1 00:00:40,161 --> 00:00:46,034 (おちか)堪忍して。 どうぞ… 堪忍して! 2 00:00:46,034 --> 00:00:49,170 堪忍して下さい! 3 00:00:49,170 --> 00:00:52,840 (松太郎)許さねえ。 4 00:00:52,840 --> 00:00:57,640 俺の事忘れたら絶対許さねえ! 5 00:01:04,552 --> 00:01:09,691 (おしま)ちょいと… 大丈夫ですか? おちかさん。 6 00:01:09,691 --> 00:01:12,527 おしまさん… どうして? 7 00:01:12,527 --> 00:01:17,699 あらま お忘れですか? ほら お内儀さんが➡ 8 00:01:17,699 --> 00:01:22,203 しばらくは おちかさんと 一緒の部屋で休んでくれと。 9 00:01:22,203 --> 00:01:24,203 あっ…。 10 00:01:26,708 --> 00:01:30,378 涙まで流して…。 11 00:01:30,378 --> 00:01:35,650 一体どんな恐ろしい夢を ご覧になっていたんです? 12 00:01:35,650 --> 00:01:43,391 ♬~ 13 00:01:43,391 --> 00:01:49,497 (灯庵)<人々が殺し合うよな 戦の世などは昔事。➡ 14 00:01:49,497 --> 00:01:55,369 今のお江戸は皆 助け合いながらの つましき暮らし。➡ 15 00:01:55,369 --> 00:02:00,141 さて神田筋違先 三島屋は➡ 16 00:02:00,141 --> 00:02:04,512 名店 越川と丸角に挟まれて➡ 17 00:02:04,512 --> 00:02:11,018 主人 伊兵衛 女房 お民が 笹に 袋をつるしての振り売りから➡ 18 00:02:11,018 --> 00:02:17,692 一代で成した近頃評判の袋物屋。➡ 19 00:02:17,692 --> 00:02:22,563 主人 伊兵衛が 私に口入れを頼んで始まった➡ 20 00:02:22,563 --> 00:02:26,367 面妖話の問わず語り。➡ 21 00:02:26,367 --> 00:02:32,640 百まで集めてやろうと意気込んで 引き受けてみたのはいいが➡ 22 00:02:32,640 --> 00:02:39,313 聞き手の おちかにとっては 少々 度が過ぎたようで…> 23 00:02:39,313 --> 00:02:56,330 ♬~ 24 00:02:56,330 --> 00:02:58,266 (八十助)はい 今日も行ってきな! 25 00:02:58,266 --> 00:03:02,503 あっ 気を付けるんだよ。 (新太)へい。 かしこまりました! 26 00:03:02,503 --> 00:03:08,843 おはようございます! 袋物の三島屋でございます! 27 00:03:08,843 --> 00:03:11,879 (灯庵)朝から袋なんて 売れるものかね? 28 00:03:11,879 --> 00:03:16,017 おかげさまで 高いものから さばけてまいりますよ。 29 00:03:16,017 --> 00:03:21,522 大したもんだね 三島屋の名前も。 30 00:03:21,522 --> 00:03:26,722 おはようございます! 袋物の三島屋でございます! 31 00:03:28,296 --> 00:03:30,231 はい お邪魔。 32 00:03:30,231 --> 00:03:33,634 あっ お~ 灯庵さん。 33 00:03:33,634 --> 00:03:37,305 お内儀さんが お待ちですよ。 お内儀さんが? 34 00:03:37,305 --> 00:03:40,141 今か今かと フフッ。 さあさあ…。 35 00:03:40,141 --> 00:03:44,312 そいつは ちとばかり 妙な胸騒ぎがするな。 36 00:03:44,312 --> 00:03:46,312 さあさあ…。 37 00:03:52,186 --> 00:03:55,823 おやおや 精が出るねえ お二人さん。 38 00:03:55,823 --> 00:03:57,859 (お世津)今日は おちかちゃんが お休みなんです! 39 00:03:57,859 --> 00:04:00,661 (お春)その分 働いて いいとこ見せておかないと! 40 00:04:00,661 --> 00:04:03,661 ハハハッ… 感心感心。 41 00:04:06,000 --> 00:04:10,671 ≪(お民)おちかが毎晩 悪夢に うなされているのは➡ 42 00:04:10,671 --> 00:04:13,007 お前さんと灯庵さんが➡ 43 00:04:13,007 --> 00:04:17,178 黒白の間に妙なお客様を 招いたせいでございます。 44 00:04:17,178 --> 00:04:19,113 それだけじゃないんだよ。 45 00:04:19,113 --> 00:04:21,048 今日だって せっかく お休みをあげたというのに➡ 46 00:04:21,048 --> 00:04:26,548 おちかは芝居見物も 浅草参りも断って…。 47 00:04:28,356 --> 00:04:31,792 きっと 外に出る事すら 恐ろしいのです。 48 00:04:31,792 --> 00:04:36,297 お~ 恐ろしいと おちかが 泣き言でも言ったのかい? 49 00:04:36,297 --> 00:04:40,167 口に出さなくても 恐ろしいに決まってます。 50 00:04:40,167 --> 00:04:44,639 だから ここしばらく お客様を呼んでないだろう。 51 00:04:44,639 --> 00:04:48,142 しばらくではなく金輪際。 52 00:04:48,142 --> 00:04:50,177 熱っ…! あ~! 熱っ! 53 00:04:50,177 --> 00:04:52,980 あ~ 熱っ…! あ~ もう。 54 00:04:52,980 --> 00:04:56,851 いっそ灯庵さんの あの頭に お灸を据えてあげようかしら。➡ 55 00:04:56,851 --> 00:04:59,654 あ~ 熱い熱い! 56 00:04:59,654 --> 00:05:01,989 あ~ くわばら くわばら。 57 00:05:01,989 --> 00:05:04,325 ありゃ? 灯庵さん もう お帰りですかい? 58 00:05:04,325 --> 00:05:09,664 今日は具合が悪い! 不思議なお話は 今日は なしだ。 59 00:05:09,664 --> 00:05:11,964 あ~ ごめん。 また。 60 00:05:20,675 --> 00:05:53,574 ♬~ 61 00:05:53,574 --> 00:05:57,144 お嬢さん ここに おいででしたか。 62 00:05:57,144 --> 00:06:00,047 お嬢さんなんて… 言わない約束です。 63 00:06:00,047 --> 00:06:04,485 いいえ。 今日ばかりは お嬢さんと お呼びしていいんですよ。 64 00:06:04,485 --> 00:06:08,356 旦那様のお言いつけですからね。 叔父さんが? 65 00:06:08,356 --> 00:06:11,659 女中のおちかさんは 一日お休み。 66 00:06:11,659 --> 00:06:16,163 今日は お嬢さんのお供を するように言いつかりました。 67 00:06:16,163 --> 00:06:21,502 まあ。 何でも お言いつけ下さいまし! 68 00:06:21,502 --> 00:06:25,006 幸い お天気も ようございますよ。 69 00:06:25,006 --> 00:06:27,908 どこかへ出かけましょうか? 70 00:06:27,908 --> 00:06:32,279 お嬢さんは お江戸へいらして まだ神田の明神様にも➡ 71 00:06:32,279 --> 00:06:36,279 浅草の観音様にも お参りしてないでしょう? 72 00:06:37,952 --> 00:06:44,625 それとも 新しい着物を仕立てに 通町へでも行ってみますか? 73 00:06:44,625 --> 00:06:47,294 叔父さんは また どうして➡ 74 00:06:47,294 --> 00:06:49,964 そんな気まぐれを 思いついたんでしょう? 75 00:06:49,964 --> 00:06:53,000 やぶ入りは まだ先なのに。 76 00:06:53,000 --> 00:06:55,770 旦那様も お内儀さんも➡ 77 00:06:55,770 --> 00:07:00,307 お嬢さんの事を 心配なすってるからですよ。 78 00:07:00,307 --> 00:07:02,607 私だって…。 79 00:07:05,179 --> 00:07:08,482 ごめんなさい。 あっ よして下さいよ! 80 00:07:08,482 --> 00:07:11,519 いけませんってば アハハッ。 81 00:07:11,519 --> 00:07:16,157 あっ… まあ 私ったら…。 駄目ですね~ もう。 82 00:07:16,157 --> 00:07:19,957 お嬢さん扱いも口ばっかりで。 83 00:07:24,031 --> 00:07:26,831 (すすり泣き) お嬢さん? 84 00:07:34,108 --> 00:07:40,981 朝から泣くと験が悪いとか 嫌がる人もいますけど…。 85 00:07:40,981 --> 00:07:43,617 ええ ええ。 八十助さんなんか 担ぎ屋だから➡ 86 00:07:43,617 --> 00:07:49,423 そう言うに決まってますけど 私は気にしません。 87 00:07:49,423 --> 00:07:54,962 悲しい時は 朝だって晩だって 悲しいんですから。 88 00:07:54,962 --> 00:07:57,262 (はなをすする音) 89 00:07:59,633 --> 00:08:03,137 せっかく お休みを頂けるんなら…。 