1 00:00:02,202 --> 00:00:04,137 (木づちの音) 2 00:00:04,137 --> 00:00:07,608 (裁判長)それでは 開廷します。 3 00:00:07,608 --> 00:00:12,946 これから始まるのは ちょっと不思議な裁判。 4 00:00:12,946 --> 00:00:17,284 裁かれる被告人は 乙姫。 5 00:00:17,284 --> 00:00:24,157 玉手箱を使って 浦島太郎を 殺そうとした罪に問われている。 6 00:00:24,157 --> 00:00:27,628 私は 滝沢奈緒。 7 00:00:27,628 --> 00:00:31,298 今回 裁判員の 一人に選ばれた。 8 00:00:31,298 --> 00:00:39,172 私たち裁判員の下す判決が 被告人の人生を大きく左右する。 9 00:00:39,172 --> 00:00:43,477 責任重大だ。 10 00:00:52,986 --> 00:00:57,858 検察官 今回の「浦島太郎」裁判で➡ 11 00:00:57,858 --> 00:01:01,795 乙姫は どんな罪を 犯したというのか述べて下さい。 12 00:01:01,795 --> 00:01:06,533 はい。 起訴状を 読み上げます。 13 00:01:06,533 --> 00:01:10,470 被告人の乙姫は 竜宮城のあるじ。 14 00:01:10,470 --> 00:01:15,609 カメが地上から連れてきた 浦島太郎と出会いました。 15 00:01:15,609 --> 00:01:18,946 乙姫は 浦島と恋仲になり➡ 16 00:01:18,946 --> 00:01:22,816 夫婦同然の暮らしを 送るようになりました。 17 00:01:22,816 --> 00:01:27,955 しかし 3年後 両親の事が心配になった浦島は➡ 18 00:01:27,955 --> 00:01:31,825 「地上に帰る」と 別れを切り出しました。 19 00:01:31,825 --> 00:01:35,829 その事に 強い恨みを抱いた乙姫は➡ 20 00:01:35,829 --> 00:01:39,299 浦島を殺す事を決意。 21 00:01:39,299 --> 00:01:44,638 殺傷能力の高い煙が詰まった 玉手箱を渡したのです。 22 00:01:44,638 --> 00:01:49,309 地上に戻った浦島は 煙を浴び 急激に老化。 23 00:01:49,309 --> 00:01:52,212 甚大な苦痛を受けました。 24 00:01:52,212 --> 00:02:00,587 乙姫が犯した罪は 刑法第199条 第203条の➡ 25 00:02:00,587 --> 00:02:03,924 殺人未遂罪にあたります。 26 00:02:03,924 --> 00:02:09,596 (裁判長) 被告人 今 検察官が読み上げた 事実に間違いはありませんか? 27 00:02:09,596 --> 00:02:14,267 …はい 間違いありません。 28 00:02:14,267 --> 00:02:16,603 (裁判長) 弁護人の意見は いかがですか? 29 00:02:16,603 --> 00:02:18,538 はい。 30 00:02:18,538 --> 00:02:24,945 本件は 浦島太郎の心ない言動で 追い詰められた末の犯行であり➡ 31 00:02:24,945 --> 00:02:27,614 十分に同情の余地があります。 32 00:02:27,614 --> 00:02:31,918 刑を軽くして 執行猶予を求めます。 33 00:02:42,963 --> 00:02:47,834 人を殺そうとし 普通なら刑務所に入る乙姫を➡ 34 00:02:47,834 --> 00:02:52,839 執行猶予にしても いいんだろうか? 35 00:02:57,511 --> 00:03:04,251 まず 検察官は 被害者である 浦島太郎を証人に呼んだ。 36 00:03:04,251 --> 00:03:10,123 浦島さん どうして あなたは 竜宮城へ行ったんですか? 37 00:03:10,123 --> 00:03:13,593 漁を終えて 浜辺を歩いていたら➡ 38 00:03:13,593 --> 00:03:17,931 カメが 子どもたちに いじめられてたんで助けました。➡ 39 00:03:17,931 --> 00:03:23,270 そしたら どうしてもお礼がしたい って連れていかれて…。 40 00:03:23,270 --> 00:03:28,942 まさか こんな目に遭うとは 思いませんでした。➡ 41 00:03:28,942 --> 00:03:33,814 地上に帰ったら 300年もたってたなんて…。 42 00:03:33,814 --> 00:03:37,284 竜宮城での1年が 地上での100年だと➡ 43 00:03:37,284 --> 00:03:40,954 聞いていなかったんですか? 聞いてませんよ! 44 00:03:40,954 --> 00:03:44,291 しかも 玉手箱を開けたら➡ 45 00:03:44,291 --> 00:03:49,162 こんな じいさんになってたなんて…。 