1 00:00:02,102 --> 00:02:40,093 ♬~ 2 00:03:05,018 --> 00:03:09,823 ♬~(歌声) 3 00:03:09,823 --> 00:03:11,758 (助左衛門)歌が聞こえる。 4 00:03:11,758 --> 00:03:14,161 (ツル)私たちの歌です。 5 00:03:14,161 --> 00:03:48,061 ♬~ 6 00:03:48,061 --> 00:04:00,140 ♬~(歌声) 7 00:04:00,140 --> 00:04:04,478 (喜右衛門)「ここを過ぎて 悲しみの都。➡ 8 00:04:04,478 --> 00:04:08,348 ここを過ぎて 涙の都。➡ 9 00:04:08,348 --> 00:04:12,819 我 過ぎて 人は行く。 滅びの民に」。 10 00:04:12,819 --> 00:04:36,042 ♬~ 11 00:04:36,042 --> 00:04:38,345 うわ~っ! 12 00:04:40,514 --> 00:04:50,857 (喚声) 13 00:04:50,857 --> 00:04:59,866 ⚟(喚声) 14 00:04:59,866 --> 00:05:01,801 ああ~! 15 00:05:01,801 --> 00:05:11,812 ⚟(喚声) 16 00:05:20,487 --> 00:05:22,489 (小太郎)ツル! 17 00:05:29,162 --> 00:05:31,464 (タガログ語で) 18 00:05:33,033 --> 00:05:36,736 さあ 早くしろ! 早くしろ! 早く逃げろ! 19 00:05:40,507 --> 00:05:43,210 海へ飛び込め! 20 00:05:52,118 --> 00:05:54,521 喜右衛門! 21 00:05:54,521 --> 00:05:57,858 喜右衛門! 22 00:05:57,858 --> 00:05:59,860 どこにおる!? 23 00:06:12,138 --> 00:06:14,140 喜右衛門の姿が見えぬ。 24 00:06:15,809 --> 00:06:18,812 船長! あれに 人が! 25 00:06:21,147 --> 00:06:24,818 喜右衛門!狙え! 待て! 26 00:06:24,818 --> 00:06:28,688 喜右衛門! 観念して下りてこい! 27 00:06:28,688 --> 00:06:31,157 納屋助左衛門か。 28 00:06:31,157 --> 00:06:38,498 喜右衛門! 人買いをやめたら 命は助けてやる。 下りてこい! 29 00:06:38,498 --> 00:06:43,169 ぬしは ダンテという 南蛮の歌人を知っておるか? 30 00:06:43,169 --> 00:06:45,105 知っておるまいの。 31 00:06:45,105 --> 00:06:50,510 人がせっかく 日本文への移し替えを 試み始めたというのに 邪魔しおって! 32 00:06:50,510 --> 00:06:53,179 ダンテの一節を聞かせようか。 33 00:06:53,179 --> 00:06:55,181 ツル! 34 00:06:57,851 --> 00:07:01,121 喜右衛門 下りろ! 35 00:07:01,121 --> 00:07:06,793 「ここを過ぎて 悲しみの都。 ここを過ぎて 涙の都。➡ 36 00:07:06,793 --> 00:07:09,696 さばかりも つれなき海をあとにして➡ 37 00:07:09,696 --> 00:07:12,666 かくて かの第二の国を歌わまし。➡ 38 00:07:12,666 --> 00:07:15,802 人の霊 そこに清まり➡ 39 00:07:15,802 --> 00:07:20,140 天高く 登るにも ふさわしき者とこそなれ」! 40 00:07:20,140 --> 00:07:22,075 (タガログ語で) 41 00:07:22,075 --> 00:07:24,377 (銃声) 42 00:07:35,155 --> 00:07:38,858 さらばじゃ 助左衛門! 43 00:08:07,454 --> 00:08:20,033 ♬~ 44 00:08:20,033 --> 00:08:25,805 <この日 慶長3年8月18日。➡ 45 00:08:25,805 --> 00:08:31,478 豊臣秀吉が その波乱に富んだ生涯の幕を閉じる。➡ 46 00:08:31,478 --> 00:08:36,182 秀吉 62歳であった> 47 00:08:38,818 --> 00:08:43,690 <秀吉の遺骸は 石田三成ら 奉行たちの手で➡ 48 00:08:43,690 --> 00:08:49,462 その夜のうちに 伏見城中より 京の阿弥陀ヶ峰に運び出され➡ 49 00:08:49,462 --> 00:08:53,833 山麓の大仏殿に安置される> 50 00:08:53,833 --> 00:08:59,506 ♬~ 51 00:08:59,506 --> 00:09:04,811 (門を閉じる音) 52 00:09:11,451 --> 00:09:17,323 殿下ご逝去のこと 徳川殿にだけは お知らせしておいた方がよかろうの。 