90 00:08:03,137 --> 00:08:05,973 ええ ええ! 91 00:08:05,973 --> 00:08:11,145 私 今日は ずっと ここに いたいんだけど いけませんか? 92 00:08:11,145 --> 00:08:14,815 あら お出かけにならないんですか? 93 00:08:14,815 --> 00:08:18,652 少し日に当たったら よろしいのに。 94 00:08:18,652 --> 00:08:23,157 おしまさんは この部屋に お招きしたお客さん方が➡ 95 00:08:23,157 --> 00:08:27,661 話された事は聞いていますか? いいえ! 96 00:08:27,661 --> 00:08:31,632 でも もし お嬢さんが お話しになるなら➡ 97 00:08:31,632 --> 00:08:35,469 このしまも聞いていいという お許しは頂いております。 98 00:08:35,469 --> 00:08:37,471 そうだったんですか。 99 00:08:37,471 --> 00:08:41,108 もちろん 決して よそ様には漏らしません。 100 00:08:41,108 --> 00:08:44,308 八十さんにだって言いません。 101 00:08:46,914 --> 00:08:52,286 フフフッ。 あら! お嬢さん笑いましたね。 102 00:08:52,286 --> 00:08:55,122 私も笑い方を 思い出したみたいです。 103 00:08:55,122 --> 00:08:59,793 アハハッ あ~ よかった。 104 00:08:59,793 --> 00:09:03,293 それなら ちょっと お待ち下さいね。 105 00:09:08,969 --> 00:09:13,641 叔母さん! 女2人が 話し込もうというのだもの➡ 106 00:09:13,641 --> 00:09:18,312 おいしいものがなくてはね。 お昼は仕出しを取ってあげるよ。 107 00:09:18,312 --> 00:09:21,815 叔母さん 私…。 いいの いいの。 108 00:09:21,815 --> 00:09:24,652 今日は のんびりおし。 109 00:09:24,652 --> 00:09:39,352 ♬~ 110 00:09:46,273 --> 00:09:52,079 初めてのお客様 松田屋さんの時の事です。 111 00:09:52,079 --> 00:09:54,982 私が ご挨拶をしていると➡ 112 00:09:54,982 --> 00:10:01,622 松田屋さんは 庭の曼珠沙華を ご覧になって 急に…。 113 00:10:01,622 --> 00:10:05,459 そうそう! しゃくを起こしたって 八十さんが。 114 00:10:05,459 --> 00:10:09,630 その訳を 松田屋さんは話してくれました。 115 00:10:09,630 --> 00:10:13,133 [ 回想 ] (藤兵衛)なぜに これほど 曼珠沙華の花が恐ろしいのか…。 116 00:10:13,133 --> 00:10:16,036 周りの人々から 温かく見守られるなんて➡ 117 00:10:16,036 --> 00:10:18,005 これほどの理不尽が あるでしょうか!➡ 118 00:10:18,005 --> 00:10:24,645 私の生き霊。 それが… 兄を殺してしまったんだ! 119 00:10:24,645 --> 00:10:29,316 曼珠沙華の花がね~。 120 00:10:29,316 --> 00:10:33,187 刈り取らなくてよかったのか 悪かったのか…。 121 00:10:33,187 --> 00:10:38,993 私… 松田屋さんが 曼珠沙華の花に見たのは➡ 122 00:10:38,993 --> 00:10:42,693 ご自分のお姿だったと思うんです。 123 00:10:50,704 --> 00:10:55,204 このままだと少し寒いですね。 124 00:11:00,180 --> 00:11:04,051 それから 2人目のお客様➡ 125 00:11:04,051 --> 00:11:07,921 越後屋の おたかさんのお話ですけれど…。 126 00:11:07,921 --> 00:11:10,190 [ 回想 ] (おたか)おいでなさいましな。 127 00:11:10,190 --> 00:11:12,226 私と一緒に。 128 00:11:12,226 --> 00:11:15,362 (清太郎) ここに例の屋敷がありました。 129 00:11:15,362 --> 00:11:20,868 (おたか)私は どこにも行かない! (清六)あの屋敷は 人をのむんだ。 130 00:11:20,868 --> 00:11:26,674 恐ろしい事でございますね~! ええ 本当に。 131 00:11:26,674 --> 00:11:31,812 お嬢さん… こんな話を2つも聞かされて➡ 132 00:11:31,812 --> 00:11:35,683 気持ちが暗くなるのも 無理ありませんよ。 133 00:11:35,683 --> 00:11:41,822 まして 松田屋さんは ここから 帰ったあとに亡くなったんだし➡ 134 00:11:41,822 --> 00:11:44,491 越後屋のおたかさんは とうとう➡ 135 00:11:44,491 --> 00:11:47,328 座敷牢に入れられようか っていうんでしょう? 136 00:11:47,328 --> 00:11:51,198 旦那様のお考えが分かりません! 137 00:11:51,198 --> 00:11:54,835 お嬢さんに そんな変なお客の お相手をさせて➡ 138 00:11:54,835 --> 00:11:57,671 どんないい事があるって おっしゃるんでしょう。 139 00:11:57,671 --> 00:12:02,009 私も分からなかったんです。 叔父さんたら➡ 140 00:12:02,009 --> 00:12:05,679 私が あんまり意固地に 女中奉公をしているもんだから➡ 141 00:12:05,679 --> 00:12:08,716 少し突飛な目に遭わせてやろうと 思ったのかなって。 142 00:12:08,716 --> 00:12:12,553 ありそうな事でございますね。 143 00:12:12,553 --> 00:12:15,689 旦那様は 時々私どもを びっくりさせる事が➡ 144 00:12:15,689 --> 00:12:17,624 お好きなんですよ。 145 00:12:17,624 --> 00:12:24,198 でも… 今は少し 分かったような気がするの。 146 00:12:24,198 --> 00:12:28,369 「おちかだけじゃないんだよ」って 叔父さんは私に➡ 147 00:12:28,369 --> 00:12:31,669 教えようと してくれてるんじゃないかって。 148 00:12:34,641 --> 00:12:37,478 ≪お嬢さんだけじゃない? 149 00:12:37,478 --> 00:12:39,478 ええ。 150 00:12:41,648 --> 00:12:43,984 そうだ。 こうしましょう。 151 00:12:43,984 --> 00:12:47,821 今から私が 黒白の間に招かれたお客で➡ 152 00:12:47,821 --> 00:12:51,158 おしまさんが私の代わりに 聞き手になって下さい。 153 00:12:51,158 --> 00:12:53,494 えっ? あ… 私がですか? 154 00:12:53,494 --> 00:12:56,330 ねっ? そうして下さい! お願いします。 155 00:12:56,330 --> 00:13:02,136 それは… あの… 私なんかで 務まりますものでしたら。 156 00:13:02,136 --> 00:13:05,672 おしまさんなら。 157 00:13:05,672 --> 00:13:25,859 ♬~ 158 00:13:25,859 --> 00:13:29,530 お話し致します。 159 00:13:29,530 --> 00:13:35,135 私の実家の川崎宿の旅籠は 屋号を丸千といいます。 160 00:13:35,135 --> 00:13:38,038 大きな旅籠だって伺いました。 161 00:13:38,038 --> 00:13:43,477 働き者の両親と 大勢の奉公人に囲まれて➡ 162 00:13:43,477 --> 00:13:47,347 忙しいけれど 楽しい家でした。 163 00:13:47,347 --> 00:13:50,651 もう帰る事は かないません。 164 00:13:50,651 --> 00:14:06,500 ♬~ 165 00:14:06,500 --> 00:14:08,535 あっ いらっしゃいませ。 166 00:14:08,535 --> 00:14:12,005 毎度ごひいきに ありがとうございます。 167 00:14:12,005 --> 00:14:14,041 お願いしますよ。 168 00:14:14,041 --> 00:14:19,746 <兄が1人いて 喜一という名で 年は4つ上です> 169 00:14:19,746 --> 00:14:24,585 <ゆくゆくは そのお兄さんが 丸千の主人になられるんですね> 170 00:14:24,585 --> 00:14:27,554 (喜一)ちかも大きくなったら 手伝えよな。 171 00:14:27,554 --> 00:14:29,556 <年が離れてるから➡ 172 00:14:29,556 --> 00:14:34,127 お前は甘えん坊だって 言われてばかりでした> 173 00:14:34,127 --> 00:14:40,634 <甘えん坊のおちかさんなんて 私も一遍見てみたいもんです> 174 00:14:40,634 --> 00:14:56,183 ♬~ 175 00:14:56,183 --> 00:15:00,654 <喜一兄さんは跡取りで もう二十歳になるので➡ 176 00:15:00,654 --> 00:15:05,826 そろそろ お嫁さんをもらわないと いけないんですけど…> 177 00:15:05,826 --> 00:15:09,997 私の方が先に 縁談がまとまりました。 まあ。 178 00:15:09,997 --> 00:15:16,169 半年前の事です。 