1 00:00:04,197 --> 00:00:09,068 いろんな試練を 乗り越えてきたからね。 2 00:00:09,068 --> 00:00:13,706 だから 絆が深まったんですね。 3 00:00:13,706 --> 00:00:18,878 また ドラマチックな映像を 撮ってくるからね~。 4 00:00:18,878 --> 00:00:21,714 はい 楽しみにしてま~す! 5 00:00:21,714 --> 00:00:26,014 ♬~ 6 00:00:45,204 --> 00:00:49,375 (おちか)堪忍して。 どうぞ… 堪忍して! 7 00:00:49,375 --> 00:00:51,675 堪忍して下さい! 8 00:00:55,048 --> 00:01:02,048 許さねえ。 俺の事忘れたら 絶対許さねえ! 9 00:01:08,227 --> 00:01:10,427 (血しぶきが飛び散る音) 10 00:01:25,078 --> 00:01:51,378 ♬~ 11 00:01:53,039 --> 00:02:10,039 ♬~ 12 00:02:11,724 --> 00:02:18,064 (灯庵)<人々が殺し合うよな 戦の世などは昔事。➡ 13 00:02:18,064 --> 00:02:24,737 今のお江戸は皆 助け合いながらの つましき暮らし。➡ 14 00:02:24,737 --> 00:02:33,546 さて神田筋違先三島町の 町名から屋号を頂く三島屋は➡ 15 00:02:33,546 --> 00:02:38,184 名店 越川と丸角に挟まれて➡ 16 00:02:38,184 --> 00:02:45,691 主人 伊兵衛 女房 お民が 笹に 袋をつるしての振り売りから➡ 17 00:02:45,691 --> 00:02:50,863 一代で成した近頃評判の袋物屋> 18 00:02:50,863 --> 00:02:55,663 (新太)袋物の三島屋でござ~い。 19 00:02:58,538 --> 00:03:03,375 (灯庵)<店を構えて 10年と1年が過ぎ➡ 20 00:03:03,375 --> 00:03:11,049 三島屋の名は十分に世間に通り 住み込みと通いの職人が増え➡ 21 00:03:11,049 --> 00:03:13,952 裏には作業場を建てた> 22 00:03:13,952 --> 00:03:16,221 (お世津)お内儀さん。 お見えになりました。 23 00:03:16,221 --> 00:03:18,221 (お民)ありがとう。 24 00:03:19,892 --> 00:03:23,729 (灯庵)<かつての作業場は 主人 伊兵衛が➡ 25 00:03:23,729 --> 00:03:27,599 碁の敵を招く折に 使うようになり➡ 26 00:03:27,599 --> 00:03:32,437 その名も黒白の間と名付けた。➡ 27 00:03:32,437 --> 00:03:39,678 2人の息子も ほかのお店に 奉公に出て 商人修業。➡ 28 00:03:39,678 --> 00:03:47,019 跡取りの心配もなくなった頃から 伊兵衛は碁に親しむようになり…> 29 00:03:47,019 --> 00:03:49,922 (泣き声) 30 00:03:49,922 --> 00:03:52,824 灯庵さん 強いな~。 31 00:03:52,824 --> 00:03:57,029 泣きなさんなよ。 32 00:03:57,029 --> 00:04:01,366 今度は もっと弱い相手を 口利きしますから。 33 00:04:01,366 --> 00:04:04,036 それじゃあ つまらない! 34 00:04:04,036 --> 00:04:08,540 勝負事は上を目指さないと。 フッフッフ…。 35 00:04:08,540 --> 00:04:13,879 遅くかかった病は重いの 常のとおりだな。 36 00:04:13,879 --> 00:04:18,383 この部屋も こんな意匠にしてからが。 37 00:04:18,383 --> 00:04:20,719 ≪(八十助)旦那様! 38 00:04:20,719 --> 00:04:23,388 おちかお嬢さんが いらっしゃいました。 39 00:04:23,388 --> 00:04:25,724 そうか! はい! 40 00:04:25,724 --> 00:04:31,396 灯庵さん この勝負 お預けという事にしとこうか! 41 00:04:31,396 --> 00:04:34,396 どうぞ ご随意に。 42 00:04:37,002 --> 00:04:42,507 大変だったろう? 川崎宿から 4里と30町だったよね。 43 00:04:42,507 --> 00:04:49,014 はい。 朝の五つに六郷に渡って そのまま まっすぐに。 44 00:04:49,014 --> 00:04:51,516 早く着いたねえ! 45 00:04:51,516 --> 00:04:54,353 歩き通しかい? 疲れたろう。 46 00:04:54,353 --> 00:04:58,223 いえ 品川宿で 一休み致しましたから。 47 00:04:58,223 --> 00:05:02,094 うちの人 今 戦の真っ最中なんだよ。 48 00:05:02,094 --> 00:05:06,294 えっ? やあ おちか! 待ってたよ。 49 00:05:07,899 --> 00:05:17,042 叔父様 叔母様 ふつつか者ですが どうぞ よろしくお願い致します。 50 00:05:17,042 --> 00:05:19,711 やめとくれよ そんな堅苦しい挨拶は。 51 00:05:19,711 --> 00:05:22,547 叔父と姪御の仲なんだから。 52 00:05:22,547 --> 00:05:29,321 旅籠育ちは礼儀が正しいねえ。 フフッ 兄さんは元気かい? 53 00:05:29,321 --> 00:05:34,660 はい。 くれぐれも よろしくと 言づかってまいりました。 54 00:05:34,660 --> 00:05:38,530 さて お民。 今日は何をごちそうしようかな? 55 00:05:38,530 --> 00:05:40,532 叔父さん 叔母さん➡ 56 00:05:40,532 --> 00:05:43,368 それより すぐにでも お仕事をお言いつけ下さい。 57 00:05:43,368 --> 00:05:45,671 おいおい そんなに急がなくても。 58 00:05:45,671 --> 00:05:53,671 三島屋には奉公に参りました。 私… 実家には戻れません。 59 00:05:55,380 --> 00:05:58,684 分かってるよ。 60 00:05:58,684 --> 00:06:00,619 こちら女中頭の…。 61 00:06:00,619 --> 00:06:03,855 しまでございます。 世津でございます。 62 00:06:03,855 --> 00:06:05,791 春でございます。 63 00:06:05,791 --> 00:06:10,291 何とぞ よろしくお願い致します。 64 00:06:13,865 --> 00:06:17,369 お嬢さんなのに 私たち奉公人と一緒に➡ 65 00:06:17,369 --> 00:06:19,304 働いて頂くんで よろしいんですか? 66 00:06:19,304 --> 00:06:23,542 それは構わないよ。 おちかの たっての望みだからね。 67 00:06:23,542 --> 00:06:27,412 うかうかしてると 仕事 お嬢さんに取られちまうからね。 68 00:06:27,412 --> 00:06:30,048 (2人)えっ? 決して そんなつもりは。 69 00:06:30,048 --> 00:06:36,855 フフフッ 冗談ですよ。 それじゃあ 三島屋の中を ご案内しましょう。 70 00:06:36,855 --> 00:06:39,858 何 突っ立てるんだよ。 ほら 仕事に戻ろう 戻ろう。 71 00:06:39,858 --> 00:06:42,158 頼んだよ。 はい。 72 00:06:59,211 --> 00:07:25,203 ♬~ 73 00:07:25,203 --> 00:07:29,074 何で こんな所に彼岸花が? どっから来たんだろう? 74 00:07:29,074 --> 00:07:32,477 これって お墓に咲いてる 幽霊花でしょ? 75 00:07:32,477 --> 00:07:34,980 こいつは死人花っていうんだよ。 76 00:07:34,980 --> 00:07:38,016 毒があるんだよ。 触るんじゃねえよ 不吉だねえ。 77 00:07:38,016 --> 00:07:41,153 ほらほら この忙しいのに なに そろって油売ってるんだい。 78 00:07:41,153 --> 00:07:43,989 ほら。 これを見てごらんよ おしまさん。 79 00:07:43,989 --> 00:07:45,924 ひえ! 80 00:07:45,924 --> 00:07:48,660 死人の血を吸っちゃあ 赤い顔した彼岸花。 81 00:07:48,660 --> 00:07:50,595 またの名を曼珠沙華。 82 00:07:50,595 --> 00:07:54,466 花が咲き乱れるのは 不吉なしるしってね。 