1 00:00:02,102 --> 00:00:07,040 ♬~ (テーマ音楽) 2 00:00:07,040 --> 00:02:09,296 ♬~ 3 00:02:09,296 --> 00:02:14,134 (東吾) えい! えい! 4 00:02:14,134 --> 00:02:18,005 (お吉)東吾様 お待たせいたしました。 お食事の用意ができました。 5 00:02:18,005 --> 00:02:21,208 ああ。 えい! 6 00:02:25,178 --> 00:02:52,873 ♬~ 7 00:02:52,873 --> 00:02:54,875 (ため息) 8 00:03:01,581 --> 00:03:04,484 萩の間に 若い女の客がいるな。 9 00:03:04,484 --> 00:03:07,521 (るい)ああ 吉野の人ですね。 吉野の。 10 00:03:07,521 --> 00:03:10,357 お父っつぁんにね 会いにいらしたらしいんですよ。 11 00:03:10,357 --> 00:03:13,994 ほう 江戸に父親がいるのか。 ええ。 12 00:03:13,994 --> 00:03:16,496 牛込の肴町で漆器問屋の➡ 13 00:03:16,496 --> 00:03:19,166 「吉野屋十兵衛」さんっていう人の 娘さんなんです。 14 00:03:19,166 --> 00:03:23,036 江戸と吉野に 父と娘が別れて暮らしてるってのか。 15 00:03:23,036 --> 00:03:27,841 どんな事情がおありなのか それは伺ってませんけどね。 16 00:03:27,841 --> 00:03:30,177 しかし 父親に会いに来た娘が➡ 17 00:03:30,177 --> 00:03:33,513 どうして あんな もの悲しげな顔をしてるってんだ? 18 00:03:33,513 --> 00:03:35,449 それは… ねえ? 19 00:03:35,449 --> 00:03:38,685 昨日 吉野屋さんがいらっしゃるとばかり 思い込んでいたのが➡ 20 00:03:38,685 --> 00:03:40,720 お見えがなかったもんで… ねえ。 21 00:03:40,720 --> 00:03:44,191 ほう。 いえ 実はね➡ 22 00:03:44,191 --> 00:03:47,094 今年になって すぐでしたかしらねえ➡ 23 00:03:47,094 --> 00:03:49,896 その吉野屋さんが ここに見えたんですよ。 24 00:03:55,902 --> 00:04:00,474 (十兵衛) なるほど… 静かな いいお宿だ。 25 00:04:00,474 --> 00:04:02,476 ありがとう存じます。 26 00:04:08,648 --> 00:04:12,352 吉野から 娘が来ます。 27 00:04:16,990 --> 00:04:22,496 若い娘の1人旅 どこへでも泊める ってわけにいきませんから➡ 28 00:04:22,496 --> 00:04:27,000 お宅へね お世話になりたい。 ようござんすか? 29 00:04:27,000 --> 00:04:30,871 ええ ええ どうぞ。 手前どもで およろしければ。 30 00:04:30,871 --> 00:04:33,073 では お願いをしますよ。 31 00:04:34,741 --> 00:04:39,513 その吉野屋が 昨日 とうとう現れなかった。ええ。 32 00:04:39,513 --> 00:04:43,850 がっかりしたご様子で はたで見てても かわいそうで。 33 00:04:43,850 --> 00:04:46,753 ゆんべも遅く おしずさん 下へ下りてきてね➡ 34 00:04:46,753 --> 00:04:51,525 嘉助さんに 「肴町へは遠いのか?」って 聞いてたんだそうです。 35 00:04:51,525 --> 00:04:53,460 牛込じゃあな。 36 00:04:53,460 --> 00:04:56,029 もし 行くというんなら 素性の知れてる駕籠に乗せるか➡ 37 00:04:56,029 --> 00:04:58,064 嘉助でも付けてやった方がいいぜ。 38 00:04:58,064 --> 00:04:59,100 私も そのつもりでいました。 39 00:04:59,100 --> 00:05:03,003 万一ってことがあっちゃ 大変ですもんねえ。 うん。 40 00:05:07,474 --> 00:05:10,143 どうなさいます? 41 00:05:10,143 --> 00:05:13,813 肴町のお店へ 行ってごらんになりますか? 42 00:05:13,813 --> 00:05:16,016 (おしず)いえ 肴町へは…。 43 00:05:18,485 --> 00:05:22,822 私 参れません。 44 00:05:22,822 --> 00:05:25,325 訳がございまして。 45 00:05:27,294 --> 00:05:32,098 私が行っては 父にも迷惑だと存じますから。 46 00:05:36,970 --> 00:05:44,311 では 吉野屋さんの お見えになるまで ここで お待ちになりますか? 47 00:05:44,311 --> 00:05:52,018 はい…。 そうするよりほかに しようもございませんから。 48 00:05:59,693 --> 00:06:03,663 では こうしましょうよ。 49 00:06:03,663 --> 00:06:07,133 うちの番頭さんに 肴町へ行ってもらって➡ 50 00:06:07,133 --> 00:06:10,837 あなたが着いてることを 吉野屋さんに知らせることにしたら。 51 00:06:12,806 --> 00:06:15,842 そう お願いできますか? 52 00:06:15,842 --> 00:06:19,546 それくらいのことでしたら お安い御用でございます。 53 00:06:21,982 --> 00:06:24,684 (おしず)お願いします。 54 00:06:33,693 --> 00:06:37,530 (嘉助)何 取ってんだ? おたまじゃくし 取ってるの。 55 00:06:37,530 --> 00:06:40,834 もう おたまじゃくしが出たのか。 おっ 取れたか?➡ 56 00:06:40,834 --> 00:06:42,869 ハハッ! 57 00:06:42,869 --> 00:06:45,672 ああ…。 取れたか? 58 00:06:54,681 --> 00:06:57,317 あっ… ちょっ ちょっ ちょっ ちょっ…。 59 00:06:57,317 --> 00:07:00,320 旦那 おいでかい? (長吉)旦那ですか? 60 00:07:00,320 --> 00:07:03,023 ああ。 おいでなら ちょっと呼んでもらいてえんだがな。 61 00:07:11,264 --> 00:07:15,135 (源太郎)もし あなたですか? 私に 御用とおっしゃるのは。 62 00:07:15,135 --> 00:07:17,470 ええ… いやいや あの…➡ 63 00:07:17,470 --> 00:07:20,373 若旦那じゃねえんでえ。 大旦那に ちょっと…。 64 00:07:20,373 --> 00:07:23,643 おやじは 今 出てますが どなたですか? 65 00:07:23,643 --> 00:07:28,982 ええ あっしは あの 大川端のかわせみから参った者ですが…。 66 00:07:28,982 --> 00:07:31,284 大川端の? (嘉助)へえ。 67 00:07:31,284 --> 00:07:34,487 では 吉野から おしずさんが もう着いたんですか? 