1 00:00:05,030 --> 00:00:10,730 (戸が開く音) (小野)うわ…。 あ~ もう。 2 00:00:17,042 --> 00:00:20,342 はい 女の子。 3 00:00:37,229 --> 00:00:39,832 <俺は都会のマンションのベランダで➡ 4 00:00:39,832 --> 00:00:44,132 自分勝手に植物を育てるベランダーだ> 5 00:00:46,138 --> 00:00:49,041 <俺のベランダに 8年も居座りながら➡ 6 00:00:49,041 --> 00:00:54,541 一度も花を咲かせた事がない 不届きな野郎がいる> 7 00:00:56,215 --> 00:00:58,215 <月下美人だ> 8 00:01:01,887 --> 00:01:08,687 <…などと 憤慨しつつも 俺は あえて何もしない> 9 00:01:10,596 --> 00:01:14,600 <この薄汚い都会で 自力で成長してこそ➡ 10 00:01:14,600 --> 00:01:19,400 やつらは植物として 一人前になるのだ> 11 00:01:22,207 --> 00:01:26,378 <わんぱくでもいい たくましく育ってほしい➡ 12 00:01:26,378 --> 00:01:32,084 それが 俺のやり方だ> 13 00:01:32,084 --> 00:01:34,987 あ~…。 14 00:01:34,987 --> 00:02:11,087 ♬~ 15 00:02:27,339 --> 00:02:58,339 (セミの鳴き声) 16 00:03:04,676 --> 00:03:08,376 <最近 よく ガキのころの夢を見る> 17 00:03:10,049 --> 00:03:15,849 <暑さのせいか はたまた 何かの暗示なのか> 18 00:03:19,658 --> 00:03:24,229 (田中惣太郎)同じ夢? ええ そうなんです。 19 00:03:24,229 --> 00:03:27,566 そういえば僕も最近 2日連続で同じ夢を見ました。 20 00:03:27,566 --> 00:03:31,036 へ~ どんな夢を? 大学で教えてる生徒から➡ 21 00:03:31,036 --> 00:03:34,006 告白されて 恋に落ちるんです。 22 00:03:34,006 --> 00:03:36,341 それで なぜか南の島にいて まあ ほら➡ 23 00:03:36,341 --> 00:03:38,610 よくあるじゃないですか そういうの夢で。 24 00:03:38,610 --> 00:03:43,310 で 僕が彼女に 花を贈ろうとしてるっていう。 25 00:03:46,952 --> 00:03:51,252 <やはり こいつに言っても 無駄だ> 26 00:03:54,126 --> 00:03:57,896 お これ 月下美人ですか? あ はい。 27 00:03:57,896 --> 00:04:00,532 でも 買ってから 8年たつんですけど➡ 28 00:04:00,532 --> 00:04:05,270 一度も咲いた事がないんですよ。 原因は何ですかね? 29 00:04:05,270 --> 00:04:08,173 (田中)う~ん ひょっとしたら原因は➡ 30 00:04:08,173 --> 00:04:11,777 コウモリかもしれませんね。 コウモリ? 31 00:04:11,777 --> 00:04:16,615 (田中)月下美人は 主にコウモリが 受粉の媒介になってるんです。 32 00:04:16,615 --> 00:04:18,851 へ~ そうなんですか。 33 00:04:18,851 --> 00:04:23,255 開花が近づくと上を向いて 甘い香りがしてくるんですけど➡ 34 00:04:23,255 --> 00:04:25,858 それは コウモリが こう ホバリングしながら➡ 35 00:04:25,858 --> 00:04:29,628 花粉とか蜜を 食べやすくするための➡ 36 00:04:29,628 --> 00:04:33,999 共進化だっていう説があるんです。 37 00:04:33,999 --> 00:04:38,370 まあ 都会じゃ コウモリが すめる環境が少なくなって➡ 38 00:04:38,370 --> 00:04:43,542 受粉が難しくなっちゃった 可能性はありますね。 39 00:04:43,542 --> 00:04:45,911 ところで さっきの 夢の続きなんですけど。 40 00:04:45,911 --> 00:04:50,249 あ… その話は また今度。 いやいやいや 聞いて下さいよ。 