83 00:07:54,466 --> 00:07:56,835 嫌だ! 番頭さん 脅さないで。 84 00:07:56,835 --> 00:08:00,505 お春 鎌持ってきな。 私が とっとと刈ったげるから。 85 00:08:00,505 --> 00:08:04,676 毒なんだよ。 触んじゃないよ! あんたの顔の方が 毒だよ。 86 00:08:04,676 --> 00:08:07,579 あら。 言うねえ おしまさん。 87 00:08:07,579 --> 00:08:10,015 (八十助)来た 来た 来た! よ~し じゃあ いいかい? 88 00:08:10,015 --> 00:08:11,950 こうだろ こうだろ? そう そう…。 89 00:08:11,950 --> 00:08:14,186 どんないわれの花であれ 縁あって➡ 90 00:08:14,186 --> 00:08:16,121 我が家の庭先に 根を下ろしたのだよ。 91 00:08:16,121 --> 00:08:19,024 むげに刈り取ってしまうのは 情けがないというものだ。 92 00:08:19,024 --> 00:08:21,359 よそ様で嫌われて肩身の狭い 思いをしてるから➡ 93 00:08:21,359 --> 00:08:23,295 ほら こんなに気まずそうに 固まって。 94 00:08:23,295 --> 00:08:26,198 いじらしいじゃないか。 そのままにしときなさい。 95 00:08:26,198 --> 00:08:28,133 へえ。 96 00:08:28,133 --> 00:08:30,068 …だって。 97 00:08:30,068 --> 00:08:45,150 ♬~ 98 00:08:45,150 --> 00:08:47,986 手慣れたもんだねえ。 99 00:08:47,986 --> 00:08:50,488 どんなお嬢様が来たかと 思っていたのに➡ 100 00:08:50,488 --> 00:08:54,359 おちかさんは働き者だよ。 とんでもないです。 101 00:08:54,359 --> 00:08:57,996 でも 実家は 川崎の大きな旅籠なんだろ? 102 00:08:57,996 --> 00:09:01,666 本陣ではありませんから 奉公人と一緒に働かないと➡ 103 00:09:01,666 --> 00:09:03,602 旅籠の商いなんて 立ち行きません。 104 00:09:03,602 --> 00:09:06,538 おちかさんなら どこにも行儀見習なんかに➡ 105 00:09:06,538 --> 00:09:10,342 上がる事はないよ。 106 00:09:10,342 --> 00:09:15,013 さては今度の奉公は➡ 107 00:09:15,013 --> 00:09:18,516 あんたの実家のご両親と うちの旦那様が計らって➡ 108 00:09:18,516 --> 00:09:21,019 江戸の風で磨いて いい嫁入り先を➡ 109 00:09:21,019 --> 00:09:24,522 見つけようって 算段じゃないかしら? 110 00:09:24,522 --> 00:09:29,694 私は どこへも お嫁になんか行きません。 えっ? 111 00:09:29,694 --> 00:09:31,663 ここで お内儀さんに お針を習って➡ 112 00:09:31,663 --> 00:09:35,467 袋物仕立ての職人になって 一本立ちしたいんです。 113 00:09:35,467 --> 00:09:42,641 アハハッ あら嫌だ。 誰が そんな事させるもんかね。 ハハハ…。 114 00:09:42,641 --> 00:09:47,312 お嬢さんに あんなに働かれると 私ら やる事がなくなっちまうよ。 115 00:09:47,312 --> 00:09:50,815 やぶ入りまでに お暇出されたらどうしよう。 116 00:09:50,815 --> 00:09:53,652 もしかして あの彼岸花 咲かせたのは…。 117 00:09:53,652 --> 00:09:59,352 えっ? そんなまさか。 不吉なしるしって…。 118 00:10:01,393 --> 00:10:04,296 旦那様が刈るなって おっしゃるんだよ。 119 00:10:04,296 --> 00:10:06,998 薄気味悪いだろ? 120 00:10:06,998 --> 00:10:14,172 いいえ。 あの花の肩身の狭さは 今の私と同じです。 121 00:10:14,172 --> 00:10:16,675 刈られてしまわなくて よかった。 122 00:10:16,675 --> 00:10:21,375 もう そんな寂しい顔は ごめんですよ。 123 00:10:34,526 --> 00:10:38,029 これ 三島屋! 火急の用で参った。 124 00:10:38,029 --> 00:10:40,532 主 伊兵衛はおるか? 125 00:10:40,532 --> 00:10:45,036 はいはい… はい。 堀越家の者だ。 126 00:10:45,036 --> 00:10:47,736 はっ ただいま! 少々お待ちを。 127 00:10:50,842 --> 00:10:54,713 今日は私と互角の腕前の お客なんだ フフフッ。 128 00:10:54,713 --> 00:10:59,384 お部屋 おちかさんが隅から隅まで お掃除してくれたんですよ。 129 00:10:59,384 --> 00:11:01,720 おう。 そういや 随分と きれいになってる。 130 00:11:01,720 --> 00:11:05,223 きれいなおなごの きれい好きだね ヘヘヘ…。 131 00:11:05,223 --> 00:11:10,395 叔父さん 何にも出ませんよ。 ハハハハッ…。 132 00:11:10,395 --> 00:11:14,065 旦那様! 堀越様より お使いが参りまして➡ 133 00:11:14,065 --> 00:11:16,735 何やら 急な御用だという事で ございます。 134 00:11:16,735 --> 00:11:19,237 堀越様からの? 135 00:11:19,237 --> 00:11:21,172 お民! ≪(お民)はい! 136 00:11:21,172 --> 00:11:23,575 お内儀さん。 堀越様のお使いが。 137 00:11:23,575 --> 00:11:26,077 お民も来てくれるか。 もちろんです。 138 00:11:26,077 --> 00:11:28,913 堀越様なら 大事なこしらえになりますよ。 139 00:11:28,913 --> 00:11:33,113 こんなお急ぎは お上の御用向きなのかもしれん。 140 00:11:51,169 --> 00:11:55,040 よんどころない事情だから 碁のお客様との約束は反故になる。 141 00:11:55,040 --> 00:11:57,876 先様が おいでになったら お前 お相手をして➡ 142 00:11:57,876 --> 00:12:01,746 よくよく事情をお話しして 私に代わって おわびをしとくれ。 143 00:12:01,746 --> 00:12:05,050 えっ? 頼んだよ。 144 00:12:05,050 --> 00:12:07,350 参りましょう。 ああ。 145 00:12:14,059 --> 00:12:15,994 え~? 146 00:12:15,994 --> 00:12:19,397 旦那様 お気を付けて。 お内儀さんも。 ありがとう。 147 00:12:19,397 --> 00:12:21,397 ≪旦那様 お出かけ~! 148 00:12:23,068 --> 00:12:25,003 頼んだよ。 はい。 149 00:12:25,003 --> 00:12:27,303 行ってらっしゃいませ! 行ってらっしゃいませ! 150 00:12:28,940 --> 00:12:32,177 おしまさん 私には お客あしらいなんて無理です! 151 00:12:32,177 --> 00:12:35,513 お客様のおっしゃる事に お返事してればいいんです。 152 00:12:35,513 --> 00:12:38,416 私もお手伝いして お土砂をかけてあげますから。 153 00:12:38,416 --> 00:12:40,385 そりゃあ了見が違うぜ おしまさん。 154 00:12:40,385 --> 00:12:44,222 おや 何の文句があるんだい? やむをえねえ次第とはいえ➡ 155 00:12:44,222 --> 00:12:48,026 こちらがお呼び立てしたお客様に 空足を踏ませたとなると➡ 156 00:12:48,026 --> 00:12:51,362 重ね重ねの失礼で。 分かってますよ。 だから…。 157 00:12:51,362 --> 00:12:55,233 手前らのような奉公人が お相手をしたとなると➡ 158 00:12:55,233 --> 00:12:57,869 もう一つ非礼を 重ねる事になるんで➡ 159 00:12:57,869 --> 00:13:02,207 旦那様は おちかお嬢様に お申しつけになった。 160 00:13:02,207 --> 00:13:06,077 お嬢様は お身内の方だからですよ。 