1 00:00:01,869 --> 00:00:07,741 満開の桜の下で 中学1年生の横田めぐみさんは➡ 2 00:00:07,741 --> 00:00:11,211 戸惑った表情を浮かべていた。 3 00:00:11,211 --> 00:00:16,550 父親の滋さんが 娘の晴れ姿を 目に焼き付けようと➡ 4 00:00:16,550 --> 00:00:20,254 さまざまなポーズを求めたからだった。 5 00:00:22,356 --> 00:00:27,227 滋さんは 愛しい長女との再会を果たせぬまま➡ 6 00:00:27,227 --> 00:00:32,532 5年前 無念のうちに この世を去った。 7 00:00:42,075 --> 00:00:46,580 母親の早紀江さんが 娘の帰りを待ち続けて➡ 8 00:00:46,580 --> 00:00:50,083 47年の歳月がたった。 9 00:01:02,029 --> 00:01:05,699 今年89歳になった早紀江さんは➡ 10 00:01:05,699 --> 00:01:11,405 拉致被害者の家族会で活動する 最後の親になった。 11 00:01:30,924 --> 00:01:35,762 ごく普通に暮らしていた人たちが 北朝鮮に連れ去られた➡ 12 00:01:35,762 --> 00:01:39,566 前代未聞の国家犯罪 拉致。 13 00:01:41,602 --> 00:01:45,238 少なくとも 政府認定の被害者12人は➡ 14 00:01:45,238 --> 00:01:48,075 いまだ帰国がかなっておらず➡ 15 00:01:48,075 --> 00:01:51,078 その安否さえ分かっていない。 16 00:01:56,249 --> 00:02:03,991 なぜ 半世紀もの間 事態は膠着したままなのか。 17 00:02:03,991 --> 00:02:10,297 拉致が 未解決事件であり続ける その根底に この解けない問いがある。 18 00:02:18,505 --> 00:02:23,343 今回私たちは 長年 北朝鮮と対じしてきた➡ 19 00:02:23,343 --> 00:02:28,715 外事警察の幹部や捜査員 政治家 外交官など➡ 20 00:02:28,715 --> 00:02:31,518 100人を超える関係者を取材。 21 00:02:34,221 --> 00:02:40,093 事件が相次いだ 1970年代後半からの15年間に➡ 22 00:02:40,093 --> 00:02:44,598 今も 未解決であり続ける 深層があった。 23 00:02:53,607 --> 00:03:00,080 1978年に発生した アベック拉致未遂事件。 24 00:03:00,080 --> 00:03:03,950 国交のない国の工作員たちの暗躍は➡ 25 00:03:03,950 --> 00:03:08,755 外事警察の見立てを はるかに超えるものだった。 26 00:03:17,197 --> 00:03:21,068 そして 警察内部で封印されてきた➡ 27 00:03:21,068 --> 00:03:23,070 極秘作戦。 28 00:03:24,938 --> 00:03:27,207 直前に中止され➡ 29 00:03:27,207 --> 00:03:32,412 北朝鮮の工作活動の実態に 迫ることはできなかった。 30 00:03:48,495 --> 00:03:58,505 未解決の事件を巡る 人間の怒り 悲しみ 葛藤 そして後悔。 31 00:04:01,074 --> 00:04:07,581 新シリーズ「未解決事件」。 ファイル2は 北朝鮮拉致事件に迫る。 32 00:04:15,322 --> 00:04:20,527 厚いベールに覆われた 北朝鮮という国家。 33 00:04:22,696 --> 00:04:28,902 日本人拉致被害者の存在を 世に知らしめた人物が 取材に応じた。 34 00:04:38,712 --> 00:04:43,016 蜂谷真由美と名乗る女性は 韓国の金浦空港に到着しました。 35 00:04:44,584 --> 00:04:52,592 1987年に起きた 大韓航空機爆破事件の実行犯である。 36 00:04:56,563 --> 00:05:03,870 乗客 乗員115人が死亡。 世界の犯罪史に名を刻んだ。 37 00:05:06,840 --> 00:05:12,145 日本人になりすまし 爆破事件を引き起こした。 38 00:05:15,549 --> 00:05:18,852 とりわけ 社会に衝撃を与えたのは➡ 39 00:05:18,852 --> 00:05:24,658 自らと日本人拉致被害者との関わりを 明かしたことだった。 40 00:05:37,204 --> 00:05:43,210 北朝鮮で 李恩恵と名付けられた 日本人の女性。 41 00:05:45,545 --> 00:05:53,353 事件から38年。 