1 00:00:33,412 --> 00:00:39,819 (灯庵)<人々が殺し合うよな 戦の世などは昔事。➡ 2 00:00:39,819 --> 00:00:45,691 今のお江戸は皆 助け合いながらの つましき暮らし。➡ 3 00:00:45,691 --> 00:00:50,162 さて 神田筋違先 三島屋は➡ 4 00:00:50,162 --> 00:00:54,500 名店 越川と丸角に挟まれて➡ 5 00:00:54,500 --> 00:01:01,173 主人 伊兵衛 女房 お民が 笹に 袋をつるしての振り売りから➡ 6 00:01:01,173 --> 00:01:06,846 一代で成した 近頃評判の袋物屋> 7 00:01:06,846 --> 00:01:10,516 (新太)三島屋でござ~い。 8 00:01:10,516 --> 00:01:13,419 (灯庵)<そこへ川崎宿から➡ 9 00:01:13,419 --> 00:01:16,856 まっことかわいらしい 姪御のおちかが➡ 10 00:01:16,856 --> 00:01:23,028 奉公に上がったが 何やら訳ありの様子。➡ 11 00:01:23,028 --> 00:01:28,200 伊兵衛の碁敵 松田屋藤吉が亡くなる間際の➡ 12 00:01:28,200 --> 00:01:34,807 面妖な問わず語りを聞き出す お手柄があり➡ 13 00:01:34,807 --> 00:01:39,979 伊兵衛は すっかり この話の虜になっては➡ 14 00:01:39,979 --> 00:01:47,319 もっと面白い話はないものかと 私に口入れを頼んできたものだ。➡ 15 00:01:47,319 --> 00:01:51,190 百まで物語を集めようなんざ➡ 16 00:01:51,190 --> 00:01:56,662 ちっとやそっとの酔狂で できるこっちゃねえが➡ 17 00:01:56,662 --> 00:02:01,166 私も だてに この年まで生きてはおらぬと➡ 18 00:02:01,166 --> 00:02:04,466 引き受けたところ…> 19 00:02:10,876 --> 00:02:28,376 ♬~ 20 00:02:32,631 --> 00:02:36,802 ねえ 灯庵さん ほかでもない 私とあんたの つきあいだから➡ 21 00:02:36,802 --> 00:02:40,472 まっすぐに聞きますがね…。 何じゃい。 22 00:02:40,472 --> 00:02:45,144 近頃しょっちゅう いらっしゃって るじゃありませんか。 23 00:02:45,144 --> 00:02:49,982 旦那様と 何のお話があって来てるんです? 24 00:02:49,982 --> 00:02:54,486 あんたに関わりがある事でも なかろう。 あっ いや…➡ 25 00:02:54,486 --> 00:02:56,989 いやね 旦那様が➡ 26 00:02:56,989 --> 00:03:01,660 新しい奉公人をお探しなんじゃ なかろうかなと思いましてね。 27 00:03:01,660 --> 00:03:05,497 そうなったら あんたに お暇が出されるっていう事かい。 28 00:03:05,497 --> 00:03:07,433 ちょ… そんな大きな声で 言わんで下せえ。 29 00:03:07,433 --> 00:03:09,368 (おしま)あの胴間声聞くと➡ 30 00:03:09,368 --> 00:03:13,839 胃袋の辺りが ねじれそうだよ 全く。 31 00:03:13,839 --> 00:03:18,711 ほかにもご同業が 何人も呼ばれてきてるんでさあ。 32 00:03:18,711 --> 00:03:26,418 八十さん あんたも ちったあ客の 人品骨柄を見る目を鍛えんと➡ 33 00:03:26,418 --> 00:03:31,623 これから もっと大きなお店に なろうって三島屋の➡ 34 00:03:31,623 --> 00:03:39,832 番頭は張れんよねえ ワハハハッ…。 (八十助)「ワハハハッ」て… はあ。 35 00:03:39,832 --> 00:03:44,532 やっぱり お暇になるんだろうか。 36 00:03:46,705 --> 00:03:52,011 (新太) いかがですか? 三島屋の袋物。 37 00:03:52,011 --> 00:03:55,047 (おたか) これは 評判の三島屋の袋だね。 38 00:03:55,047 --> 00:03:58,517 へい。 いかがですか おねえさん。 39 00:03:58,517 --> 00:04:03,217 案内しておくれ。 えっ? …へい。 40 00:04:06,191 --> 00:04:09,094 (伊兵衛)どうやら細工は整った。 41 00:04:09,094 --> 00:04:13,699 おちか お前に ひとつ 仕事を任せようと思う。 42 00:04:13,699 --> 00:04:16,201 (おちか)何なりと。 今日から ここは➡ 43 00:04:16,201 --> 00:04:19,872 お前の黒白の間になる。 はい? 44 00:04:19,872 --> 00:04:23,542 今日から5日に一人 この座敷にお客様が来る。 45 00:04:23,542 --> 00:04:26,578 そして お前を相手に物語をなさる。 46 00:04:26,578 --> 00:04:29,715 何の事でございますか? 聞き手は お前一人だ。 47 00:04:29,715 --> 00:04:34,153 話を聞き終えたら お前は それ よく吟味して私に聞かせておくれ。 48 00:04:34,153 --> 00:04:36,989 それ どういう事です? 49 00:04:36,989 --> 00:04:40,859 私は ここで 勝負の白黒を争ったけれども➡ 50 00:04:40,859 --> 00:04:44,163 お前は この世に起こる さまざまな事の白と黒を➡ 51 00:04:44,163 --> 00:04:46,198 並べてみるという訳だ。 まあ 必ずしも➡ 52 00:04:46,198 --> 00:04:50,502 白が白 黒が黒ではなく はざまの色もあるだろうがね。 53 00:04:50,502 --> 00:04:54,173 叔父さん 私には 女中としての仕事がございます。 54 00:04:54,173 --> 00:04:57,009 のんびりと お客様のお相手など してはいられません。 55 00:04:57,009 --> 00:04:59,511 だから これも 仕事って事にすればいいんだよ。 56 00:04:59,511 --> 00:05:02,848 一体 私に何をさせる おつもりなんです? 57 00:05:02,848 --> 00:05:04,783 ここへ集まってくる話を➡ 58 00:05:04,783 --> 00:05:08,020 松田屋さんから聞いたように 拝聴すればよいのだ。 59 00:05:08,020 --> 00:05:09,955 どうして そんな人が 集まるんです? 60 00:05:09,955 --> 00:05:13,525 だから それが細工だ。 私が集めたのだよ。 61 00:05:13,525 --> 00:05:17,396 大勢の口入れ屋や読売や 岡っ引きの つてを頼って。 62 00:05:17,396 --> 00:05:21,700 「え~ 筋違橋先の三島屋が 不思議な話を集めております。➡ 63 00:05:21,700 --> 00:05:24,036 お持ちの方は どうぞお寄せ下さいまし。➡ 64 00:05:24,036 --> 00:05:27,539 お礼は差し上げま~す」と 触れ回ってもらったのだよ。 65 00:05:27,539 --> 00:05:31,977 叔父さんたら それ 何なんです? 新しいお道楽でございますか? 66 00:05:31,977 --> 00:05:36,148 そう! 道楽だ。 不思議な話を 聞くのは大層面白い。 67 00:05:36,148 --> 00:05:38,083 だったら ご自分でなさいましな。 68 00:05:38,083 --> 00:05:40,486 嫌だよ。 私は忙しいもん。 69 00:05:40,486 --> 00:05:44,356 昼日中 いちいち人に会ってなど いられないだろう? 70 00:05:44,356 --> 00:05:48,160 話をしたい人の話なんざ 実際に聞いたら長くなるもんだ。 71 00:05:48,160 --> 00:05:50,996 だけど やっぱり面白い話は 聞いてみたいからね。 72 00:05:50,996 --> 00:05:53,832 だから お前が 私の代わりを務めて➡ 73 00:05:53,832 --> 00:05:55,868 店を閉めて ゆっくりしてる時に➡ 74 00:05:55,868 --> 00:05:59,171 要領よく まとめて 聞かせてくれればいいんだ。 75 00:05:59,171 --> 00:06:03,008 松田屋さんのような人が 私に あんな話をしただろうか? 76 00:06:03,008 --> 00:06:07,508 おちか。 お前だから話したんだよ。 77 00:06:09,348 --> 00:06:12,017 お言いつけとおっしゃるなら…。 78 00:06:12,017 --> 00:06:14,920 でも 初めてお会いする方と 二人きりで➡ 79 00:06:14,920 --> 00:06:17,823 さあ 話を聞き出せと言われても 困ります。 80 00:06:17,823 --> 00:06:19,892 私は岡っ引きじゃないんですから。 81 00:06:19,892 --> 00:06:22,528 松田屋さんにしたように すればいいんだよ。 82 00:06:22,528 --> 00:06:26,398 あれは… 成り行きで。 成り行きでいいんじゃないかね。 83 00:06:26,398 --> 00:06:30,402 叔父さん 不思議な話を 聞かせてくれたら お礼をすると➡ 84 00:06:30,402 --> 00:06:33,172 言い広めさせたんですね? そうだよ。 85 00:06:33,172 --> 00:06:37,176 だとすると お礼のお金目当てに 作り話をする人が➡ 86 00:06:37,176 --> 00:06:40,913 来るかもしれませんよ。 87 00:06:40,913 --> 00:06:47,152 作り話か 本当の話か もし それと見抜けたら お前の手柄だ。 88 00:06:47,152 --> 00:06:51,823 だけどね おちか。 