1 00:00:10,000 --> 00:00:12,700 <ある夏のこと 私は 大学の友人である 2 00:00:12,700 --> 00:00:16,060 甲田伸太郎に 3 00:00:16,060 --> 00:00:17,420 夏休みを遊び暮そうと誘われ 4 00:00:17,420 --> 00:00:22,800 甲田ほどは 親しくなかったけれど やはり大学の同窓で 5 00:00:22,800 --> 00:00:27,170 彼の親友 結城弘一の家に 6 00:00:27,170 --> 00:00:29,170 半月ばかり 逗留した> 7 00:00:38,630 --> 00:00:43,000 <結城家には 一人の美しい女性がいた。 8 00:00:43,000 --> 00:00:48,000 志摩子さんといって…> 9 00:01:01,850 --> 00:01:03,550 <のんきな学生生活に お別れの夏を 10 00:01:03,550 --> 00:01:08,920 弘一君たちは パラソルの下で笑い興じた。 11 00:01:08,920 --> 00:01:12,920 実に自由で のびやかな日々だった> 12 00:01:20,040 --> 00:01:22,400 <弘一君の家は お金持ちで 13 00:01:22,400 --> 00:01:27,100 ある晩 少将の誕生祝いがあった。 14 00:01:27,100 --> 00:01:32,100 宴は終って 夏の夜の興を 惜んで 座に残っていた> 15 00:01:56,070 --> 00:01:58,760 ・(大きな音) 16 00:01:58,760 --> 00:02:03,760 ・(甲田) 誰か来て下さい! 大変です! 弘一君が 大変です! 17 00:02:36,130 --> 00:02:39,130 どうしたんだ!? 18 00:02:58,690 --> 00:03:01,380 弘一。 19 00:03:01,380 --> 00:03:05,080 <弾丸が 足首を射ぬいていた> 20 00:03:05,080 --> 00:03:08,080 (結城夫人)弘一…。 21 00:03:33,360 --> 00:03:34,720 (うめき声) 22 00:03:34,720 --> 00:03:42,120 <意識を取りもどした弘一君は 病院へ。 23 00:03:42,120 --> 00:03:46,840 警察署から 波多野警部が到着した。 24 00:03:46,840 --> 00:03:50,540 賊は 書斎にあった 金製の置時計 25 00:03:50,540 --> 00:03:55,250 万年ペン 懐中時計 煙草セット 26 00:03:55,250 --> 00:03:59,250 つまり 金製品を ことごとく奪い去った> 27 00:04:02,320 --> 00:04:05,350 (波多野)賊は金製品を 盗み集めているところへ 28 00:04:05,350 --> 00:04:12,350 弘一君が ひょっこり入ったので 恐怖のあまり ピストルを発射した。 29 00:04:32,970 --> 00:04:38,350 <好奇心の強い私は 警部のあとを追った。 30 00:04:38,350 --> 00:04:42,050 邪魔者は 私一人でなかった。 31 00:04:42,050 --> 00:04:46,050 やはり 誕生祝いに呼ばれた 赤井さんであった> 32 00:04:55,860 --> 00:05:00,910 <結城家に泊り込んだ二日目 赤井さんと弘一君が 33 00:05:00,910 --> 00:05:06,910 犯罪学や探偵談の書物が 並んでいる書斎で話していた> 34 00:05:19,440 --> 00:05:25,820 <彼等は いずれおとらぬ探偵通で 赤井さんが事件に興味をもち 35 00:05:25,820 --> 00:05:30,550 足跡を見に来たのは 無理もないことである> 36 00:05:30,550 --> 00:05:36,930 おやおや? 犯人は 井戸の中へ飛び込んだのかしら。 37 00:05:36,930 --> 00:05:38,930 足跡を踏まぬように! 38 00:05:45,350 --> 00:05:47,720 <信じがたいことであった。 39 00:05:47,720 --> 00:05:52,720 警部は現場の見取図を書きつけた> 40 00:06:32,150 --> 00:06:35,530 その時 君は 賊の姿を見なかったのですね? 41 00:06:35,530 --> 00:06:37,880 見ませんでした。 