53 00:09:17,323 --> 00:09:20,160 (三成)何人にも 口外は無用だ。 54 00:09:20,160 --> 00:09:23,797 しかし…。 喪を厳に秘すべしとは➡ 55 00:09:23,797 --> 00:09:26,132 太閤殿下のご遺命だぞ。 56 00:09:26,132 --> 00:09:30,470 徳川殿は 豊臣家の大老筆頭ではないか。 知らせぬわけにはゆくまい。 57 00:09:30,470 --> 00:09:33,373 ご遺命に背く気か 長政殿。 58 00:09:33,373 --> 00:09:35,375 いや…。 59 00:09:39,813 --> 00:09:50,156 お忘れか。 朝鮮の荒野には 今なお 10万余の遠征軍が在陣していることを。 60 00:09:50,156 --> 00:09:53,827 殿下の死が 朝鮮側に 万一 漏れでもしたら➡ 61 00:09:53,827 --> 00:09:57,130 遠征軍の全滅は 間違いない。 62 00:09:59,699 --> 00:10:07,373 朝鮮に出兵中の日本軍を 一兵残らず撤退させてしまうまでは➡ 63 00:10:07,373 --> 00:10:11,678 殿下には生きていてもらわねばならん。 64 00:10:15,849 --> 00:10:20,854 <太閤薨去より 2か月が過ぎた> 65 00:10:31,397 --> 00:10:35,201 (美緒)治部少輔様が 九州に おたちになる前に➡ 66 00:10:35,201 --> 00:10:39,072 ひそかに お届けくださいました。 67 00:10:39,072 --> 00:10:43,076 (右近)治部殿らしい 迅速な処置だ。 68 00:10:43,076 --> 00:10:50,550 なるほど 殿下が ご他界なされた今は もはや 助左衛門を咎める者はいない。 69 00:10:50,550 --> 00:10:57,891 このご赦免状さえあれば 大手を振って 日本へ帰ってくることができる。 70 00:10:57,891 --> 00:11:02,495 一刻も早く 助左衛門の手に渡してやりたいものだ。 71 00:11:02,495 --> 00:11:07,367 明日 呂宋へ出帆する船に 託そうと思っております。 72 00:11:07,367 --> 00:11:11,838 イルマンの作次に お預けになるがよい。 73 00:11:11,838 --> 00:11:16,509 もしも 船が イスパニア側の検閲を 受けることがあっても➡ 74 00:11:16,509 --> 00:11:22,382 相手が修道士なれば おろそかな扱いもいたしますまい。 75 00:11:22,382 --> 00:11:27,854 大事な書状だ。 もしものことがないように。 76 00:11:27,854 --> 00:11:31,524 よい方を教えてくださいました。 77 00:11:31,524 --> 00:11:35,862 この書状は 作次殿に お預かり願いましょう。 78 00:11:35,862 --> 00:11:41,734 治部殿も 朝鮮より撤収という 厄介な責務を負わされて➡ 79 00:11:41,734 --> 00:11:46,206 なかなか難儀をしているようです。 80 00:11:46,206 --> 00:11:52,078 伺うところによれば 加藤主計頭様 細川越中守様など➡ 81 00:11:52,078 --> 00:11:59,752 遠征帰りの大名方が こぞって 治部様を目の敵にしておられるとか…。 82 00:11:59,752 --> 00:12:02,689 全く あの武辺者の大名たちは➡ 83 00:12:02,689 --> 00:12:09,162 不毛の戦の憤まんを 奉行の治部殿一人に 押しつけているふうだが➡ 84 00:12:09,162 --> 00:12:12,498 内輪もめも ほどほどにしておかぬと➡ 85 00:12:12,498 --> 00:12:16,169 いつ また火の粉をあおって 大火に転じようとする者が➡ 86 00:12:16,169 --> 00:12:18,504 現れんとも限らない。 87 00:12:18,504 --> 00:12:23,509 治部様も お心の休まる間がございませぬな。 88 00:12:27,847 --> 00:12:32,719 助左衛門にも 力になってもらいたいのでしょう。 89 00:12:32,719 --> 00:12:35,722 こんなに早く赦免状を出したのも➡ 90 00:12:35,722 --> 00:12:41,394 助左衛門を呼び戻して 頼み事をするつもりかもしれない。 91 00:12:41,394 --> 00:12:47,533 治部様が 助左衛門殿に 何をお頼みなさるのでございましょう。 92 00:12:47,533 --> 00:12:51,204 さて それは分からぬが…。 93 00:12:51,204 --> 00:12:58,544 例えば 秀頼様の国外撤退というようなことも…。 94 00:12:58,544 --> 00:13:01,814 秀頼様…? 95 00:13:01,814 --> 00:13:08,154 豊臣家のお世継ぎが 一体 誰の手から 逃げねばならぬのでございますか? 96 00:13:08,154 --> 00:13:11,491 豊臣家の大老➡ 97 00:13:11,491 --> 00:13:16,162 徳川家康。 