金賢姫は今も その女性の姿を鮮明に覚えている。 42 00:06:41,534 --> 00:06:47,340 東西冷戦下にあった 1980年代までの世界。 43 00:06:50,543 --> 00:06:57,550 社会主義国家と資本主義国家の間で 謀略による事件も相次いでいた。 44 00:07:03,123 --> 00:07:08,928 そうした中 北朝鮮による 日本へのスパイ工作も➡ 45 00:07:08,928 --> 00:07:11,431 水面下で相次いでいた。 46 00:07:14,167 --> 00:07:20,173 最前線で北朝鮮と対じしてきたのが 外事警察だ。 47 00:07:22,876 --> 00:07:28,014 国益に大きな影響を与える 北朝鮮の工作活動に➡ 48 00:07:28,014 --> 00:07:30,817 日夜 目を光らせていた。 49 00:07:33,520 --> 00:07:40,694 警察庁警備局の指揮の下 警視庁や 各地の警察が連携。 50 00:07:40,694 --> 00:07:47,901 拉致問題が公になる はるか前から 全国で対応にあたっていた。 51 00:07:51,204 --> 00:07:56,076 一般的に 外事警察は その職を離れたあとも➡ 52 00:07:56,076 --> 00:08:02,849 自らが関わった捜査の情報を 明らかにすることは ほとんどない。 53 00:08:02,849 --> 00:08:10,690 そうした中 私たちは 外事警察の歴代の幹部 捜査員 30人から➡ 54 00:08:10,690 --> 00:08:14,427 貴重な情報を得た。 55 00:08:14,427 --> 00:08:19,833 北朝鮮を巡る捜査は 濃く覆われた霧の中から➡ 56 00:08:19,833 --> 00:08:24,671 何かを つかもうとするようなものだったという。 57 00:08:24,671 --> 00:08:31,010 「逮捕する現場では 私たちはいつも 拳銃を持っていた。➡ 58 00:08:31,010 --> 00:08:36,816 こいつらは 何をするか分からないと 思っていたから」。 59 00:08:36,816 --> 00:08:43,189 「勾留された工作員に 話を聞く機会があった。➡ 60 00:08:43,189 --> 00:08:51,498 日本は1,000人密入国しても 999人捕まらないと話していた」。 61 00:08:53,700 --> 00:08:58,038 未解決事件 北朝鮮拉致事件。 62 00:08:58,038 --> 00:09:06,279 私たちは今回の取材報告を 1970年代後半から始める。 63 00:09:06,279 --> 00:09:11,484 このころ頻発していたのが 若い男女の失踪事案。 64 00:09:11,484 --> 00:09:17,657 福井や新潟 鹿児島 日本各地で発生していた。 65 00:09:17,657 --> 00:09:23,997 その中で 解決しないまま 半世紀近くがたつ拉致事件を➡ 66 00:09:23,997 --> 00:09:26,499 象徴する事案があった。 67 00:09:26,499 --> 00:09:34,007 富山で起きた 当時 監禁として扱われていた ある事件である。 68 00:09:37,844 --> 00:09:45,051 私たちは 高岡警察署が当時まとめた 捜査資料を独自に入手した。 69 00:09:47,187 --> 00:09:54,694 1978年8月。 20代の男女が 海岸で4人の男に襲われた。 70 00:09:54,694 --> 00:09:58,198 直後に逃げ出し 事なきを得た。 71 00:10:00,200 --> 00:10:03,203 警察は 4人を確保できなかったものの➡ 72 00:10:03,203 --> 00:10:08,875 現場に残されていたゴム製の猿ぐつわを 押収していた。 73 00:10:08,875 --> 00:10:16,049 材質などから 朝鮮半島製のものとしていた。 74 00:10:16,049 --> 00:10:25,391 更に 事件発生時に 現場近くで 不審船の存在も確認されていた。 75 00:10:25,391 --> 00:10:31,831 捜査資料には 不審船の情報と 4人の男たちの行動は➡ 76 00:10:31,831 --> 00:10:37,237 同時に発生したアクシデントと 書かれている。 77 00:10:37,237 --> 00:10:44,043 この2つの特異な出来事を 1つの事件としては見ていなかったのだ。 78 00:10:52,252 --> 00:10:56,756 元警察庁外事課の 南 隆。 79 00:11:00,059 --> 00:11:07,200 事件発生の3年後 富山県警に赴任し 公安課長を務めた。 