68 00:07:34,487 --> 00:07:38,191 おっ… 若旦那 ご存じだったんですか。 69 00:07:39,826 --> 00:07:42,495 アハハッ そりゃあ よかった。 70 00:07:42,495 --> 00:07:45,398 ええ ええ。 おしずさん お着きになりましたよ 昨日。 71 00:07:45,398 --> 00:07:47,667 それじゃあ おやじが行かないんで おしずさん➡ 72 00:07:47,667 --> 00:07:50,303 さぞかし 心細かったでしょう。 そうなんですよ。 73 00:07:50,303 --> 00:07:52,238 はたの目にも お気の毒で。➡ 74 00:07:52,238 --> 00:07:57,077 それで 主が あっしに こちらへ お知らせにあがるようにって。 75 00:07:57,077 --> 00:08:00,981 お気遣い ありがとう存じました。 私を連れてってください。 76 00:08:00,981 --> 00:08:03,249 おいでいただけやすか? 77 00:08:03,249 --> 00:08:05,185 長吉。 (長吉)へい。 78 00:08:05,185 --> 00:08:07,887 「駕籠を2挺」 そう言ってきておくれ。 へい! 79 00:08:10,023 --> 00:08:12,625 (おもん)よいしょ…。 80 00:08:12,625 --> 00:08:14,561 (2人)ああ~! 81 00:08:14,561 --> 00:08:16,496 「駕籠を2挺」って おっしゃるから➡ 82 00:08:16,496 --> 00:08:19,132 こっちは てっきり どなたか お連れになるんだと思ったら➡ 83 00:08:19,132 --> 00:08:21,634 1挺は あっしにってんですよ…。 84 00:08:21,634 --> 00:08:24,537 いや~ よく気の付く若旦那ですよ。 85 00:08:24,537 --> 00:08:27,974 けど 娘が遠くから来るって日に➡ 86 00:08:27,974 --> 00:08:31,845 どこへ行っちまったってんだ? 吉野屋は。 それなんですがね…。 87 00:08:31,845 --> 00:08:35,715 木更津の親類に不幸がございまして 母と一緒に。 88 00:08:35,715 --> 00:08:38,485 では 木更津へ? 89 00:08:38,485 --> 00:08:41,788 (源太郎)申し訳ありません。 行ってしまったんです。 90 00:08:43,990 --> 00:08:48,661 でも 明日は 戻ってくるだろうと思います。 91 00:08:48,661 --> 00:08:50,997 明日? 92 00:08:50,997 --> 00:08:55,668 何かあったにしても あさっての朝には 間違いなく帰ってきましょうから。➡ 93 00:08:55,668 --> 00:08:58,705 すみませんがね おしずさん 待ってやってくださいな。 94 00:08:58,705 --> 00:09:01,474 はい それは…。 95 00:09:01,474 --> 00:09:06,980 あたしも お父っつぁんに会いに はるばる 吉野から出てきたんですから。 96 00:09:08,782 --> 00:09:11,451 会ってから帰りたい。 97 00:09:11,451 --> 00:09:14,954 木更津へたつ前に おやじから言われていたんです。 98 00:09:14,954 --> 00:09:19,659 「私の代わりに おしずさん くれぐれも頼むよ」って…。 99 00:09:21,261 --> 00:09:23,630 そう言ってってくれたんですか? お父っつぁん。 100 00:09:23,630 --> 00:09:26,933 ええ 指折り数えて 待っていたんですからね おやじは。 101 00:09:29,135 --> 00:09:32,038 そもそも 吉野屋は どうして おしずの母親と➡ 102 00:09:32,038 --> 00:09:34,007 そんな仲になったっていうんだ? 103 00:09:34,007 --> 00:09:39,646 年に一度 塗り物の仕入れに 十兵衛さんは 吉野へ行ってたんだそうですよ。 104 00:09:39,646 --> 00:09:43,817 うん。 そこで 塗物師の娘の おさださんって➡ 105 00:09:43,817 --> 00:09:46,286 おしずさんのおっ母さんと いい仲になった。 106 00:09:46,286 --> 00:09:49,189 江戸に ちゃんと女房がいながらか? 107 00:09:49,189 --> 00:09:51,157 ええ…。 108 00:09:51,157 --> 00:09:55,662 また お吉に叱られる男が ここにも一人いたってわけだ。 109 00:09:57,497 --> 00:10:02,168 おしずさんが3つん時に 江戸のおかみさんに そのことが知れて➡ 110 00:10:02,168 --> 00:10:07,307 以来 十兵衛さんは 吉野へは 行けなくなってしまったんだそうです。 111 00:10:07,307 --> 00:10:11,177 じゃあ おしずは 3つの時から ずっと 父親を知らずにか? 112 00:10:11,177 --> 00:10:14,180 ええ。 「おっ母さん一人に育てられて➡ 113 00:10:14,180 --> 00:10:17,684 今日までになったんだ」 って言ってましたよ。 114 00:10:17,684 --> 00:10:20,587 それがまた どうして 江戸へ出てくることになったってんだ? 115 00:10:20,587 --> 00:10:23,556 (源太郎)おやじの手紙に 書いてあったそうですね。➡ 116 00:10:23,556 --> 00:10:28,328 私に店を譲って 自分は隠居して 吉野で暮らしたいって。 117 00:10:28,328 --> 00:10:31,865 源太郎さんに お父っつぁん 話したんですか? 118 00:10:31,865 --> 00:10:34,767 おやじは はっきり言いましたよ。 「おしずさんのおっ母さんが➡ 119 00:10:34,767 --> 00:10:39,038 それを許してくれるのなら そうしたい」って。 120 00:10:39,038 --> 00:10:46,212 それで 源太郎さんのお母さんは 何て おっしゃってるんですか? 121 00:10:46,212 --> 00:10:50,917 おふくろは 「しかたがない」って諦めてるようです。 122 00:10:52,552 --> 00:10:57,056 「今日まで おしずさんからも おしずさんのおっ母さんからも➡ 123 00:10:57,056 --> 00:11:00,827 おやじを取り上げてきたんだから おやじが そうしたいというのなら➡ 124 00:11:00,827 --> 00:11:04,163 帰してあげるよりしかたあるまい」 って言ってね。 125 00:11:04,163 --> 00:11:06,666 そうですか。 126 00:11:06,666 --> 00:11:10,169 でも おしずさんのおっ母さんは➡ 127 00:11:10,169 --> 00:11:12,839 どう言ってらっしゃるんです?➡ 128 00:11:12,839 --> 00:11:15,675 今更 そんな虫のいいことを おやじが言ったからって➡ 129 00:11:15,675 --> 00:11:20,680 「じゃあ 吉野へ おいでなさい」と すんなり言えるものかどうか…。 130 00:11:24,684 --> 00:11:29,188 母も年を取りましたから…。 