98 00:13:16,162 --> 00:13:18,865 徳川様!? 99 00:13:23,036 --> 00:13:30,043 <助左衛門の帰国を許す三成の赦免状が 呂宋へ渡る> 100 00:13:46,526 --> 00:13:48,861 ああ 暑い 暑い 暑い…。 101 00:13:48,861 --> 00:13:50,863 暑~っ。 102 00:13:52,532 --> 00:13:54,834 何だ これ? 103 00:13:57,403 --> 00:13:59,405 ぬしのために縫った。 104 00:13:59,405 --> 00:14:02,141 うん? 105 00:14:02,141 --> 00:14:05,478 気に食わなければ 捨ててもいい。 106 00:14:05,478 --> 00:14:11,818 いや… とんでもない。 そらあ ありがとう。 107 00:14:11,818 --> 00:14:14,153 (弥次郎)ヘッヘ…。 何だよ その顔は。 108 00:14:14,153 --> 00:14:17,824 へっ? いや お似合いでしょうな。 109 00:14:17,824 --> 00:14:20,493 しかし 立派なもんだ。 110 00:14:20,493 --> 00:14:24,831 着物を縫うのを 誰に習った。 死んだ母者に。 111 00:14:24,831 --> 00:14:28,701 ああ ツルの母者は 日本人だったな。 112 00:14:28,701 --> 00:14:33,840 今 お召しになってみては? 船長。 ツルさんも 見たいでしょう。 ねえ! 113 00:14:33,840 --> 00:14:35,775 そうしよう 早速に。 114 00:14:35,775 --> 00:14:39,712 船長! 船長! 115 00:14:39,712 --> 00:14:41,714 何だ 小太郎。 あっ 船長。 116 00:14:41,714 --> 00:14:44,183 沖に 今井船が見えたという知らせが 来ました。 117 00:14:44,183 --> 00:14:46,853 来たか。 よし 艀を出して 川を上らせよう。 118 00:14:46,853 --> 00:14:50,156 俺が連れてきます。 私も行く。ああ。 119 00:15:00,800 --> 00:15:06,672 妙だな。 合図を送っても 返事が返ってこない。 120 00:15:06,672 --> 00:15:09,675 手を振る人影も見当たらん。 121 00:15:11,444 --> 00:15:14,814 漂流船のようだな。 難破船では? 122 00:15:14,814 --> 00:15:19,152 いや。 帆や船体は しっかりしている。 123 00:15:19,152 --> 00:15:22,155 時化を受けたようには見えないがな…。 124 00:15:39,172 --> 00:15:45,044 (うめき声) 125 00:15:45,044 --> 00:15:48,181 おい しっかりしろ! これは 何事だ! 126 00:15:48,181 --> 00:15:50,116 おい どうした? 127 00:15:50,116 --> 00:15:52,852 水をくれ… 水。 128 00:15:52,852 --> 00:15:57,557 水が腐ってる! 水にやられたのか! 129 00:16:02,462 --> 00:16:05,765 よし 船ごと運ぶぞ! おおっ! 130 00:16:10,336 --> 00:16:13,339 港は すぐよ! しっかり! 131 00:16:17,476 --> 00:16:19,412 これは? 132 00:16:19,412 --> 00:16:25,351 (作次)納屋助左衛門殿へ… 赦免状。 133 00:16:25,351 --> 00:16:27,653 助左衛門へ? 134 00:16:29,822 --> 00:16:35,161 日本へ 帰国が許されたと…➡ 135 00:16:35,161 --> 00:16:39,499 ご帰還をお待ちしていると…➡ 136 00:16:39,499 --> 00:16:44,504 今井の美緒殿より…。 137 00:16:49,509 --> 00:17:26,145 ♬~ 138 00:17:26,145 --> 00:17:30,449 しっかりして。 大丈夫よ。 しっかりして。 139 00:17:58,511 --> 00:18:03,115  回想  (作次)日本へ 帰国が許されたと…➡ 140 00:18:03,115 --> 00:18:07,453 ご帰還をお待ちしていると…➡ 141 00:18:07,453 --> 00:18:12,158 今井の美緒殿より…。 142 00:18:21,801 --> 00:18:25,671 (小太郎)ツルを嫁にしたいのですが…。 143 00:18:25,671 --> 00:18:29,141 ツルを ぬしの嫁に? 144 00:18:29,141 --> 00:18:31,477 はい…。 145 00:18:31,477 --> 00:18:34,380 いつから そんな気持ちになった? 