1 00:02:27,459 --> 00:02:30,963 ~ 2 00:02:30,963 --> 00:02:36,468 (無二斎)お前しか 今の わしを 助けてくれる者は おらんのじゃ。 3 00:02:36,468 --> 00:02:40,472 宮本武蔵殿… 小倉へ行って下され。 4 00:02:40,472 --> 00:02:47,479 <父 無二斎の願いに押されて 武蔵は 小倉に向かった。 5 00:02:47,479 --> 00:02:51,984 しかし 己が 闘わねばならないのは 6 00:02:51,984 --> 00:02:55,487 もつと 大きなものである事を 7 00:02:55,487 --> 00:03:00,492 武蔵は まだ 気づいていなかった> 8 00:03:00,492 --> 00:03:15,507 ~ (テーマ音楽) 9 00:03:15,507 --> 00:03:30,007 ~ 10 00:05:42,454 --> 00:05:45,958 <父に 二百石を与えるために 11 00:05:45,958 --> 00:05:50,462 武蔵は ひたすら 豊前小倉に向かって歩いた。 12 00:05:50,462 --> 00:05:55,968 初めて見た 弱い父… それは 武蔵に 衝撃を与えた。 13 00:05:55,968 --> 00:06:00,968 父は あれから どんな人生を生きてきたのだろう> 14 00:06:10,482 --> 00:06:14,987 <誰かに 仕えるつもりは なかった。 15 00:06:14,987 --> 00:06:20,492 己の腕を磨き 己よりも強い者に勝つ…。 16 00:06:20,492 --> 00:06:24,997 剣とは ただ それだけのものだった。 17 00:06:24,997 --> 00:06:27,933 父も 武芸者なのだ。 18 00:06:27,933 --> 00:06:30,936 剣は 己を磨くものでこそあれ 19 00:06:30,936 --> 00:06:35,941 仕官のためのものでは なかったはずだ。 20 00:06:35,941 --> 00:06:38,944 父にとって 剣とは 21 00:06:38,944 --> 00:06:41,944 体 何だったのか…> 22 00:06:51,457 --> 00:06:58,464 <その頃 豊前小倉で 敵なしと なっていた 佐々木小次郎の許に 23 00:06:58,464 --> 00:07:03,964 はるか 明の国からも 武芸者が 立ち合いを挑んできた> 24 00:07:42,441 --> 00:07:44,443 (小次郎)得物は? 25 00:07:44,443 --> 00:07:49,448 [ 通訳との会話 ] 26 00:07:49,448 --> 00:07:52,951 (通訳)「何でもよいか」と 申しております。 27 00:07:52,951 --> 00:07:57,956 お好きなものを。 28 00:07:57,956 --> 00:08:00,956 (通訳)「では これで」と 申しております。 29 00:08:07,966 --> 00:08:09,966 六尺。 (門弟)はっ。 30 00:08:14,473 --> 00:08:16,475 それで? 31 00:08:16,475 --> 00:08:20,975 俺は 見せ物めいた武芸は 嫌いなんだ。 32 00:08:30,422 --> 00:08:32,424 や~っ 33 00:08:32,424 --> 00:08:54,446 ~ 34 00:08:54,446 --> 00:08:56,448 あ~っ 35 00:08:56,448 --> 00:08:58,450 やっ 36 00:08:58,450 --> 00:09:00,452 やっ 37 00:09:00,452 --> 00:09:07,459 ~ 38 00:09:07,459 --> 00:09:09,459 お~っ 39 00:09:11,964 --> 00:09:13,966 あ~…。 40 00:09:13,966 --> 00:09:25,477 ~ 41 00:09:25,477 --> 00:09:29,915 (亜矢)宮本武蔵が 豊前に向かっております。 42 00:09:29,915 --> 00:09:31,917 (角兵衛) 「武蔵」が? 43 00:09:31,917 --> 00:09:36,922 細川忠興様に 仕官を するためだと思われます。 44 00:09:36,922 --> 00:09:38,924 何? 45 00:09:38,924 --> 00:09:40,926 忠興様は 46 00:09:40,926 --> 00:09:44,429 小次郎と 武蔵を 闘わせるおつもりです。 47 00:09:44,429 --> 00:09:48,433 今の 小次郎に 敵は いない。 48 00:09:48,433 --> 00:09:50,435 武蔵という者… 49 00:09:50,435 --> 00:09:53,438 そのような男では ありません。 50 00:09:53,438 --> 00:09:56,438 小次郎に 勝るというのか? 51 00:10:00,445 --> 00:10:02,447 柳生宗矩様は 52 00:10:02,447 --> 00:10:08,453 「これを 武芸者の 最後の 闘いにしてはどうか」と 53 00:10:08,453 --> 00:10:11,957 家康様に 進言なさる おつもりです。 