131 00:11:32,025 --> 00:11:34,861 そりゃ 若い頃は➡ 132 00:11:34,861 --> 00:11:39,732 お父っつぁんから 仕送りのお金が届くと➡ 133 00:11:39,732 --> 00:11:47,040 「金さえ送ってくればいいと思ってるのか」 って腹を立てて➡ 134 00:11:47,040 --> 00:11:53,212 やけみたいに そのお金で 高い着物をあつらえたりして➡ 135 00:11:53,212 --> 00:11:56,516 気の強いおっ母さんでしたけど。 136 00:11:59,352 --> 00:12:02,055 今では 気も折れたんでしょう。 137 00:12:04,824 --> 00:12:11,598 あたしが江戸へたつ日に 峠まで送ってきてくれて。 138 00:12:11,598 --> 00:12:18,371 話の都合で お父っつぁんが「吉野へ行きたい」と➡ 139 00:12:18,371 --> 00:12:22,241 そう言ったら➡ 140 00:12:22,241 --> 00:12:26,045 「連れてきたって あたしは何にも言わないよ」って…。 141 00:12:31,050 --> 00:12:34,187 そう言ってました おっ母さん。 142 00:12:34,187 --> 00:12:51,738 ♬~ 143 00:12:51,738 --> 00:12:56,876 母も娘も 恨みを言いだしゃあ 言いきれねえほどのものが➡ 144 00:12:56,876 --> 00:13:00,279 十兵衛にはあるだろう… が➡ 145 00:13:00,279 --> 00:13:07,487 それを言わずに 遠い山坂越えて 江戸へ 十兵衛に会いに来たっていうのは➡ 146 00:13:07,487 --> 00:13:11,991 恨みに勝る 父恋しさ➡ 147 00:13:11,991 --> 00:13:15,795 会いたい思いを 抑えられなかったに違いねえ。 148 00:13:21,167 --> 00:13:25,672 お父っつぁんって 源太郎さんに似てますか? 149 00:13:25,672 --> 00:13:31,177 うん… さあね どっちかってば 私は おふくろ似らしい。 150 00:13:31,177 --> 00:13:35,181 そうですか。 おしずさんは? 151 00:13:35,181 --> 00:13:40,186 そうだろうね…。 数えの3つで別れたんじゃ➡ 152 00:13:40,186 --> 00:13:43,890 15年も おやじに会ってないんだから 覚えちゃいまいね。 153 00:13:45,992 --> 00:13:48,327 吉野にいる時は➡ 154 00:13:48,327 --> 00:13:53,533 片とき離れず お父っつぁんの膝に 抱かれてたっていうのに。 155 00:13:53,533 --> 00:13:59,205 少しぐらいは覚えていても よかりそうなものなのに➡ 156 00:13:59,205 --> 00:14:04,811 何にも覚えてないんですよ 私。 157 00:14:04,811 --> 00:14:07,714 だから 今度 お父っつぁんに会ったら➡ 158 00:14:07,714 --> 00:14:12,218 忘れてる昔の話 たくさん聞かしてもらおうと思って。 159 00:14:16,522 --> 00:14:19,826 江戸は… ねえ どこ見物しようかねえ。 160 00:14:19,826 --> 00:14:22,295 やっぱり 浅草の観音様かな。 161 00:14:22,295 --> 00:14:25,164 桜が咲いたら 飛鳥山もいいが➡ 162 00:14:25,164 --> 00:14:27,500 いやいや… 桜は 吉野が本場。➡ 163 00:14:27,500 --> 00:14:30,203 江戸の桜なんざ見たくもないか。 164 00:15:10,643 --> 00:15:14,280 おしずさん 江戸は 人出が多くて➡ 165 00:15:14,280 --> 00:15:16,816 どこで どう はぐれるか 知れませんからね➡ 166 00:15:16,816 --> 00:15:19,152 しっかり 兄さんの手を握って➡ 167 00:15:19,152 --> 00:15:21,487 迷子にならないように。 はい。 168 00:15:21,487 --> 00:15:23,990 お気を付けて 行ってらっしゃいまし。 169 00:15:23,990 --> 00:15:25,925 それじゃあ おかみさん➡ 170 00:15:25,925 --> 00:15:28,494 夜は 八百松に行って 食事をするつもりでいますんで➡ 171 00:15:28,494 --> 00:15:31,164 もし おやじが 木更津から帰って ここへ参りましたら➡ 172 00:15:31,164 --> 00:15:33,166 そっちへ来るよう 伝えていただけませんか。 173 00:15:33,166 --> 00:15:35,168 はいはい 承知いたしました。 174 00:15:35,168 --> 00:15:39,505 じゃあ おしずさん 出かけましょうかね。 はい。 175 00:15:39,505 --> 00:15:43,209 (お吉)行ってらっしゃいまし。 行ってらっしゃいまし。 176 00:15:52,852 --> 00:15:56,322 おう 出かけたかい? ええ ええ➡ 177 00:15:56,322 --> 00:15:59,192 お二人とも そりゃあ 楽しそうに。 178 00:15:59,192 --> 00:16:03,062 (源三郎)るいさんも覚えはありませんか? えっ 何がです? 179 00:16:03,062 --> 00:16:07,900 いや… 一人っ子ってものは 何となく寂しいもんで➡ 180 00:16:07,900 --> 00:16:11,637 兄がいたら… 妹がいたら… って 小さい時分 よく思ったもんだ。 181 00:16:11,637 --> 00:16:15,808 ええ ええ そりゃあ 覚えがあります 私にも。 182 00:16:15,808 --> 00:16:18,711 それが 年頃の美しい妹…➡ 183 00:16:18,711 --> 00:16:22,582 遠い吉野から はるばるやって来たんで うれしくてしょうがない。 184 00:16:22,582 --> 00:16:24,517 おしずさんの方だって➡ 185 00:16:24,517 --> 00:16:28,154 優しい よく気の付く兄さんが 思いがけなく現れて➡ 186 00:16:28,154 --> 00:16:31,057 うれしいでしょうよね。 いや 私にもね➡ 187 00:16:31,057 --> 00:16:34,026 おやじが どこかに そんな妹 つくっといてくれたらよかったのにって➡ 188 00:16:34,026 --> 00:16:37,830 思いましたよ。 おいおい 穏やかでねえこと言うぜ。 189 00:16:37,830 --> 00:16:40,867 しかし 無理でしょうね。 死んだおやじはね➡ 190 00:16:40,867 --> 00:16:43,503 あたし同様 そっちの方は 空っ下手だったらしいんですよ。 191 00:16:43,503 --> 00:16:45,438 (笑い声) 192 00:16:45,438 --> 00:16:48,307 お話し中 相すいやせん…。 な~に? 嘉助さん。 193 00:16:48,307 --> 00:16:51,677 あの 飯田町から お民のやつが参りやしてね。おう。 