1 00:00:33,968 --> 00:00:35,903 (猫の鳴き声) 2 00:00:35,903 --> 00:00:53,354 ♬~ 3 00:00:53,354 --> 00:00:56,357 (テル)旦那様! ベリーグッドでございますよ! 4 00:00:56,357 --> 00:00:58,493 (金之助)男か? 女か? 5 00:00:58,493 --> 00:01:00,993 後ん方ですたい。 6 00:01:06,367 --> 00:01:17,512 (赤ちゃんの泣き声) 7 00:01:17,512 --> 00:01:20,414 (房子)<結婚して 3年目の春➡ 8 00:01:20,414 --> 00:01:24,185 夏目家に第1子が誕生しました> 9 00:01:24,185 --> 00:01:26,521 (赤ちゃんの泣き声) 10 00:01:26,521 --> 00:01:30,691 <女の子で 筆子と名付けられました> 11 00:01:30,691 --> 00:01:32,960 (鏡子) 駄目ですよ そんなに泣かせちゃ。 12 00:01:32,960 --> 00:01:36,831 ほら おいで。 は~い。 13 00:01:36,831 --> 00:01:39,300 は~い。 は~い。 14 00:01:39,300 --> 00:01:41,636 (泣き声) 15 00:01:41,636 --> 00:01:45,636 (テル)奥様 いかんですよ そっじゃ。 16 00:01:47,441 --> 00:01:49,377 (泣き声) 17 00:01:49,377 --> 00:01:53,347 よしよし。 よしよしよし。 18 00:01:53,347 --> 00:01:57,185 よしよしよし。 フフッ。➡ 19 00:01:57,185 --> 00:01:59,187 ほら。➡ 20 00:01:59,187 --> 00:02:03,491 フフッ よしよしよし。 21 00:02:03,491 --> 00:02:08,362 おい 取り返せ。 赤ん坊は抱く者に似るというぞ。 22 00:02:08,362 --> 00:02:12,500 テルみたいに色が黒くなっては かなわんぞ。 23 00:02:12,500 --> 00:02:16,000 似ますか? 似るんだ。 24 00:02:21,008 --> 00:02:23,911 はいはい。 は~いはいはい。 はい おいで。 25 00:02:23,911 --> 00:02:26,514 は~い。 26 00:02:26,514 --> 00:02:28,449 (泣き声) 27 00:02:28,449 --> 00:02:32,320 (テル)だけん うちが…。 28 00:02:32,320 --> 00:02:34,322 (2人)ばあ! 29 00:02:34,322 --> 00:02:37,625 <鏡子さんは幸せでした。➡ 30 00:02:37,625 --> 00:02:44,825 しかし その幸せは つかの間の 夢のようなものでした> 31 00:02:48,803 --> 00:02:51,305 <翌年6月。➡ 32 00:02:51,305 --> 00:02:56,143 金之助さんは 文部省から 英語研究のため➡ 33 00:02:56,143 --> 00:03:01,015 イギリスへ留学するよう 命じられたのです。➡ 34 00:03:01,015 --> 00:03:05,715 その期間は 2年と定められていました> 35 00:03:16,163 --> 00:03:21,035 <鏡子さんと金之助さんは 筆子ちゃんを連れ➡ 36 00:03:21,035 --> 00:03:25,673 4年間過ごした熊本を 後にしました> 37 00:03:25,673 --> 00:03:29,510 白縮シャツ… あった。 38 00:03:29,510 --> 00:03:31,545 <留学中の2年間➡ 39 00:03:31,545 --> 00:03:33,481 鏡子さんと筆子ちゃんは➡ 40 00:03:33,481 --> 00:03:38,319 実家の中根家で 暮らす事になったのです> 41 00:03:38,319 --> 00:03:41,155 アルパカ背広…。 42 00:03:41,155 --> 00:03:45,855 アルパカ背広。 冬背広。 43 00:03:47,628 --> 00:03:52,133 うん? プジヤマ? 44 00:03:52,133 --> 00:03:55,036 プジヤマ? プジ…。 45 00:03:55,036 --> 00:03:58,806 おい! おい! 急げ! 46 00:03:58,806 --> 00:04:01,006 もうすぐ荷物を取りに来る。 47 00:04:02,977 --> 00:04:05,479 おい 何 情けない顔してるんだ。 48 00:04:05,479 --> 00:04:08,316 だって… 分からないものがあるんです。 49 00:04:08,316 --> 00:04:12,186 ここに書いてある プジヤマって 何ですか? 50 00:04:12,186 --> 00:04:14,188 あなた ご自分は分かって➡ 51 00:04:14,188 --> 00:04:16,991 書いてらっしゃるんでしょうけど 私は 横文字のものは➡ 52 00:04:16,991 --> 00:04:20,328 何が何だか…。 53 00:04:20,328 --> 00:04:24,498 プジャマ。 寝巻きの事だ。 54 00:04:24,498 --> 00:04:27,535 ああ! 寝巻き! 55 00:04:27,535 --> 00:04:30,838 ありました! 3着。 56 00:04:30,838 --> 00:04:33,741 生活費の事は分かったな。 57 00:04:33,741 --> 00:04:39,113 国費留学生の家族には 月々25円の生活費が支給される。 58 00:04:39,113 --> 00:04:41,048 そういう事ですね。 59 00:04:41,048 --> 00:04:44,748 それで 私と筆子と女中の3人が…。 60 00:04:46,854 --> 00:04:50,725 熊本を出る時 父から借りた引っ越し費用➡ 61 00:04:50,725 --> 00:04:52,660 あなたの留学費から 返して頂けますか? 62 00:04:52,660 --> 00:04:57,131 それは無理だ。 国は 1,800円をよこすが➡ 63 00:04:57,131 --> 00:04:59,967 ロンドンの物価は 日本の10倍以上だという。 64 00:04:59,967 --> 00:05:01,902 想像しただけで頭が痛い。 65 00:05:01,902 --> 00:05:04,638 私だって 頭が痛いです。 66 00:05:04,638 --> 00:05:07,541 おなかの子が 来年早々には生まれますし➡ 67 00:05:07,541 --> 00:05:10,811 そういう費用も…。 義父上に借りておけばいいだろう。 68 00:05:10,811 --> 00:05:12,847 2年後に まとめて返せばいいんだ。 69 00:05:12,847 --> 00:05:14,982 そうはおっしゃいますけど…。 70 00:05:14,982 --> 00:05:17,018 俺だって 行きたくて行く訳じゃない! 71 00:05:17,018 --> 00:05:19,653 留学の課題が 英文学の研究ではなく➡ 72 00:05:19,653 --> 00:05:21,589 ただの英語研究だぞ! 73 00:05:21,589 --> 00:05:23,524 だったら お断りになればよかったのに…。 74 00:05:23,524 --> 00:05:27,328 君の父上が 裏から手を回してくれたんだ。 75 00:05:27,328 --> 00:05:29,363 洋行帰りは箔が付く。 76 00:05:29,363 --> 00:05:31,499 熊本から抜け出せるかもしれない。 77 00:05:31,499 --> 00:05:35,936 俺の事… いや 君の事を思っての事だ。 78 00:05:35,936 --> 00:05:38,606 ありがたくお受けするほか あるまい。 79 00:05:38,606 --> 00:05:41,108 人のせいにしないで下さい。 80 00:05:41,108 --> 00:05:43,611 ご自分だって 行きたかったんでしょ。 81 00:05:43,611 --> 00:05:46,280 行って研究した事を 文部省に報告すれば➡ 82 00:05:46,280 --> 00:05:49,316 博士にもなれるって。 83 00:05:49,316 --> 00:05:52,086 博士になる!? 84 00:05:52,086 --> 00:05:55,623 そんな浅はかな目的で 行くんじゃない! 85 00:05:55,623 --> 00:05:59,126 博士になる事が浅はかですか? いいか? 86 00:05:59,126 --> 00:06:01,462 僕が行く以上 見てきたいのは➡ 87 00:06:01,462 --> 00:06:05,462 日本が追随してきた 西洋文明の厚化粧の奥の…。 88 00:06:09,804 --> 00:06:12,306 よそう。 よさないで下さい。 89 00:06:12,306 --> 00:06:15,810 君に言っても無駄だ。 無駄かどうかおっしゃって下さい。 90 00:06:15,810 --> 00:06:17,745 たまには私にだって 分かる事もあるんです! 91 00:06:17,745 --> 00:06:19,680 君が分かったところで どうなるんだ!? 92 00:06:19,680 --> 00:06:21,682 金之助君。 ≪はい! 93 00:06:21,682 --> 00:06:23,684 馬車が 着いたぞ。 ちょっと➡ 94 00:06:23,684 --> 00:06:27,321 待たせておいて下さい。 あっ ああ 私が行きます。 95 00:06:27,321 --> 00:06:29,821 離せ! ああっ! 96 00:06:31,492 --> 00:06:34,095 ちょっと…。 時間がない。 97 00:06:34,095 --> 00:06:36,095 待っ…。 98 00:06:39,433 --> 00:06:44,133 お前たち 何を言い合っているんだ。 99 00:06:46,774 --> 00:06:51,445 だって…➡ 100 00:06:51,445 --> 00:06:53,945 行ってほしくないから。 101 00:06:58,786 --> 00:07:01,086 2年も…。 102 00:07:02,957 --> 00:07:05,757 2年も知らない国へ。 103 00:07:18,439 --> 00:07:23,344 <明治33年9月。➡ 104 00:07:23,344 --> 00:07:28,144 金之助さんは イギリスへ旅立ちました> 105 00:07:40,094 --> 00:07:42,997 <金之助さんが 鏡子さんに➡ 106 00:07:42,997 --> 00:07:45,297 残した一句です> 107 00:07:47,434 --> 00:07:49,434 冬背広! 108 00:07:54,308 --> 00:07:58,445 はいはい。 フフッ。 うん? どうした? 109 00:07:58,445 --> 00:08:00,381 筆子お嬢様! 110 00:08:00,381 --> 00:08:03,317 <金之助さんが イギリスへ留学してから➡ 111 00:08:03,317 --> 00:08:05,617 1年がたちました> 112 00:08:07,621 --> 00:08:11,492 <鏡子さんは 次女の恒子ちゃんも生まれ➡ 113 00:08:11,492 --> 00:08:16,192 子ども2人を抱えた てんてこまいの生活でした> 114 00:08:21,135 --> 00:08:23,135 はい。 115 00:08:26,473 --> 00:08:28,473 すみません。 116 00:08:30,344 --> 00:08:35,044 また ロンドンからだ。 117 00:08:38,419 --> 00:08:41,322 返事 なかなか書けなくて…。 118 00:08:41,322 --> 00:08:45,322 手紙が来る度 ドキンとなります。 119 00:08:47,094 --> 00:08:49,094 書いた方がいい。 120 00:08:52,766 --> 00:08:59,640 最近 向こうで 噂の種にされてるそうだ。 121 00:08:59,640 --> 00:09:01,775 噂? 122 00:09:01,775 --> 00:09:07,948 うん。 お前が 何か月も 返事を出さないで➡ 123 00:09:07,948 --> 00:09:12,620 遊びほうけているとか そういう噂だ。 124 00:09:12,620 --> 00:09:15,522 何ですか それは。 125 00:09:15,522 --> 00:09:20,961 ロンドンの金之助君が 日本人の仲間に こぼしてるっていうんだ。 126 00:09:20,961 --> 00:09:24,161 あの人が… 私の事を? 127 00:09:26,300 --> 00:09:33,741 お前は 向こうでは 立派な悪妻で通ってるそうだ。 128 00:09:33,741 --> 00:09:35,676 はあ…。 129 00:09:35,676 --> 00:09:39,413 私は その類いの噂は気にしない。 130 00:09:39,413 --> 00:09:42,082 多少は 当たってるしな。 131 00:09:42,082 --> 00:09:45,419 はあ? ハッハッハッハッ。 132 00:09:45,419 --> 00:09:50,090 しかし 気になるのは➡ 133 00:09:50,090 --> 00:09:54,261 そういう事を仲間にしゃべる 金之助君だ。 134 00:09:54,261 --> 00:10:00,067 「少し 神経衰弱気味ではないか」と 言う者もいる。 135 00:10:00,067 --> 00:10:04,905 神経衰弱? うん。 136 00:10:04,905 --> 00:10:06,840 最近は下宿に籠もりきりで➡ 137 00:10:06,840 --> 00:10:10,040 何をやってるのか 誰も分からないそうだ。 138 00:10:12,646 --> 00:10:17,146 まあ 留学生には よくある話だ。 139 00:10:20,387 --> 00:10:24,325 寂しいのだ。 140 00:10:24,325 --> 00:10:29,525 だから… 手紙は書いてやれ。 141 00:10:32,966 --> 00:10:38,639 申し訳ありません。 ご心配かけて。 142 00:10:38,639 --> 00:10:45,512 気にするな。 神経衰弱など 誰でもかかるさ。 143 00:10:45,512 --> 00:10:49,149 近頃では おっかさんも怪しい。 144 00:10:49,149 --> 00:10:54,321 朝起きては疲れた。 飯を食っては疲れた。 145 00:10:54,321 --> 00:10:58,192 一日 疲れたばかり言っておる。 146 00:10:58,192 --> 00:11:01,892 お母様は お父様を 案じていらっしゃるのですよ。 147 00:11:14,007 --> 00:11:20,514 昨日 私におっしゃっていました。 148 00:11:20,514 --> 00:11:27,287 今度の桂内閣は お父様をお嫌いな 大臣ばかりだから➡ 149 00:11:27,287 --> 00:11:30,987 いよいよ お立場が 危ないかもしれないって。 150 00:11:36,296 --> 00:11:40,167 当たりだな。 151 00:11:40,167 --> 00:11:45,806 来月で 全ての官職を解かれる事になる。 152 00:11:45,806 --> 00:11:50,310 しばらくは 浪人暮らしだ。 153 00:11:50,310 --> 00:11:53,647 だが おっかさんには ないしょだぞ。 154 00:11:53,647 --> 00:11:57,447 卒倒されてはかなわん。 ハッハッハッ。 155 00:12:05,159 --> 00:12:09,496 (泣き声) 156 00:12:09,496 --> 00:12:12,166 <私は このころから➡ 157 00:12:12,166 --> 00:12:15,669 休日には 鏡子さんのお手伝いをするため➡ 158 00:12:15,669 --> 00:12:19,173 中根家を 訪れるようになっていました> 159 00:12:19,173 --> 00:12:23,173 こんにちは。 あっ いらっしゃい。 160 00:12:24,845 --> 00:12:27,681 <中根のおじ様が職を失い➡ 161 00:12:27,681 --> 00:12:31,018 鏡子さんも 援助を受けられなくなって➡ 162 00:12:31,018 --> 00:12:36,018 少しずつ 厳しい暮らしに なっている様子でした> 163 00:12:38,292 --> 00:12:43,130 「書状 拝見致し候。➡ 164 00:12:43,130 --> 00:12:48,830 金が足りなくて ご不自由 これもお察し申す」。 165 00:12:50,804 --> 00:12:56,977 「しかし 因果と諦めて 辛抱しなさい。➡ 166 00:12:56,977 --> 00:13:03,484 人間は 生きて苦しむための 動物かもしれない」。 167 00:13:03,484 --> 00:13:08,355 (子規)「かくすったのもんだのと 騒いで➡ 168 00:13:08,355 --> 00:13:12,993 生涯暮らすものに候」。 169 00:13:12,993 --> 00:13:19,666 フフッ フッフッフッ…。 170 00:13:19,666 --> 00:13:22,866 夏目らしい手紙じゃのう。 171 00:13:31,278 --> 00:13:35,115 奥さん 心配せられん。 172 00:13:35,115 --> 00:13:38,619 これだけの手紙が書けて➡ 173 00:13:38,619 --> 00:13:40,954 こがいな きれいな本を あしに持っていけと➡ 174 00:13:40,954 --> 00:13:44,625 送ってくれたんぞな。 175 00:13:44,625 --> 00:13:48,125 神経衰弱には できん事じゃ。 176 00:13:50,497 --> 00:13:55,335 正岡様は 夏目とは 古いおつきあいですから➡ 177 00:13:55,335 --> 00:13:58,472 よくご存じなのでしょうが➡ 178 00:13:58,472 --> 00:14:02,643 私などは 不安になってしまいます。 179 00:14:02,643 --> 00:14:04,943 どんなところが? 180 00:14:07,147 --> 00:14:11,652 文部省の方から お聞きしたのですが➡ 181 00:14:11,652 --> 00:14:15,522 イギリスでの研究の成果を 書いて送れと➡ 182 00:14:15,522 --> 00:14:19,159 夏目に伝えたところ➡ 183 00:14:19,159 --> 00:14:23,664 ただの白紙が送られてきたとか。 