1 00:00:01,235 --> 00:00:04,104 (木づちの音) 2 00:00:04,104 --> 00:00:07,441 それでは 開廷します。 3 00:00:07,441 --> 00:00:10,744 ある裁判が 始まろうとしている。 4 00:00:12,779 --> 00:00:18,652 私は 瀬戸香織。 裁判員の一人に選ばれた。 5 00:00:18,652 --> 00:00:24,391 私たち裁判員は この ちょっと不思議な裁判の判決を➡ 6 00:00:24,391 --> 00:00:27,628 考えなくてはならない。 7 00:00:27,628 --> 00:00:32,466 裁かれる被告人は ヘンゼルとグレーテル。 8 00:00:32,466 --> 00:00:37,971 魔女を殺して 金貨を奪った罪に 問われている。 9 00:00:37,971 --> 00:00:46,280 ♬~ 10 00:00:48,315 --> 00:00:51,351 検察官 今回 2人が➡ 11 00:00:51,351 --> 00:00:54,655 どんな罪を犯したというのか 述べて下さい。 12 00:00:54,655 --> 00:01:00,460 はい。 起訴状を読み上げます。 13 00:01:00,460 --> 00:01:02,930 ヘンゼルとグレーテルは➡ 14 00:01:02,930 --> 00:01:07,267 生活に困った両親に 捨てられました。 15 00:01:07,267 --> 00:01:11,772 森の奥深く 三日三晩 さまよった2人は➡ 16 00:01:11,772 --> 00:01:17,578 白い鳥に導かれ お菓子で 作られた家に たどりつきました。 17 00:01:17,578 --> 00:01:24,284 そして そこに暮らす 年老いた魔女に 保護されました。 18 00:01:24,284 --> 00:01:27,621 しかし ひとつき後➡ 19 00:01:27,621 --> 00:01:32,292 魔女が 多額の財産を 所有している事を知った2人は➡ 20 00:01:32,292 --> 00:01:34,962 強奪を計画。 21 00:01:34,962 --> 00:01:40,300 魔女を 燃え盛る かまどの中に 押し込んで殺害し➡ 22 00:01:40,300 --> 00:01:45,472 山のような金貨を奪って 親元に 帰りました。 23 00:01:45,472 --> 00:01:53,146 これは 刑法第240条の 強盗殺人罪にあたります。 24 00:01:53,146 --> 00:01:57,818 (裁判長)被告人 今 検察官が読み上げた事実に➡ 25 00:01:57,818 --> 00:02:00,420 間違いは ありませんか? 26 00:02:00,420 --> 00:02:08,095 確かに 僕らは 魔女を殺し 金貨を家に持って帰りました。 27 00:02:08,095 --> 00:02:11,765 でも お金が欲しくて 殺したんじゃありません! 28 00:02:11,765 --> 00:02:17,571 そうです! 僕は魔女に 食べられるところだったんです! 29 00:02:17,571 --> 00:02:20,774 弁護人の意見は いかがですか? 30 00:02:20,774 --> 00:02:26,647 魔女の殺害は 人食いから 身を守るための正当防衛であり➡ 31 00:02:26,647 --> 00:02:29,783 罪に問われるものではありません。 32 00:02:29,783 --> 00:02:33,954 2人が犯した罪は 魔女を殺したあとに➡ 33 00:02:33,954 --> 00:02:39,826 出来心で 金貨を盗んだ事だけです。 34 00:02:39,826 --> 00:02:45,666 強盗殺人か? 単なる窃盗か…? 35 00:02:45,666 --> 00:02:51,805 そのカギになるのは 2人が 魔女を殺した理由だ。 36 00:02:51,805 --> 00:02:58,612 金貨を奪うため? それとも 自分の身を守るため…? 37 00:03:03,917 --> 00:03:06,753 検察官が 証人に呼んだのは➡ 38 00:03:06,753 --> 00:03:13,427 2人を お菓子の家に導いた 白い鳥だ。 39 00:03:13,427 --> 00:03:16,329 あなたは どうして 2人を➡ 40 00:03:16,329 --> 00:03:19,933 お菓子の家に 連れていったのですか? 41 00:03:19,933 --> 00:03:25,272 森で 迷子になっていた2人を たまたま 見つけたんです。➡ 42 00:03:25,272 --> 00:03:30,610 友達の魔女に 保護してもらおうと 連れていきました。 43 00:03:30,610 --> 00:03:32,946 2人は そこで 魔女に➡ 44 00:03:32,946 --> 00:03:35,849 食べられそうになったと 言っています。 45 00:03:35,849 --> 00:03:37,818 そんなの ウソですよ! 46 00:03:37,818 --> 00:03:41,455 あの人は 人食いなんかじゃありません! 47 00:03:41,455 --> 00:03:43,390 人食いではない? 