1 00:00:02,069 --> 00:00:11,144 ♬~ (テーマ音楽) 2 00:00:11,144 --> 00:02:08,428 ♬~ 3 00:02:25,679 --> 00:02:27,681 (東吾)行くぞ! 4 00:02:27,681 --> 00:02:31,985 (少年たちの掛け声) 5 00:02:34,154 --> 00:02:37,057 それ! (少年たち)おう! 6 00:02:37,057 --> 00:02:45,165 (少年たちの掛け声) 7 00:02:45,165 --> 00:02:47,501 おっ 道を開けろ! 8 00:02:47,501 --> 00:02:51,171 寄れ! 寄るんだ! 道を開けろ! 9 00:02:51,171 --> 00:03:04,985 (少年たちの掛け声) 10 00:03:25,038 --> 00:03:39,486 (竹刀で打ち合う音) 11 00:03:39,486 --> 00:03:45,826 (善助)あの夫婦なら この狸穴で 硯や墨を商っている吉野屋って店の➡ 12 00:03:45,826 --> 00:03:50,697 主の治兵衛と おかみさんは えっと…➡ 13 00:03:50,697 --> 00:03:54,501 あ そうだ! おいくさん そういったと思いましたがね。 14 00:03:54,501 --> 00:03:56,837 まあ 仲のいい夫婦で➡ 15 00:03:56,837 --> 00:04:00,440 いつも ああやって おかみさんが旦那の手ぇ引いて➡ 16 00:04:00,440 --> 00:04:04,778 石段をね ゆっくりゆっくり 上がったり下りたりしながら➡ 17 00:04:04,778 --> 00:04:07,681 歩く稽古をしていますんで。 18 00:04:07,681 --> 00:04:12,652 ほれ合って夫婦になって 長い年月 添い遂げてきて➡ 19 00:04:12,652 --> 00:04:16,123 今でも仲よく寄り添いながら 生きている。 20 00:04:16,123 --> 00:04:20,994 誰も あの二人の中へは 割って入っていけない。 21 00:04:20,994 --> 00:04:23,463 そんな二人だった。 22 00:04:23,463 --> 00:04:27,801 若先生 あの二人 いくつに見えました? 23 00:04:27,801 --> 00:04:30,137 年か? ええ。 24 00:04:30,137 --> 00:04:35,008 いや それが… 50にも60にも見えて よく分からない。 25 00:04:35,008 --> 00:04:37,811 (笑い声) 何だ? 26 00:04:37,811 --> 00:04:41,681 いえね 誰にも あの二人の年は 分からないと見えます。 27 00:04:41,681 --> 00:04:43,683 本当は いくつなんだ? 28 00:04:43,683 --> 00:04:45,685 旦那の方が 45。 29 00:04:45,685 --> 00:04:49,422 え~? おかみさんは 40になったばかりでさあ。 30 00:04:49,422 --> 00:04:53,160 まさか…。 いえ 本当なんですよ それが。 31 00:04:53,160 --> 00:04:58,031 しかし… そうは見えない。 32 00:04:58,031 --> 00:05:00,967 ああ うそでねえ証拠に➡ 33 00:05:00,967 --> 00:05:06,706 あの夫婦が狸穴へ越してきて 店ぇ出したのが 6~7年前になります。 34 00:05:06,706 --> 00:05:09,643 まあ その時は 旦那も まだ40前➡ 35 00:05:09,643 --> 00:05:13,446 おかみさんの方は 厄そこそこってやつで➡ 36 00:05:13,446 --> 00:05:16,783 何度も 子供ができました。 うん。 37 00:05:16,783 --> 00:05:21,454 といっても 子供を産むっていうには 遅うござんしたからね。 38 00:05:21,454 --> 00:05:24,124 お産は 晩度 難産で➡ 39 00:05:24,124 --> 00:05:26,793 とても こりゃ 産婆の手には負えねえってんで…。 40 00:05:26,793 --> 00:05:30,463 へい。 医者 頼んで 産ましてもらったりしてたんですが➡ 41 00:05:30,463 --> 00:05:33,133 どういうものか 生まれた子供は➡ 42 00:05:33,133 --> 00:05:36,469 ひと月と保たずに 死んじまいましてね。 43 00:05:36,469 --> 00:05:38,805 かわいそうに…。 ええ。 44 00:05:38,805 --> 00:05:41,708 まあ 流産は 何べんしたか知れません。 45 00:05:41,708 --> 00:05:45,478 生まれてから 死んだ子だけでも 3人はいた。 46 00:05:45,478 --> 00:05:49,783 よくせき 子供には 縁のない夫婦なんだろうなあ…。 47 00:05:51,351 --> 00:05:55,822 (善助)まあ 結局 子供は一人もなし。➡ 48 00:05:55,822 --> 00:05:59,492 それで 気がめいっちまった ってんでしょうかね。➡ 49 00:05:59,492 --> 00:06:02,395 まあ 苦しい思いをして産んだ子が死ぬ度に➡ 50 00:06:02,395 --> 00:06:05,765 おかみさんは 3つも4つも 年を取っちまって➡ 51 00:06:05,765 --> 00:06:09,102 旦那の方も 昨年の秋に 卒中を患って➡ 52 00:06:09,102 --> 00:06:13,974 それから ガクンと 年寄りになっちまったんですよ。➡ 53 00:06:13,974 --> 00:06:19,112 まあ 硯だ筆なんてものは 売れるったって 売れねえったって➡ 54 00:06:19,112 --> 00:06:22,015 そう 数に開きはねえものだと見えて➡ 55 00:06:22,015 --> 00:06:26,786 主が患ってても 店は やっていけるらしい。➡ 56 00:06:26,786 --> 00:06:30,657 以前は 旦那が 習字を教えてたりしたんですが➡ 57 00:06:30,657 --> 00:06:33,126 今じゃ おかみさんが 旦那に代わって➡ 58 00:06:33,126 --> 00:06:36,463 近所の娘連中に 字の稽古をしてやってます。➡ 59 00:06:36,463 --> 00:06:42,135 ええ あのおかみさん 大層 きれいな字をね➡ 60 00:06:42,135 --> 00:06:44,437 書くんだそうです。 61 00:06:49,009 --> 00:06:52,479 (るい)羨ましいような お話ね。 62 00:06:52,479 --> 00:06:54,414 羨ましい? 63 00:06:54,414 --> 00:06:57,150 だって そう思いませんか? 64 00:06:57,150 --> 00:07:00,420 そりゃあ 子供さんのいないのは 寂しいでしょうが➡ 65 00:07:00,420 --> 00:07:03,323 そうやって 暮らしの心配もなく➡ 66 00:07:03,323 --> 00:07:07,761 ご夫婦そろって お宮の石段 仲よく上ったり下りたりしてるなんて➡ 67 00:07:07,761 --> 00:07:11,097 どんなに いいご夫婦だろうと 思っちゃう。 68 00:07:11,097 --> 00:07:15,435 私も年取ったら そういう夫婦になってみたい。 69 00:07:15,435 --> 00:07:19,306 俺は嫌だね。 あら どうして? 70 00:07:19,306 --> 00:07:22,309 45で卒中だなんて 真っ平だ。 