なぜ そのお客が作り話をしたのか➡ 89 00:06:51,823 --> 00:06:55,160 礼金が欲しかっただけなのか そこまで見抜けねば➡ 90 00:06:55,160 --> 00:06:58,197 仕事は終わりにはならないよ。 91 00:06:58,197 --> 00:07:00,832 そんな難しい事 無理です! 92 00:07:00,832 --> 00:07:04,670 一つの話が まるまる 作り話の時には まだ易しいよ。 93 00:07:04,670 --> 00:07:09,341 話の中の ある部分が違っていたり 削られていたり➡ 94 00:07:09,341 --> 00:07:12,010 付け足されていたりする事だって あるだろう。 95 00:07:12,010 --> 00:07:14,913 その時も 白と黒を見極めた上で➡ 96 00:07:14,913 --> 00:07:17,182 お客が どうして そういう事を言うのか➡ 97 00:07:17,182 --> 00:07:21,853 お前は よく考えてみなければならない。 98 00:07:21,853 --> 00:07:23,889 あっ そうだ! 99 00:07:23,889 --> 00:07:27,025 茶菓子には お前の好きなものをあげるよ。 100 00:07:27,025 --> 00:07:30,896 さて 最初のお客は 八つに お見えになる約束だ。 101 00:07:30,896 --> 00:07:34,299 あと半時もないから お着替えなさい。 102 00:07:34,299 --> 00:07:36,335 ここで お湯を沸かして 支度させるから➡ 103 00:07:36,335 --> 00:07:38,470 そちらの面倒はなくなるよ。 104 00:07:38,470 --> 00:07:43,308 ≪おしま! はっ… はい! 105 00:07:43,308 --> 00:07:48,480 叔父さんたら。 今日は長浜屋の羊羹があるよ。 106 00:07:48,480 --> 00:07:50,983 おっ おしま。 ちょいとね➡ 107 00:07:50,983 --> 00:07:53,483 おちかに 大事な仕事ができたからね…。 108 00:07:55,153 --> 00:07:57,153 (ため息) 109 00:08:03,829 --> 00:08:07,666 番頭さん 番頭さん! 110 00:08:07,666 --> 00:08:10,702 はいはい 何だい? 111 00:08:10,702 --> 00:08:12,838 い… いらっしゃいませ お客様。➡ 112 00:08:12,838 --> 00:08:16,138 どうぞ こちらでございます。 どうぞ…。 113 00:08:22,514 --> 00:08:29,314 ≪(新太)三島屋の袋物 袋物の三島屋でござ~い。 114 00:08:31,623 --> 00:08:35,123 ささっ どうぞ。 115 00:08:39,298 --> 00:08:44,498 (お春)何が始まるのかしら? (お世津)さあ? 分かんない。 116 00:08:46,071 --> 00:08:48,371 お入り下さいませ。 117 00:08:53,812 --> 00:08:57,983 こちらに お座り下さいませ。 118 00:08:57,983 --> 00:09:01,019 では 少々お待ちを。 119 00:09:01,019 --> 00:09:13,465 ♬~ 120 00:09:13,465 --> 00:09:16,168 八十さん 今日のお客は女なんだって? 121 00:09:16,168 --> 00:09:19,838 そうなんだよ。 べっぴんな年増なんだよ! 122 00:09:19,838 --> 00:09:22,341 どんなお話なさるんだろうねえ? 123 00:09:22,341 --> 00:09:26,178 「ねえ?」って俺に聞かれても そんな事知らねえよ おめえ。 124 00:09:26,178 --> 00:09:28,478 ≪失礼致します。 125 00:10:11,490 --> 00:10:17,662 主人 伊兵衛の姪 ちかと申します。 126 00:10:17,662 --> 00:10:20,565 たかでございます。 127 00:10:20,565 --> 00:10:24,836 口入れ屋の灯庵さんからの 口利きで伺ったんです。 128 00:10:24,836 --> 00:10:27,873 はい。 承知しております。 129 00:10:27,873 --> 00:10:31,610 こちら様では ご主人が粋な方で➡ 130 00:10:31,610 --> 00:10:36,348 何ですか… 新しいご趣向の 催しをなさるというお話は➡ 131 00:10:36,348 --> 00:10:40,218 本当なんでございますか? はい。 132 00:10:40,218 --> 00:10:44,856 灯庵さんは どのような趣向だと おっしゃってましたでしょうか? 133 00:10:44,856 --> 00:10:50,195 今風の百物語をお望みだとか。 はい。 134 00:10:50,195 --> 00:10:55,534 お客様のお話を 私が主人に申し伝えます。 135 00:10:55,534 --> 00:10:59,704 それで それを どうなさる おつもりなんですの? 136 00:10:59,704 --> 00:11:04,376 それは… 私にも分かりかねます。 137 00:11:04,376 --> 00:11:08,046 ただ ほかに漏らすような事は 致しませんので➡ 138 00:11:08,046 --> 00:11:11,246 どうか ご安心下さいませ。 139 00:11:13,552 --> 00:11:16,455 こうして ご立派な身上を構えて➡ 140 00:11:16,455 --> 00:11:19,357 余裕が出来なすった お方としては➡ 141 00:11:19,357 --> 00:11:22,260 人様の変わった話を 聞くというのも➡ 142 00:11:22,260 --> 00:11:25,263 確かに いいお道楽なのかも しれませんね。 143 00:11:25,263 --> 00:11:30,563 聞き手が このような ふつつかな者で申し訳ありません。 144 00:11:32,337 --> 00:11:36,208 しっかりしてなさる上に 何か その…➡ 145 00:11:36,208 --> 00:11:40,078 話をしたくなるような風情のある お方なのですね。 146 00:11:40,078 --> 00:11:43,348 恐れ入ります。 147 00:11:43,348 --> 00:11:46,685 それでは お聞き下さい。 148 00:11:46,685 --> 00:11:49,521 私が持ってまいりましたお話は➡ 149 00:11:49,521 --> 00:11:53,024 お化け屋敷のお話で ございますからね。 150 00:11:53,024 --> 00:11:55,861 えっ? 151 00:11:55,861 --> 00:12:01,161 私が まだ おぼこ娘の頃の 出来事でございます。 152 00:12:04,202 --> 00:12:07,706 (おたか) <日本橋北の小舟町の長屋に➡ 153 00:12:07,706 --> 00:12:15,506 父 母 兄 姉 弟と 一緒に住んでおりました> 154 00:12:21,219 --> 00:12:23,154 (おたか)<父の名は辰二郎。➡ 155 00:12:23,154 --> 00:12:27,993 錠前屋を生業としておりました。➡ 156 00:12:27,993 --> 00:12:33,798 店持ちではなく 道具箱を担いでの 流しの錠前屋です。➡ 157 00:12:33,798 --> 00:12:38,503 貧しいけれど 幸せな暮らしでございました> 158 00:12:38,503 --> 00:12:40,503 お代わり。 159 00:12:45,277 --> 00:12:49,014 春吉… 春吉! 160 00:12:49,014 --> 00:12:52,884 父ちゃんが帰ってきたよ。 話があるってよ。 161 00:12:52,884 --> 00:12:56,084 (春吉)う~ん…。 162 00:13:02,193 --> 00:13:04,863 (おさん) 一体どうしたっていうんですよ。 163 00:13:04,863 --> 00:13:07,532 ただでさえ帰りが遅いから 心配してたのに。 164 00:13:07,532 --> 00:13:15,040 ヘヘッ 悪かった 悪かった。 まあ聞いてくれ。 165 00:13:15,040 --> 00:13:17,075 安藤坂ってのは分かるかい? 166 00:13:17,075 --> 00:13:21,212 お武家様のお屋敷の 多い所ですよね。 167 00:13:21,212 --> 00:13:25,083 そう そう。 あの辺りは流して歩いていても➡ 168 00:13:25,083 --> 00:13:29,387 今まで 御用のお声が かかるなんて事はなかったんだ。 169 00:13:29,387 --> 00:13:34,225 ところが ほら こないだの雨上がりの日によ…。 170 00:13:34,225 --> 00:13:40,031 (辰二郎) <あの辺りを歩いていたら…➡ 171 00:13:40,031 --> 00:13:43,501 大層きれいな小袖を 見つけたんだ。➡ 172 00:13:43,501 --> 00:13:47,339 虫干ししてたのを 風で飛ばされたに違えねえ。➡ 173 00:13:47,339 --> 00:13:49,274 うちら流しの錠前屋には➡ 174 00:13:49,274 --> 00:13:53,211 虫干ししてる家を見逃すなって 決まりがある。➡ 175 00:13:53,211 --> 00:13:57,411 蔵があって 錠前が 入り用な事が多いからよ> 176 00:14:02,821 --> 00:14:06,725 (辰二郎)<着物は どれも 値の張る品ばっかりだった> 177 00:14:06,725 --> 00:14:09,594 ごめんくださいまし。 錠前屋でございます。 178 00:14:09,594 --> 00:14:14,199 鍵 錠前の御用はございませんか? 179 00:14:14,199 --> 00:14:18,036 枝から落ちたようでございますよ。 あっ ありがとさん。 180 00:14:18,036 --> 00:14:21,706 すまないね。 