194 00:16:51,677 --> 00:16:53,880 ちょっと 気になる話を…。 195 00:16:55,514 --> 00:16:58,017 (お民) 吉野屋さんのことなんでございます。 196 00:16:58,017 --> 00:17:01,454 ん? 牛込肴町のか? (お民)はい。 197 00:17:01,454 --> 00:17:05,258 いえね 昨日 あっしが肴町行った時に➡ 198 00:17:05,258 --> 00:17:07,627 ちょっと息抜きに こいつんとこへ寄ったもんですからね➡ 199 00:17:07,627 --> 00:17:10,463 あっしが吉野屋さんへ行ったことは 知ってるんですよ。 200 00:17:10,463 --> 00:17:13,499 漆器問屋と布団屋 商売は違っても➡ 201 00:17:13,499 --> 00:17:17,637 目と鼻の先の飯田町と牛込に店を張ってる 商売人同士➡ 202 00:17:17,637 --> 00:17:19,572 つきあいもございますから➡ 203 00:17:19,572 --> 00:17:23,442 うちのも 吉野屋さん よく存じておりました。 204 00:17:23,442 --> 00:17:26,979 それが昨日 出先から帰りまして ふいっと➡ 205 00:17:26,979 --> 00:17:29,282 吉野屋さんの噂をしたもんですから。 206 00:17:29,282 --> 00:17:31,651 吉野さんの噂って どんな? 207 00:17:31,651 --> 00:17:33,586 ああ…➡ 208 00:17:33,586 --> 00:17:38,524 夫婦そろって 突然いなくなったのは どうもおかしいって。 209 00:17:38,524 --> 00:17:41,294 えっ!? 210 00:17:41,294 --> 00:17:44,997 いや しかし それは 木更津の親類に不幸があって…。 211 00:17:44,997 --> 00:17:48,501 はあ… ここへ来て お父っつぁんから そう聞きました。 212 00:17:48,501 --> 00:17:50,436 でも うちのは➡ 213 00:17:50,436 --> 00:17:55,174 「夫婦そろって 湯治に出かけた」 って聞いてきたんでございますよ。 214 00:17:55,174 --> 00:17:59,011 そいつは おかしいな。 215 00:17:59,011 --> 00:18:01,914 (嘉助) しかも こいつの話を聞いてみると➡ 216 00:18:01,914 --> 00:18:04,817 吉野屋さんじゃ 誰だって おかみさん しょっちゅう➡ 217 00:18:04,817 --> 00:18:07,453 けんかしてたっていうんですよ。 けんか? 218 00:18:07,453 --> 00:18:11,257 (お民)けんかってほど 大げさなもんじゃないかもしれません。➡ 219 00:18:11,257 --> 00:18:16,629 でも 前ほど しっくりいってないのが 外から見ても よく分かったって。 220 00:18:16,629 --> 00:18:19,966 いさかいのもとは何だか 分かりませんか? 221 00:18:19,966 --> 00:18:24,470 ですから… ここに泊まっていらっしゃる おしずさんって娘さんと➡ 222 00:18:24,470 --> 00:18:27,974 その おっ母さんのことじゃないかって…。 223 00:18:27,974 --> 00:18:34,146 「何かあったんでなけりゃいいが」って そう言いますもんですからね うちのが。 224 00:18:34,146 --> 00:18:37,850 あたしも妙に気になって…。 225 00:18:45,491 --> 00:18:50,830 1年のうち 3月の月の声 聞きます 甲州は伊吹山のふもとのひと山に登り…➡ 226 00:18:50,830 --> 00:18:53,733 四面鏡 下金網の中に がまを追い詰める。 227 00:18:53,733 --> 00:19:00,940 小心者のがまが おのが姿鏡に映って 驚いて流す油が たら~り たらりと。 228 00:19:00,940 --> 00:19:03,843 お立ち会いの中で お疑いの方があるといけないので➡ 229 00:19:03,843 --> 00:19:06,612 ちょっと 試験をしてみよう。 抜き放します! 230 00:19:06,612 --> 00:19:08,648 刃渡り2尺2寸の業物。 231 00:19:08,648 --> 00:19:10,783 1枚の半紙を取りいだします。 232 00:19:10,783 --> 00:19:12,718 1枚が2枚! ほら。 233 00:19:12,718 --> 00:19:16,222 2枚が4枚! 4枚が8枚! 234 00:19:23,129 --> 00:19:28,000 さあ いらはい いらはい。 代は見てのお帰り 代は見てのお帰り。 235 00:19:28,000 --> 00:19:31,270 世にも不思議な この娘 娘十八 番茶も出花➡ 236 00:19:31,270 --> 00:19:33,973 震いつきたくなるような いい女。 237 00:19:33,973 --> 00:19:36,275 ところが かわいそうなのは この子でござい。 238 00:19:36,275 --> 00:19:40,146 あ~ 娘さん 怖がらなくてもいいよ。 楽しい蛇踊りもあるよ。➡ 239 00:19:40,146 --> 00:19:44,483 さあ いよいよ 「蛇娘」が始まるよ。 さあ いらはい いらはい。➡ 240 00:19:44,483 --> 00:19:48,821 お代は 8文 8文! 代は見てのお帰り 代は見てのお帰り。 241 00:19:48,821 --> 00:19:51,290 (太鼓の音) おいしい あめだよ! 242 00:19:51,290 --> 00:19:53,292 はい はい。 243 00:20:06,672 --> 00:20:12,478 (太鼓の音) 244 00:20:16,015 --> 00:20:17,950 疲れたろう? (おしず)ええ。➡ 245 00:20:17,950 --> 00:20:22,521 こんなに大勢 人のいるのを見たのは 初めてですから。 246 00:20:22,521 --> 00:20:25,558 ハハハッ そうだろうとも。 247 00:20:25,558 --> 00:20:29,295 (おしず)お祭りなんですか? お祭りじゃない。 毎日 こうだ。 248 00:20:29,295 --> 00:20:33,866 まあ~ どこから こんなに人が出てくるんでしょう。 249 00:20:33,866 --> 00:20:38,370 えっ。 ハハハッ… アハハハッ! 250 00:20:51,884 --> 00:20:54,086 伝次。 (伝次)へい。 251 00:20:59,558 --> 00:21:02,995 番頭だな? はい。 市兵衛と申します。 252 00:21:02,995 --> 00:21:05,498 吉野屋十兵衛と 女房 おまきは どうした? 253 00:21:05,498 --> 00:21:08,000 ただいま 留守にして…。 留守は承知なんだ。 254 00:21:08,000 --> 00:21:09,935 どこへ行ったかと聞いてるんだ。 255 00:21:09,935 --> 00:21:12,505 木更津か? 湯治か? 256 00:21:12,505 --> 00:21:15,541 おい どっちだって答えるつもりなんだい? 257 00:21:15,541 --> 00:21:20,012 えっ… ああ…。 