54 00:10:11,957 --> 00:10:13,959 どういう事だ? 55 00:10:13,959 --> 00:10:16,962 「武芸者同士が 剣の腕を競う… 56 00:10:16,962 --> 00:10:19,965 もはや そのような 世ではない… 57 00:10:19,965 --> 00:10:24,469 それを 世に 広く 知らしめたい」と。 58 00:10:24,469 --> 00:10:27,406 「二人を 闘わせるにしても 59 00:10:27,406 --> 00:10:31,410 人目に立つ所で してはならぬ」と 60 00:10:31,410 --> 00:10:33,912 お達しなさる おつもりです。 61 00:10:33,912 --> 00:10:35,914 何のために? 62 00:10:35,914 --> 00:10:39,418 「二人の闘いは… 63 00:10:39,418 --> 00:10:42,921 相打ちで 終えるようにしろ」と。 64 00:10:42,921 --> 00:10:44,923 「相打ち」…? 65 00:10:44,923 --> 00:10:46,925 どちらが勝っても 66 00:10:46,925 --> 00:10:51,430 どちらも 生き延びる事は できぬという事です。 67 00:10:51,430 --> 00:10:57,430 ~ 68 00:11:16,955 --> 00:11:19,958 どうした? 69 00:11:19,958 --> 00:11:22,458 何か 話でも あるのか? 70 00:11:27,899 --> 00:11:31,903 子が… 産まれるかも しれませぬ。 71 00:11:31,903 --> 00:11:33,903 何? 72 00:11:38,410 --> 00:11:41,413 そうか…。 73 00:11:41,413 --> 00:11:44,416 子が 出来たか…。 74 00:11:44,416 --> 00:11:47,419 「時が 夫婦にする」…・ 75 00:11:47,419 --> 00:11:50,419 大殿様が そう 仰せでした。 76 00:11:52,424 --> 00:11:54,426 これからは・ 77 00:11:54,426 --> 00:11:58,430 宗矩様と しっかりと 夫婦になって・ 78 00:11:58,430 --> 00:12:01,430 生きていきたいと 思っております。 79 00:12:05,937 --> 00:12:08,940 よい子を 産んでくれ りん。 80 00:12:08,940 --> 00:12:10,940 はい。 81 00:12:44,476 --> 00:12:46,476 (染め師)何か? 82 00:12:48,480 --> 00:12:50,482 (宮本武蔵)いや…。 83 00:12:50,482 --> 00:12:53,485 あまり 美しい色なので・ 84 00:12:53,485 --> 00:12:57,989 つい 足を… 止めてしまった。 85 00:12:57,989 --> 00:13:00,992 この地の草木と 水と風が・ 86 00:13:00,992 --> 00:13:05,497 美しい色に 染め上げてくれるのです。 87 00:13:05,497 --> 00:13:10,502 よいでしょうか? もう少し 見せて頂いても。 88 00:13:10,502 --> 00:13:29,955 はあ どうぞ ごゆるりと。 89 00:13:29,955 --> 00:13:34,960 <美しい布が ふと お通の事を 思い出させる。・ 90 00:13:34,960 --> 00:13:38,964 お通は 江戸に戻っているのでは…。・ 91 00:13:38,964 --> 00:13:42,467 しかし 武蔵がしなければ ならぬのは・ 92 00:13:42,467 --> 00:13:46,467 前に向かって 歩み続ける事であった> 93 00:14:02,988 --> 00:14:04,988 藤次…。 94 00:14:28,446 --> 00:14:31,946 抜け… 武蔵。 95 00:14:38,456 --> 00:14:42,456 何をされます? お侍さん やめて下され 96 00:14:46,464 --> 00:14:48,464 ひゃ~っ 97 00:14:55,473 --> 00:14:59,477 無益な殺生は するな 藤次。 98 00:14:59,477 --> 00:15:01,977 やる気に なったか? 武蔵。 99 00:15:04,983 --> 00:15:08,486 己人で 生きようとする者に・ 100 00:15:08,486 --> 00:15:10,486 潔い死など 無縁だ。 101 00:15:12,991 --> 00:15:14,993 それが どうした? 102 00:15:14,993 --> 00:15:18,997 染め布が 風に どのように はためくか…? 103 00:15:18,997 --> 00:15:21,497 俺には よ~く 分かってる。 104 00:15:23,501 --> 00:15:27,001 この風が どちらに 味方するかな? 