あんた 錠前屋さんなら➡ 181 00:14:21,706 --> 00:14:26,544 ちょうどいいところに来たよ。 本当に。 182 00:14:26,544 --> 00:14:31,383 (辰二郎)<俺は胸の中で こりゃ当たりだと思ったよ。➡ 183 00:14:31,383 --> 00:14:34,285 女中の立ち居振る舞いで お武家じゃねえって事は➡ 184 00:14:34,285 --> 00:14:37,155 分かるし。 商人で この屋敷だったら➡ 185 00:14:37,155 --> 00:14:40,659 相当の金持ちだ> 186 00:14:40,659 --> 00:14:54,172 ♬~ 187 00:14:54,172 --> 00:14:56,472 番頭さん。 188 00:14:58,343 --> 00:15:00,845 錠前屋さんですよ。 189 00:15:00,845 --> 00:15:05,145 やっぱり本当に 勝手に呼ばれてきましたね。 190 00:15:09,020 --> 00:15:13,858 あっ あ~ このお蔵の 錠前でございますか! 191 00:15:13,858 --> 00:15:19,030 ほかにも修繕などございましたら どうぞ ご用命下さい。 192 00:15:19,030 --> 00:15:21,533 (辰二郎) <どうも訳ありだと俺は思った。➡ 193 00:15:21,533 --> 00:15:25,403 その日は座敷牢に閉じ込められた 主をよそへ移してるか➡ 194 00:15:25,403 --> 00:15:31,209 土蔵の中を空っぽにして これから 誰かを入れようとしているのか> 195 00:15:31,209 --> 00:15:35,980 これは珍しい。 ちょっと 見せてもらえませんかね? 196 00:15:35,980 --> 00:15:41,486 これは 中も木で出来てるのか? …って事は鍵の方も➡ 197 00:15:41,486 --> 00:15:43,521 木で出来てるんで ございましょうね。 198 00:15:43,521 --> 00:15:49,321 鍵はないんだよ。 あ~ ございませんのですか…。 199 00:15:51,830 --> 00:15:53,765 どうやって お開けになったんで? 200 00:15:53,765 --> 00:15:57,001 こちらは このお蔵の錠前じゃ ございませんのですか? 201 00:15:57,001 --> 00:16:03,341 いや この蔵のだよ。 ずっと扉に掛かっていたのさ。➡ 202 00:16:03,341 --> 00:16:07,178 ひとつ相談があるんだがね。 へえ。 203 00:16:07,178 --> 00:16:12,517 その錠前の鍵を こしらえてはくれないだろうか。 204 00:16:12,517 --> 00:16:15,019 ありがとう存じます。 もう是非とも➡ 205 00:16:15,019 --> 00:16:18,690 そうさせて頂きたいんで ございますが➡ 206 00:16:18,690 --> 00:16:21,526 木の錠前なんてものは 初めてなんでございます。 207 00:16:21,526 --> 00:16:23,862 扱った事がございませんので➡ 208 00:16:23,862 --> 00:16:26,898 手前の手に余るなんて事に なるやもしれません。 209 00:16:26,898 --> 00:16:29,667 駄目だってのかい? あっ いえいえ…➡ 210 00:16:29,667 --> 00:16:31,603 とんだ安請け合いになりますと➡ 211 00:16:31,603 --> 00:16:34,806 申し訳も立たない事に なりますので。 212 00:16:34,806 --> 00:16:36,741 そんなものは構わないんだよ。 213 00:16:36,741 --> 00:16:40,678 やるだけやってみてくれれば それでいいんだ。 214 00:16:40,678 --> 00:16:45,450 あんたに預けよう。 今日 ここを 通りかかったのが 何かの縁だ。 215 00:16:45,450 --> 00:16:47,819 (辰二郎)<嫌な気がして 胸が ざわざわした。➡ 216 00:16:47,819 --> 00:16:52,490 これは断った方がいいと 思ったんだが 口の方が勝手に…> 217 00:16:52,490 --> 00:16:56,361 それでしたら こちらの方で お引き受け致します。 218 00:16:56,361 --> 00:17:00,832 そうかい。 ありがとう。 助かるよ。 219 00:17:00,832 --> 00:17:03,832 着物と帯を片づけておくんな。 220 00:17:10,341 --> 00:17:13,178 手前が この錠前を お預かりしている間➡ 221 00:17:13,178 --> 00:17:15,680 代わりの錠前が お入り用でございますね。 222 00:17:15,680 --> 00:17:21,553 いや 要らないよ。 それより 錠前屋さん…。 へえ。 223 00:17:21,553 --> 00:17:24,689 あんたには 女房 子どもはあるかい。 224 00:17:24,689 --> 00:17:26,724 はい。 おりますですが。 225 00:17:26,724 --> 00:17:29,861 それじゃあ おかみさんや子どもには➡ 226 00:17:29,861 --> 00:17:32,463 その錠前を 決して見せてはいけないよ。 227 00:17:32,463 --> 00:17:37,135 それだけは 固く約束しておくれ。 228 00:17:37,135 --> 00:17:40,171 それ… 私たちの事だろう? 229 00:17:40,171 --> 00:17:44,642 バ… ほかに誰がいるってんだい。 なあ? 230 00:17:44,642 --> 00:17:48,513 だから 「手前も職人でございます。➡ 231 00:17:48,513 --> 00:17:50,515 勝手の分からねえ 女房や ガキどもに➡ 232 00:17:50,515 --> 00:17:53,151 大事な預かり物を いじらせるようなまねは➡ 233 00:17:53,151 --> 00:17:57,021 決して致しません!」って お答えしてよ➡ 234 00:17:57,021 --> 00:18:01,321 その足で 清六親方のところへ行ったんだ。 235 00:18:04,495 --> 00:18:08,833 親方! 辰二郎です。 いらっしゃいますか? 236 00:18:08,833 --> 00:18:10,768 お邪魔致します! 237 00:18:10,768 --> 00:18:16,708 (清六)おう! 辰 どうした? へい。 実は親方➡ 238 00:18:16,708 --> 00:18:21,179 珍しい錠前を 預かったんでござんすが➡ 239 00:18:21,179 --> 00:18:23,514 どうにも あっしの手には 負えそうもねえもんで。 240 00:18:23,514 --> 00:18:26,551 ハハッ… 何でえ おめえは えっ? 241 00:18:26,551 --> 00:18:29,187 そんな事も まだ一人で どうにかできねえのかい。 242 00:18:29,187 --> 00:18:31,956 ヘヘッ 一人になって何年たつんだよ。 243 00:18:31,956 --> 00:18:36,461 どうも すみません。 ですが これ…。 えっ? 244 00:18:36,461 --> 00:18:40,761 こんなもん見た事がねえんで。 う~ん? 245 00:18:45,470 --> 00:18:48,973 何でえ こりゃあ。 246 00:18:48,973 --> 00:18:51,476 親方は元気にしてるんだねえ。 247 00:18:51,476 --> 00:18:54,312 私らは もう 随分と ご無沙汰だから。 248 00:18:54,312 --> 00:18:59,817 うん… その時は達者だった。 249 00:18:59,817 --> 00:19:01,753 (辰二郎)<錠前を預けて➡ 250 00:19:01,753 --> 00:19:05,690 2日たって また お邪魔したらばよ…> 251 00:19:05,690 --> 00:19:08,326 お邪魔致しやす。 252 00:19:08,326 --> 00:19:11,829 おい 辰。 あの錠前は おかしいぜ。 253 00:19:11,829 --> 00:19:14,866 何か こう ぬるぬるしやがってよ。 254 00:19:14,866 --> 00:19:18,703 親方 その手は どうなさったんで? 255 00:19:18,703 --> 00:19:24,175 あいつに かまれたんだよ。 へっ? 256 00:19:24,175 --> 00:19:26,844 えっ? かまれたって…➡ 257 00:19:26,844 --> 00:19:28,780 錠前にって事かい? 258 00:19:28,780 --> 00:19:33,651 うん。 俺は 親方が何言ってんだか 分からなかった。 259 00:19:33,651 --> 00:19:37,789 そしたらばよ 奥の方で お孫さんが➡ 260 00:19:37,789 --> 00:19:39,824 もう火の付いたように わめくじゃねえか。 261 00:19:39,824 --> 00:19:43,294 (清太郎) 怖いよ! あっちへやってよ! 262 00:19:43,294 --> 00:19:47,165 もう大丈夫ですよ。 怖いよ! 怖いよ! 263 00:19:47,165 --> 00:19:51,365 あっちへやってよ! 清太郎どうした!? 264 00:19:53,004 --> 00:19:55,873 この錠前に 触ったんじゃねえだろうな? 265 00:19:55,873 --> 00:19:59,143 体が行火のように 熱くなってるんです。 266 00:19:59,143 --> 00:20:01,646 こいつが悪さしやがったんだな。 267 00:20:01,646 --> 00:20:03,982 親方 これ… これ一体どういう訳で? 268 00:20:03,982 --> 00:20:06,651 親方ったら 夜っぴて その錠前をいじってらして➡ 269 00:20:06,651 --> 00:20:08,686 何言っても 聞いてくれないんです。 270 00:20:08,686 --> 00:20:12,457 こいつはな いじられるのが 嫌えなんだよ。 