258 00:21:20,012 --> 00:21:23,315 家ん中をあらためる。 案内しろい! 259 00:21:24,884 --> 00:21:30,022 何!? 吉野屋十兵衛と 女房のおまきが死んでいた? 260 00:21:30,022 --> 00:21:33,692 まあ…! ど… どうして死んだってんです? 261 00:21:33,692 --> 00:21:36,195 (源三郎)無理心中だって 番頭は言ってました。 262 00:21:36,195 --> 00:21:38,130 無理心中…! 263 00:21:38,130 --> 00:21:40,533 (源三郎)はい。 264 00:21:40,533 --> 00:21:43,035 なんてこった…。 265 00:21:58,083 --> 00:22:01,487 ねえさん 大川端のかわせみから➡ 266 00:22:01,487 --> 00:22:04,390 私に何か言づけが 届いてませんでしたか? 267 00:22:04,390 --> 00:22:08,160 いえ 何も伺っておりませんが。 そう。 268 00:22:08,160 --> 00:22:11,831 じゃあ まだ おやじは帰ってないんだ。 269 00:22:11,831 --> 00:22:15,134 いや ありがとう。 では あとは よろしくお願いいたします。 270 00:22:17,703 --> 00:22:22,208 しょうがない。 おやじとの対面は 明日の朝の 楽しみってことにして。 271 00:22:24,543 --> 00:22:26,745 ひとつ 飲まないかい? 272 00:22:28,380 --> 00:22:31,584 私は いいかな 頂いても? ええ どうぞ。 273 00:22:33,185 --> 00:22:36,021 あっ お酌します。 274 00:22:36,021 --> 00:22:40,326 お酌してくれる? それは うれしいね。 275 00:22:48,601 --> 00:22:51,337 いいんですか? これで。 276 00:22:51,337 --> 00:22:55,541 男の方に お酒ついであげたことなんて ありませんから。 277 00:22:55,541 --> 00:22:58,344 ありがとう。 頂戴しますよ。 278 00:23:03,148 --> 00:23:06,051 ああ~ うまい。 279 00:23:06,051 --> 00:23:09,922 そんなふうにして お父っつぁんも お酒飲んでたんでしょうね。 280 00:23:09,922 --> 00:23:13,125 ん? おっ母さんに お酌してもらって。 281 00:23:16,295 --> 00:23:19,999 小さい頃のあたし そういう お父っつぁんや おっ母さんを➡ 282 00:23:19,999 --> 00:23:24,670 一度や二度は見たこともあるんでしょうに 覚えていない。 283 00:23:24,670 --> 00:23:29,541 私だって そんな おやじやおふくろを見た 覚えはないねえ 一度も。 284 00:23:29,541 --> 00:23:31,543 えっ? 285 00:23:38,851 --> 00:23:43,022 お父っつぁん じゃあ うちでは お酒飲まないんですか? 286 00:23:43,022 --> 00:23:45,691 そりゃあ たまには飲むこともあったけど➡ 287 00:23:45,691 --> 00:23:50,195 おふくろが酌なんかしたことは 私の覚えている限り一度もなかった。 288 00:23:50,195 --> 00:23:53,699 どうして? さあ…。 289 00:23:59,204 --> 00:24:03,409 仲がよくなかったって ことなんですか? 290 00:24:11,850 --> 00:24:14,653 あたしや あたしのおっ母さんのことで➡ 291 00:24:14,653 --> 00:24:18,357 源太郎さんのお母さん お父っつぁんのことを…。 292 00:24:19,992 --> 00:24:22,294 そうなんですね? 293 00:24:22,294 --> 00:24:24,363 だって それはもう…➡ 294 00:24:24,363 --> 00:24:28,834 15年前に ぷっつり お父っつぁんが 吉野へは行かなくなって それで…➡ 295 00:24:28,834 --> 00:24:32,171 それで けりはついてたはずじゃないか。 296 00:24:32,171 --> 00:24:37,843 (おしず)うわべのけりは ついたように 見えていても…。 297 00:24:37,843 --> 00:24:40,512 そう思うかい? 298 00:24:40,512 --> 00:24:46,318 あたしには まだ… よく分かりませんけど。 299 00:24:48,020 --> 00:24:52,858 私にも分からない。 皆目 分かりゃしない。 300 00:24:52,858 --> 00:24:54,793 15年の間…➡ 301 00:24:54,793 --> 00:24:58,731 おやじは 15年の間 何をどう思って生きてきたのか。 302 00:24:58,731 --> 00:25:00,666 今になって 何で急に➡ 303 00:25:00,666 --> 00:25:03,502 「吉野へ行って暮らしたい」だなんて 言いだしたのか! 304 00:25:03,502 --> 00:25:06,405 怒ってるんですか? 305 00:25:06,405 --> 00:25:08,640 怒ってなんかいないが➡ 306 00:25:08,640 --> 00:25:14,980 親でも子でも 心の奥まで のぞいて見ることはできないという➡ 307 00:25:14,980 --> 00:25:20,152 それが 私は悲しいんだ。 308 00:25:20,152 --> 00:25:22,955 悲しくてなりませんよ…! 309 00:25:30,796 --> 00:25:34,666 「前々から いつかは そうしたい」➡ 310 00:25:34,666 --> 00:25:39,538 十兵衛は おまきに そう言ったんだそうです。 311 00:25:39,538 --> 00:25:41,840 前々から? 312 00:25:41,840 --> 00:25:45,677 吉野へ行って暮らすってことか? 313 00:25:45,677 --> 00:25:49,848 ええ。 源太郎に店を譲ったら➡ 314 00:25:49,848 --> 00:25:53,318 隠居の身軽な体になったら 吉野へ行って➡ 315 00:25:53,318 --> 00:25:57,189 おさだと おしず 親子3人 静かに暮らしたい。➡ 316 00:25:57,189 --> 00:26:00,692 前から そう考えていたんだそうです。 317 00:26:04,930 --> 00:26:08,634 (十兵衛)なあ おまき➡ 318 00:26:08,634 --> 00:26:13,939 随分 勝手な願いだと思うだろうが どうか 許しておくれ! 319 00:26:28,821 --> 00:26:34,126 (十兵衛)頼むよ。 おまき このとおりだ! 320 00:26:36,995 --> 00:26:42,201 (おまき)フッ… フフフフッ…。 321 00:26:44,670 --> 00:26:53,178 15年間も ずっと あなた そんなこと考えて生きてたんですか。 322 00:26:54,847 --> 00:26:59,685 心の奥の方で そんなこと考えながら➡ 323 00:26:59,685 --> 00:27:03,388 あたしたちと 暮らしていたっていうんですか。 