184 00:14:23,664 --> 00:14:26,964 省内では 問題になっているそうです。 185 00:14:29,002 --> 00:14:34,002 このところ そういう話ばかりで…。 186 00:14:36,610 --> 00:14:40,480 ふっ! うっ う~ん…。 187 00:14:40,480 --> 00:14:43,283 律 起こしてくれ…。 188 00:14:43,283 --> 00:14:46,620 うっ あっ 痛い痛い痛い痛い…! 189 00:14:46,620 --> 00:14:50,123 もうええ あっちへ行っとれ! 190 00:14:50,123 --> 00:14:52,123 (律)わがままでしょ。 191 00:15:03,136 --> 00:15:05,172 (子規)ご存じじゃろうが➡ 192 00:15:05,172 --> 00:15:09,476 夏目は生まれてすぐ 里子に出された男ぞな。 193 00:15:09,476 --> 00:15:13,814 まあ言うたら 親に捨てられた子じゃ。 194 00:15:13,814 --> 00:15:20,314 親と言わず 他人に対し 何とも言えん 敵愾心がある。 195 00:15:22,322 --> 00:15:26,822 あしは こう見えても武家の出 士族じゃ。 196 00:15:28,495 --> 00:15:34,768 夏目の家は 名主までやった立派な家じゃが➡ 197 00:15:34,768 --> 00:15:36,768 町人ぞな。 198 00:15:38,438 --> 00:15:41,438 夏目は そういうところを 気にするんじゃ。 199 00:15:43,276 --> 00:15:48,949 身分が違たり 対等でない目上の者に対し➡ 200 00:15:48,949 --> 00:15:51,949 目に見えん 敵愾心がある。 201 00:15:53,620 --> 00:15:55,920 あしですら それを感じる。 202 00:15:58,291 --> 00:16:03,964 しかし イギリス人相手じゃ 苦労するじゃろう。 203 00:16:03,964 --> 00:16:09,164 相手は 1等国 目上も目上じゃ。 204 00:16:11,138 --> 00:16:16,138 私は どうすればいいんでしょうか? 205 00:16:20,647 --> 00:16:26,520 帰ってきたら 優しゅうしてやって下さい。 206 00:16:26,520 --> 00:16:29,356 夏目に必要なんは➡ 207 00:16:29,356 --> 00:16:34,761 一分の敵愾心も持たず 話せる相手じゃ。 208 00:16:34,761 --> 00:16:39,061 それは 奥さん あなたしかおらん。 209 00:17:04,458 --> 00:17:12,132 ♬~ 210 00:17:12,132 --> 00:17:15,932 <明治36年1月> 211 00:17:18,472 --> 00:17:23,977 <金之助さんが 2年半ぶりに帰国しました> 212 00:17:23,977 --> 00:17:55,909 ♬~ 213 00:17:55,909 --> 00:18:00,614 畳表を裏返した方がいいな。 214 00:18:00,614 --> 00:18:02,614 汚れがひどい。 215 00:18:10,791 --> 00:18:13,491 女中も必要だな。 216 00:18:15,462 --> 00:18:18,799 (重一)金之助君。 217 00:18:18,799 --> 00:18:24,304 親戚連中が 挨拶をしたいと言って 来ている。 218 00:18:24,304 --> 00:18:28,642 洋行帰りの雄姿を 一目 見せてやってくれないか。 219 00:18:28,642 --> 00:18:31,478 (倫) ご帰国 おめでとうございます! 220 00:18:31,478 --> 00:18:35,081 (一同)お帰りなさいませ! 221 00:18:35,081 --> 00:18:38,118 少し休ませて下さい。 222 00:18:38,118 --> 00:18:40,420 そのあとで。 223 00:18:40,420 --> 00:18:52,720 ♬~ 224 00:19:18,458 --> 00:19:20,958 そんなに金がないのか。 225 00:19:23,630 --> 00:19:30,330 義父上に もう少し援助を頼む事は できなかったのか。 226 00:19:32,739 --> 00:19:41,939 手紙にも書きましたが 父は 失職中で…。 227 00:19:44,351 --> 00:19:49,756 おまけに 相場に手を出していて➡ 228 00:19:49,756 --> 00:19:56,056 最近 九州の炭鉱の株で 大やけどをして…。 229 00:19:57,631 --> 00:20:02,131 あちこちから 高利のお金を 借りているらしいのです。 230 00:20:08,141 --> 00:20:14,141 なので とても助けてくれとは…。 231 00:20:23,456 --> 00:20:26,793 申し訳ありません。 232 00:20:26,793 --> 00:20:34,968 じゃあ… 熊本へ戻って➡ 233 00:20:34,968 --> 00:20:38,968 また 教師を続けるしかないのか。 234 00:20:42,475 --> 00:20:49,175 俺はね ロンドンでよく分かった。 235 00:20:51,484 --> 00:20:58,992 英語の勉強も 教師をする事も➡ 236 00:20:58,992 --> 00:21:02,792 自分には向いてないって事がね。 237 00:21:08,001 --> 00:21:12,501 イギリス人の母国語を学ぶ事に 何の意味があるんだ! 238 00:21:20,013 --> 00:21:22,013 俺は…。 239 00:21:25,685 --> 00:21:27,885 もう疲れた…。 240 00:21:29,856 --> 00:21:34,127 ああ…。 241 00:21:34,127 --> 00:21:37,827 ああ 10万円欲しい。 242 00:21:40,467 --> 00:21:45,638 10万円あったら遊んで暮らせるぞ。 243 00:21:45,638 --> 00:21:50,143 仕事もせず 熊本へも帰らず➡ 244 00:21:50,143 --> 00:21:52,643 好きな事をしてな。 245 00:21:55,015 --> 00:21:58,015 10万円あったらな。 246 00:22:07,160 --> 00:22:12,665 私だって欲しいです 10万円。 247 00:22:12,665 --> 00:22:14,601 欲しいか。 248 00:22:14,601 --> 00:22:20,340 遊んで暮らしたいです。 何にもしないで。 249 00:22:20,340 --> 00:22:23,009 10万円あればな。 250 00:22:23,009 --> 00:22:25,678 あ~ 欲しい欲しい! 251 00:22:25,678 --> 00:22:29,015 仕事なんかしないぞ。 252 00:22:29,015 --> 00:22:31,684 10万円 欲しい! 253 00:22:31,684 --> 00:22:35,288 欲しいぞ! ハハハハハッ。 254 00:22:35,288 --> 00:22:37,624 欲しい! 255 00:22:37,624 --> 00:22:40,527 10万円 欲しいぞ! ハハハハハッ。 256 00:22:40,527 --> 00:22:43,296 欲しいぞ! 257 00:22:43,296 --> 00:22:47,467 働かないぞ~! ハハハハハッ。 258 00:22:47,467 --> 00:22:49,969 遊んで…。 (2人)暮らすぞ! 259 00:22:49,969 --> 00:22:55,141 (鏡子と金之助の笑い声) 260 00:22:55,141 --> 00:22:59,312 10万円 10万円! 261 00:22:59,312 --> 00:23:02,012 お帰りなさい! 262 00:23:07,187 --> 00:23:11,825 <熊本へ帰る事を 拒否し続けた金之助さんは➡ 263 00:23:11,825 --> 00:23:17,163 帰国して 3か月後 東京の第一高等学校と➡ 264 00:23:17,163 --> 00:23:22,463 帝大文学部の講師として 採用される事になりました> 265 00:23:49,963 --> 00:23:53,633 <そして 千駄木に家を借り➡ 266 00:23:53,633 --> 00:23:58,433 ようやく新しい生活が始まった やさきでした> 267 00:24:16,656 --> 00:24:24,831 こいつ… 嫌なまねをするな。 268 00:24:24,831 --> 00:24:28,168 ロンドンのおかみに頼まれたのか!? (たたく音) 269 00:24:28,168 --> 00:24:32,038 (筆子の泣き声) 270 00:24:32,038 --> 00:24:34,774 何をなさるんですか!? 271 00:24:34,774 --> 00:24:37,110 こいつが この五厘銭をここに置いて➡ 272 00:24:37,110 --> 00:24:39,045 ロンドンのおかみと同じように➡ 273 00:24:39,045 --> 00:24:40,980 俺の事は全てお見通しだ という顔をしたのだ! 