146 00:18:34,380 --> 00:18:37,350 初めて つかみ合いをした時から 何となく…。 147 00:18:37,350 --> 00:18:41,821 一目惚れか。 はい。 148 00:18:41,821 --> 00:18:45,157 で ツルも承知したのか? 149 00:18:45,157 --> 00:18:47,827 ツルの気持ちを 聞いてもらいたいのです。 150 00:18:47,827 --> 00:18:50,730 何だ 両方で 好き合ってるんじゃないのか。 151 00:18:50,730 --> 00:18:52,698 片思いか。 152 00:18:52,698 --> 00:18:55,167 そうです。 ハッハッハッハ。 153 00:18:55,167 --> 00:18:59,505 船長から ツルの気持ちを 確かめてもらいたいのです。 154 00:18:59,505 --> 00:19:02,775 今井のご両親に 無断でいいのか? 155 00:19:02,775 --> 00:19:06,646 2,000里も離れていては 断りようもありません。 156 00:19:06,646 --> 00:19:11,450 代わりに 船長のお許しを得たいのです。 157 00:19:11,450 --> 00:19:15,321 わしには 何とも言えんが それこそ ツルの気持ち次第だろ。 158 00:19:15,321 --> 00:19:20,326 ツルに言っていただけますか? 俺の女房になるようにと。 159 00:19:23,062 --> 00:19:28,000 無理強いはできんが… わしも反対はしない。 160 00:19:28,000 --> 00:19:30,803 許していただけますか? 161 00:19:30,803 --> 00:19:35,474 よし ツルの気持ちを当たってみよう。 162 00:19:35,474 --> 00:19:38,144 それが先だ。 163 00:19:38,144 --> 00:19:41,480 万端 よろしくお願い申し上げます。 164 00:19:41,480 --> 00:19:43,482 うん…。 165 00:19:49,355 --> 00:19:53,359 掛けて。 うん? ああ…。 166 00:19:55,494 --> 00:19:58,397 いけなかった? 勝手に こんなことして。 167 00:19:58,397 --> 00:20:00,366 いや… そんなことはない。 168 00:20:00,366 --> 00:20:04,170 ただ これから 墓穴を掘りに行かなきゃならないんで。 169 00:20:04,170 --> 00:20:07,840 食べてから 私たちも手伝うよ。 170 00:20:07,840 --> 00:20:11,844 ああ そう…。 じゃあ そうしようか。 171 00:20:16,849 --> 00:20:20,186 ああ…? 172 00:20:20,186 --> 00:20:22,121 いい匂いがする。 173 00:20:22,121 --> 00:20:24,123 頂きます。 174 00:20:27,860 --> 00:20:31,864 うん うまい! うまい! 175 00:20:39,472 --> 00:20:41,874 頂きます。 176 00:20:41,874 --> 00:20:45,544 何を祈った? 177 00:20:45,544 --> 00:20:52,418 今日 船で運ばれてきた 大勢の病人の命をお助けください。 178 00:20:52,418 --> 00:20:57,556 不幸にして死んでいった人々を 天国へ お導きください。 179 00:20:57,556 --> 00:21:00,459 今日の糧を感謝いたします。 180 00:21:00,459 --> 00:21:05,164 それから…。 まだあるのか。 181 00:21:05,164 --> 00:21:11,837 助左衛門を いつまでも ディラオに おとどめください。 182 00:21:11,837 --> 00:21:17,176 神に祈るまでもない。 わしは ずっと この国にいるよ。 183 00:21:17,176 --> 00:21:19,845 日本へは帰りたくないの? 184 00:21:19,845 --> 00:21:25,184 帰りたくとも 帰ることはできない。 追放の身の上だ。 185 00:21:25,184 --> 00:21:28,854 生涯 この呂宋で暮らすつもり? 186 00:21:28,854 --> 00:21:34,160 ご赦免にでもならない限り そうするより しかたがあるまい。 187 00:21:36,529 --> 00:21:42,868 しかし なぜ 改まって聞く? そのようなことを。 188 00:21:42,868 --> 00:21:44,870 うん? 189 00:21:50,543 --> 00:21:55,214 今度は わしが尋ねようかな。 私に?うん。 190 00:21:55,214 --> 00:21:59,084 ツルという名は ぬしの母者が付けてくれたのか? 191 00:21:59,084 --> 00:22:01,020 知らない。 192 00:22:01,020 --> 00:22:04,823 多分 そうだろう。 