161 00:13:06,077 --> 00:13:08,713 そうだよ! おちかさん➡ 162 00:13:08,713 --> 00:13:10,748 こんな女中の格好してちゃ いけないよ! 163 00:13:10,748 --> 00:13:13,551 よそ行きに着替えて 髷をなでつけないと! 164 00:13:13,551 --> 00:13:16,888 飾りも替えないといけないよ。 えっ? だって今一緒にって。 165 00:13:16,888 --> 00:13:19,724 私みたいな女中が 出る幕じゃないんだよ。 166 00:13:19,724 --> 00:13:21,759 ささっ 早く着替えないと➡ 167 00:13:21,759 --> 00:13:24,229 八つには お客様がいらっしゃいますよ。 168 00:13:24,229 --> 00:13:26,564 私一人で お相手しなくては ならないんですか? 169 00:13:26,564 --> 00:13:28,500 ご挨拶ぐらいは できるでしょうに。 170 00:13:28,500 --> 00:13:30,902 そのあと 何を申しましょう? いいですか➡ 171 00:13:30,902 --> 00:13:34,172 旦那様も お内儀さんも お嬢様を頼みにして➡ 172 00:13:34,172 --> 00:13:36,107 お出かけになったんですから➡ 173 00:13:36,107 --> 00:13:39,677 あからさまに うっとうしそうな お顔をなさっちゃいけませんぜ! 174 00:13:39,677 --> 00:13:42,580 さっ さっ 早く…。 ほら ねっ ねっ…。 175 00:13:42,580 --> 00:13:54,280 ♬~ 176 00:13:57,095 --> 00:14:03,368 さて 三島屋さんは急なご用事でも 出来なさいましたか? 177 00:14:03,368 --> 00:14:06,068 申し訳ございません。 178 00:14:09,707 --> 00:14:14,045 本日は お約束を交わしておきながら➡ 179 00:14:14,045 --> 00:14:17,715 主人 伊兵衛に 火急に よんどころなき事情が➡ 180 00:14:17,715 --> 00:14:24,015 まかりおきまして… え~ あの…。 181 00:14:28,726 --> 00:14:33,331 (荒い息遣い) 182 00:14:33,331 --> 00:14:37,001 お客様? お客様… どうかなさいましたか!? 183 00:14:37,001 --> 00:14:40,672 お客様! お客様 ご気分が お悪いのでございますか? 184 00:14:40,672 --> 00:14:45,343 ハアハア… 誠に申し訳ありませんが➡ 185 00:14:45,343 --> 00:14:50,682 そこの… そこの障子を 閉めて頂けませんか? 186 00:14:50,682 --> 00:14:53,382 はい。 すぐに。 187 00:14:58,356 --> 00:15:01,392 はい。 閉めました。 188 00:15:01,392 --> 00:15:06,864 確かに… 閉めて頂けましたか? はい。 189 00:15:06,864 --> 00:15:10,368 もう庭は見えませんね? 190 00:15:10,368 --> 00:15:12,704 はい。 見えません。 191 00:15:12,704 --> 00:15:24,415 (呼吸が落ち着いてくる) 192 00:15:24,415 --> 00:15:28,553 大変 失礼致しました。 193 00:15:28,553 --> 00:15:33,157 お手数ですが 水を一杯頂けませんか? 194 00:15:33,157 --> 00:15:35,157 ただいま。 195 00:15:44,168 --> 00:15:49,841 お客様 大丈夫ですか? はあ… あなた様は? 196 00:15:49,841 --> 00:15:54,641 ちかと申します。 伊兵衛は叔父でございます。 197 00:15:56,514 --> 00:16:00,852 とんだ不調法で お嬢様を 驚かせてしまいました。 198 00:16:00,852 --> 00:16:03,521 誠に 相すみません。 199 00:16:03,521 --> 00:16:06,557 何か ご気分を 損ねるようなものが➡ 200 00:16:06,557 --> 00:16:10,028 この庭に ございましたのでしょうか? 201 00:16:10,028 --> 00:16:12,363 何もございません。 202 00:16:12,363 --> 00:16:16,200 どうぞ ご遠慮なさらずに おっしゃって下さいまし。 203 00:16:16,200 --> 00:16:18,536 主人 伊兵衛から 留守を預かりました➡ 204 00:16:18,536 --> 00:16:20,872 私の粗相でございます。 205 00:16:20,872 --> 00:16:25,072 きっと伊兵衛に申し伝え 改めなくてはなりません。 206 00:16:26,678 --> 00:16:29,881 おや。 どうしたんだい? どうもこうもねえよ! 207 00:16:29,881 --> 00:16:33,318 お客様 しゃくを 起こしちまってよ! え~? 208 00:16:33,318 --> 00:16:37,188 心の臓の辺りに病を お持ちなんじゃねえのかな? 209 00:16:37,188 --> 00:16:39,824 だけどさ 旦那様のお留守に➡ 210 00:16:39,824 --> 00:16:42,160 ここで倒れられちまったら 事だよ? 211 00:16:42,160 --> 00:16:45,830 そうだよな。 どうしたものかなあ? 212 00:16:45,830 --> 00:16:48,866 そうだ。 一休みしたら お帰り頂こう! 213 00:16:48,866 --> 00:16:51,002 うん そうだ そうだ…。 214 00:16:51,002 --> 00:16:54,339 あれがある場所は 大抵限られていますから➡ 215 00:16:54,339 --> 00:16:58,843 近づかなくてはならない折には 覚悟して参ります。 216 00:16:58,843 --> 00:17:03,514 しかし 今は 出し抜けだったもので。 217 00:17:03,514 --> 00:17:05,850 「あれ」とは? 218 00:17:05,850 --> 00:17:10,650 三島屋さんは どうして お庭にあれを? 219 00:17:14,025 --> 00:17:17,061 ひょっとすると お客様が お尋ねなのは➡ 220 00:17:17,061 --> 00:17:20,365 曼珠沙華の事でございますか? 221 00:17:20,365 --> 00:17:26,037 はい。 私は あの花が恐ろしいのです。 222 00:17:26,037 --> 00:17:30,708 恐ろしくて 恐ろしくて たまらないのです。 223 00:17:30,708 --> 00:17:32,708 失礼致します。 224 00:17:40,385 --> 00:17:42,385 どうぞ。 225 00:17:49,827 --> 00:17:54,999 番頭さん お客様は曼珠沙華の花が お嫌いなのだそうです。 226 00:17:54,999 --> 00:18:01,339 あ~ これは全く ご無礼を致しました。 227 00:18:01,339 --> 00:18:04,242 もう 不吉な花でございますからね。 228 00:18:04,242 --> 00:18:06,677 手前どもも主に➡ 229 00:18:06,677 --> 00:18:11,349 酔狂や気まぐれで 墓場の花を庭に置くなど➡ 230 00:18:11,349 --> 00:18:14,852 もっての外だと いさめるべきでございました! 231 00:18:14,852 --> 00:18:17,522 そうだ! この場で手前が➡ 232 00:18:17,522 --> 00:18:20,191 刈り取って 退治してお見せ致しましょう! 233 00:18:20,191 --> 00:18:23,528 いやいや… それには及びません。 234 00:18:23,528 --> 00:18:27,198 三島屋の皆さんに何の粗相も ある訳ではありません。 235 00:18:27,198 --> 00:18:29,534 あっ いや しかし…。 どうぞ 伊兵衛さんの留守に➡ 236 00:18:29,534 --> 00:18:33,137 あれを刈ってしまうような事は しないで下さい。 237 00:18:33,137 --> 00:18:37,337 あの花をめでる気持ちは 立派なものだ。 238 00:18:40,645 --> 00:18:45,817 おちかさんは曼珠沙華の花の いわれをご存じですか? 239 00:18:45,817 --> 00:18:50,321 よくは知りませんが 彼岸の頃に咲くので➡ 240 00:18:50,321 --> 00:18:53,357 あの世と関わりがある という事でしょうか? 241 00:18:53,357 --> 00:18:58,996 不気味だとか 不吉だとかは お思いになりませんか? 