ。 599 00:58:12,055 --> 00:58:23,867 ♬~ 600 00:58:29,473 --> 00:58:33,643 ここから先は あんた一人で行ってくんな。 601 00:58:33,643 --> 00:58:37,147 えっ。 行くって どこへ。 602 00:58:54,831 --> 00:59:26,763 ♬~ 603 00:59:26,763 --> 00:59:29,633 太夫に。 604 00:59:29,633 --> 00:59:33,937 ⚟あい 太夫に。 605 00:59:33,937 --> 00:59:54,958 ♬~ 606 00:59:54,958 --> 00:59:56,893 太夫に。 607 00:59:56,893 --> 01:00:00,163 ⚟あい 太夫に。 608 01:00:00,163 --> 01:00:18,515 ♬~ 609 01:00:18,515 --> 01:00:20,450 太夫に。 610 01:00:20,450 --> 01:00:23,954 ⚟あい 太夫に。 611 01:00:33,363 --> 01:00:39,703 折檻覚悟の新造たちの 粋な計らいか。 612 01:00:39,703 --> 01:00:55,519 ♬~ 613 01:01:03,326 --> 01:01:09,032 襖は決して開けてくれるな とのことでござりいした。 614 01:01:33,990 --> 01:01:38,295 これ… 天神橋や。 615 01:01:40,864 --> 01:01:45,368 ⚟(あさひ太夫)そう 天神橋なんよ。 616 01:01:50,206 --> 01:01:52,876 野江ちゃん…。 617 01:01:52,876 --> 01:01:56,379 野江ちゃんなん? 618 01:01:56,379 --> 01:02:01,384 ⚟(あさひ太夫)そう うちやよ 澪ちゃん。 619 01:02:06,656 --> 01:02:08,858 野江ちゃん…。 620 01:02:10,827 --> 01:02:13,129 野江ちゃん…。 621 01:02:15,665 --> 01:02:19,502 ⚟(澪の泣き声) 622 01:02:19,502 --> 01:02:24,007 (あさひ太夫) 澪ちゃん 昔と ちっとも変わらへん。 623 01:02:26,843 --> 01:02:29,646 相変わらず 泣き味噌やなあ。 624 01:02:36,553 --> 01:02:42,759 ⚟(あさひ太夫)澪ちゃん 堪忍なぁ。 625 01:02:46,196 --> 01:02:54,371 あの大水で 店も親きょうだいも 何もかも のうなってしもた。 626 01:02:54,371 --> 01:02:58,875 高麗橋淡路屋のこいさんやった うちを覚えてくれてるんは➡ 627 01:02:58,875 --> 01:03:01,077 澪ちゃんだけ。 628 01:03:03,647 --> 01:03:09,819 ⚟(あさひ太夫)せめて 澪ちゃんには 遊女のあさひやなくて➡ 629 01:03:09,819 --> 01:03:12,822 野江のままで いさせてほしいんよ。 630 01:03:20,530 --> 01:03:22,532 野江ちゃん。 631 01:03:25,835 --> 01:03:28,838 この襖の絵…。 632 01:03:30,507 --> 01:03:33,977 ほんに懐かしいなあ。 633 01:03:33,977 --> 01:03:40,183 天神橋 よう一緒に渡ったねぇ。 634 01:03:42,519 --> 01:03:45,989 うん…。 635 01:03:45,989 --> 01:03:50,694 旦那衆が うちのために 名高い絵師に命じて➡ 636 01:03:50,694 --> 01:03:56,866 昔の大坂の町並みを 襖に描かせようとしてくれはってなぁ。 637 01:03:56,866 --> 01:04:02,672 けど うちからお願いして その絵にしてもろた。 638 01:04:06,543 --> 01:04:11,948 ⚟(あさひ太夫)雲と風と天神橋➡ 639 01:04:11,948 --> 01:04:18,755 うちにとって その絵は 澪ちゃんと うち そのものなんや。 640 01:04:21,324 --> 01:04:25,962 野江ちゃんと うち…。 641 01:04:25,962 --> 01:04:32,736 そう。 うちらの頭上には➡ 642 01:04:32,736 --> 01:04:37,040 あれから ずっと厚い雲が垂れこめたまま。 643 01:04:42,412 --> 01:04:47,117 澪ちゃん。 つらかったやろ。 644 01:04:51,121 --> 01:04:55,859 ⚟(あさひ太夫)又次から聞いてる。➡ 645 01:04:55,859 --> 01:05:00,463 大水のあとのことも。➡ 646 01:05:00,463 --> 01:05:03,166 何で江戸に来たかも。 647 01:05:05,935 --> 01:05:11,307 ⚟(あさひ太夫)火事のことも。➡ 648 01:05:11,307 --> 01:05:13,610 縁談のことも…。 649 01:05:18,815 --> 01:05:21,651 私なんか…。 650 01:05:21,651 --> 01:05:25,855 野江ちゃんの方が ずっと…。 651 01:05:32,295 --> 01:05:38,802 澪ちゃん。 うちは信じてるんや。 652 01:05:42,038 --> 01:05:45,542 きっと その雲を突き抜けて吹く風を。 