1 00:00:33,175 --> 00:00:37,880 彗星のごとく世に出た 稀代の英雄 織田信長は 2 00:00:37,880 --> 00:00:42,251 まさに疾風迅雷 怒濤と化し 炎と燃えて 3 00:00:42,251 --> 00:00:45,951 天下統一への道を ひた走ったのである 4 00:01:22,992 --> 00:01:28,397 新しい安土の城を本城に 天下平定を目指す信長に 5 00:01:28,397 --> 00:01:33,102 次代を担う若者たちも たくましく成長していた 6 00:01:33,102 --> 00:01:36,372 反逆者 松永弾正を破った織田軍が 7 00:01:36,372 --> 00:01:39,742 毛利の要塞も次々に撃破した 8 00:01:39,742 --> 00:01:43,345 しかし明智光秀は山陰出兵の際 9 00:01:43,345 --> 00:01:47,316 波多野兄弟の抵抗に 策を講じて陥れたが 10 00:01:47,316 --> 00:01:50,316 これが信長の逆鱗に触れた 11 00:01:52,288 --> 00:01:57,488 年が変わって 関東に再び戦乱が勃発した 12 00:02:01,263 --> 00:02:05,935 長篠の合戦で 壊滅的な打撃を受けた武田軍が 13 00:02:05,935 --> 00:02:10,206 起死回生の決戦を挑んだのである 14 00:02:10,206 --> 00:02:16,206 日を経ずして 織田軍が 一気に武田館に攻め込んだ 15 00:02:23,352 --> 00:02:26,889 勝頼の末路も哀れである 16 00:02:26,889 --> 00:02:28,991 麾下の武将にも見捨てられ 17 00:02:28,991 --> 00:02:32,394 残されたのは 自決の道だけであった 18 00:02:32,394 --> 00:02:34,597 許せ! 19 00:02:34,597 --> 00:02:37,099 うあっ 20 00:02:37,099 --> 00:02:39,101 だっ 21 00:02:39,101 --> 00:02:43,105 かくして数十代続いた源氏の名家 22 00:02:43,105 --> 00:02:46,775 武田家も滅亡した 23 00:02:46,775 --> 00:02:51,881 信長の本隊が諏訪の法花寺に 本陣を設けた時は 24 00:02:51,881 --> 00:02:55,151 既に勝敗は決していた 25 00:02:55,151 --> 00:03:00,856 武田勝頼といえば 日本中に 隠れもない弓取りであったが 26 00:03:00,856 --> 00:03:04,527 武人の生涯とは哀れなものよ 御意 27 00:03:04,527 --> 00:03:07,196 ところで 諏訪の百姓どもは 28 00:03:07,196 --> 00:03:09,698 我らを手放しで 歓迎しておるようじゃな 29 00:03:09,698 --> 00:03:13,302 はい かつてこの地は 信玄が攻め入り 30 00:03:13,302 --> 00:03:15,905 思うがままに 踏みにじってござりますれば 31 00:03:15,905 --> 00:03:17,907 いわば諏訪一族の恨みは 32 00:03:17,907 --> 00:03:20,576 晴れたのだという解釈も 成り立つのう 33 00:03:20,576 --> 00:03:25,915 仰せのとおり 人間の運は一代では見通せませぬ 34 00:03:25,915 --> 00:03:31,086 三世四世を通して 眺めやると 因縁の糸は恐ろしいほどに 35 00:03:31,086 --> 00:03:34,056 その一族を 縫い上げてござりまする 36 00:03:34,056 --> 00:03:39,061 それゆえ いつも ご慈悲とご善政が大事かと 37 00:03:39,061 --> 00:03:43,599 誰が そのような仏くさい たわ言を申せと言ったぞ 38 00:03:43,599 --> 00:03:47,169 三世四世を通して 眺めよと? 39 00:03:47,169 --> 00:03:49,238 誰が三世も四世も生き通したぞ! 40 00:03:49,238 --> 00:03:51,607 いえ それは… 41 00:03:51,607 --> 00:03:54,777 うぬは この信長も 無慈悲を続けてきているゆえ 42 00:03:54,777 --> 00:03:57,313 武田の轍を踏むぞと 言いたかったのであろう 43 00:03:57,313 --> 00:04:00,349 場所柄もわきまえず 不吉な失言をいたしました 44 00:04:00,349 --> 00:04:03,018 うかつさ 平にご容赦くださりませ 45 00:04:03,018 --> 00:04:05,187 光秀 46 00:04:05,187 --> 00:04:10,192 うぬは勝頼と信長を何ゆえ ここで比べようとするのじゃ 47 00:04:10,192 --> 00:04:12,928 平に… 平にお許しのほどを 48 00:04:12,928 --> 00:04:14,930 詫びるな! 49 00:04:14,930 --> 00:04:18,067 ただ詫びて済むことではない はっ 50 00:04:18,067 --> 00:04:23,305 世の中にはな 虫一匹殺しても 許せぬ奴もいれば 51 00:04:23,305 --> 00:04:27,309 百万の敵を討って それが善の場合もあるぞ 52 00:04:27,309 --> 00:04:31,614 信長は百年このかた続いた乱世に 泰平をもたらそうと 53 00:04:31,614 --> 00:04:35,150 悲願して我が身を捧げ 我が一族を捧げ 54 00:04:35,150 --> 00:04:37,453 いばらの道を切り開いた はい 55 00:04:37,453 --> 00:04:42,658 戦の根 乱世の根を 断とうとして ふるう 56 00:04:42,658 --> 00:04:46,228 この信長の多生の剣の悲しさが 分からぬゆえ 57 00:04:46,228 --> 00:04:48,597 そのような説教をする 58 00:04:48,597 --> 00:04:52,201 愚昧者め!愚昧は敵じゃ 59 00:04:52,201 --> 00:04:55,437 さあ 抜けい! 60 00:04:55,437 --> 00:04:58,237 抜かぬか 光秀 61 00:05:02,878 --> 00:05:07,449 信長の武と勝頼の武との 区別がつかぬ愚か者 62 00:05:07,449 --> 00:05:11,687 その身もまた 勝頼になりかねん痴れ者じゃ 63 00:05:11,687 --> 00:05:15,190 斬ってくれる さあ 抜けい! 64 00:05:15,190 --> 00:05:18,794 お怒りならば是非なきこと 65 00:05:18,794 --> 00:05:21,397 お手向かいはいたしませぬ 66 00:05:21,397 --> 00:05:24,033 ご存分なご成敗を 67 00:05:24,033 --> 00:05:26,635 何? 68 00:05:26,635 --> 00:05:29,405 抜かぬゆえ斬れと言うのか 69 00:05:29,405 --> 00:05:32,374 お手向かいをいたしましては 70 00:05:32,374 --> 