242 00:18:58,996 --> 00:19:06,337 怖くはございません。 むしろ あの花が好きなくらいです。 243 00:19:06,337 --> 00:19:12,137 寂しくて かわいそう いじらしいと思ってしまいます。 244 00:19:13,845 --> 00:19:18,683 おちかさんは しんから お優しい方なのですね。 245 00:19:18,683 --> 00:19:23,554 私は 三島屋さんのお宝を 拝見する事ができました。 246 00:19:23,554 --> 00:19:30,194 とんでもない事でございます! 私は この家の やっかい者です。 247 00:19:30,194 --> 00:19:35,800 親元におられず 叔父を頼って寄宿して…。 248 00:19:35,800 --> 00:19:41,672 最初に あなたのお顔を見た時 大層美しいお嬢さんだが➡ 249 00:19:41,672 --> 00:19:45,472 どこか寂しげなところがあると 思いました。 250 00:19:47,512 --> 00:19:51,282 商いの算盤勘定も ひととき忘れて➡ 251 00:19:51,282 --> 00:19:55,486 黒白の合戦に興じようと お訪ねした先で➡ 252 00:19:55,486 --> 00:19:57,822 覚えず 曼珠沙華の花に会い➡ 253 00:19:57,822 --> 00:20:02,493 そこに あなたのようなお嬢さんが 居合わせた事は➡ 254 00:20:02,493 --> 00:20:06,293 きっと 何かのしるしでございましょう。 255 00:20:08,666 --> 00:20:13,004 しるしと おっしゃいますと? 256 00:20:13,004 --> 00:20:19,176 何か 御仏に 諭されているような…。 257 00:20:19,176 --> 00:20:24,048 永い年月 胸に隠し持った どす黒いものを➡ 258 00:20:24,048 --> 00:20:26,848 吐き出す潮時が来たと。 259 00:20:28,686 --> 00:20:33,524 おちかさん。 はい。 260 00:20:33,524 --> 00:20:38,396 小商人の昔語りに おつきあい下さいませんか? 261 00:20:38,396 --> 00:20:41,399 はい。 262 00:20:41,399 --> 00:20:47,038 なぜに これほど曼珠沙華の花が 恐ろしいのか➡ 263 00:20:47,038 --> 00:20:50,708 その訳をお話し致しましょう。 264 00:20:50,708 --> 00:20:54,708 どうか お聞かせ下さいまし。 265 00:20:59,050 --> 00:21:01,050 では…。 266 00:21:02,887 --> 00:21:05,923 [ 回想 ] (子どもたち)頂きます。 267 00:21:05,923 --> 00:21:11,062 (藤兵衛)<私は幼い頃の名を 藤吉と申しました。➡ 268 00:21:11,062 --> 00:21:15,933 あの出来事があった頃 父母は 既に この世には ありません。➡ 269 00:21:15,933 --> 00:21:20,237 住んでいた長屋が火事で焼け 亡くなったのです。➡ 270 00:21:20,237 --> 00:21:24,575 私は 6人兄弟の末っ子で まだ8つ。➡ 271 00:21:24,575 --> 00:21:28,245 一時 13上の兄が 住み込み先から戻って➡ 272 00:21:28,245 --> 00:21:30,581 親代わりになりました。➡ 273 00:21:30,581 --> 00:21:35,419 兄は 名を吉蔵と申しました。➡ 274 00:21:35,419 --> 00:21:42,226 親方には父も長年世話になり 吉蔵兄は この時が修業8年目。➡ 275 00:21:42,226 --> 00:21:47,031 建具職人の腕は それは見事なものでした。➡ 276 00:21:47,031 --> 00:21:50,701 ほかの 年かさの職人たちも できないような事を➡ 277 00:21:50,701 --> 00:21:55,373 吉蔵兄は やすやすと覚えて やりこなしてしまう。➡ 278 00:21:55,373 --> 00:21:58,275 子どもながらに 私は それが誇らしくて➡ 279 00:21:58,275 --> 00:22:00,244 自慢でなりませんでした> 280 00:22:00,244 --> 00:22:04,882 (初五郎)どうだ 藤吉。 おめえも吉蔵兄さんのような➡ 281 00:22:04,882 --> 00:22:07,918 腕が達者な職人さんに なりてえか? 282 00:22:07,918 --> 00:22:09,918 うん。 283 00:22:14,225 --> 00:22:19,063 おう! お今が来たんで こっちは 一休みするかい。 はいよ! 284 00:22:19,063 --> 00:22:24,263 やだ お父っつぁん 私のせいに しないで下さいな。 285 00:22:25,836 --> 00:22:30,241 これ 吉さんのかい? (吉蔵)へい。 286 00:22:30,241 --> 00:22:34,679 はあ~ 見事なもんだねえ。 287 00:22:34,679 --> 00:22:38,849 (藤兵衛)<兄が 親方のお嬢さんに 思いを寄せているのは➡ 288 00:22:38,849 --> 00:22:41,686 8歳の私でも感じました。➡ 289 00:22:41,686 --> 00:22:46,524 でも お今さんには 縁談が持ち上がっており➡ 290 00:22:46,524 --> 00:22:51,724 貧乏職人の吉蔵兄には かなわぬ片思いでした> 291 00:22:56,233 --> 00:22:59,103 (仁助)大工に茶はねえのかよ。 292 00:22:59,103 --> 00:23:01,603 あっ 藤吉ちゃん。 293 00:23:03,374 --> 00:23:06,043 これを吉蔵さんに渡しておくれ。 294 00:23:06,043 --> 00:23:08,379 (藤兵衛)<近所の若い娘たちから➡ 295 00:23:08,379 --> 00:23:11,282 何度も付け文を 預かった事がありましたが➡ 296 00:23:11,282 --> 00:23:15,052 吉蔵兄は それには 一遍も応えませんでした。➡ 297 00:23:15,052 --> 00:23:18,089 兄弟たちは奉公に出ていき…> 298 00:23:18,089 --> 00:23:20,925 俺が所帯を持つなんざ まだまだ先よ。 299 00:23:20,925 --> 00:23:22,927 おめえたちが 奉公先めっけるなり➡ 300 00:23:22,927 --> 00:23:25,396 手に職つけるなりして 落ち着くまでは➡ 301 00:23:25,396 --> 00:23:29,900 てめえの事にしても ましてや 女になんかに構っていられるか。 302 00:23:29,900 --> 00:23:33,400 俺には おめえたちが一番だ! 303 00:23:37,007 --> 00:23:40,878 よい事ばかりの 吉蔵兄ではありましたが➡ 304 00:23:40,878 --> 00:23:45,683 一つだけ 弱いところがございました。 305 00:23:45,683 --> 00:23:49,353 何も欠けるところのない人など この世にはおりません。➡ 306 00:23:49,353 --> 00:23:55,860 兄は 気が荒いところが あったのです。 307 00:23:55,860 --> 00:23:58,362 けんかっ早くて すぐ 手を上げるとかではありません。 308 00:23:58,362 --> 00:24:01,031 気が荒いのは職人の常。 309 00:24:01,031 --> 00:24:05,703 日頃の争い事など むしろ兄は 割って入り 止める側でした。 310 00:24:05,703 --> 00:24:11,876 でも 一たびカッとなって 堪忍袋の緒が切れると➡ 311 00:24:11,876 --> 00:24:16,046 我に返るまで 自分が何をしているのかも➡ 312 00:24:16,046 --> 00:24:19,746 分からなくなってしまう事が ありました。 313 00:24:22,219 --> 00:24:26,056 (藤兵衛)<大工と建具職人は 似たような仕事をしますが➡ 314 00:24:26,056 --> 00:24:29,727 役割も立場も 大工が上でございます。➡ 315 00:24:29,727 --> 00:24:34,498 秋口の事でしたが 殊の外 雨の多い年で➡ 316 00:24:34,498 --> 00:24:40,698 急ぎの普請でしたのに工程が遅れ 皆が いらついておりまして…> 317 00:24:42,373 --> 00:24:44,508 (吉蔵)何だ? この建具じゃ➡ 318 00:24:44,508 --> 00:24:47,011 寸法が合わねえって言ったろう。 