324 00:27:07,126 --> 00:27:09,962 ひどい人! すまない! 325 00:27:09,962 --> 00:27:15,667 なんてひどい… ひどい人なんでしょうね あんたって人は! 326 00:27:18,670 --> 00:27:25,444 この年になって やきもちをやいたら 世間の人に笑われる。 327 00:27:25,444 --> 00:27:29,982 やきたくったって やきもちは やけない。➡ 328 00:27:29,982 --> 00:27:32,484 そうですね。 329 00:27:32,484 --> 00:27:37,356 そう そろばんをはじいて切り出した…。 330 00:27:37,356 --> 00:27:40,225 憎い人! 331 00:27:40,225 --> 00:27:45,998 そうじゃないさ。 あたしは このとおり謝って…➡ 332 00:27:45,998 --> 00:27:48,500 お前に頼んでいるんだよ。 333 00:27:48,500 --> 00:27:52,304 源太郎にも そうやって頼むつもりですか。 334 00:27:52,304 --> 00:27:58,844 源太郎は男だから あたしの気持ちも分かってくれるだろう。 335 00:27:58,844 --> 00:28:01,613 父親として おしずに➡ 336 00:28:01,613 --> 00:28:05,450 今日まで何一つしてやれずにきた私。➡ 337 00:28:05,450 --> 00:28:11,790 はあ… せめて死ぬ前に 何かしてやりたい気持ち➡ 338 00:28:11,790 --> 00:28:15,961 源太郎には分かってもらえると 思ってますよ 私は…! 339 00:28:15,961 --> 00:28:39,151 ♬~ 340 00:28:44,022 --> 00:28:47,292 おっ母さんは どう思ってるんです?➡ 341 00:28:47,292 --> 00:28:51,997 お父っつぁん 吉野へ 行かせてあげるつもりなんですか? 342 00:28:51,997 --> 00:28:55,500 だって お父っつぁんが➡ 343 00:28:55,500 --> 00:28:58,403 そうしたいと言うんだもの➡ 344 00:28:58,403 --> 00:29:00,339 しかたがないじゃないかね。 345 00:29:00,339 --> 00:29:02,341 しかたがない? 346 00:29:04,776 --> 00:29:09,114 今日まで お父っつぁん 取り上げてきてしまったんだもの➡ 347 00:29:09,114 --> 00:29:11,416 諦めているよ。 348 00:29:12,985 --> 00:29:14,987 そうですか。 349 00:29:17,255 --> 00:29:21,793 おっ母さんが そうやって諦めているんだったら➡ 350 00:29:21,793 --> 00:29:23,829 私は何も申しません。 351 00:29:23,829 --> 00:29:27,265 お父っつぁんの 好きなようにしてください。 352 00:29:27,265 --> 00:29:30,469 ありがとうよ。 353 00:29:30,469 --> 00:29:37,275 お前は分かってくれると… うん お父っつぁんは思っていたよ。 354 00:29:39,177 --> 00:29:43,682 どうか おっ母さんのこと よろしくな。 355 00:30:14,680 --> 00:30:16,682 (戸が開く音) 356 00:30:35,333 --> 00:30:40,872 あたし 江戸へ出てくる時に➡ 357 00:30:40,872 --> 00:30:44,743 おっ母さんは あたしが お父っつぁんを連れて➡ 358 00:30:44,743 --> 00:30:49,047 吉野へ帰ってくることを 願ってるらしいけど➡ 359 00:30:49,047 --> 00:30:54,219 あたしは お父っつぁんに 一目 会えればいい➡ 360 00:30:54,219 --> 00:30:56,221 そう思って…。 361 00:30:59,091 --> 00:31:02,494 ただ 会うだけで? 362 00:31:02,494 --> 00:31:05,163 ええ。 363 00:31:05,163 --> 00:31:09,835 お父っつぁんが あたしに会いたがっている。 364 00:31:09,835 --> 00:31:14,306 おっ母さんや あたしに 今まで してやれないでいたことを➡ 365 00:31:14,306 --> 00:31:16,675 なんとかしてやりたい。 366 00:31:16,675 --> 00:31:19,177 そう思ってくれてることは➡ 367 00:31:19,177 --> 00:31:21,880 お父っつぁんの手紙で よく分かってました。 368 00:31:24,316 --> 00:31:28,520 でも 今 お父っつぁんが幸せなら➡ 369 00:31:28,520 --> 00:31:32,190 吉野へは来ない方がいいんだって➡ 370 00:31:32,190 --> 00:31:34,192 そう決めて出てきたんです…。 371 00:31:36,194 --> 00:31:44,536 お父っつぁんを憎み続けて生きてきた おっ母さんと もう一度 一緒になって➡ 372 00:31:44,536 --> 00:31:48,039 それで お父っつぁんが幸せになれるかどうか。 373 00:31:53,712 --> 00:31:59,584 とにかく お父っつぁんに会いたい一心。 (源太郎)会いたい一心…。 374 00:31:59,584 --> 00:32:02,587 出てきてしまったんです。 375 00:32:06,825 --> 00:32:13,298 一目 会って 「お父っつぁん」って声をかければ➡ 376 00:32:13,298 --> 00:32:15,500 それでいいんです。 377 00:32:19,004 --> 00:32:25,677 おしずが ここへ着く前の晩になって 十兵衛は おまきに言ったらしい。 378 00:32:25,677 --> 00:32:29,481 「明日 おしずに会いに行く」と。 379 00:32:36,021 --> 00:32:40,325 なあ おまき これ おしずにと思って買っといたんだが➡ 380 00:32:40,325 --> 00:32:43,028 どうだろう? 見てくれないか。 381 00:32:50,535 --> 00:32:53,872 ハハハハッ…。➡ 382 00:32:53,872 --> 00:32:57,542 なあ おまき もう18になったというんだから➡ 383 00:32:57,542 --> 00:33:00,145 これくらいのもの 着てもいいだろう。➡ 384 00:33:00,145 --> 00:33:03,482 それとも まだ少し 地味だったかしらねえ。➡ 385 00:33:03,482 --> 00:33:06,151 アハハハハッ! 386 00:33:06,151 --> 00:33:09,487 嫌だ! あっ 何をする… 危ないじゃないか。 387 00:33:09,487 --> 00:33:11,523 行かさない! えっ? 388 00:33:11,523 --> 00:33:15,160 会わせてなんか やるものか! おまき… 落ち着け。 389 00:33:15,160 --> 00:33:17,996 「しかたがない。 諦めてやる」 と言ったろう。 