42 00:06:37,880 --> 00:06:40,910 <志摩子さんは> 43 00:06:40,910 --> 00:06:43,610 思い違いかもしれませんけど 私の書斎へも 44 00:06:43,610 --> 00:06:47,610 誰か入った者が あるらしいのでございます。 45 00:07:02,120 --> 00:07:06,840 <例の足跡を見直そうと 五時に床を出た。 46 00:07:06,840 --> 00:07:09,860 又しても 赤井さんである。 47 00:07:09,860 --> 00:07:15,250 彼は 建物に身をかくして 北よりの方角を 覗いている> 48 00:07:15,250 --> 00:07:18,950 ああ~! 49 00:07:18,950 --> 00:07:23,670 やあ 松村さんでしたか。 50 00:07:23,670 --> 00:07:27,670 <私は 彼を つきのけるように 北の方をながめたが…> 51 00:07:35,460 --> 00:07:40,460 <其後 結城邸に いとまを告げた私は…> 52 00:07:47,580 --> 00:07:53,970 <彼は有福らしい家を出て 逃げるように スタスタと行く。 53 00:07:53,970 --> 00:07:56,320 私も後を追った。 54 00:07:56,320 --> 00:08:01,320 表札を見ると 「琴野三右衛門」とあった> 55 00:08:03,060 --> 00:08:08,790 <一丁ばかりで追いついた> 56 00:08:08,790 --> 00:08:11,790 やあ。 57 00:08:17,200 --> 00:08:18,560 <わけを たずねても…> 58 00:08:18,560 --> 00:08:21,560 何 ちょっと。 59 00:08:26,290 --> 00:08:28,650 ピストルの音がした時 60 00:08:28,650 --> 00:08:31,680 あなたは どこにおいでになったのですか? 61 00:08:31,680 --> 00:08:36,680 ちょうど タバコが切れていたので 買いに出かけていたのですよ。 62 00:08:47,170 --> 00:08:50,170 (ノック) 63 00:08:51,550 --> 00:08:57,550 松村君 よく来てくれたね。 64 00:09:06,350 --> 00:09:10,350 <彼は うれしそうに手を差し出した> 65 00:09:18,480 --> 00:09:21,180 不思議な事件だね。 66 00:09:21,180 --> 00:09:23,870 事によると これは 皆が考えているよりも 67 00:09:23,870 --> 00:09:26,220 ずっと恐ろしい犯罪だよ。 68 00:09:26,220 --> 00:09:28,250 ただの泥棒ではないと 言うのかね? 69 00:09:28,250 --> 00:09:32,250 泥棒なんて なまやさしい犯罪ではない。 70 00:09:33,970 --> 00:09:37,340 第一の不思議は 古井戸から発し終わっている 71 00:09:37,340 --> 00:09:40,700 内輪に歩く足跡だね。 72 00:09:40,700 --> 00:09:43,410 僕は 波多野さんに 現場の 見取り図を見せてもらったが 73 00:09:43,410 --> 00:09:49,120 行きと帰りの足跡が 不自然に離れていた。 74 00:09:49,120 --> 00:09:54,850 ああした場合 2点間の最短距離を 歩くはずではないだろうか。 75 00:09:54,850 --> 00:10:00,230 第二の不思議は 盗難品が 金製品に限られていた点だ。 76 00:10:00,230 --> 00:10:03,610 それを聞いた時 僕は すぐ思い当たった人物がある。 77 00:10:03,610 --> 00:10:05,960 その人物が 犯人だというのかい? 78 00:10:05,960 --> 00:10:10,330 盗まれた金製品で 一番大きいのは 何だと思う? 79 00:10:10,330 --> 00:10:15,040 恐らく置き時計だ。 80 00:10:15,040 --> 00:10:19,770 君 花瓶を この窓から 力いっぱい投げてくれないか。 81 00:10:19,770 --> 00:10:22,770 早く 早く! 82 00:10:24,480 --> 00:10:27,510 (割れる音) 83 00:10:27,510 --> 00:10:34,240 よしよし それでいいんだよ。 