105 00:15:29,441 --> 00:15:35,447 お前が 尋常な相手じゃない事は よ~く 分かってるよ。 106 00:15:35,447 --> 00:15:38,450 己の利するものなら・ 107 00:15:38,450 --> 00:15:42,450 何でも 味方につけて 必死で生きていく。 108 00:15:47,459 --> 00:15:50,459 それが お前の生き方だろう? 109 00:16:00,472 --> 00:16:31,472 ・~ 110 00:17:17,982 --> 00:17:19,982 武蔵…。 111 00:17:31,429 --> 00:17:33,429 藤次…。 112 00:17:43,942 --> 00:17:45,942 これでいい。 113 00:18:24,983 --> 00:18:27,983 (朱実)ほら… いい物があるよ。 114 00:18:35,927 --> 00:18:38,429 これだって 細かく切れば・ 115 00:18:38,429 --> 00:18:42,433 壁土に混ぜる わらとして 普請場で売れる。 116 00:18:42,433 --> 00:18:45,937 端切れは 縫い合わせれば 布になる。 117 00:18:45,937 --> 00:18:49,440 落ちてる物は 皆 銭になるんだよ。 118 00:18:49,440 --> 00:18:52,443 (又八)日 地べたを 見て歩いても…・ 119 00:18:52,443 --> 00:18:55,446 借りた金は 返せねえよう…。 120 00:18:55,446 --> 00:18:57,448 又八さん 121 00:18:57,448 --> 00:18:59,450 この間の 瓜や茄子も・ 122 00:18:59,450 --> 00:19:02,453 漬物にしたら 飛ぶように 売れただろう 123 00:19:02,453 --> 00:19:05,456 お前は 強いな。 又八さんといるとね・ 124 00:19:05,456 --> 00:19:07,959 強くないと 生きていけないの 125 00:19:07,959 --> 00:19:09,959 はあ そうなのか? 126 00:19:26,911 --> 00:19:29,411 そんな所で 何やってんだよ? 127 00:19:31,416 --> 00:19:35,416 おもらいなら やる物なんか ないよ 128 00:19:40,925 --> 00:19:43,428 朱実…? 129 00:19:43,428 --> 00:19:46,431 おっ母さんらしい言い方。 130 00:19:46,431 --> 00:19:48,433 そこで 何してんだよ。 131 00:19:48,433 --> 00:19:51,436 落ちてる物を 拾ってるの。 132 00:19:51,436 --> 00:19:53,438 「落ちてる物」を? 133 00:19:53,438 --> 00:19:56,438 結構 いろんな物が 落ちてるんだよ。 134 00:19:58,443 --> 00:20:00,945 おっ母さんの 言ったとおり・ 135 00:20:00,945 --> 00:20:04,449 又八さん 文無しになったの。 136 00:20:04,449 --> 00:20:07,452 そういう定めなんだよ あの男は。 137 00:20:07,452 --> 00:20:12,457 でも 私 又八さんから 離れない。 138 00:20:12,457 --> 00:20:16,957 こうやって 又八さんを 助けるのが うれしいの。 139 00:20:18,963 --> 00:20:22,963 おっ母さんには 分からない気持かも…。 140 00:20:27,405 --> 00:20:31,409 ここ… おっ母さんの家かい? 141 00:20:31,409 --> 00:20:33,411 ああ。 142 00:20:33,411 --> 00:20:36,915 立派な家だね。 143 00:20:36,915 --> 00:20:38,917 そうかい。 144 00:20:38,917 --> 00:20:41,419 人で住んでるの? ああ。 145 00:20:41,419 --> 00:20:45,924 おっ母さんが 人で 生きていける訳ないだろう。 146 00:20:45,924 --> 00:20:48,426 出ていったんだよ 男は。 147 00:20:48,426 --> 00:20:50,428 捨てられたの? 148 00:20:50,428 --> 00:20:53,431 余計な お世話だよ。 149 00:20:53,431 --> 00:20:57,936 私たち また あばら家に移ったの。 150 00:20:57,936 --> 00:21:00,438 明神橋から すぐだから・ 151 00:21:00,438 --> 00:21:03,438 気が向いたら 訪ねてきてね。 152 00:21:09,948 --> 00:21:12,450 朱実…。 153 00:21:12,450 --> 00:21:14,450 待ちな。 154 00:21:35,907 --> 00:21:38,907 落ちてるんだよ。 拾っていきな。 155 00:21:41,412 --> 00:21:43,414 早く 拾わないと・ 156 00:21:43,414 --> 00:21:45,414 人に 持っていかれるよ。 