1 00:00:00,907 --> 00:00:05,778 しかたなく 立ち通していた足は 半日で 棒のようになった。 2 00:00:05,778 --> 00:00:10,183 だが 赤子を下ろしても ほっとする暇は なかった。 3 00:00:10,183 --> 00:00:14,187 まだ 雪解け水の冷たさに 体のしんまで冷えながら➡ 4 00:00:14,187 --> 00:00:17,290 おしんは 歯を食いしばっていた。 5 00:00:17,290 --> 00:00:23,090 うちへは帰れないのだ。 辛抱しなければならないのだ。 6 00:00:32,906 --> 00:00:41,581 ♬~ 7 00:00:41,581 --> 00:00:44,081 (なつ)シューシャイン! いらっしゃい! 8 00:00:46,753 --> 00:00:49,222 (泰樹)なつは いるか? (とよ)なつ? 9 00:00:49,222 --> 00:00:51,758 こないだ来た あの子だ。 ああ… あの子が どうかしたの? 10 00:00:51,758 --> 00:00:54,427 (富士子)いなくなったんです。 えっ! 11 00:00:54,427 --> 00:00:57,627 今晩は こっちで保護するからね。 12 00:00:59,232 --> 00:01:01,167 あの…。 えっ? 13 00:01:01,167 --> 00:01:03,937 すみません… お便所貸して下さい。 14 00:01:03,937 --> 00:01:07,440 お~… 大丈夫か? 15 00:01:07,440 --> 00:01:10,476 急ぐべ 急ぐべ…。 16 00:01:10,476 --> 00:01:13,246 ほら こっちだ。 17 00:01:13,246 --> 00:01:24,857 ♬~ 18 00:01:24,857 --> 00:01:33,900 ♬「重い扉を押し開けたら 暗い道が続いてて」 19 00:01:33,900 --> 00:01:43,576 ♬「めげずに歩いたその先に 知らなかった世界」 20 00:01:43,576 --> 00:01:52,919 ♬「氷を散らす風すら 味方にもできるんだなあ」 21 00:01:52,919 --> 00:02:02,428 ♬「切り取られることのない 丸い大空の色を」 22 00:02:02,428 --> 00:02:11,771 ♬「優しいあの子にも教えたい」 23 00:02:11,771 --> 00:02:21,571 ♬「ルルル…」 24 00:02:26,252 --> 00:02:29,155 (剛男)逃げた!? ええ。 25 00:02:29,155 --> 00:02:31,391 便所に行きたいって言うから 行かしたら➡ 26 00:02:31,391 --> 00:02:36,262 どうも そこから… 逃げたらしくてね。 27 00:02:36,262 --> 00:02:39,065 う~ん…。 なして 逃げたんですか? 28 00:02:39,065 --> 00:02:42,935 あなた あの子に何したんです? 何もせんよ。 29 00:02:42,935 --> 00:02:45,738 何を言っとるんだ。 30 00:02:45,738 --> 00:02:49,609 ただ 保護してやると言っただけだ。 31 00:02:49,609 --> 00:02:54,747 そうか… あの子は また 施設に送られると思ったんだ。 32 00:02:54,747 --> 00:02:58,584 施設? 東京で 警察の狩り込みにあって➡ 33 00:02:58,584 --> 00:03:02,422 無理やり 孤児院に送られたんだ。 (夕見子)かりこみって? 34 00:03:02,422 --> 00:03:08,094 警察が 戦災孤児を一斉に捕まえて そういう施設に送り込むことだ。 35 00:03:08,094 --> 00:03:11,764 浮浪児を保護するというより 街を きれいにするために…➡ 36 00:03:11,764 --> 00:03:14,100 まるで 野良犬を捕まえるみたいに! 37 00:03:14,100 --> 00:03:16,102 ちょっと あんた。 38 00:03:16,102 --> 00:03:19,972 警察が悪いみたいに…。 39 00:03:19,972 --> 00:03:25,611 そもそも あんたんとこが嫌で あの子は逃げ出したんでしょうが! 40 00:03:25,611 --> 00:03:28,111 何を言っとるんだ。 41 00:03:32,051 --> 00:03:39,851 ♬~ 42 00:03:43,062 --> 00:03:45,898 あっ… どうだった? 43 00:03:45,898 --> 00:03:48,801 ダメだ。 警察からも逃げたようです。 44 00:03:48,801 --> 00:03:51,571 まあ 逃げ足の速い子だねえ。 45 00:03:51,571 --> 00:03:55,208 (妙子)お義母さん そのひと言 余計だと思いますけど。 46 00:03:55,208 --> 00:03:58,578 闇市を捜したんですけど どこにも いませんでした。 