80 00:11:07,200 --> 00:11:11,204 各地で 北朝鮮の影が 浮かび上がっていたものの➡ 81 00:11:11,204 --> 00:11:13,907 当時は おぼろげだったという。 82 00:11:33,326 --> 00:11:38,898 警察は 工作員の出入国の 沿岸警戒を強めた。 83 00:11:38,898 --> 00:11:44,604 神出鬼没な北朝鮮の工作船への捜査が 徹底された。 84 00:11:46,639 --> 00:11:54,080 しかし この段階では のちに 日本社会を震かんさせる拉致事件は➡ 85 00:11:54,080 --> 00:11:57,283 捜査の念頭にはなかったという。 86 00:12:02,322 --> 00:12:10,029 時間がたっても 1970年代後半に 各地で失踪した若い男女の消息は➡ 87 00:12:10,029 --> 00:12:13,866 一向に明らかにならなかった。 88 00:12:13,866 --> 00:12:16,536 その失踪事案と➡ 89 00:12:16,536 --> 00:12:22,041 北朝鮮を巡る外事警察の捜査とが 結び付くことはなかった。 90 00:12:26,546 --> 00:12:31,217 時が過ぎ 迎えた1985年。 91 00:12:31,217 --> 00:12:35,221 警察にとって 痛恨の出来事が起こる。 92 00:12:37,357 --> 00:12:43,162 この年 日本人がかつて 拉致されていたことを示す有力な情報が➡ 93 00:12:43,162 --> 00:12:46,899 初めて警察にもたらされる。 94 00:12:46,899 --> 00:12:52,105 それは 軍事政権下の韓国からだった。 95 00:13:03,316 --> 00:13:06,519 韓国への スパイ容疑で逮捕された➡ 96 00:13:06,519 --> 00:13:10,690 北朝鮮の工作員 辛光洙。 97 00:13:10,690 --> 00:13:13,593 韓国当局の取り調べの中で➡ 98 00:13:13,593 --> 00:13:17,864 日本人を北朝鮮に連れ去ったと自供。 99 00:13:17,864 --> 00:13:23,870 工作員自身の口から初めて 日本人の拉致が明かされたのだ。 100 00:13:35,415 --> 00:13:40,620 辛光洙の自供をもとに作成された 裁判記録。 101 00:13:43,022 --> 00:13:48,828 連れ去られたのは 43歳の原 敕晁さんだった。 102 00:13:51,064 --> 00:13:55,368 大阪の中国料理店で働いていた原さん。 103 00:13:55,368 --> 00:14:03,176 いい仕事があると誘い出され 宮崎の海岸から北朝鮮に拉致された。 104 00:14:03,176 --> 00:14:08,915 目的は 警察が 背乗りと呼ぶ手口。 105 00:14:08,915 --> 00:14:13,619 戸籍を乗っ取り その日本人に なりすますためだった。 106 00:14:17,190 --> 00:14:22,695 1970年代に入って 日本での工作活動を開始した➡ 107 00:14:22,695 --> 00:14:24,731 辛光洙。 108 00:14:24,731 --> 00:14:33,873 1980年 原さんの戸籍を使い 日本や韓国でのスパイ活動に及んだ。 109 00:14:33,873 --> 00:14:38,211 この時 辛光洙や協力者たちは➡ 110 00:14:38,211 --> 00:14:42,915 原さんを ある条件によって 周到に選別していた。 111 00:15:01,434 --> 00:15:03,436 つまり… 112 00:15:40,139 --> 00:15:45,077 日本の外事警察は 辛光洙の事件を突破口に➡ 113 00:15:45,077 --> 00:15:49,549 北朝鮮の工作活動の全貌を つかもうとした。 114 00:15:49,549 --> 00:15:54,854 実はその先には ほかの拉致事件も眠っていた。 115 00:15:57,056 --> 00:16:00,660 しかし 事件解明への道は➡ 116 00:16:00,660 --> 00:16:06,165 国と国の 複雑に絡み合う思惑の中で 頓挫していたことが➡ 117 00:16:06,165 --> 00:16:08,467 今回の取材で分かった。 118 00:16:11,037 --> 00:16:15,041 辛光洙捜査の内部資料を入手した。 119 00:16:17,677 --> 00:16:22,849 当時 外事警察は 自供をもとに裏付け捜査を行い➡ 120 00:16:22,849 --> 00:16:25,551 立件を試みようとしていた。 