1 00:00:36,091 --> 00:00:40,691 (おざわゆき)ああ やっぱり描けない! もう! 2 00:00:48,370 --> 00:00:50,305 (博光)どうしたの? 3 00:00:50,305 --> 00:00:53,942 全然ダメ! 何にも浮かばない! 4 00:00:53,942 --> 00:00:59,180 全然ダメ! もう何にも何にも何にも浮かばない! 5 00:00:59,180 --> 00:01:01,680 スランプってやつかな? 6 00:01:04,486 --> 00:01:07,155 私 才能ないんだよ。 7 00:01:07,155 --> 00:01:11,393 才能ない人が 高校1年でデビューできるわけないだろ? 8 00:01:11,393 --> 00:01:15,263 でも もう20年近く連載してないんだよ。 9 00:01:15,263 --> 00:01:17,563 うん…。 10 00:01:20,101 --> 00:01:22,737 もう…➡ 11 00:01:22,737 --> 00:01:26,037 もう やめちゃおうかなぁ。 12 00:01:29,010 --> 00:01:34,649 (司会者)それでは コミック部門 新人賞を 受賞された おざわゆきさんのご挨拶です。 13 00:01:34,649 --> 00:01:49,549 (拍手) 14 00:01:51,099 --> 00:01:55,070 アラフィフの新人賞なんて なんか すいません。 15 00:01:55,070 --> 00:01:57,070 (笑い) 16 00:01:59,207 --> 00:02:08,283 あの 皆さんは 手が凍るという体験を したことがありますか? 17 00:02:08,283 --> 00:02:11,252 私はありません。 18 00:02:11,252 --> 00:02:18,693 でも 零下40度にもなるシベリアで 私の父は➡ 19 00:02:18,693 --> 00:02:24,293 まさに 手が凍るような毎日を送っていました。 20 00:02:26,501 --> 00:02:30,972 父のシベリア抑留の 体験を描いたのが➡ 21 00:02:30,972 --> 00:02:35,872 今回 賞を 頂いた「凍りの掌」です。 22 00:02:58,066 --> 00:03:01,269 太平洋戦争のあと➡ 23 00:03:01,269 --> 00:03:05,869 19歳の父が見た 地獄。 24 00:03:18,286 --> 00:03:22,257 これをマンガにするのは➡ 25 00:03:22,257 --> 00:03:25,257 苦しい作業でした。 26 00:03:29,531 --> 00:03:33,968 でも この作品が➡ 27 00:03:33,968 --> 00:03:37,839 マンガ家として 崖っぷちに立っていた私を➡ 28 00:03:37,839 --> 00:03:41,442 救い出してくれたんです。 29 00:03:41,442 --> 00:03:45,947 「お父さんの人生を 描きたいなぁ」。 30 00:03:45,947 --> 00:03:48,283 お父さんと 約束したんだもん。 31 00:03:48,283 --> 00:03:53,121 シベリアに抑留された 何十万人もの 人たちが…。 32 00:03:53,121 --> 00:03:56,024 (昌一)日本に生きて帰りたい➡ 33 00:03:56,024 --> 00:04:00,324 その一心だったよ。 34 00:04:02,463 --> 00:04:05,200 頑張ったかいが あったね。 35 00:04:05,200 --> 00:04:07,135 「うん」。 36 00:04:07,135 --> 00:04:21,435 ♬~ 37 00:04:26,287 --> 00:04:32,487 もう… やめちゃおうかなぁ。 38 00:04:34,462 --> 00:04:36,762 何言ってるんだよ。 39 00:04:38,433 --> 00:04:43,738 ゆき 本当に描きたいものは何なの? 40 00:04:43,738 --> 00:04:46,641 え…? 41 00:04:46,641 --> 00:04:52,341 前に言ってたじゃん。 「私は マンガで人の人生を描きたいんだ」って。 42 00:04:56,684 --> 00:05:00,184 諦めるのは まだ早い。 43 00:05:08,329 --> 00:05:12,329 これ。 ん…? 44 00:05:14,102 --> 00:05:18,106 何だい? 高校の時のリポート。 45 00:05:18,106 --> 00:05:21,906 昔の写真とか見てたら出てきたの。 46 00:05:24,412 --> 00:05:30,051 ほら お父さんにシベリア抑留のこと 聞いて書いたじゃない? 47 00:05:30,051 --> 00:05:32,120 ああ。 48 00:05:32,120 --> 00:05:34,720 マンガにしたいの。 