71 00:07:22,309 --> 00:07:26,079 そりゃ 卒中は ごめんだけど➡ 72 00:07:26,079 --> 00:07:31,985 年を取っても 仲のいい夫婦でいられるのは…➡ 73 00:07:31,985 --> 00:07:35,121 羨ましいじゃありませんか。 74 00:07:35,121 --> 00:07:38,825 つまらねえことを 羨ましがるもんだよ。フフ…。 75 00:07:40,460 --> 00:07:43,797 うん。 あ…。 76 00:07:43,797 --> 00:07:47,467 ⚟(お吉)お嬢さん ちょっと すみません。 77 00:07:47,467 --> 00:07:51,171 いいわよ 入ってちょうだい。 78 00:07:53,139 --> 00:07:56,042 (お吉)あの… 千鳥の間のお客様なんですけどね…。 79 00:07:56,042 --> 00:08:00,947 ええ。 どうかした? お嬢さんに ちょっとお願い事があるって。 80 00:08:00,947 --> 00:08:05,085 はい 聞きましょう。 お帳場に見えてるのね? はい。 81 00:08:05,085 --> 00:08:07,387 ごめんなさい。 82 00:08:11,958 --> 00:08:13,960 すいませんね。 83 00:08:29,776 --> 00:08:32,112 (嘉助)お待たせいたしました。 84 00:08:32,112 --> 00:08:35,014 うん? ああ…。 85 00:08:35,014 --> 00:08:36,983 いよっ。 86 00:08:36,983 --> 00:08:39,986 一体 何なんだよ あれは? ええ? 87 00:08:39,986 --> 00:08:46,659 ああ 2階の千鳥の間に泊まっていなさる お武家様のお女中さんですよ。 88 00:08:46,659 --> 00:08:50,130 何か 苦情でもあるっていうのかい? いえ そうじゃないんです。 89 00:08:50,130 --> 00:08:53,800 何か 仕事を世話してくれって 言ってるんですがね。仕事? 90 00:08:53,800 --> 00:08:57,137 ええ 針仕事みてえなことを やりてえって言うんですよ。 91 00:08:57,137 --> 00:08:59,806 お武家が 何で そんな…。 92 00:08:59,806 --> 00:09:01,741 金に困ってるのか? 93 00:09:01,741 --> 00:09:06,613 金は もう 1年ご逗留なすっても余るほど 帳場でお預かりしてまさあね。 94 00:09:06,613 --> 00:09:09,416 そいつを減らしたくねえって。 95 00:09:09,416 --> 00:09:11,351 あの娘のご主人って人が言ってんのか? 96 00:09:11,351 --> 00:09:14,087 いえいえ。 あの娘さんが そう言ってるんで。 97 00:09:14,087 --> 00:09:17,424 ご主人には ないしょにしてもらいてえ とも言ってやす。 98 00:09:17,424 --> 00:09:19,759 ふ~ん。 99 00:09:19,759 --> 00:09:34,774 ♬~ 100 00:09:38,111 --> 00:09:50,457 (鳥の鳴き声) 101 00:09:50,457 --> 00:09:53,760 ⚟(お吉)あら お出かけでございますか? 102 00:09:58,131 --> 00:10:02,435 お気を付けて お出かけあそばしませ。 103 00:10:07,807 --> 00:10:09,809 うん。 104 00:10:17,150 --> 00:10:20,053 お気を付けて。 105 00:10:20,053 --> 00:10:22,055 行ってらっしゃいまし。 106 00:10:30,697 --> 00:10:34,000 あれが あの お女中のご主人なのかい。 107 00:10:36,503 --> 00:10:39,172 全体 何者なんだい? ええ? 108 00:10:39,172 --> 00:10:44,844 (お吉)嘉助さんはね 敵討ちじゃないかって言うんですよ。 109 00:10:44,844 --> 00:10:46,779 敵討ち…。 110 00:10:46,779 --> 00:10:52,185 足ごしらえも ものものしいし 第一 目つきが ただごとじゃないって。 111 00:10:52,185 --> 00:10:54,120 いつから ここへ泊まってるんだい? 112 00:10:54,120 --> 00:10:58,057 今日で ちょうど 10日になるかしらねえ。 ええ。 113 00:10:58,057 --> 00:11:01,995 千鳥の間って言ったな。 ええ。 114 00:11:01,995 --> 00:11:03,997 ちょっと…。 115 00:11:06,699 --> 00:11:11,471 あそこは 8畳一間だろう。 若い二人が 一間に寝てるのか? 116 00:11:11,471 --> 00:11:14,374 お布団は 2組 敷いてありますけどね。 117 00:11:14,374 --> 00:11:17,810 いい気なもんだぜ。 118 00:11:17,810 --> 00:11:21,147 お手つき女中を連れて 敵討ちか…。 119 00:11:21,147 --> 00:11:23,483 そんなんじゃございません! 120 00:11:23,483 --> 00:11:25,818 いやね 私も 最初は そうかと思ったんですけどね➡ 121 00:11:25,818 --> 00:11:28,154 そういう間柄ではございません。 122 00:11:28,154 --> 00:11:30,089 妙に はっきり言うんだな。 123 00:11:30,089 --> 00:11:32,492 そういう間柄じゃねえと どうして分かるんだい? 124 00:11:32,492 --> 00:11:36,362 だって お布団を片づけるのは 私ですもの。 125 00:11:36,362 --> 00:11:39,832 お吉…。 126 00:11:39,832 --> 00:11:41,834 あら フフフフフ…。 127 00:11:43,503 --> 00:11:47,173 これを縫ってみてくださいませんかって 頼んでみておくれ。 128 00:11:47,173 --> 00:11:51,044 お仕立物ですか? 縫い直しで 相すみませんがと言ってね。 129 00:11:51,044 --> 00:11:53,513 (お吉)はい。 お前の着物じゃねえか。 130 00:11:53,513 --> 00:11:57,183 はなから 人様のものを頼むわけにはいきませんよ。 131 00:11:57,183 --> 00:12:00,086 腕さえよければ この辺は 粋筋の家が多いから➡ 132 00:12:00,086 --> 00:12:02,021 仕事は いくらでも ありますけどね。 133 00:12:02,021 --> 00:12:05,024 では 早速 お持ちいたしましょう。 ええ。 134 00:12:07,460 --> 00:12:11,130 それにしても 変な客を しょい込んだものだな。 135 00:12:11,130 --> 00:12:15,134 宿屋ですから いろんなお客様が見えます。 136 00:12:23,142 --> 00:12:26,479 敵討ちの助太刀まで頼まれて➡ 137 00:12:26,479 --> 00:12:30,183 怪我をするなよ。 フッ…。 138 00:12:43,830 --> 00:12:47,166 (香苗)東吾さん 畝さんが見えましたよ。 139 00:12:47,166 --> 00:12:49,469 えっ! あっ 源さんが…。 140 00:12:51,504 --> 00:12:54,173 (香苗)さっ どうぞ。 141 00:12:54,173 --> 00:12:56,175 (源三郎)お邪魔いたします。 142 00:12:59,045 --> 00:13:03,049 何か用か? はあ。 143 00:13:09,656 --> 00:13:13,660 実は かわせみのことなんですが。 