319 00:24:47,011 --> 00:24:48,946 こっちは注文どおり こしらえたんだ。 320 00:24:48,946 --> 00:24:52,817 合わねえもんは合わねえんだよ! 321 00:24:52,817 --> 00:24:55,686 てめえ 何しやがる。 322 00:24:55,686 --> 00:24:57,621 こいつは お今と同じよ。 323 00:24:57,621 --> 00:25:00,191 見てくれも格も下がっちまって➡ 324 00:25:00,191 --> 00:25:03,694 突っ返されたお今と 同じ事だってえのよ。 325 00:25:03,694 --> 00:25:05,629 何だと? 326 00:25:05,629 --> 00:25:09,500 てめえ ほれてんだろ? ハハッ 色ぼけ。 327 00:25:09,500 --> 00:25:13,037 あんな傷もんでも おめえに お下がりにはなんねえし➡ 328 00:25:13,037 --> 00:25:17,541 こっちに回されても ごめん被るぜ! (笑い声) 329 00:25:17,541 --> 00:25:22,880 てめえの作る建具と同じで あそこも締まらねえ。 330 00:25:22,880 --> 00:25:24,915 そんな女を 追いかけ回してっから➡ 331 00:25:24,915 --> 00:25:29,386 こんな仕事しかできねえ 半端もんなんだぜ てめえは。 332 00:25:29,386 --> 00:25:33,257 教えてやろうか。 俺はな➡ 333 00:25:33,257 --> 00:25:41,832 お今と昔なあ… ヘヘヘッ…。 334 00:25:41,832 --> 00:25:47,004 だから知ってんだよ。 (大工たちの笑い声) 335 00:25:47,004 --> 00:25:52,509 (藤兵衛)<その時 たまたま兄は 手に玄能を持っておりました。➡ 336 00:25:52,509 --> 00:25:55,709 これも間の悪い事でした> 337 00:25:57,681 --> 00:25:59,681 うわ~! 338 00:26:03,354 --> 00:26:06,023 (藤兵衛)<怒りで 訳が 分からなくなり ふと気付いたら➡ 339 00:26:06,023 --> 00:26:09,723 その大工を 打ち殺してしまっていたのです> 340 00:26:17,534 --> 00:26:20,204 打ち殺す…。 341 00:26:20,204 --> 00:26:22,504 うわ~! 342 00:26:35,653 --> 00:26:38,989 お嬢さん? (おちかの荒い息遣い) 343 00:26:38,989 --> 00:26:40,989 お嬢さん! 344 00:26:44,495 --> 00:26:48,999 どうしましょう お顔が真っ青だ。 345 00:26:48,999 --> 00:26:52,870 やはり こんな話など すべきではなかった。 346 00:26:52,870 --> 00:26:57,170 これは いけない。 お嬢さん 気をしっかり持って。 347 00:26:59,009 --> 00:27:03,180 私は大丈夫です。 しかし…。 348 00:27:03,180 --> 00:27:07,851 ごめんなさい。 349 00:27:07,851 --> 00:27:14,024 私の身の回りにも 似たような出来事がございました。 350 00:27:14,024 --> 00:27:20,364 それで私 実家を離れる事になりました。 351 00:27:20,364 --> 00:27:28,238 それはまた… なんとも なんとも申し訳ない事です。 352 00:27:28,238 --> 00:27:31,642 私が昔語りなどを 始めたばっかりに➡ 353 00:27:31,642 --> 00:27:36,146 お嬢さんに 恐ろしい事を 思い出させてしまって。 354 00:27:36,146 --> 00:27:41,819 思い出すまでも 忘れた事はございません。 355 00:27:41,819 --> 00:27:45,689 この身に起きた めったにはない事だと➡ 356 00:27:45,689 --> 00:27:49,994 父母に慰められておりましたが➡ 357 00:27:49,994 --> 00:27:53,831 ほかにもあるのでございますね。 358 00:27:53,831 --> 00:27:56,331 何があったのです? 359 00:27:58,502 --> 00:28:04,302 近しい人が 人をあやめてしまったのです。 360 00:28:10,014 --> 00:28:13,350 今でも悲しくてなりません。 361 00:28:13,350 --> 00:28:18,022 叔父叔母の この家で 安らかに過ごしていても➡ 362 00:28:18,022 --> 00:28:22,359 私の心は騒いだままです。 363 00:28:22,359 --> 00:28:28,532 私は 人の心が 分からなくなってしまいました。 364 00:28:28,532 --> 00:28:34,332 人というものが 恐ろしくなってしまいました。 365 00:28:41,812 --> 00:28:47,684 私が今日こちらに伺い 曼珠沙華の花が咲き➡ 366 00:28:47,684 --> 00:28:53,524 ここに あなたが いらした事は やはり ご縁なのでしょう。 367 00:28:53,524 --> 00:28:56,224 そうなのかもしれません。 368 00:28:58,362 --> 00:29:02,499 兄の話を続けても よろしいでしょうか? 369 00:29:02,499 --> 00:29:05,999 お客様が おつらくないのでしたら。 370 00:29:10,674 --> 00:29:15,846 兄は お縄を頂戴し お裁きを受け➡ 371 00:29:15,846 --> 00:29:18,749 八丈に遠島になりました。 372 00:29:18,749 --> 00:29:22,186 本来なら死罪になっても 致し方ないところ➡ 373 00:29:22,186 --> 00:29:27,524 周りの皆で 兄をかばって下さいました。 374 00:29:27,524 --> 00:29:32,129 吉さんは いつかきっと 帰ってくるよ。 375 00:29:32,129 --> 00:29:36,633 藤吉 心配するな。 376 00:29:36,633 --> 00:29:40,804 吉が島から帰ってきたら また俺のところで使ってやる。 377 00:29:40,804 --> 00:29:44,975 ちゃんと所帯を持たせて しっかり面倒見るからな! 378 00:29:44,975 --> 00:29:47,478 (泣き声) 379 00:29:47,478 --> 00:29:53,350 ごめんね ごめんね… 私のせいで。 380 00:29:53,350 --> 00:29:59,089 お前のせいじゃねえよ! 魔が差したんだよ 魔が。 381 00:29:59,089 --> 00:30:05,028 (藤兵衛)<結局 兄が戻るまで 15年の歳月が かかりました。➡ 382 00:30:05,028 --> 00:30:07,664 身内に人殺しが出たという事で➡ 383 00:30:07,664 --> 00:30:12,664 残された私たちにも さんざんの苦労が続きました> 384 00:30:15,172 --> 00:30:17,508 おい 藤吉。 へい! 385 00:30:17,508 --> 00:30:21,345 (藤兵衛)<兄の事を隠して 私は 15の頃に➡ 386 00:30:21,345 --> 00:30:27,017 今の松田屋に奉公に上がり 身を粉にして働きました。➡ 387 00:30:27,017 --> 00:30:33,190 23になって自分でも兄と よく似てきたなと思った頃➡ 388 00:30:33,190 --> 00:30:38,690 ちょうど先代に 手代に 引き立てて頂いたばかりの時に…> 389 00:30:44,368 --> 00:30:47,368 あっ…。 うん。 390 00:30:49,706 --> 00:30:52,706 お久しぶりです。 うん。 391 00:30:55,512 --> 00:30:59,012 (藤兵衛) <吉蔵兄が戻ってきたんです> 392 00:31:01,718 --> 00:31:08,492 藤吉 船が着く日には 一緒に迎えに行こうじゃねえか。 393 00:31:08,492 --> 00:31:11,428 私は行きません。 394 00:31:11,428 --> 00:31:14,298 店を休めねえのかい? 395 00:31:14,298 --> 00:31:19,269 島送りの兄がいる事など 店には言っておりません。 396 00:31:19,269 --> 00:31:21,269 親方…。 397 00:31:25,909 --> 00:31:29,246 あそこは4つ目の奉公先です。 398 00:31:29,246 --> 00:31:33,016 兄の事で何度も追い出されたのを 親方もご存じでしょう? 