157 00:21:47,418 --> 00:21:49,420 おっ母さん…。 158 00:21:49,420 --> 00:21:55,927 ・~ 159 00:21:55,927 --> 00:21:57,927 ありがとう。 160 00:21:59,931 --> 00:22:02,433 礼なんか 言われたくないね。 161 00:22:02,433 --> 00:22:04,936 あんたに やった訳じゃない。 162 00:22:04,936 --> 00:22:06,938 道に 捨てただけだよ。 163 00:22:06,938 --> 00:22:23,454 ・~ 164 00:22:23,454 --> 00:22:25,456 馬鹿な子だよ。 165 00:22:25,456 --> 00:22:30,461 ・~ 166 00:22:30,461 --> 00:22:33,965 な な 何だ…? 167 00:22:33,965 --> 00:22:35,967 今日の拾い物。 168 00:22:35,967 --> 00:22:37,969 ふ~ん…。 169 00:22:37,969 --> 00:22:39,971 これは…・ 170 00:22:39,971 --> 00:22:41,973 唐織りの帯だ 171 00:22:41,973 --> 00:22:44,473 うわ~っ 銀の 煙管 172 00:22:46,477 --> 00:22:48,479 おい おい…。 173 00:22:48,479 --> 00:22:50,481 この簪の玉は 珊瑚だ 174 00:22:50,481 --> 00:22:52,483 うわ~っ 175 00:22:52,483 --> 00:22:54,986 この香炉は 七宝だ 176 00:22:54,986 --> 00:22:57,488 うお~っ 177 00:22:57,488 --> 00:23:00,992 お前 盗んできたんじゃ ないだろうな? 178 00:23:00,992 --> 00:23:03,995 道に落ちてたの。 落ちてる訳ない 179 00:23:03,995 --> 00:23:05,997 落ちてたの。 どこの道に? 180 00:23:05,997 --> 00:23:07,999 どこだっていいよ。 181 00:23:07,999 --> 00:23:13,004 これを 銭に代えれば もう度 商いもできる。 182 00:23:13,004 --> 00:23:17,008 江戸はね いろんな人が 集まってくる町だよ。 183 00:23:17,008 --> 00:23:20,511 いろんな物が 落ちてるんだよ 184 00:23:20,511 --> 00:23:22,511 あ そう 落ちてたの? 185 00:23:28,453 --> 00:23:32,457 (権六)う~ん いい風じゃ。 186 00:23:32,457 --> 00:23:36,961 (お杉)目が覚めたか? 権爺。 187 00:23:36,961 --> 00:23:40,461 やっぱり 美作の風はいい。 188 00:23:42,467 --> 00:23:44,469 ええ…? 189 00:23:44,469 --> 00:23:47,469 滝の音がするぞ お杉。 190 00:23:49,974 --> 00:23:52,977 ああ そうじゃ。 191 00:23:52,977 --> 00:23:56,981 滝の裏を 上がっていくとな…・ 192 00:23:56,981 --> 00:24:00,485 松茸が取れる松林がある。 193 00:24:00,485 --> 00:24:03,488 誰も知らん場所だ。 194 00:24:03,488 --> 00:24:06,988 お前にだけは 教えるぞ。 195 00:24:08,993 --> 00:24:10,993 そうか そうか。 196 00:24:13,498 --> 00:24:18,503 子供の頃に 返っとるんじゃ 権爺は。 197 00:24:18,503 --> 00:24:20,505 (お通)どこかで・ 198 00:24:20,505 --> 00:24:24,008 病を治す心得のある者を 探してきます。 199 00:24:24,008 --> 00:24:25,943 待っていて下さい。 200 00:24:25,943 --> 00:24:29,447 お通…。 はい。 201 00:24:29,447 --> 00:24:33,447 この山中を 飛び出しても 無駄じゃ。 202 00:24:37,455 --> 00:24:40,955 よう ここまで 歩いてきた。 203 00:24:45,463 --> 00:24:50,963 よう ここまで 歩いてきたのう 権爺。 204 00:24:57,475 --> 00:25:03,481 わしが お前の分も歩いて・ 205 00:25:03,481 --> 00:25:05,981 美作に 帰ろうぞ。 206 00:25:07,985 --> 00:25:10,988 わしが お前の分も・ 207 00:25:10,988 --> 00:25:13,488 美作の水を 飲もうぞ。 208 00:25:15,993 --> 00:25:20,498 わしが お前の分も…・ 209 00:25:20,498 --> 00:25:23,498 美作の風に 吹かれようぞ。 