274 00:24:40,980 --> 00:24:43,283 実に けしからん! 275 00:24:43,283 --> 00:24:45,483 けしからん! 276 00:24:51,024 --> 00:24:52,992 (尼子) ロンドンにいらっしゃった時に➡ 277 00:24:52,992 --> 00:24:56,492 何か 不愉快な事でも おありになったのかな? 278 00:24:58,765 --> 00:25:04,571 ある日 ロンドンの公園で かわいそうな乞食がいたので➡ 279 00:25:04,571 --> 00:25:08,441 銅貨を1枚やったそうです。 280 00:25:08,441 --> 00:25:15,648 それで その日の夜 下宿へ戻って 便所に入ると➡ 281 00:25:15,648 --> 00:25:21,321 窓辺に同じ銅貨が これみよがしに 置いてあったというんです。 282 00:25:21,321 --> 00:25:26,492 そんな事ができるのは 下宿のおかみ以外 考えられない。 283 00:25:26,492 --> 00:25:29,395 おかみが探偵のように 俺の後をつけて➡ 284 00:25:29,395 --> 00:25:31,695 公園で見ていたんだと。 285 00:25:33,933 --> 00:25:39,272 奇妙ですね。 そんな事をする人がいるのですか。 286 00:25:39,272 --> 00:25:42,308 でも 夏目は そう申しますの。 287 00:25:42,308 --> 00:25:44,444 そうやって イギリス女は➡ 288 00:25:44,444 --> 00:25:47,947 日本人である自分を 見下したかったのだ。 289 00:25:47,947 --> 00:25:52,118 それによく似た銅貨を 筆子に目の前に置かせて➡ 290 00:25:52,118 --> 00:25:55,818 今でも見張っている事を 見せつけたいんだと。 291 00:26:00,460 --> 00:26:02,795 イギリスにいらっしゃった時の 緊張感が➡ 292 00:26:02,795 --> 00:26:05,595 まだ 続いているのかもしれませんね。 293 00:26:07,634 --> 00:26:11,471 奥様も このところ体調がお悪い。 294 00:26:11,471 --> 00:26:15,341 次のお子様も おなかの中にいらっしゃる。 295 00:26:15,341 --> 00:26:17,977 あれやこれやで 旦那様も➡ 296 00:26:17,977 --> 00:26:21,848 神経が過敏になって おられるのかもしれませんね。 297 00:26:21,848 --> 00:26:25,151 それだけでしょうか? 298 00:26:25,151 --> 00:26:28,054 神経が過敏になったぐらいで➡ 299 00:26:28,054 --> 00:26:31,658 女中にまで あんな悪態をつくでしょうか。 300 00:26:31,658 --> 00:26:34,158 [ 回想 ] 来い! あっ ああっ! 301 00:26:35,628 --> 00:26:37,930 ああっ! 302 00:26:37,930 --> 00:26:43,736 白状しろ! 俺が学校へ行くのを 邪魔しようとしたな!? 303 00:26:43,736 --> 00:26:47,607 こいつが俺のズボンを 井戸に放り込むのを見たんだ! 304 00:26:47,607 --> 00:26:50,807 お前もお前だ! なぜ こんな女を雇ったんだ! 305 00:26:59,319 --> 00:27:02,789 帝大の呉先生をご存じですね。 306 00:27:02,789 --> 00:27:07,126 一度 診てもらっては どうですか? 307 00:27:07,126 --> 00:27:10,926 呉先生は その方面では専門家ですから。 308 00:27:18,471 --> 00:27:20,807 ≪お前だろう! 子どもたちを唆したのは! 309 00:27:20,807 --> 00:27:23,142 (悲鳴) 310 00:27:23,142 --> 00:27:26,813 (筆子)お父様が怖い! こんな所にいたくない! 311 00:27:26,813 --> 00:27:30,983 誰に言われた!? 言え! (悲鳴) 312 00:27:30,983 --> 00:27:33,886 言え! ああっ! 313 00:27:33,886 --> 00:27:36,422 あなた! こいつが筆子たちに➡ 314 00:27:36,422 --> 00:27:39,459 庭で歌を歌わせてるんだ! 俺の読書の邪魔をさせるために➡ 315 00:27:39,459 --> 00:27:42,228 わざと大声で 歌を歌わせてるんだ! 言え! 316 00:27:42,228 --> 00:27:44,297 (悲鳴) 誰に頼まれた!? 言え! 317 00:27:44,297 --> 00:27:46,766 何を バカな事を! 318 00:27:46,766 --> 00:27:50,636 子どもたちは歌が好きなんです! 誰に言われなくても歌うんです! 319 00:27:50,636 --> 00:27:53,439 かわいいじゃありませんか! どこが かわいい!? 320 00:27:53,439 --> 00:27:55,775 俺に ちっとも懐かないんだ! 321 00:27:55,775 --> 00:27:57,710 白目で俺を見やがるんだ! 322 00:27:57,710 --> 00:28:00,113 それは あなたが優しくないからですよ。 323 00:28:00,113 --> 00:28:06,285 俺は忙しいんだ! この本を 全部読まなきゃいけないんだ! 324 00:28:06,285 --> 00:28:11,124 お前たちを養うために 勉強しなきゃいけないんだ! 325 00:28:11,124 --> 00:28:13,626 優しくしてる余裕など どこにもないんだ! 326 00:28:13,626 --> 00:28:17,130 ひもを持ってこい! ああっ! こいつを縛ってやる! 327 00:28:17,130 --> 00:28:19,966 よして下さい! 328 00:28:19,966 --> 00:28:23,469 お前もか! あっ! 329 00:28:23,469 --> 00:28:26,372 お前も俺の邪魔をするのか!? 330 00:28:26,372 --> 00:28:28,341 出ていけ! 331 00:28:28,341 --> 00:28:30,643 (恒子と筆子の泣き声) 332 00:28:30,643 --> 00:28:32,643 ああっ! 333 00:28:34,247 --> 00:28:36,747 皆 この家から出ていけ! 334 00:28:41,754 --> 00:28:45,954 そうおっしゃるのなら 出ていきましょう! 335 00:28:53,099 --> 00:28:57,437 よし 出ていけ。 今すぐ出ていけ! 336 00:28:57,437 --> 00:29:01,437 はい そう致します。 337 00:29:06,145 --> 00:29:08,145 行きましょ。 338 00:29:14,620 --> 00:29:20,120 (戸の開閉音) 339 00:29:29,969 --> 00:29:32,269 いつまで置いてほしいのだ? 340 00:29:34,807 --> 00:29:37,807 いつまで置いてもらえます? 341 00:29:41,080 --> 00:29:44,080 (笑い声) 342 00:29:48,254 --> 00:29:54,454 最近 金之助君から 頻繁に手紙が来る。 343 00:29:57,430 --> 00:30:01,630 お前と別れたいから 引き取れという中身だ。 344 00:30:04,937 --> 00:30:11,611 「中根家は 子どもを甘やかせて 育てたに違いない。➡ 345 00:30:11,611 --> 00:30:14,311 役に立たんから返す」と。 346 00:30:18,384 --> 00:30:20,684 どうするつもりだ? 347 00:30:28,794 --> 00:30:37,494 自分でも分からないんです。 どうすればいいのか。 348 00:30:42,341 --> 00:30:47,179 私さえ いなければ➡ 349 00:30:47,179 --> 00:30:54,879 あの人は あんなに イライラしないで 穏やかに暮らせるのか。 350 00:30:57,490 --> 00:30:59,690 だったら…。 351 00:31:05,164 --> 00:31:09,964 でも 本当にそうなのか。 352 00:31:13,506 --> 00:31:20,006 私の顔を見て とってもいい顔で 笑ってくれる時があるんです。 353 00:31:22,181 --> 00:31:25,881 私たち やっぱり夫婦なんだって…。 354 00:31:30,056 --> 00:31:32,625 そう思える時も…。 355 00:31:32,625 --> 00:31:50,042 ♬~ 356 00:31:50,042 --> 00:31:56,342 申し訳ありません。 こんな ありさまで。 357 00:32:00,486 --> 00:32:03,389 この際だ。 358 00:32:03,389 --> 00:32:06,589 私の方の話もしておこう。 359 00:32:10,997 --> 00:32:16,997 この家だが 遠からず人手に渡る。 360 00:32:19,505 --> 00:32:24,677 身の丈に合わん相場に手を出した 報いというやつだ。 