なぜ 分かる? 193 00:22:04,823 --> 00:22:09,495 鶴というのは 鳥の名だ。 194 00:22:09,495 --> 00:22:16,368 日本の北の方にすんでいる 首が長くて こう 羽が真っ白で➡ 195 00:22:16,368 --> 00:22:20,840 天女のように美しい鳥だ。 初めて聞いた。 196 00:22:20,840 --> 00:22:27,713 ぬしの母者も 日本をしのんで きっと 我が子に その名を付けたんだろう。 197 00:22:27,713 --> 00:22:30,516 見てみたい ツルという鳥。 198 00:22:30,516 --> 00:22:36,388 鶴が見たければ 日本へ行ってみることだ。 199 00:22:36,388 --> 00:22:40,526 日本へ行く気はないか? ある。 200 00:22:40,526 --> 00:22:45,864 このディラオの町に 別れを告げることは 平気か? 201 00:22:45,864 --> 00:22:49,735 助左衛門と共に行けるなら。 202 00:22:49,735 --> 00:22:53,205 わしと? 203 00:22:53,205 --> 00:22:57,910 ぬしには なぜ 女房がいない。 204 00:23:00,813 --> 00:23:08,153 死んでしまったんだ 女房にしようと決めていた女が…。 205 00:23:08,153 --> 00:23:11,056 死んだ? 206 00:23:11,056 --> 00:23:15,494 このディラオの町で…。 207 00:23:15,494 --> 00:23:19,365 美緒という人は? 208 00:23:19,365 --> 00:23:22,835 どうして 美緒様の名を知っている。 209 00:23:22,835 --> 00:23:27,506 弥次郎から聞いた。 そうか。 210 00:23:27,506 --> 00:23:34,380 美緒様というのはな 今日入ってきた今井船の船主だ。 211 00:23:34,380 --> 00:23:37,182 あのお方が どうかしたか? 212 00:23:37,182 --> 00:23:43,055 その女 ぬしの思い人だろう。 213 00:23:43,055 --> 00:23:45,057 誰が そんなことを…。 214 00:23:45,057 --> 00:23:47,760 小太郎に聞いた。 215 00:23:51,730 --> 00:23:55,734 うそは いかん。 本当だ! 216 00:23:58,871 --> 00:24:04,476 美緒様というのはな その小太郎の母者なのだぞ。 217 00:24:04,476 --> 00:24:06,812 うそだ。 218 00:24:06,812 --> 00:24:10,115 うそを言ってるのは ぬしの方じゃないか。 219 00:24:11,684 --> 00:24:16,822 ああ 小太郎といえば…➡ 220 00:24:16,822 --> 00:24:20,693 彼のことについて ちょっと話したいことがあるんだ。 221 00:24:20,693 --> 00:24:28,434 それでは 美緒という女は ぬしとは 何でもないのね。 222 00:24:28,434 --> 00:24:30,836 うん? 223 00:24:30,836 --> 00:24:36,175 私を嫁にして。 224 00:24:36,175 --> 00:24:38,110 な…。 225 00:24:38,110 --> 00:24:42,514 ぬしの嫁になりたい! 226 00:24:42,514 --> 00:24:44,817 ツル…。 227 00:24:59,531 --> 00:25:02,534 なんということだ…。 228 00:25:13,812 --> 00:25:18,984 <太閤の死より5か月後の慶長4年正月。➡ 229 00:25:18,984 --> 00:25:24,189 天下の巨城である大坂城の主が交代する> 230 00:25:26,492 --> 00:25:32,364 <それまで大坂城を守っていた 秀吉の正室 北政所に代わって➡ 231 00:25:32,364 --> 00:25:36,835 伏見城より 豊臣家の世継ぎ 秀頼が➡ 232 00:25:36,835 --> 00:25:44,143 その母 淀君と共に 新しい天下の主として乗り込んでくる> 233 00:25:50,182 --> 00:25:53,085 (淀君)治長。 (治長)はい。 234 00:25:53,085 --> 00:25:58,524 (淀君) 北政所様は まだ 城中におられるのか。 235 00:25:58,524 --> 00:26:05,330 はい。 北政所様には 本日より 大坂をご退居あそばし➡ 236 00:26:05,330 --> 00:26:11,470 京都三本木に ご引退の後 落飾あそばされます。 237 00:26:11,470 --> 00:26:15,340 (淀君)尼になられるのか…。➡ 238 00:26:15,340 --> 00:26:22,481 さて では これより 若君を伴って お別れのご挨拶に伺いましょう。 239 00:26:22,481 --> 00:26:28,153 恐れながら 豊臣家の御大将は 秀頼様でございます。 