210 00:25:28,439 --> 00:25:31,442 お前の分も…・ 211 00:25:31,442 --> 00:25:33,942 松茸を採ろうぞ。 212 00:25:40,451 --> 00:25:42,453 お前には・ 213 00:25:42,453 --> 00:25:44,953 苦労をかけたのう。 214 00:25:50,962 --> 00:25:53,464 許しておくれ…。 215 00:25:53,464 --> 00:25:57,468 わしを許しておくれ 権爺。 216 00:25:57,468 --> 00:26:02,468 なむあみだぶ…。 217 00:26:06,477 --> 00:26:09,480 <生まれてくる者がいれば・ 218 00:26:09,480 --> 00:26:12,483 死んでいく者もいる。・ 219 00:26:12,483 --> 00:26:15,987 限りある命を 与えられたからこそ・ 220 00:26:15,987 --> 00:26:20,491 人は 必死で 生きようとするのだろうか…> 221 00:26:20,491 --> 00:26:25,491 ・~ 222 00:26:31,435 --> 00:26:33,938 朱実 223 00:26:33,938 --> 00:26:36,440 どうだった? 224 00:26:36,440 --> 00:26:38,440 船を買うた。 「船」を? 225 00:26:40,444 --> 00:26:45,449 金に困った船主が 安く売りに出した船があった。 226 00:26:45,449 --> 00:26:50,454 あの拾い物を売ったら 船が買えるぐらいの銭になった。 227 00:26:50,454 --> 00:26:52,456 お前が拾ってきた物は・ 228 00:26:52,456 --> 00:26:55,459 並大抵の物ではなかった。 229 00:26:55,459 --> 00:27:00,464 どこで あんな 金めの物を拾ったんだ? 230 00:27:00,464 --> 00:27:02,967 船を買って どうするのよ? 231 00:27:02,967 --> 00:27:05,469 いいか… よく聞けよ。 232 00:27:05,469 --> 00:27:08,973 これからは 船が役に立つ 世の中だ。 233 00:27:08,973 --> 00:27:11,475 例えば…・ 234 00:27:11,475 --> 00:27:15,980 1, 000石の米を 馬で運ぶとする。 235 00:27:15,980 --> 00:27:18,482 パカパカ ヒヒヒ~ン…。 236 00:27:18,482 --> 00:27:22,486 1頭の馬に積めるのは 2俵だ。 237 00:27:22,486 --> 00:27:26,424 1, 000石だと 1, 000頭以上の馬が要る。 238 00:27:26,424 --> 00:27:28,426 それがな…・ 239 00:27:28,426 --> 00:27:32,430 1, 000石を 船で運ぶとなると…・ 240 00:27:32,430 --> 00:27:36,430 船 1隻で 事足りるんだなあ 241 00:27:38,436 --> 00:27:42,440 又八さん また 誰かに 騙されてんじゃないの? 242 00:27:42,440 --> 00:27:45,443 どうして 俺を 信用しないんだよ。 243 00:27:45,443 --> 00:27:47,945 心配なんだよ 又八さんは。 244 00:27:47,945 --> 00:27:52,450 ただな… 荷を積むには お上の許しが要る。 245 00:27:52,450 --> 00:27:57,455 届けを出さなければ たやすく 荷は運べねえのよ。 246 00:27:57,455 --> 00:28:00,458 どうするの? え? 247 00:28:00,458 --> 00:28:02,460 それを…・ 248 00:28:02,460 --> 00:28:04,462 今から 考えるんだ。 249 00:28:04,462 --> 00:28:06,464 そういうの…・ 250 00:28:06,464 --> 00:28:10,468 「盗っ人を捕まえてから 縄をなう」っていうの。 251 00:28:10,468 --> 00:28:13,471 お前… 盗っ人を やったんじゃ…? え? 252 00:28:13,471 --> 00:28:16,471 どこで あんな 金めの物を…? 253 00:28:21,479 --> 00:28:23,481 おっ母さんのとこ。 254 00:28:23,481 --> 00:28:26,917 うわ~っ お甲が 江戸に いるのか? 255 00:28:26,917 --> 00:28:29,420 お甲に あれを もらったのか? 256 00:28:29,420 --> 00:28:33,424 捨ててくれたの。 「捨ててくれた」? 257 00:28:33,424 --> 00:28:35,424 私の目の前にね。 258 00:28:43,934 --> 00:28:45,936 ここだよ。 259 00:28:45,936 --> 00:28:47,936 お~っ 260 00:28:53,944 --> 00:28:56,447 お~…。 