ありがとう。 84 00:10:34,240 --> 00:10:36,940 ところで 常爺やの妙な挙動だがね 85 00:10:36,940 --> 00:10:41,300 これが 最も有力な 手がかりになると思うよ。 86 00:10:41,300 --> 00:10:44,010 その翌朝 常爺やが何をしていたか 考えてみたまえ。 87 00:10:44,010 --> 00:10:47,710 あすこには 今 花なんてないし 種をまく時節でもない。 88 00:10:47,710 --> 00:10:52,710 結論は たった一つ。 89 00:11:02,860 --> 00:11:05,560 君 これから すぐ うずめた場所に行って 90 00:11:05,560 --> 00:11:08,920 その品物を 持ってきてくれないだろうか。 91 00:11:08,920 --> 00:11:12,280 行ってもいいがね。 君は さっき 92 00:11:12,280 --> 00:11:15,990 ただの泥棒の仕業ではなくて 悪魔の所業だと言ったね。 93 00:11:15,990 --> 00:11:20,030 何か根拠があるのかい? 94 00:11:20,030 --> 00:11:24,030 今は聞かないでくれたまえ。 95 00:11:27,780 --> 00:11:33,780 シェルシェ・ラ・ファンム。 96 00:11:54,030 --> 00:11:57,750 やっぱり… 恐ろしい事だ。 97 00:11:57,750 --> 00:12:01,750 あいつが そんな事を…。 98 00:12:04,140 --> 00:12:06,140 (ドアが開く音) 99 00:12:07,510 --> 00:12:11,510 だいぶ元気なようですね。 100 00:12:18,620 --> 00:12:25,010 え? 犯人が? 101 00:12:25,010 --> 00:12:28,380 琴野三右衛門という あの辺りの 地主を知ってますか? 102 00:12:28,380 --> 00:12:31,750 (弘一)ええ 知ってます。 その光雄という息子が 103 00:12:31,750 --> 00:12:35,460 金色のものに 非常な 執着を持っている黄金狂で 104 00:12:35,460 --> 00:12:40,460 部屋中が 仏壇みたいに金ピカなんです。 105 00:12:50,940 --> 00:12:56,670 まだです。 しかし なお十分調べさせるつもりです。 106 00:12:56,670 --> 00:13:02,720 フフフ… なるほど なるほど。 107 00:13:02,720 --> 00:13:06,760 ところで 例の井戸から発して 井戸で終わっている足跡を 108 00:13:06,760 --> 00:13:08,450 何と ご解釈になりました? 109 00:13:08,450 --> 00:13:12,450 目下 取り調べ中です。 110 00:13:17,540 --> 00:13:21,240 警察が見当違いでも やっているとでも 111 00:13:21,240 --> 00:13:23,930 言われるのですか? そうです。 112 00:13:23,930 --> 00:13:27,300 琴野光雄逮捕は とんでもない見当違いです。 113 00:13:27,300 --> 00:13:30,300 何ですって!? 114 00:13:30,670 --> 00:13:35,040 <赤井さん!> 115 00:13:35,040 --> 00:13:38,750 例の現場見取り図を お持ちでしょうか? 116 00:13:38,750 --> 00:13:42,750 <弘一君は 波多野警部に…> 117 00:13:49,530 --> 00:13:54,910 すると あの足跡は 犯人が 外部から来たと見せかけるトリック 118 00:13:54,910 --> 00:13:59,910 つまり… 119 00:14:09,400 --> 00:14:12,430 (弘一)僕は最初から そう思っていたのです。 120 00:14:12,430 --> 00:14:17,800 次に やつは なぜ 金製品ばかりを目がけたか。 121 00:14:17,800 --> 00:14:20,510 賊が 琴野光雄の仕業らしく 装うためだったでしょう。 