同じ宿場の旅籠 波乃屋の良助さん。 179 00:15:16,169 --> 00:15:20,674 あらあら どんな人ですか? 優しい人ですか? 180 00:15:20,674 --> 00:15:23,974 見かけは どんなふうで? 181 00:15:26,013 --> 00:15:30,517 ほ~う! 色男ですね~! 182 00:15:30,517 --> 00:15:33,954 おしまさん ご亭主は? 183 00:15:33,954 --> 00:15:39,126 ず~っと昔 若い頃にね。 184 00:15:39,126 --> 00:15:41,962 けんかっ早くて しょうがない人でね。 185 00:15:41,962 --> 00:15:46,633 まあ すぐに別れました。 どうしてです? 186 00:15:46,633 --> 00:15:52,306 どうしてでしょうね~? 働き者だし➡ 187 00:15:52,306 --> 00:15:56,810 道楽だの酒飲みだのって事は ありませんでしたけど…。 188 00:15:56,810 --> 00:16:01,648 まあ ただただ 縁がなかったんでしょうね。 189 00:16:01,648 --> 00:16:05,519 おしまさん その人の事好きでした? 190 00:16:05,519 --> 00:16:09,990 一遍は添ったんですから… ええ まあ➡ 191 00:16:09,990 --> 00:16:12,326 好きだったんでございましょう。 192 00:16:12,326 --> 00:16:17,664 私もね… 私も良助さんが好きでした。 193 00:16:17,664 --> 00:16:20,334 (良助)おちか。 何? 良助。 194 00:16:20,334 --> 00:16:23,370 喜一と相撲を取るぞ。 兄さんと? 195 00:16:23,370 --> 00:16:27,570 おちかは行司だ。 行司って何? 196 00:16:31,612 --> 00:16:34,948 <…というより 好き嫌いという前に➡ 197 00:16:34,948 --> 00:16:40,287 幼なじみでしたから 小さい頃から よく知ってたんです。➡ 198 00:16:40,287 --> 00:16:46,793 兄さんより2つ年下で いつも一緒に遊んでました> 199 00:16:46,793 --> 00:16:50,593 頑張れ 兄さん! 残った 残った! 200 00:16:54,468 --> 00:16:57,504 俺 おちかを 嫁に もらってやってもいいぜ。 201 00:16:57,504 --> 00:17:00,140 そしたら お前は俺の弟だ。 202 00:17:00,140 --> 00:17:03,977 丸千と波乃屋は親戚になって 一つの旅籠になるよな。 203 00:17:03,977 --> 00:17:05,912 川崎一の旅籠だ。 204 00:17:05,912 --> 00:17:08,482 じゃあ 良助のお嫁さんになろうかな。 205 00:17:08,482 --> 00:17:11,385 決めるのは俺だ。 跡取りだからな。 206 00:17:11,385 --> 00:17:16,223 <それから10年たって 良助さんは言いました> 207 00:17:16,223 --> 00:17:18,923 おちかを嫁に下さい! 208 00:17:23,030 --> 00:17:27,230 これ… 江戸で はやってる かんざし。 209 00:17:29,336 --> 00:17:32,305 良助さん。 210 00:17:32,305 --> 00:17:36,105 これで おちかと 晴れて夫婦になれる。 211 00:17:37,944 --> 00:17:43,450 (泣き声) 212 00:17:43,450 --> 00:17:45,485 おしまさん? 213 00:17:45,485 --> 00:17:48,789 すみません お嬢さん。 214 00:17:48,789 --> 00:17:55,295 今の その お嬢さんのお顔が あんまり おいたわしくって。 215 00:17:55,295 --> 00:18:02,803 今まで見た事がないくらい おきれいで お幸せそうで。 216 00:18:02,803 --> 00:18:10,677 今のが 本当のお嬢さんなんですねえ。 217 00:18:10,677 --> 00:18:13,447 これからだって お嬢さん➡ 218 00:18:13,447 --> 00:18:16,983 いい事は いくらもね ありますから! 219 00:18:16,983 --> 00:18:22,789 そしたら またね… それ以上 おっしゃらなくていいんですよ。 220 00:18:22,789 --> 00:18:28,595 おつらいでしょう。 良助さんは殺されたんです。 221 00:18:28,595 --> 00:18:30,530 ええっ? 222 00:18:30,530 --> 00:18:33,266 どうして そんな事になったのか➡ 223 00:18:33,266 --> 00:18:41,141 どうしたら 正しい筋道のお話に できるのか 分からないのです。 224 00:18:41,141 --> 00:18:47,114 ようござんす! そんなら しまから伺いましょう。 225 00:18:47,114 --> 00:18:52,619 いったいぜんたい そんなに お幸せだった お嬢さんから➡ 226 00:18:52,619 --> 00:18:56,490 良助さんを取り上げたのは どこの どいつなんです? 227 00:18:56,490 --> 00:19:01,294 取り上げた? そうでございます! 228 00:19:01,294 --> 00:19:05,132 誰が 良助さんを あやめたんです? 229 00:19:05,132 --> 00:19:08,034 それは 私のせいなの。 230 00:19:08,034 --> 00:19:14,641 えっ? …けれども お嬢さん。 お嬢さんが➡ 231 00:19:14,641 --> 00:19:18,311 良助さんを手にかけた訳じゃ ございませんでしょう? 232 00:19:18,311 --> 00:19:25,652 ねえ お嬢さん まず その 人殺しの事を教えて下さいましな。 233 00:19:25,652 --> 00:19:29,489 人殺し? ええ。 234 00:19:29,489 --> 00:19:34,261 ま… 松…。 235 00:19:34,261 --> 00:19:36,261 うわ~! 236 00:19:37,931 --> 00:19:40,931 松太郎という人でした。 237 00:19:49,109 --> 00:19:53,280 (安吉)子どもが… 子どもが… 崖に転げ落ちてる! 238 00:19:53,280 --> 00:19:55,215 えっ? どこに? 239 00:19:55,215 --> 00:19:57,784 ここから1里下った 祠のある崖の下。 240 00:19:57,784 --> 00:20:01,121 岩だか松の枝に引っ掛かってて 海に落っこちそうなんだ! 241 00:20:01,121 --> 00:20:03,056 (喜兵衛)生きてんのかい!? (安吉)分かんねえ!➡ 242 00:20:03,056 --> 00:20:04,991 わし一人じゃ助けらんねえから…。 243 00:20:04,991 --> 00:20:07,460 (喜兵衛)おう ちょっと ここで待っててくれ! 244 00:20:07,460 --> 00:20:10,497 <松太郎さんが 丸千にやって来たのは➡ 245 00:20:10,497 --> 00:20:16,970 私が6つになった年 正月明けの初春とは名ばかりの➡ 246 00:20:16,970 --> 00:20:20,640 凍えるほどに寒い日の事でした> 247 00:20:20,640 --> 00:20:32,986 ♬~ 248 00:20:32,986 --> 00:20:35,488 おい いたぞ! 249 00:20:35,488 --> 00:20:39,826 お~い! 大丈夫か? わしの声が聞こえるか? 250 00:20:39,826 --> 00:20:43,496 お~い 聞こえるか~? わしが行く! 251 00:20:43,496 --> 00:21:07,187 ♬~ 252 00:21:07,187 --> 00:21:11,358 まだ息してるぞ! 生きてるぞ! 急げ! 253 00:21:11,358 --> 00:21:21,534 ♬~ 254 00:21:21,534 --> 00:21:25,734 戻ってこい… 戻ってこい。 255 00:21:28,308 --> 00:21:30,308 (喜兵衛)戻ってこい…。 256 00:21:33,480 --> 00:21:35,982 戻ってこい!➡ 257 00:21:35,982 --> 00:21:37,982 戻ってこい! 258 00:21:42,756 --> 00:21:47,494 戻ってこい… 戻ってこい…。 259 00:21:47,494 --> 00:21:52,666 こういうのを 命を拾ったというんでしょうか。 260 00:21:52,666 --> 00:21:59,366 でも… 右手の指には 血が通わなかったんでしょう。 261 00:22:01,675 --> 00:22:06,012 戻ってこい 戻ってこい。 262 00:22:06,012 --> 00:22:10,350 戻ってこい 戻ってこい! 263 00:22:10,350 --> 00:22:23,863 ♬~ 264 00:22:23,863 --> 00:22:28,063 男の子が起きた! (お圭 喜兵衛)えっ? 265 00:22:29,669 --> 00:22:32,572 <4日後に ようやく目覚めた その子は➡ 266 00:22:32,572 --> 00:22:37,410 右手の5本の指を ひどい霜腫れで無くしましたが➡ 267 00:22:37,410 --> 00:22:43,210 松の木で命拾いした子だから 松太郎と名付けられました> 268 00:22:45,652 --> 00:22:49,522 (喜一 おちか) 鬼さん こちら 手の鳴る方へ。 