49 00:05:38,626 --> 00:05:41,426 マンガねぇ。 50 00:05:43,264 --> 00:05:45,864 マンガか…。 51 00:05:52,640 --> 00:05:59,380 シベリアのことは よく思い出せない。 52 00:05:59,380 --> 00:06:06,120 マンガにできるような話じゃないよ。 53 00:06:06,120 --> 00:06:09,620 お父さんの人生を描きたいなぁ。 54 00:06:13,361 --> 00:06:20,261 お父さんが若い頃 どんな体験をして どんなことを思ってたのか。 55 00:06:28,810 --> 00:06:31,646 それに このままじゃ➡ 56 00:06:31,646 --> 00:06:37,546 シベリア抑留のこと知ってる人も どんどん いなくなっちゃうじゃない? 57 00:06:52,767 --> 00:06:56,537 忘れてることも あるけど➡ 58 00:06:56,537 --> 00:06:59,937 それでも いいかい? 59 00:07:03,044 --> 00:07:05,644 うん。 60 00:07:11,352 --> 00:07:14,152 (あい)お茶 入りましたよ。 61 00:07:19,660 --> 00:07:21,660 はあ。 62 00:07:23,531 --> 00:07:27,969 さて 何から話せばいいかな? 63 00:07:27,969 --> 00:07:30,405 う~ん…。 64 00:07:30,405 --> 00:07:34,275 召集令状は いつごろ届いたの? 65 00:07:34,275 --> 00:07:37,612 19の時。 66 00:07:37,612 --> 00:07:41,349 終戦の年の1月だったかな。 67 00:07:41,349 --> 00:07:46,149 そのころ 父さん 大学の予科に通ってた。 68 00:07:47,889 --> 00:07:51,726 すぐに満州に行ったんだ。 69 00:07:51,726 --> 00:07:53,661 満州…。 うん。 70 00:07:53,661 --> 00:07:57,632 どんなこと覚えてる? 71 00:07:57,632 --> 00:08:02,069 8月の16日に…➡ 72 00:08:02,069 --> 00:08:04,269 とんでもないことが起きた。 73 00:08:06,974 --> 00:08:10,445 16日。 74 00:08:10,445 --> 00:08:12,680 ん? 75 00:08:12,680 --> 00:08:16,184 それって もう➡ 76 00:08:16,184 --> 00:08:20,688 戦争が終わってるんじゃないの? 77 00:08:20,688 --> 00:08:25,460 父さんたちの戦争は➡ 78 00:08:25,460 --> 00:08:29,163 終わってなかったんだよ。 79 00:08:29,163 --> 00:08:44,763 ♬~ 80 00:08:56,257 --> 00:09:01,562 入隊し 命じられた戦地は…➡ 81 00:09:01,562 --> 00:09:04,562 満州だった。 82 00:09:37,365 --> 00:09:40,365 そんな…。 おい。 83 00:09:58,719 --> 00:10:04,919 (泣き声) 84 00:10:08,329 --> 00:10:10,529 ただいま。 85 00:10:15,670 --> 00:10:18,205 あっ おかえり。 86 00:10:18,205 --> 00:10:21,405 やってるねぇ。 うん。 87 00:10:31,586 --> 00:10:37,224 日本とソ連は当時 中立条約 結んでたじゃない? 88 00:10:37,224 --> 00:10:40,027 えっ? ああ うん。 89 00:10:40,027 --> 00:10:46,701 でも ソ連軍は それを破棄して攻めてきたんだよね。 90 00:10:46,701 --> 00:10:49,303 うん。 91 00:10:49,303 --> 00:10:51,939 お父さん➡ 92 00:10:51,939 --> 00:10:57,244 いつ死んでもおかしくない 状況だったんだって。 93 00:10:57,244 --> 00:11:00,715 そうなんだ…。 94 00:11:00,715 --> 00:11:03,615 あのお父さんが…。 95 00:11:12,159 --> 00:11:15,459 こんな体験してたなんて。 96 00:11:21,302 --> 00:11:23,838 「ゆき」。 「うん?」。 97 00:11:23,838 --> 00:11:27,642 「お父さんから じっくり 話を聞いてきてよ」。 98 00:11:27,642 --> 00:11:29,642 「うん」。 99 00:11:35,383 --> 00:11:38,886 う~ん。 うまい。 