47 00:03:58,578 --> 00:04:02,749 それなら もう この近くには いないかもしれませんね。 48 00:04:02,749 --> 00:04:04,684 だから 逃げ足が速いんだろう? 49 00:04:04,684 --> 00:04:10,223 (雪之助)だけどさ 子どもの足で そんな遠くまで行けないでしょう。 50 00:04:10,223 --> 00:04:14,927 (雪次郎)ただいま。 お~ 雪次郎。 51 00:04:14,927 --> 00:04:17,764 なしたの? お前 あの子 見なかったかい? 52 00:04:17,764 --> 00:04:21,634 ほら この前 ここで 柴田のおじいさんと アイスクリーム食べてた…。 53 00:04:21,634 --> 00:04:25,505 ああ… 夕見子ちゃん? バ~カ。 あれは なっちゃん。 54 00:04:25,505 --> 00:04:28,775 本当の夕見子ちゃんは そこにいるべ。 (雪次郎)えっ? 55 00:04:28,775 --> 00:04:31,544 あっ… なっちゃんより めんこい。 56 00:04:31,544 --> 00:04:33,479 知ってる。 ねえ そんなことより➡ 57 00:04:33,479 --> 00:04:37,884 その辺で なっちゃん見かけなかった? 見ないよ。 なして? 58 00:04:37,884 --> 00:04:41,754 やっぱり あの子は 東京に戻ろうとしたんです。 59 00:04:41,754 --> 00:04:47,393 そのために 靴磨きをして お金を作ろうとしたんでしょうね。 60 00:04:47,393 --> 00:04:52,893 孤児院にいるお兄さんに会いたくて そこまで…。 61 00:04:55,134 --> 00:05:00,573 あのきょうだいは 特別な絆で結ばれてるんだ。 62 00:05:00,573 --> 00:05:04,744 戦争によって そうなったんだ。➡ 63 00:05:04,744 --> 00:05:07,647 私が 初めて孤児院で会った時…。 64 00:05:07,647 --> 00:05:11,147 こら! 向こうへ行ってなさい! 65 00:05:13,085 --> 00:05:15,385 すいません。 66 00:05:18,424 --> 00:05:22,094 初めまして 柴田剛男と申します。 67 00:05:22,094 --> 00:05:24,430 君たちのお父さんとは戦友です。 68 00:05:24,430 --> 00:05:30,937 戦地で ずっと一緒にいた。 とても仲よくしてもらってました。 69 00:05:30,937 --> 00:05:34,737 奥原咲太郎君と なっちゃんでしょ? 70 00:05:38,377 --> 00:05:40,880 君たちを捜し回ったんだよ。 71 00:05:40,880 --> 00:05:43,916 やっと会えた。 72 00:05:43,916 --> 00:05:47,386 あの… もう一人 小さなお嬢さんがいらっしゃると➡ 73 00:05:47,386 --> 00:05:51,724 お父さんから聞いてたんだけど まさか…。 74 00:05:51,724 --> 00:05:55,061 (咲太郎)千遥は 親戚に預けました。 75 00:05:55,061 --> 00:05:58,397 親戚に? 妹さんだけ? 76 00:05:58,397 --> 00:06:03,597 まだ小さい妹だけならばって 連れてった。 77 00:06:09,075 --> 00:06:11,744 そうだったのか…。 78 00:06:11,744 --> 00:06:14,080 それは つらかったね。 79 00:06:14,080 --> 00:06:19,886 せっかく ためたお金も ここのやつらに取られて…。 80 00:06:19,886 --> 00:06:22,586 チクショー…。 81 00:06:26,425 --> 00:06:30,229 お兄ちゃん 大丈夫だよ。 82 00:06:30,229 --> 00:06:34,533 千遥は 幸せに暮らしてるよ。 83 00:06:34,533 --> 00:06:38,833 ここにいるより ずっといいよ。 84 00:06:41,874 --> 00:06:46,545 それで… 何の用ですか? 85 00:06:46,545 --> 00:06:52,718 ああ… 実は 戦死された君たちのお父さんから➡ 86 00:06:52,718 --> 00:06:55,187 手紙を預かってきたんだ。 87 00:06:55,187 --> 00:06:58,387 それを 渡さなくてはと思ってね。 88 00:07:00,026 --> 00:07:05,731 軍隊の検閲を通さない お父さんの本当の手紙だ。 89 00:07:05,731 --> 00:07:08,931 君たちへの思いが込められてる。 90 00:07:23,749 --> 00:07:26,449 あっ お父さんの絵だ! 91 00:07:29,422 --> 00:07:32,158 絵が とても上手だよね。 