269 00:22:49,522 --> 00:22:54,828 こっち こっち! (喜一 おちか) 鬼さん こちら 手の鳴る方へ。 270 00:22:54,828 --> 00:22:58,331 (喜一 おちか) 鬼さん こちら 手の鳴る方へ。 271 00:22:58,331 --> 00:23:00,331 捕まえた! 272 00:23:07,040 --> 00:23:11,845 あいつ 気持ち悪いな。 松太郎っていうんだよ。 273 00:23:11,845 --> 00:23:15,682 みなしごだろ? 丸千の おっちゃんが拾ってきたんだろ? 274 00:23:15,682 --> 00:23:19,982 松の木に引っ掛かってた。 だから松太郎さ。 275 00:23:22,555 --> 00:23:25,191 松太郎も一緒に遊ぼう。 276 00:23:25,191 --> 00:23:30,530 <松太郎さんは 最初は 全く口をききませんでした。➡ 277 00:23:30,530 --> 00:23:33,800 うなずいたり 首を振ったりはするし➡ 278 00:23:33,800 --> 00:23:37,137 人の目も ちゃんと見返したりするけれど➡ 279 00:23:37,137 --> 00:23:40,974 どうしても しゃべる事はできません> 280 00:23:40,974 --> 00:23:45,311 どこの生まれで どこに行く途中で➡ 281 00:23:45,311 --> 00:23:48,815 何で あんな所で あんな目に遭ったのか➡ 282 00:23:48,815 --> 00:23:55,488 その時 誰が一緒にいたのか 何も分からないんです。 283 00:23:55,488 --> 00:23:58,992 どけ おちか。 松太郎は もののけかもしんねえぞ。 284 00:23:58,992 --> 00:24:02,028 おちかちゃん 松太郎から離れろ。 285 00:24:02,028 --> 00:24:04,664 もののけって おっかないの? 286 00:24:04,664 --> 00:24:09,864 ああ おっかねえ。 おちかなんか 頭から取って食われちまうからな。 287 00:24:11,438 --> 00:24:14,638 松太郎は おっかなくないよ。 288 00:24:17,010 --> 00:24:21,681 お~ 投げろ良助。 投げろ! もののけ退治だ! 289 00:24:21,681 --> 00:24:24,184 駄目だよ! 松太郎をいじめたら➡ 290 00:24:24,184 --> 00:24:26,686 おっ母さんとお父っつぁんに 怒られるよ! 291 00:24:26,686 --> 00:24:33,460 駄目だよ! ねえ 駄目だよ! 怒られても知らないよ! 292 00:24:33,460 --> 00:24:35,962 喜一! 良助! 293 00:24:35,962 --> 00:24:38,465 松太郎が かわいそうだとは 思わないのかい? 294 00:24:38,465 --> 00:24:41,367 あんたたちには 男気ってもんが ないのかい! 295 00:24:41,367 --> 00:24:44,337 あんなやつ 大っ嫌いだから! 296 00:24:44,337 --> 00:24:46,339 好きも嫌いもねえ! 297 00:24:46,339 --> 00:24:49,175 あの子が どんな子なのか まだ分からねえんだぞ。 298 00:24:49,175 --> 00:24:52,475 顔見りゃ分かるよ! (喜兵衛)喜一! 299 00:24:56,649 --> 00:24:59,649 (松太郎)ごめん… なさい。 300 00:25:01,988 --> 00:25:05,024 ごめんなさい。 301 00:25:05,024 --> 00:25:11,998 それが初めて耳にした 松太郎さんの声でした。 302 00:25:11,998 --> 00:25:16,669 あのころの兄さんは 松太郎さんに やきもちを やいていたんです。 303 00:25:16,669 --> 00:25:19,339 そりゃそうですよ。 304 00:25:19,339 --> 00:25:22,375 どこの馬の骨かも分からない 子どもを拾って➡ 305 00:25:22,375 --> 00:25:26,012 ご両親が 大事に世話を焼いてるんです。 306 00:25:26,012 --> 00:25:30,884 お兄さんだって まだ理屈だけじゃ ものを考えられない年頃だもの。 307 00:25:30,884 --> 00:25:33,753 やかない方が どうかしています。 308 00:25:33,753 --> 00:25:37,123 兄さんも大人になってからは そう言っていました。 309 00:25:37,123 --> 00:25:40,627 「あれは俺が悪かった」って。 まあ…。 310 00:25:40,627 --> 00:25:44,927 お兄さんも優しい方なんですね。 311 00:25:46,499 --> 00:25:51,638 <松太郎さんは兄さんに 何か秘密を話したんです。➡ 312 00:25:51,638 --> 00:25:58,144 多分 身の上話か何か。 それから兄さんは➡ 313 00:25:58,144 --> 00:26:02,649 松太郎さんに ぱったりと 意地悪をしなくなりました> 314 00:26:02,649 --> 00:26:05,985 それで その子は どうして ずっと➡ 315 00:26:05,985 --> 00:26:08,888 丸千に居つく事に なったんでございますか? 316 00:26:08,888 --> 00:26:14,494 うちの親は頭っから松太郎さんを 引き取る気でいました。 317 00:26:14,494 --> 00:26:18,998 「あんな目に遭っても生き延びた 運の強い子だ」って。 318 00:26:18,998 --> 00:26:23,336 「きっと大物になる」って 景気のいい事を言って。 319 00:26:23,336 --> 00:26:28,675 <そこへ もう一人 松太郎さんを 見つけた あの行商の人が➡ 320 00:26:28,675 --> 00:26:31,644 引き取りたいと言ってきました> 321 00:26:31,644 --> 00:26:35,281 わっしが助けきれなかった この子を ありがたい事に➡ 322 00:26:35,281 --> 00:26:37,217 この宿場の衆に拾ってもらった。 323 00:26:37,217 --> 00:26:40,153 ならば この子の今後の身の振り方は➡ 324 00:26:40,153 --> 00:26:42,155 わっしが あんじょう図らいます。 325 00:26:42,155 --> 00:26:47,860 お気持ちは尊いし 薬代も 宿代も頂いてるが その…。 326 00:26:47,860 --> 00:26:51,130 わっしも幼い子どもを 亡くしていまして➡ 327 00:26:51,130 --> 00:26:53,466 その子の代わりに育てたいと➡ 328 00:26:53,466 --> 00:26:55,802 女房とも 話は済ませてめえりやした。 329 00:26:55,802 --> 00:26:59,973 しかし… あんたは商いで 家を空けてばかりだから➡ 330 00:26:59,973 --> 00:27:03,843 松太郎は あんたのおかみさんに 育てられる事になる。 331 00:27:03,843 --> 00:27:06,479 それじゃあ こいつも気詰まりだろう。 332 00:27:06,479 --> 00:27:09,148 しまいには うまくいかなくなると思うがね。 333 00:27:09,148 --> 00:27:11,948 いや それは…。 334 00:27:14,020 --> 00:27:18,820 こうなったら しかたがない。 本人に決めさせよう。 335 00:27:21,661 --> 00:27:24,998 松太郎➡ 336 00:27:24,998 --> 00:27:27,298 こっちへ来なさい。 337 00:27:35,108 --> 00:27:38,144 お前は どうしたい?➡ 338 00:27:38,144 --> 00:27:41,144 誰と一緒に暮らしたい? 339 00:27:55,495 --> 00:28:01,134 ここに… ここがいいです。 340 00:28:01,134 --> 00:28:04,470 (お圭)あっ… お前さん。 341 00:28:04,470 --> 00:28:08,308 <子どもながらの 「鶴の一声」でした。➡ 342 00:28:08,308 --> 00:28:12,645 …で 私たちも 3人兄弟のような暮らしを➡ 343 00:28:12,645 --> 00:28:16,482 始める事になったのです> 344 00:28:16,482 --> 00:28:19,819 でも 良助さんは…。 345 00:28:19,819 --> 00:28:25,692 消えろ。 お前は もののけだ! ねえからな。 346 00:28:25,692 --> 00:28:28,528 さっさと どっか行けよ おい! 347 00:28:28,528 --> 00:28:31,764 やめろ 良助! 348 00:28:31,764 --> 00:28:34,600 松太郎は丸千の身内だ! 何すんだよ! 349 00:28:34,600 --> 00:28:36,900 あいつは もののけだ! 350 00:28:38,471 --> 00:28:42,775 <兄さんが松太郎さんを 弟扱いするようになると➡ 351 00:28:42,775 --> 00:28:46,279 今度は良助さんが やきもちをやいて…> 352 00:28:46,279 --> 00:28:51,117 兄さんと良助さんの間柄は とっても悪くなりました。 353 00:28:51,117 --> 00:28:56,456 何ですか やきもちの やったり取ったりですね。 