00:05:36,174 いよいよ光秀の義が立ちませぬ 71 00:05:44,486 --> 00:05:46,855 これはこれは 上様 72 00:05:46,855 --> 00:05:49,024 おう 徳川殿か 73 00:05:49,024 --> 00:05:53,429 ご戦勝 まずは おめでとう存じまする 74 00:05:53,429 --> 00:05:56,965 このたびは大儀であった はあ 75 00:05:56,965 --> 00:06:00,035 お身のお陰で いよいよ この信長も中国平定に 76 00:06:00,035 --> 00:06:03,572 全力を傾けられる 77 00:06:03,572 --> 00:06:07,609 明智殿 何をそう 堅苦しゅうなされておる 78 00:06:07,609 --> 00:06:11,246 めでたい日じゃ 上様もさして怒ってはおられぬ 79 00:06:11,246 --> 00:06:13,248 さっ 立ちませい 80 00:06:13,248 --> 00:06:16,652 フハハハハハハ そのとおりじゃ 81 00:06:16,652 --> 00:06:21,957 光秀が本気になって 震えておるわ ハハハハ 82 00:06:21,957 --> 00:06:24,393 もうよい おさまった 83 00:06:24,393 --> 00:06:26,893 祝杯をあげようぞ 84 00:06:46,315 --> 00:06:50,686 恐ろしいお人じゃ は? 85 00:06:50,686 --> 00:06:55,991 右府様のご思案は常に 凡人の思い及ばぬ所にある 86 00:06:55,991 --> 00:06:58,627 いったん こやつめと にらませられたら 87 00:06:58,627 --> 00:07:01,764 何者もお許しないこと 88 00:07:01,764 --> 00:07:06,668 荒木がこと 松永がこと 勝頼がこと 89 00:07:06,668 --> 00:07:09,171 その例は無数にあろうが 90 00:07:09,171 --> 00:07:13,842 すると右府様は 殿をも にらませられておわすと? 91 00:07:13,842 --> 00:07:15,844 利三よ 92 00:07:15,844 --> 00:07:19,081 わしの目が違うておるかもしれぬ 93 00:07:19,081 --> 00:07:22,384 が よく気をつけてみると 94 00:07:22,384 --> 00:07:25,421 いろいろと思い当たることがある 95 00:07:25,421 --> 00:07:28,557 殿 96 00:07:28,557 --> 00:07:30,859 ただ今 お城から火急の使者が 97 00:07:30,859 --> 00:07:33,162 すぐ登城なされよとの上様の仰せ 98 00:07:33,162 --> 00:07:35,162 何? 99 00:07:37,199 --> 00:07:42,037 上様 諏訪では本当に お腹立ちなされましたそうな 100 00:07:42,037 --> 00:07:46,542 うん… 斬る気はなかった しかし腹は立ったのう 101 00:07:46,542 --> 00:07:49,411 信長と勝頼の区別のつかぬ奴は 102 00:07:49,411 --> 00:07:53,482 松永弾正のように 自分の力が測られず 103 00:07:53,482 --> 00:07:56,985 天下取り病にかかりやすい奴だ 104 00:07:56,985 --> 00:08:00,189 俺は光秀を もっと買っていたのだ 105 00:08:00,189 --> 00:08:03,826 いずれは日本の 海外への出入り口になるであろう 106 00:08:03,826 --> 00:08:07,196 九州の総大将になれる奴 107 00:08:07,196 --> 00:08:09,865 そう思うていただけに 108 00:08:09,865 --> 00:08:12,365 カーッとなった 109 00:08:17,105 --> 00:08:21,143 いやはや 忙しや 忙し… おお 110 00:08:21,143 --> 00:08:25,414 これは羽柴殿 安土へお帰りでござったか 111 00:08:25,414 --> 00:08:28,951 はあ 上様に 火急のご報告がありましてな 112 00:08:28,951 --> 00:08:31,386 ハハッ また中国へ すぐ とんぼ返りじゃ 113 00:08:31,386 --> 00:08:33,755 お自らご報告とは? 114 00:08:33,755 --> 00:08:36,425 ハア… 実はのう 115 00:08:36,425 --> 00:08:41,363 戦況がはかばかしくないゆえ 援軍を頼みに参ったのだ 116 00:08:41,363 --> 00:08:43,432 援軍… 117 00:08:43,432 --> 00:08:47,703 では上様のご機嫌は あまり かんばしくは… 118 00:08:47,703 --> 00:08:51,874 ハッハハハ 何を びくついておられる 119 00:08:51,874 --> 00:08:57,274 そういえば 諏訪での雷は ものすごかったそうな 120 00:09:01,216 --> 00:09:04,353 日向殿は根が正直すぎるのじゃ 121 00:09:04,353 --> 00:09:06,522 それがしなどは まともにぶつからず 122 00:09:06,522 --> 00:09:09,658 怒りの刃を ひょいひょい ひょいひょいと かわして… 123 00:09:09,658 --> 00:09:13,996 まあ 君子 危うきに近寄らず 124 00:09:13,996 --> 00:09:15,998 べったり おそばにいると どうしても 125 00:09:15,998 --> 00:09:18,600 標的にされてしまうでな 126 00:09:18,600 --> 00:09:22,671 おっと これは 上様には内緒のこと 127 00:09:22,671 --> 00:09:27,171 頼むぞ ん?ハハッ 忙しや 忙しや 128 00:09:31,947 --> 00:09:35,984 実はのう 光秀 はい 129 00:09:35,984 --> 00:09:39,555 今度 勝頼討伐をしおおせた記念に 130 00:09:39,555 --> 00:09:42,257 浜松から家康を招待し 131 00:09:42,257 --> 00:09:46,361 今日までの労苦を 労うてやりたいと思うのじゃ 132 00:09:46,361 --> 00:09:50,265 この安土の城を まだ家康は知らん 133 00:09:50,265 --> 00:09:52,267 縄張りしたのは こなたじゃ 134 00:09:52,267 --> 00:09:57,105 こなた 家康の接待役を 引き受けてくれぬか 135 00:09:57,105 --> 00:09:59,875 はっ しかし… 136 00:09:59,875 --> 00:10:05,447 その儀は この光秀では 心もとのうござりますれば… 137 00:10:05,447 --> 00:10:08,383 光秀よ はっ 138 00:10:08,383 --> 00:10:11,386 そちは何を考えているのじゃ 139 00:10:11,386 --> 00:10:13,922 はい 「はい」ではない 140 00:10:13,922 --> 00:10:17,626 この安土で 都の風に 一番詳しいのは そちじゃ 141 00:10:17,626 --> 00:10:19,995 他の者では務まるまいが 142 00:10:19,995 --> 00:10:22,931 はあ しかし ただ今は 143 00:10:22,931 --> 00:10:27,603 中国から羽柴筑前殿が 援軍を求めてきている大切な時 144 00:10:27,603 --> 00:10:32,641 そのような時に 徳川殿のご接待と 事が重なりましては 145 00:10:32,641 --> 00:10:35,711 何かと多忙に過ぎましょうかと… 146 00:10:35,711 --> 00:10:38,013 フハハ 光秀 147 00:10:38,013 --> 00:10:42,651 そちは筑前自ら援軍を 求めてきた心が見抜けぬのか 148 00:10:42,651 --> 00:10:44,653 と申されますると? 