92 00:07:32,158 --> 00:07:39,865 部隊では いろんな人の似顔絵を描いて お父さんは とても人気があったんだ。 93 00:07:39,865 --> 00:07:44,537 明るくて 面白い人だったね。 94 00:07:44,537 --> 00:07:49,375 嫌な上官の似顔絵を 面白く描いて➡ 95 00:07:49,375 --> 00:07:55,881 暗い戦地で その時だけは 笑い声が起こった。 96 00:07:55,881 --> 00:08:01,053 そのうち いろんな人から 家族の似顔絵を頼まれるようになって➡ 97 00:08:01,053 --> 00:08:05,925 お父さん 一生懸命に その人から 特徴を聞いて➡ 98 00:08:05,925 --> 00:08:12,665 丁寧に 明るく すてきな絵を描いてね。 99 00:08:12,665 --> 00:08:16,465 みんなに それで喜ばれて。 100 00:08:25,911 --> 00:08:30,111 どうも ありがとうございました…。 101 00:08:32,718 --> 00:08:39,859 ねえ あの… よかったら おじさんと 一緒に来ないか? 102 00:08:39,859 --> 00:08:45,364 おじさん 北海道に住んでるんだけど とても広い所だ。 103 00:08:45,364 --> 00:08:47,700 ここより ずっと広い。 104 00:08:47,700 --> 00:08:52,700 これから そこに帰るんだけど 一緒に来ないか? 105 00:08:54,573 --> 00:08:57,877 君たちのお父さんと約束したんだ。 106 00:08:57,877 --> 00:09:02,181 何かあった時には お互い助け合おうって。 107 00:09:02,181 --> 00:09:15,061 ♬~ 108 00:09:15,061 --> 00:09:18,898 おじさん! 109 00:09:18,898 --> 00:09:21,801 咲太郎君…。 110 00:09:21,801 --> 00:09:27,907 なつだけ… 妹だけ お願いできませんか? 111 00:09:27,907 --> 00:09:31,343 君は どうするんだ? 112 00:09:31,343 --> 00:09:38,117 俺まで行ったら 下の妹が かわいそうだから…。 113 00:09:38,117 --> 00:09:42,521 千遥を 迎えに行けなくなるから…。 114 00:09:42,521 --> 00:09:50,029 それに なつのことも 必ず そのうち 迎えに行きますから! 115 00:09:50,029 --> 00:09:53,029 だから それまで…。 116 00:09:56,168 --> 00:10:01,707 大丈夫だよ なつ ちょっとの辛抱だ。 117 00:10:01,707 --> 00:10:04,043 手紙を書くから。 118 00:10:04,043 --> 00:10:09,849 兄ちゃん しっかり働いて 必ず なつを迎えに行くからな。 119 00:10:09,849 --> 00:10:14,386 千遥と一緒に 迎えに行くよ。 120 00:10:14,386 --> 00:10:20,259 だから おじさんの家で 辛抱して待っててくれ。 121 00:10:20,259 --> 00:10:22,261 なっ? 122 00:10:22,261 --> 00:10:32,404 ♬~ 123 00:10:32,404 --> 00:10:36,208 おじさん お願いします。 124 00:10:36,208 --> 00:10:40,079 なつを幸せにして下さい。 125 00:10:40,079 --> 00:10:42,581 不幸にしたら 絶対 許さねえからな! 126 00:10:42,581 --> 00:10:44,617 覚えとけ! 127 00:10:44,617 --> 00:10:48,087 はい! 128 00:10:48,087 --> 00:10:53,592 それから あの子は 泣かずに 私についてきました。 129 00:10:53,592 --> 00:10:59,765 今 思うと あの子は お兄さんの負担を 少しでも減らそうとしたのかもしれない。 130 00:10:59,765 --> 00:11:05,237 だから 必死に我慢して…。 131 00:11:05,237 --> 00:11:08,774 そのお兄さんに どうしようもなく会いたくなっても➡ 132 00:11:08,774 --> 00:11:11,974 それは しかたがないさ。 133 00:11:14,947 --> 00:11:19,118 あの子は さぞ怒ってるでしょうね。 134 00:11:19,118 --> 00:11:23,956 大人らに あっちに行かされ こっちに行かされて。 135 00:11:23,956 --> 00:11:29,628 怒りなんていうのは とっくに通り越しとるよ。 136 00:11:29,628 --> 00:11:34,600 怒る前に あの子は諦めとる…。 