48 00:03:43,390 --> 00:03:46,960 (白い鳥)そうです! 49 00:03:46,960 --> 00:03:50,831 裁判員の皆さん これは➡ 50 00:03:50,831 --> 00:03:55,635 魔女の家で見つかった 病院の診断書です。 51 00:03:55,635 --> 00:04:02,743 魔女が 肉アレルギーであった事が はっきり記載されています。 52 00:04:02,743 --> 00:04:06,079 魔女は 2人の事を➡ 53 00:04:06,079 --> 00:04:11,585 かいがいしく世話していたに 違いありません。➡ 54 00:04:11,585 --> 00:04:16,890 あの人は 本当に優しい人でしたから…。 55 00:04:19,459 --> 00:04:23,096 だとしたら 2人の言う事は➡ 56 00:04:23,096 --> 00:04:28,401 罪を逃れるための 作り話って事…? 57 00:04:31,805 --> 00:04:35,108 改めて お聞きします。 58 00:04:35,108 --> 00:04:40,781 魔女は 人食いではないんですね? そうです! 59 00:04:40,781 --> 00:04:44,284 しかし あの森には 昔から➡ 60 00:04:44,284 --> 00:04:49,456 人食いの魔女がいるという うわさが 後を絶たない。 61 00:04:49,456 --> 00:04:53,627 これは どう説明するんですか? 62 00:04:53,627 --> 00:04:58,465 そのうわさは 森に 子どもを捨てた親たちが➡ 63 00:04:58,465 --> 00:05:02,903 その事を隠すために 流したんですよ きっと。 64 00:05:02,903 --> 00:05:05,939 取って付けたような話ですね。 65 00:05:05,939 --> 00:05:11,912 では 先ほどの診断書について お尋ねします。 66 00:05:11,912 --> 00:05:19,252 これ 日付を見る限り 200年以上前のものですよね? 67 00:05:19,252 --> 00:05:21,288 200年!? 68 00:05:21,288 --> 00:05:25,125 魔女は 長生きですから それは若い時の…。 69 00:05:25,125 --> 00:05:27,761 古すぎませんか? 70 00:05:27,761 --> 00:05:34,100 これでは 誰が どんな方法で 診断をしたのか 分からず➡ 71 00:05:34,100 --> 00:05:36,136 信用できません。 72 00:05:36,136 --> 00:05:38,839 でも 魔女は 肉を…。 73 00:05:40,874 --> 00:05:45,812 ウソをついているのは あなたの方ではありませんか? 74 00:05:45,812 --> 00:05:50,951 迷子の子どもを見つけては 人食いの魔女に 差し出していた➡ 75 00:05:50,951 --> 00:05:54,321 その罪が ばれるのを恐れて! 76 00:05:54,321 --> 00:05:56,456 そんな事してません! 77 00:05:56,456 --> 00:06:01,962 ウソをついているのは どっち…? 78 00:06:05,732 --> 00:06:11,738 続いて 兄のヘンゼルへの質問だ。 まずは 弁護人から。 79 00:06:13,607 --> 00:06:18,445 魔女に出会った時の事を 教えてもらえますか? 80 00:06:18,445 --> 00:06:22,916 最初 魔女は とても優しかったんです。 81 00:06:22,916 --> 00:06:24,851 疲れていた僕たちを➡ 82 00:06:24,851 --> 00:06:28,421 ふかふかのベッドで 眠らせてくれました。 83 00:06:28,421 --> 00:06:34,761 それは あなたたちを 油断させるためのワナだった? 84 00:06:34,761 --> 00:06:38,598 はい。 僕は 魔女に捕まって➡ 85 00:06:38,598 --> 00:06:41,501 家畜小屋の檻に入れられました。➡ 86 00:06:41,501 --> 00:06:46,473 「たっぷり太らせてから 食べてやる」って言われて…。 87 00:06:46,473 --> 00:06:52,779 毎日 グレーテルの作る ごちそうを 食べさせられました。 88 00:06:52,779 --> 00:06:58,118 妹さんは 魔女の召し使いにされたんですね。 89 00:06:58,118 --> 00:07:00,053 それから…? 90 00:07:00,053 --> 00:07:04,724 魔女は 目が悪いので 僕が どれだけ太ったか➡ 91 00:07:04,724 --> 00:07:08,895 こうして 指を触って 知ろうとしたんです。 92 00:07:08,895 --> 00:07:13,066 でも 僕は食事に出された鶏の骨を 触らせて➡ 93 00:07:13,066 --> 00:07:17,904 まだ 痩せていると だまし続けたんです。 94 00:07:17,904 --> 00:07:19,940 恐ろしかったでしょう。 