46 00:03:49,162 --> 00:03:53,967 裁判員の皆さん 玉手箱の中の煙の正体は➡ 47 00:03:53,967 --> 00:03:58,305 地上で過ぎていた 300年の時間です。 48 00:03:58,305 --> 00:04:00,907 同じ煙を使った 実験映像がありますので➡ 49 00:04:00,907 --> 00:04:03,577 ご覧下さい。 50 00:04:03,577 --> 00:04:18,592 ♬~ 51 00:04:18,592 --> 00:04:26,466 (ざわめき) 52 00:04:26,466 --> 00:04:28,935 やばいでしょ これ。 53 00:04:28,935 --> 00:04:31,271 つまり この煙を浴びると➡ 54 00:04:31,271 --> 00:04:34,608 一瞬で 300歳 年を取ってしまうという訳です。 55 00:04:34,608 --> 00:04:37,511 浦島さんは 箱を開けた時➡ 56 00:04:37,511 --> 00:04:41,481 たまたま 浜風が強かったおかげで 直撃を免れ➡ 57 00:04:41,481 --> 00:04:44,951 老化するに とどまったと 考えられます。 58 00:04:44,951 --> 00:04:52,259 でも もし 直撃していたら…。 59 00:04:53,960 --> 00:04:57,631 あなたが 竜宮城にいる間➡ 60 00:04:57,631 --> 00:05:01,234 乙姫との関係は とても良好だったそうですね? 61 00:05:01,234 --> 00:05:03,904 仲は よかったかな。 62 00:05:03,904 --> 00:05:08,241 じゃあ なぜ あなたは 突然 帰ると言いだしたんですか? 63 00:05:08,241 --> 00:05:12,913 あれですよ。 地上に残してきた 両親が心配でしたから…。 64 00:05:12,913 --> 00:05:20,253 3年も音信不通にしておいて 今更 心配はないでしょう。 65 00:05:20,253 --> 00:05:26,126 あなたは その直前 乙姫から何か 告げられたんじゃありませんか? 66 00:05:26,126 --> 00:05:33,800 おなかに 子どもができたって 告げられました。 67 00:05:33,800 --> 00:05:35,802 (ざわめき) 68 00:05:35,802 --> 00:05:39,272 じゃあ なおさら帰るなんて おかしいでしょう。 69 00:05:39,272 --> 00:05:44,144 うれしくなかったんですか? 70 00:05:44,144 --> 00:05:48,949 怖かった。 怖い? 何が? 71 00:05:48,949 --> 00:05:57,290 親になる事とか 海の中で 一生暮らす事とか…。 72 00:05:57,290 --> 00:05:59,626 いろいろ…。 73 00:05:59,626 --> 00:06:03,897 それで逃げ出したのか。 74 00:06:03,897 --> 00:06:07,567 子どもができて 幸せの絶頂にいた乙姫を➡ 75 00:06:07,567 --> 00:06:11,905 あなたは どん底に突き落としたんですよ。 76 00:06:11,905 --> 00:06:15,775 あなたが少しでも 乙姫の気持ちを 思いやっていたら➡ 77 00:06:15,775 --> 00:06:18,245 こんな事にはならなかった。 78 00:06:18,245 --> 00:06:22,249 そう思いませんか? 79 00:06:26,920 --> 00:06:33,260 続いて 弁護人は 竜宮城のカメを証人に呼んだ。 80 00:06:33,260 --> 00:06:38,932 浦島太郎に別れを告げられた 乙姫は どんな様子でしたか? 81 00:06:38,932 --> 00:06:41,835 痛々しいくらい 落ち込んでいました。 82 00:06:41,835 --> 00:06:45,272 もう 何が正しくて 間違ってるのか➡ 83 00:06:45,272 --> 00:06:49,142 分からなくなっていたんだと 思います。 84 00:06:49,142 --> 00:06:53,146 では 次に 浦島が地上に帰る時の様子を➡ 85 00:06:53,146 --> 00:06:55,615 教えてもらえますか? 86 00:06:55,615 --> 00:06:58,285 玉手箱を受け取った浦島は➡ 87 00:06:58,285 --> 00:07:01,554 私の背中に乗って 地上に向かいました。 88 00:07:01,554 --> 00:07:06,226 すると 乙姫様の声が 聞こえてきました。➡ 89 00:07:06,226 --> 00:07:10,096 「開けないで! その箱は 絶対に開けないで!」と➡ 90 00:07:10,096 --> 00:07:13,566 何度も叫んでいました。 91 00:07:13,566 --> 00:07:17,237 犯行を 思いとどまろうとしたんですね。 92 00:07:17,237 --> 00:07:19,172 (カメ)そうです。 