653 01:05:50,680 --> 01:05:54,551 どないに つらいことがあったかて➡ 654 01:05:54,551 --> 01:05:58,254 生きて生きて 生き抜くと決めた。 655 01:06:00,290 --> 01:06:03,927 ⚟(あさひ太夫) 亡うなった身内のためにも➡ 656 01:06:03,927 --> 01:06:07,430 自分の一生を投げ捨てへんと決めたんや。 657 01:06:10,800 --> 01:06:15,472 そういう生き方を貫いたなら➡ 658 01:06:15,472 --> 01:06:18,675 きっと厚い雲も突き抜けられる。 659 01:06:21,344 --> 01:06:24,814 ⚟(あさひ太夫)いつの日か また➡ 660 01:06:24,814 --> 01:06:30,687 あの橋の真ん中に2人並んで➡ 661 01:06:30,687 --> 01:06:33,990 真っ青な天を仰ぐ日が来る。 662 01:06:43,666 --> 01:06:48,505 それでこその雲外蒼天➡ 663 01:06:48,505 --> 01:06:52,308 それでこその旭日昇天やわ。 664 01:06:59,215 --> 01:07:03,152 野江ちゃん…。 665 01:07:03,152 --> 01:07:05,989 野江ちゃん。 666 01:07:05,989 --> 01:07:08,491 野江ちゃん…。 667 01:07:12,795 --> 01:07:14,797 澪ちゃん。 668 01:07:18,134 --> 01:07:23,139 紅花尽くしのお膳 ほんまにおいしかった。 669 01:07:26,843 --> 01:07:32,649 澪ちゃんのお料理は いつでも うちを元気にしてくれる。 670 01:07:34,951 --> 01:07:37,253 前を向かせてくれるよ。 671 01:07:40,657 --> 01:07:42,692 ⚟(あさひ太夫)ありがとう。 672 01:07:42,692 --> 01:07:58,074 ♬~ 673 01:07:58,074 --> 01:08:01,778 中食は終わりました。 674 01:08:01,778 --> 01:08:04,280 どうぞ 下げておくれやす。 675 01:08:04,280 --> 01:09:17,820 ♬~ 676 01:09:17,820 --> 01:09:19,822  回想 (野江)ないしょやよ。 677 01:09:23,292 --> 01:09:26,129 (笑い声) 678 01:09:26,129 --> 01:09:56,325 ♬~ 679 01:09:58,661 --> 01:10:02,532 けっ! 全く分からん娘だ。 680 01:10:02,532 --> 01:10:11,174 女料理人の分際で ようも ようも この翁屋の厚意を無にできたもんだ。 681 01:10:11,174 --> 01:10:15,378 もういい! 料理屋なんぞ やめだ! 682 01:10:19,048 --> 01:10:21,551 申し訳ありませんでした。 683 01:10:25,188 --> 01:10:27,990 愚か者め。 684 01:10:27,990 --> 01:10:30,526 吉原で店を持てば➡ 685 01:10:30,526 --> 01:10:36,332 あさひ太夫の身請けは かなわぬ話ではなかったのだぞ。 686 01:10:36,332 --> 01:10:41,237 いつか 顔を合わせられる日が来るなら➡ 687 01:10:41,237 --> 01:10:45,541 胸を張って 目を見て話がしたい。 688 01:10:47,710 --> 01:10:51,013 楼主様に頼りきって稼いだお金で➡ 689 01:10:51,013 --> 01:10:55,384 身請けをしたり 天満一兆庵を立て直したのでは➡ 690 01:10:55,384 --> 01:10:58,387 私は うつむくことしかできません。 691 01:11:00,823 --> 01:11:03,493 今は この小さいお店で➡ 692 01:11:03,493 --> 01:11:09,832 お客さんの嘘偽りのない声を 聞かせて頂きながら 精進を重ね➡ 693 01:11:09,832 --> 01:11:14,670 料理人としての器を 広げていきたいんです。 694 01:11:14,670 --> 01:11:16,873 そして…。 695 01:11:20,977 --> 01:11:25,848 いつの日か きっと。 696 01:11:25,848 --> 01:11:58,714 ♬~ 697 01:11:58,714 --> 01:12:01,951 ああ! 698 01:12:01,951 --> 01:12:04,320 はい 澪ちゃん。 おお! はい。 699 01:12:04,320 --> 01:12:06,322 フフフフッ。 ありがとうございます。 700 01:12:07,957 --> 01:12:11,327 (種市)おっ 先生! あっ 源斉先生 お持ちします。 701 01:12:11,327 --> 01:12:14,230 ありがとうございます。 さあさ どうぞ奥へ。お待たせしました。 702 01:12:14,230 --> 01:12:16,933 お~ 来た来た来た来た来た! 703 01:12:19,202 --> 01:12:21,971 おう こっちだ こっちだ! すんません。 704 01:12:21,971 --> 01:12:24,774 いらっしゃいませ! お二階へ どうぞ。 705 01:12:28,845 --> 01:12:31,981 う~ん!➡ 706 01:12:31,981 --> 01:12:34,517 これは いいぞ。 フフフッ。 707 01:12:34,517 --> 01:12:56,806 ♬~