122 00:14:20,510 --> 00:14:26,220 だが もう一つ それはね 123 00:14:26,220 --> 00:14:32,220 あの金製品類の大きさに 関係があるのですよ。 124 00:14:43,390 --> 00:14:48,100 松村君 花瓶を投げてもらったのはね 125 00:14:48,100 --> 00:14:51,130 盗まれた置き時計と同じぐらいの 重さだと思ったので 126 00:14:51,130 --> 00:14:53,830 どれほど遠くまで投げられるか 試したのだよ。 127 00:14:53,830 --> 00:14:56,530 しかし なぜ 犯人は そんなまねを…。 128 00:14:56,530 --> 00:15:00,230 何が犯人の真の目的だったと おっしゃるのですか? 129 00:15:00,230 --> 00:15:04,230 分かりきっているじゃ ありませんか。 130 00:15:05,620 --> 00:15:08,980 えっ あなたを殺す? 131 00:15:08,980 --> 00:15:12,690 たかが 金製品を盗んで あの発砲は 非常に不自然です。 132 00:15:12,690 --> 00:15:15,720 泥棒の方は見せかけで 133 00:15:15,720 --> 00:15:19,080 真の目的は 殺人だったのじゃないかとね。 134 00:15:19,080 --> 00:15:22,110 君を恨んでいた人物でも あるのですか? 135 00:15:22,110 --> 00:15:23,800 足跡が贋物だとしたら 136 00:15:23,800 --> 00:15:25,490 賊は廊下伝いに 逃げるしかありませんが 137 00:15:25,490 --> 00:15:28,850 廊下には 甲田君が通りかかっていた。 138 00:15:28,850 --> 00:15:31,200 逃げる事は不可能です。 とすると 139 00:15:31,200 --> 00:15:38,200 残るは 被害者の僕と 発見者の甲田君の2人。 140 00:15:43,670 --> 00:15:49,390 そうです。 彼は 被害者の親友で 最初の発見者という 141 00:15:49,390 --> 00:15:52,760 隠れみのに隠れていたのです。 142 00:15:52,760 --> 00:15:58,760 まさか あの甲田君が…。 143 00:15:59,830 --> 00:16:03,530 確かな証拠でもあるのですか? 144 00:16:03,530 --> 00:16:07,530 松村君。 145 00:16:09,250 --> 00:16:13,970 そういえば… 146 00:16:13,970 --> 00:16:17,970 もっと確かなものがあります。 147 00:16:26,080 --> 00:16:29,450 爺やが なぜ隠したか。 148 00:16:29,450 --> 00:16:32,490 松村君は どうして あれに気が付かなかったかなあ。 149 00:16:32,490 --> 00:16:36,490 毎日 一緒に海へ行ってたくせに。 150 00:17:05,480 --> 00:17:08,510 だが サックが落ちていたからといって 151 00:17:08,510 --> 00:17:10,870 どうして あの爺さんは そう簡単に 152 00:17:10,870 --> 00:17:14,240 甲田を疑ったのでしょう? 153 00:17:14,240 --> 00:17:20,240 <弘一君は 少し云いにくそうに話しはじめる> 154 00:17:29,390 --> 00:17:35,110 恥ずかしい話をすると 僕らは よく口論した。 155 00:17:35,110 --> 00:17:37,480 取っ組み合いさえやった。 156 00:17:37,480 --> 00:17:43,190 一番いけないのは 志摩子さんの曖昧な態度。 157 00:17:43,190 --> 00:17:44,550 そこで 甲田君にすれば 158 00:17:44,550 --> 00:17:48,240 許嫁という強みを持っている僕を 殺してしまえば 159 00:17:48,240 --> 00:17:50,930 という気になったのかも しれません。 160 00:17:50,930 --> 00:17:52,630 いがみ合いを知っていた 常爺やは 161 00:17:52,630 --> 00:17:58,630 甲田君所持のサックを見ると 意味を悟ったのでしょう。 