100 00:11:38,886 --> 00:11:41,689 (笑い声) ゆきも どうだ? 101 00:11:41,689 --> 00:11:46,027 お父さん ほんと甘いもの好きだね。 102 00:11:46,027 --> 00:11:52,800 こうやって のんびり縁側で 甘いものを食べてる時が幸せだ。 103 00:11:52,800 --> 00:11:54,900 (笑い声) 104 00:12:03,077 --> 00:12:10,584 停戦になって ソ連兵に「ダモイ」って言われてな。 105 00:12:10,584 --> 00:12:12,520 ダモイ? 106 00:12:12,520 --> 00:12:15,956 「帰国」って意味だよ。 帰国…。 107 00:12:15,956 --> 00:12:20,828 帰国できるって聞いた時は うれしかった。 108 00:12:20,828 --> 00:12:24,799 本当に うれしかったよ。 109 00:12:24,799 --> 00:12:31,338 で 船に乗ったんだが それが まさかの➡ 110 00:12:31,338 --> 00:12:34,338 シベリア行きだったってわけさ。 111 00:12:36,077 --> 00:12:38,877 そういうことだったの…。 112 00:12:42,349 --> 00:12:46,449 (汽笛) 113 00:12:57,298 --> 00:13:02,898 (笑い声) 114 00:13:17,618 --> 00:13:20,118 おっ おお…。 115 00:14:24,919 --> 00:14:38,719 ♬~ 116 00:15:29,416 --> 00:15:33,320 はい ここでクイズです。 117 00:15:33,320 --> 00:15:35,556 (笑い) 118 00:15:35,556 --> 00:15:44,156 皆さんは シベリアに抑留された日本兵が 何人いたか ご存じですか? 119 00:15:48,469 --> 00:15:51,405 およそ60万人です。 120 00:15:51,405 --> 00:15:54,005 (驚く声) 121 00:15:56,777 --> 00:16:02,249 キヴダという収容所に到着してすぐに 身体検査が行われ➡ 122 00:16:02,249 --> 00:16:08,889 時計から砂糖まで めぼしいものは ほとんど取られてしまったんだそうです。 123 00:16:08,889 --> 00:16:13,727 父は すっごい甘党なんで➡ 124 00:16:13,727 --> 00:16:18,933 砂糖が没収されたのは かなり気持ちが へこんだんじゃないでしょうか。 125 00:16:18,933 --> 00:16:21,333 ね お父さん。 126 00:16:25,773 --> 00:16:34,173 そこから 父が「地獄を見た」という日々が 始まっていったんです。 127 00:17:49,890 --> 00:17:54,428 (あい)はい とうもろこし。 ありがとう。 128 00:17:54,428 --> 00:17:59,328 ねえ 食事は当時 どうだったの? 129 00:18:01,969 --> 00:18:09,243 メシは 雑穀が混じったような黒パンが ひと切れ それと➡ 130 00:18:09,243 --> 00:18:14,848 雑穀が入った おかゆみたいなスープが1杯。 131 00:18:14,848 --> 00:18:18,752 それが朝晩の一日2回。 132 00:18:18,752 --> 00:18:22,356 まずいし 何より➡ 133 00:18:22,356 --> 00:18:24,356 量が少なかった。 134 00:18:26,093 --> 00:18:29,193 ひと切れって どれくらい? 135 00:18:41,608 --> 00:18:43,844 これくらいかな。 136 00:18:43,844 --> 00:18:47,548 これ 一日で2枚だけ? 137 00:18:47,548 --> 00:18:51,548 それって 全然 おなかいっぱいにならないよね。 138 00:18:59,660 --> 00:19:01,660 ああ…。 139 00:20:22,910 --> 00:20:26,410 (泣き声) 140 00:20:52,873 --> 00:20:56,743 収容所では労働もさせられたんでしょ? 141 00:20:56,743 --> 00:20:59,980 ああ。 142 00:20:59,980 --> 00:21:04,151 露天掘りって分かるか? 143 00:21:04,151 --> 00:21:08,689 露天掘り…。 144 00:21:08,689 --> 00:21:14,428 炭鉱の中ではなくて 外で石炭を掘るんだよ。 145 00:21:14,428 --> 00:21:18,328 えっ… 外って シベリアで? 146 00:21:20,367 --> 00:21:24,404 真っ暗な夜だったなぁ。 147 00:21:24,404 --> 00:21:29,977 山に連れてかれて 「ここを掘れ」って言われて。 