149 00:10:44,653 --> 00:10:48,590 フハハハハ そちは何かひどく考え込んで 150 00:10:48,590 --> 00:10:51,426 平素の機敏さを 失うているようじゃぞ 151 00:10:51,426 --> 00:10:55,998 よく考えてみよ 少々苦戦に陥ったとて 152 00:10:55,998 --> 00:11:00,369 筑前めが かつて援軍など 求めてきたことがあったか? 153 00:11:00,369 --> 00:11:02,904 さあ… それは… 154 00:11:02,904 --> 00:11:06,208 あるまい まこと苦しい時には 155 00:11:06,208 --> 00:11:09,811 一人 歯を食いしばっても それを切り抜けてみせるのが 156 00:11:09,811 --> 00:11:13,749 藤吉郎の昔から猿の本領じゃ 157 00:11:13,749 --> 00:11:16,018 そう仰せあれば確かに 158 00:11:16,018 --> 00:11:20,155 猿がの 「御大将直々にご援軍を」 159 00:11:20,155 --> 00:11:24,893 などと申してくる時は 勝算歴々の時なのじゃ 160 00:11:24,893 --> 00:11:29,197 でござりましょうか そちは猿より人がよいわ 161 00:11:29,197 --> 00:11:32,200 あれはのう 手柄を自分のものにして 162 00:11:32,200 --> 00:11:34,202 人に そねまれまいため 163 00:11:34,202 --> 00:11:37,005 わざわざ わしを呼び出してから 勝つ気なのじゃ 164 00:11:37,005 --> 00:11:39,608 フハハハハ あれのやり方など 165 00:11:39,608 --> 00:11:43,345 手に取るように見えるわ フハハハハ 166 00:11:43,345 --> 00:11:46,415 それゆえ心配せずに そちは 167 00:11:46,415 --> 00:11:49,518 家康を迎える支度にかかるがよい 168 00:11:49,518 --> 00:11:53,188 相分かりました 徳川殿のご接待役 169 00:11:53,188 --> 00:11:59,188 光秀 精魂を傾けて 相務めさせていただきまする 170 00:12:03,331 --> 00:12:07,202 宿舎は城下の大宝院と定められ 171 00:12:07,202 --> 00:12:10,505 1ヵ月後に家康一行を迎えた 172 00:12:10,505 --> 00:12:13,208 ご遠路つつがなく ご到着 173 00:12:13,208 --> 00:12:15,877 惟任日向守光秀 174 00:12:15,877 --> 00:12:18,777 ご祝着に存じまする 175 00:12:22,417 --> 00:12:25,454 ご加増の御礼 言上まいりました者に 176 00:12:25,454 --> 00:12:30,554 手厚いおもてなしを頂き 家康 かえって恐縮つかまつる 177 00:12:35,630 --> 00:12:39,501 おお これが家康の進物か 178 00:12:39,501 --> 00:12:42,404 はい 馬鎧300足 179 00:12:42,404 --> 00:12:44,973 生漆200樽 綿1000束 180 00:12:44,973 --> 00:12:47,476 それに黄金が3000両 181 00:12:47,476 --> 00:12:51,346 うーん よく心に刻んでおけよ 182 00:12:51,346 --> 00:12:56,752 贈り物にはな 期せずして 贈り主の心柄が出るものじゃ 183 00:12:56,752 --> 00:12:59,588 さすがは家康 184 00:12:59,588 --> 00:13:04,126 平素は倹約質実をもって 旨としながら 185 00:13:04,126 --> 00:13:07,863 必要とあらば金に糸目はつけぬ 186 00:13:07,863 --> 00:13:10,232 それが家康じゃ 187 00:13:10,232 --> 00:13:12,601 負くるでないぞ はい 188 00:13:12,601 --> 00:13:15,737 あっぱれなお心がけと存じまする 189 00:13:15,737 --> 00:13:18,673 そうじゃ 光秀 こういたせ 190 00:13:18,673 --> 00:13:21,943 この馬鎧だけでも 莫大な金がかかっていよう 191 00:13:21,943 --> 00:13:25,080 黄金3000両のうち 1000両は受納する 192 00:13:25,080 --> 00:13:28,650 が あとの2000両は返してとらせ 193 00:13:28,650 --> 00:13:30,652 2000両をお返しせよと… 194 00:13:30,652 --> 00:13:34,756 うん これより 京から堺へ回る旅の費えに 195 00:13:34,756 --> 00:13:37,125 充てられよと申してな 196 00:13:37,125 --> 00:13:42,225 向こうが向こうなら こちらにも 思いやりがなければならぬわ 197 00:13:54,709 --> 00:13:59,648 ほう 黄金の儀 1000両だけは納めるが 198 00:13:59,648 --> 00:14:03,318 あと2000両は旅の入費に 下さると仰せられましたか 199 00:14:03,318 --> 00:14:06,918 いかにも 2000両はお返し申すと 200 00:14:08,924 --> 00:14:12,727 日向守殿 これは右府様が 201 00:14:12,727 --> 00:14:17,599 我らが費用がかさむのを 哀れまれてのことと思われるが 202 00:14:17,599 --> 00:14:20,535 それならば ご案じなさるな 203 00:14:20,535 --> 00:14:23,872 我ら いささか 平素の心がけもござれば 204 00:14:23,872 --> 00:14:28,009 旅の入費は 十分 別に用意がござる 205 00:14:28,009 --> 00:14:30,612 中国にて 戦なされておわすことなれば 206 00:14:30,612 --> 00:14:34,449 家康が寸志 ぜひともご受納くださるよう 207 00:14:34,449 --> 00:14:36,518 重ねて言上 頼み入る 208 00:14:36,518 --> 00:14:40,422 しかし徳川殿 ご上意でござりますれば… 209 00:14:40,422 --> 00:14:42,757 フッハハハハハ 210 00:14:42,757 --> 00:14:47,229 日向守殿 それは おことの考え違いであろう 211 00:14:47,229 --> 00:14:50,065 は? 