162 00:18:08,110 --> 00:18:13,490 <警察へ届け出たものがあった。 163 00:18:13,490 --> 00:18:16,520 泥まみれの赤井さんであった。 164 00:18:16,520 --> 00:18:20,230 盗難品を取出すため 池へ はいったのであった。 165 00:18:20,230 --> 00:18:26,290 彼を犯人ではと疑ったが とんだ思い違いだった。 166 00:18:26,290 --> 00:18:33,290 靴足袋は 重い灰皿といっしょに ハンカチに包んであった> 167 00:18:45,140 --> 00:18:49,850 <だが 彼は いかに責められても なかなか 実を吐かない。 168 00:18:49,850 --> 00:18:54,850 いくら強情を張ったところで 証拠が そろい過ぎている> 169 00:19:12,420 --> 00:19:15,450 <赤井さんが たずねて来た。 170 00:19:15,450 --> 00:19:19,150 この人には とんだ疑いをかけて 済まなく思っていたので 171 00:19:19,150 --> 00:19:25,210 以前よりは親しく話しかけた。 172 00:19:25,210 --> 00:19:30,210 志摩子さんは…> 173 00:19:35,650 --> 00:19:43,050 <私たちは 志摩子さんを誘って 海岸へ散歩に出た> 174 00:19:43,050 --> 00:19:50,050 ほら 見たまえ ほら。 ちょっと 危ないわよ。 175 00:19:57,190 --> 00:19:59,560 何を そんなに 笑っていらっしゃるのよ。 176 00:19:59,560 --> 00:20:04,560 いえね つまらない事なんですよ。 177 00:20:10,320 --> 00:20:11,680 <それが ほどけ…> 178 00:20:11,680 --> 00:20:15,680 結んであげましょうか? 179 00:20:17,740 --> 00:20:23,740 結城さん すみませんが。 180 00:21:19,350 --> 00:21:20,700 どこに行っちまったんだろう? 181 00:21:20,700 --> 00:21:23,730 まさか 迷子にもなりますまい。 182 00:21:23,730 --> 00:21:27,440 それよりも ここで 一休みしようじゃありませんか。 183 00:21:27,440 --> 00:21:32,140 あ… よいしょ。 184 00:21:32,140 --> 00:21:33,830 実はね 内密で お話ししたい事があったのですよ。 185 00:21:33,830 --> 00:21:36,190 何です? 186 00:21:36,190 --> 00:21:38,550 あなたは 甲田君が真犯人だと 187 00:21:38,550 --> 00:21:41,550 本当に 信じていらっしゃるのですか? 188 00:21:44,260 --> 00:21:47,260 実はね… 189 00:21:53,020 --> 00:21:55,720 甲田君は ピストルの音を聞いた時 190 00:21:55,720 --> 00:21:58,750 志摩子さんの日記帳を 盗み読みしていたんです。 191 00:21:58,750 --> 00:22:01,100 ピストルで驚いて飛び出したから 192 00:22:01,100 --> 00:22:03,790 日記帳が そのまま 机に放り出してあった。 193 00:22:03,790 --> 00:22:10,190 つまり 彼が発射したのでは ない事になります。 194 00:22:10,190 --> 00:22:13,890 何のために 日記帳を 読んでいたというのでしょう。 195 00:22:13,890 --> 00:22:19,280 彼は 恋人の志摩子さんの 本当の心を判じかねたのです。 196 00:22:19,280 --> 00:22:23,670 日記帳を見たら それが分かりはしないかと。 197 00:22:23,670 --> 00:22:29,040 で… 198 00:22:29,040 --> 00:22:32,420 いや。 甲田君には 不利な証拠が そろい過ぎていますからね。 199 00:22:32,420 --> 00:22:34,780 そうでしょうとも。 200 00:22:34,780 --> 00:22:39,140 いや~ ところが 僕は反面 201 00:22:39,140 --> 00:22:41,510 有利な証拠も いくらか あるような気がするのです。 