121 00:16:53,346 --> 00:16:58,885 しかし 別の国益から その動きに待ったをかけたのは➡ 122 00:16:58,885 --> 00:17:01,487 検察だった。 123 00:17:01,487 --> 00:17:07,193 当時の状況を 匿名を条件に語る 元捜査員への取材メモ。 124 00:17:44,530 --> 00:17:51,537 1980年代後半まで 強権的な軍事政権下にあった韓国。 125 00:17:54,040 --> 00:17:57,543 市民への弾圧も相次いでいた。 126 00:18:00,813 --> 00:18:07,486 ある検察幹部は 日本の捜査に 韓国の当局が関与することになる➡ 127 00:18:07,486 --> 00:18:11,490 相互主義を嫌がったのだと証言した。 128 00:18:36,549 --> 00:18:42,755 再び 霧の中に消えていく 北朝鮮による事件。 129 00:18:47,026 --> 00:18:49,695 今回 警察庁の内部から➡ 130 00:18:49,695 --> 00:18:54,500 捜査の継続を訴える声が 上がっていたことが分かった。 131 00:18:57,203 --> 00:19:00,806 「このままでは 時間が経過するばかりで➡ 132 00:19:00,806 --> 00:19:04,477 事件そのものが 色あせてしまう恐れがあるため➡ 133 00:19:04,477 --> 00:19:07,980 捜査の決着をつける必要がある」。 134 00:19:10,149 --> 00:19:18,457 「捜査を通じて 北朝鮮の諜報工作実態を 国民の前に明らかにすることができる」。 135 00:19:21,660 --> 00:19:26,999 しかし 捜査の継続は かなわなかった。 136 00:19:26,999 --> 00:19:34,206 原 敕晁さんと ほかの日本人の失踪事案が 結び付けられることもなかった。 137 00:19:55,695 --> 00:20:01,867 著名なある歴史家は 歴史にIfはないと規定した。 138 00:20:01,867 --> 00:20:07,373 しかし 私たちは今回あえて そのIfを提示する。 139 00:20:10,576 --> 00:20:15,715 原 敕晁さんの拉致に関わった 辛光洙。 140 00:20:15,715 --> 00:20:20,219 実は 北朝鮮の招待所と呼ばれる施設で➡ 141 00:20:20,219 --> 00:20:24,056 横田めぐみさんたちに 朝鮮語の指導をするなど➡ 142 00:20:24,056 --> 00:20:29,228 日本人被害者と関係が深い男だったのだ。 143 00:20:29,228 --> 00:20:36,435 めぐみさんの拉致が明らかになったのは この10年以上 あとのことになる。 144 00:20:51,250 --> 00:20:54,553 …というのが今の私の率直な思いですね。 145 00:21:27,887 --> 00:21:32,725 1970年代後半に 端を発した拉致事件が➡ 146 00:21:32,725 --> 00:21:37,429 今もなお 未解決なままの理由は ほかにもある。 147 00:21:40,466 --> 00:21:45,437 ここで 時計の針を5年進める。 148 00:21:45,437 --> 00:21:50,576 北朝鮮の工作活動の全貌を 明らかにしようとする➡ 149 00:21:50,576 --> 00:21:55,781 警察の極秘捜査が 中止に 追い込まれていたことが分かった。 150 00:21:59,084 --> 00:22:05,391 捜査に携わった人物が 匿名を条件に 初めて取材に応じた。 151 00:22:09,695 --> 00:22:15,501 捜査のコードネームは 零余子。 152 00:22:15,501 --> 00:22:18,204 山芋などの芽を意味し➡ 153 00:22:18,204 --> 00:22:23,209 いずれ大きな実にたどりつくという思いを 込めたとされる。 154 00:22:45,731 --> 00:22:51,237 私たちが独自に入手した 零余子事件の捜査資料。 155 00:22:53,239 --> 00:22:55,741 捜査対象となっていたのは➡ 156 00:22:55,741 --> 00:23:00,246 北朝鮮と取り引きがあった 貿易会社の役員たち。 157 00:23:02,514 --> 00:23:08,821 土地取引を巡って 詐欺を行おうとしたと 疑っていた。 158 00:23:10,689 --> 00:23:17,496 しかし 実際は 男たちの裏での動きを 探るのが目的だったという。 