271 00:20:12,457 --> 00:20:14,525 親方 錠前は 生き物じゃござんせんよ。 272 00:20:14,525 --> 00:20:19,325 いや生き物だ! …ほら 見ろ。 273 00:20:22,500 --> 00:20:24,500 ひえ! 274 00:20:32,176 --> 00:20:34,512 あっ ああ…。 275 00:20:34,512 --> 00:20:40,852 (錠前の悲鳴) 276 00:20:40,852 --> 00:20:46,357 錠前屋さん お客からの預かり物を 燃やしたとあっちゃ➡ 277 00:20:46,357 --> 00:20:48,292 あんたも気が済むまい。 278 00:20:48,292 --> 00:20:53,131 あっ… へえ 面目もございません。 279 00:20:53,131 --> 00:20:57,001 だから ひとつ 別の頼みも聞いちゃくれねえか。 280 00:20:57,001 --> 00:21:00,905 へえ 何でございましょう? 281 00:21:00,905 --> 00:21:05,043 この屋敷に 1年 住んでもらいたい。 282 00:21:05,043 --> 00:21:13,384 来年の今頃 そうさな… 小雪がちらつく頃までだ。 283 00:21:13,384 --> 00:21:16,421 あの… このお屋敷にでございますか? 284 00:21:16,421 --> 00:21:18,723 留守番みたいなもんだよ。 ついでに➡ 285 00:21:18,723 --> 00:21:22,023 あの蔵に合う 錠前を作ってほしいんだ。 286 00:21:23,594 --> 00:21:30,794 約束を果たしてくれたら お礼に百両払おう。 287 00:21:32,370 --> 00:21:36,207 百両!? 288 00:21:36,207 --> 00:21:42,513 そういう顔をなさると お嬢さんは 本当にかわいらしいですね。 289 00:21:42,513 --> 00:21:45,513 おひなさまが動いているようだわ。 290 00:21:47,685 --> 00:21:51,355 小さい時から三島屋さんくらいの 身上のおうちで育った➡ 291 00:21:51,355 --> 00:21:56,194 お嬢様なら 百両ぐらいで びっくりなさったりしませんよ。 292 00:21:56,194 --> 00:21:59,530 ですから 私 おちかさんは➡ 293 00:21:59,530 --> 00:22:01,566 三島屋さんに おいでになってから そんなに➡ 294 00:22:01,566 --> 00:22:04,869 日が たってないんじゃないかなと 思ったんですの。 295 00:22:04,869 --> 00:22:08,372 三島屋にとっても百両は大金です。 296 00:22:08,372 --> 00:22:11,876 叔父も叔母も いきなり百両と言われたら➡ 297 00:22:11,876 --> 00:22:14,779 私のように 目を丸くすると思います。 298 00:22:14,779 --> 00:22:19,050 あら じゃあ 試してごらんなさいまし。 299 00:22:19,050 --> 00:22:21,953 商人が お金を動かす裁量は➡ 300 00:22:21,953 --> 00:22:25,923 お店の大きい小さいで 決まるものじゃございませんのよ。 301 00:22:25,923 --> 00:22:30,394 では その裁量は 何で決まるんでしょう? 302 00:22:30,394 --> 00:22:32,663 勢いで決まるんです。 303 00:22:32,663 --> 00:22:36,534 三島屋さんには 勢いがございますからね。 304 00:22:36,534 --> 00:22:39,334 勢い… ですか? 305 00:22:48,846 --> 00:22:53,684 お嬢さんは私たちが なんとも不吉な そのお屋敷に➡ 306 00:22:53,684 --> 00:22:59,857 移り住んだと思われますか? 百両と引き換えに。 307 00:22:59,857 --> 00:23:02,894 いろいろ悩んだとは 思いますけれど➡ 308 00:23:02,894 --> 00:23:08,199 そんな話 とても 素通りできる相談ではないかと。 309 00:23:08,199 --> 00:23:11,869 母が小さな子どもらを 連れていってもいいと➡ 310 00:23:11,869 --> 00:23:14,705 決めたと おっしゃいますの? 311 00:23:14,705 --> 00:23:18,376 それは…。 312 00:23:18,376 --> 00:23:21,879 辰二郎さんが お一人で住まわれたんですか? 313 00:23:21,879 --> 00:23:25,383 それが その番頭は 「一人じゃ駄目だ。➡ 314 00:23:25,383 --> 00:23:29,583 子どもも一緒じゃないと百両は 払えない」と言ったんですよ。 315 00:23:31,656 --> 00:23:36,827 それで 何度も 夫婦げんかになりましてね…。 316 00:23:36,827 --> 00:23:40,164 (辰二郎) なあ おさん。 聞いてくれよ➡ 317 00:23:40,164 --> 00:23:45,670 1年だよ たった1年だよ。 それだけ待てば おめえ➡ 318 00:23:45,670 --> 00:23:48,172 百両が転がり込んでくるんだよ。 319 00:23:48,172 --> 00:23:50,208 みんな もっといい暮らしができる。 320 00:23:50,208 --> 00:23:53,044 店だって持てるじゃねえか。 321 00:23:53,044 --> 00:23:56,681 あんた… 肝心なのは百両の重みだよ。 322 00:23:56,681 --> 00:24:00,851 先様にとって百両は 私たち一家の命の値段なんだよ。 323 00:24:00,851 --> 00:24:05,022 何を おめえ… そんな大げさな。 324 00:24:05,022 --> 00:24:08,359 屋敷には きっと何かあるんだよ。 325 00:24:08,359 --> 00:24:13,197 住んだら とんでもない事になる。 その番頭は➡ 326 00:24:13,197 --> 00:24:17,702 かわいそうだから 百両 くれてやろうって思ってるんだろ。 327 00:24:17,702 --> 00:24:20,605 あんた… よく考えてごらんよ。 328 00:24:20,605 --> 00:24:25,376 百両は お前… 右から見たって 左から見たって百両だよ! 329 00:24:25,376 --> 00:24:28,045 重さに変わりがあるもんけえ! 330 00:24:28,045 --> 00:24:32,016 おめえよ 百両欲しくねえのかよ? なあ? 331 00:24:32,016 --> 00:24:35,786 親方に聞いてみたらいいんだよ。 お見舞いがてら行って➡ 332 00:24:35,786 --> 00:24:39,156 どうしたらいいか 聞いてごらんよ! 333 00:24:39,156 --> 00:24:42,493 あ~! あ~…! 334 00:24:42,493 --> 00:24:45,830 (おたか)<母は そう申しました> 335 00:24:45,830 --> 00:24:48,733 お母さんは賢い人ですね。 336 00:24:48,733 --> 00:24:51,433 ありがとうございます。 337 00:24:54,538 --> 00:25:02,847 ですけどね お嬢さん… 女の とりわけ女房の賢いのは➡ 338 00:25:02,847 --> 00:25:06,350 ただそれだけじゃ 宝の持ち腐れなんですよ。 339 00:25:06,350 --> 00:25:12,690 それを生かすも殺すも 相方の 亭主次第でございますからね。 340 00:25:12,690 --> 00:25:14,625 言われてすぐに お父っつぁんは➡ 341 00:25:14,625 --> 00:25:17,862 清六親方のところに 相談に行ったもんですが…。 342 00:25:17,862 --> 00:25:22,733 うろんな話だな~。 343 00:25:22,733 --> 00:25:25,036 しかし 止めても無駄だろう。 344 00:25:25,036 --> 00:25:27,705 おめえは すっかり その気になっちまってるからな。 345 00:25:27,705 --> 00:25:32,143 しかし… 親方…。 346 00:25:32,143 --> 00:25:40,318 だって… 百両ですぜ? 辰 子どもらは俺に預けていけ。 347 00:25:40,318 --> 00:25:43,818 一緒に移り住んじゃならねえ。 348 00:25:48,059 --> 00:25:52,897 それじゃ話が違う。 子どもらも みんな連れておいで。 349 00:25:52,897 --> 00:25:56,667 でないと百両は払えないよ。 350 00:25:56,667 --> 00:26:00,838 旦那 あっしの師匠は あの錠前に かまれたし➡ 351 00:26:00,838 --> 00:26:05,509 お孫さんは錠前に触った途端に 熱出したんでさあ! 352 00:26:05,509 --> 00:26:08,179 このお屋敷には 一体 何があるんで? 353 00:26:08,179 --> 00:26:11,515 それが分からねえうちは 子ども連れてなんて来られねえ! 354 00:26:11,515 --> 00:26:14,418 旦那だって 障りがあるって 分かってるから あの錠前を➡ 355 00:26:14,418 --> 00:26:16,687 子どもに見せちゃいけないって 言ったんじゃないんですか? 356 00:26:16,687 --> 00:26:20,524 障りがあるのは あの錠前だったんだ。 357 00:26:20,524 --> 00:26:23,427 錠前が 焼けて消えてしまったから➡ 358 00:26:23,427 --> 00:26:26,864 この屋敷には何の怪しい事もない。 359 00:26:26,864 --> 00:26:31,369 だったら 何で あっしらを住まわせるんです? 360 00:26:31,369 --> 00:26:33,804 あんたらじゃなくても 留守番が要るから➡ 361 00:26:33,804 --> 00:26:37,141 その労賃を払おう というだけの事だよ。 