137 00:11:34,600 --> 00:11:37,369 諦めるしかなかったんだ。 138 00:11:37,369 --> 00:11:41,574 それしか 生きるすべがなかったんじゃ。 139 00:11:41,574 --> 00:11:43,874 あの年で…。 140 00:11:45,744 --> 00:11:49,215 怒れる者は まだ幸せだ。 141 00:11:49,215 --> 00:11:53,015 自分の幸せを守るために 人は怒る。 142 00:11:55,421 --> 00:11:58,924 今のあの子には それもない。 143 00:11:58,924 --> 00:12:06,924 争いごとを嫌って あの子は 怒ることができなくなった。 144 00:12:12,104 --> 00:12:16,442 (泰樹)あの子の望みは ただ 生きる場所を得ることじゃ。 145 00:12:16,442 --> 00:12:32,391 ♬~ 146 00:12:32,391 --> 00:12:34,326 (天陽)うわ~…。 147 00:12:34,326 --> 00:12:36,826 あっ 天陽君! 148 00:12:40,132 --> 00:12:43,132 奥原… なつ? 149 00:12:44,970 --> 00:12:49,408 どうしたの? 兄ちゃんと 帯広に買い物に来て➡ 150 00:12:49,408 --> 00:12:52,311 俺は ここで釣りをしてる。 151 00:12:52,311 --> 00:12:54,913 お兄ちゃんがいるんだ。 152 00:12:54,913 --> 00:12:58,217 君は? 153 00:12:58,217 --> 00:13:02,087 うん… 私も家族と。 154 00:13:02,087 --> 00:13:05,287 家族って 柴田夕見子の? 155 00:13:07,893 --> 00:13:09,828 うん。 156 00:13:09,828 --> 00:13:15,528 買い物に来て… ここで待ってるの。 157 00:13:22,408 --> 00:13:26,945 とにかく その辺を捜してきます。 158 00:13:26,945 --> 00:13:29,145 おい ちょっと待て。 159 00:13:31,917 --> 00:13:35,054 あの子は賢い。 160 00:13:35,054 --> 00:13:39,925 もし 一人で生きようとするなら 水だ。 161 00:13:39,925 --> 00:13:44,196 よいしょ…。 お~ 来た! 162 00:13:44,196 --> 00:13:47,066 はい。 163 00:13:47,066 --> 00:13:51,904 うわっ うまいな…。 164 00:13:51,904 --> 00:13:54,940 ねえ この魚 頂戴。 165 00:13:54,940 --> 00:13:57,776 もちろん いいけど… 食べるのか? 166 00:13:57,776 --> 00:14:00,579 うん。 167 00:14:00,579 --> 00:14:03,916 一人で? 168 00:14:03,916 --> 00:14:06,916 家族を待ってる間に…。 169 00:14:08,787 --> 00:14:12,925 おなか すいちゃった。 170 00:14:12,925 --> 00:14:16,762 何かあったのか? 家で。 171 00:14:16,762 --> 00:14:21,233 何もないよ。 172 00:14:21,233 --> 00:14:23,302 どうして? 173 00:14:23,302 --> 00:14:26,438 君が寂しそうだからに決まってるだろ。 174 00:14:26,438 --> 00:14:29,238 寂しくなんかないよ。 175 00:14:31,410 --> 00:14:34,713 (陽平)天陽。 兄ちゃん。 176 00:14:34,713 --> 00:14:37,750 誰だ? 学校の同級生。 177 00:14:37,750 --> 00:14:40,185 家族と こっちに来てるんだって。 178 00:14:40,185 --> 00:14:43,389 こんにちは。 こんにちは。 179 00:14:43,389 --> 00:14:46,058 帰るぞ。 うん。 180 00:14:46,058 --> 00:14:47,993 一緒に帰るか? 181 00:14:47,993 --> 00:14:52,831 ううん ここで待ってないと。 そうか。 182 00:14:52,831 --> 00:14:57,569 じゃあ 明日 学校でね。 183 00:14:57,569 --> 00:15:00,205 学校で会おうな。 184 00:15:00,205 --> 00:15:02,574 分かった。 185 00:15:02,574 --> 00:15:06,274 ほら… 抱えて。 186 00:15:09,448 --> 00:15:12,248 ありがとう! うん! 187 00:15:17,923 --> 00:15:23,123 なつよ そんなに寂しく笑ってみせるな。