41 00:04:50,249 --> 00:04:55,020 僕がね 花をね 贈ろう… いや 花を贈ろうとするじゃないですか。 42 00:04:55,020 --> 00:04:57,689 でもね 探しても 花がないんですよ 一輪も。 43 00:04:57,689 --> 00:04:59,625 ちょちょ… 聞いて下さいよ。 44 00:04:59,625 --> 00:05:01,560 だから 僕どんどん… ちょいちょい…➡ 45 00:05:01,560 --> 00:05:04,260 洞窟の中に入ってくわけですよ。 いや ちょっと ちょっと…。 46 00:05:06,031 --> 00:05:07,966 <田中は ああは言ったが➡ 47 00:05:07,966 --> 00:05:12,804 まさか自宅で コウモリを飼うわけにもいくまい> 48 00:05:12,804 --> 00:05:16,141 <いいかげん 捨てちまおうかとも思ったが➡ 49 00:05:16,141 --> 00:05:20,546 まるで熱血教師に反抗する スケバンのようで➡ 50 00:05:20,546 --> 00:05:22,548 根気良く接していれば➡ 51 00:05:22,548 --> 00:05:26,084 いつか 咲かせてくれるかもしれないと➡ 52 00:05:26,084 --> 00:05:31,256 身勝手な期待を 抱いていた事も確かだ> 53 00:05:31,256 --> 00:05:39,498 ♬~ 54 00:05:39,498 --> 00:05:44,298 <俺は なじみのない 花屋に行く事にした> 55 00:05:46,672 --> 00:05:51,543 < そもそも俺は月下美人の事を 多肉植物という事以外➡ 56 00:05:51,543 --> 00:05:54,543 あまりにも知らなさすぎた> 57 00:05:57,182 --> 00:05:59,451 < そんな事を楓さんに聞いて➡ 58 00:05:59,451 --> 00:06:04,122 この おっさん いつまでたっても ど素人だなと➡ 59 00:06:04,122 --> 00:06:06,822 思われるのを恐れたからだ> 60 00:06:11,263 --> 00:06:17,469 <などと考えていると どこかで見た 花屋があった> 61 00:06:17,469 --> 00:06:20,372 <だが 思い出せない> 62 00:06:20,372 --> 00:06:23,872 <とりあえず俺は 入ってみる事にした> 63 00:06:25,711 --> 00:06:27,711 (椎名 香)いらっしゃいませ。 64 00:06:32,251 --> 00:06:40,325 あ! あ… あっ… あ! あの時の…。 65 00:06:40,325 --> 00:06:43,595 え… あの時のって➡ 66 00:06:43,595 --> 00:06:46,298 まさか覚えてないで 店 入ってきたんですか? 67 00:06:46,298 --> 00:06:49,735 あ いや いや いや…。 そんな事ありませんよ。 68 00:06:49,735 --> 00:06:57,142 <何とそこは ハーブを買った時の ツンデレお姉さんの店だった> 69 00:06:57,142 --> 00:07:01,013 男のハーブ道は どうなったんですか? 70 00:07:01,013 --> 00:07:04,613 そんな昔の事は忘れた。 71 00:07:06,652 --> 00:07:13,091 あの 今日は何かお探しですか? そんな先の事は分からない。 72 00:07:13,091 --> 00:07:16,995 あの 私 忙しいんですけど。 あ… すいません。 73 00:07:16,995 --> 00:07:20,198 <相変わらずのツンデレぶりだ> 74 00:07:20,198 --> 00:07:25,404 < しかし いきなり月下美人の 生育法なんか聞いたら➡ 75 00:07:25,404 --> 00:07:29,274 ますます頼りない男だと 思われてしまう> 76 00:07:29,274 --> 00:07:36,081 <俺は さりげない感じで 話題を切り出す作戦に出た> 77 00:07:36,081 --> 00:07:41,219 あの~… 月に興味ありますか? 78 00:07:41,219 --> 00:07:45,557 月? あ… 興味ありますけど。 79 00:07:45,557 --> 00:07:51,129 あ そうだ 確か月が付く花 何かありませんでしたっけ? 80 00:07:51,129 --> 00:07:59,004 月? あ 月下美人とか? あ それだ。 月下美人です。 