362 00:26:37,141 --> 00:26:40,978 百両じゃ不足かい? 363 00:26:40,978 --> 00:26:47,178 いいんだよ? 断るというなら ほかをあたるまでだ。 364 00:26:53,557 --> 00:26:57,428 (おたか)<母は 大層がっかりしていました。➡ 365 00:26:57,428 --> 00:27:05,002 でもねえ 父はもう 百両に 目がくらんでおりまして…。➡ 366 00:27:05,002 --> 00:27:10,174 安藤坂までは 長い道のりでございました> 367 00:27:10,174 --> 00:27:14,512 辰二郎さんが初めて 安藤坂のお屋敷を訪ねた時➡ 368 00:27:14,512 --> 00:27:21,185 女中さんは「勝手に呼ばれてきた」 と言ったんですよね? 369 00:27:21,185 --> 00:27:25,055 それを番頭の男は とがめたんです。 370 00:27:25,055 --> 00:27:28,355 聞かれたくなかったから でしょうか? 371 00:27:30,194 --> 00:27:33,964 おかしな男でしたから。 372 00:27:33,964 --> 00:27:39,837 辰二郎さんが 勝手に呼ばれてきたと…。 373 00:27:39,837 --> 00:27:42,306 誰に呼ばれて? 374 00:27:42,306 --> 00:27:46,811 さあ? 分かりませんねえ…。 375 00:27:46,811 --> 00:27:51,982 錠前… なんでしょうか? 376 00:27:51,982 --> 00:27:55,319 そうかも分かりませんね。 377 00:27:55,319 --> 00:27:59,156 土蔵は錠前を 掛けないままだったのですか? 378 00:27:59,156 --> 00:28:01,192 それが どんな錠前を持っていっても➡ 379 00:28:01,192 --> 00:28:05,392 ちっとも駄目で 全く掛からないんですよ。 380 00:28:16,006 --> 00:28:20,344 このあと 屋敷では 何が起こったと思いますか? 381 00:28:20,344 --> 00:28:22,379 とっても分かりません。 382 00:28:22,379 --> 00:28:26,150 錠前は やっぱり 生き物だったと思われます? 383 00:28:26,150 --> 00:28:32,289 いえ 何だか私には 薄気味悪い錠前は➡ 384 00:28:32,289 --> 00:28:37,461 お話のきっかけで 本丸は お屋敷だったんじゃないかって➡ 385 00:28:37,461 --> 00:28:40,297 思えてならないんです。 386 00:28:40,297 --> 00:28:43,200 おたかさんのお話を 聞いていると➡ 387 00:28:43,200 --> 00:28:49,640 お屋敷の ここのところが土蔵で➡ 388 00:28:49,640 --> 00:28:53,811 …土蔵が錠前を邪魔にした? 389 00:28:53,811 --> 00:28:59,617 お嬢さんは賢いおつむりを お持ちでございますねえ。 390 00:28:59,617 --> 00:29:05,155 すみません 余計な事を申しました。 391 00:29:05,155 --> 00:29:10,327 何をおっしゃいますやら。 392 00:29:10,327 --> 00:29:13,664 そういうお人だから 三島屋さんは➡ 393 00:29:13,664 --> 00:29:17,864 百物語の聞き手に あなたを据えられたんですね。 394 00:29:20,170 --> 00:29:23,207 お嬢さんの言うとおりですよ。 395 00:29:23,207 --> 00:29:27,845 たまにやって来る 番頭の男に聞きますとね➡ 396 00:29:27,845 --> 00:29:32,616 錠前は それまでも時々不意に ひとりでに外れてしまう。 397 00:29:32,616 --> 00:29:37,788 土蔵の力が 錠前の力に勝つ時があるって。 398 00:29:37,788 --> 00:29:40,457 いつ そうなるかは分からない。 399 00:29:40,457 --> 00:29:44,128 だから落ち着いて住んで いられないって言うんですよ。 400 00:29:44,128 --> 00:29:49,466 でも とうとう 錠前は無くなってしまいました。 401 00:29:49,466 --> 00:29:54,638 皆様が住み着いたら お屋敷は どうなったんですか? 402 00:29:54,638 --> 00:29:56,638 それがね…。 403 00:30:02,513 --> 00:30:06,350 お屋敷に着いた時から お話ししましょうか。 404 00:30:06,350 --> 00:30:19,863 ♬~ 405 00:30:19,863 --> 00:30:23,000 (おたか)<お部屋は 数え切れないくらいあったけど➡ 406 00:30:23,000 --> 00:30:27,338 私たちが使ったのは 台所を入れて ほんの3つで➡ 407 00:30:27,338 --> 00:30:31,175 ほかの座敷には 足も踏み入れませんでした> 408 00:30:31,175 --> 00:31:01,171 ♬~ 409 00:31:01,171 --> 00:31:03,540 (おたか)<時々やって来る番頭も➡ 410 00:31:03,540 --> 00:31:06,577 使い勝手がいい所だけ 使いなさいって➡ 411 00:31:06,577 --> 00:31:09,413 土蔵に近づいちゃいけないとも 言わないので➡ 412 00:31:09,413 --> 00:31:16,120 私ら姉妹で入り込んでは きれいな着物で遊んでいました。➡ 413 00:31:16,120 --> 00:31:20,891 広くて 暖かくて きれいで そりゃあもう➡ 414 00:31:20,891 --> 00:31:24,762 隙間風の吹き込む 裏長屋なんぞとは訳が違う。➡ 415 00:31:24,762 --> 00:31:29,566 ふと思いました。 この家は 生き物なんじゃないかって。➡ 416 00:31:29,566 --> 00:31:34,405 私たちが何もしなくても いつも身ぎれいにしてる> 417 00:31:34,405 --> 00:32:16,547 ♬~ 418 00:32:16,547 --> 00:32:18,882 (おたか)<一年が近づくにつれて➡ 419 00:32:18,882 --> 00:32:22,582 私たちは ひどく名残惜しくなりました> 420 00:32:25,222 --> 00:32:30,094 (おたか)<「あ~ このお屋敷とも お別れだ」と➡ 421 00:32:30,094 --> 00:32:33,931 悲しくなってしまいました> 422 00:32:33,931 --> 00:32:38,869 約束の1年が過ぎたから 屋敷を出ても構わないよ。 423 00:32:38,869 --> 00:32:45,369 いろいろありがとう。 あんたらは 本当に よくやってくれました。 424 00:32:49,413 --> 00:32:54,017 それとも…➡ 425 00:32:54,017 --> 00:32:57,888 もう少し住んでみたいかね? 426 00:32:57,888 --> 00:33:00,524 …と言うんです。 427 00:33:00,524 --> 00:33:03,560 それで住み続けたんですか? 428 00:33:03,560 --> 00:33:09,700 ええ。 今でも住んでおりますのよ 安藤坂のお屋敷に。 429 00:33:09,700 --> 00:33:12,536 皆さん ご無事で? 430 00:33:12,536 --> 00:33:15,836 ええ。 何事もなく。 431 00:33:23,714 --> 00:33:27,050 ここで終わりでございますか? 432 00:33:27,050 --> 00:33:28,986 はい。 433 00:33:28,986 --> 00:33:33,490 ここで お話は終わりでございますか? 434 00:33:33,490 --> 00:33:35,993 はい。 435 00:33:35,993 --> 00:33:39,496 でも… あなたは最初に➡ 436 00:33:39,496 --> 00:33:43,000 お化け屋敷のお話だと おっしゃいました。 437 00:33:43,000 --> 00:33:46,800 ええ。 申しましたね。 438 00:33:48,505 --> 00:33:56,013 それでは 何か こう…。 面白いお話ではないと? 439 00:33:56,013 --> 00:34:00,684 百物語としては私たちの一家が 災いを受けないと➡ 440 00:34:00,684 --> 00:34:03,187 つまらないと おっしゃるんですか? 441 00:34:03,187 --> 00:34:06,857 とんでもない。 そのような事は。 442 00:34:06,857 --> 00:34:13,030 でも こんなお話じゃ つまりませんよね? 443 00:34:13,030 --> 00:34:17,201 せっかく変わり物語を 集めていらっしゃるのに➡ 444 00:34:17,201 --> 00:34:21,038 人も死なない めでたしめでたしのお話では➡ 445 00:34:21,038 --> 00:34:23,838 甲斐もありませんねえ。 446 00:34:26,376 --> 00:34:30,547 おからかい… なんでしょうか? 447 00:34:30,547 --> 00:34:36,653 私は商いの才も 世間も知らない娘ですが➡ 448 00:34:36,653 --> 00:34:41,825 ここには三島屋主人 伊兵衛の 名代として座っております。 449 00:34:41,825 --> 00:34:43,861 お客様のお言いようは➡ 450 00:34:43,861 --> 00:34:48,332 三島屋を侮ってらっしゃるのと 同じ事になります。 451 00:34:48,332 --> 00:34:52,132 お嬢さんは 本当に賢くていらっしゃる。 452 00:34:55,105 --> 00:34:59,405 ね~え おちかさん? 