148 00:21:29,977 --> 00:21:35,582 マイナス40度だと さすがに作業はしないんだが➡ 149 00:21:35,582 --> 00:21:42,222 マイナス30度なら 当たり前のように やらされたんだ。 150 00:21:42,222 --> 00:21:44,222 え…。 151 00:21:51,465 --> 00:21:55,002 (製氷工場の担当者)こちらが マイナス10度の冷凍室になります。 152 00:21:55,002 --> 00:21:57,502 マイナス10度…。 153 00:22:00,807 --> 00:22:03,477 寒い…。 154 00:22:03,477 --> 00:22:07,347 これで マイナス10度なんですね。 155 00:22:07,347 --> 00:22:10,350 はい。 156 00:22:10,350 --> 00:22:13,720 じゃあ マイナス30度で運動なんて…。 157 00:22:13,720 --> 00:22:17,620 いや とても とても。 ああ…。 158 00:25:15,569 --> 00:25:17,669 ああ…。 159 00:25:19,473 --> 00:25:22,873 こんな感じだったんだ…。 160 00:25:37,157 --> 00:25:39,857 寒かったよね…。 161 00:25:45,432 --> 00:25:48,068 熱心にやっておられますね。 162 00:25:48,068 --> 00:25:54,441 あっ すいません。 父の話を マンガにしようと思ってまして。 163 00:25:54,441 --> 00:25:58,311 お父さん シベリア抑留の体験者なんですか? 164 00:25:58,311 --> 00:26:00,680 はい。 165 00:26:00,680 --> 00:26:03,083 私もなんですよ。 166 00:26:03,083 --> 00:26:06,783 えっ そうなんですか? 167 00:26:08,688 --> 00:26:14,361 あなたは 人の死を待ち望んだことがありますか? 168 00:26:14,361 --> 00:26:17,998 人の死? いえ…。 169 00:26:17,998 --> 00:26:23,236 私たちは 常に腹をすかせていました。 170 00:26:23,236 --> 00:26:28,808 だから 黒パンを分け合う時も この展示のように➡ 171 00:26:28,808 --> 00:26:31,311 真剣に見張っていて➡ 172 00:26:31,311 --> 00:26:36,550 少しでも薄く切ろうもんなら ケンカになったもんです。 173 00:26:36,550 --> 00:26:40,186 そうだったんですね。 174 00:26:40,186 --> 00:26:45,091 収容所では 病人が続出してたんですが➡ 175 00:26:45,091 --> 00:26:50,830 そんな時も 「ああ こいつが死んだら➡ 176 00:26:50,830 --> 00:26:59,030 こいつのパンが食えるかもしれない」 なんて考えてる自分がいるんですよ。 177 00:27:09,950 --> 00:27:14,120 お父さん。 ん? 178 00:27:14,120 --> 00:27:21,220 亡くなった人も たくさん いたんだよね? お父さんの周りにも…。 179 00:27:24,698 --> 00:27:29,198 もちろん… いた。 180 00:29:33,293 --> 00:29:36,996 朝になると➡ 181 00:29:36,996 --> 00:29:46,539 隣に寝ていた仲間が 当たり前のように死んでるんだ。 182 00:29:46,539 --> 00:29:51,911 衰弱してるから ちょっと窓が開いてたとか➡ 183 00:29:51,911 --> 00:29:56,649 その近くにいたとか そんな理由で➡ 184 00:29:56,649 --> 00:29:58,685 死んでしまう。 185 00:29:58,685 --> 00:30:02,222 そんなことで? うん。 186 00:30:02,222 --> 00:30:07,961 そんなことで 人は死ぬんだ。 187 00:30:07,961 --> 00:30:15,368 不思議なもんで だんだん こっちも慣れてきてなぁ。 188 00:30:15,368 --> 00:30:18,037 「今日は1人か。➡ 189 00:30:18,037 --> 00:30:24,244 昨日は3人だったから まだマシかぁ」なんて➡ 190 00:30:24,244 --> 00:30:26,944 思ったりするようになってな。 191 00:30:29,082 --> 00:30:31,082 (ため息) 192 00:30:34,788 --> 00:30:37,357 阿矢谷ってやつが いてな。 193 00:30:37,357 --> 00:30:41,157 ずっと 満州から一緒だったんだ。 