354 00:28:56,456 --> 00:29:00,126 子どもは みんな むごいところが あるものだけれど➡ 355 00:29:00,126 --> 00:29:04,464 小さい時の良助さんは 結構きかんぼうでしたから。 356 00:29:04,464 --> 00:29:10,164 それで良助さんとは疎遠になって 何年かすると…。 357 00:29:11,971 --> 00:29:17,143 <旅籠には細かい仕事が うんざりするくらいあります。➡ 358 00:29:17,143 --> 00:29:19,979 その中にあって 松太郎さんは➡ 359 00:29:19,979 --> 00:29:23,316 本当に重宝な 働き手になりました。➡ 360 00:29:23,316 --> 00:29:27,487 うちに来て 5~6年もたつと 指が欠けているなんて➡ 361 00:29:27,487 --> 00:29:29,822 言われなきゃ気付かないくらい➡ 362 00:29:29,822 --> 00:29:33,593 手先の仕事も器用に こなすように なっていたし。➡ 363 00:29:33,593 --> 00:29:37,263 おっ母さんが 欠けた指の所に 綿を詰めた手袋を➡ 364 00:29:37,263 --> 00:29:40,299 縫ってあげたので ふだんは いつも それをはめて…> 365 00:29:40,299 --> 00:29:43,603 兄さんが また お店のお金を持ち出したって➡ 366 00:29:43,603 --> 00:29:46,639 お父っつぁんも おっ母さんも まあ大変。 367 00:29:46,639 --> 00:29:50,943 喜一さんなら大丈夫。 必ず帰ってきます。 368 00:29:50,943 --> 00:30:04,490 ♬~ 369 00:30:04,490 --> 00:30:06,490 頂きます。 370 00:30:09,295 --> 00:30:11,798 おいしい? 371 00:30:11,798 --> 00:30:13,798 はい。 372 00:30:17,670 --> 00:30:20,973 本日は お客様が大勢いらっしゃる。 373 00:30:20,973 --> 00:30:23,476 <兄さんが年頃になって➡ 374 00:30:23,476 --> 00:30:28,147 放蕩というか 少し わがままになってしまって➡ 375 00:30:28,147 --> 00:30:31,184 父も母も 振り回されていた頃なんか➡ 376 00:30:31,184 --> 00:30:35,822 松太郎さんがいなかったら 丸千は成り立たなかった。➡ 377 00:30:35,822 --> 00:30:38,858 松太郎さんが丸千の内を 仕切っていたくらいで。➡ 378 00:30:38,858 --> 00:30:45,331 川崎宿では 一番の評判の旅籠になりました> 379 00:30:45,331 --> 00:30:50,203 松太郎さんね それは きれいな顔をしていたんです。 380 00:30:50,203 --> 00:30:52,505 お人形さんみたい だったんですもの。 381 00:30:52,505 --> 00:30:57,376 嫌ですねえ。 かえって嫌ですよ! 382 00:30:57,376 --> 00:31:00,379 私の話の手順が悪いせいで➡ 383 00:31:00,379 --> 00:31:03,683 そんなふうに 思えないでしょうけど…。 384 00:31:03,683 --> 00:31:08,554 でもね おしまさん 私 松太郎さんの事➡ 385 00:31:08,554 --> 00:31:10,556 嫌いじゃなかったんです。 386 00:31:10,556 --> 00:31:15,394 お嬢さんたら また そんな お優しい事を…。 387 00:31:15,394 --> 00:31:19,594 むしろ… 好きでした。 388 00:31:26,372 --> 00:31:29,709 でも それから しばらくして➡ 389 00:31:29,709 --> 00:31:32,478 波乃屋の跡取りである 良助さんとの➡ 390 00:31:32,478 --> 00:31:35,147 最初の縁談の話が 持ち上がったんです。 391 00:31:35,147 --> 00:31:38,484 あ… あ~ それで。 392 00:31:38,484 --> 00:31:44,290 いえ。 でも… そのころの 良助さんは道楽に夢中で➡ 393 00:31:44,290 --> 00:31:46,659 ひどく評判も悪くって。 394 00:31:46,659 --> 00:31:50,830 それに… 波乃屋の羽振りも あんまりよくなくて➡ 395 00:31:50,830 --> 00:31:55,334 父も兄も 縁談を承知しませんでした。 396 00:31:55,334 --> 00:31:58,838 とっとと帰りな! こいつみたいな 遊び人のところに➡ 397 00:31:58,838 --> 00:32:01,638 おちかを やれるかってんだ! 398 00:32:03,709 --> 00:32:07,547 (甚右衛門)ですから 若旦那も おちかさんと夫婦になれるなら➡ 399 00:32:07,547 --> 00:32:11,417 心根を入れ替えて 必ず真面目になると。 400 00:32:11,417 --> 00:32:15,021 ないない。 おちかには松太郎がいる。➡ 401 00:32:15,021 --> 00:32:18,357 おちかは 松太郎と所帯を持てばいいんだ。 402 00:32:18,357 --> 00:32:20,693 喜一 勝手な事を。 403 00:32:20,693 --> 00:32:24,030 勝手なもんか。 なあ お父っつぁん。 404 00:32:24,030 --> 00:32:27,366 おちかと松太郎なら きっといい夫婦になれるだろう。 405 00:32:27,366 --> 00:32:29,302 (喜兵衛)ああ そうとも。 406 00:32:29,302 --> 00:32:33,139 今の波乃屋に おちかをやる訳にはいかんな。 407 00:32:33,139 --> 00:32:37,643 お前 道楽で身上を潰すぞ。 408 00:32:37,643 --> 00:32:42,943 まだ松太郎の方が おちかを幸せにできるさ。 409 00:32:57,830 --> 00:33:15,014 ♬~ 410 00:33:15,014 --> 00:33:17,850 分かりましたよ。 411 00:33:17,850 --> 00:33:21,721 お嬢さんが もう一度改めて 良助さんと添うって決まった時➡ 412 00:33:21,721 --> 00:33:26,025 今度は 松太郎って人が やいたんでございますね! 413 00:33:26,025 --> 00:33:29,528 やけて やけて どうしようもなくて➡ 414 00:33:29,528 --> 00:33:32,131 勝手に お嬢さんを 自分のものだと思い込んで➡ 415 00:33:32,131 --> 00:33:38,471 良助さんをあやめちまった。 お~ 怖いこと。 416 00:33:38,471 --> 00:33:40,406 むごい事をしていたんです。 417 00:33:40,406 --> 00:33:45,144 ええ ええ。 むごい事ですよ。 むごすぎます! 418 00:33:45,144 --> 00:33:49,015 松太郎さんのやった事が むごいんじゃないんです! 419 00:33:49,015 --> 00:33:53,853 私たちが松太郎さんに むごい事をしていたんです。 420 00:33:53,853 --> 00:33:57,323 でも…。 私ね➡ 421 00:33:57,323 --> 00:33:59,659 松太郎さんを好きでした。 422 00:33:59,659 --> 00:34:01,594 兄さんも仲良くして➡ 423 00:34:01,594 --> 00:34:05,531 お父っつぁんも おっ母さんも かわいがってた。 424 00:34:05,531 --> 00:34:09,168 でも 心のどこかで 線を引いていた。 425 00:34:09,168 --> 00:34:11,504 だって それは…。 426 00:34:11,504 --> 00:34:14,540 なのに 口では 違う事を言っていました。 427 00:34:14,540 --> 00:34:18,844 いつも優しい事ばっかり…。 428 00:34:18,844 --> 00:34:20,880 おしまさんもご存じでしょう? 429 00:34:20,880 --> 00:34:29,188 宿場には春をひさぐ女が 付き物です。 …飯盛り女。 430 00:34:29,188 --> 00:34:32,091 それと同じように ただ働き手として➡ 431 00:34:32,091 --> 00:34:34,994 重宝されていただけだったんです。 432 00:34:34,994 --> 00:34:39,632 飯盛り女って… まあ どうしましょう。 433 00:34:39,632 --> 00:34:44,136 お嬢さんから そんな言葉が出るなんて。 434 00:34:44,136 --> 00:34:48,307 よく そんな言葉をご存じで。 435 00:34:48,307 --> 00:34:54,980 旅籠に生まれ育ったら 嫌でも分かる事です。 436 00:34:54,980 --> 00:34:59,819 <ああいう女の人たちは みんな貧しい生まれです。➡ 437 00:34:59,819 --> 00:35:04,490 食うや食わずで 身を売らなくちゃ ならなくなるんです。➡ 438 00:35:04,490 --> 00:35:09,829 ですから あの人たちの商いの 邪魔をする事は ご法度だって➡ 439 00:35:09,829 --> 00:35:16,329 私 縁談が舞い込む年頃になって おっ母さんに教えられました> 440 00:35:19,004 --> 00:35:21,507 若い方がいいか? 441 00:35:21,507 --> 00:35:25,010 いけませんよ。 お嬢さん 早う。 442 00:35:25,010 --> 00:35:28,881 <親切にする。 