上様のお心は 212 00:14:50,065 --> 00:14:52,667 我らには よう分かっておる 213 00:14:52,667 --> 00:14:57,405 当方にも甲州攻め以来 いろいろ出費もあった後ゆえ 214 00:14:57,405 --> 00:15:01,476 手元不如意であろうと 察せられての おいたわりじゃ 215 00:15:01,476 --> 00:15:05,547 決して受け取らぬとか 受け取れぬとかいう 216 00:15:05,547 --> 00:15:08,550 上意と言うべき性質のものでは ないと思う 217 00:15:08,550 --> 00:15:10,719 ご案じくださるな 218 00:15:10,719 --> 00:15:14,456 我ら一党が常々 粗衣粗食を旨とし 219 00:15:14,456 --> 00:15:16,758 諸用を節して暮らしてきたは 220 00:15:16,758 --> 00:15:21,763 万一の折 国のお役に立とうがためじゃ 221 00:15:21,763 --> 00:15:24,966 右府様 今日の中国出兵は 222 00:15:24,966 --> 00:15:29,604 日本国の統一がなるかならぬかの 大切な戦 223 00:15:29,604 --> 00:15:35,310 そのような千載一遇の折に 微力をいたすは家康が喜び 224 00:15:35,310 --> 00:15:38,046 おいたわりは かえって不本意でござれば 225 00:15:38,046 --> 00:15:42,746 曲げて ご受納くださるよう 重ねて言上 頼み入る 226 00:15:46,121 --> 00:15:48,590 たわけ者めが! はっ 227 00:15:48,590 --> 00:15:52,661 それ見よ 家康の心がけが分かったか 228 00:15:52,661 --> 00:15:55,363 それゆえ いたわらねばならんと 申しているのじゃ 229 00:15:55,363 --> 00:15:59,801 それを何じゃ 返しもせず のめのめ戻ってくるとは 230 00:15:59,801 --> 00:16:02,704 返せと申したら返してまいれ! ああっ しばらく 231 00:16:02,704 --> 00:16:05,240 くどいぞ かっ 232 00:16:05,240 --> 00:16:09,244 俺は忙しいのじゃ これから滝川 池田と軍議がある 233 00:16:09,244 --> 00:16:12,847 軍議と申されますると… 聞くに及ばん 234 00:16:12,847 --> 00:16:15,750 そちは家康の接待に 心を砕いておればよいのじゃ 235 00:16:15,750 --> 00:16:17,750 たわけめ 236 00:16:32,267 --> 00:16:36,771 徳川殿に 光秀 折り入ってお願いの儀が 237 00:16:36,771 --> 00:16:40,308 はて 2000両のお話とは別に? 238 00:16:40,308 --> 00:16:43,411 いえ そのことにござります 239 00:16:43,411 --> 00:16:47,048 光秀 生死を懸けてのお願い 240 00:16:47,048 --> 00:16:51,119 曲げて お聞き入れにあずかりたい 241 00:16:51,119 --> 00:16:53,555 徳川殿ご存じのとおり 242 00:16:53,555 --> 00:16:57,826 上様はまことに激しい 一概なご気性 243 00:16:57,826 --> 00:17:00,562 それは我らも よう存じておるが 244 00:17:00,562 --> 00:17:06,001 その上様が 2000両はお返し申せと 245 00:17:06,001 --> 00:17:09,904 重ねて私めに厳命なされました 246 00:17:09,904 --> 00:17:13,241 何?厳命 いかにも 247 00:17:13,241 --> 00:17:16,644 それがしとて 子供の使いではござりませぬ 248 00:17:16,644 --> 00:17:18,646 徳川殿が いったんお出しなされたものを 249 00:17:18,646 --> 00:17:20,682 お返し申すは失礼と 250 00:17:20,682 --> 00:17:23,785 無論 一応も二応も 申し上げましたが 251 00:17:23,785 --> 00:17:26,421 お聞き入れござりませぬ 252 00:17:26,421 --> 00:17:31,593 それを またまた 押し返してまいりますると… 253 00:17:31,593 --> 00:17:34,462 分かりました 254 00:17:34,462 --> 00:17:37,032 しかし いったん出されたものを 255 00:17:37,032 --> 00:17:41,970 よい みな おいたわりから 発したことじゃ 256 00:17:41,970 --> 00:17:45,974 そのために 気まずいことができてはならぬ 257 00:17:45,974 --> 00:17:49,377 日向守殿 相分かった 258 00:17:49,377 --> 00:17:51,813 そこもとの立場もあろう 259 00:17:51,813 --> 00:17:56,951 不本意ながら2000両は 家康が手元に引き取り申そう 260 00:17:56,951 --> 00:18:00,551 まこと ありがたく 261 00:18:09,164 --> 00:18:12,634 これで事なきを得たが 262 00:18:12,634 --> 00:18:14,903 どうして いちいち わしのやることには 263 00:18:14,903 --> 00:18:17,803 こう けちがついてゆくのかな 264 00:18:19,808 --> 00:18:23,711 我が上様に徳川殿の10分の1の 265 00:18:23,711 --> 00:18:26,648 思いやりがあってくれたらなあ 266 00:18:26,648 --> 00:18:32,087 しかし この時 信長が新たな 苦境に立たされていたことを 267 00:18:32,087 --> 00:18:34,587 光秀は知らない 268 00:18:38,126 --> 00:18:43,398 秀吉が自信を持って臨んだ 中国攻めの戦況が悪化し 269 00:18:43,398 --> 00:18:48,598 この日一日 矢継ぎ早の使者が 安土城に駆け込んだ 270 00:18:50,638 --> 00:18:53,741 そうか 271 00:18:53,741 --> 00:18:58,580 毛利の一族 あげて備中へ出てきたか 272 00:18:58,580 --> 00:19:02,817 当主の輝元をはじめとして 一族の吉川元春 273 00:19:02,817 --> 00:19:06,521 小早川隆景の三将にて その勢力 およそ3万 274 00:19:06,521 --> 00:19:09,457 3万の新手の攻撃を受けましては 275 00:19:09,457 --> 00:19:11,693 味方にまったく 勝算はござりませぬ 276 00:19:11,693 --> 00:19:14,863 なるほど それでは筑前も青くなろう 277 00:19:14,863 --> 00:19:17,599 して どう対処するかじゃ 278 00:19:17,599 --> 00:19:19,868 一刻を争いまする 279 00:19:19,868 --> 00:19:23,104 これは上様にご出馬願うが 一番の早道かと 280 00:19:23,104 --> 00:19:25,440 よし では そう決めよう 281 00:19:25,440 --> 00:19:28,810 わしは19 20日 21日と 家康を接待して 282 00:19:28,810 --> 00:19:32,480 一行を堺に発たせてから 安土を立つ 283 00:19:32,480 --> 00:19:34,516 すると その間の援軍は? 