159 00:24:02,041 --> 00:24:06,312 更に 男たちへの捜査を足がかりに➡ 160 00:24:06,312 --> 00:24:12,117 関係先 数十か所への家宅捜索も 計画していたという外事警察。 161 00:24:15,521 --> 00:24:18,324 極秘捜査の開始に向けて➡ 162 00:24:18,324 --> 00:24:25,698 警視庁の一室では 連日 綿密な準備が続けられた。 163 00:24:25,698 --> 00:24:29,868 逮捕状や 関係先への捜索令状なども用意され➡ 164 00:24:29,868 --> 00:24:33,572 大規模な態勢が組まれていたという。 165 00:24:37,543 --> 00:24:41,847 しかし 強制捜査の前日。 166 00:24:58,931 --> 00:25:05,137 そして 中止の理由は こう告げられたと証言する。 167 00:25:44,710 --> 00:25:51,583 捜査中止の4か月後 自民党の金丸 信元副総理と➡ 168 00:25:51,583 --> 00:25:56,221 社会党の田辺 誠副委員長が訪朝した。 169 00:25:56,221 --> 00:26:02,995 捜査の中止との関係性は 今回は 明らかにならなかった。 170 00:26:02,995 --> 00:26:08,667 外事警察は 国交のない北朝鮮と対じする困難さに➡ 171 00:26:08,667 --> 00:26:10,869 直面していた。 172 00:26:40,732 --> 00:26:43,235 署名お願いいたします。 173 00:27:45,864 --> 00:27:52,037 1970年代後半以降 一向に像を結ぶことのなかった➡ 174 00:27:52,037 --> 00:27:57,709 若い男女の失踪と北朝鮮の工作活動。 175 00:27:57,709 --> 00:28:02,414 新聞やテレビが この問題を報じることもなかった。 176 00:28:05,150 --> 00:28:10,022 その中で ほぼ唯一 早くから向き合った記者➡ 177 00:28:10,022 --> 00:28:13,725 元産経新聞の阿部雅美。 178 00:28:18,297 --> 00:28:23,669 北朝鮮の関与を示唆する記事を 一面で報じたこともあったが➡ 179 00:28:23,669 --> 00:28:28,473 ほかの報道機関が 追随することはなかった。 180 00:29:04,142 --> 00:29:07,813 社会がバブル経済へと向かっていく中➡ 181 00:29:07,813 --> 00:29:12,618 日本人が この事件に 関心を払うこともなかった。 182 00:29:19,157 --> 00:29:25,163 阿部は 失踪した若い男女の家族にも 取材を行っていた。 183 00:29:27,666 --> 00:29:33,972 取材ノートには 蓮池 薫さんの 両親の言葉が残されていた。 184 00:29:36,375 --> 00:29:39,378 家族を苦しめていたのは➡ 185 00:29:39,378 --> 00:29:45,083 家出や駆け落ちなどを疑う 心ない声だったという。 186 00:30:20,552 --> 00:30:28,226 最初の失踪事案から 10年近くがたった1987年。 187 00:30:28,226 --> 00:30:31,129 この年に起きた事件を きっかけに➡ 188 00:30:31,129 --> 00:30:33,098 日本社会は ようやく➡ 189 00:30:33,098 --> 00:30:36,101 拉致事件の実像に 気付いていく。 190 00:30:36,101 --> 00:30:41,239 しかし あまりに 時間が過ぎていた。 191 00:30:41,239 --> 00:30:43,542 (泣き叫ぶ声) 192 00:30:46,111 --> 00:30:50,916 北朝鮮の元工作員 金賢姫が引き起こした➡ 193 00:30:50,916 --> 00:30:54,619 大韓航空機爆破事件である。 194 00:30:58,790 --> 00:31:02,861 2002年に帰国した 蓮池 薫さんは➡ 195 00:31:02,861 --> 00:31:09,167 当時 北朝鮮の招待所で 当局の監視の下 暮らしていた。 196 00:31:13,205 --> 00:31:20,545 北朝鮮は この爆破事件を 南の自作自演と今も否定しているが➡ 197 00:31:20,545 --> 00:31:25,851 工作員たちの受け止めは違っていたと 初めて明かした。 198 00:33:20,532 --> 00:33:24,870 事件の直後 金賢姫が明らかにしたのが➡ 199 00:33:24,870 --> 00:33:31,877 李恩恵と呼ばれる日本人女性から 日本語を学んでいたという事実だった。 