399 00:31:33,016 --> 00:31:37,854 でも藤吉 おめえは 待ってたんじゃねえのかい? 400 00:31:37,854 --> 00:31:41,525 私は もう子どもじゃねえんです。 401 00:31:41,525 --> 00:31:45,325 この15年で嫌というほど 身にしみました。 402 00:31:47,331 --> 00:31:50,033 事を知れば みんな 私が 兄と同じだと思って➡ 403 00:31:50,033 --> 00:31:53,537 白い目で見る。 もう こりごりだ。 404 00:31:53,537 --> 00:31:56,737 あんなに 会いたがってたじゃねえか。 405 00:31:59,710 --> 00:32:02,746 後生です 親方。 406 00:32:02,746 --> 00:32:07,050 今の店には8年。 やっと 手代にまでなれたんですよ。 407 00:32:07,050 --> 00:32:12,723 そりゃあ めでてえ事だけどよ でもよ…。 408 00:32:12,723 --> 00:32:15,058 勘弁して下さい。 409 00:32:15,058 --> 00:32:36,680 ♬~ 410 00:32:36,680 --> 00:32:39,583 兄が島送りになった頃の私は➡ 411 00:32:39,583 --> 00:32:43,553 世間の怖さ 冷たさを 全く知らず➡ 412 00:32:43,553 --> 00:32:51,194 兄が罪を犯した事は分かっても その重さを感じておらなんだ。 413 00:32:51,194 --> 00:32:56,700 しかし 8つの子どもも 1年たてば 9つになり➡ 414 00:32:56,700 --> 00:32:59,536 2年たてば 10になる。 415 00:32:59,536 --> 00:33:03,874 兄が犯した罪の重さを感じていく。 416 00:33:03,874 --> 00:33:06,710 はい。 417 00:33:06,710 --> 00:33:10,380 それに… 怖かった。 418 00:33:10,380 --> 00:33:18,055 また全てをなくしてしまう事が 本当に怖かったのです。 419 00:33:18,055 --> 00:33:22,559 ほかのお兄さんや お姉さん方は? 420 00:33:22,559 --> 00:33:26,730 誰もおりません。 あれだけ仲が良かったのに➡ 421 00:33:26,730 --> 00:33:30,233 皆 逃げたのです。 422 00:33:30,233 --> 00:33:35,839 どこに行ったのか 生きているのか 死んでいるのか➡ 423 00:33:35,839 --> 00:33:39,343 何の便りもありません。 424 00:33:39,343 --> 00:33:46,116 血のつながりなど 何の足しにもなりません。 425 00:33:46,116 --> 00:33:54,524 ですから私は何度も祈りました。 神田の明神様にも。 426 00:33:54,524 --> 00:34:01,324 どうぞ吉蔵を 江戸に戻さないで下さいまし! 427 00:34:09,539 --> 00:34:15,045 めっそうもない願いです。 428 00:34:15,045 --> 00:34:20,717 罰が当たるのも… 不思議はありません。 429 00:34:20,717 --> 00:34:25,222 (せきこみ) 松田屋さん。 430 00:34:25,222 --> 00:34:34,030 もう大丈夫… 時々あるのです。 年でしょうね。 431 00:34:34,030 --> 00:34:36,166 (せきこみ) 432 00:34:36,166 --> 00:34:40,366 少しお休み下さい。 すぐ お茶をお持ちします。 433 00:34:52,716 --> 00:34:57,020 おう お嬢さん。 もうお客様は お帰りですかい? 434 00:34:57,020 --> 00:34:58,955 お茶をお持ちするんですよ。 435 00:34:58,955 --> 00:35:04,528 それは したり! 何だか 難しい話になりそうな雲行きで➡ 436 00:35:04,528 --> 00:35:08,031 私はね どうも そういうのが苦手でね。 437 00:35:08,031 --> 00:35:10,534 それに あのお客様は➡ 438 00:35:10,534 --> 00:35:15,038 お話し相手に お嬢様を ご所望のようでしたし。 439 00:35:15,038 --> 00:35:18,542 はい。 私が望んだ事ですから。 440 00:35:18,542 --> 00:35:20,742 さようで。 441 00:35:27,217 --> 00:35:29,417 お客様? 442 00:35:31,655 --> 00:35:36,655 ああ… お嬢さん。 443 00:35:47,504 --> 00:35:53,376 急に確かめたくなりましてね。 444 00:35:53,376 --> 00:35:57,180 曼珠沙華をですか? ええ。 445 00:35:57,180 --> 00:36:01,852 あれが まだ そこに咲いているかと。 446 00:36:01,852 --> 00:36:06,523 まだ咲いておりますよ。 447 00:36:06,523 --> 00:36:08,723 そうですね。 448 00:36:17,234 --> 00:36:21,872 話の続きを始めても? 449 00:36:21,872 --> 00:36:24,072 お願いします。 450 00:36:29,613 --> 00:36:39,356 兄が戻っても 私が兄に会う事は ありませんでした。 ところが…。 451 00:36:39,356 --> 00:36:43,994 (藤兵衛)<兄が戻って ひとつきほどたった頃➡ 452 00:36:43,994 --> 00:36:49,294 私の奉公先に お今さんが訪ねてきたのです> 453 00:37:03,380 --> 00:37:07,517 安心して。 お店には 家の繕いの事で➡ 454 00:37:07,517 --> 00:37:11,017 藤吉さんに相談に来たって 言ってあるから。 455 00:37:15,692 --> 00:37:22,198 吉さんは思ったより元気よ。 職人としての腕も鈍ってないし➡ 456 00:37:22,198 --> 00:37:27,998 お父っつぁんも一安心してる。 わざわざ ありがとうございます。 457 00:37:30,874 --> 00:37:38,982 だから 一遍でいいから 顔を見せてあげてくれないかい? 458 00:37:38,982 --> 00:37:41,982 お父っつぁんにも頼まれたの。 459 00:37:45,655 --> 00:37:54,331 吉さんは島から帰って以来 話す事は弟や妹たちの事ばかり。 460 00:37:54,331 --> 00:37:59,502 早く会いたい 顔が見たいって。 461 00:37:59,502 --> 00:38:02,539 それで お今さんにも 迷惑かけているんですか? 462 00:38:02,539 --> 00:38:05,375 だって あんな事が起こったのも➡ 463 00:38:05,375 --> 00:38:08,011 もともとは私が 出戻ったりしたせいだし。 464 00:38:08,011 --> 00:38:10,711 お今さんのせいなんかじゃ ありませんよ。 465 00:38:13,183 --> 00:38:19,522 15年前 私は言ったのよ。 466 00:38:19,522 --> 00:38:25,028 吉さんが帰ってくるまで待ってる。 吉さんと所帯を持つんだ! 467 00:38:25,028 --> 00:38:29,199 お前が吉を待つのは 思いがあるからじゃねえ! 468 00:38:29,199 --> 00:38:31,968 吉に借りができたと思うからだ。 469 00:38:31,968 --> 00:38:35,472 そんなんで うまくいく訳がねえ! とんでもねえ話だ!➡ 470 00:38:35,472 --> 00:38:38,672 さっさと嫁に行っちまえ! 471 00:38:40,310 --> 00:38:45,181 お父っつぁんの言ったとおり 私は よそに嫁に行って➡ 472 00:38:45,181 --> 00:38:49,481 子どもも3人産んで それで よかったんだけども…。 473 00:38:52,489 --> 00:38:57,360 今 また吉さんに 会ってしまうと➡ 474 00:38:57,360 --> 00:39:01,160 やっぱり申し訳ない気持ちに なってねえ。 475 00:39:02,999 --> 00:39:05,902 (お今)3日前になるかしら➡ 476 00:39:05,902 --> 00:39:11,174 お父っつぁん 吉さんに 本当の事 打ち明けたの。 477 00:39:11,174 --> 00:39:17,047 ほかの兄弟は音沙汰ねえ。 478 00:39:17,047 --> 00:39:28,191 藤吉には会えねえ事情が… とりわけ つれえ事が多かった。 