81 00:07:59,004 --> 00:08:03,041 ん? いや… 月下美人がどうかしましたか? 82 00:08:03,041 --> 00:08:09,414 <よし 俺の話術に ぐいぐい引き付けられているぞ> 83 00:08:09,414 --> 00:08:13,685 <こうなったら こっちのもんだ> 84 00:08:13,685 --> 00:08:18,490 原産は確か…? ブラジル…。 85 00:08:18,490 --> 00:08:20,926 そう ブラジル! じゃなくて メキシコですね。 86 00:08:20,926 --> 00:08:26,264 あ そうだった メキシコだった。 ハハハ… ど忘れしちゃって。 87 00:08:26,264 --> 00:08:30,135 実は結構 前から うちのベランダにあるんですよね。 88 00:08:30,135 --> 00:08:34,773 特徴は確か…? あ~ 花は夜 咲き始めて➡ 89 00:08:34,773 --> 00:08:37,676 強い香りを出しながら 一晩で しぼんじゃいます。 90 00:08:37,676 --> 00:08:40,445 え 一晩で? え… っていうか➡ 91 00:08:40,445 --> 00:08:45,250 ベランダにあるんですよね? まさか 咲かせた事ないとか? 92 00:08:45,250 --> 00:08:51,957 いやいやいや… ありますよ 咲かせた事ぐらい。 ハハハハハ…。 93 00:08:51,957 --> 00:08:53,992 <いかん 危うく俺の いいかげんさが➡ 94 00:08:53,992 --> 00:08:56,461 ばれるところだった> 95 00:08:56,461 --> 00:09:01,400 < それにしても 一晩しか咲かないのか> 96 00:09:01,400 --> 00:09:08,073 今日は何しに来たんですか? そんな昔の事は忘れた。 97 00:09:08,073 --> 00:09:10,876 あの もう帰ってもらっていいですか? 98 00:09:10,876 --> 00:09:15,576 あ… 君の瞳に乾杯。 99 00:09:17,716 --> 00:09:19,716 あ…。 100 00:09:22,187 --> 00:09:24,689 すいません…。 101 00:09:24,689 --> 00:09:28,789 帰って下さい。 あ… はい…。 102 00:09:30,462 --> 00:09:32,462 あ…。 103 00:09:36,868 --> 00:09:38,868 あ… うん…。 104 00:09:41,573 --> 00:09:44,476 ただいま。 105 00:09:44,476 --> 00:09:46,912 おかえり。 106 00:09:46,912 --> 00:09:51,912 <月下美人 なかなか やっかいな代物だ> 107 00:09:53,585 --> 00:09:57,785 <今年もまた 咲かずに終わるのか> 108 00:10:01,126 --> 00:10:05,964 <だが 今更 図鑑を見るわけにもいくまい> 109 00:10:05,964 --> 00:10:11,664 <プロのベランダーとして 俺にも意地というものがある> 110 00:10:15,640 --> 00:10:19,244 <喉が渇いた俺は ビールを飲み➡ 111 00:10:19,244 --> 00:10:23,244 気が付けば ソファーで寝てしまっていた> 112 00:10:25,717 --> 00:10:51,317 (セミの鳴き声) 113 00:10:53,645 --> 00:10:56,214 (インターホン) 114 00:10:56,214 --> 00:11:04,856 ん… あ… あ… 寝ちった…。 ん… よいしょ。 あ~…。 115 00:11:04,856 --> 00:11:07,759 <誰か 来たようだ> 116 00:11:07,759 --> 00:11:12,597 <寝ぼけ眼でモニターを見て 俺は仰天した> 117 00:11:12,597 --> 00:11:14,599 あ…。 118 00:11:14,599 --> 00:11:20,599 < そこに立っていたのは 何と俺の伯父さんだったのだ> 119 00:11:35,954 --> 00:11:44,396 あ… 伯父さん 御無沙汰してます。 (伯父)ああ 久しぶりだな。 120 00:11:44,396 --> 00:11:49,067 ああ これ 地元の酒だ。 ありがとうございます。 121 00:11:49,067 --> 00:11:51,403 でも どうして急に? 