453 00:35:02,346 --> 00:35:04,381 あなた このうちで➡ 454 00:35:04,381 --> 00:35:08,518 肩身の狭い思いを してらっしゃるんでしょう。➡ 455 00:35:08,518 --> 00:35:11,355 いくら よくして下さるとはいっても➡ 456 00:35:11,355 --> 00:35:15,225 叔父さん叔母さんの うちですものね。 457 00:35:15,225 --> 00:35:17,527 それに あなたには➡ 458 00:35:17,527 --> 00:35:20,030 思い出したくないのに 忘れられない➡ 459 00:35:20,030 --> 00:35:23,530 つら~い昔話がおありだし。 460 00:35:26,536 --> 00:35:31,375 若い身空で お気の毒な話でございますよ。 461 00:35:31,375 --> 00:35:33,977 でも いくら悔やんだとて➡ 462 00:35:33,977 --> 00:35:36,480 亡くなった人は 帰っちゃきません。➡ 463 00:35:36,480 --> 00:35:40,180 起こってしまった出来事は 消えやしません。 464 00:35:41,985 --> 00:35:44,821 どうして…。 465 00:35:44,821 --> 00:35:47,858 何もおっしゃいますな。 466 00:35:47,858 --> 00:35:53,163 そんな怖い顔を なすっちゃいけませんよ。 467 00:35:53,163 --> 00:35:58,969 私は あなたの身の上の事を すっかり存じ上げております。 468 00:35:58,969 --> 00:36:02,673 三島屋さんに聞いた訳じゃ ございませんの。➡ 469 00:36:02,673 --> 00:36:05,473 私には分かるんです。 470 00:36:09,179 --> 00:36:13,179 あなたのような人を 探しておりますからね。 471 00:36:18,855 --> 00:36:26,530 私と一緒に いらっしゃいましな あのお屋敷に。 472 00:36:26,530 --> 00:36:31,201 そして あのお屋敷で暮らすんです。 473 00:36:31,201 --> 00:36:33,470 土蔵には あなたにお似合いな お着物が➡ 474 00:36:33,470 --> 00:36:37,140 たくさん しまってございます。 475 00:36:37,140 --> 00:36:39,977 何も怖い事なんかございません。 476 00:36:39,977 --> 00:36:42,312 すっかり 申し上げましたでしょう? 477 00:36:42,312 --> 00:36:48,652 恐ろしい事なんかないのです。 どうして 私が…。 478 00:36:48,652 --> 00:36:52,452 安藤坂のお屋敷は 今でも ちゃんとございます。 479 00:36:55,325 --> 00:37:03,667 おちかさんには百両なんてお金は 用がございませんわねえ。 480 00:37:03,667 --> 00:37:07,467 でも 心の安らぎは ご入り用でしょう? 481 00:37:10,340 --> 00:37:15,512 お屋敷に来れば それが手に入りますよ? 482 00:37:15,512 --> 00:37:24,512 さあ… いらっしゃいましな。 私と一緒に。 483 00:37:28,692 --> 00:37:44,174 ♬~ 484 00:37:44,174 --> 00:37:46,176 ≪(八十助)お嬢さん!➡ 485 00:37:46,176 --> 00:37:49,676 おちかお嬢さん! おたか姉さん! 486 00:37:51,481 --> 00:37:53,481 おやめなさい! 487 00:37:56,987 --> 00:38:02,859 あっ お嬢… お嬢さん。 あっ… ご無事で? 488 00:38:02,859 --> 00:38:05,495 三島屋さんのお嬢さんで いらっしゃいますね? 489 00:38:05,495 --> 00:38:09,332 大変な失礼を致しました! この者は手前の身内ですが➡ 490 00:38:09,332 --> 00:38:12,235 実は 病人でございます。 491 00:38:12,235 --> 00:38:15,138 ご病人!? そうなんだそうですよ。 492 00:38:15,138 --> 00:38:17,674 本日の 変わり百物語の お招きには➡ 493 00:38:17,674 --> 00:38:20,343 手前が伺う お約束に なっておりましたが➡ 494 00:38:20,343 --> 00:38:22,846 出がけに 急用が差し起こりまして➡ 495 00:38:22,846 --> 00:38:26,349 手前が遅れておりますうちに この者が勝手に➡ 496 00:38:26,349 --> 00:38:29,252 三島屋さんをお訪ねしてしまった という次第で➡ 497 00:38:29,252 --> 00:38:32,155 誠に申し訳ございません。 498 00:38:32,155 --> 00:38:36,026 お医者様を お呼びしましょうか? お気遣い痛み入ります。 499 00:38:36,026 --> 00:38:38,995 外に 手前の店の者たちを 待たせておりますので➡ 500 00:38:38,995 --> 00:38:41,798 このまま すぐに 連れて帰る事に致します。 501 00:38:41,798 --> 00:38:43,733 ご心配ありがとうございます。 それじゃあ➡ 502 00:38:43,733 --> 00:38:46,433 お付きの人たちを 呼んでまいります。 503 00:38:49,473 --> 00:38:55,345 もしや あなたは春吉さんですか? この方の弟さんの…。 504 00:38:55,345 --> 00:38:59,149 いえ… 申し遅れました。 505 00:38:59,149 --> 00:39:01,818 手前は 堀江町の草履問屋➡ 506 00:39:01,818 --> 00:39:05,489 越後屋の清太郎と申します。 507 00:39:05,489 --> 00:39:07,991 姉は お話をしましたか? 508 00:39:07,991 --> 00:39:11,661 手前の母方の祖父が 錠前職人でございまして➡ 509 00:39:11,661 --> 00:39:13,997 清六と申します。 510 00:39:13,997 --> 00:39:19,803 あっ お話に出てきた親方…。 511 00:39:19,803 --> 00:39:23,673 安藤坂のお屋敷の錠前に 手をかまれたという? 512 00:39:23,673 --> 00:39:26,009 その錠前の障りに触れて➡ 513 00:39:26,009 --> 00:39:29,809 大熱を出した子どもが 手前でございます。 514 00:39:31,448 --> 00:39:33,383 そうだったんですか…。 515 00:39:33,383 --> 00:39:37,120 姉は お嬢さんを安藤坂の屋敷へ➡ 516 00:39:37,120 --> 00:39:40,157 お誘いしたのでは ありますまいか? 517 00:39:40,157 --> 00:39:44,861 おたかさんのご家族が 百両 払ってもらうのと引き換えに➡ 518 00:39:44,861 --> 00:39:48,131 安藤坂のお屋敷に 1年暮らしたというのは➡ 519 00:39:48,131 --> 00:39:51,635 本当なんですか? 520 00:39:51,635 --> 00:39:59,309 姉さん親子6人で移り住みました。 でも1年たって戻ってきたのは➡ 521 00:39:59,309 --> 00:40:02,212 この人 一人だけだったので ございます。 522 00:40:02,212 --> 00:40:05,115 えっ… ほかの方は? 523 00:40:05,115 --> 00:40:08,115 いまだに行方が分かりません。 524 00:40:09,819 --> 00:40:13,690 (付き人)私たちが…。 失礼致します。 525 00:40:13,690 --> 00:40:26,169 ♬~ 526 00:40:26,169 --> 00:40:28,469 (お民)あ~ 怖っ! 527 00:40:30,040 --> 00:40:33,043 だから こんな妙なまねは およしなさいって➡ 528 00:40:33,043 --> 00:40:35,178 先から言ってたんだよ 私は。 529 00:40:35,178 --> 00:40:38,215 清太郎さんは また あさって いらっしゃる手はずになっている。 530 00:40:38,215 --> 00:40:40,350 その時は 私も ご一緒するよ。 531 00:40:40,350 --> 00:40:43,386 あら 叔父さん この変わり百物語は➡ 532 00:40:43,386 --> 00:40:45,522 私の仕事じゃなかったんですか? 533 00:40:45,522 --> 00:40:49,359 清太郎さんというのは なかなか 様子のいい若者だそうじゃないか。 534 00:40:49,359 --> 00:40:51,861 嫁入り前の お前と二人きりに する訳にはいかないな。 535 00:40:51,861 --> 00:40:53,797 まあ お前が どうしても➡ 536 00:40:53,797 --> 00:40:56,733 二人だけにしてくれと言うなら 遠慮するが。 537 00:40:56,733 --> 00:41:01,033 何言ってるんですか 二人とも 全く! 538 00:41:07,711 --> 00:41:10,547 この度の おわびと お礼でございます。 539 00:41:10,547 --> 00:41:13,583 ささやかなものですが どうぞ お納め願います。 540 00:41:13,583 --> 00:41:17,383 ご丁寧な事で。 恐れ入ります。 541 00:41:19,889 --> 00:41:22,225 お姉様のお加減はいかがですか? 542 00:41:22,225 --> 00:41:28,898 ご心配頂いて 痛み入ります。 もし よろしければ➡ 543 00:41:28,898 --> 00:41:32,335 姉と 姉の一家に 何が起こったのか➡ 544 00:41:32,335 --> 00:41:35,672 途切れた昔話の続きを 致したいのでございますが…。 