困っていれば助け合う。➡ 443 00:35:28,881 --> 00:35:33,619 でもね 本当は 見ないふりをするのが親切。➡ 444 00:35:33,619 --> 00:35:35,654 同情なんかしちゃいけない。➡ 445 00:35:35,654 --> 00:35:40,493 何もないような顔をして 気分よく挨拶だけは交わして➡ 446 00:35:40,493 --> 00:35:45,798 そして 決して深く関わらない> 447 00:35:45,798 --> 00:35:51,670 同じ女同士ですもの。 私だって かわいそうだとか➡ 448 00:35:51,670 --> 00:35:55,975 つらいだろうとか 嫌らしい商いだとか➡ 449 00:35:55,975 --> 00:35:59,812 いろいろ思ったものです。 450 00:35:59,812 --> 00:36:03,649 でも そんな思いは 心に蓋をして しまい込んでおくように➡ 451 00:36:03,649 --> 00:36:06,485 おっ母さんには言われました。 452 00:36:06,485 --> 00:36:10,823 あんたが一人で どう頑張ったって 川崎宿の飯盛り女を➡ 453 00:36:10,823 --> 00:36:13,859 みんな助ける事なんて できやしないんだし➡ 454 00:36:13,859 --> 00:36:19,159 あれはあれで あの人たちの 活計の道なんだからって。 455 00:36:21,000 --> 00:36:25,671 私 今になって分かるんですけど➡ 456 00:36:25,671 --> 00:36:31,477 うんと深い根っこのところでは 私たちは松太郎さんの事を➡ 457 00:36:31,477 --> 00:36:34,380 ちょうど丸千の飯盛り女たちと➡ 458 00:36:34,380 --> 00:36:38,080 同じように扱ってたんじゃ ないかって思うんです。 459 00:36:39,785 --> 00:36:44,957 ごめんなさい。 おしまさんを困らせてますね。 460 00:36:44,957 --> 00:36:46,992 でも ほかに 例えようがないんです。 461 00:36:46,992 --> 00:36:49,461 いえ…。 462 00:36:49,461 --> 00:36:54,633 奉公人のように働き 家族のように扱われる。 463 00:36:54,633 --> 00:36:58,304 でも そこには はっきりとした線引きがある。 464 00:36:58,304 --> 00:37:01,640 松太郎さんは そんな中途半端な立場に➡ 465 00:37:01,640 --> 00:37:04,340 追い込まれていたんです。 466 00:37:06,145 --> 00:37:12,484 そんな私たちの身勝手を 見直す出来事がありました。 467 00:37:12,484 --> 00:37:18,290 <例の行商人が 久々に 丸千を訪ねてきて 松太郎さんを➡ 468 00:37:18,290 --> 00:37:21,193 江戸に連れていきたいと 申し出たのです> 469 00:37:21,193 --> 00:37:23,195 ≪(安吉)今度は里親だの➡ 470 00:37:23,195 --> 00:37:25,197 もらい子だの という事ではありません。 471 00:37:25,197 --> 00:37:27,499 わっしが松太郎を預かる。 472 00:37:27,499 --> 00:37:30,002 商人として 身を立てさせてやってもいいし➡ 473 00:37:30,002 --> 00:37:33,606 手に職をつけさせてもいい! お気遣いは ご無用に。 474 00:37:33,606 --> 00:37:35,941 松太郎には この丸千がある。 475 00:37:35,941 --> 00:37:37,977 それは わっしも重々承知です。 476 00:37:37,977 --> 00:37:40,613 だが このままでは あれも かわいそうだ。➡ 477 00:37:40,613 --> 00:37:43,649 一生 返しきれない恩を背負って 暮らす事になりましょう。 478 00:37:43,649 --> 00:37:46,952 なにも恩で縛ってる つもりはないんだよ。 479 00:37:46,952 --> 00:37:50,456 松太郎は うちのせがれも同然だ。 480 00:37:50,456 --> 00:37:53,125 あれが自分で 江戸へ行きたいと言うなら➡ 481 00:37:53,125 --> 00:37:55,794 いつだって 喜んで出してやろう。 482 00:37:55,794 --> 00:37:57,830 だけど 余計な せっかいは やめてくれ。 483 00:37:57,830 --> 00:38:00,966 本人には たとえ そう望んだって 言いだせやしません。 484 00:38:00,966 --> 00:38:04,303 だから わっしが お頼みしてるんです。 485 00:38:04,303 --> 00:38:09,475 <だけど丸千の跡取りは 兄さんなんですよ> 486 00:38:09,475 --> 00:38:12,511 せがれ同様と言えば 聞こえはいいけど➡ 487 00:38:12,511 --> 00:38:16,982 松太郎さんが骨身を惜しまず よく働く人だから➡ 488 00:38:16,982 --> 00:38:23,155 うちの両親も すっかり当てにして 手放したくなかったんです。 489 00:38:23,155 --> 00:38:25,491 あの行商人のおじさんには➡ 490 00:38:25,491 --> 00:38:29,328 父の本音が よく見えていたんでしょう。 491 00:38:29,328 --> 00:38:33,198 <だから 松太郎さんのために 頼んでくれたのに➡ 492 00:38:33,198 --> 00:38:35,898 追い返してしまった> 493 00:38:38,771 --> 00:38:41,607 <松太郎さんは働く事で➡ 494 00:38:41,607 --> 00:38:45,110 命を助けてもらった恩を 返しているんだから➡ 495 00:38:45,110 --> 00:38:48,781 給金の要らない 奉公人だったんです> 496 00:38:48,781 --> 00:38:51,817 本人が そう 望んだんでございましょう? 497 00:38:51,817 --> 00:38:54,653 私たちも そう思っていました。 498 00:38:54,653 --> 00:39:02,127 でも こうして思い返してみると あの時 松太郎さんは 本当は➡ 499 00:39:02,127 --> 00:39:06,465 表に出ていきたかったのかも しれないって。 500 00:39:06,465 --> 00:39:09,501 ああいう話が出て 駄目になる度➡ 501 00:39:09,501 --> 00:39:13,238 松太郎さんは がっかりしていたような…。 502 00:39:13,238 --> 00:39:16,642 おちかさんの事は どうだったんです? 503 00:39:16,642 --> 00:39:20,312 その松太郎って人は 真に受けていたんですか? 504 00:39:20,312 --> 00:39:22,348 おちかさんとのお話を。 505 00:39:22,348 --> 00:39:26,819 いいえ。 話の切れっ端が 耳に入っただけでも➡ 506 00:39:26,819 --> 00:39:28,854 いつも大慌てをしていました。 507 00:39:28,854 --> 00:39:33,258 とんでもない事です! そんな事あっていいはずが…。 508 00:39:33,258 --> 00:39:37,429 やめて下さい。 私には畏れ多い話です。 509 00:39:37,429 --> 00:39:39,465 なにが畏れ多いだよ。 510 00:39:39,465 --> 00:39:43,302 遠慮しないで おちかと所帯を持って➡ 511 00:39:43,302 --> 00:39:47,302 本当に 丸千の家族に なればいいんだよ。 512 00:39:49,041 --> 00:39:54,847 松太郎さんは ちゃんと 身の程を心得ていたんですね。 513 00:39:54,847 --> 00:40:01,620 ええ。 だけど 松太郎さんが そう言えば そう言うほどに➡ 514 00:40:01,620 --> 00:40:06,125 父や兄さんは あおり合って。 515 00:40:06,125 --> 00:40:08,627 父と兄が あおっていたのは➡ 516 00:40:08,627 --> 00:40:11,663 道楽息子を 私に押しつけようとした➡ 517 00:40:11,663 --> 00:40:16,135 波乃屋の顔を 潰したかったんです。 518 00:40:16,135 --> 00:40:19,638 松太郎さんの事なんて 眼中になかった。 519 00:40:19,638 --> 00:40:23,142 松太郎さんを だしに していただけなんです。 520 00:40:23,142 --> 00:40:26,979 そればっかりじゃないように 思いますけれど…。 521 00:40:26,979 --> 00:40:31,150 そんな中で 私はね➡ 522 00:40:31,150 --> 00:40:35,350 私は いい子だったんですよ おしまさん。 523 00:40:38,023 --> 00:40:41,860 私も言った事があります。 524 00:40:41,860 --> 00:40:48,700 なあ おちか… どうなんだ? 何が? 525 00:40:48,700 --> 00:40:52,171 良助と松太郎の事。 526 00:40:52,171 --> 00:40:55,841 そうね…➡ 527 00:40:55,841 --> 00:41:00,712 良助さんより松太郎さんの方が ずっと優しい人だから➡ 528 00:41:00,712 --> 00:41:07,352 私も松太郎さんの方がいい。 (喜兵衛)そうか。 