194 00:30:42,862 --> 00:30:48,762 とっても いいやつだった…。 195 00:33:37,670 --> 00:33:41,941 兄ちゃ~ん! 196 00:33:41,941 --> 00:33:45,341 兄ちゃ~ん! 197 00:34:33,192 --> 00:34:35,192 ゆき。 198 00:34:37,830 --> 00:34:40,733 泣いたら➡ 199 00:34:40,733 --> 00:34:43,233 おしまいなんだよ。 200 00:35:15,001 --> 00:35:19,906 出来たよ。 今夜は ゆきの好きなロールキャベツ。 201 00:35:19,906 --> 00:35:23,709 あっ ごめん。 私 要らない。 202 00:35:23,709 --> 00:35:25,678 えっ? でも…。 203 00:35:25,678 --> 00:35:29,482 いいの。 おなかすいてないから。 204 00:35:29,482 --> 00:35:31,682 そう…。 205 00:35:35,054 --> 00:35:37,754 でも 食べてからでも…。 206 00:37:06,846 --> 00:37:10,216 (大学生1)死ね こら。 死ね こら。 207 00:37:10,216 --> 00:37:12,151 (大学生2)よっしゃ 一気に殺そうぜ。 208 00:37:12,151 --> 00:37:15,054 よし。 ここで殺しとこう。➡ 209 00:37:15,054 --> 00:37:17,089 いけ いけ いけ! (大学生2)死ね 死ね 死ね 死ね。➡ 210 00:37:17,089 --> 00:37:19,892 殺せ 殺せ 殺せ。 よし。➡ 211 00:37:19,892 --> 00:37:24,363 いけ。 頭で。 (大学生1)死ね こら。 212 00:37:24,363 --> 00:37:28,463 うるさい! 「死ね」とか「殺す」とか言うな! 213 00:37:59,198 --> 00:38:02,101 うん。 上出来 上出来。 214 00:38:02,101 --> 00:38:07,039 (ドアが開く音) ゆき? おかえり。 215 00:38:07,039 --> 00:38:09,442 ゆき…? 216 00:38:09,442 --> 00:38:12,445 ゆき! ゆき! 217 00:38:12,445 --> 00:38:17,545 ゆき! ゆき! ゆき! 218 00:38:28,361 --> 00:38:32,265 ゆき これ飲んで。 219 00:38:32,265 --> 00:38:34,634 もう大丈夫。 220 00:38:34,634 --> 00:38:37,003 まだダメだって。 221 00:38:37,003 --> 00:38:40,206 でも描かなくちゃ。 ダメだって。 222 00:38:40,206 --> 00:38:43,109 食べてないし 寝てないし。 223 00:38:43,109 --> 00:38:48,748 だって お父さんと約束したんだもん。 224 00:38:48,748 --> 00:38:51,784 お父さんだけじゃないの。 225 00:38:51,784 --> 00:38:56,088 シベリアに抑留された 何十万人もの人たちが…。 226 00:38:56,088 --> 00:38:59,125 ゆき ゆき。 227 00:38:59,125 --> 00:39:06,832 だったら ちゃんと描くためにも 自分の体を大事にしないと。 228 00:39:06,832 --> 00:39:11,637 まずは ご飯を しっかり食べること。 229 00:39:11,637 --> 00:39:13,837 約束です。 230 00:39:17,777 --> 00:39:20,277 はい。 231 00:39:31,924 --> 00:39:33,859 母さん。 232 00:39:33,859 --> 00:39:35,828 (あい)あら おかえり。 233 00:39:35,828 --> 00:39:40,199 この郵便受け ほんと かわいいよね。 234 00:39:40,199 --> 00:39:44,937 お父さん いろんなもの作ってくれるから。 お母さんのために。 235 00:39:44,937 --> 00:39:48,837 何 のろけてんの。 (笑い声) 236 00:39:52,411 --> 00:39:56,082 何とか死なずに済んで➡ 237 00:39:56,082 --> 00:39:59,652 収容所の移動命令が出たんだ。 238 00:39:59,652 --> 00:40:02,855 次に行った収容所は何ていう所? 239 00:40:02,855 --> 00:40:05,558 ライチハ。 240 00:40:05,558 --> 00:40:09,528 ライチハ…。 241 00:40:09,528 --> 00:40:11,664 どんなことを覚えてる? 242 00:40:11,664 --> 00:40:14,567 うん…。 