202 00:22:41,510 --> 00:22:45,200 第一に あなたを殺すのが目的なら 203 00:22:45,200 --> 00:22:47,570 なぜ 生死を確かめないで 人を呼んだか。 204 00:22:47,570 --> 00:22:50,940 第二には 足跡の重なる事を避けたほど 205 00:22:50,940 --> 00:22:55,300 綿密な彼が 自分の足癖を そのまま内輪につけておいた 206 00:22:55,300 --> 00:22:56,660 というのも信じ難い事です。 207 00:22:56,660 --> 00:23:00,360 第三の反証ですが それは 例のハンカチの結び目です。 208 00:23:00,360 --> 00:23:04,740 それは 俗に縦結びという 結び端が十文字に見えるような 209 00:23:04,740 --> 00:23:07,090 子供のよくやる結び方なのです。 210 00:23:07,090 --> 00:23:09,460 僕は早速 甲田君の家を訪問して 探してもらったところ 211 00:23:09,460 --> 00:23:13,150 帳面のとじ糸や 甲田君が結んだものが 212 00:23:13,150 --> 00:23:15,850 例外なく 普通の結び方なのです。 213 00:23:15,850 --> 00:23:20,560 甲田君が あのハンカチの結び方にまで 欺瞞をやったとは考えられない。 214 00:23:20,560 --> 00:23:22,580 結び目なんかよりも ずっと危険な 215 00:23:22,580 --> 00:23:27,640 頭字の入ったハンカチを 平気で使ったぐらいですからね。 216 00:23:27,640 --> 00:23:34,360 フフフ ハハハ…。 217 00:23:34,360 --> 00:23:39,080 それから 第四の 最も大切な反証はね 218 00:23:39,080 --> 00:23:43,460 ウフフフフフフ…。 219 00:23:43,460 --> 00:23:46,830 池の底から出た靴足袋がね 220 00:23:46,830 --> 00:23:54,230 滑稽な事に 甲田君の足には 小さすぎて合わないのですよ。 221 00:23:54,230 --> 00:23:56,590 アハハハハ…。 222 00:23:56,590 --> 00:24:01,300 証拠の羅列は もうたくさんです。 結論を言って下さい。 223 00:24:01,300 --> 00:24:03,660 あなたは 一体 誰が犯人だと おっしゃるのですか? 224 00:24:03,660 --> 00:24:07,020 それは あなたです。 225 00:24:07,020 --> 00:24:10,730 アハハハハ…。 フフフフフ…。 226 00:24:10,730 --> 00:24:13,760 冗談はよして下さい。 どこの世界に 227 00:24:13,760 --> 00:24:15,450 自分で自分に 発砲したりする やつがありましょう。 228 00:24:15,450 --> 00:24:18,480 びっくりさせないで下さい。 229 00:24:18,480 --> 00:24:24,480 犯人は あなたです。 230 00:24:26,890 --> 00:24:30,930 本気ですか? 231 00:24:30,930 --> 00:24:35,930 何を証拠に? 何の理由で? 232 00:24:39,010 --> 00:24:46,080 二から一引く 一。 233 00:24:46,080 --> 00:24:48,440 簡単な算術の問題にすぎません。 234 00:24:48,440 --> 00:24:54,160 甲田君が犯人でなかったら 残る あなたが犯人です。 235 00:24:54,160 --> 00:24:57,190 あなたの帯の結び目 236 00:24:57,190 --> 00:24:58,880 さっき結んでもらいました この包帯。 237 00:24:58,880 --> 00:25:01,910 やっぱり 十字型の間違った結び方です。 238 00:25:01,910 --> 00:25:07,970 これも 一つの 有力な証拠にはなりませんかね。 239 00:25:07,970 --> 00:25:11,330 だが 僕は なぜ自分自身を 240 00:25:11,330 --> 00:25:14,330 撃たなければ ならなかったのです? 