529 00:41:07,352 --> 00:41:11,690 その時は 本当に そう思って➡ 530 00:41:11,690 --> 00:41:15,861 体が熱くなりました。 531 00:41:15,861 --> 00:41:19,364 でも ある時…。 532 00:41:19,364 --> 00:41:22,701 お前さん いい加減にしといた方がいいよ。 533 00:41:22,701 --> 00:41:25,370 心にもない事を言いふらして。 534 00:41:25,370 --> 00:41:28,407 波乃屋をやり込めるには もう十分じゃないかい。 535 00:41:28,407 --> 00:41:31,243 松太郎だって かわいそうだよ。 536 00:41:31,243 --> 00:41:36,014 なに 松太郎が 本気にする訳がない。 537 00:41:36,014 --> 00:41:38,917 あいつは身の程を心得てるよ。 538 00:41:38,917 --> 00:41:42,654 だったら なおさら もう よした方がいいよ! 539 00:41:42,654 --> 00:41:46,992 私は気がとがめて しかたがありませんよ。 540 00:41:46,992 --> 00:41:52,664 (喜兵衛)お前は松太郎が 本気にすると思ってるのか? 541 00:41:52,664 --> 00:41:57,664 (お圭)人の心の中までは 分かりませんよ。 542 00:42:01,373 --> 00:42:06,573 ねえ 松太郎さんが かわいそうって どういう事? 543 00:42:08,213 --> 00:42:14,353 私 おっ母さんとお父っつぁんが 話してるのを聞いてしまったの。 544 00:42:14,353 --> 00:42:17,856 おちか 所帯を持つというのは➡ 545 00:42:17,856 --> 00:42:22,694 あんたが考えるような 易しい事じゃないんだよ。 546 00:42:22,694 --> 00:42:25,731 夫婦には 釣り合いというものがある。 547 00:42:25,731 --> 00:42:29,468 世間様の目というものがあるんだ。 548 00:42:29,468 --> 00:42:34,668 松太郎は 所詮 よそ者なんだよ。 549 00:42:38,477 --> 00:42:44,349 それからは 努めて 知らんぷりするようになりました。 550 00:42:44,349 --> 00:42:49,649 おっ母さんと私 女は女同士の了解で。 551 00:42:51,490 --> 00:42:57,296 つまりは 私が松太郎さんの お嫁になるなんて事は➡ 552 00:42:57,296 --> 00:43:00,165 冗談なんだと。 553 00:43:00,165 --> 00:43:04,036 それで松太郎さんは? 554 00:43:04,036 --> 00:43:06,838 何も変わりはありませんでした。 555 00:43:06,838 --> 00:43:12,338 <私の事は ずっと お嬢さんと呼んでいたし…> 556 00:43:20,185 --> 00:43:24,523 <そして半年前に…> 557 00:43:24,523 --> 00:43:30,723 もう一度 良助さんとの縁談話が 起こったんです。 558 00:43:32,965 --> 00:43:37,803 波乃屋も立ち直って 丸千をしのぐようになり➡ 559 00:43:37,803 --> 00:43:43,308 良助さんも道楽遊びから すっかり足を洗って➡ 560 00:43:43,308 --> 00:43:45,978 真面目になったという事で…。 561 00:43:45,978 --> 00:43:50,278 必ず おちかさんを 幸せにしてみせます。 562 00:43:58,991 --> 00:44:03,691 よろしくお願い… 致します。 563 00:44:06,164 --> 00:44:11,336 良助 これで俺とお前は 本当の兄弟になるんだな。 564 00:44:11,336 --> 00:44:17,636 喜一にいさん… 川崎一の旅籠を作りましょう! 565 00:44:25,851 --> 00:44:28,353 <今度は父も兄さんも➡ 566 00:44:28,353 --> 00:44:31,790 良助さんとの縁談に大乗り気で➡ 567 00:44:31,790 --> 00:44:36,962 私も 良助さんとなら きっと幸せになれると…> 568 00:44:36,962 --> 00:44:39,464 昨日 江戸に行ってた。 569 00:44:39,464 --> 00:44:43,335 これ… 江戸で はやってる かんざし。 570 00:44:43,335 --> 00:44:47,635 これを挿してたら 必ず幸せになれるって。 571 00:44:49,474 --> 00:44:55,814 良助さん 私は もう十分に幸せです。 572 00:44:55,814 --> 00:44:59,651 これで おちかと 晴れて夫婦になれる。 573 00:44:59,651 --> 00:45:04,951 子どもの頃から ずっと大好きだった おちかと。 574 00:45:21,673 --> 00:45:26,373 松太郎さんの顔を見て ドキリとしました。 575 00:45:31,183 --> 00:45:35,153 お邪魔して 相すみません。 576 00:45:35,153 --> 00:45:38,290 こんな所で ご挨拶するべきじゃ ないって事は➡ 577 00:45:38,290 --> 00:45:41,126 俺にも よく分かっているんです。 578 00:45:41,126 --> 00:45:44,463 ですが ちょうど ここを通りかかったら➡ 579 00:45:44,463 --> 00:45:48,333 お嬢さんと良助さんのお顔が 見えましたんで➡ 580 00:45:48,333 --> 00:45:51,970 俺みたいな者が 差し出がましい事ですが➡ 581 00:45:51,970 --> 00:45:56,808 一度 きちんと お祝い申し上げたかったんです。 582 00:45:56,808 --> 00:46:01,308 本当に おめでとうございます。 583 00:46:08,820 --> 00:46:16,320 良助さん どうぞ お嬢さんを よろしくお願い致します。 584 00:46:18,530 --> 00:46:23,001 何だと? もう一遍言ってみろ! 585 00:46:23,001 --> 00:46:25,837 お前なんかが 何で 「おちかをよろしく」なんだ。 586 00:46:25,837 --> 00:46:31,343 差し出がましいどころか ずうずうしいにも程がある! 587 00:46:31,343 --> 00:46:33,311 お前が おちかの何だっていうんだ。 588 00:46:33,311 --> 00:46:36,314 やめてちょうだい。 相すみません。 589 00:46:36,314 --> 00:46:41,019 ただ 俺は お嬢さんに 本当に幸せになってほしくて。 590 00:46:41,019 --> 00:46:45,457 丸千の皆さんには返しきれない ご恩がある身ですから。 591 00:46:45,457 --> 00:46:47,492 お祝いだけは申し上げたくって。 592 00:46:47,492 --> 00:46:51,329 いいのよ。 謝ったりしないで 松太郎さん。 593 00:46:51,329 --> 00:46:55,967 良助さんも怒らないで。 いいから おちかは黙ってろ。 594 00:46:55,967 --> 00:46:58,470 お前が そんなふうに 優しくするから➡ 595 00:46:58,470 --> 00:47:01,139 こいつが つけあがるんだ。 596 00:47:01,139 --> 00:47:04,042 丸千のおじさん おばさんも どうかしてら。 597 00:47:04,042 --> 00:47:09,481 おちかと 一つ屋根の下に こんな野良犬を飼っておいてさ。 598 00:47:09,481 --> 00:47:12,984 俺は ずっと やきもきしてた。➡ 599 00:47:12,984 --> 00:47:15,320 こいつの正体なんざ 丸見えなのに➡ 600 00:47:15,320 --> 00:47:18,620 みんな手もなく だまされちまって。 601 00:47:21,126 --> 00:47:23,995 おちかが俺の女房になって➡ 602 00:47:23,995 --> 00:47:26,498 喜一にいさんと俺が 義兄弟になって➡ 603 00:47:26,498 --> 00:47:29,534 丸千と波乃屋は 一つの旅籠になって➡ 604 00:47:29,534 --> 00:47:32,771 一緒に商売をやって どんどん繁盛させるんだ。 605 00:47:32,771 --> 00:47:35,674 いずれは 川崎一の旅籠になるだろう。 606 00:47:35,674 --> 00:47:41,446 そこには もうな… お前なんかの居場所はねえ! 607 00:47:41,446 --> 00:47:46,117 これからは俺が しっかり見張ってるんだからな。 608 00:47:46,117 --> 00:47:49,788 てめえは たまたま 餌をもらってただけの野良犬だ。➡ 609 00:47:49,788 --> 00:47:51,723 いい気になって居ついて➡ 610 00:47:51,723 --> 00:47:54,659 みっともないったら ありゃしねえ! 611 00:47:54,659 --> 00:47:57,128 俺とおちかに あんな口ききやがって➡ 612 00:47:57,128 --> 00:48:02,000 ハッ… 何様のつもりだ! 613 00:48:02,000 --> 00:48:07,500 今すぐ出ていけ。 さっさと荷物をまとめろ! 614 00:48:16,481 --> 00:48:21,653 てめえ 見やがったな… おちかを見やがったな! 615 00:48:21,653 --> 00:48:23,588 てめえの了見なんぞ お見通しだ! 