261 00:28:56,447 --> 00:28:58,447 おっ母さん 262 00:29:05,956 --> 00:29:07,958 おっ母さん 263 00:29:07,958 --> 00:29:09,958 (女の声で)は~い。 264 00:29:14,965 --> 00:29:16,965 おっ母さん 265 00:29:18,969 --> 00:29:20,969 おっ母さん 266 00:29:32,917 --> 00:29:34,917 おっ母さ~ん 267 00:29:37,421 --> 00:29:40,424 おっ母さんが いなくなった。 268 00:29:40,424 --> 00:29:47,431 ・~ 269 00:29:47,431 --> 00:29:51,435 おっ母さんが どっかへ行っちまったよ 270 00:29:51,435 --> 00:29:57,441 (泣き声) 271 00:29:57,441 --> 00:30:24,941 ・~ 272 00:30:29,907 --> 00:30:35,412 <この道を曲がれば 美作に通じる峠に出る…。・ 273 00:30:35,412 --> 00:30:41,412 武蔵は 無性に ふるさとの地を 踏んでみたくなった> 274 00:31:01,438 --> 00:31:05,442 <吹き上げてくる風に 記憶があった。・ 275 00:31:05,442 --> 00:31:11,448 木々の匂いが… 土の匂いが よみがえってくる> 276 00:31:11,448 --> 00:31:17,454 ・~ 277 00:31:17,454 --> 00:31:20,457 <今は 何もない この土地に・ 278 00:31:20,457 --> 00:31:26,397 かつて 武蔵の住んでいた小屋があった。・ 279 00:31:26,397 --> 00:31:30,397 周りの森と 体になった住まいだった> 280 00:31:32,903 --> 00:31:37,903 <獣たちが 自分の仲間のように ここに やってきた> 281 00:31:41,912 --> 00:31:47,918 <あの頃 俺は 強くなる事しか 考えていなかった…> 282 00:31:47,918 --> 00:32:08,939 ・~ 283 00:32:08,939 --> 00:32:12,443 <森で 吹き荒れる 風の音を聞きながら・ 284 00:32:12,443 --> 00:32:18,949 「俺は 負けぬ」と 必死で 自分に 言い聞かせていた。・ 285 00:32:18,949 --> 00:32:22,453 その日々が 今になって思うと・ 286 00:32:22,453 --> 00:32:27,458 なんと 甘く 懐かしく思えてくる事だろう…> 287 00:32:27,458 --> 00:32:36,967 ・~ 288 00:32:36,967 --> 00:32:39,470 (物音) 289 00:32:39,470 --> 00:32:41,970 (村人1)お前は 誰だ 290 00:32:43,974 --> 00:32:48,479 この村で育った 武蔵と申す者だ。 291 00:32:48,479 --> 00:32:50,481 (村人2)「武蔵」…? 292 00:32:50,481 --> 00:32:52,483 宮本武蔵か? 293 00:32:52,483 --> 00:32:54,483 いかにも。 294 00:32:56,487 --> 00:32:59,987 武蔵じゃ。 この村にいた武蔵じゃ。 295 00:33:01,992 --> 00:33:03,994 そうか… 武蔵。 296 00:33:03,994 --> 00:33:06,997 お前 すっかり 偉くなったそうだの? 297 00:33:06,997 --> 00:33:10,000 いや。 (村人3)宮本武蔵じゃ。 298 00:33:10,000 --> 00:33:12,503 あの 宮本武蔵じゃ 299 00:33:12,503 --> 00:33:16,507 武蔵… 沢庵和尚が 来ておるぞ。 「和尚」? 300 00:33:16,507 --> 00:33:21,507 もう 3か月あまり 村のお堂を 守ってくれとる。 301 00:33:35,459 --> 00:33:38,462 和尚。 302 00:33:38,462 --> 00:33:40,964 和尚 303 00:33:40,964 --> 00:33:42,964 武蔵 304 00:33:45,969 --> 00:33:48,472 おう…。 305 00:33:48,472 --> 00:33:52,976 村の人に 和尚がいると聞いて 驚きました。 306 00:33:52,976 --> 00:33:54,978 どうした? 武蔵。 307 00:33:54,978 --> 00:33:59,483 いや ここでは やはり 武蔵かの? 308 00:33:59,483 --> 00:34:01,485 はい。 309 00:34:01,485 --> 00:34:05,489 来い 村の人に もらった物もある。 310 00:34:05,489 --> 00:34:07,489 武蔵 はい。 311 00:34:10,994 --> 00:34:12,994 「細川家に仕官」…? 