284 00:19:34,516 --> 00:19:37,318 用意のできた者から どしどし送れ 285 00:19:37,318 --> 00:19:39,487 が… 286 00:19:39,487 --> 00:19:44,025 そうなると 光秀も出陣させなければならぬな 287 00:19:44,025 --> 00:19:47,328 しかし日向殿には大事な接待役が 288 00:19:47,328 --> 00:19:50,798 代えるまでじゃ 光秀は戦略にかけては 289 00:19:50,798 --> 00:19:52,867 秀吉と双璧をなす 290 00:19:52,867 --> 00:19:55,303 かかる事態には必要不可欠 291 00:19:55,303 --> 00:19:58,239 では すぐにも緊急の回状を 292 00:19:58,239 --> 00:20:01,910 よし 今夜のうちに 近場から回して布令させておけ 293 00:20:01,910 --> 00:20:05,380 火急のことゆえ異論は一切認めん 294 00:20:05,380 --> 00:20:09,050 「一つ この度 備中の国 後詰めのため」 295 00:20:09,050 --> 00:20:12,820 「近日 かの国へ 出馬いたすべきものなり」 296 00:20:12,820 --> 00:20:17,759 「これによって 先手の面々 我より先に彼の地に至り」 297 00:20:17,759 --> 00:20:21,829 「羽柴秀吉が指図に 任すべきものなり」 298 00:20:21,829 --> 00:20:24,232 これは一体 どういうことじゃ 299 00:20:24,232 --> 00:20:27,101 届け来られました 堀家のご家来が口上によれば 300 00:20:27,101 --> 00:20:32,173 本日限りをもって接待役を解任 中国へ出陣せよと 301 00:20:32,173 --> 00:20:35,109 惟任日向守ともあろう者が 302 00:20:35,109 --> 00:20:37,579 丹羽 滝川はさておき 303 00:20:37,579 --> 00:20:41,182 無位無冠の池田や堀よりも下に 名が書かれ 304 00:20:41,182 --> 00:20:45,553 しかも「羽柴が指図を受けよ」とは 305 00:20:45,553 --> 00:20:48,289 写しを取り 回状を次へ 306 00:20:48,289 --> 00:20:51,359 まったく右府様は 何を考えておられるやら 307 00:20:51,359 --> 00:20:53,561 殿 いかがなされまするか 308 00:20:53,561 --> 00:20:58,766 今 右府様の腹がどうのと 詮索しても始まらぬ 309 00:20:58,766 --> 00:21:01,903 ともかく坂本の城へ引き揚げよう 310 00:21:01,903 --> 00:21:04,606 そして戦備を整えながら 311 00:21:04,606 --> 00:21:08,406 右府様の後の出方を 待つよりほかあるまい 312 00:21:10,878 --> 00:21:14,782 坂本へお帰りなされまするか 313 00:21:14,782 --> 00:21:20,655 うん 上様の命で 中国へ出陣せねばならぬ 314 00:21:20,655 --> 00:21:23,825 留守中 よろしく頼むぞ 315 00:21:23,825 --> 00:21:26,828 はい 316 00:21:26,828 --> 00:21:30,365 まだ決心がつかぬようじゃのう 317 00:21:30,365 --> 00:21:34,965 えっ? 細川家の婚儀のことよ 318 00:21:38,439 --> 00:21:40,575 もうよい 319 00:21:40,575 --> 00:21:43,978 無理には勧めぬ 320 00:21:43,978 --> 00:21:48,950 ただ こなたの花嫁姿… 321 00:21:48,950 --> 00:21:51,150 見ておきたかった 322 00:22:03,031 --> 00:22:06,200 お父上はもう発たれましたか? 323 00:22:06,200 --> 00:22:09,470 はい 今朝早く 324 00:22:09,470 --> 00:22:11,839 何か変わったご様子は? 325 00:22:11,839 --> 00:22:14,242 いえ 別に 326 00:22:14,242 --> 00:22:16,644 それならばよいが 327 00:22:16,644 --> 00:22:19,380 蘭丸様 父上が何か? 328 00:22:19,380 --> 00:22:22,016 あっ いえ ただ… 329 00:22:22,016 --> 00:22:26,788 お父上は ここしばらくの間 家康殿のご接待に没頭なされ 330 00:22:26,788 --> 00:22:31,526 城中のことや中国の戦況からは 遠ざかっておられた 331 00:22:31,526 --> 00:22:35,563 上様のお心を 誤解しているのではないかと 332 00:22:35,563 --> 00:22:39,634 それが案じられて 333 00:22:39,634 --> 00:22:42,003 そういえば 334 00:22:42,003 --> 00:22:45,239 とても寂しそうにして おられました 335 00:22:45,239 --> 00:22:50,311 ハア… わたくしのせいかも しれませぬ 336 00:22:50,311 --> 00:22:52,947 わたくしの縁談のことで 337 00:22:52,947 --> 00:22:58,252 お珠殿 この蘭丸 お願いがございます 338 00:22:58,252 --> 00:23:00,254 はい 339 00:23:00,254 --> 00:23:04,125 細川家との縁組 お受けしていただけませぬか 340 00:23:04,125 --> 00:23:07,061 蘭丸様 お父上のため 341 00:23:07,061 --> 00:23:10,398 いえ お珠殿 ご自身のため 342 00:23:10,398 --> 00:23:13,868 蘭丸様 343 00:23:13,868 --> 00:23:19,468 それほどまでに このわたくしを 疎ましく思われまするか 344 