616 00:48:23,588 --> 00:48:25,824 勝手に おちかに おかぼれしやがって➡ 617 00:48:25,824 --> 00:48:27,759 身の程知らずにも 程があるってもんだ! 618 00:48:27,759 --> 00:48:29,694 (殴る音) 619 00:48:29,694 --> 00:48:32,264 二度とおちかを見るな。 (蹴る音) 620 00:48:32,264 --> 00:48:34,199 ほんの一時だって➡ 621 00:48:34,199 --> 00:48:36,134 てめえが おちかと添えるなんて 思ったのが➡ 622 00:48:36,134 --> 00:48:40,605 了見違いなんだ! ざまあ見やがれ。 623 00:48:40,605 --> 00:48:45,443 おちかに謝れ。 なにが 「よろしく」だ 汚らわしい! 624 00:48:45,443 --> 00:48:47,379 お前が おちかの何だっていうんだ! 625 00:48:47,379 --> 00:48:49,879 お願い もうやめて! 626 00:48:53,118 --> 00:48:56,318 おちかに免じて 勘弁してやるんだからな。 627 00:48:59,624 --> 00:49:01,924 ありがたいと思えよ。 628 00:49:10,135 --> 00:49:12,635 お嬢さんもですか? 629 00:49:19,311 --> 00:49:24,311 おちかさんも俺の事 そんなふうに思ってたんですか? 630 00:49:28,653 --> 00:49:30,653 本当に? 631 00:49:33,491 --> 00:49:35,460 野良犬が! 632 00:49:35,460 --> 00:49:37,460 いや~! 633 00:49:41,600 --> 00:49:44,636 やめて! 634 00:49:44,636 --> 00:49:48,836 殺してやる… 殺してやる! 635 00:49:54,312 --> 00:49:56,312 うわっ! 636 00:50:02,454 --> 00:50:04,654 助けて…。 637 00:50:07,325 --> 00:50:09,525 うわ~! 638 00:50:14,799 --> 00:50:20,672 <松太郎さんは私の目の前で 良助さんを打ち殺しました> 639 00:50:20,672 --> 00:50:24,142 (松太郎)うわ~! (殴る音) 640 00:50:24,142 --> 00:50:27,342 松太郎! お前…。 641 00:50:29,314 --> 00:50:31,816 良助… うわっ! 642 00:50:31,816 --> 00:50:33,816 おい! 643 00:50:36,321 --> 00:50:38,256 許さねえ。 644 00:50:38,256 --> 00:50:41,956 俺の事忘れたら許さねえ! 645 00:50:53,672 --> 00:51:12,691 ♬~ 646 00:51:12,691 --> 00:51:15,593 ああっ! 647 00:51:15,593 --> 00:51:21,866 <松太郎さんは翌朝 躯となって見つかりました。➡ 648 00:51:21,866 --> 00:51:26,204 その昔 宿場の人々に 助け上げられた➡ 649 00:51:26,204 --> 00:51:29,404 あの崖から飛び降りて> 650 00:51:36,848 --> 00:51:47,992 どうして… 松太郎さんは あの時➡ 651 00:51:47,992 --> 00:51:53,331 私の事を手にかけて くれなかったのでしょう…。 652 00:51:53,331 --> 00:51:58,503 (泣き声) 653 00:51:58,503 --> 00:52:05,844 きっと 松太郎さんにとって私は…➡ 654 00:52:05,844 --> 00:52:11,349 手にかけるほどの価値もない➡ 655 00:52:11,349 --> 00:52:19,023 そんな女だっていうのが 最後の最後に分かって➡ 656 00:52:19,023 --> 00:52:26,531 そんな… そんな女に 振り回された自分が➡ 657 00:52:26,531 --> 00:52:32,731 情けなくて それで…。 658 00:52:34,806 --> 00:52:39,677 お嬢さんだけが間違った訳じゃ ありません! 659 00:52:39,677 --> 00:52:44,983 間違ったなら… みんなが間違ったんです。 660 00:52:44,983 --> 00:52:50,321 手にかけてほしかったなんて そんな事言わないで。 661 00:52:50,321 --> 00:52:56,661 私は お嬢さんに会えた事が うれしいんですから! 662 00:52:56,661 --> 00:53:10,675 ♬~ 663 00:53:10,675 --> 00:53:18,675 (すすり泣き) 664 00:53:23,254 --> 00:53:27,125 おしまさん 今日の黒白の間のお客様➡ 665 00:53:27,125 --> 00:53:31,362 おちかお嬢さんだったんだって? さあ 私は何も知りません。 666 00:53:31,362 --> 00:53:33,631 あっ いやいや… 何かを 聞き出そうってんじゃねえんだよ。 667 00:53:33,631 --> 00:53:36,301 女は女同士が一番なのは 分かってらよ。 668 00:53:36,301 --> 00:53:38,970 だからよ 俺からも おしまさんに➡ 669 00:53:38,970 --> 00:53:43,641 お嬢さんの事を よろしくお願いしてえんだよ! 670 00:53:43,641 --> 00:53:47,478 八十さんも心配してたんだね。 そりゃそうさ。 671 00:53:47,478 --> 00:53:52,350 でもよ 腫れ物に触るようにしちゃ 逆に よくねえだろ? 672 00:53:52,350 --> 00:53:56,487 そうだね… 明日からも 普通にしてあげとくれ。 673 00:53:56,487 --> 00:54:00,687 合点承知の八十助だ! だじゃれは やめとくれよ。 674 00:54:02,660 --> 00:54:05,563 ねえ 八十助さん…➡ 675 00:54:05,563 --> 00:54:10,401 嫌な思い出を忘れる事って できる? 676 00:54:10,401 --> 00:54:17,008 どうかな~? 俺は ここんとこ 物忘れが ひどくっていけねえや。 677 00:54:17,008 --> 00:54:21,679 でもよ 忘れられなくても 前向いて歩いていくしか➡ 678 00:54:21,679 --> 00:54:25,850 ねえんじゃねえのかな そんな時は。 679 00:54:25,850 --> 00:54:28,350 そうだよね。 680 00:54:33,658 --> 00:54:41,158 おちか。 おしまに身の上を話せて 少しは楽になったかい? 681 00:54:43,268 --> 00:54:45,968 楽になんかなりません。 682 00:54:48,106 --> 00:54:52,477 おちか つらかったねえ。 683 00:54:52,477 --> 00:54:56,314 だけど 話す事で お前が抱えているものが何かは➡ 684 00:54:56,314 --> 00:55:00,014 知る事ができたはずだ。 違うかい? 685 00:55:02,186 --> 00:55:04,186 どうなんだい? 686 00:55:06,324 --> 00:55:08,624 分かりません。 687 00:55:11,996 --> 00:55:15,867 黒白の間に次のお客を呼ぼう。 688 00:55:15,867 --> 00:55:19,671 えっ? またですか? 689 00:55:19,671 --> 00:55:23,174 ≪(灯庵)お邪魔。 690 00:55:23,174 --> 00:55:28,012 おこんばんは。 お~ 灯庵さん 待ってたよ。 691 00:55:28,012 --> 00:55:31,883 また一つ 面白い話がありましてね。 692 00:55:31,883 --> 00:55:34,118 ちょっと。 693 00:55:34,118 --> 00:55:37,622 お灸はなしですよ お内儀さん。 694 00:55:37,622 --> 00:55:40,959 おちか さあ どうする? 695 00:55:40,959 --> 00:55:45,959 お前が3人目だから 今度は4人目だよ。 696 00:55:47,632 --> 00:55:53,972 分かりました。 お話 お聞き致します。 697 00:55:53,972 --> 00:56:06,150 ♬~ 698 00:56:06,150 --> 00:56:08,150 うわっ! 699 00:56:12,023 --> 00:56:14,023 わっ! 700 00:56:19,163 --> 00:56:23,334 てめえ 何しに来やがった! 701 00:56:23,334 --> 00:56:36,634 ♬~ 702 00:56:40,284 --> 00:56:42,220 私の話を聞いたあとは➡ 703 00:56:42,220 --> 00:56:44,455 鏡を見るのが お嫌になるかもしれません。 704 00:56:44,455 --> 00:56:46,958 きれいだよ 姉さんは。 そんなに見ないで。 705 00:56:46,958 --> 00:56:49,293 お彩が市太郎を連れていこうと してんじゃないだろうね。 706 00:56:49,293 --> 00:56:51,329 出して! ここから出して! 707 00:56:51,329 --> 00:56:53,798 堪忍して お母さん! 呪いでございますよ。 708 00:56:53,798 --> 00:56:56,634 それでも間違いは間違いでした。 709 00:56:56,634 --> 00:58:28,634 ♬~