240 00:26:28,153 --> 00:26:35,828 ご挨拶には 北政所様のほうより 当方へ出向かれるのが 筋目かと存じます。 241 00:26:35,828 --> 00:26:38,497 あのお方は こちらには参られまい。 242 00:26:38,497 --> 00:26:42,801 しからば こちらも お見送りは ご無用でございましょう。 243 00:26:44,369 --> 00:26:48,373 お待ちしましょう ここで。 244 00:26:50,509 --> 00:26:56,181 おみゃあ様が 近江の長浜で➡ 245 00:26:56,181 --> 00:27:00,786 初めて城持ちの大名になられた時➡ 246 00:27:00,786 --> 00:27:04,656 わたしゃ 27だった。 247 00:27:04,656 --> 00:27:12,798 よくもまあ長ぁこと おふくろ様と2人きりで➡ 248 00:27:12,798 --> 00:27:17,669 尾張の館に ほったらかしにされといたもんだが➡ 249 00:27:17,669 --> 00:27:22,474 長浜からの迎えの輿に乗せられた時は➡ 250 00:27:22,474 --> 00:27:28,814 そんな恨みも いっぺんに吹き飛ぶ心地だった。 251 00:27:28,814 --> 00:27:38,490 長浜の峠で おみゃあ様の赤ぁ陣羽織が 見えた時には➡ 252 00:27:38,490 --> 00:27:41,827 思わず泣いてまった。 253 00:27:41,827 --> 00:27:46,165 フッ… フッフッフッフ。 254 00:27:46,165 --> 00:27:49,835 おみゃあ様ったら 待ち切れんで➡ 255 00:27:49,835 --> 00:27:57,509 峠の上から 馬を蹴って 駆けておいでになった。 256 00:27:57,509 --> 00:28:06,318 赤ぁ陣羽織と 赤糸の素がけおどしの腹当てやら➡ 257 00:28:06,318 --> 00:28:12,991 太刀飾りの金物や 駒の唐鞍が➡ 258 00:28:12,991 --> 00:28:17,796 春の日ざしを はね返すみたぁに➡ 259 00:28:17,796 --> 00:28:24,136 キラキラと輝きながら駆けてくる…。 260 00:28:24,136 --> 00:28:31,810 あの時の おみゃあ様のりりしいお姿…➡ 261 00:28:31,810 --> 00:28:35,681 今も目を閉じたら➡ 262 00:28:35,681 --> 00:28:39,685 昨日のように よみぎゃあってくる。 263 00:28:42,454 --> 00:28:48,760 あの時が 私には 一番幸せだった…。 264 00:28:57,502 --> 00:29:02,774 このお城にも 何の未練もねえ。 265 00:29:02,774 --> 00:29:07,446 豊臣家の花は 一輪でええ。 266 00:29:07,446 --> 00:29:17,122 おみゃあ様と私の2人で育てて咲かせた 豊臣の大輪だわ。 267 00:29:17,122 --> 00:29:22,995 ほんに見事に咲いた。 268 00:29:22,995 --> 00:29:30,135 あとは 自然の摂理に任せて 枯れてくならば それでもええ。 269 00:29:30,135 --> 00:29:33,839 一輪限りで 未練はねえ。 270 00:29:35,474 --> 00:29:39,144 (長盛)北政所様。➡ 271 00:29:39,144 --> 00:29:43,849 そろそろ ご出立のお時刻にございます。 272 00:29:46,018 --> 00:29:50,022 長盛か…。 はっ。 273 00:29:52,491 --> 00:29:54,793 参りましょう。 274 00:30:05,070 --> 00:30:11,176 ♬~ 275 00:30:11,176 --> 00:30:15,881 もう ここへも 二度と上がることはあるまい…。 276 00:30:19,518 --> 00:30:24,389 <北政所。 名は ねね。➡ 277 00:30:24,389 --> 00:30:29,861 尾張国は旭村の足軽の娘として生を受け➡ 278 00:30:29,861 --> 00:30:33,732 風雲児 秀吉の妻となって 乱世を渡り➡ 279 00:30:33,732 --> 00:30:39,204 ここに 位人臣を極めた戦国の女。➡ 280 00:30:39,204 --> 00:30:44,543 秀吉の死後 出家し 高台院殿と称せられ➡ 281 00:30:44,543 --> 00:30:51,550 徳川家康の庇護の下に 83歳の長寿を全うした> 282 00:31:02,027 --> 00:31:05,163 今日 堺の伴天連墓地で➡ 283 00:31:05,163 --> 00:31:08,066 それがし 思わぬ方に邂逅いたした。 284 00:31:08,066 --> 00:31:13,505 今夜は その方よりの伝言を持って まかり越した次第でござる。 285 00:31:13,505 --> 00:31:17,843 堺の伴天連墓地とは また 異な所で…。 