122 00:11:51,403 --> 00:11:53,338 言ってくれれば 駅まで迎えに行ったのに。 123 00:11:53,338 --> 00:11:57,208 いやいや ちょっと近くまで 来たもんだからな。 124 00:11:57,208 --> 00:12:02,208 とりあえず上がって下さい。 じゃあ 遠慮なく。 125 00:12:08,253 --> 00:12:11,153 (せき) 126 00:12:16,861 --> 00:12:21,032 麦茶にしますか? あ ビールの方がいいですか? 127 00:12:21,032 --> 00:12:25,770 いや 酒は やめたんだ。 熱いお茶を頼む。 128 00:12:25,770 --> 00:12:29,741 ここんとこ 体調が良くなくてな。 大丈夫ですか? 129 00:12:29,741 --> 00:12:34,479 な~に 大丈夫だ。 それに俺は もう十分に生きた。 130 00:12:34,479 --> 00:12:38,083 いつ死んでも悔いはないよ。 ハハハッ。 131 00:12:38,083 --> 00:12:43,583 また~… 勘弁して下さいよ。 ちょっと お待ち下さい。 132 00:12:51,363 --> 00:12:56,234 <伯父さんは 俺のおやじの兄にあたる> 133 00:12:56,234 --> 00:12:59,234 <おやじは先に他界した> 134 00:13:02,607 --> 00:13:07,445 <俺の家は共働きだった> 135 00:13:07,445 --> 00:13:13,845 <家に帰っても誰もいなかったので 放課後は大抵 一人で遊んだ> 136 00:13:17,622 --> 00:13:22,260 <伯父さんは あらゆる植物に 精通する趣味人で➡ 137 00:13:22,260 --> 00:13:25,260 俺の憧れの存在だった> 138 00:13:27,999 --> 00:13:32,837 <俺が植物を好きになったのも 伯父さんの影響だ> 139 00:13:32,837 --> 00:13:48,437 ♬~ 140 00:13:50,689 --> 00:13:53,189 どうぞ。 お ありがとう。 141 00:14:03,835 --> 00:14:10,375 お前 どうだ? 植物の方は。 あ… はい ぼちぼちやってます。 142 00:14:10,375 --> 00:14:13,912 最近は暑いんで ちょっと サボってますけど。 143 00:14:13,912 --> 00:14:17,315 駄目じゃないか そんな事じゃ。 144 00:14:17,315 --> 00:14:21,619 植物だって この暑さの中 必死に生きてるんだからな➡ 145 00:14:21,619 --> 00:14:26,719 ちゃんと世話をしてあげなさい。 あ… はい。 146 00:14:28,393 --> 00:14:33,998 ん? あれは月下美人か? 147 00:14:33,998 --> 00:14:36,367 ええ そうです。 148 00:14:36,367 --> 00:14:42,040 咲いたか? いえ 8年もいますけど 一度も。 149 00:14:42,040 --> 00:14:45,610 ベランダの日当たりは? 良すぎるぐらいです。 150 00:14:45,610 --> 00:14:49,214 水やりは? 水やりは あんまり…。 151 00:14:49,214 --> 00:14:52,117 まあ サボテン科なんで いいかな~と。 152 00:14:52,117 --> 00:14:54,519 駄目だ それじゃあ。 153 00:14:54,519 --> 00:14:59,157 月下美人は確かにサボテン科だが 水を好むんだよ。 154 00:14:59,157 --> 00:15:03,595 土が乾いたら水をあげないと 十分に育たないんだ。 155 00:15:03,595 --> 00:15:06,195 あ~ そうなんですか…。 156 00:15:08,199 --> 00:15:15,473 お前はホントに… ちゃんと調べてやってるのか? 157 00:15:15,473 --> 00:15:18,376 いや… ちゃんとは…。 158 00:15:18,376 --> 00:15:23,214 でも ほら これがいつもの僕のやり方だから。 159 00:15:23,214 --> 00:15:32,757 は~… あのな~ 植物は もともと どこで生きていくんだ? 160 00:15:32,757 --> 00:15:38,463 そりゃあ 山とか道端とか その… 自然の中です。 