243 00:40:14,567 --> 00:40:19,972 碓氷さんという人がいて あっちの言葉を話せる人で➡ 244 00:40:19,972 --> 00:40:23,209 ソ連兵と交渉してくれたんだ。 245 00:40:23,209 --> 00:40:28,109 みんなのことを考えて 動いてくれる人だった。 246 00:41:31,577 --> 00:41:35,381 今日は よろしくお願いします。 247 00:41:35,381 --> 00:41:40,920 父と同じライチハの収容所に いらしたんですよね? 248 00:41:40,920 --> 00:41:42,855 ええ。 249 00:41:42,855 --> 00:41:47,059 どんなことを覚えてますか? 250 00:41:47,059 --> 00:41:50,896 何より つらかったのは➡ 251 00:41:50,896 --> 00:41:54,767 精神的に追い詰められたことです。 252 00:41:54,767 --> 00:41:57,736 精神的に? 253 00:41:57,736 --> 00:42:02,041 ソ連による思想教育で➡ 254 00:42:02,041 --> 00:42:09,215 周りが どんどん 共産主義に染められていったんです。 255 00:42:09,215 --> 00:42:15,988 で つるし上げが行われるようになって。 256 00:42:15,988 --> 00:42:20,292 どういうことですか? 257 00:42:20,292 --> 00:42:23,729 みんなで寄ってたかって➡ 258 00:42:23,729 --> 00:42:28,267 標的になった人を糾弾するんです。 259 00:42:28,267 --> 00:42:31,837 寄ってたかって糾弾…。 260 00:42:31,837 --> 00:42:40,546 みんな いつ 自分の番になるか気が気じゃないから➡ 261 00:42:40,546 --> 00:42:45,985 仲間を売るようになる。 262 00:42:45,985 --> 00:42:52,085 もう 誰も信じられなくなるんです。 263 00:42:57,563 --> 00:43:07,806 あの… 碓氷さんという方のこと 覚えていませんか? 264 00:43:07,806 --> 00:43:10,106 ウスイ? 265 00:43:14,480 --> 00:43:17,080 ああ。 266 00:45:34,887 --> 00:45:40,592 精神的に追い詰められたのは つらかったでしょう? 267 00:45:40,592 --> 00:45:43,195 そうだな…。 268 00:45:43,195 --> 00:45:49,295 仲間を信じられなくなるというのは 本当に きつかった。 269 00:45:51,437 --> 00:45:55,074 みんな 赤旗を振った。 270 00:45:55,074 --> 00:45:57,174 振るしかなかったんだ。 271 00:46:00,579 --> 00:46:05,250 心の中で どう思っていようと…➡ 272 00:46:05,250 --> 00:46:10,089 日本に生きて帰りたい➡ 273 00:46:10,089 --> 00:46:13,589 その一心だったよ。 274 00:46:40,552 --> 00:46:42,488 はい。 275 00:46:42,488 --> 00:46:44,857 あっ ありがと。 276 00:46:44,857 --> 00:46:47,326 どう? 277 00:46:47,326 --> 00:46:50,829 昭和24年の10月末に➡ 278 00:46:50,829 --> 00:46:55,667 ソ連兵に言われたんだって ダモイって。 279 00:46:55,667 --> 00:46:57,636 ダモイ? 280 00:46:57,636 --> 00:47:00,136 帰国。 ああ。 281 00:47:02,441 --> 00:47:06,641 終戦から4年。 282 00:47:16,989 --> 00:47:20,859 ただ それまでに何度も だまされてきたから➡ 283 00:47:20,859 --> 00:47:23,262 その時も信じてなくて➡ 284 00:47:23,262 --> 00:47:28,500 どうせ また どこかの収容所に 移動するんだって思ってたらしいの。 285 00:47:28,500 --> 00:47:32,404 そうだよねぇ。 286 00:47:32,404 --> 00:47:37,209 シベリア鉄道の列車に 乗せられて➡ 287 00:47:37,209 --> 00:47:40,709 何日も何日も走って…。 288 00:47:54,459 --> 00:47:58,359 (汽笛) 289 00:48:39,872 --> 00:48:42,972 (汽笛) 290 00:50:26,445 --> 00:50:28,445 (ため息) 291 00:50:33,752 --> 00:50:38,657 お父さん…➡ 292 00:50:38,657 --> 00:50:40,857 おかえり。 