何かあったっていうのか? 144 00:13:13,660 --> 00:13:16,796 進藤喜一郎って泊まり客を ご存じですな? 145 00:13:16,796 --> 00:13:20,667 おいおい 源さん! 俺は かわせみへ 婿に入ったわけじゃねえよ。 146 00:13:20,667 --> 00:13:23,136 泊まり客の名前まで いちいち知るかい。 147 00:13:23,136 --> 00:13:25,071 女中を連れた若い武家ですが。 148 00:13:25,071 --> 00:13:27,807 ああ あの敵討ちか! それなら知ってる。 149 00:13:27,807 --> 00:13:30,710 まるで 芝居の「田宮坊太郎」だ。 150 00:13:30,710 --> 00:13:35,481 あんな ひ弱な男に 敵が討てるのかと 内々 心配をしていたのさ。 151 00:13:35,481 --> 00:13:39,152 嘉助も それを案じたものと見えまして 一度 調べてくれって言いますんで➡ 152 00:13:39,152 --> 00:13:41,821 昨日 宿改めってことで 詮議いたしました。 153 00:13:41,821 --> 00:13:44,157 ああ そいつはどうも ご苦労な話だが➡ 154 00:13:44,157 --> 00:13:47,493 で 何か分かったのか? 155 00:13:47,493 --> 00:13:49,796 敵討ちというのは 本当でした。 156 00:13:51,364 --> 00:13:56,169 (源三郎)あの喜一郎の父は 禁裏に仕える 御所の役人で 進藤喜左衛門。➡ 157 00:13:56,169 --> 00:13:58,504 身分は軽いが れっきとした者です。 158 00:13:58,504 --> 00:14:02,108 その親父殿が 誰かに殺されたっていうんだな? 159 00:14:02,108 --> 00:14:05,778 (源三郎)はあ。 当時 京都町奉行所の配下で➡ 160 00:14:05,778 --> 00:14:09,449 新井靜七という男が 喜左衛門とは 謡の仲間で➡ 161 00:14:09,449 --> 00:14:11,384 今から7年以前に➡ 162 00:14:11,384 --> 00:14:14,320 新井が 喜左衛門を討ち果たして 喜左衛門の妻➡ 163 00:14:14,320 --> 00:14:19,125 つまり 喜一郎の母親を奪って 出奔したというんですな。 164 00:14:19,125 --> 00:14:21,427 横恋慕か…。 165 00:14:22,995 --> 00:14:25,465 (源三郎)その時 喜一郎は 13。➡ 166 00:14:25,465 --> 00:14:27,800 親類中が集まって相談の上➡ 167 00:14:27,800 --> 00:14:30,470 御所役人の株を 親類の一人が買い取って➡ 168 00:14:30,470 --> 00:14:34,140 その金で 喜一郎は成人しました。 169 00:14:34,140 --> 00:14:39,812 御所役人というやつは あれで なかなか うまみのある役目だというからな。 170 00:14:39,812 --> 00:14:45,151 はあ。 まあ 親類中が 若い喜一郎を うまく丸め込んだってことでしょうね。 171 00:14:45,151 --> 00:14:47,086 だろうなあ。 172 00:14:47,086 --> 00:14:51,491 喜一郎が20歳になって 新井靜七が 江戸にいるっていう噂を聞き➡ 173 00:14:51,491 --> 00:14:54,827 女中のくみを連れて 敵討ちの旅に出たってわけです。 174 00:14:54,827 --> 00:15:00,433 さあ そのくみだが… 変わっているな。 175 00:15:00,433 --> 00:15:02,368 ほれ合った同士でもないのに➡ 176 00:15:02,368 --> 00:15:05,104 針仕事までして 主人に忠義を尽くそうっていうのは➡ 177 00:15:05,104 --> 00:15:07,440 どういうんだ? ええ? 178 00:15:07,440 --> 00:15:10,109 ほれ合ってねえって どうして分かるんです。 179 00:15:10,109 --> 00:15:12,445 お吉が言っていたよ。 他人だってな。 180 00:15:12,445 --> 00:15:15,348 一つ部屋に暮らしてて 他人てえのは 変じゃねえか? 181 00:15:15,348 --> 00:15:17,316 人間 誰しも 東吾さんや るいさんのように➡ 182 00:15:17,316 --> 00:15:19,318 ざっくばらんってわけには いきますまい。 183 00:15:19,318 --> 00:15:21,454 おいおい 皮肉か? 源さん…。 184 00:15:21,454 --> 00:15:24,123 いえ 真面目な話です。 185 00:15:24,123 --> 00:15:26,058 うん うん…。 186 00:15:26,058 --> 00:15:29,462 るいさんの話じゃあ 針仕事も 達者なようで。 187 00:15:29,462 --> 00:15:32,365 そうかい。 そいつは るいも 肩の荷を下ろしたろう。 188 00:15:32,365 --> 00:15:37,336 いいえ。 るいさんが親身になって 世話 焼いておいでなので…➡ 189 00:15:37,336 --> 00:15:40,473 あまり 深入りしねえ方が いいんじゃねぇかと。 190 00:15:40,473 --> 00:15:42,408 嘉助が そう言ってるのかい? 191 00:15:42,408 --> 00:15:44,343 私も そう思います。 192 00:15:44,343 --> 00:15:46,345 源さんまでな…。 193 00:15:46,345 --> 00:15:48,815 と申しますのも➡ 194 00:15:48,815 --> 00:15:53,152 調べてみますと 進藤喜一郎の立場が どうも よろしくはございません。 195 00:15:53,152 --> 00:15:55,087 うん? 196 00:15:55,087 --> 00:15:58,491 敵討ちの許し状さえ 持っちゃいねえんですよ。 197 00:15:58,491 --> 00:16:01,394 敵討ちの許し状を持っていねえだと!? 198 00:16:01,394 --> 00:16:03,763 なぜなんだい? おかしいじゃないか! ええ!? 199 00:16:03,763 --> 00:16:06,432 そんな筋の通らねえ話ってのが あるのかよ! 200 00:16:06,432 --> 00:16:10,770 ええ 源さん なぜなんだい!? ⚟おいおい 東吾。 201 00:16:10,770 --> 00:16:13,105 (通之進) 源さんを そう責めるんじゃねえやな。 202 00:16:13,105 --> 00:16:16,008 あ… これは 兄上。 203 00:16:16,008 --> 00:16:17,977 お帰りでございましたか。 204 00:16:17,977 --> 00:16:20,980 ハハ… かわいそうに まあ。 205 00:16:20,980 --> 00:16:24,450 おめえと違って 源さんはな 律儀者なんだ。 ええ? 206 00:16:24,450 --> 00:16:27,119 そこまで しゃべってしまっていいか どうか ほら 見ろ➡ 207 00:16:27,119 --> 00:16:33,793 目ぇ白黒させてるじゃねぇか。 なあ 源さんよ。 ハッハッハ…。 208 00:16:33,793 --> 00:16:37,129 ところで なあ 東吾…。 