200 00:33:33,879 --> 00:33:39,217 警察庁 外事課の 渡辺 巧課長補佐と 警視庁の外事2課の担当者ら3人は➡ 201 00:33:39,217 --> 00:33:43,088 ソウルの金浦空港に到着しました。 202 00:33:43,088 --> 00:33:48,793 日本の外事警察も 金賢姫から事情聴取を行った。 203 00:33:53,231 --> 00:33:58,536 その時の内容をまとめた 警察庁の資料を入手した。 204 00:34:02,040 --> 00:34:08,513 「金賢姫は 1981年7月から1年6か月の間➡ 205 00:34:08,513 --> 00:34:15,520 平壌の招待所で 日本人工作員から 日本人化教育を受けた」。 206 00:34:34,739 --> 00:34:36,741 「李恩恵は」… 207 00:34:46,551 --> 00:34:49,454 そして 李恩恵の身元が➡ 208 00:34:49,454 --> 00:34:54,159 警視庁と埼玉県警の捜査によって 明らかになる。 209 00:34:56,227 --> 00:35:00,932 1978年に失踪したと見られていた… 210 00:35:03,501 --> 00:35:08,139 金賢姫への再聴取から 北朝鮮にいる李恩恵と➡ 211 00:35:08,139 --> 00:35:11,843 同一人物であることが判明した。 212 00:35:16,481 --> 00:35:23,188 李恩恵特定時の 警察庁 外事課の幹部 山﨑裕人。 213 00:35:24,522 --> 00:35:32,197 この一件で 外事警察は 事件の深刻さを認識したという。 214 00:35:32,197 --> 00:35:35,867 日本人が拉致されているだけでなく➡ 215 00:35:35,867 --> 00:35:43,208 工作員の教育係として テロに関与させられていると。 216 00:35:43,208 --> 00:35:45,910 外事警察は ずっと… 217 00:36:42,867 --> 00:36:49,207 更に警察は 1970年代後半に失踪した若い男女も➡ 218 00:36:49,207 --> 00:36:54,079 北朝鮮で教育係などに 利用されているのではないかと➡ 219 00:36:54,079 --> 00:36:56,781 初めて気付いた。 220 00:37:00,819 --> 00:37:03,722 日本の警察の取り調べに立ち会った➡ 221 00:37:03,722 --> 00:37:07,492 韓国側の元捜査員。 222 00:37:07,492 --> 00:37:09,828 それは 金賢姫が➡ 223 00:37:09,828 --> 00:37:14,132 ほかの日本人について 話した時のことだった。 224 00:37:51,870 --> 00:37:56,207 失踪事案の発生から10年以上を経て➡ 225 00:37:56,207 --> 00:38:02,914 初めて 北朝鮮による 拉致の輪郭をつかんだ外事警察。 226 00:38:33,845 --> 00:38:38,716 しかし 当時 目まぐるしく変化していた国際情勢が➡ 227 00:38:38,716 --> 00:38:44,422 拉致問題の解決への道を 険しくさせていた。 228 00:38:47,192 --> 00:38:52,730 日本と北朝鮮にとりまして 初めての 公式な政府間の接触の場となりました➡ 229 00:38:52,730 --> 00:38:58,870 今回の予備会談は 北京の北朝鮮大使館で始まりました。 230 00:38:58,870 --> 00:39:02,740 田口八重子さんが特定される半年前から➡ 231 00:39:02,740 --> 00:39:08,046 国交の正常化に向け 交渉が始まっていたのだ。 232 00:39:11,816 --> 00:39:19,824 かつて 36年間にわたり 朝鮮半島を植民地支配していた日本。 233 00:39:23,828 --> 00:39:30,168 終戦後 韓国とは 1965年に国交を樹立したが➡ 234 00:39:30,168 --> 00:39:35,473 北朝鮮との関係は 積み残されたままだった。 235 00:39:38,843 --> 00:39:42,547 交渉の舵取りを任された… 236 00:39:50,455 --> 00:39:54,392 日本が国際社会で信頼を得るためには➡ 237 00:39:54,392 --> 00:40:01,099 過去の歴史を清算することが 不可欠だと考えていたという。 238 00:40:32,563 --> 00:40:36,434 更に 交渉を成功させたい背景には➡ 239 00:40:36,434 --> 00:40:42,140 アメリカとの関係を重視するねらいが あったことも明かした。 