00:23:21,576 --> 00:23:27,215 わたくしでは蘭丸様の妻には なれぬのでしょうか 345 00:23:27,215 --> 00:23:33,020 いえ ただ何か恐ろしいのです 346 00:23:33,020 --> 00:23:35,022 えっ? 347 00:23:35,022 --> 00:23:38,259 あってはならぬことですが 348 00:23:38,259 --> 00:23:43,030 上様とお父上は ご性格がまるで水と油 349 00:23:43,030 --> 00:23:48,269 いつか お二人の間が 断絶するようなことが… 350 00:23:48,269 --> 00:23:53,408 そうなれば 上様に生涯を捧げた この蘭丸は 351 00:23:53,408 --> 00:23:56,844 お父上に刃を向けなければ ならぬかもしれませぬ 352 00:23:56,844 --> 00:24:02,583 そして お珠殿と お父上の嘆きを 353 00:24:02,583 --> 00:24:05,920 深めることになりはしないかと 354 00:24:05,920 --> 00:24:08,520 蘭丸様 355 00:24:15,963 --> 00:24:19,400 殿 実は気にかかることを 356 00:24:19,400 --> 00:24:22,370 上様のお使い番 青山与総より 357 00:24:22,370 --> 00:24:25,106 耳にいたしました うん 358 00:24:25,106 --> 00:24:28,376 殿のお国替えのことで ござりまする 359 00:24:28,376 --> 00:24:31,245 わしの国替えじゃと? はい 360 00:24:31,245 --> 00:24:35,216 殿をここで中国へ出陣させ 手柄次第で 361 00:24:35,216 --> 00:24:40,788 上様は出雲 石見の2ヵ国を 与えるつもりと 362 00:24:40,788 --> 00:24:43,224 出雲 石見の2ヵ国を? 363 00:24:43,224 --> 00:24:46,661 考えようによれば 毛利の押さえとして 364 00:24:46,661 --> 00:24:49,330 これはご出世とも受け取れまする 365 00:24:49,330 --> 00:24:52,066 しかし考えようによれば 366 00:24:52,066 --> 00:24:57,238 これこそ殿を自滅に導く工作とも 取れまする 367 00:24:57,238 --> 00:25:00,741 出雲 石見はまだ敵領 368 00:25:00,741 --> 00:25:03,211 それを腕次第で切り取れと言われ 369 00:25:03,211 --> 00:25:06,881 旧領の丹後とこの近江の一角を 召し上げられますると 370 00:25:06,881 --> 00:25:12,086 万一 毛利勢を 駆逐できなんだ折には 371 00:25:12,086 --> 00:25:16,190 我らは一度に 流浪の民に成り下がりまする 372 00:25:16,190 --> 00:25:22,096 うん すると出雲 石見の 2ヵ国を与える代わりに 373 00:25:22,096 --> 00:25:25,396 旧領は召し上げるということか 374 00:25:29,403 --> 00:25:32,874 上様は今 安土で どうしておられるかのう 375 00:25:32,874 --> 00:25:35,243 家康殿を城に招いて 376 00:25:35,243 --> 00:25:39,243 歓待しているものと思われまする 377 00:25:45,520 --> 00:25:50,820 疑惑が疑惑を呼び 怒りが怒りを呼ぶ 378 00:25:53,661 --> 00:25:57,532 利三よ はい 379 00:25:57,532 --> 00:26:00,234 おことには隠せまい 380 00:26:00,234 --> 00:26:03,104 わしは決しかねておった 381 00:26:03,104 --> 00:26:08,843 が 決せずにいたのでは これも自滅 382 00:26:08,843 --> 00:26:10,845 殿 383 00:26:10,845 --> 00:26:14,148 上様は月末には 京の本能寺に入られよう 384 00:26:14,148 --> 00:26:17,552 我らが軍勢が中国へ赴くと 見せかけて 385 00:26:17,552 --> 00:26:21,689 さっと馬首をめぐらせ 386 00:26:21,689 --> 00:26:26,394 進路を本能寺に変えたら何となる 387 00:26:26,394 --> 00:26:28,829 それでは… 388 00:26:28,829 --> 00:26:30,831 近く決する 389 00:26:30,831 --> 00:26:34,869 が よいか どこまでも他には漏らすな 390 00:26:34,869 --> 00:26:38,869 たとえ妻子にも よいな 利三 391 00:26:46,914 --> 00:26:49,750 (戸が開く音) 392 00:26:49,750 --> 00:26:51,750 誰じゃ 393 00:27:00,394 --> 00:27:02,663 お珠 394 00:27:02,663 --> 00:27:08,502 お父上 ご出陣 おめでとうござりまする 395 00:27:08,502 --> 00:27:12,073 その姿は 396 00:27:12,073 --> 00:27:14,609 蘭丸様よりお聞きし 397 00:27:14,609 --> 00:27:19,614 父上のお苦しみ よく分かりました 398 00:27:19,614 --> 00:27:23,084 お珠は仰せに従い 399 00:27:23,084 --> 00:27:26,520 嫁ぎまする 400 00:27:26,520 --> 00:27:29,123 ご出陣召される父上に 401 00:27:29,123 --> 00:27:33,894 一足早く 晴れの花嫁姿をお目にかけたく 402 00:27:33,894 --> 00:27:36,294 こうして 403 00:27:40,401 --> 00:27:44,872 お互い出陣じゃの 404 00:27:44,872 --> 00:27:51,178 他家へ嫁ぐは おなごの出陣かもしれぬ 405 00:27:51,178 --> 00:27:55,282 お珠よ もし万一の… 406 00:27:55,282 --> 00:28:00,988 いや これは 武人のたしなみとして申すのじゃ 407 00:28:00,988 --> 00:28:03,858 そちも武人の娘 408 00:28:03,858 --> 00:28:08,863 もし万一のことがあっても 心強う生きてくれよ 409 00:28:08,863 --> 00:28:10,863 はい 410 00:28:14,568 --> 00:28:16,568 いざ 出陣 411 00:28:22,076 --> 00:28:25,046 さらば 412 00:28:25,046 --> 00:28:27,046 父上 413 00:28:45,433 --> 00:28:49,170 数日して坂本城の明智勢は 414 00:28:49,170 --> 00:28:53,507 丹波の軍勢と合流すべく進発した 415 00:28:53,507 --> 00:28:58,779 軍列は白河越えに 