390 00:33:17,996 --> 00:33:20,832 「今日まで あたしを おしずから取り上げていたんだから」と➡ 391 00:33:20,832 --> 00:33:23,301 お前 源太郎にも言ったじゃないか。 知らない 知らない…。 392 00:33:23,301 --> 00:33:26,204 なあ おまき…。 いや~! 393 00:33:26,204 --> 00:33:30,675 もう いや~!➡ 394 00:33:30,675 --> 00:33:33,578 いや~ いや~…。 395 00:33:33,578 --> 00:33:37,182 これ! あ~っ…。 396 00:33:37,182 --> 00:33:39,117 やめないか…。 397 00:33:39,117 --> 00:34:14,119 ♬~ 398 00:34:22,661 --> 00:34:25,497 それじゃあ また 明日 来ますからね。 399 00:34:25,497 --> 00:34:27,532 はい。 おやすみ。 400 00:34:27,532 --> 00:34:30,835 おやすみなさいまし。 さあ どうぞ。 401 00:34:40,312 --> 00:34:44,683 じゃあ よろしくお願いします。 (おきみ)あっ… はい! 402 00:34:44,683 --> 00:34:47,185 若旦那…! 403 00:34:47,185 --> 00:34:50,188 あの すいませんが お話が。 404 00:34:50,188 --> 00:34:52,691 何でしょう? 405 00:34:52,691 --> 00:34:55,026 お上がり願えませんか? 406 00:34:55,026 --> 00:34:58,530 えっ…? ええ ようござんす。 407 00:35:14,379 --> 00:35:16,681 お兄さん…。 408 00:35:35,166 --> 00:35:37,969 まあ そこへ座ってくれねえか。 409 00:35:55,553 --> 00:35:58,857 お役人様でございますね? 410 00:35:58,857 --> 00:36:03,461 八丁堀 定町廻り 畝 源三郎だ。 411 00:36:03,461 --> 00:36:09,768 私は神林東吾。 役人ではない。 このうちの亭主だ。 412 00:36:11,336 --> 00:36:15,040 何のために ここへ呼ばれたか 訳は分かってるな? 413 00:36:16,808 --> 00:36:19,644 はい。 414 00:36:19,644 --> 00:36:23,515 お手数をおかけ申して まことに相すいません。 415 00:36:23,515 --> 00:36:30,355 早速 お届けいたさねばならぬことは 重々存じておりましたが➡ 416 00:36:30,355 --> 00:36:37,996 哀れな妹 おしずにだけは知らせたくない …と そう思ったのでございます。 417 00:36:37,996 --> 00:36:43,168 知らせずに 吉野へ帰す手だてが ついたというのかい? 418 00:36:43,168 --> 00:36:45,837 いえ それは まだ…。 419 00:36:45,837 --> 00:36:50,008 明日 明日と言い繕って どうするつもりかと➡ 420 00:36:50,008 --> 00:36:53,678 余計なことだが案じていたんだぜ。 421 00:36:53,678 --> 00:36:56,314 恐れ入ります。 422 00:36:56,314 --> 00:37:01,786 おしずさんへのいたわりは 私どもにも よく分かりますが➡ 423 00:37:01,786 --> 00:37:07,959 いたわろう気持ちが お強いだけに 一層 あなたが おつらかろうと。 424 00:37:07,959 --> 00:37:09,961 はい…。 425 00:37:11,629 --> 00:37:15,934 何もかもな 言っちまった方が いいんじゃねえのかい。 426 00:37:18,503 --> 00:37:23,241 おめえのおやじさんにしたって 15年前に言っちまえば よかったものを。 427 00:37:23,241 --> 00:37:27,112 なあ 源太郎さん そうは思わねえかい? 428 00:37:27,112 --> 00:37:33,818 15年前に言ってしまえば こうならずに済んだとおっしゃいますか。 429 00:37:33,818 --> 00:37:37,288 どうなったかは 俺には分からねえ。 430 00:37:37,288 --> 00:37:41,159 神様のほかは 分かるわけはねえことだろうさ。 431 00:37:41,159 --> 00:37:45,997 けどな おめえさんのおふくろにしてみりゃあ➡ 432 00:37:45,997 --> 00:37:49,501 15年もの長い年月 だまされていたかと➡ 433 00:37:49,501 --> 00:37:52,203 それが何よりも許せなかった。 434 00:37:54,172 --> 00:37:58,042 「うそも方便」 確かにな。 435 00:37:58,042 --> 00:38:07,752 けど 方便だと思って ついたうそに 傷つく者もいるはずだぜ。 436 00:38:09,454 --> 00:38:11,456 はい。 437 00:38:14,259 --> 00:38:18,796 もし 源太郎さんが おっしゃりにくいのなら➡ 438 00:38:18,796 --> 00:38:22,967 私たちが お話をねえ… してさしあげましょうか? 439 00:38:22,967 --> 00:38:27,639 いえ… 私が…➡ 440 00:38:27,639 --> 00:38:31,509 はい 申します。 441 00:38:31,509 --> 00:38:34,012 言えるんだな? おめえの口から。 442 00:38:37,148 --> 00:38:42,654 あなた様のおっしゃった 「方便についた うそで傷つく者もある」という➡ 443 00:38:42,654 --> 00:38:46,825 おしずを もし 私が傷つけたのなら➡ 444 00:38:46,825 --> 00:38:53,164 その傷は 手前が自分で 癒やしてやらねばなるまいと存じます。 445 00:38:53,164 --> 00:38:56,467 うん よく言った。 446 00:38:58,670 --> 00:39:01,439 いいな 源さん? 447 00:39:01,439 --> 00:39:03,374 はい。 448 00:39:03,374 --> 00:39:07,245 しっかりと言ってやんなよ。 449 00:39:07,245 --> 00:39:09,747 はい…。 450 00:39:12,617 --> 00:39:15,119 はい! 451 00:39:15,119 --> 00:39:39,310 ♬~ 452 00:39:42,647 --> 00:39:44,582 いいかい? 453 00:39:44,582 --> 00:39:48,519 まあ… お帰りじゃなかったんですか。 454 00:39:48,519 --> 00:39:52,724 おしずさんに話があってね 戻ってきました。 455 00:39:54,359 --> 00:39:56,661 何の話でしょう? 456 00:40:04,502 --> 00:40:08,840 すまない…。 えっ? 457 00:40:08,840 --> 00:40:14,846 このとおりだ…。 許してください! 458 00:40:18,850 --> 00:40:23,554 おやじは… 木更津へ行ったんじゃない…。 