312 00:34:14,998 --> 00:34:19,002 あれほど 「仕官せぬ」と 言い張ったではないか? 313 00:34:19,002 --> 00:34:21,505 はい。 314 00:34:21,505 --> 00:34:23,505 心が変わったのか? 315 00:34:29,947 --> 00:34:32,950 父に頼まれました。 316 00:34:32,950 --> 00:34:35,953 「父上」? 317 00:34:35,953 --> 00:34:42,459 父は 豊前で 武芸指南を しているそうです。 318 00:34:42,459 --> 00:34:45,462 細川家の重臣に頼まれて・ 319 00:34:45,462 --> 00:34:48,962 京まで 私に 会いに来ました。 320 00:34:50,968 --> 00:34:55,973 私が 細川家に 仕官をすれば・ 321 00:34:55,973 --> 00:34:58,473 二百石 もらえるのだと。 322 00:35:01,478 --> 00:35:03,981 江戸で お前は わしに言うたな…。 323 00:35:03,981 --> 00:35:11,481 「この小さな小屋を 百石 二百石と 引き換えるつもりはない」と。 324 00:35:13,490 --> 00:35:20,497 「子供たちに 字を教え 共に 絵を描く日々が・ 325 00:35:20,497 --> 00:35:25,497 俺にとって 掛けがえのない 大切な日々だ」と。 326 00:35:28,939 --> 00:35:34,945 「剣は 己で磨いていくもの…。・ 327 00:35:34,945 --> 00:35:37,447 人に教えるものはない」・ 328 00:35:37,447 --> 00:35:39,950 …と お前は言うた。 329 00:35:39,950 --> 00:35:41,952 はい。 330 00:35:41,952 --> 00:35:43,954 あの言葉は…・ 331 00:35:43,954 --> 00:35:47,954 ただ あの時だけの ものじゃったのか? 332 00:35:50,460 --> 00:35:55,460 あの時の あの言葉で わしは 生き方を変えた。 333 00:35:58,969 --> 00:36:00,971 権勢に近づく事で・ 334 00:36:00,971 --> 00:36:06,971 わしにも 人のために できる事があるのでは と思うた。 335 00:36:08,979 --> 00:36:10,981 権勢に擦り寄り・ 336 00:36:10,981 --> 00:36:14,985 おもねる事しか知らぬ 僧ばかり 増えては・ 337 00:36:14,985 --> 00:36:18,989 ろくな世には ならん。 338 00:36:18,989 --> 00:36:21,491 わしに できる事があれば・ 339 00:36:21,491 --> 00:36:26,491 己の手を汚す事を 厭うてはいかんと思うた。 340 00:36:28,432 --> 00:36:30,934 お前が 教えてくれて・ 341 00:36:30,934 --> 00:36:34,934 わしは 僧本来の道に 戻る事ができた。 342 00:36:43,447 --> 00:36:45,447 お通は どうする? 343 00:36:48,452 --> 00:36:51,455 人とともに生きる事が・ 344 00:36:51,455 --> 00:36:53,457 お前にとって・ 345 00:36:53,457 --> 00:36:57,461 何よりも 大切な事では なかったのか? 346 00:36:57,461 --> 00:37:42,940 ・~ 347 00:37:42,940 --> 00:37:46,443 私が…・ 348 00:37:46,443 --> 00:37:49,443 お通を 信じ切れませんでした。 349 00:37:51,448 --> 00:37:54,451 お前を 責めておるのではない。 350 00:37:54,451 --> 00:37:57,955 お前の心を 問うておる。 351 00:37:57,955 --> 00:38:02,459 和尚に 偉そうな事を言いながら・ 352 00:38:02,459 --> 00:38:07,464 柳生から 戻ってこない お通を・ 353 00:38:07,464 --> 00:38:11,468 待つ事が できなかった。 354 00:38:11,468 --> 00:38:13,968 それで 江戸を出たんです。 355 00:38:18,475 --> 00:38:23,981 道中… 園藤次という男と 立ち合いました。 356 00:38:23,981 --> 00:38:27,981 吉岡の 剣術指南をしていた男です。 357 00:38:29,920 --> 00:38:32,422 その男から…・ 358 00:38:32,422 --> 00:38:36,927 いま度 剣を持って生きる者の・ 359 00:38:36,927 --> 00:38:39,927 必死の心を 伝えられました。 360 00:38:45,936 --> 00:38:50,941 剣とは 何か…? 361 00:38:50,941 --> 00:38:54,444 女とは…? 