嵯峨釈迦堂前へと道を取り 416 00:28:58,779 --> 00:29:02,083 そこで光秀は軍勢を離れ 417 00:29:02,083 --> 00:29:06,583 わずかの供を従え 愛宕山に登った 418 00:29:35,616 --> 00:29:40,516 「時は今 あめが下しる 五月かな」 419 00:29:43,023 --> 00:29:48,028 光秀が「これから天下を治めるぞ」 という決心と心情とが 420 00:29:48,028 --> 00:29:50,028 隠されている 421 00:29:52,032 --> 00:29:56,670 3日遅れて信長は京都へ入った 422 00:29:56,670 --> 00:30:01,876 京都での宿舎は ここ本能寺である 423 00:30:01,876 --> 00:30:05,846 翌日 光秀は亀山城に帰着 424 00:30:05,846 --> 00:30:10,351 ここに明智軍の総力が結集された 425 00:30:10,351 --> 00:30:14,755 光秀はな 天下取りの構想ならば 426 00:30:14,755 --> 00:30:18,592 おじのまむしの道三の元にあった 青年の頃から 427 00:30:18,592 --> 00:30:21,162 何度となく組み立てては解き 428 00:30:21,162 --> 00:30:23,898 解いては組み立てて夢見た 429 00:30:23,898 --> 00:30:27,902 そして今 信長に強いられて 430 00:30:27,902 --> 00:30:32,473 若き日の夢を 再びここへ燃え立たせた 431 00:30:32,473 --> 00:30:35,643 して 決行はいつ? 432 00:30:35,643 --> 00:30:40,481 今頃 信長は本能寺で京の政を聞き 433 00:30:40,481 --> 00:30:43,517 公家衆の挨拶を受けていよう 434 00:30:43,517 --> 00:30:46,720 やがて酒など出て 気も緩もう 435 00:30:46,720 --> 00:30:49,623 では襲撃は今夜? 436 00:30:49,623 --> 00:30:53,327 そうじゃ 437 00:30:53,327 --> 00:30:57,627 今夜半から明日の暁にかけて 438 00:31:00,134 --> 00:31:02,937 やっと公家どもの虫干しが 終わったか 439 00:31:02,937 --> 00:31:04,939 これで ゆるりと飲める 440 00:31:04,939 --> 00:31:07,241 虫干しなどと お口の悪い 441 00:31:07,241 --> 00:31:11,045 そうであろうが それぞれ一張羅を着こなして 442 00:31:11,045 --> 00:31:15,983 都中の公家どもが ぞろぞろと 言い合わせたようにやってきた 443 00:31:15,983 --> 00:31:19,283 まったく うんざりしたぞ 444 00:31:23,824 --> 00:31:26,360 いや その公家どもがな 445 00:31:26,360 --> 00:31:29,663 お濃のことを こう 陰口しておるそうな 446 00:31:29,663 --> 00:31:33,801 「昔から何十年経っても 同じ若さでいる」 447 00:31:33,801 --> 00:31:36,770 「あれは 九尾の狐に違いあるまい」と 448 00:31:36,770 --> 00:31:38,772 フハハハハハ 449 00:31:38,772 --> 00:31:40,908 それはもう お方様は 450 00:31:40,908 --> 00:31:44,411 いつまでも若く お美しくござりますれば 451 00:31:44,411 --> 00:31:47,448 たわけ 公家どもの世辞じゃわい 452 00:31:47,448 --> 00:31:49,516 お濃もいっぱしの古女房 453 00:31:49,516 --> 00:31:53,554 これはしたり わらわは まだ二十代のつもり 454 00:31:53,554 --> 00:31:57,458 上様こそ あまりお年を召されまするな 455 00:31:57,458 --> 00:31:59,894 人間 わずか50年の 456 00:31:59,894 --> 00:32:04,431 その50年に あと1年まで生き延びたわ 457 00:32:04,431 --> 00:32:08,569 こなたが わしの寝首をかこうと 狙うてきた折からすれば 458 00:32:08,569 --> 00:32:10,771 長い長い人生であった 459 00:32:10,771 --> 00:32:14,208 まあ まだそれを忘れませぬか 460 00:32:14,208 --> 00:32:17,011 というて 461 00:32:17,011 --> 00:32:21,916 天下統一は まだ完全には成し遂げ得られぬ 462 00:32:21,916 --> 00:32:25,185 それからすれば短いような 463 00:32:25,185 --> 00:32:28,856 さあ お酌を 464 00:32:28,856 --> 00:32:31,225 よし 飲もう 465 00:32:31,225 --> 00:32:35,696 美濃一番の才女に 尾張一番の大うつけ 466 00:32:35,696 --> 00:32:40,296 その昔に戻った気持ちで 楽しく飲もうぞ 467 00:32:42,770 --> 00:32:47,308 フッハハハハハ ハハハハハ 468 00:32:47,308 --> 00:32:49,643 よう聞け 469 00:32:49,643 --> 00:32:55,349 我らは これより 中国へ遠征するにあらず! 470 00:32:55,349 --> 00:33:00,220 敵は… 敵は本能寺にあり! 471 00:33:00,220 --> 00:33:02,690 討たねば討たれるゆえ 472 00:33:02,690 --> 00:33:08,028 やむなく右大将 信長の 御首級を頂く決意をした 473 00:33:08,028 --> 00:33:12,499 従って 明日から天下の号令者は 474 00:33:12,499 --> 00:33:14,535 この日向じゃ! 475 00:33:14,535 --> 00:33:18,105 皆々 後れを取って悔いを残すな 476 00:33:18,105 --> 00:33:20,240 おーっ おーっ 477 00:33:20,240 --> 00:33:26,840 人間五十年 478 00:33:28,749 --> 00:33:38,759 下天の内をくらぶれば 479 00:33:38,759 --> 00:33:50,838 夢幻のごとくなり 480 00:33:50,838 --> 00:33:57,678 一度 生を得て 481 00:33:57,678 --> 00:34:09,857 滅せぬ者のあるべきか 482 00:34:09,857 --> 00:34:24,157 滅せぬ者のあるべきか… 483 00:34:26,206 --> 00:34:30,506 そして運命の時がやってきた 484 00:34:47,227 --> 00:34:49,827 (兵士たちの雄叫び) 485 00:35:01,909 --> 00:35:04,645 上様 上様 486 00:35:04,645 --> 00:35:08,382 何の騒ぎじゃ 何者かが寺内に乱入しました 487 00:35:08,382 --> 00:35:11,385 旗が見えました 軍勢にござりまする 488 00:35:11,385 --> 00:35:13,654 何?