209 00:16:37,129 --> 00:16:43,002 山村信濃守様が 京都町奉行として 都へ上ったのはだな➡ 210 00:16:43,002 --> 00:16:46,472 御所の役人と禁裏御用の商人とが➡ 211 00:16:46,472 --> 00:16:50,810 腹を合わせて 不義不正を働いているらしいという噂が➡ 212 00:16:50,810 --> 00:16:55,481 御公儀にまで聞こえてきたから それを はっきりさせよう目的だったと➡ 213 00:16:55,481 --> 00:16:57,783 俺は そう聞いてるんでい。 214 00:16:59,352 --> 00:17:05,091 (通之進)新井靜七という奉行所の役人が 進藤喜左衛門に近づいたのも➡ 215 00:17:05,091 --> 00:17:11,430 まあ 事によると その辺のあやを 確かめようためだったのかもしれん。 216 00:17:11,430 --> 00:17:16,302 いや もしかすると 進藤喜左衛門自身 調べられる何かが➡ 217 00:17:16,302 --> 00:17:19,105 あったのかもしんねえ。 218 00:17:19,105 --> 00:17:21,040 なるほど。 219 00:17:21,040 --> 00:17:23,442 だから 御所側の方でもだ➡ 220 00:17:23,442 --> 00:17:26,779 新井靜七を下手に追い込んで 妙なボロは出したくねえ。 221 00:17:26,779 --> 00:17:30,783 まあ そういう思いが あるいは あったのかもしんねえやな。 222 00:17:32,451 --> 00:17:35,788 「触らぬ神に崇りなし」。 223 00:17:35,788 --> 00:17:39,125 敵討ちなんぞと 大上段に振りかぶって➡ 224 00:17:39,125 --> 00:17:42,795 「藪から蛇」になった日にゃあ それこそ 一大事だ。 225 00:17:42,795 --> 00:17:46,265 だから 喜一郎には 許し状を出さなかった➡ 226 00:17:46,265 --> 00:17:49,468 ということも ないとは言えないだろう。 227 00:17:49,468 --> 00:17:53,806 しかし それでは 喜一郎は どうなるのですか? 228 00:17:53,806 --> 00:17:57,476 敵を討っても 私闘ということになって 喜一郎の手柄にはならない! 229 00:17:57,476 --> 00:18:02,081 御所役人の株も売ってしまったから 京都にも帰る家はない! 230 00:18:02,081 --> 00:18:06,419 うん。 まあ かわいそうだが そういうことさ。 231 00:18:06,419 --> 00:18:10,089 では では…! おい 香苗。 232 00:18:10,089 --> 00:18:12,758 お前 源さんに 茶も出してやんねえのか。 ええ? 233 00:18:12,758 --> 00:18:15,428 (源三郎)あ いえ あの 私…。 234 00:18:15,428 --> 00:18:19,298 いくら 源さんが律儀だからっつってな そう 愛想がねえと➡ 235 00:18:19,298 --> 00:18:22,768 いつ どこで どんな悪口たたかれっか 分かんねえぞ。 おい。 236 00:18:22,768 --> 00:18:24,770 神林様…! 237 00:18:26,439 --> 00:18:32,778 冗談 冗談だよ。 ハハハハ! 238 00:18:32,778 --> 00:18:51,464 ♬~ 239 00:18:51,464 --> 00:18:53,799 なにも すぐ そこに うちがあるのに…。 240 00:18:53,799 --> 00:18:55,735 いいから いいから! 241 00:18:55,735 --> 00:19:05,745 ♬~ 242 00:19:05,745 --> 00:19:09,415 どうしたっていうんです? 243 00:19:09,415 --> 00:19:13,119 こんな所で 今更 私を 口説こうってんですか? 244 00:19:14,754 --> 00:19:18,090 うちじゃあ しにくい話だから。 245 00:19:18,090 --> 00:19:20,993 あら 何の話…? 246 00:19:20,993 --> 00:19:30,669 ♬~ 247 00:19:30,669 --> 00:19:35,107 そんなこと 畝様が おっしゃったんですか。 248 00:19:35,107 --> 00:19:37,043 おせっかいな人。 249 00:19:37,043 --> 00:19:40,780 第一 そんな ひどいことがありますか!? 250 00:19:40,780 --> 00:19:45,117 父親が殺されたっていうのに 御所役人の 不正が ばれるといけないから➡ 251 00:19:45,117 --> 00:19:47,053 敵討ちのお許しも出ない。 252 00:19:47,053 --> 00:19:50,456 家は 親類中が よってたかって いいようにしてしまう。 253 00:19:50,456 --> 00:19:54,794 そんな 勝手なことが…! 俺に文句を言ったって しかたがねえ。 254 00:19:54,794 --> 00:19:56,729 源さんにしたって なにも 喜一郎主従を➡ 255 00:19:56,729 --> 00:19:59,131 かわせみから追い出せと 言ってるんじゃねえ。 256 00:19:59,131 --> 00:20:03,002 るいが同情しすぎて あとで 困らねえようにと言ってくれたんだ。 257 00:20:03,002 --> 00:20:05,805 ああ… 世の中って嫌ですねえ。 258 00:20:05,805 --> 00:20:08,474 みすみす 気の毒な人だと分かっているのに➡ 259 00:20:08,474 --> 00:20:10,409 誰も 力を貸してあげない。 260 00:20:10,409 --> 00:20:14,346 それどころか お役人までが かえって 「世話するな」だなんて。 261 00:20:14,346 --> 00:20:17,149 るい! 262 00:20:17,149 --> 00:20:22,021 お前も 畝 源三郎という男の気性を まんざら 知らねえわけじゃあるめえ。 263 00:20:22,021 --> 00:20:28,494 源さんは源さんで 進藤喜一郎について できるだけのことはしているはずだ。 264 00:20:28,494 --> 00:20:32,364 恐らく 新井靜七の行方についても➡ 265 00:20:32,364 --> 00:20:37,169 源さんなりのやり方で追ってくれていると 俺は思う。 266 00:20:37,169 --> 00:20:41,040 敵を捜してくだすってるんですか? 267 00:20:41,040 --> 00:20:45,511 うん… 捜し出せるかどうかは分からねえが➡ 268 00:20:45,511 --> 00:20:50,516 新井が見つかったら 源さんなりの思慮分別もあるだろう。 269 00:20:52,384 --> 00:20:57,523 すみません。 私が間違ってました。 270 00:20:57,523 --> 00:21:02,128 何もできないくせに いっぱしの気になって…。 271 00:21:02,128 --> 00:21:04,463 恥ずかしい。 272 00:21:04,463 --> 00:21:08,134 るい… いいんだよ。 273 00:21:08,134 --> 00:21:11,837 るいがしたことは 間違っちゃいねえやな。 274 00:21:14,807 --> 00:21:19,812 源さんの言うのは 老婆心だ。 275 00:21:22,681 --> 00:21:25,451 ⚟(舟宿の女中) さあさあ こちらです…。 276 00:21:25,451 --> 00:21:30,356 ⚟(ふすまを開ける音) ⚟(舟宿の女中)どうぞ。➡ 277 00:21:30,356 --> 00:21:36,495 それでは 船頭が帰りますまで しばらくお待ちくださいまし。 