545 00:41:35,672 --> 00:41:37,707 お~ それを待っていたのですよ! 546 00:41:37,707 --> 00:41:41,845 急な話でございますが ご一緒に 安藤坂まで おいで頂く事は➡ 547 00:41:41,845 --> 00:41:44,145 できますでしょうか? 548 00:41:54,024 --> 00:41:57,360 (八十助)お気を付けて。 三島屋さん。 おちかさん。 549 00:41:57,360 --> 00:41:59,396 どうぞ お乗り下さい。 550 00:41:59,396 --> 00:42:10,540 ♬~ 551 00:42:10,540 --> 00:42:13,209 行くぜ! (一同)へい! 552 00:42:13,209 --> 00:42:32,509 ♬~ 553 00:42:41,671 --> 00:42:46,509 ここに例の屋敷がありました。 554 00:42:46,509 --> 00:42:49,846 おたか姉さんが お嬢さんに お聞かせした事が起こったのは➡ 555 00:42:49,846 --> 00:42:52,882 15年前の事でございます。 556 00:42:52,882 --> 00:42:57,721 手前の母方の祖父 清六は 弟子である辰二郎が➡ 557 00:42:57,721 --> 00:43:02,425 ここへ移り住むと決めた時 いい顔をしませんでした。 558 00:43:02,425 --> 00:43:09,699 子どもらは俺に預けろ。 一緒に移り住んじゃならねえ。 559 00:43:09,699 --> 00:43:14,204 親方… 子どもらと離れて暮らすなんて➡ 560 00:43:14,204 --> 00:43:18,074 あっしにはできねえ! 子どもらがいるから➡ 561 00:43:18,074 --> 00:43:22,379 あっしは あいつらのために 働きてえって思うんでさ! 562 00:43:22,379 --> 00:43:27,217 だったら 俺は ちょいちょい屋敷に行くぞ。 563 00:43:27,217 --> 00:43:30,887 その時に 女房 子どものうち 誰か一人でも➡ 564 00:43:30,887 --> 00:43:34,657 具合が悪そうに見えたら 俺は 何が何でも➡ 565 00:43:34,657 --> 00:43:38,495 首根っこをひっつかんでも 屋敷から連れ戻すからな。 566 00:43:38,495 --> 00:43:43,366 いいな? へい! 567 00:43:43,366 --> 00:43:45,668 (せきこみ) 568 00:43:45,668 --> 00:43:48,004 ちょっと出かけるから。 どちらへ? 569 00:43:48,004 --> 00:43:52,342 安藤坂の辰のところへな。 行ってらっしゃいませ。 570 00:43:52,342 --> 00:43:54,377 おっ… あっ…。 571 00:43:54,377 --> 00:43:58,014 (清太郎)<ところが 祖父が 安藤坂へ出かけようとすると➡ 572 00:43:58,014 --> 00:44:02,519 熱が出る 寒気がする 腰が立たなくなる。➡ 573 00:44:02,519 --> 00:44:06,856 気味悪い事 この上ない。 そこで使いを雇って➡ 574 00:44:06,856 --> 00:44:10,727 辰二郎の方から こっちへ 来るようにと伝えました> 575 00:44:10,727 --> 00:44:14,364 親方。 何にも心配いりやせん。 576 00:44:14,364 --> 00:44:17,700 おさんも子どもらも 幸せにやってまさあ! 577 00:44:17,700 --> 00:44:20,737 立派な錠前も こさえてやりました。 578 00:44:20,737 --> 00:44:25,208 きれいなお屋敷で 住み心地も そりゃあいい具合で➡ 579 00:44:25,208 --> 00:44:28,044 1年の年限があるのが 残念なぐらいです。 580 00:44:28,044 --> 00:44:30,880 そうかい。 ちょっと上がっていかねえか? 581 00:44:30,880 --> 00:44:33,149 いえ。 今日も これから帰って➡ 582 00:44:33,149 --> 00:44:35,084 新しい錠前を こさえなくちゃいけねえんで。 583 00:44:35,084 --> 00:44:37,020 一杯ぐらいつきあえよ。 584 00:44:37,020 --> 00:44:40,023 (清太郎)<半月に一度 顔を見せろという祖父の頼みに➡ 585 00:44:40,023 --> 00:44:42,826 辰二郎は 快く「うん」と言い➡ 586 00:44:42,826 --> 00:44:45,662 必ずやって来ては いつもどおり➡ 587 00:44:45,662 --> 00:44:48,698 屋敷の暮らしの楽しい事を 語って帰りました。➡ 588 00:44:48,698 --> 00:44:55,839 でも 疑り深い祖父は 土地の岡っ引きに調べてもらい…> 589 00:44:55,839 --> 00:44:59,342 あれは もともと武家屋敷で 町場の俺たちには➡ 590 00:44:59,342 --> 00:45:04,514 手も耳も届かねえが うろんな事には間違いねえ。 591 00:45:04,514 --> 00:45:07,550 一つだけ 俺にも つかむ事ができたのは➡ 592 00:45:07,550 --> 00:45:11,387 あのお屋敷の蔵な あれは その昔➡ 593 00:45:11,387 --> 00:45:16,025 座敷牢代わりに使われてた事が あるらしい。 まあ 誰が➡ 594 00:45:16,025 --> 00:45:18,862 どんな事情で閉じ込められて いたのか分からねえ。 595 00:45:18,862 --> 00:45:25,735 ただ 元の持ち主のお武家 平家の流れをくむ血筋が絶えて➡ 596 00:45:25,735 --> 00:45:32,509 屋敷の主人が代わっても また 誰かが蔵に閉じ込められて➡ 597 00:45:32,509 --> 00:45:37,981 それが何度も続いて とうとう 誰も住まなくなったって➡ 598 00:45:37,981 --> 00:45:41,484 そういう事らしい。 う~ん。 599 00:45:41,484 --> 00:45:45,154 それじゃあ 百両の話を持ち掛けてきた➡ 600 00:45:45,154 --> 00:45:47,490 番頭ってのは何者なんでえ? 601 00:45:47,490 --> 00:45:51,661 あの辺りの口入れ屋の話だと 5年に一遍くらい➡ 602 00:45:51,661 --> 00:45:56,165 仕立てのいい着物を着た 番頭風の男がやって来て➡ 603 00:45:56,165 --> 00:46:01,971 蔵の虫干しをするから 2~3日 女中を都合してくれと言うそうだ。 604 00:46:01,971 --> 00:46:04,874 結構いい金をよこすらしい。 605 00:46:04,874 --> 00:46:08,511 辰二郎さんが会ったのも その番頭だろう。 606 00:46:08,511 --> 00:46:11,347 その男は何者なんでえ? 607 00:46:11,347 --> 00:46:14,684 そいつが さっぱり分からねえ。 608 00:46:14,684 --> 00:46:20,490 あとな 近在のじいさんが 言ってたんだけどよ➡ 609 00:46:20,490 --> 00:46:27,263 安藤坂のお屋敷は 人をのむって…。 610 00:46:27,263 --> 00:46:31,034 人を… のむ? 611 00:46:31,034 --> 00:46:33,469 (清太郎)<すると その次の約束の日に➡ 612 00:46:33,469 --> 00:46:36,806 初めて辰二郎が訪ねて こなかったんでございます。➡ 613 00:46:36,806 --> 00:46:41,477 祖父は1日 2日と待ち 更にもう一日待って➡ 614 00:46:41,477 --> 00:46:44,477 しびれを切らして 立ち上がりました> 615 00:46:53,189 --> 00:47:00,989 辰! おい おさん! いねえのか! 616 00:47:09,005 --> 00:47:14,510 こんなに作って どういうつもりだ? 617 00:47:14,510 --> 00:47:16,510 おい! 618 00:47:21,184 --> 00:47:26,484 誰もいねえのか!? おい 辰! 619 00:47:33,296 --> 00:47:35,496 おたか? 620 00:47:38,801 --> 00:47:45,308 たか坊! たか坊! お前 どうしたんだい➡ 621 00:47:45,308 --> 00:47:48,144 こんな所に一人で…。 622 00:47:48,144 --> 00:47:52,015 お父っつぁんと おっ母さん どうした? 623 00:47:52,015 --> 00:47:57,487 おい お前… 何やってたんだ? えっ? 624 00:47:57,487 --> 00:47:59,422 一緒に行こう! 625 00:47:59,422 --> 00:48:02,158 私は ここにいる。 626 00:48:02,158 --> 00:48:04,494 私は どこにも行かない。 627 00:48:04,494 --> 00:48:07,397 ここにいるんだ。 ここにいる。 628 00:48:07,397 --> 00:48:12,368 みんなは どこ行ったんだ? お前 何やってたんだ? 629 00:48:12,368 --> 00:48:15,138 私は…。 630 00:48:15,138 --> 00:48:17,674 (別人の声で) もうすぐ この子の番だから。➡ 631 00:48:17,674 --> 00:48:20,174 ほっといておくれ! 632 00:48:22,512 --> 00:48:26,349 (元の声で)まだ駄目なんだ! まだ私の番が来ないんだ! 633 00:48:26,349 --> 00:48:28,384 私は ここにいるんだ! 634 00:48:28,384 --> 00:48:31,020 たか坊 さあ おいで。 635 00:48:31,020 --> 00:48:33,790 次は 私の番なんだ! ここにいるんだ! 