362 00:38:54,444 --> 00:38:56,444 父とは…? 363 00:39:01,451 --> 00:39:04,955 今の私には 分からない。 364 00:39:04,955 --> 00:39:09,459 ただ ただ 迷いながら…・ 365 00:39:09,459 --> 00:39:12,459 ここまで 歩んできたんです。 366 00:39:16,466 --> 00:39:21,972 ここ 美作に 立ち寄ったのも・ 367 00:39:21,972 --> 00:39:24,474 己の してきた事が・ 368 00:39:24,474 --> 00:39:29,913 果たして よいのか どうか…・ 369 00:39:29,913 --> 00:39:32,913 問うてみたかったからです。 370 00:39:36,920 --> 00:39:38,920 ・(動物の鳴く声) 371 00:39:40,924 --> 00:39:42,924 あれは? 372 00:39:45,429 --> 00:39:48,429 鹿の 鳴く声です。 373 00:39:51,435 --> 00:39:56,940 心が 穏やかなら…・ 374 00:39:56,940 --> 00:40:01,440 遠くの 山の木の 鳴く声も聞こえる。 375 00:40:03,447 --> 00:40:05,949 「木の 鳴く声」? 376 00:40:05,949 --> 00:40:07,949 はい。 377 00:40:09,953 --> 00:40:13,457 心が…・ 378 00:40:13,457 --> 00:40:15,959 穏やかであれば…。 379 00:40:15,959 --> 00:40:24,468 ・~ 380 00:40:24,468 --> 00:40:27,904 のう 武蔵…。 381 00:40:27,904 --> 00:40:31,908 わしもな…・ 382 00:40:31,908 --> 00:40:35,412 己の やってる事が…・ 383 00:40:35,412 --> 00:40:39,416 果たして よいのか どうか・ 384 00:40:39,416 --> 00:40:41,416 迷う事がある。 385 00:40:56,933 --> 00:40:59,936 諸国を 行脚していても・ 386 00:40:59,936 --> 00:41:02,939 「こんな事を している時ではない。・ 387 00:41:02,939 --> 00:41:07,444 もっと ほかに 人のためになる事がある」・ 388 00:41:07,444 --> 00:41:09,444 …と思うのじゃ。 389 00:41:11,448 --> 00:41:13,450 じゃがの 武蔵。 390 00:41:13,450 --> 00:41:19,456 わしにとって その 迷う心が 大切なのじゃ。 391 00:41:19,456 --> 00:41:21,456 いとおしいのじゃ。 392 00:41:26,396 --> 00:41:31,401 身つで 諸国を行脚しておると・ 393 00:41:31,401 --> 00:41:36,406 たまらなく ひもじい思いをする事もある。 394 00:41:36,406 --> 00:41:41,411 だが その ひもじさを 知らばこそ・ 395 00:41:41,411 --> 00:41:46,411 施してもろうた 杯の 粥のうまさが分かるのだ。 396 00:41:49,920 --> 00:41:52,923 迷え 武蔵。 397 00:41:52,923 --> 00:41:54,925 迷え。 398 00:41:54,925 --> 00:41:57,925 迷え… 迷え。 399 00:42:00,931 --> 00:42:03,433 父上の事で迷い…・ 400 00:42:03,433 --> 00:42:05,936 お通の事で迷い…・ 401 00:42:05,936 --> 00:42:07,936 剣の事で迷う。 402 00:42:09,940 --> 00:42:12,442 それが お前の・ 403 00:42:12,442 --> 00:42:14,442 生きる道じゃ。 404 00:42:18,448 --> 00:42:21,451 迷う事は…・ 405 00:42:21,451 --> 00:42:24,451 人の心を 広くしてくれる。 406 00:42:28,458 --> 00:42:32,963 迷う心を 持てなくなった時…・ 407 00:42:32,963 --> 00:42:35,966 人は 生きる事を やめるのじゃ。 408 00:42:35,966 --> 00:43:11,501 ・~ 409 00:43:11,501 --> 00:43:15,505 (女)和尚様… どうぞ お召し上がり下さい。 410 00:43:15,505 --> 00:43:47,971 ・~ 411 00:43:47,971 --> 00:43:52,475 <武蔵は 豊前小倉に向かった。・ 412 00:43:52,475 --> 00:43:56,980 そこで 待ち受けているものは 何なのか…・ 413 00:43:56,980 --> 00:44:01,484 武蔵には まだ 分かっては いなかった…> 414 00:44:01,484 --> 00:44:05,484 ・~