278 00:21:36,495 --> 00:21:38,497 ⚟(ふすまを閉める音) 279 00:21:41,167 --> 00:21:45,037 ⚟(女)若旦那様。➡ 280 00:21:45,037 --> 00:21:49,041 若旦那様…! ⚟(男)いけない くみ! いけないんだ! 281 00:21:49,041 --> 00:21:54,513 おくみさん…? あの娘か!? 282 00:21:54,513 --> 00:21:59,385 (喜一郎)お前の気持ちは ありがたい! 私だって お前が嫌いなわけじゃない! 283 00:21:59,385 --> 00:22:03,122 だが いけないんだ…。 (くみ)くみは どうなっても…。 284 00:22:03,122 --> 00:22:06,125 たった一度 若旦那様に…! 285 00:22:21,473 --> 00:22:24,143 くみ! 何をする! 死なせて! 286 00:22:24,143 --> 00:22:26,812 くみ いけない! 離して!くみ やめろ! くみ! 287 00:22:26,812 --> 00:22:29,515 離して!いけない くみ! (ふすまの開く音) 288 00:22:36,155 --> 00:22:38,457 くみさん… ねっ。 289 00:22:53,505 --> 00:22:56,842 お恥ずかしいていをお見せ申して➡ 290 00:22:56,842 --> 00:23:00,713 なんとも面目がございません。 291 00:23:00,713 --> 00:23:05,651 野暮なところに踏み込んで すまなかったが…➡ 292 00:23:05,651 --> 00:23:08,654 どうも 聞いていられなくてね。 293 00:23:10,789 --> 00:23:14,660 あんた あの人が嫌いなのかい? 294 00:23:14,660 --> 00:23:16,662 向こうは あんたに ほれて ほれて➡ 295 00:23:16,662 --> 00:23:19,798 今日まで 必死になって 尽くしてきたんだぜ。 296 00:23:19,798 --> 00:23:22,701 あんたが 敵討ちのために くみさんの心を利用してきたんだ…。 297 00:23:22,701 --> 00:23:24,703 違います! 298 00:23:28,140 --> 00:23:32,011 私は…➡ 299 00:23:32,011 --> 00:23:35,814 くみが好きです! 300 00:23:35,814 --> 00:23:38,717 もし 妻を迎えるなら➡ 301 00:23:38,717 --> 00:23:42,154 くみよりないと思うております。 302 00:23:42,154 --> 00:23:48,027 そんなに思っているんなら どうして くみさんを抱いてあげねえのだ。 303 00:23:48,027 --> 00:23:54,166 くみが… ふびんだからです。 304 00:23:54,166 --> 00:23:56,168 うん? 305 00:23:59,505 --> 00:24:05,311 私は 敵を討つ身でございます。 306 00:24:05,311 --> 00:24:09,114 それは聞いた。 307 00:24:09,114 --> 00:24:16,989 敵を討つ身は いつまた 相手に 返り討ちに遭うかもしれません。 308 00:24:16,989 --> 00:24:23,662 討つことより 討たれることの方が… そんな言い方だな。 309 00:24:23,662 --> 00:24:25,965 腕に 自信がないんです。 310 00:24:32,137 --> 00:24:36,809 何もかも ご存じのようですので➡ 311 00:24:36,809 --> 00:24:39,111 包まずに申します。 312 00:24:40,679 --> 00:24:48,821 母が… いえ もう もう死んでいれば 話は別ですが➡ 313 00:24:48,821 --> 00:24:56,695 母が もしも生きていて 敵の新井靜七と一緒にいた時には➡ 314 00:24:56,695 --> 00:25:04,303 私は 母を刺して 自分も その場で腹切って死ぬ覚悟…! 315 00:25:04,303 --> 00:25:09,441 くみとは 他人のままでいたいと➡ 316 00:25:09,441 --> 00:25:11,744 思っているんです。 317 00:25:18,450 --> 00:25:28,127 僅か13の少年が ある日 突然 父を殺され 母に去られた。 318 00:25:28,127 --> 00:25:32,464 その日から 20歳の今日まで 少年は➡ 319 00:25:32,464 --> 00:25:37,169 母を斬って 自分も死ぬことだけを思って 生きてきた。 320 00:25:39,138 --> 00:25:44,476 そのためには いかに愛する くみでも➡ 321 00:25:44,476 --> 00:25:50,349 決して抱いてはならぬのだと 思い決めて…。 322 00:25:50,349 --> 00:25:53,052 かわいそうな人たち…。 323 00:25:55,821 --> 00:26:01,427 私たちよりも かわいそうな人たちが いたんですね。 324 00:26:01,427 --> 00:26:05,097 (すすり泣き) 325 00:26:05,097 --> 00:26:08,767 ⚟(お吉)お嬢さん すみません。 326 00:26:08,767 --> 00:26:11,670 なあに? お吉さん。 327 00:26:11,670 --> 00:26:14,373 あの~ 進藤様が…。 328 00:26:18,110 --> 00:26:22,448 まことに相すみませんが➡ 329 00:26:22,448 --> 00:26:27,119 くみを預かってやってくれませんか。 330 00:26:27,119 --> 00:26:29,421 くみさんを…? 331 00:26:30,989 --> 00:26:37,763 こうなった以上 もう くみと 一つ部屋に寝起きすることは できない。 332 00:26:37,763 --> 00:26:41,467 私は ほかに 宿を見つけて 移りますから➡ 333 00:26:41,467 --> 00:26:48,140 くみを… くみを どうぞ 今までどおり こちらに置いてやっていただきたいんです。 334 00:26:48,140 --> 00:26:50,142 まあ…。 335 00:26:53,812 --> 00:26:59,118 けど そんなことおっしゃっても くみさんが…。 ねえ。 336 00:27:00,619 --> 00:27:02,921 いいえ。 337 00:27:05,090 --> 00:27:07,793 私はいいんです。 338 00:27:09,962 --> 00:27:16,101 若旦那様の 好きなようにしてあげてくださいまし。 339 00:27:16,101 --> 00:27:32,117 ♬~ 340 00:27:32,117 --> 00:27:36,989 心配するな 喜一郎さんは 俺が預かる。 341 00:27:36,989 --> 00:27:42,461 よろしく お願い申し上げます。 342 00:27:42,461 --> 00:28:14,760 ♬~ 343 00:28:20,299 --> 00:28:23,435 あの ここは…? 344 00:28:23,435 --> 00:28:28,307 遠慮はいらねえ 俺のうちだ。 いや それは… 困ります。 345 00:28:28,307 --> 00:28:31,310 黙って来なせえ。 346 00:28:38,984 --> 00:28:42,788 まことに相すみませんが 義姉上…。 347 00:28:42,788 --> 00:28:44,723 お金ですか? 348 00:28:44,723 --> 00:28:47,459 いえいえ! 今日は違います。 349 00:28:47,459 --> 00:28:50,796 違いましたか。 ごめんなさい。 