459 00:40:25,723 --> 00:40:28,226 死んだんだ。 460 00:40:30,461 --> 00:40:34,866 おしずさんが江戸に着く前の晩➡ 461 00:40:34,866 --> 00:40:39,203 おっ母さんに切られて死んだ。➡ 462 00:40:39,203 --> 00:40:44,542 おっ母さんも 喉 かき切って死にました。 463 00:40:44,542 --> 00:40:46,577 実は 15年前に➡ 464 00:40:46,577 --> 00:40:49,347 お前のおっ母さんから おやじを取り上げてきた おふくろが➡ 465 00:40:49,347 --> 00:40:51,549 今度も また お前さんたちから おやじを…! 466 00:40:54,052 --> 00:40:59,857 何と言って わびたらいいのか…! 467 00:41:27,051 --> 00:41:30,888 家付きの わがままなおふくろは➡ 468 00:41:30,888 --> 00:41:36,327 一旦は 「諦める」と私にも言った。 469 00:41:36,327 --> 00:41:42,533 …が 諦めはしたものの 15年の間➡ 470 00:41:42,533 --> 00:41:50,041 父にだまされていたのが 許せなかった…。 恐らくね。 471 00:41:54,145 --> 00:41:58,449 申し訳ございません…。 えっ? 472 00:42:02,854 --> 00:42:12,530 あたしが お父っつぁんに会いたいと 江戸へ出てきたばっかりに…。 473 00:42:12,530 --> 00:42:14,532 それは違うよ! 474 00:42:22,840 --> 00:42:30,014 でも… 会いたかった…。 475 00:42:30,014 --> 00:42:32,216 おしずさん…。 476 00:42:36,187 --> 00:42:40,191 父に会ってやってくれるかい? 477 00:42:53,604 --> 00:43:00,812 源太郎さんは お母さん似だと言ったけど➡ 478 00:43:00,812 --> 00:43:13,124 でも そのお顔のどこかに お父っつぁんの面ざし きっとあるはず。 479 00:43:17,829 --> 00:43:22,300 (おしず) お父っつぁんに会いたくなったら➡ 480 00:43:22,300 --> 00:43:27,004 源太郎さんの顔を思い出します。 481 00:43:31,509 --> 00:43:36,814 (源太郎)私にできることがあったら 言っておくれ。 482 00:43:40,685 --> 00:43:45,890 いいんですか 言っても? (源太郎)ああ いいともさ。 483 00:43:51,696 --> 00:43:57,335 じゃあ… 向こうを向いてください。 484 00:43:57,335 --> 00:43:59,337 えっ…。 485 00:44:04,475 --> 00:44:08,980 向こうを… 向いてください。 486 00:44:08,980 --> 00:44:33,171 ♬~ 487 00:44:33,171 --> 00:44:40,311 お父っつぁ~ん…! お父っつぁ~ん! 488 00:44:40,311 --> 00:44:43,514 お父っつぁ~ん…! 489 00:44:43,514 --> 00:45:01,899 (泣き声) 490 00:45:01,899 --> 00:45:12,410 ♬~ 491 00:45:35,299 --> 00:45:39,003 (お吉)お嬢さん。 ん? な~に? お吉っつぁん。 492 00:45:39,003 --> 00:45:41,706 (お吉)おしずさんが ご挨拶にいらっしゃいました。 493 00:45:44,675 --> 00:45:48,312 もう おたちですか。 (おしず)はい。➡ 494 00:45:48,312 --> 00:45:51,215 お世話になりました。 495 00:45:51,215 --> 00:45:56,053 ねえ おしずさん 一旦 吉野へお帰りになって➡ 496 00:45:56,053 --> 00:45:59,991 もう一度 この江戸に 帰っておいでになりませんか? 497 00:45:59,991 --> 00:46:01,993 えっ? 498 00:46:01,993 --> 00:46:05,730 源太郎さんも 一人になってしまったんですもの➡ 499 00:46:05,730 --> 00:46:10,267 お互いに励まし合い 慰め合う人がいてくれたらって…➡ 500 00:46:10,267 --> 00:46:14,138 ねえ そう思ってるんじゃないかしら 源太郎さんも。 501 00:46:14,138 --> 00:46:17,475 そりゃあ… あたしも…。 502 00:46:17,475 --> 00:46:19,477 思うでしょ? 503 00:46:22,346 --> 00:46:29,654 源太郎さんが兄さんでなかったら➡ 504 00:46:29,654 --> 00:46:33,491 きっと そうしたと思います あたし。 505 00:46:33,491 --> 00:46:36,294 「兄さんでなかったら」…? 506 00:46:43,834 --> 00:46:45,770 (おしず)源太郎さんは➡ 507 00:46:45,770 --> 00:46:49,507 お父っつぁん おっ母さんの死んだことを 隠そうとして➡ 508 00:46:49,507 --> 00:46:53,010 江戸見物に連れてってくれた。➡ 509 00:46:53,010 --> 00:46:55,846 あんなに優しく いたわってもらったことは➡ 510 00:46:55,846 --> 00:46:58,516 ありませんでした。➡ 511 00:46:58,516 --> 00:47:03,521 一生 忘れません。 一生…。 512 00:47:08,192 --> 00:47:11,462 あ~あ 逃げちゃった。 513 00:47:11,462 --> 00:47:13,397 惜しいことしたな。 514 00:47:13,397 --> 00:47:17,802 お父っつぁん。 吉野屋さん 「きつく叱りおく」って➡ 515 00:47:17,802 --> 00:47:20,838 それだけで おとがめなしに済んだんですってよ。 516 00:47:20,838 --> 00:47:26,510 畝の旦那のお計らいだ。 ああ 畝様が…。 517 00:47:26,510 --> 00:47:30,314 はい 畝様 どうぞ。 (源三郎)はい 頂きます。 518 00:47:34,251 --> 00:47:36,487 うん! 519 00:47:36,487 --> 00:47:38,522 あっ 東吾さん。 ん? 520 00:47:38,522 --> 00:47:41,158 お花見に行きませんか? 花見? 521 00:47:41,158 --> 00:47:45,496 ええ。 飛鳥山の桜が もう ほころびかけてるんだそうですよ。 522 00:47:45,496 --> 00:47:48,299 「花よりだんご」の源さんがか? 523 00:47:48,299 --> 00:47:51,168 (笑い声) 524 00:47:51,168 --> 00:47:54,472 よし 行こう。 なあ るい? はい。 525 00:47:56,974 --> 00:48:01,812 吉野も きっと 見事に桜が…。 526 00:48:01,812 --> 00:48:05,816 咲いてるでしょうね 今時分。 527 00:48:05,816 --> 00:48:43,320 ♬~