161 00:15:38,463 --> 00:15:42,667 そうだ。 だから こうして 鉢植えになっている時点で➡ 162 00:15:42,667 --> 00:15:45,637 それは不自然な事といえる。 したがって 俺たちは➡ 163 00:15:45,637 --> 00:15:50,408 その不自然な存在である鉢植えを 花屋で買ってきて育てるという➡ 164 00:15:50,408 --> 00:15:53,008 更に不自然な事をしているわけだ。 165 00:15:55,814 --> 00:15:59,751 <伯父さんは時々 哲学的な事を言っては➡ 166 00:15:59,751 --> 00:16:03,855 俺を混乱させる> 167 00:16:03,855 --> 00:16:08,560 つまりだな 植物を育てる人間には➡ 168 00:16:08,560 --> 00:16:13,431 常に責任というものが伴うんだ。 169 00:16:13,431 --> 00:16:17,936 植物だけじゃない。 命あるものを育てるという事は➡ 170 00:16:17,936 --> 00:16:23,536 責任を負うという事だ。 お前には その覚悟があるのか? 171 00:16:25,176 --> 00:16:27,176 それは…。 172 00:16:30,014 --> 00:16:31,950 お前には お前のやり方がある。 173 00:16:31,950 --> 00:16:34,185 それはいいだろう。 174 00:16:34,185 --> 00:16:40,525 だがな 植物の側に立って 考えるのも 大事な事だ。 175 00:16:40,525 --> 00:16:43,561 人間だってそうだ。 176 00:16:43,561 --> 00:16:49,067 人は一人で生活はできるが 生きていく事はできない。 177 00:16:49,067 --> 00:16:54,873 誰もが他者と関わり合いながら 生きているんだ。 178 00:16:54,873 --> 00:16:58,309 お前だって そうだろう? 179 00:16:58,309 --> 00:17:04,115 この世から 友人や植物がいなくなったら➡ 180 00:17:04,115 --> 00:17:06,215 どうやって生きていくんだ? 181 00:17:09,988 --> 00:17:15,493 何事にも 多少の知識は必要だ。 182 00:17:15,493 --> 00:17:20,393 それを どう生かすかは お前しだいだ。 183 00:17:25,169 --> 00:17:27,169 (せき) 184 00:17:32,410 --> 00:17:37,715 伯父さん! ん? 185 00:17:37,715 --> 00:17:42,487 一生懸命 世話をして それでも枯らしちゃったら➡ 186 00:17:42,487 --> 00:17:44,987 どうすればいいんですか? 187 00:17:52,630 --> 00:17:55,730 枯らすまでが園芸だ。 188 00:17:57,802 --> 00:18:04,002 その時は きちんと弔ってやればいい。 189 00:18:11,015 --> 00:18:13,015 はい。 190 00:18:18,323 --> 00:18:26,023 <伯父さんが入院したと聞いたのは それから1週間後の事だった> 191 00:18:30,234 --> 00:18:38,276 ♬~ 192 00:18:38,276 --> 00:18:44,082 <俺は今回ばかりは図鑑を見ない という掟を破り➡ 193 00:18:44,082 --> 00:18:47,182 月下美人の事を調べ尽くした> 194 00:18:50,989 --> 00:18:54,726 <土は水はけと水持ちの良い➡ 195 00:18:54,726 --> 00:18:58,726 大粒の赤玉と腐葉土を 6対4の割合に> 196 00:19:00,431 --> 00:19:02,500 <日当たりを好むとはいえ➡ 197 00:19:02,500 --> 00:19:08,000 夏は葉焼けを起こしてしまうので 直射日光を避ける> 198 00:19:11,075 --> 00:19:13,711 <肥料は株元に月一回➡ 199 00:19:13,711 --> 00:19:17,911 同時に2週間に一回 アンプルを与える> 200 00:19:23,354 --> 00:19:30,128 <鉢植えをしている時点で不自然 と伯父さんは言った> 201 00:19:30,128 --> 00:19:37,201 <ならば 薄汚い都会のベランダで 育てている俺は 