240 00:41:30,221 --> 00:41:34,559 日朝交渉の開始から 半年後に明らかになった➡ 241 00:41:34,559 --> 00:41:38,229 田口八重子さんの拉致。 242 00:41:38,229 --> 00:41:41,132 外務省は 北朝鮮側に対し➡ 243 00:41:41,132 --> 00:41:46,437 田口さんの消息を確認するよう 求めることにした。 244 00:42:05,857 --> 00:42:11,729 ところが 北朝鮮側は猛反発し 関与を否定。 245 00:42:11,729 --> 00:42:17,035 これをきっかけに 交渉も暗礁に乗り上げていった。 246 00:42:20,872 --> 00:42:24,208 これ以降 続いていくことになる➡ 247 00:42:24,208 --> 00:42:30,515 拉致を巡る外交交渉の困難さの 始まりだった。 248 00:43:13,191 --> 00:43:17,862 北朝鮮による国家犯罪 拉致。 249 00:43:17,862 --> 00:43:20,765 私たちは この未解決事件を➡ 250 00:43:20,765 --> 00:43:23,534 1年以上にわたって掘り起こし➡ 251 00:43:23,534 --> 00:43:28,406 歴史に埋もれていた深層をかいま見た。 252 00:43:28,406 --> 00:43:33,211 しかし 事件の全容は 今もなお➡ 253 00:43:33,211 --> 00:43:36,914 深い霧に包まれたままだ。 254 00:43:40,084 --> 00:43:45,790 今回の取材の最後。 私たちは 未解決事件の渦中に➡ 255 00:43:45,790 --> 00:43:54,098 身を置くことになった人たちの言葉の中に 解決に向けた一筋の光を求めた。 256 00:43:56,234 --> 00:44:01,506 それでは 蓮池様 どうぞ よろしくお願いいたします。 257 00:44:01,506 --> 00:44:09,180 23年前に 予期せぬ形で帰国を果たした 蓮池 薫さん。 258 00:44:09,180 --> 00:44:16,187 今 これまで語ってこなかった 拉致の内実を明かし始めている。 259 00:44:27,532 --> 00:44:34,839 蓮池さんを駆り立てているのは 「拉致は解決済みではない」という思いだ。 260 00:45:11,842 --> 00:45:18,149 北朝鮮の国家犯罪に翻弄され続けた 日本社会。 261 00:45:21,185 --> 00:45:24,522 横田めぐみさんの拉致の認定に関わり➡ 262 00:45:24,522 --> 00:45:29,527 後に警視総監を務めた 米村敏朗。 263 00:45:31,195 --> 00:45:39,537 ベールに包まれた北朝鮮の工作活動を前に 組織の常識や国益が優先され➡ 264 00:45:39,537 --> 00:45:44,842 国家として 一つになれなかったと感じている。 265 00:46:22,847 --> 00:46:25,516 そして 自分たちは➡ 266 00:46:25,516 --> 00:46:29,186 国民が連れ去られているという その事実を➡ 267 00:46:29,186 --> 00:46:34,191 軽視していたのではないかと 痛感している。 268 00:46:47,204 --> 00:46:49,907 それを誰が… 269 00:47:01,485 --> 00:47:06,157 横田めぐみさんが 家族との日常を断ち切られて➡ 270 00:47:06,157 --> 00:47:09,860 既に47年が過ぎた。 271 00:47:19,170 --> 00:47:22,073 中学生になった めぐみさんに➡ 272 00:47:22,073 --> 00:47:27,778 早紀江さんは 自ら仕立てた浴衣をプレゼントしていた。 273 00:47:48,866 --> 00:47:58,542 満開の桜の下で 戸惑った表情を浮かべる 中学1年生の横田めぐみさん。 274 00:47:58,542 --> 00:48:02,413 この写真は警察の公開捜査で使われ➡ 275 00:48:02,413 --> 00:48:08,119 皮肉にも 拉致事件を象徴する一枚になった。 276 00:48:18,496 --> 00:48:20,798 もうね。 277 00:48:35,045 --> 00:48:43,721 この半世紀 この海が 常に母と子を隔ててきた。 278 00:48:43,721 --> 00:48:48,492 しかし どんな高い波が打ちつけようとも➡ 279 00:48:48,492 --> 00:48:55,800 この海は いついかなる時も 祖国へとつながっている。