361 00:32:24,677 --> 00:32:31,450 だが 気にする事はない。 次の家は もう見つけてある。 362 00:32:31,450 --> 00:32:37,950 私は そこで 次の一手を考えるつもりだ。 363 00:32:42,094 --> 00:32:44,997 お前も そうしろ。 364 00:32:44,997 --> 00:33:08,220 ♬~ 365 00:33:08,220 --> 00:33:14,326 夏目君に大学で何度か会い 診察致しました。 366 00:33:14,326 --> 00:33:18,664 彼には 人に追われたり➡ 367 00:33:18,664 --> 00:33:22,168 見張られたりするという 妄想があります。 368 00:33:22,168 --> 00:33:25,838 追跡妄想といいますが➡ 369 00:33:25,838 --> 00:33:33,579 ほかにも 重い神経症の症状が 見受けられます。 370 00:33:33,579 --> 00:33:39,385 これは れっきとした病気です。 371 00:33:39,385 --> 00:33:44,123 病気…? そう。 372 00:33:44,123 --> 00:33:47,460 まあ やっかいな病気です。 373 00:33:47,460 --> 00:33:52,631 イギリスで発症したものと 見受けられますが➡ 374 00:33:52,631 --> 00:33:57,931 以前から そういった因子を 抱えていた可能性があります。 375 00:33:59,505 --> 00:34:05,705 ご家族の方は大変だと お察し致します。 376 00:34:13,652 --> 00:34:21,952 でも 病気なら 家族は看病しなくちゃ。 377 00:34:24,363 --> 00:34:26,863 そうじゃありませんか? 378 00:34:28,834 --> 00:34:34,273 私は 夫が 私に対する気分や 思う事があって➡ 379 00:34:34,273 --> 00:34:37,176 当たり散らすのだと 思っていました。 380 00:34:37,176 --> 00:34:41,614 私に原因があるのだと。 381 00:34:41,614 --> 00:34:48,487 でも そうじゃないのですね。 病気ですね。 382 00:34:48,487 --> 00:34:52,258 あ… はい そうです。 383 00:34:52,258 --> 00:34:58,798 でしたら うちへ帰ります。 そばにいて 看病しなくちゃ。 384 00:34:58,798 --> 00:35:00,733 治るか治らないか➡ 385 00:35:00,733 --> 00:35:04,033 私にもできる事が あるかもしれませんし。 386 00:35:08,307 --> 00:35:11,307 奥様…? あっ…。 387 00:35:13,646 --> 00:35:15,681 ありがとうございました。 388 00:35:15,681 --> 00:35:19,518 夫をこのまま放り出す訳には まいりませんから。 389 00:35:19,518 --> 00:35:24,018 私 家へ帰ります! フフッ。 390 00:35:29,995 --> 00:35:32,331 ただいま帰りました。 391 00:35:32,331 --> 00:35:56,121 ♬~ 392 00:35:56,121 --> 00:35:58,321 私 やりましょうか? 393 00:36:03,863 --> 00:36:07,563 それで何を作ろうとして いらっしゃるのですか? 394 00:36:09,301 --> 00:36:11,237 誰が帰ってこいと言った。 395 00:36:11,237 --> 00:36:14,473 もう 子どもたちの着替えが ありませんし➡ 396 00:36:14,473 --> 00:36:20,346 タンスの中のものも虫干ししなくては カビが生えますでしょ。 397 00:36:20,346 --> 00:36:35,427 ♬~ 398 00:36:35,427 --> 00:36:38,427 ただいま帰りました。 399 00:36:44,136 --> 00:36:47,606 着替えが必要なら とっとと 持っていきゃいいだろう! 400 00:36:47,606 --> 00:36:50,643 大根なんか切ってないで さっさと やる事やって出ていけ! 401 00:36:50,643 --> 00:36:53,112 ほら 出ていけ! 402 00:36:53,112 --> 00:36:55,781 (恒子の泣き声) 403 00:36:55,781 --> 00:36:57,716 恒ちゃん やっぱり戻ろう! 404 00:36:57,716 --> 00:37:01,654 筆ちゃん! 戻っちゃ駄目。 405 00:37:01,654 --> 00:37:04,790 (筆子)だって…。 406 00:37:04,790 --> 00:37:06,790 ここ いらっしゃい。 407 00:37:15,434 --> 00:37:20,639 いいですか? ここは 私たちの おうちですよ。 408 00:37:20,639 --> 00:37:24,143 出ていく必要はないの。 409 00:37:24,143 --> 00:37:31,884 ここで毎日 お食事をして 寝て ご本を読んで 学校へ行って➡ 410 00:37:31,884 --> 00:37:36,088 このうちで大きくなるの。 411 00:37:36,088 --> 00:37:40,960 お母様と ここに一緒にいましょ。 412 00:37:40,960 --> 00:37:46,799 誰が何と言っても ここは私たちの うちなんですから。 413 00:37:46,799 --> 00:38:01,113 ♬~ 414 00:38:01,113 --> 00:38:04,984 私たちは もう出ていきませんから。 415 00:38:04,984 --> 00:38:26,338 ♬~ 416 00:38:26,338 --> 00:38:31,110 <それから2か月ぐらいは 何事もなく過ぎ➡ 417 00:38:31,110 --> 00:38:37,110 鏡子さんは 3人目の女の子を 無事出産しました> 418 00:38:38,951 --> 00:38:42,588 おい! お前は産後だからと いい気分で寝ているが➡ 419 00:38:42,588 --> 00:38:46,091 俺は お前を必ず離縁してやるから そのつもりでいろ! 420 00:38:46,091 --> 00:38:50,262 ああ そうですか。 離縁の理由をおっしゃって下さい。 421 00:38:50,262 --> 00:38:53,298 お前は 俺の頭が変だと 思ってるだろ。 それが理由だ! 422 00:38:53,298 --> 00:38:55,601 そう思ってたら ここにいやしません。 423 00:38:55,601 --> 00:38:57,936 いや お前は 俺を イライラさせるために➡ 424 00:38:57,936 --> 00:39:02,441 ここに居座っている。 その事を お前の父親にぶちまけてきた! 425 00:39:02,441 --> 00:39:04,376 この離縁状だ! 426 00:39:04,376 --> 00:39:07,112 お前と一緒にいると 俺の頭が ピリピリして我慢できんから➡ 427 00:39:07,112 --> 00:39:09,615 早く引き取ってほしいと頼んだ! 428 00:39:09,615 --> 00:39:12,284 お前の父親は うわの空で聞いていた! 429 00:39:12,284 --> 00:39:14,219 お前と そっくりだ! 430 00:39:14,219 --> 00:39:17,456 同じように俺を無視し 同じように俺を見下している! 431 00:39:17,456 --> 00:39:20,793 嫌な親子だ! うんざりするほど よく似ている! 432 00:39:20,793 --> 00:39:25,297 この離縁状を 受け取ろうともしないんだ! 433 00:39:25,297 --> 00:39:27,633 受け取ってもらいたいのなら➡ 434 00:39:27,633 --> 00:39:29,668 郵便で送ればいいんですよ。 435 00:39:29,668 --> 00:39:32,304 切手を貼って。 436 00:39:32,304 --> 00:39:34,239 ねえ。 フフッ。 437 00:39:34,239 --> 00:39:38,577 お父様のおっしゃる事は 訳が分からない。 ねえ。 438 00:39:38,577 --> 00:39:40,512 くそ~っ! 439 00:39:40,512 --> 00:39:42,748 くそっ! 440 00:39:42,748 --> 00:39:44,748 くそ~っ! 441 00:39:46,418 --> 00:39:48,418 はあ…。 442 00:39:50,289 --> 00:39:52,291 おい。 443 00:39:52,291 --> 00:39:55,094 今 大きな音を立てたろう。 444 00:39:55,094 --> 00:39:57,996 いいえ。 どんな音です? 445 00:39:57,996 --> 00:40:01,433 頭に響くような大きな音だ! 446 00:40:01,433 --> 00:40:04,633 おちおち 読書も しておれないくらいだ! 447 00:40:07,239 --> 00:40:09,942 ネズミじゃありませんか? 448 00:40:09,942 --> 00:40:12,242 さっき 天井を走ってましたよ。 