旗 旗印は? 489 00:35:13,654 --> 00:35:17,491 確かに桔梗の紋所 間違いございません 490 00:35:17,491 --> 00:35:20,327 桔梗の旗と申せば… 491 00:35:20,327 --> 00:35:23,363 明智殿 492 00:35:23,363 --> 00:35:26,433 光秀 謀反だと? 493 00:35:26,433 --> 00:35:28,569 ははっ 494 00:35:28,569 --> 00:35:31,371 彼奴か 495 00:35:31,371 --> 00:35:36,210 彼奴では どうにもならぬわ 上様 496 00:35:36,210 --> 00:35:40,910 光秀の謀反では 考え落ちは あるまいということじゃ 497 00:36:05,472 --> 00:36:07,472 矢! 498 00:36:10,077 --> 00:36:12,980 うわっ ああ… 499 00:36:12,980 --> 00:36:15,280 ぐわっ ああっ 500 00:36:27,528 --> 00:36:30,628 くっ ええい 501 00:36:34,201 --> 00:36:37,538 何だ お濃ではないか はい 502 00:36:37,538 --> 00:36:41,608 なんという気負いようじゃ よい年をして 去れ 503 00:36:41,608 --> 00:36:44,945 女たちを引き連れ 今のうちに早う落ちよ 504 00:36:44,945 --> 00:36:47,545 それは各務野が 505 00:36:49,883 --> 00:36:51,885 お濃 うぬもだ! 506 00:36:51,885 --> 00:36:54,888 わらわは 吉法師の妻にござりまする 507 00:36:54,888 --> 00:36:57,591 何?吉法師だと? 508 00:36:57,591 --> 00:37:01,962 はい こうなれば もう 殿は右大将ではござりませぬ 509 00:37:01,962 --> 00:37:06,862 尾張一の暴れ者 無法者の吉法師にござりまする 510 00:37:16,610 --> 00:37:18,612 慮外者め 511 00:37:18,612 --> 00:37:22,916 天下は うぬらが こそこそ 盗めるようなものではないわ! 512 00:37:22,916 --> 00:37:26,116 こしゃくな! 513 00:37:35,395 --> 00:37:37,898 さっ 早く逃げなさい 514 00:37:37,898 --> 00:37:39,900 あの… 各務野様は? 515 00:37:39,900 --> 00:37:44,200 わらわは濃御前の影じゃ おそばを離れぬ 516 00:37:56,883 --> 00:38:00,187 あっ うっ… 517 00:38:00,187 --> 00:38:02,187 各務野! 518 00:38:04,224 --> 00:38:06,226 各務野 519 00:38:06,226 --> 00:38:09,463 姫… 520 00:38:09,463 --> 00:38:11,463 うっ 521 00:38:59,880 --> 00:39:02,416 ああっ えい やーっ 522 00:39:02,416 --> 00:39:04,718 はっ やーっ 523 00:39:04,718 --> 00:39:07,018 うわっ ぐわっ… 524 00:39:15,495 --> 00:39:18,632 おのれ ぐわーっ 525 00:39:18,632 --> 00:39:21,832 お濃 お濃! 526 00:39:23,870 --> 00:39:26,506 殿… 527 00:39:26,506 --> 00:39:29,276 早う 528 00:39:29,276 --> 00:39:31,976 奥へ… 529 00:39:44,558 --> 00:39:46,558 おのれ 530 00:39:57,070 --> 00:40:01,641 上様 敵は一歩も近づけませぬ 531 00:40:01,641 --> 00:40:05,141 心置きなく ご最期を 532 00:40:21,228 --> 00:40:23,830 日向殿 533 00:40:23,830 --> 00:40:27,401 蘭丸 534 00:40:27,401 --> 00:40:29,736 お珠殿に 535 00:40:29,736 --> 00:40:32,539 何じゃ 536 00:40:32,539 --> 00:40:35,108 この蘭丸 537 00:40:35,108 --> 00:40:37,911 お珠殿 538 00:40:37,911 --> 00:40:40,447 心から 539 00:40:40,447 --> 00:40:42,447 心から… 540 00:41:18,718 --> 00:41:21,988 たわけめ 541 00:41:21,988 --> 00:41:25,125 信長は天才的な革命家 542 00:41:25,125 --> 00:41:29,396 短気で直感的で 時には細かい理性よりも 543 00:41:29,396 --> 00:41:32,199 一気に ものの本質を突き貫く 544 00:41:32,199 --> 00:41:35,502 詩人のような感性に終始する 545 00:41:35,502 --> 00:41:38,605 一方 光秀はその逆で 546 00:41:38,605 --> 00:41:41,975 あらゆる辛酸をなめながら 世間を眺め 547 00:41:41,975 --> 00:41:47,214 書物を読み 理を追って生きてきた 548 00:41:47,214 --> 00:41:52,018 それだけに 信長から 光秀の心が見えないように 549 00:41:52,018 --> 00:41:57,157 光秀からも信長の生き方の 本領は見極められない 550 00:41:57,157 --> 00:42:02,557 それが この壮絶な結末を 招いたのであろう 551 00:42:10,637 --> 00:42:13,974 信長殿 552 00:42:13,974 --> 00:42:16,877 何じゃ 553 00:42:16,877 --> 00:42:23,049 面白い生涯にござりました 554 00:42:23,049 --> 00:42:25,318 うん 555 00:42:25,318 --> 00:42:28,418 断じて悔いなし 556 00:42:56,650 --> 00:42:58,650 うっ 557 00:43:03,690 --> 00:43:08,428 織田信長は 燃えさかる本能寺の炎の中で 558 00:43:08,428 --> 00:43:11,898 人間50年に1年余して 559 00:43:11,898 --> 00:43:16,298 その激しくも数奇な生涯を閉じた 560 00:43:22,642 --> 00:43:27,414 信長が扉を押し開いた 近世の天下は 561 00:43:27,414 --> 00:43:30,784 その後 秀吉 家康と受け継がれ 562 00:43:30,784 --> 00:43:36,384 数百年にわたる泰平の世へと 導かれたのである