293 00:50:50,969 --> 00:50:59,177 そういうわけで 父は無事 日本に帰ってきました。 294 00:50:59,177 --> 00:51:04,983 私が最初 シベリアの話を聞きたいと言った時➡ 295 00:51:04,983 --> 00:51:10,722 父は 「思い出せない」と答えました。 296 00:51:10,722 --> 00:51:17,322 それは きっと思い出したくない ということだったと思います。 297 00:51:19,064 --> 00:51:23,902 でも お父さん➡ 298 00:51:23,902 --> 00:51:31,902 話を聞かせてくれて ありがとう。 299 00:51:34,012 --> 00:51:40,412 (スピーチの声)「その後 描き上げたマンガを 同人誌の即売会に出すことにしたんです」。 300 00:51:44,456 --> 00:51:50,929 「でも こんな暗くて重いマンガを 誰が読むんだって➡ 301 00:51:50,929 --> 00:51:55,329 正直 不安だらけでした」。 302 00:51:58,403 --> 00:52:01,807 ヤマナカ先生 すばらしいです。 303 00:52:01,807 --> 00:52:04,509 3人がいないと回んないですよね。 304 00:52:04,509 --> 00:52:11,309 (スピーチの声) 「案の定 最初は全然 売れなくて…」。 305 00:52:13,885 --> 00:52:20,759 「でも だんだん 意外な展開になっていったんです」。 306 00:52:20,759 --> 00:52:23,662 おざわさん。 えっ? 307 00:52:23,662 --> 00:52:25,797 これ読んだよ。 308 00:52:25,797 --> 00:52:30,102 俺には絶対 描けない。 本当? 309 00:52:30,102 --> 00:52:33,572 ウソ言うわけないじゃん! 310 00:52:33,572 --> 00:52:35,572 ありがとう。 311 00:52:37,509 --> 00:52:41,313 震えたよ。 マジ感動した。 312 00:52:41,313 --> 00:52:45,750 俺さ いっつも くだらねえマンガばっか 描いてるんだけど➡ 313 00:52:45,750 --> 00:52:50,750 マンガに こんなすげえ役割が果たせる なんて 今まで考えたこともなかった。 314 00:52:56,795 --> 00:53:18,083 ♬~ 315 00:53:18,083 --> 00:53:21,019 おざわ先生でいらっしゃいますか? 316 00:53:21,019 --> 00:53:24,189 あ… はい。 317 00:53:24,189 --> 00:53:29,789 私 大池出版で編集をしている 鈴木と申します。 318 00:53:35,567 --> 00:53:37,536 マジ!? そうなの! 319 00:53:37,536 --> 00:53:42,040 えっ? ちょっと ちょっと ちょっと…。 320 00:53:42,040 --> 00:53:44,643 座って 座って 座って。 321 00:53:44,643 --> 00:53:46,578 ちゃんと聞かせてよ。 322 00:53:46,578 --> 00:53:52,150 だから 「凍りの掌」を読んで 涙が止まらないくらい感動して➡ 323 00:53:52,150 --> 00:53:56,688 単行本として出版したいって 思ってくれたんだって! 324 00:53:56,688 --> 00:53:58,990 そっかぁ。 325 00:53:58,990 --> 00:54:03,562 よかったなぁ。 うん。 326 00:54:03,562 --> 00:54:06,264 頑張ったかいが あったね。 327 00:54:06,264 --> 00:54:08,500 うん。 328 00:54:08,500 --> 00:54:14,606 何年ぶりだろう? ゆきのマンガが本屋さんに並ぶのって。 329 00:54:14,606 --> 00:54:16,975 アッハハハハ…。 330 00:54:16,975 --> 00:54:20,979 長かったねぇ…。 331 00:54:20,979 --> 00:54:25,317 よし。 じゃあ 今夜は ごちそうを作ろう! いいの? 332 00:54:25,317 --> 00:54:28,687 何 食べたい? じゃあ ロールキャベツ! 333 00:54:28,687 --> 00:54:32,424 かしこまりました。 アッハハハ。 やった~。 334 00:54:32,424 --> 00:54:35,224 すぐ作るね。 うん。 335 00:54:38,763 --> 00:54:42,434 そして 父が日本に 帰ってきた場所を➡ 336 00:54:42,434 --> 00:54:44,736 この目で確かめたいと 言ったので➡ 337 00:54:44,736 --> 00:54:49,036 京都の舞鶴を訪ねました。 