350 00:28:50,796 --> 00:28:56,668 実は 居候を一人 置いてやっていただきたいのですが。 351 00:28:56,668 --> 00:28:59,137 えっ? 居候? 352 00:28:59,137 --> 00:29:01,139 はあ…。 353 00:29:08,747 --> 00:29:11,650 ⚟(ふすまが開く音) 354 00:29:11,650 --> 00:29:13,619 ⚟東吾様…。 355 00:29:13,619 --> 00:29:17,089 幸助か 何だ? ⚟(幸助)はい。➡ 356 00:29:17,089 --> 00:29:19,758 お客様が ご病気に。 357 00:29:19,758 --> 00:29:22,427 喜一郎が!? 358 00:29:22,427 --> 00:29:38,443 ♬~ 359 00:29:38,443 --> 00:29:41,780 申し訳ありません 義姉上…。 360 00:29:41,780 --> 00:29:45,083 お熱が ひどく高いのですよ。 361 00:29:47,452 --> 00:29:53,325 くみ… くみ…! 362 00:29:53,325 --> 00:29:56,461 さっきから ずっと…。 363 00:29:56,461 --> 00:29:58,764 うわごとを 言っているのですか? 364 00:30:02,334 --> 00:30:07,105 くみ… くみ…! 365 00:30:07,105 --> 00:30:14,112 ♬~ 366 00:30:19,484 --> 00:30:23,155 義姉上に とんだご迷惑をおかけしてしまって➡ 367 00:30:23,155 --> 00:30:25,090 なんとも申し訳ございません。 368 00:30:25,090 --> 00:30:27,025 あ~ まあ いいわさ。 369 00:30:27,025 --> 00:30:30,829 あれは 俺で慣れてるからな 病人の扱いは うまいよ。 370 00:30:30,829 --> 00:30:35,500 おかげで 熱も下がりました。 おお そうかい。 そりゃよかったな。 371 00:30:35,500 --> 00:30:40,172 医者もな「夏の風邪だから心配はいらない」 そう言ってるそうだ。 372 00:30:40,172 --> 00:30:42,841 元気になるまで置いといてやれ。 373 00:30:42,841 --> 00:30:45,510 そうさせていただきます。 374 00:30:45,510 --> 00:30:49,381 そのかわりな 体が元に戻ったら➡ 375 00:30:49,381 --> 00:30:53,385 お前が代稽古に行ってる あの狸穴の方月館道場➡ 376 00:30:53,385 --> 00:30:55,520 あそこへ預けるんだな。 377 00:30:55,520 --> 00:30:57,856 方月館道場へですか? 378 00:30:57,856 --> 00:31:01,126 ああ。 敵討ちだ➡ 379 00:31:01,126 --> 00:31:06,465 やっとうの稽古も まあ 少しは しといた方がいいだろう。 380 00:31:06,465 --> 00:31:08,400 はっ! 381 00:31:08,400 --> 00:31:11,803 あなた お茶が入りましたよ。 382 00:31:11,803 --> 00:31:16,508 うん? あの… 菓子はあるんだろうな おい。 383 00:31:24,282 --> 00:31:29,121 う~ん こりゃ いい菓子だ。 到来物だな? 384 00:31:29,121 --> 00:31:32,023 たまには お菓子ぐらい 買ってまいります。 385 00:31:32,023 --> 00:31:36,027 ふ~ん! おごったな。 ハハハハッ。 386 00:31:36,027 --> 00:31:38,797 兄上。 うん? 387 00:31:38,797 --> 00:31:40,732 いつか言ってらした➡ 388 00:31:40,732 --> 00:31:44,169 御所役人と禁裏御用の商人の 不正というのは➡ 389 00:31:44,169 --> 00:31:46,505 一体 どういうことなんですか? 390 00:31:46,505 --> 00:31:48,440 うん…。 391 00:31:48,440 --> 00:31:51,376 京のことは よく知らんがな➡ 392 00:31:51,376 --> 00:31:55,514 山村信濃守様が 京都町奉行だったころに➡ 393 00:31:55,514 --> 00:32:00,352 禁裏から さる寺へ 御戸帳を寄進したことがあったそうだ。 394 00:32:00,352 --> 00:32:03,255 代銀が 百五十貫目。 395 00:32:03,255 --> 00:32:08,093 それをだな 商人と役人が共謀して 二百五十貫目にして➡ 396 00:32:08,093 --> 00:32:11,463 その差額 百貫目を 着服したというんだ。 397 00:32:11,463 --> 00:32:14,800 そんな見えすいた からくりを…。 398 00:32:14,800 --> 00:32:20,672 ああ。 やれるというのは 上から下まで 一つ穴のむじな。 399 00:32:20,672 --> 00:32:24,376 ああ 腐れ切ってたよ 当時は…。 400 00:32:37,489 --> 00:32:39,424 お世話になりました。 401 00:32:39,424 --> 00:32:42,828 たまには お遊びに おいでくださいましね。はい。 402 00:32:42,828 --> 00:32:45,130 それじゃ 行きますか。 403 00:32:47,499 --> 00:32:49,801 お気を付けて。 404 00:32:55,373 --> 00:33:00,378 はあ~ 狸穴まで歩くと汗をかくな。 405 00:33:03,114 --> 00:33:10,722 (竹刀で打ち合う音) 406 00:33:10,722 --> 00:33:14,659 ⚟(少年たちの掛け声) 407 00:33:14,659 --> 00:33:17,796 (善助)さあさ。➡ 408 00:33:17,796 --> 00:33:21,132 若先生 掃除だけはしておきましたが。 409 00:33:21,132 --> 00:33:24,135 すまねえ すまねえ。 (善助)さあ どうぞ さあさあ。 410 00:33:27,005 --> 00:33:32,143 よろしく頼むよ。 何のお役にも立ちませんが…。 411 00:33:32,143 --> 00:33:35,814 東吾さん。 おお 源さん 来てたのか。 412 00:33:35,814 --> 00:33:38,516 近くに ちょいと 用がありましたんで。 413 00:33:41,686 --> 00:33:44,489 (善助)そうだ 若先生➡ 414 00:33:44,489 --> 00:33:50,161 吉野屋の夫婦が 捨て子を拾って 育てているっていうのを ご存じですか? 415 00:33:50,161 --> 00:33:54,032 あの夫婦が捨て子を? はい。初耳だよ。 416 00:33:54,032 --> 00:34:01,106 あの… いつも行く お宮の石段の下に 捨ててあったんですがね➡ 417 00:34:01,106 --> 00:34:06,978 まあ 生まれたばかりの痩せっこけた 今にも死にそうな赤ん坊だったんですよ。 418 00:34:06,978 --> 00:34:11,449 それを きっと 神様が 授けてくだすったに違えねえって。 419 00:34:11,449 --> 00:34:15,787 う~ん。 (善助)もう 夢中になって育ててます。 420 00:34:15,787 --> 00:34:19,658 はた目にも羨ましいような 仲のいい夫婦なんだけどね➡ 421 00:34:19,658 --> 00:34:24,462 それが また なんとも暗い。 