95 00:07:19,940 --> 00:07:26,646 はい…。 いつ ばれてしまうか 生きた心地がしませんでした…。 96 00:07:30,083 --> 00:07:36,423 あなたが 魔女を だますために 使ったという鶏の骨は…➡ 97 00:07:36,423 --> 00:07:38,758 このようなものでしたか? 98 00:07:38,758 --> 00:07:41,428 そうです。 99 00:07:41,428 --> 00:07:44,331 いくら 目が悪いといっても…。 100 00:07:44,331 --> 00:07:46,299 (たたく音) 101 00:07:46,299 --> 00:07:51,137 この硬い骨を触って 指と勘違いするでしょうか? 102 00:07:51,137 --> 00:07:55,942 そ… そうかもしれないけど でも 魔女は間違えたんだ! 103 00:07:55,942 --> 00:07:58,778 それに 目の悪い魔女が➡ 104 00:07:58,778 --> 00:08:03,750 すばしっこいあなたを捕まえて 檻に入れる…。 105 00:08:03,750 --> 00:08:06,052 そんな事が できるんでしょうか? 106 00:08:06,052 --> 00:08:11,224 それは! 寝ているところを捕まったので…。 107 00:08:11,224 --> 00:08:13,893 本当は 檻になんか➡ 108 00:08:13,893 --> 00:08:16,563 入れられていないんじゃ ないんですか? 109 00:08:16,563 --> 00:08:22,235 食べられるどころか 優しい魔女に 手厚く保護されていた。 110 00:08:22,235 --> 00:08:27,574 異議あり! 意見を押しつけています! 111 00:08:27,574 --> 00:08:30,477 以上です。 112 00:08:30,477 --> 00:08:35,749 確かに ヘンゼルの言う事は 怪しい。 113 00:08:35,749 --> 00:08:41,554 でも 鶏の骨で だまし続けたなんて➡ 114 00:08:41,554 --> 00:08:47,260 実際に 体験してないと 言えないんじゃないかな…。 115 00:08:52,198 --> 00:08:58,505 今度は グレーテルへの質問だ。 まずは 弁護人から。 116 00:09:00,373 --> 00:09:04,244 事件の日の事を 教えてもらえますか? 117 00:09:04,244 --> 00:09:08,248 はい。 あの日 兄が なかなか太らない事に➡ 118 00:09:08,248 --> 00:09:11,885 いらだった魔女は 「もう待ちきれない!➡ 119 00:09:11,885 --> 00:09:18,058 こんがり焼いて 食べてやる」と 大きな包丁を研ぎ始めました。 120 00:09:18,058 --> 00:09:23,930 私は 魔女に命じられ かまどの火を おこしました。 121 00:09:23,930 --> 00:09:28,234 兄を焼くための火を おこしているんだと思うと➡ 122 00:09:28,234 --> 00:09:31,738 涙が止まりませんでした…。 123 00:09:31,738 --> 00:09:34,774 そのあと どうなりましたか? 124 00:09:34,774 --> 00:09:39,078 魔女に「火の加減を確認しろ」と 言われました。 125 00:09:39,078 --> 00:09:43,416 私が「どうすればいいか 分からない」と言うと➡ 126 00:09:43,416 --> 00:09:45,351 魔女は「こうやるんだ」と➡ 127 00:09:45,351 --> 00:09:48,254 かまどの中を のぞき込んだんです。 128 00:09:48,254 --> 00:09:51,591 その時 「今しかない!」と思って➡ 129 00:09:51,591 --> 00:09:55,462 魔女に 体当たりして かまどの中に 押し込んだんです。 130 00:09:55,462 --> 00:10:00,266 魔女は どうなりましたか? 131 00:10:00,266 --> 00:10:08,608 大きな叫び声が聞こえて そのあと 静かになりました。 132 00:10:08,608 --> 00:10:15,281 そうですか。 では 最後にお聞きします。 133 00:10:15,281 --> 00:10:19,152 あなたたちは 金貨を奪うために➡ 134 00:10:19,152 --> 00:10:22,622 魔女を 殺した訳ではないのですね? 135 00:10:22,622 --> 00:10:26,292 はい! 金貨があるなんて 知りませんでした。 136 00:10:26,292 --> 00:10:28,962 森を抜けるための地図を 探していたら➡ 137 00:10:28,962 --> 00:10:34,634 金貨を見つけて…。 つい 盗んじゃいました。➡ 138 00:10:34,634 --> 00:10:37,637 ごめんなさい! 139 00:10:40,974 --> 00:10:46,312 これは 魔女の等身大パネルです。 