449 00:40:14,613 --> 00:40:16,813 ネズミ!? 450 00:40:18,484 --> 00:40:22,284 じゃあ 今すぐ ネズミ捕ってこい! 捕ってこい! 451 00:40:24,289 --> 00:40:26,225 承知しました。 452 00:40:26,225 --> 00:40:29,461 ネズミ捕りを買ってきますから お金を下さい。 453 00:40:29,461 --> 00:40:31,396 私は 一銭も お金がありませんから。 454 00:40:31,396 --> 00:40:33,799 昨日 3円渡しただろ! 455 00:40:33,799 --> 00:40:37,970 あれは 月末の支払いで 無くなりました。 456 00:40:37,970 --> 00:40:39,905 くそっ! 457 00:40:39,905 --> 00:40:42,307 くそっ! 458 00:40:42,307 --> 00:40:44,307 ≪くそ~っ! 459 00:40:46,145 --> 00:40:50,015 ≪(大きな物音) 460 00:40:50,015 --> 00:40:52,715 ≪くそ~っ! ≪(大きな物音) 461 00:40:57,656 --> 00:41:00,325 ≪(ヒサ)奥様! 462 00:41:00,325 --> 00:41:05,025 奥様! 書斎が大変です! え? 463 00:41:11,937 --> 00:41:16,937 ネズミが暴れたぞ。 ネズミ捕り買ってこい。 464 00:41:33,959 --> 00:41:36,995 <金之助さんの異常な行動は➡ 465 00:41:36,995 --> 00:41:42,634 数か月にわたって 断続的に続いたそうです> 466 00:41:42,634 --> 00:42:13,699 ♬~ 467 00:42:13,699 --> 00:42:18,399 こんな日に コートもなく 歩いていらしたのですか? 468 00:42:21,373 --> 00:42:27,173 (重一)寒いの暑いのと 贅沢は言っておれなくなったよ。 469 00:42:34,286 --> 00:42:39,286 ちょっと 相談したい事があってね。 470 00:42:49,301 --> 00:42:53,601 前にも言ったとおり…。 471 00:42:57,175 --> 00:43:02,481 矢来の家が人手に渡って➡ 472 00:43:02,481 --> 00:43:10,981 麹町に手ごろな家があったから 買ったんだ。 473 00:43:14,192 --> 00:43:18,392 その… 残金が払えなくてね。 474 00:43:20,032 --> 00:43:27,732 利子がついて 借金が膨らんで…。 475 00:43:32,177 --> 00:43:35,080 だから? 476 00:43:35,080 --> 00:43:39,580 お前に 金を借りようというんじゃない。 477 00:43:54,299 --> 00:43:59,638 これに 金之助君が判をついて 保証人になってくれれば➡ 478 00:43:59,638 --> 00:44:02,638 金を貸そうという人間がいるんだ。 479 00:44:07,512 --> 00:44:13,985 それを 金之助君に 頼んでもらいたいんだ。 480 00:44:13,985 --> 00:44:15,985 それだけだ。 481 00:44:22,994 --> 00:44:30,168 倫は うちへ来て こう申していましたよ。 482 00:44:30,168 --> 00:44:37,968 麹町の家は 安いお金で借りた 借家だって。 483 00:44:41,446 --> 00:44:48,320 お父様は相変わらず 戦争を当て込んで 妙な株を買い➡ 484 00:44:48,320 --> 00:44:51,520 身動きできなくなっているって。 485 00:45:00,465 --> 00:45:06,338 私は お父様に甘やかされて 育ったから➡ 486 00:45:06,338 --> 00:45:14,813 私も お父様を甘やかせて 差し上げたいのだけど➡ 487 00:45:14,813 --> 00:45:23,613 今の私には 悔しいけど それができないんです。 488 00:45:28,660 --> 00:45:34,460 相変わらず 夏目と戦争をしているんです。 489 00:45:37,769 --> 00:45:42,469 毎日 飛んでくる弾を どう よけようかって。 490 00:45:44,276 --> 00:45:49,776 来る日も来る日も 自分が試されているようで…。 491 00:45:51,450 --> 00:45:56,950 どこまで このうちで頑張れるのかって。 492 00:45:58,790 --> 00:46:04,663 夏目と子どもたちと➡ 493 00:46:04,663 --> 00:46:08,863 本当に幸せな家族が 作れるのかって。 494 00:46:11,136 --> 00:46:18,336 つらくて 時々 逃げ出したくなって…。 495 00:46:20,812 --> 00:46:26,618 でも 書斎に籠もって➡ 496 00:46:26,618 --> 00:46:32,324 山のような本を読んでいる 夏目を見ると➡ 497 00:46:32,324 --> 00:46:36,024 きっと この人も つらいんだろうって。 498 00:46:39,097 --> 00:46:42,968 家族と折り合って➡ 499 00:46:42,968 --> 00:46:46,668 うまくやっていく方法が 見つからなくて…。 500 00:46:48,607 --> 00:46:52,107 結局 一人で本を読んでいる。 501 00:46:54,112 --> 00:47:01,987 それぞれが 皆さみしいんだって…。 502 00:47:01,987 --> 00:47:03,987 だから…。 503 00:47:07,626 --> 00:47:10,126 それは…。 504 00:47:13,431 --> 00:47:17,135 よく分かってる。 505 00:47:17,135 --> 00:47:19,135 分かった上で…。 506 00:47:21,306 --> 00:47:25,143 申し訳ありません! 507 00:47:25,143 --> 00:47:29,814 私は お父様を 助ける事ができません! 508 00:47:29,814 --> 00:47:35,420 夏目に 判をついて下さいとは 言えません! 509 00:47:35,420 --> 00:47:54,105 ♬~ 510 00:47:54,105 --> 00:47:58,443 金之助君が…➡ 511 00:47:58,443 --> 00:48:03,443 昔 作った俳句を 教えてくれた事がある。 512 00:48:06,952 --> 00:48:12,952 「うつむいて膝にだきつく寒さ哉」。 513 00:48:15,961 --> 00:48:19,961 寒いから うつむくしかない。 514 00:48:22,467 --> 00:48:27,467 自分の膝に抱きついて 耐えるしかない。 515 00:48:32,177 --> 00:48:38,177 「うつむいて膝にだきつく寒さ哉」。 516 00:48:42,253 --> 00:48:44,289 うまいもんだな。 517 00:48:44,289 --> 00:49:46,918 ♬~ 518 00:49:46,918 --> 00:49:54,793 (戸の開閉音) 519 00:49:54,793 --> 00:50:33,798 (泣き声) 520 00:50:33,798 --> 00:50:36,598 親父さん 何の用で来たんだ? 521 00:50:48,313 --> 00:50:55,513 明日 倫君に ここに来るように伝えてくれ。 522 00:50:58,022 --> 00:51:03,862 中根家の跡を継ぐのは彼だ。 523 00:51:03,862 --> 00:51:06,562 彼と話がしたい。 524 00:51:09,501 --> 00:51:24,349 ♬~ 525 00:51:24,349 --> 00:51:28,019 倫君。 526 00:51:28,019 --> 00:51:30,719 足を崩しなさい。 527 00:51:32,791 --> 00:51:37,591 遠慮は いらない。 昔どおりでいい。 528 00:51:44,135 --> 00:51:47,635 君とは よく相撲をとったな。 529 00:51:49,641 --> 00:51:52,841 イギリスにも手紙をくれた。 530 00:51:54,979 --> 00:51:56,915 うれしかったよ。 531 00:51:56,915 --> 00:52:07,158 ♬~ 532 00:52:07,158 --> 00:52:11,958 今日 来てもらった訳は…。 姉から聞きました。 533 00:52:16,334 --> 00:52:24,634 君の父上が 私に借金の保証人に なってほしいと言ってこられた。 534 00:52:27,345 --> 00:52:34,145 義父上が金を返せなければ 私が返さなくてはならない。 535 00:52:36,054 --> 00:52:40,854 そういう証書に 判をついてほしいと。 536 00:52:45,830 --> 00:52:48,830 君の姉さんは断った。 537 00:52:52,804 --> 00:53:02,604 しかし 私は本当は 保証人になるべきなんだろうね。 538 00:53:06,317 --> 00:53:11,117 君の父上とは 義理の親子だ。 539 00:53:14,492 --> 00:53:17,192 君とは 義理の兄弟だ。 