暗いんだなあ。 422 00:34:24,462 --> 00:34:29,801 笑いとか この世の楽しみとかいうものは どこかに置き忘れてきたような➡ 423 00:34:29,801 --> 00:34:33,138 暗い 悲しい 二人でもある。 424 00:34:33,138 --> 00:34:36,808 捨て子を拾って 少しでも明るさを取り戻してくれたら➡ 425 00:34:36,808 --> 00:34:39,144 見てるこっちも いくらかは ホッとする。 426 00:34:39,144 --> 00:34:42,814 うまく育ってくれると いいがな。 はい。 427 00:34:42,814 --> 00:34:45,717 今日辺り…。 うん? 428 00:34:45,717 --> 00:34:47,686 あっ いえ…。 429 00:34:47,686 --> 00:34:51,990 赤ん坊を連れて お宮へ やって来るかもしれませんな その夫婦。 430 00:34:57,162 --> 00:35:00,432 どうしたものかと迷ってるんです。 431 00:35:00,432 --> 00:35:04,436 何だい 源さんらしくもないじゃないか。 何のことだい? 432 00:35:06,304 --> 00:35:12,777 やはり このままにしておくか 進藤喜一郎を連れて帰るか➡ 433 00:35:12,777 --> 00:35:14,713 迷ってるんですよ。 434 00:35:14,713 --> 00:35:17,115 うん? 435 00:35:17,115 --> 00:35:23,455 源さん 喜一郎を狸穴に連れてきたのは 兄上のお指図なんだぜ。 436 00:35:23,455 --> 00:35:27,325 いえ 神林様には 手前が お願いいたしました。 437 00:35:27,325 --> 00:35:30,795 源さんが? そうです。 438 00:35:30,795 --> 00:35:35,133 神林様には 手前が お願いいたしました。 439 00:35:35,133 --> 00:35:37,836 どういうことなんだ!? おい 源さん! 440 00:35:39,804 --> 00:35:45,143 人間は 神様じゃありやせんからね。 441 00:35:45,143 --> 00:35:52,017 (赤ん坊の泣き声) 442 00:35:52,017 --> 00:35:54,819 (あやす声) 443 00:35:54,819 --> 00:35:56,821 (笑い声) 444 00:35:58,490 --> 00:36:04,496 ああ。 やっぱり 赤ん坊のおかげで…。 445 00:36:09,100 --> 00:36:12,804 あっ 若先生! 446 00:36:18,443 --> 00:36:20,445 源さん…。 447 00:36:22,781 --> 00:36:25,083 どうしたんだ!? 源さん! 448 00:36:27,452 --> 00:36:30,355 はあ~ ハッハ。 こちらの若旦那が➡ 449 00:36:30,355 --> 00:36:32,323 やっぱり お宮を見てえと おっしゃるもんで。 450 00:36:32,323 --> 00:36:35,326 暑い。 まるで もう 夏ですねえ。 451 00:36:40,031 --> 00:36:44,335 ああ。 あれが お話の吉野屋の…。 452 00:36:53,678 --> 00:36:58,416 ♬~ 453 00:36:58,416 --> 00:37:00,351 どうしたんだ? 454 00:37:00,351 --> 00:37:11,429 ♬~ 455 00:37:11,429 --> 00:37:13,431 (治兵衛)いく? 456 00:37:15,100 --> 00:37:18,002 (いく)喜一郎ですね。 457 00:37:18,002 --> 00:37:27,445 ♬~ 458 00:37:27,445 --> 00:37:29,380 (でんでん太鼓を落とす音) 459 00:37:29,380 --> 00:37:34,319 ♬~ 460 00:37:34,319 --> 00:37:36,454 喜一郎…! 461 00:37:36,454 --> 00:37:42,794 ♬~ 462 00:37:42,794 --> 00:37:46,131 下りてこい 新井靜七! 463 00:37:46,131 --> 00:37:48,133 父の敵…! 464 00:37:55,807 --> 00:37:57,809 待って! 465 00:38:00,411 --> 00:38:04,282 (いく)殺すなら 母を斬ってくだされ。➡ 466 00:38:04,282 --> 00:38:07,085 靜七殿は 病人じゃ。 467 00:38:07,085 --> 00:38:09,754 足腰も立たぬ者を…。 468 00:38:09,754 --> 00:38:13,424 悪いのは この母! どうか 母を殺して! 469 00:38:13,424 --> 00:38:21,432 ああ~ ああ~ 敵は 俺…。 470 00:38:25,036 --> 00:38:27,739 下りてこい! 靜七! 471 00:38:30,441 --> 00:38:34,779 靜七殿に 罪はない。 先に刀を抜いたのは 喜左衛門殿。 472 00:38:34,779 --> 00:38:36,714 うそだ! 473 00:38:36,714 --> 00:38:38,650 いいえ まことです。 474 00:38:38,650 --> 00:38:41,653 喜一郎 まことなのです! 475 00:38:41,653 --> 00:38:45,657 斬る! 斬ってやる~! 476 00:38:47,792 --> 00:38:53,665 いく… わしを連れていけ。 あなた! 477 00:38:53,665 --> 00:38:55,667 わしを…。 478 00:38:57,802 --> 00:39:01,072 ♬~ 479 00:39:01,072 --> 00:39:03,007 はい。 480 00:39:03,007 --> 00:39:34,772 ♬~ 481 00:39:34,772 --> 00:39:37,675 あっ。 おお…。 482 00:39:37,675 --> 00:39:48,119 (赤ん坊の泣き声) 483 00:39:48,119 --> 00:39:51,022 よし よし…。 484 00:39:51,022 --> 00:39:57,795 ♬~ 485 00:39:57,795 --> 00:39:59,797 (つえが転がる音) 486 00:40:01,466 --> 00:40:04,369 わしを…! 487 00:40:04,369 --> 00:40:06,337 あなた! 488 00:40:06,337 --> 00:40:09,807 あっ あなた! 489 00:40:09,807 --> 00:40:13,144 わしを…! 490 00:40:13,144 --> 00:40:15,146 あなた! 491 00:40:44,842 --> 00:40:49,514 花の… 匂い…。 492 00:40:49,514 --> 00:40:53,184 花の…。 493 00:40:53,184 --> 00:41:03,795 ♬~ 494 00:41:03,795 --> 00:41:06,464 卯の花ですよ。 495 00:41:06,464 --> 00:41:11,336 あ… 卯の花…。 496 00:41:11,336 --> 00:41:46,504 ♬~ 497 00:41:46,504 --> 00:41:51,376 何事もなかった…。 何事も なかったんだよ。 498 00:41:51,376 --> 00:42:00,785 ♬~ 499 00:42:00,785 --> 00:42:05,456 怪我は ねえかい。 (治兵衛の声) 500 00:42:05,456 --> 00:42:09,127 (赤ん坊の泣く声) 501 00:42:09,127 --> 00:42:15,466 ♬~ 502 00:42:15,466 --> 00:42:18,803 おかみさん ほら 泣いてんじゃねえか。 