479 00:39:28,191 --> 00:39:31,227 やつの気持ちをよくくんで➡ 480 00:39:31,227 --> 00:39:35,465 飲み込んでやらなくちゃ いけねえよ。 481 00:39:35,465 --> 00:39:45,975 責めちゃいかん。 恨んでもいかん。 おめえは島帰りなんだ。 482 00:39:45,975 --> 00:39:52,675 この先 一生消えねえのは その腕の墨だけじゃねえ。 483 00:39:58,321 --> 00:40:09,021 本当 15年は長いよね… 長すぎる。 484 00:40:18,708 --> 00:40:24,908 (藤兵衛) <私は 吉蔵兄に むらむらと 腹が立ってまいりました> 485 00:40:30,019 --> 00:40:34,190 (藤兵衛) <兄は 人殺しです。 そのせいで➡ 486 00:40:34,190 --> 00:40:38,361 周りも私も どれほどか つらく悔しい思いをしたか。➡ 487 00:40:38,361 --> 00:40:41,264 しかし そんなのは皆置き去りだ。➡ 488 00:40:41,264 --> 00:40:45,034 かわいそうなのは 島帰りの我が身だけ> 489 00:40:45,034 --> 00:40:49,873 あの日を境に 私は いよいよ兄が許せなくなった。 490 00:40:49,873 --> 00:40:54,711 心のしんから兄を恨んで 呪いました。 491 00:40:54,711 --> 00:40:59,048 私は この先もずっと 吉蔵兄の所業が露見しないか➡ 492 00:40:59,048 --> 00:41:02,919 口さがない誰かが ひょいと 告げ口をするのではないかと➡ 493 00:41:02,919 --> 00:41:05,822 おびえながら暮らしていかねば ならないのに➡ 494 00:41:05,822 --> 00:41:08,391 当の兄だけは その苦しみを逃れ➡ 495 00:41:08,391 --> 00:41:11,427 周りの人々から 温かく見守られるなんて➡ 496 00:41:11,427 --> 00:41:14,627 これほどの理不尽が あるでしょうか! 497 00:41:16,900 --> 00:41:20,770 あんたは なぜ おめおめと帰ってきた。 498 00:41:20,770 --> 00:41:23,570 なぜ島で死んでしまわなかった。 499 00:41:25,408 --> 00:41:28,108 さっさと死んでしまえ! 500 00:41:35,084 --> 00:41:37,987 (藤兵衛)<私は とうとう 兄があやめた大工の墓にまで➡ 501 00:41:37,987 --> 00:41:40,890 手を合わせました。 人殺しの兄に➡ 502 00:41:40,890 --> 00:41:46,190 その大きな罪にふさわしい報いが 降りかかりますようにと> 503 00:42:01,544 --> 00:42:06,416 藤吉さん… 吉さんが亡くなりました。 504 00:42:06,416 --> 00:42:11,916 奥の座敷の鴨居に荒縄をかけて 首を…。 505 00:42:36,379 --> 00:42:40,250 鴨居から下ろした時➡ 506 00:42:40,250 --> 00:42:49,359 吉の閉じたまぶたから 涙が いくつも滴り落ちた。 507 00:42:49,359 --> 00:42:55,659 吉は死ぬ間際まで 泣いていやがった。 508 00:43:09,212 --> 00:43:15,551 10日ほど前からか 吉のやつ➡ 509 00:43:15,551 --> 00:43:19,351 あの花に みいられたようになっていてな。 510 00:43:26,562 --> 00:43:33,336 (初五郎)おい 吉よ。 そいつは陰気な花だぞ。 511 00:43:33,336 --> 00:43:36,036 何が そんなに気に入った? 512 00:43:37,674 --> 00:43:43,546 あの花の間から ときどき見えるんです。 513 00:43:43,546 --> 00:43:47,350 えっ? 見えるって何が? 514 00:43:47,350 --> 00:43:53,856 のぞくんです。 だから何がのぞくんだって? 515 00:43:53,856 --> 00:43:56,656 人の顔が…。 516 00:43:59,028 --> 00:44:01,531 人の顔がのぞく? 517 00:44:01,531 --> 00:44:10,239 ええ。 吉蔵兄は 確かに そう言ったというのです。 518 00:44:10,239 --> 00:44:19,382 私は それは殺された大工の顔だ 亡者の顔だ➡ 519 00:44:19,382 --> 00:44:26,889 私の願いは こういう形で 聞き届けられたのだと➡ 520 00:44:26,889 --> 00:44:31,689 そう思ったのですが…。 521 00:44:38,167 --> 00:44:42,367 吉が言うにはよ…。 522 00:44:43,973 --> 00:44:50,346 俺を怒っている人の顔ですよ 親方。 523 00:44:50,346 --> 00:44:55,218 吉 待ってろ。 あんな花 すぐに刈ってやる! 524 00:44:55,218 --> 00:45:02,925 いいんですよ 親方。 あのままにしといて下さい。 525 00:45:02,925 --> 00:45:05,361 あれでいいんです。 526 00:45:05,361 --> 00:45:09,198 バカ言うな! 薄っ気味悪いじゃねえか! 527 00:45:09,198 --> 00:45:13,703 いいんですよ あいつは。 528 00:45:13,703 --> 00:45:20,877 あいつは… 俺に会いに来た。 529 00:45:20,877 --> 00:45:25,677 ああして会いに来てくれたんです。 530 00:45:30,386 --> 00:45:34,386 花陰から俺を見つめてる。 531 00:45:36,492 --> 00:45:41,664 だから俺も見つめ返して 謝るんです。 532 00:45:41,664 --> 00:45:48,964 すまなかった 兄さんが悪かったって。 533 00:45:50,840 --> 00:45:56,340 (初五郎) おめえが見てるってのは…。 534 00:46:08,257 --> 00:46:13,096 そうです。 535 00:46:13,096 --> 00:46:20,296 吉蔵兄が見ていた顔は… この私だったのです! 536 00:46:22,705 --> 00:46:27,577 兄を罰してくれと 亡者に頼むほどに ねじくれた➡ 537 00:46:27,577 --> 00:46:32,277 この… この私の生き霊。 538 00:46:34,350 --> 00:46:43,550 (藤兵衛)<それが… それが 兄を殺してしまったんだ!> 539 00:46:45,928 --> 00:46:52,668 (藤兵衛の泣き笑い) 540 00:46:52,668 --> 00:47:20,363 ♬~ 541 00:47:20,363 --> 00:47:26,063 分かったよ… 藤吉。 542 00:47:30,373 --> 00:47:32,642 もう分かったから。 543 00:47:32,642 --> 00:47:38,314 (吉蔵の泣き声と縄が締まる音) 544 00:47:38,314 --> 00:48:30,533 ♬~ 545 00:48:30,533 --> 00:48:33,302 本当に安らかなお顔で➡ 546 00:48:33,302 --> 00:48:35,972 こんな話を聞いてくれて ありがとうと➡ 547 00:48:35,972 --> 00:48:38,672 そう おっしゃいました。 548 00:48:40,309 --> 00:48:44,647 これはまた 不可思議な因縁話に 触れてしまったものだ。 549 00:48:44,647 --> 00:48:46,682 大変だったね。 550 00:48:46,682 --> 00:48:48,818 ですから 私は新太をやって➡ 551 00:48:48,818 --> 00:48:53,155 お客を取りやめにしたらいいって 言ったんです。 552 00:48:53,155 --> 00:48:57,493 おちかが どんなつらい思いをして 里を離れてきたのか➡ 553 00:48:57,493 --> 00:49:00,529 もう 人が死んだの 誰かに あやめられただなんて話➡ 554 00:49:00,529 --> 00:49:03,666 おちかの耳には 入れたくないんです。 555 00:49:03,666 --> 00:49:07,336 ごめんなさい 叔母さん。 私は大丈夫です。 556 00:49:07,336 --> 00:49:11,507 松田屋さんは おちかと話せて 大層うれしかったと➡ 557 00:49:11,507 --> 00:49:14,410 重々 礼を述べて お帰りになられたそうだよ。 558 00:49:14,410 --> 00:49:18,381 若い娘をこんなに怖がらせて 何がうれしいんです? 