286 00:31:17,843 --> 00:31:19,778 どなたでござるか? 287 00:31:19,778 --> 00:31:21,713 女人でござる。 288 00:31:21,713 --> 00:31:26,184 …と申しても まず お察しはつくまいと思うが。 289 00:31:26,184 --> 00:31:30,889 はて とんと見当もつき申さぬ。 290 00:31:37,529 --> 00:31:42,200 細川忠興夫人でござる。 291 00:31:42,200 --> 00:31:44,503 たま殿…。 292 00:31:57,549 --> 00:32:00,152 (たま)治部少輔様に お伝えくださりませ。 293 00:32:00,152 --> 00:32:04,022 明日の大坂ご登城は お見合わせをくださいますようにと。 294 00:32:04,022 --> 00:32:07,025 登城をやめよとは いかなる理由でございましょうか。 295 00:32:07,025 --> 00:32:11,763 ご登城の輿を襲撃せんとする 企てがございます。えっ! 296 00:32:11,763 --> 00:32:17,169 何とぞ 行長様より それだけ お伝えくださりませ。 297 00:32:17,169 --> 00:32:19,838 たま殿。 298 00:32:19,838 --> 00:32:24,709 どうか これ以上のお尋ねは ご勘弁くださりませ。 299 00:32:24,709 --> 00:32:27,712 しからば ただ一つ。 300 00:32:27,712 --> 00:32:32,184 こなた様が 何故 治部少輔殿の命を 助けようとなさるのか…。 301 00:32:32,184 --> 00:32:36,521 それだけなりと お尋ねしたい。 302 00:32:36,521 --> 00:32:41,860 遠い昔に ご恩を受けました。 303 00:32:41,860 --> 00:32:46,731 治部様には もはや お忘れかもしれませぬが…➡ 304 00:32:46,731 --> 00:32:49,734 そのご恩返しとでも…。 305 00:32:53,205 --> 00:32:55,540 (行長)首謀者は分かっている。 306 00:32:55,540 --> 00:33:00,378 加藤清正に 細川忠興らの たくらんだことだ。 307 00:33:00,378 --> 00:33:04,349 信じ難い思いだ…。 308 00:33:04,349 --> 00:33:11,823 あの たま殿が それがしのために そのような密告を…。 309 00:33:11,823 --> 00:33:18,129 夫の忠興に知れれば その場で手討ちものだ。 310 00:33:34,846 --> 00:33:43,855 そういえば 今日も 私は 朝から あの方のことを思い浮かべてきた。 311 00:33:43,855 --> 00:33:49,527 なぜだろうと思っていたのだが 今 分かった。 312 00:33:49,527 --> 00:33:52,197 この雪だ。 313 00:33:52,197 --> 00:33:57,869 雪が あの方を思い出させたのだ。 314 00:33:57,869 --> 00:34:00,472 思い返してみれば➡ 315 00:34:00,472 --> 00:34:05,810 これまでも 雪を見る度に あの方を思い出していたような気がする。 316 00:34:05,810 --> 00:34:10,682 あの方も 同じ思いで いてくださったのであろうか…。 317 00:34:10,682 --> 00:34:40,979 ♬~ 318 00:34:45,483 --> 00:35:07,138 ⚟♬~(歌声) 319 00:35:07,138 --> 00:35:18,149 ♬~(歌声) 320 00:35:28,827 --> 00:35:34,165 やあ。 何か 御用? 321 00:35:34,165 --> 00:35:37,836 俺のこと 嫌いか? 322 00:35:37,836 --> 00:35:39,771 出ていって。 323 00:35:39,771 --> 00:35:41,706 俺の嫁になってくれ。 324 00:35:41,706 --> 00:35:44,409 出ていって! ツル! 325 00:35:52,183 --> 00:35:54,185 (壺が割れる音) 326 00:35:58,523 --> 00:36:02,527 よこせ! 赦免状!? 327 00:36:04,329 --> 00:36:09,467 船長の赦免状が なぜ こんなとこにあるんだ。 328 00:36:09,467 --> 00:36:12,370 シャメン状って 何のことさ。 329 00:36:12,370 --> 00:36:17,375 隠さず 答えろ! これ いつ来た! なぜ ぬしは隠していたんだ!? 330 00:36:19,144 --> 00:36:24,482 船長を 日本へ帰したくない。 331 00:36:24,482 --> 00:36:26,418 何…? 332 00:36:26,418 --> 00:36:33,491 私は… 船長が好きだ。 333 00:36:33,491 --> 00:36:42,801 (泣き声) 334 00:36:55,180 --> 00:37:01,786 太閤殿下が亡くなられたんだな…。 