540 00:53:21,366 --> 00:53:24,666 我々は 家族だからね。 541 00:53:31,042 --> 00:53:36,542 しかし それをすれば 共倒れになる可能性がある。 542 00:53:39,617 --> 00:53:42,917 私も迷ったが…。 543 00:53:45,790 --> 00:53:48,790 結論は 鏡子と同じだ。 544 00:53:52,130 --> 00:53:56,630 それが冷静な判断だと思うのだ。 545 00:53:59,804 --> 00:54:02,004 はい。 546 00:54:07,145 --> 00:54:10,345 私は 義父上を見捨てる事になる。 547 00:54:13,017 --> 00:54:18,489 しかし 君と義母上は➡ 548 00:54:18,489 --> 00:54:22,989 私が生きている限り 守ってみせる。 549 00:54:25,263 --> 00:54:27,563 それは 約束する。 550 00:54:31,069 --> 00:54:33,069 はい。 551 00:54:51,389 --> 00:54:55,689 この中に 400円ある。 552 00:54:57,962 --> 00:55:00,962 今日 急いで作った金だ。 553 00:55:04,469 --> 00:55:09,140 私にできる事は これだけだと言って➡ 554 00:55:09,140 --> 00:55:11,840 義父上に 渡して下さい。 555 00:55:22,487 --> 00:55:24,787 それは頂けません。 556 00:55:37,935 --> 00:55:41,135 いいから 持っていけ。 557 00:55:56,287 --> 00:56:13,638 ♬~ 558 00:56:13,638 --> 00:56:15,973 ありがとうございます。 559 00:56:15,973 --> 00:57:11,963 ♬~ 560 00:57:11,963 --> 00:57:14,463 ありがとうございました。 561 00:57:20,471 --> 00:57:25,971 これで 君は 帰る所が無くなったな。 562 00:57:34,752 --> 00:57:38,089 いいんです。 563 00:57:38,089 --> 00:57:42,789 私には このうちがありますから。 564 00:57:45,429 --> 00:57:48,129 そんなに このうちがいいのか。 565 00:57:54,939 --> 00:57:57,441 あなたは どうですか? 566 00:57:57,441 --> 00:58:39,750 ♬~ 567 00:58:39,750 --> 00:58:45,923 <年が明けて 明治37年2月。➡ 568 00:58:45,923 --> 00:58:49,623 日本とロシアの戦争が始まりました> 569 00:58:51,262 --> 00:58:57,134 <しかし この戦争を待っていた 中根のおじ様にとっては➡ 570 00:58:57,134 --> 00:59:01,439 遅すぎた始まりでした。➡ 571 00:59:01,439 --> 00:59:09,439 2年後 再起を果たせないまま 55年の生涯を閉じられました> 572 00:59:12,617 --> 00:59:18,789 (喉を鳴らす音) 573 00:59:18,789 --> 00:59:35,273 ♬~ 574 00:59:35,273 --> 00:59:38,909 ギャ~ッ! 575 00:59:38,909 --> 00:59:41,412 ああっ 怖い! 576 00:59:41,412 --> 00:59:45,249 何で こんな所にいるの! 577 00:59:45,249 --> 00:59:48,152 <このころの事でした。➡ 578 00:59:48,152 --> 00:59:52,990 一匹の野良猫が どこからともなく やって来て➡ 579 00:59:52,990 --> 00:59:56,594 夏目家に 出没するようになったのです> 580 00:59:56,594 --> 01:00:07,305 ♬~ 581 01:00:07,305 --> 01:00:10,141 あっ 猫! 582 01:00:10,141 --> 01:00:13,444 (恒子)キャ~ッ! あら! また この猫だ! 583 01:00:13,444 --> 01:00:16,113 おヒサ ちょっと来てちょうだい! はい! 584 01:00:16,113 --> 01:00:18,149 ちょっと… どっから入ってきたの! 585 01:00:18,149 --> 01:00:24,789 まあ また! コラッ! しっ! しっしっ! 586 01:00:24,789 --> 01:00:27,589 捕まえた~! 587 01:00:29,627 --> 01:00:33,327 どいて下さい どいて下さい! はい よしよし よしよし! 588 01:00:35,132 --> 01:00:38,035 (ヒサ)しっ! 589 01:00:38,035 --> 01:00:40,805 しっ! しっ! 590 01:00:40,805 --> 01:00:53,984 ♬~ 591 01:00:53,984 --> 01:00:57,021 うわっ! 592 01:00:57,021 --> 01:01:00,658 また来た この猫…。 593 01:01:00,658 --> 01:01:03,494 この猫 うちの猫じゃないのよ。 594 01:01:03,494 --> 01:01:05,529 野良なのよ。 595 01:01:05,529 --> 01:01:08,029 (秦) でも かわいいじゃありませんか。 596 01:01:10,368 --> 01:01:14,505 あら 奥様 この猫 福猫ですよ。 597 01:01:14,505 --> 01:01:18,008 え? この爪 ご覧なさい。 598 01:01:18,008 --> 01:01:20,044 先っぽまで真っ黒でしょ。 599 01:01:20,044 --> 01:01:22,680 こういう猫は 福猫っていいましてね➡ 600 01:01:22,680 --> 01:01:25,516 住む家に福をもたらすって いわれてるんです。 601 01:01:25,516 --> 01:01:28,853 めったにない種類なんですから。 602 01:01:28,853 --> 01:01:31,053 へえ~。 603 01:01:35,960 --> 01:01:38,295 (鳴き声) 604 01:01:38,295 --> 01:01:41,595 猫ちゃん。 猫ちゃん 猫ちゃん。 605 01:01:43,467 --> 01:01:45,503 食べた! 606 01:01:45,503 --> 01:01:48,303 (ヒサ)旦那様がお帰りです。 607 01:01:51,142 --> 01:01:53,142 あっ お帰りなさい。 608 01:01:57,014 --> 01:01:59,850 何をやってる。 609 01:01:59,850 --> 01:02:01,852 すみません。 610 01:02:01,852 --> 01:02:03,854 この猫が しょっちゅう うちへ来て➡ 611 01:02:03,854 --> 01:02:07,654 寝そべったりするものですから どうしたものかと…。 612 01:02:23,507 --> 01:02:27,178 しばらく置いてやったらどうだ。 いいんですか? 613 01:02:27,178 --> 01:02:29,678 来るんだから しょうがないだろ。 614 01:02:33,284 --> 01:02:35,953 (2人)わ~い!➡ 615 01:02:35,953 --> 01:02:40,153 わ~い! 616 01:02:43,627 --> 01:02:50,801 ≪(英語で話す声) 617 01:02:50,801 --> 01:02:53,704 おい! 探偵君! 618 01:02:53,704 --> 01:02:57,308 いい加減に俺の事 見張るの よしたらどうだい? 619 01:02:57,308 --> 01:02:59,243 君が誰に頼まれたか知らんが➡ 620 01:02:59,243 --> 01:03:01,979 俺の行動にやましい事は 何もないんだ! 621 01:03:01,979 --> 01:03:05,850 今日も朝から大学で講義をし 時間どおりに戻ってきた! 622 01:03:05,850 --> 01:03:08,350 何か文句あるなら言ってみろ! 623 01:03:11,489 --> 01:03:15,159 <金之助さんの病気は 相変わらずで➡ 624 01:03:15,159 --> 01:03:18,859 よかったり悪かったりを 繰り返していました> 625 01:03:23,501 --> 01:03:30,374 何だか また 最近 頭の具合がよくないんだ。 626 01:03:30,374 --> 01:03:34,111 特に 夕方がひどい。 627 01:03:34,111 --> 01:03:43,311 頭痛がして 遠くの汽笛の音が 妙に はっきり聞こえたりする。 628 01:03:45,122 --> 01:03:49,293 何だか 落ち着かないんだ。 629 01:03:49,293 --> 01:03:54,632 学校で教えるばかりじゃ 気が休まらないんでしょう。 630 01:03:54,632 --> 01:04:00,137 久しぶりに うちの「ホトトギス」に 何か書いてみたら どうです。 631 01:04:00,137 --> 01:04:02,437 気が紛れますよ。 