636 00:48:33,790 --> 00:48:35,790 ≪(清六)お~い! 637 00:48:37,460 --> 00:48:40,296 誰か… この子を。 638 00:48:40,296 --> 00:48:43,132 (忠兵衛)お父さん 何があったんでしょうか? 639 00:48:43,132 --> 00:48:46,169 俺は行ってきた あの屋敷に行ってきた。 640 00:48:46,169 --> 00:48:48,938 おめえらは 何があっても 近づくんじゃねえぞ! 641 00:48:48,938 --> 00:48:51,738 あんた 着替えを。 うん! 642 00:48:54,310 --> 00:49:00,116 あの屋敷は… 人をのむんだ! 643 00:49:00,116 --> 00:49:05,021 辰二郎も おさんも 子どもらも➡ 644 00:49:05,021 --> 00:49:08,021 みんな のまれちまった! 645 00:49:10,660 --> 00:49:13,460 (清六)みんな そろって…。 646 00:49:23,172 --> 00:49:26,676 両親は祖父を どうにかこうにか なだめては➡ 647 00:49:26,676 --> 00:49:33,116 奥の1間に寝かしつけました。 ですが 夜明け前…➡ 648 00:49:33,116 --> 00:49:36,152 祖父は姿を消したのです。 649 00:49:36,152 --> 00:49:39,288 そして その日の正午には➡ 650 00:49:39,288 --> 00:49:42,625 屋敷が火事で燃えたと 分かったんです。 651 00:49:42,625 --> 00:49:48,297 どうして そんな知らせが うちに 届けられたかと言うならば➡ 652 00:49:48,297 --> 00:49:53,497 ここに 祖父の亡骸が 転がっていたからでございます。 653 00:50:00,877 --> 00:50:03,646 祖父は屋敷に火をかけ➡ 654 00:50:03,646 --> 00:50:07,817 我が身もろとも 焼いてしまったのです。 655 00:50:07,817 --> 00:50:12,989 以来 ここは このありさまです。 656 00:50:12,989 --> 00:50:15,324 何ともはや…。 657 00:50:15,324 --> 00:50:18,227 そればかりでは ございません。 658 00:50:18,227 --> 00:50:22,999 土蔵の辺りからは たくさんの 人の骨が出てまいりました。 659 00:50:22,999 --> 00:50:24,934 えっ? 660 00:50:24,934 --> 00:50:29,338 う~む それは もしやすると…。 661 00:50:29,338 --> 00:50:33,209 叔父さんの考えは? 662 00:50:33,209 --> 00:50:38,681 おちかも そう 考えているんじゃないのかい? 663 00:50:38,681 --> 00:50:42,351 清太郎さんには とても言えないが…。 664 00:50:42,351 --> 00:50:46,151 私の考えは… こうだ。 665 00:50:49,692 --> 00:50:53,492 辰! おさん! 666 00:50:57,567 --> 00:51:00,067 こんなに…。 667 00:51:07,543 --> 00:51:09,478 あっ…。 668 00:51:09,478 --> 00:51:22,892 ♬~ 669 00:51:22,892 --> 00:51:25,795 おたか? 670 00:51:25,795 --> 00:51:29,565 たか坊! たか坊! 671 00:51:29,565 --> 00:51:33,336 どうした? こんな所に一人で…。 672 00:51:33,336 --> 00:51:36,836 お父っつぁんと おっ母さん どこ行った? 673 00:51:40,109 --> 00:51:42,044 おっ…? 674 00:51:42,044 --> 00:51:57,344 ♬~ 675 00:51:59,562 --> 00:52:20,716 ♬~ 676 00:52:20,716 --> 00:52:23,552 たか坊 おいで! 私は ここにいる! 677 00:52:23,552 --> 00:52:27,723 私は どこにも行かない! ここにいるんだ! ここにいる! 678 00:52:27,723 --> 00:52:33,523 たか坊! 行っちゃ駄目だ! 駄目だ! 行っちゃ駄目だ! 679 00:52:35,998 --> 00:52:39,198 (別人の声で) 次は この子の番なんだよ! 680 00:52:40,836 --> 00:52:43,506 おたか…。 681 00:52:43,506 --> 00:52:49,312 作っても作っても錠前は 土蔵に掛からなかった。 682 00:52:49,312 --> 00:52:55,017 辰二郎さんは気が触れて 一家を 皆殺しにしたのかもしれません。 683 00:52:55,017 --> 00:53:03,192 祖父は それを世間に隠そうとして 屋敷に火をかけたのかも…➡ 684 00:53:03,192 --> 00:53:06,028 と疑う気持ちも一方でございます。 685 00:53:06,028 --> 00:53:09,865 そう考えるのは おつらい事でしょう。 686 00:53:09,865 --> 00:53:14,036 み~んな 屋敷に のみ込まれたのかもしれないよ。 687 00:53:14,036 --> 00:53:18,836 真実を見たのは おたかさんだけだがね。 688 00:53:20,543 --> 00:53:24,413 おたか姉さんは我が家で 暮らす事になりましたが…。 689 00:53:24,413 --> 00:53:28,284 (清太郎)<何日たっても 口をきくようになりません。➡ 690 00:53:28,284 --> 00:53:34,190 日がな一日 お人形さんのように 座り込んでました。➡ 691 00:53:34,190 --> 00:53:36,826 そんなある日…> 692 00:53:36,826 --> 00:53:54,677 ♬~ 693 00:53:54,677 --> 00:53:57,179 (清太郎)<おたか姉さんの 座敷のところで➡ 694 00:53:57,179 --> 00:53:59,115 人影のようなものを見かけ➡ 695 00:53:59,115 --> 00:54:01,684 おかしいと思った女中が 駆け寄ると➡ 696 00:54:01,684 --> 00:54:04,353 そこには百両が置かれていた というのです> 697 00:54:04,353 --> 00:54:08,691 お内儀さん! お内儀さん! 何? 698 00:54:08,691 --> 00:54:10,726 (清太郎)<それからの事です。➡ 699 00:54:10,726 --> 00:54:13,362 おたか姉さんは しゃべるようになりました。➡ 700 00:54:13,362 --> 00:54:16,562 ちょっと見には 治ったようでした> 701 00:54:18,701 --> 00:54:21,537 (清太郎)<私たちは実の 姉 弟のように育ちましたから➡ 702 00:54:21,537 --> 00:54:24,373 分かりますが…> 703 00:54:24,373 --> 00:54:28,878 お嬢さんに 安藤坂の屋敷に来いと 誘いをかけたのは➡ 704 00:54:28,878 --> 00:54:31,847 おたか姉さん 本人じゃありません。 705 00:54:31,847 --> 00:54:36,986 屋敷が焼けて無くなり その中に住み着いていたものが➡ 706 00:54:36,986 --> 00:54:39,655 おたか姉さんに取りついていて➡ 707 00:54:39,655 --> 00:54:44,994 折を見ては現れ 新しい住み人を誘う。 708 00:54:44,994 --> 00:54:47,794 手前には そう思えるのです。 709 00:54:51,167 --> 00:54:57,039 私も おたかさんの目の中に お屋敷を見ました。 710 00:54:57,039 --> 00:55:01,339 おちか… そうなのか? 711 00:55:03,746 --> 00:55:05,714 [ 回想 ] (おたか)おいでなさいましな。 712 00:55:05,714 --> 00:55:08,584 私と一緒に。 713 00:55:08,584 --> 00:55:12,084 そして あのお屋敷で暮らすんです。 714 00:55:17,693 --> 00:55:23,365 あれは 誠のおたかさんじゃ ありませんでした。 715 00:55:23,365 --> 00:55:25,701 これまでにも おたか姉さんは➡ 716 00:55:25,701 --> 00:55:28,537 おかしな振る舞いをする事が ありましたが➡ 717 00:55:28,537 --> 00:55:32,408 全て 越後屋の周りだけで 済んでおりました。 718 00:55:32,408 --> 00:55:36,979 しかし 今度という今度は いけません。 719 00:55:36,979 --> 00:55:41,817 越後屋も姉さんのために 座敷牢を造らねばなりません。 720 00:55:41,817 --> 00:55:44,487 悲しい事ですが。 721 00:55:44,487 --> 00:56:37,187 ♬~ 722 00:56:39,975 --> 00:56:43,812 大丈夫ですか? どんな恐ろしい 夢を ご覧になっていたんです? 723 00:56:43,812 --> 00:56:45,748 おちかを 嫁に もらってやってもいいぜ。 724 00:56:45,748 --> 00:56:48,317 そしたら お前は俺の弟だ。 おちかを嫁に下さい! 725 00:56:48,317 --> 00:56:51,654 良助さんは殺されたんです。 うわ~! 726 00:56:51,654 --> 00:56:56,492 どうして…。 私の事を手にかけて くれなかったのでしょう? 727 00:56:56,492 --> 00:58:28,492 ♬~ 728 01:00:33,409 --> 01:00:38,409 古都… 729 01:00:41,483 --> 01:00:48,783 毎年7月 町は 年に一度の熱気に包まれます。