338 00:54:54,746 --> 00:54:58,049 ここだよね? 339 00:54:58,049 --> 00:55:00,249 ああ…。 340 00:55:06,157 --> 00:55:11,396 お父さんが シベリアで懸命に生き抜いて➡ 341 00:55:11,396 --> 00:55:17,296 日本に戻ってきたから 今の私がある…。 342 00:55:20,805 --> 00:55:24,705 そういうことになるのかな…。 343 00:55:27,479 --> 00:55:33,285 ねえ 船が日本に着いた時のこと 覚えてる? 344 00:55:33,285 --> 00:55:37,289 女性が みんな きれいだった。 345 00:55:37,289 --> 00:55:39,758 何 それ? 346 00:55:39,758 --> 00:55:45,430 きれいな格好して 「お疲れさま」とか「おかえり」って言って➡ 347 00:55:45,430 --> 00:55:48,933 歓迎してくれたんだ。 348 00:55:48,933 --> 00:55:51,369 それが➡ 349 00:55:51,369 --> 00:55:54,039 腹立ってな。 350 00:55:54,039 --> 00:55:57,075 なんで? 351 00:55:57,075 --> 00:56:00,178 なんか違和感があったんだ。 352 00:56:00,178 --> 00:56:03,878 こっちの苦労を知らないでって。 353 00:56:06,785 --> 00:56:10,085 せっかく迎えに来てくれたのに。 354 00:56:11,623 --> 00:56:16,461 あの時は まだ ここが…➡ 355 00:56:16,461 --> 00:56:22,600 ここが凍ってたんだろうな。 356 00:56:22,600 --> 00:56:27,600 それだけ いろんなことが あったんだもんね。 357 00:56:37,916 --> 00:56:41,116 ゆき。 ん? 358 00:56:43,221 --> 00:56:45,757 出版…➡ 359 00:56:45,757 --> 00:56:48,693 おめでとう。 360 00:56:48,693 --> 00:56:52,831 大したもんだ。 361 00:56:52,831 --> 00:56:55,231 大したもんだ。 362 00:56:56,735 --> 00:56:58,835 うん。 363 00:57:08,947 --> 00:57:13,385 父は戦後 裁判所の調査官となり➡ 364 00:57:13,385 --> 00:57:17,255 定年まで勤め上げました。 365 00:57:17,255 --> 00:57:21,226 そして 母と一緒に➡ 366 00:57:21,226 --> 00:57:26,326 私を大切に育ててくれました。 367 00:57:30,802 --> 00:57:35,540 私 父や母の姿を見ながら➡ 368 00:57:35,540 --> 00:57:38,340 時々 考えるんです。 369 00:57:40,378 --> 00:57:44,015 この優しい人たちの つらい過去を➡ 370 00:57:44,015 --> 00:57:52,190 マンガとして残すことに 本当に意味があるのかと。 371 00:57:52,190 --> 00:57:56,428 でも やっぱり➡ 372 00:57:56,428 --> 00:57:58,728 知っておいてほしいと思うんです。 373 00:58:01,032 --> 00:58:05,236 あの時代 みんなが➡ 374 00:58:05,236 --> 00:58:09,836 必死に生き抜いたということを。 375 00:58:12,110 --> 00:58:19,350 だから 小さな幸せが いっぱい詰まった➡ 376 00:58:19,350 --> 00:58:24,350 今の暮らしがあるんだということを。 377 00:58:26,124 --> 00:59:26,124 ♬~ 378 01:00:32,750 --> 01:00:34,686 <「君は天才!」。➡ 379 01:00:34,686 --> 01:00:39,624 この番組が どんな番組なのかが分かる 映像を ご覧下さい> 380 01:00:39,624 --> 01:00:43,761 ♬~ 381 01:00:43,761 --> 01:00:46,798 <ここにも そこにも あそこにも➡ 382 01:00:46,798 --> 01:00:50,268 あなたの身近にある広告。➡ 383 01:00:50,268 --> 01:00:52,770 商品を売り ブームを作るために➡ 384 01:00:52,770 --> 01:00:56,274 広告主とメディア 事情と本音。➡ 385 01:00:56,274 --> 01:00:59,777 楽しいと正しい。 あらゆる間に立ち➡