93 00:07:19,172 --> 00:07:24,110 乙姫は 自分の過ちに気付いたんだ。 94 00:07:24,110 --> 00:07:27,580 それは 浦島にも聞こえていましたか? 95 00:07:27,580 --> 00:07:32,252 聞こえていました。 「オーケー オーケー 分かってる」と➡ 96 00:07:32,252 --> 00:07:37,590 軽く流して 「早く行け」と 私に指示しました。➡ 97 00:07:37,590 --> 00:07:41,928 私が 玉手箱の中身を 知ってさえいれば➡ 98 00:07:41,928 --> 00:07:48,635 こんな事には…。 (すすり泣き) 99 00:07:50,270 --> 00:07:54,140 乙姫が言った 「開けないで」 という言葉なんですが➡ 100 00:07:54,140 --> 00:07:56,943 これは 本当に 犯行を 思いとどまろうとして➡ 101 00:07:56,943 --> 00:07:59,279 言った言葉なんでしょうか? 102 00:07:59,279 --> 00:08:02,182 どういう意味ですか? 103 00:08:02,182 --> 00:08:06,086 立派な箱を渡されて 「開けないで」。 104 00:08:06,086 --> 00:08:10,557 そう言われたら 逆に 開けたくなるのが人情でしょう。 105 00:08:10,557 --> 00:08:13,226 (カメ)えっ? つまり 乙姫は➡ 106 00:08:13,226 --> 00:08:16,563 確実に 玉手箱を開けさせようとして➡ 107 00:08:16,563 --> 00:08:19,899 あえて 「開けないで」と繰り返した。 108 00:08:19,899 --> 00:08:22,569 (カメ)そんな! 異議あり。 臆測です。 109 00:08:22,569 --> 00:08:26,239 検察官 質問を変えて下さい。 110 00:08:26,239 --> 00:08:31,578 もし 本当に 乙姫が 思いとどまろうとしたのなら➡ 111 00:08:31,578 --> 00:08:36,249 「開けないで」ではなく 「返して」と言うのが自然でしょう。 112 00:08:36,249 --> 00:08:38,918 そんなの へ理屈ですよ。 113 00:08:38,918 --> 00:08:43,590 あなたは 乙姫の 裏切った男は 絶対に許さないという➡ 114 00:08:43,590 --> 00:08:46,926 冷酷な一面を知らないだけ なのではありませんか? 115 00:08:46,926 --> 00:08:50,797 乙姫様は そんな人じゃありません。 116 00:08:50,797 --> 00:08:58,538 でもな~ さっきの実験を見ちゃうと…。 117 00:08:58,538 --> 00:09:03,843 検察官の言う事も 納得しちゃうんだよな。 118 00:09:08,214 --> 00:09:12,886 いよいよ被告人の 乙姫への質問だ。 119 00:09:12,886 --> 00:09:16,756 まずは 弁護人から。 120 00:09:16,756 --> 00:09:23,229 浦島太郎と過ごした3年間は どんな日々でしたか? 121 00:09:23,229 --> 00:09:26,900 一緒にいて 本当に楽しかった。 122 00:09:26,900 --> 00:09:32,238 ごはんを食べて 「おいしいね」と言ったり➡ 123 00:09:32,238 --> 00:09:35,909 2人で並んで散歩したり。➡ 124 00:09:35,909 --> 00:09:40,580 ずっと1人だった私には そんな たわいもない事が➡ 125 00:09:40,580 --> 00:09:44,918 うれしくて しかたありませんでした。 126 00:09:44,918 --> 00:09:50,256 だから おなかに赤ちゃんができた時も➡ 127 00:09:50,256 --> 00:09:55,128 ただ喜んでもらえると 思ってました。 128 00:09:55,128 --> 00:09:59,265 殺意を抱いたのは いつですか? 129 00:09:59,265 --> 00:10:03,937 太郎さんが地上に帰る直前です。 130 00:10:03,937 --> 00:10:10,276 私は 「あと1分でいいから 一緒にいて」って頼みました。➡ 131 00:10:10,276 --> 00:10:15,615 そしたら 彼は 「じゃあ あと1分だけね」って言って➡ 132 00:10:15,615 --> 00:10:22,322 時計の秒針が1周するのを じっと眺めてました。 133 00:10:24,624 --> 00:10:27,293 もう これっぽっちも➡ 134 00:10:27,293 --> 00:10:31,965 私の事を愛していないんだなって 思いました。 135 00:10:31,965 --> 00:10:37,637 幸せだった この3年は 一体 何だったんだろうって。 136 00:10:37,637 --> 00:10:42,976 悲しくて悔しくて たまりませんでした。 137 00:10:42,976 --> 00:10:47,313 この人を一生 許したくない。 