241 00:25:20,090 --> 00:25:23,120 この事件では 全ての人が 242 00:25:23,120 --> 00:25:25,810 「被害者は 同時に 加害者ではありえない」という 243 00:25:25,810 --> 00:25:28,510 催眠術にかかっています。 実に考えた犯罪です。 244 00:25:28,510 --> 00:25:33,220 しかし 小説家の空想ですね。 245 00:25:33,220 --> 00:25:37,930 サックを現場に捨てたのも 金製品を 池に投げ込んだのも 246 00:25:37,930 --> 00:25:41,640 足跡をつけたのも 言うまでもなく あなたです。 247 00:25:41,640 --> 00:25:44,000 志摩子さんの書斎で 248 00:25:44,000 --> 00:25:47,360 甲田君が 日記帳を読んでいる 機会を利用し 249 00:25:47,360 --> 00:25:51,060 隣室の甲田君が その物音で 飛んでくる事を予知し 250 00:25:51,060 --> 00:25:55,060 足首を撃った。 アハハハハハ。 251 00:25:57,800 --> 00:26:01,500 なるほど なるほど! 252 00:26:01,500 --> 00:26:05,880 一応は 筋の通ったお考えですね! 253 00:26:05,880 --> 00:26:08,230 だが 甲田君を 陥れるぐらいのために 254 00:26:08,230 --> 00:26:10,600 不具者になるというのは 少し変ですね。 255 00:26:10,600 --> 00:26:15,310 甲田君を罪に落とすのも 目的には相違なかったが 256 00:26:15,310 --> 00:26:18,340 本当の目的は 別にあったのです。 257 00:26:18,340 --> 00:26:21,340 では 言いましょう。 258 00:26:29,460 --> 00:26:32,490 あなたが 学生時代 近眼鏡をかけて 259 00:26:32,490 --> 00:26:36,180 目を悪くしようと試みた事を 探り出しました。 260 00:26:36,180 --> 00:26:37,530 あなたは 軍人の子です。 261 00:26:37,530 --> 00:26:39,560 こそくな手段は 発覚のおそれがある。 262 00:26:39,560 --> 00:26:43,920 そこで思い切った方法を選んだ。 263 00:26:43,920 --> 00:26:46,920 しかも それは… 264 00:26:52,340 --> 00:26:55,030 (銃声) 265 00:26:55,030 --> 00:26:57,390 しっかりなさい。 266 00:26:57,390 --> 00:27:00,080 僕は 君を警察へ 突き出す気はありません。 267 00:27:00,080 --> 00:27:04,130 ただ 僕の推理が正しいかどうかを 確かめたかったのです。 268 00:27:04,130 --> 00:27:11,130 それに 君は もう何より恐ろしい 処罰を受けてしまったのです。 269 00:27:16,250 --> 00:27:27,020 ♪~ 270 00:27:27,020 --> 00:27:30,050 では 僕は これでお別れします。 271 00:27:30,050 --> 00:27:33,760 お別れする前に 僕の本名を 申し上げておきましょう。 272 00:27:33,760 --> 00:27:37,760 僕はね 君が 日頃 軽蔑していた… 273 00:27:41,160 --> 00:27:42,520 お父様のご依頼を受けて 274 00:27:42,520 --> 00:27:45,880 陸軍の ある秘密事件を調べるために 275 00:27:45,880 --> 00:27:49,580 お宅へ出入りしていたのです。 あなたは 明智小五郎は 276 00:27:49,580 --> 00:27:51,600 理屈っぽいばかりだと おっしゃった。 277 00:27:51,600 --> 00:27:55,300 だが その私でも 小説家の空想よりは 278 00:27:55,300 --> 00:28:01,360 実際的だという事が お分かりになりましたか。 279 00:28:01,360 --> 00:28:05,070 では さようなら。 280 00:28:05,070 --> 00:28:55,070 ♪~