140 00:10:46,312 --> 00:10:52,652 魔女は 体重が90キロもあったといいます。 141 00:10:52,652 --> 00:10:56,523 その⅓にも満たない あなたが➡ 142 00:10:56,523 --> 00:11:01,261 たった一人で かまどの奥まで 押し込めるものでしょうか? 143 00:11:01,261 --> 00:11:03,596 思いっきり体当たりしたんです。 144 00:11:03,596 --> 00:11:08,268 それでも せいぜい つんのめるくらいでしょう。 145 00:11:08,268 --> 00:11:12,605 しかし ヘンゼルが 檻に入れられていなければ➡ 146 00:11:12,605 --> 00:11:15,942 話は別です。 147 00:11:15,942 --> 00:11:18,611 本当は 2人がかりで➡ 148 00:11:18,611 --> 00:11:20,947 かまどの奥に 押し込んだのではないですか? 149 00:11:20,947 --> 00:11:22,882 違うよ! 異議あり。 150 00:11:22,882 --> 00:11:24,817 臆測です。 151 00:11:24,817 --> 00:11:29,522 検察官 質問を変えて下さい。 152 00:11:33,526 --> 00:11:38,965 あなたの家は 明日 食べる物に 困るくらい貧しかった。 153 00:11:38,965 --> 00:11:41,634 そうですね? 154 00:11:41,634 --> 00:11:45,505 …はい。 155 00:11:45,505 --> 00:11:54,213 裁判員の皆さん これは 押収したグレーテルの日記です。 156 00:11:54,213 --> 00:12:00,587 事件3か月前の記述を 読み上げます。 157 00:12:00,587 --> 00:12:06,259 「一枚だけど 金貨を家に持って帰った。➡ 158 00:12:06,259 --> 00:12:13,132 お父さんとお母さんが とても喜んで頭をなでてくれた。➡ 159 00:12:13,132 --> 00:12:17,837 とても うれしかった!」。 160 00:12:20,607 --> 00:12:23,509 その金貨を どうやって手に入れたかは➡ 161 00:12:23,509 --> 00:12:26,946 あえて聞きません。 162 00:12:26,946 --> 00:12:31,618 しかし 金貨1枚では 生活は楽にならず➡ 163 00:12:31,618 --> 00:12:37,290 とうとう あなたたちは 両親に捨てられた。 164 00:12:37,290 --> 00:12:42,629 恨んだんじゃないですか? 165 00:12:42,629 --> 00:12:47,300 なんとかして お父さんとお母さんと➡ 166 00:12:47,300 --> 00:12:50,970 また一緒に暮らしたいと 思いました。 167 00:12:50,970 --> 00:12:53,640 そんな時に出会った魔女が➡ 168 00:12:53,640 --> 00:12:57,510 山のような金貨を 持っている事を知った。 169 00:12:57,510 --> 00:13:01,247 あなたたちは 思ったのではありませんか? 170 00:13:01,247 --> 00:13:07,954 これだけあれば 両親と ずっと一緒に暮らす事ができると。 171 00:13:16,596 --> 00:13:21,467 帰る時まで知らなかったって 言ってんじゃん! 172 00:13:21,467 --> 00:13:24,470 終わります。 173 00:13:36,616 --> 00:13:41,954 裁判員の皆さん 魔女が人食いだという➡ 174 00:13:41,954 --> 00:13:46,292 ヘンゼルとグレーテルの話は 信用できません。 175 00:13:46,292 --> 00:13:50,963 これは 捨てられてもなお 親に愛されたい➡ 176 00:13:50,963 --> 00:13:56,302 その思いが暴走した 悲しい事件です。 177 00:13:56,302 --> 00:14:04,110 2人は 金貨を奪うために 魔女を殺したのです。 178 00:14:04,110 --> 00:14:11,250 裁判員の皆さん 2人は 人食いの魔女に襲われました。 179 00:14:11,250 --> 00:14:17,123 自分たちの身を守るためには 殺すしかなかったのです。 180 00:14:17,123 --> 00:14:22,261 これは 正当防衛であり 罪に問う事はできません。 181 00:14:22,261 --> 00:14:29,602 2人が償うべきは 出来心で金貨を盗んだ事だけです。 182 00:14:29,602 --> 00:14:34,273 これで全ての審理が終わりました。 183 00:14:34,273 --> 00:14:40,947 これから 裁判員の皆さんと 判決を話し合います。 184 00:14:40,947 --> 00:14:43,616 2人が犯した罪は➡ 185 00:14:43,616 --> 00:14:49,288 強盗殺人か? 単なる窃盗か? 186 00:14:49,288 --> 00:14:52,291 どっちなんだろう?