138 00:10:47,313 --> 00:10:51,985 生まれて初めて感じる その気持ちを➡ 139 00:10:51,985 --> 00:10:57,323 私は抑える事ができませんでした。 140 00:10:57,323 --> 00:11:03,630 それで あなたは 玉手箱を渡したんですね? 141 00:11:07,934 --> 00:11:11,271 乙姫の傷ついた気持ち。 142 00:11:11,271 --> 00:11:16,142 浦島を恨む気持ちは よく分かる。 143 00:11:16,142 --> 00:11:20,613 それでも 人を1人殺そうとした乙姫を➡ 144 00:11:20,613 --> 00:11:26,619 許しても… いいのかな? 145 00:11:28,955 --> 00:11:37,630 乙姫さん あなたは 浦島太郎に裏切られた。 146 00:11:37,630 --> 00:11:43,503 でも あなた自身も 大切な人を裏切ったんですよ。 147 00:11:43,503 --> 00:11:46,306 えっ? 148 00:11:46,306 --> 00:11:49,642 玉手箱を渡す前に➡ 149 00:11:49,642 --> 00:11:53,346 どうして おなかの子の事を 考えなかったんです? 150 00:11:55,515 --> 00:11:58,318 生まれてくる子どもが➡ 151 00:11:58,318 --> 00:12:02,188 自分の父親を殺そうとした 母親を➡ 152 00:12:02,188 --> 00:12:05,124 愛してくれると思いますか? 153 00:12:05,124 --> 00:12:11,831 いいえ。 愛せるはずがないと思います。 154 00:12:18,271 --> 00:12:24,611 乙姫さん あなたは 実刑になった場合➡ 155 00:12:24,611 --> 00:12:28,948 刑務所の中の病院で 子どもを産む事になります。 156 00:12:28,948 --> 00:12:31,618 そして 服役中は➡ 157 00:12:31,618 --> 00:12:35,955 その子とは離れて 暮らさなければなりません。 158 00:12:35,955 --> 00:12:38,625 …はい。 159 00:12:38,625 --> 00:12:42,295 でも 今のあなたには➡ 160 00:12:42,295 --> 00:12:48,001 その時間こそが必要だと 私は思います。 161 00:12:49,969 --> 00:12:53,840 自分にとって 何が一番大切なのか➡ 162 00:12:53,840 --> 00:12:57,310 問い続けて下さい。 163 00:12:57,310 --> 00:13:04,117 そして 犯した罪を しっかり償って下さい。 164 00:13:04,117 --> 00:13:10,857 そうして初めて 母として 力いっぱい➡ 165 00:13:10,857 --> 00:13:17,163 その子を抱き締めて あげられるのではないでしょうか。 166 00:13:21,267 --> 00:13:25,571 以上です。 167 00:13:31,611 --> 00:13:36,282 これからの 乙姫と子どものためには➡ 168 00:13:36,282 --> 00:13:40,987 どうするのが いいんだろう? 169 00:13:46,926 --> 00:13:52,832 裁判員の皆さん 本件は 危険 極まりない犯行であり➡ 170 00:13:52,832 --> 00:13:55,635 同情の余地はありません。 171 00:13:55,635 --> 00:14:00,473 乙姫は 浦島太郎に 甚大な苦痛を与えました。 172 00:14:00,473 --> 00:14:05,912 乙姫も刑務所に入り 同様の苦痛を負うべきです。 173 00:14:05,912 --> 00:14:08,581 裁判員の皆さん➡ 174 00:14:08,581 --> 00:14:13,920 本件は 浦島太郎に ひどく 裏切られた末の犯行であり➡ 175 00:14:13,920 --> 00:14:19,592 その心情は 身勝手のひと言で 済まされるものではありません。 176 00:14:19,592 --> 00:14:24,263 更に 乙姫は 犯行を 思いとどまろうとしました。 177 00:14:24,263 --> 00:14:27,934 これらは 十分に酌量されるべきです。 178 00:14:27,934 --> 00:14:31,270 執行猶予を求めます。 179 00:14:31,270 --> 00:14:34,607 (裁判長)これで 全ての審理が終わりました。➡ 180 00:14:34,607 --> 00:14:39,946 これから 裁判員の皆さんと 判決を話し合います。 181 00:14:39,946 --> 00:14:43,816 乙姫を刑務所に送るべきか。 182 00:14:43,816 --> 00:14:49,288 それとも 執行猶予にすべきか。 183 00:14:49,288 --> 00:14:53,593 どうすればいいんだろう?