503 00:42:18,803 --> 00:42:22,473 ああ…。 ほらよ。 504 00:42:22,473 --> 00:42:44,495 ♬~ 505 00:42:44,495 --> 00:42:47,832 源さん 仕組んだな。 506 00:42:47,832 --> 00:42:52,170 (源三郎)いや… こうなるとは 私も思わなかったんですよ。➡ 507 00:42:52,170 --> 00:42:54,839 いや 本当 思わなかったんです。 508 00:42:54,839 --> 00:42:59,510 まあ このままでは 終わるとは思いませんがね。 509 00:42:59,510 --> 00:43:04,782 八丁堀の知恵者は 突然 思い切ったことをやるものだな。 510 00:43:04,782 --> 00:43:07,685 一つ間違ったら どうなったと思う! 511 00:43:07,685 --> 00:43:09,654 だから 忠告したじゃありませんか。 512 00:43:09,654 --> 00:43:13,357 巻き込まれて 深みにはまっちまうと とんだことになるって。 513 00:43:17,361 --> 00:43:23,367 喜一郎さんも くみさんも 二人で抱き合って泣いてました。 514 00:43:36,147 --> 00:43:38,816 喜一郎さんがね➡ 515 00:43:38,816 --> 00:43:44,489 やっぱり 花の匂いがすると 思ってたんですって。 516 00:43:44,489 --> 00:43:49,827 敵を討って 母親も斬ろうという最中に…。 517 00:43:49,827 --> 00:43:55,700 そしたら 相手の人も おっ母さんも 花の匂いに気がついていた。 518 00:43:55,700 --> 00:44:00,438 おんなじ花の匂いを 嗅いでるんだなと思ったら➡ 519 00:44:00,438 --> 00:44:04,108 どうにもならなく なっちまったんですって。 520 00:44:04,108 --> 00:44:08,980 くみさんに 泣きながら話してましたよ。 521 00:44:08,980 --> 00:44:13,784 フフフフフフ…。 522 00:44:13,784 --> 00:44:15,720 何が おかしい? 523 00:44:15,720 --> 00:44:21,125 いえ 私は気がつかなかったんですよ。 524 00:44:21,125 --> 00:44:27,798 どこに 花が咲いていたのか。 香りなんざ ちっとも匂いませんでしたね。 525 00:44:27,798 --> 00:44:32,103 やっぱり 緊張していたんですな。 526 00:44:48,119 --> 00:44:51,489 どうもありがとうございます。 行ってらっしゃいまし。 527 00:44:51,489 --> 00:44:53,424 お忘れ物はございませんね? ありがとうございました。 528 00:44:53,424 --> 00:44:55,826 どうもありがとうございました。 お気を付けて。お気を付けて どうぞ。 529 00:44:55,826 --> 00:45:00,431 長いこと お世話様になりました。 530 00:45:00,431 --> 00:45:04,101 何から何まで お礼の申し上げようもございません。 531 00:45:04,101 --> 00:45:07,438 な~に。 それより➡ 532 00:45:07,438 --> 00:45:10,107 京へ帰るんだってな。 はい。 533 00:45:10,107 --> 00:45:12,410 でも 帰っても…。 534 00:45:13,978 --> 00:45:20,451 帰っても… あんたの継ぐ家は もう ねえのだろ? 535 00:45:20,451 --> 00:45:23,788 役人になるつもりはございません。 536 00:45:23,788 --> 00:45:29,460 これの… これの里が 大津から北へ入った所にございます。 537 00:45:29,460 --> 00:45:34,799 山里の 紙を漉いている貧しい村なのですが…。 538 00:45:34,799 --> 00:45:37,468 貧しくても なんとか生きていけます。 539 00:45:37,468 --> 00:45:44,141 若旦那様に 紙漉きの暮らしが できるかどうか分かりませんけど。 540 00:45:44,141 --> 00:45:47,144 お前にできることぐらい 私にだって できるさ。 541 00:45:49,814 --> 00:45:53,684 まっ 仲よくやってみるんだな。 542 00:45:53,684 --> 00:45:56,687 (二人)はい! 543 00:45:56,687 --> 00:46:00,091 ⚟(嘉助)失礼いたします。 544 00:46:00,091 --> 00:46:04,795 お嬢さん お預かりしたもの。 はい ご苦労さま。 545 00:46:06,430 --> 00:46:11,102 お預かりしていたお金 お返しいたします。 546 00:46:11,102 --> 00:46:14,005 どうぞ お改めくださいまし。 547 00:46:14,005 --> 00:46:18,442 あの… お宿のお代は…? 548 00:46:18,442 --> 00:46:23,114 お二人への せめてもの はなむけにさせてください。 549 00:46:23,114 --> 00:46:25,049 まあ…! 550 00:46:25,049 --> 00:46:33,124 ♬~ 551 00:46:33,124 --> 00:46:36,027 それでは 皆様…。 552 00:46:36,027 --> 00:46:39,463 ご恩は忘れません。 553 00:46:39,463 --> 00:46:44,168 今夜は なるべく早く 宿をお取りなさいましね。 554 00:46:45,803 --> 00:46:47,738 では。 お元気で。 555 00:46:47,738 --> 00:46:49,674 お気を付けて。 556 00:46:49,674 --> 00:46:51,676 ちょっと お送りいたします。 ええ。 557 00:46:51,676 --> 00:46:53,978 お気を付けて どうぞ。 558 00:46:57,148 --> 00:46:59,150 ハハハ! 559 00:47:03,954 --> 00:47:09,093 あの二人 もう 他人じゃないみたい。 560 00:47:09,093 --> 00:47:12,763 お前 布団見たのか? そんな…。 561 00:47:12,763 --> 00:47:18,102 ばかばっかし! そんなもの見なくたって…➡ 562 00:47:18,102 --> 00:47:21,105 何となく分かりますよ。 563 00:47:23,974 --> 00:47:36,120 (鳥の鳴き声) 564 00:47:36,120 --> 00:47:40,991 おい! これだ これだ! えっ? 565 00:47:40,991 --> 00:47:43,294 この花だよ! 566 00:47:46,130 --> 00:47:48,432 卯の花ですよ。 567 00:47:50,801 --> 00:47:52,803 卯の花…。 568 00:47:54,672 --> 00:48:00,611 これが咲いて匂っていたんだ。 そうですか…。 569 00:48:00,611 --> 00:48:05,082 この花が…➡ 570 00:48:05,082 --> 00:48:10,387 喜一郎さんの心の向きを 変えてくれたんですか…。 571 00:48:16,093 --> 00:48:19,797 う~ん この匂いだ。 572 00:48:22,967 --> 00:48:28,439 人間の心なんて 弱いもんですねえ。 573 00:48:28,439 --> 00:48:53,130 ♬~