632 01:04:06,810 --> 01:04:09,110 写生文かい。 633 01:04:21,358 --> 01:04:23,358 (鳴き声) 634 01:04:41,278 --> 01:04:43,278 ニャ~。 635 01:04:47,451 --> 01:04:51,322 旅順は まだ落ちないのかね? 636 01:04:51,322 --> 01:04:54,792 第三軍 乃木大将も大変だ。 637 01:04:54,792 --> 01:04:57,695 (ヒサ)海軍さんは 頑張ってるっていうのにね。 638 01:04:57,695 --> 01:04:59,663 ねえ。 639 01:04:59,663 --> 01:05:14,979 ♬~ 640 01:05:14,979 --> 01:05:16,914 ニャ~。 641 01:05:16,914 --> 01:05:50,614 ♬~ 642 01:06:23,981 --> 01:06:38,095 ♬~ 643 01:06:38,095 --> 01:06:40,931 こんな夜中に…。 644 01:06:40,931 --> 01:06:59,616 ♬~ 645 01:06:59,616 --> 01:07:01,616 えっ? 646 01:07:03,487 --> 01:07:07,124 あっ あ…。 647 01:07:07,124 --> 01:07:11,995 あ… あっ! ああっ! 648 01:07:11,995 --> 01:07:18,836 あなた! あなた ちょっと…! あなた 来て下さい! 泥棒よ! 649 01:07:18,836 --> 01:07:22,536 何やってるんだ。 あなた 泥棒…。 650 01:07:27,144 --> 01:07:31,648 おい 泥棒だ! 泥棒! 651 01:07:31,648 --> 01:07:33,648 交番へ! 652 01:07:36,086 --> 01:07:38,021 どうぞ。 653 01:07:38,021 --> 01:07:40,424 (野津)お二人にそろって お話ししてもらうのは➡ 654 01:07:40,424 --> 01:07:44,094 事件当時の様子を 正確に お聞きしたいからであります。 655 01:07:44,094 --> 01:07:46,430 よろしいかな。 構いませんよ。 656 01:07:46,430 --> 01:07:49,466 では 失礼して。 657 01:07:49,466 --> 01:07:53,666 え~ 盗まれたものを もう一度 確認してよろしいかな。 658 01:07:57,441 --> 01:08:00,778 あの… そちらの方も どうぞ。 659 01:08:00,778 --> 01:08:03,814 ああ 奥さん こいつは よろしいのです。 660 01:08:03,814 --> 01:08:06,283 こちらへ入った張本人ですから。 661 01:08:06,283 --> 01:08:08,218 え? え? 662 01:08:08,218 --> 01:08:18,718 ♬~ 663 01:08:22,466 --> 01:08:27,971 <数日後 盗まれた服が戻ってきました。➡ 664 01:08:27,971 --> 01:08:34,077 泥棒は 古着屋に高く売るために 汚れた衣類は洗濯し➡ 665 01:08:34,077 --> 01:08:38,248 綻びのある着物は きちんと繕っていたそうです> 666 01:08:38,248 --> 01:08:43,754 おっ このシャツ アイロンがかかってるぞ。 667 01:08:43,754 --> 01:08:46,423 でしょ? 私のも そうですよ。 668 01:08:46,423 --> 01:08:50,260 このお召しも 洗い張りがしてあるの。 669 01:08:50,260 --> 01:08:52,296 皆 新品のようでございますね。 670 01:08:52,296 --> 01:08:55,933 私のも! 私のも! 671 01:08:55,933 --> 01:08:57,868 こういう泥棒なら➡ 672 01:08:57,868 --> 01:09:01,104 時々 入ってもらうのも 悪くないな。 673 01:09:01,104 --> 01:09:03,607 私も そう思ったところです。 674 01:09:03,607 --> 01:09:06,944 君が それを言ってはいかんのだ。 675 01:09:06,944 --> 01:09:16,453 (笑い声) 676 01:09:16,453 --> 01:09:18,388 ねえ あなた。 ん? 677 01:09:18,388 --> 01:09:20,791 このところ 毎晩 書斎に籠もって➡ 678 01:09:20,791 --> 01:09:22,826 あまり 寝ていらっしゃらないでしょ。 679 01:09:22,826 --> 01:09:26,129 お仕事ですか? うん。 680 01:09:26,129 --> 01:09:30,467 一つ 書いてるものがあったんだ。 681 01:09:30,467 --> 01:09:33,070 ゆうべ 終わったよ。 682 01:09:33,070 --> 01:09:35,070 へえ~。 683 01:09:37,908 --> 01:09:39,843 あっ! (鳴き声) 684 01:09:39,843 --> 01:09:42,079 着物の上 歩かせちゃ駄目よ! (2人)猫! 猫! 685 01:09:42,079 --> 01:09:44,014 おヒサ 片づけて! 片づけて! 686 01:09:44,014 --> 01:09:46,750 コラッ! 私の着物! 687 01:09:46,750 --> 01:09:50,921 駄目でしょ。 こんな所に… あらららら。 688 01:09:50,921 --> 01:09:54,424 おい 乱暴に扱うな。 ほら。 689 01:09:54,424 --> 01:09:57,928 あ~ よしよし よしよし…。 690 01:09:57,928 --> 01:10:02,799 大丈夫。 ほらほら。 うん。 691 01:10:02,799 --> 01:10:04,801 こっち おいで。 ほら。 (鳴き声) 692 01:10:04,801 --> 01:10:09,940 <猫が来て以来 金之助さんの病気が➡ 693 01:10:09,940 --> 01:10:12,940 少しよくなったように見えました> 694 01:10:17,281 --> 01:10:21,618 これなんだがね ちょっと読んでみてくれないか? 695 01:10:21,618 --> 01:10:25,956 ほう。 題名は何といいます? 696 01:10:25,956 --> 01:10:28,458 まだ何も決めちゃいないんだ。 697 01:10:28,458 --> 01:10:31,361 君の方で適当に付けてもらって 構わない。 698 01:10:31,361 --> 01:10:35,232 じゃあ 読んでからという事で。 うん。 699 01:10:35,232 --> 01:10:38,135 ひとつ 大きな声で読んでみてくれ。 700 01:10:38,135 --> 01:10:40,135 よろしい。 うん。 701 01:10:45,008 --> 01:10:51,808 「吾輩は猫である。 名前はまだない」。 702 01:10:54,318 --> 01:10:59,189 ≪(虚子)「どこで生れたか 頓と見当がつかぬ。➡ 703 01:10:59,189 --> 01:11:03,660 何でも薄暗い じめじめした所で➡ 704 01:11:03,660 --> 01:11:07,998 ニャーニャー泣いていた事だけは 記憶している」。 705 01:11:07,998 --> 01:11:10,500 ハハハッ。 706 01:11:10,500 --> 01:11:17,007 「吾輩は ここで始めて 人間というものを見た。➡ 707 01:11:17,007 --> 01:11:22,512 しかも あとで聞くと それは 書生という人間中で➡ 708 01:11:22,512 --> 01:11:25,549 一番獰悪な種族であったそうだ」。 709 01:11:25,549 --> 01:11:28,852 (笑い声) 710 01:11:28,852 --> 01:11:31,521 ≪(虚子)「この書生というのは➡ 711 01:11:31,521 --> 01:11:37,627 時々 我々を捕えて 煮て食うという話である」。 712 01:11:37,627 --> 01:11:39,963 ≪(笑い声) 713 01:11:39,963 --> 01:11:47,137 <金之助さんが書いていたのは 小説でした。➡ 714 01:11:47,137 --> 01:11:49,473 猫の目を通して➡ 715 01:11:49,473 --> 01:11:52,976 人間世界を面白おかしく➡ 716 01:11:52,976 --> 01:11:58,315 そして ちょっと切なく書いた この小説は➡ 717 01:11:58,315 --> 01:12:01,818 後に 夏目家を➡ 718 01:12:01,818 --> 01:12:07,624 広い 大きな世界に 押し出す事になります> 719 01:12:07,624 --> 01:12:09,993 ≪(虚子)「実に弱った。➡ 720 01:12:09,993 --> 01:12:14,831 これが 人間の飲む 烟草というものである事は➡ 721 01:12:14,831 --> 01:12:19,531 漸く この頃 知った」。 (鳴き声) 722 01:12:23,006 --> 01:13:27,306 ♬~ 723 01:15:41,905 --> 01:15:43,857 >>決めてきた!