更に不自然➡ 202 00:19:37,201 --> 00:19:39,401 不自然の極みだ> 203 00:19:42,907 --> 00:19:48,312 <いいだろう 俺は不自然さを 我が身に引き受け➡ 204 00:19:48,312 --> 00:19:51,712 できるだけの事はやろうと決めた> 205 00:19:53,818 --> 00:19:57,522 <今年こそ 咲かせなければならない> 206 00:19:57,522 --> 00:20:02,122 <なぜだか そんなふうに思えたのだ> 207 00:20:10,701 --> 00:20:14,272 <俺は伯父さんの容体を 気にかけながら➡ 208 00:20:14,272 --> 00:20:17,175 毎日 世話を続けた> 209 00:20:17,175 --> 00:20:25,416 ♬~ 210 00:20:25,416 --> 00:20:31,622 <ある日の事 ベランダに出ると つぼみが出ていた> 211 00:20:31,622 --> 00:20:48,506 ♬~ 212 00:20:48,506 --> 00:20:50,875 あ もしもし おふくろ? 213 00:20:50,875 --> 00:20:56,247 あのさ 伯父さんに 伝えてほしい事があるんだけど。 214 00:20:56,247 --> 00:21:00,818 月下美人に つぼみがついたって。 215 00:21:00,818 --> 00:21:04,789 え? あ いや 大事な事なんだよ これは。 216 00:21:04,789 --> 00:21:09,360 とにかく つぼみがついたって 言えば分かるから。 217 00:21:09,360 --> 00:21:17,702 うん うん。 じゃあ お願いします。 218 00:21:17,702 --> 00:22:15,802 ♬~ 219 00:22:18,663 --> 00:22:24,363 < そして つぼみがついてから 10日後の事> 220 00:22:26,237 --> 00:22:28,537 ただいま~。 221 00:22:34,745 --> 00:22:41,285 [スピーカ] 222 00:22:41,285 --> 00:22:46,985 あ… もしもし おふくろ? 伯父さんは? 223 00:22:53,364 --> 00:22:55,364 そうか…。 224 00:22:58,202 --> 00:23:02,202 つぼみの事 伝えてくれた? 225 00:23:04,508 --> 00:23:13,050 そう 喜んでた。 ああ 良かった。 226 00:23:13,050 --> 00:23:16,050 じゃあ…。 227 00:23:49,820 --> 00:23:55,359 <伯父さんが力尽きた その日の夜➡ 228 00:23:55,359 --> 00:24:03,000 8年間 咲かなかった 月下美人の花が咲いた> 229 00:24:03,000 --> 00:24:24,655 ♬~ 230 00:24:24,655 --> 00:24:29,755 <俺は ふらふらと台所に行った> 231 00:24:31,429 --> 00:24:36,567 < そして伯父さんからもらった 酒をコップに注ぎ➡ 232 00:24:36,567 --> 00:24:38,967 一息に飲んだ> 233 00:25:01,559 --> 00:25:04,462 < そして またベランダに出て➡ 234 00:25:04,462 --> 00:25:09,462 その酒を月下美人の下に供えた> 235 00:25:16,073 --> 00:25:20,273 <これが 俺の通夜になった> 236 00:25:24,782 --> 00:25:33,182 <闇の中に浮かび上がる その花は 妖艶でもあり 寂しくもあった> 237 00:25:35,726 --> 00:27:22,166 ♬~ 238 00:27:22,166 --> 00:27:26,370 <伯父さん ありがとう> 239 00:27:26,370 --> 00:27:30,670 < そして さようなら> 240 00:27:34,111 --> 00:28:04,508 ♬~ 241 00:28:04,508 --> 00:29:18,015 ♬~ 242 00:29:18,015 --> 00:29:28,315 ♬~ 243 00:30:37,094 --> 00:30:44,835 風の中に 土の匂いに➡ 244 00:30:44,835 --> 00:30:48,706 もう一度 日本を見つける。 245 00:30:48,706 --> 00:30:52,006 私を見つける。