559 00:49:18,381 --> 00:49:21,183 長年凝り固まった 胸のしこりを吐き出して➡ 560 00:49:21,183 --> 00:49:24,086 身が軽くなったのだろう。 お前のお手柄だよ。 561 00:49:24,086 --> 00:49:26,055 それだって 聞かされた おちかの方は➡ 562 00:49:26,055 --> 00:49:28,524 たまったもんじゃありませんよ。 563 00:49:28,524 --> 00:49:32,962 どちらだったんだろうな? 564 00:49:32,962 --> 00:49:35,298 何がです? 565 00:49:35,298 --> 00:49:37,633 松田屋さんが障子を開けて➡ 566 00:49:37,633 --> 00:49:41,470 曼珠沙華の花に 見ようとしていた顔さ。 567 00:49:41,470 --> 00:49:46,270 あっ… まだ顔がのぞくんですか? 568 00:49:48,144 --> 00:49:55,844 私は… 松田屋さんは ご自分の顔を見たのだと思います。 569 00:49:57,486 --> 00:49:59,786 なるほど! 570 00:50:01,357 --> 00:50:05,161 私には さっぱり分かりませんよ。 571 00:50:05,161 --> 00:50:08,831 その吉蔵という人に打ち殺された 大工が亡者になって➡ 572 00:50:08,831 --> 00:50:12,168 たたって出たというなら まだ 分かりがいいんですけどね…。 573 00:50:12,168 --> 00:50:16,038 ああ~ 怖っ。 574 00:50:16,038 --> 00:50:19,041 おちか お前の叔母さんは このとおり➡ 575 00:50:19,041 --> 00:50:21,177 気性もまっすぐ 生きる道もまっすぐで➡ 576 00:50:21,177 --> 00:50:23,846 誰にも後ろ暗いところがない。 577 00:50:23,846 --> 00:50:26,682 はい。 578 00:50:26,682 --> 00:50:29,018 また そんな事言ってごまかす。 579 00:50:29,018 --> 00:50:33,856 でも 私は そこそこ暗いものを 持ち合わせているからね。 580 00:50:33,856 --> 00:50:35,856 はい。 581 00:50:56,245 --> 00:51:37,686 ♬~ 582 00:51:37,686 --> 00:51:41,557 さっき使いが来て➡ 583 00:51:41,557 --> 00:51:47,696 松田屋さんが亡くなったそうだ。 584 00:51:47,696 --> 00:51:52,535 今朝 いつもより 起きてくるのが遅いので➡ 585 00:51:52,535 --> 00:51:55,371 様子を見に行った家の人が➡ 586 00:51:55,371 --> 00:52:02,044 寝床の中で冷たくなっている ご主人を見つけたんだそうだ。 587 00:52:02,044 --> 00:52:07,850 眠ったまま逝ってしまったようで 安らかなお顔だったそうだよ。 588 00:52:07,850 --> 00:52:10,350 寿命だったのだね。 589 00:52:16,559 --> 00:52:21,730 昨日 松田屋さんは 出先から帰って➡ 590 00:52:21,730 --> 00:52:25,601 「長い事 無沙汰をしていた人に 挨拶に行ってきた。➡ 591 00:52:25,601 --> 00:52:31,073 久しぶりだった 懐かしかった」と おっしゃっていたそうだよ。 592 00:52:31,073 --> 00:52:35,911 「寺にも墓にも曼珠沙華が よく咲いているものだね」と➡ 593 00:52:35,911 --> 00:52:38,814 笑顔で…。 594 00:52:38,814 --> 00:52:44,520 心の中に固く封じ込めていた 罪を吐き出した事で➡ 595 00:52:44,520 --> 00:52:48,357 ようやく自分を許す事ができた。 596 00:52:48,357 --> 00:52:52,194 そのきっかけを作ったのは おちかだ。 597 00:52:52,194 --> 00:52:55,865 だから お前の手柄だと言うのだ。 598 00:52:55,865 --> 00:53:00,736 私はただ お話を聞いただけです。 599 00:53:00,736 --> 00:53:07,236 おちかの中に自分と同じ思いを 感じ取ったのかもしれないな。 600 00:53:09,712 --> 00:53:15,885 おちか お前にも 晴れ晴れとする日が来るといい。 601 00:53:15,885 --> 00:53:19,555 その時が いつ来るかは分からない。 602 00:53:19,555 --> 00:53:25,361 誰かが お前の心に凝った悲しみを ほぐしてくれるといいね。 603 00:53:25,361 --> 00:53:53,661 ♬~ 604 00:53:58,694 --> 00:54:01,194 キャ~! 605 00:54:10,039 --> 00:54:14,710 枯れたねえ 彼岸花。 ええ。 606 00:54:14,710 --> 00:54:18,213 松田屋様から お礼のお菓子が届いたよ。 607 00:54:18,213 --> 00:54:21,550 お内儀さんが おちかさんに 差し上げなさいって。 608 00:54:21,550 --> 00:54:25,220 それでは みんなで頂きましょう。 俺もかい? 609 00:54:25,220 --> 00:54:27,556 女だけだよ! バカ野郎! 610 00:54:27,556 --> 00:54:29,592 野郎じゃないだろ。 じゃあ女郎かい? 611 00:54:29,592 --> 00:54:31,527 あっ なんて事言うんだい。 やめてよ 番頭さん。 612 00:54:31,527 --> 00:54:35,164 おしまさんの うそですよ。 一緒に食べましょう。 613 00:54:35,164 --> 00:54:41,337 そうですか。 庭の曼珠沙華のお花に➡ 614 00:54:41,337 --> 00:54:46,675 そのような落ちがあったんですか。 ええ。 615 00:54:46,675 --> 00:54:51,375 私が刈らせなかったのが 幸いしたんですがね。 616 00:54:53,449 --> 00:54:58,020 しかし 不思議な話ですな。 617 00:54:58,020 --> 00:55:06,528 曼珠沙華の花が おちかさんと 松田屋さんを…。 618 00:55:06,528 --> 00:55:13,869 何かのしるし。 そうですよ。 何かのしるしですよ。 619 00:55:13,869 --> 00:55:17,669 でも… 何の? 620 00:55:31,053 --> 00:55:36,025 実は それで 私に 思いついた事がございましてね。 621 00:55:36,025 --> 00:55:38,794 思いついた事? 622 00:55:38,794 --> 00:55:44,500 ちまたに隠れた数奇な話を 百 集めるのです。 623 00:55:44,500 --> 00:55:47,336 ちょっと… どういうおつもりですか? 624 00:55:47,336 --> 00:55:51,206 江戸の町には いろいろと 恐ろしい話があるだろう? 625 00:55:51,206 --> 00:55:54,677 やめて下さいよ そんな薄気味悪い事。 626 00:55:54,677 --> 00:55:58,847 ほう 百物語…。 627 00:55:58,847 --> 00:56:04,520 これはまた なかなかに 酔狂なお話かもしれませんな。 628 00:56:04,520 --> 00:56:10,325 うん。 変調… 百物語。 629 00:56:10,325 --> 00:56:36,325 ♬~ 630 00:56:40,322 --> 00:56:42,257 私が持ってまいりましたお話は➡ 631 00:56:42,257 --> 00:56:44,193 お化け屋敷のお話で ございますからね。 632 00:56:44,193 --> 00:56:47,663 安藤坂の屋敷は 人をのむっていう。 633 00:56:47,663 --> 00:56:49,998 この屋敷に 1年住んでもらいたい。➡ 634 00:56:49,998 --> 00:56:52,034 あの蔵に合う錠前を 作ってほしいんだ。 635 00:56:52,034 --> 00:56:56,338 恐ろしい事なんかないのです。 どうして私が…。 636 00:56:56,338 --> 00:58:28,638 ♬~ 637 01:00:38,560 --> 01:00:41,560 満天の星。 638 01:00:44,700 --> 01:00:49,204 そこに 望遠鏡を向けると…。 639 01:00:49,204 --> 01:00:53,704 美しい天体が見えてきます。 640 01:00:57,713 --> 01:01:02,713 こうした絶景を 宇宙遺産と名付けました。