335 00:37:01,786 --> 00:37:07,659 (弥次郎)ご赦免と決まったら ひとまず 堺へ戻りましょう。 336 00:37:07,659 --> 00:37:11,796 治部様や 今井の御寮様➡ 337 00:37:11,796 --> 00:37:15,133 堺に置き去りにしてきた水夫たちに➡ 338 00:37:15,133 --> 00:37:20,138 船長の無事な姿を見せてやらなくちゃ。 339 00:37:25,777 --> 00:37:28,079 ツルは? 340 00:37:30,482 --> 00:37:33,184 泣いていました。 341 00:37:38,823 --> 00:38:17,462 ♬~ 342 00:38:17,462 --> 00:38:22,800 何も言わなくていい。 343 00:38:22,800 --> 00:38:26,104 思い出しながら なんとか折ったんだが…。 344 00:38:27,672 --> 00:38:30,475 これが 鶴だ。 345 00:38:30,475 --> 00:38:51,496 ♬~ 346 00:38:51,496 --> 00:38:54,165 これが…。 347 00:38:54,165 --> 00:38:59,170 そう。 これが 鶴だよ。 348 00:39:08,680 --> 00:39:14,786 ぬしは フィリピン人だ。 349 00:39:14,786 --> 00:39:21,793 この呂宋島に生まれた 新しい民人だ。 350 00:39:23,461 --> 00:39:29,467 フィリピン人というのは こんなに泣き虫か? 351 00:39:35,073 --> 00:39:41,813 鶴は 美しいだけの鳥じゃない。 352 00:39:41,813 --> 00:39:45,483 毅然として 誇り高く➡ 353 00:39:45,483 --> 00:39:49,354 ほかのどんな鳥よりも➡ 354 00:39:49,354 --> 00:39:54,158 常に高みを飛翔している。 355 00:39:54,158 --> 00:40:00,164 ツル。 ぬしも その美しい鶴じゃないか。 356 00:40:02,500 --> 00:40:11,175 これからも 高みへ向かって 飛び立つんだ。 357 00:40:11,175 --> 00:40:31,162 ♬~ 358 00:41:00,825 --> 00:41:05,163 おっ 小太郎。 ぬしも 元気よく 手を振ってやれ。 359 00:41:05,163 --> 00:41:09,033 何を そういつまで 仏頂面をしてるんだ。 360 00:41:09,033 --> 00:41:15,506 船長… ツルは 本当に そう言ったんですか? 361 00:41:15,506 --> 00:41:20,378 俺がディラオに残れば 嫁になってもいいって…。 362 00:41:20,378 --> 00:41:24,849 何度 同じことを言わせるんだ。 はっきり そう言ったとも。 363 00:41:24,849 --> 00:41:29,520 だが おぬしは こうやって 日本へ帰る道を選んだんじゃないか。 364 00:41:29,520 --> 00:41:34,392 違うのか? 迷ってるんです まだ…。 365 00:41:34,392 --> 00:41:38,529 今なら まだ 泳ぎ着けるぞ。 うん? 366 00:41:38,529 --> 00:41:41,532 ツルの姿も かすかだが まだ見える。 367 00:41:43,201 --> 00:41:46,537 どうしたらいいのか 指図してください。 368 00:41:46,537 --> 00:41:49,207 他人に聞くことではない。 369 00:41:49,207 --> 00:41:52,510 己自身で決めることだ。 370 00:42:28,046 --> 00:42:40,491 ♬~ 371 00:42:40,491 --> 00:42:45,396 <16世紀が やがて終わろうとしている。➡ 372 00:42:45,396 --> 00:42:49,534 1598年9月18日➡ 373 00:42:49,534 --> 00:42:55,406 ヨーロッパでは イスパニアとポルトガル 両国の王である フェリーペ2世が死に➡ 374 00:42:55,406 --> 00:43:02,113 日本では それより僅か5日後に 太閤 秀吉が死んだ。➡ 375 00:43:02,113 --> 00:43:09,821 東西の絶対君主の死とともに 16世紀そのものも また 幕を下ろす。➡ 376 00:43:09,821 --> 00:43:13,691 やがて来るべき暗黒の鎖国時代を前に➡ 377 00:43:13,691 --> 00:43:21,432 近世日本の黄金時代の最後のあえぎとでも 言うべき戦いが始まっていく。➡ 378 00:43:21,432 --> 00:43:30,508 その分裂と抗争の渦の中へ 助左衛門の船は 今 旅立っていく。➡ 379 00:43:30,508 --> 00:43:36,380 1599年の冬の海を越えて> 380 00:43:36,380 --> 00:43:47,091 ♬~