1 00:00:02,300 --> 00:00:05,000 真打昇進披露も ついに千秋楽。 2 00:00:09,600 --> 00:00:12,733 今度 会う時は… 3 00:00:12,733 --> 00:00:14,367 地獄ね。 4 00:00:14,367 --> 00:00:16,200 八雲は… 5 00:00:16,200 --> 00:00:17,600 菊にやる。 6 00:00:18,700 --> 00:00:21,033 この際 破門してやらぁ! 7 00:00:21,033 --> 00:00:22,900 何かあったの…? 8 00:00:24,100 --> 00:00:26,033 話 聞いてあげる。 9 00:00:27,900 --> 00:00:30,800 「百両かい? 二百両かい?」。 10 00:00:30,800 --> 00:00:34,300 「あ~ら 頼もしい。 11 00:00:34,300 --> 00:00:35,567 五十両」。 12 00:00:35,567 --> 00:00:37,300 「えっ 五十両?」。 13 00:00:37,933 --> 00:00:41,167 助六が破門になって8か月。 14 00:00:41,167 --> 00:00:46,567 その夜 何があったのか 師匠も教えてくれませんでした。 15 00:00:46,567 --> 00:00:48,733 アタシは そのうち 16 00:00:48,733 --> 00:00:53,500 助六がわびを入れれば全て許される だろうとしか思っていませんでした。 17 00:00:54,200 --> 00:00:56,933 そう信じていないと 18 00:00:56,933 --> 00:01:01,367 不安で寂しくて たまらなかったのかもしれません。 19 00:01:03,100 --> 00:01:04,918 「かわいそうなやつだと思って 20 00:01:04,948 --> 00:01:09,300 折れた線香の一本でも 手向けておくれ」。 21 00:01:12,200 --> 00:01:14,833 「お前 死んじゃうのか? 22 00:01:16,100 --> 00:01:19,833 お前が死ぬんだったら 俺も死ぬよ」。 23 00:01:40,233 --> 00:01:41,733 ちょいと。 24 00:01:44,167 --> 00:01:45,767 鼻が利くなぁ。 25 00:01:45,767 --> 00:01:48,300 貸しがある時は余計 利くんだよ。 26 00:01:48,300 --> 00:01:50,867 どこ ほっつき歩いていやがった。 27 00:01:52,333 --> 00:01:56,733 ほうぼう どれだけ お前さんの 尻を拭いたと思ってるんだい? 28 00:01:57,667 --> 00:02:00,033 頼んじゃいねえけど… 29 00:02:00,033 --> 00:02:01,667 ありがとさん。 30 00:02:02,733 --> 00:02:05,400 なに意固地になってんだか。 31 00:02:13,567 --> 00:02:16,233 破門てのは そういうことなんだな…。 32 00:02:16,233 --> 00:02:19,000 みんな 顔 見りゃ 小言や哀れみだ。 33 00:02:19,500 --> 00:02:23,000 あんなに ずっと お前は ダメだダメだって言われてたら 34 00:02:23,000 --> 00:02:24,700 気が おかしくなっちまうよ。 35 00:02:24,700 --> 00:02:26,733 師匠は ああいう人なんだから 36 00:02:26,733 --> 00:02:29,100 -お前さんが折れて…。 -嫌でぇ。 37 00:02:29,100 --> 00:02:31,067 俺は 何一つ間違っちゃいねえよ。 38 00:02:32,100 --> 00:02:33,967 まあいいや 39 00:02:33,967 --> 00:02:36,967 お前さんが落語をやらずに いられるわけがないし。 40 00:02:40,600 --> 00:02:42,833 一体 何があったんだい…。 41 00:02:46,767 --> 00:02:49,467 アタシにも言えないのかい。 42 00:02:52,700 --> 00:02:55,267 坊の高座は 辛気くせえけど 43 00:02:55,267 --> 00:02:56,700 艶がある。 44 00:02:57,667 --> 00:02:59,833 ああやって見んのも いいもんだな。 45 00:03:01,133 --> 00:03:03,700 やっぱり落語が恋しくなってんだ。 46 00:03:03,700 --> 00:03:06,367 -ちがわい! -じゃ なんで そんなもの。 47 00:03:09,333 --> 00:03:12,267 昔 世話になってたジジイの名前。 48 00:03:12,267 --> 00:03:15,700 天狗連で てめえで 勝手に名乗ってた名前らしい。 49 00:03:15,700 --> 00:03:18,400 だから 俺で二代目だ。 50 00:03:19,300 --> 00:03:22,733 天狗連って 素人落語ってことかい? 51 00:03:22,733 --> 00:03:24,933 ああ。 52 00:03:24,933 --> 00:03:28,200 その助六さんが 先代 53 00:03:28,200 --> 00:03:33,333 つまり 師匠の前の六代目八雲に 弟子入りしてたんだってよ。 54 00:03:34,733 --> 00:03:37,900 でも 挫折して 日雇いになって 55 00:03:38,900 --> 00:03:41,467 俺を拾って育ててくれた。 56 00:03:41,467 --> 00:03:44,433 -それじゃ…。 -師匠も会ってるはずだ。 57 00:03:46,733 --> 00:03:50,600 かたや大名人 かたや野たれ死に。 58 00:03:51,300 --> 00:03:53,267 そうならねえために 59 00:03:53,267 --> 00:03:56,667 絶対 八雲になるって決めて 門をくぐったんだ。 60 00:03:57,833 --> 00:04:01,367 お前さん さては七代目に入門か? 61 00:04:01,367 --> 00:04:02,633 だったら? 62 00:04:04,067 --> 00:04:05,967 今日から 俺は おめえの兄貴分でい! 63 00:04:07,733 --> 00:04:11,400 おもしれえだろ 助六が八雲になる。 64 00:04:12,967 --> 00:04:16,067 そう思って ず~っと持ってたんだけど 65 00:04:16,067 --> 00:04:17,933 もう いらねえから… 66 00:04:18,833 --> 00:04:20,400 おめえさんに やるよ。 67 00:04:23,633 --> 00:04:25,700 俺だと思って大事にしろぃ。 68 00:04:31,967 --> 00:04:35,033 おかみさんの具合も悪い 69 00:04:35,033 --> 00:04:37,767 なんかあったら どこに連絡すりゃいい? 70 00:04:37,767 --> 00:04:39,533 初太郎。 71 00:04:40,000 --> 00:04:42,167 俺が行ったら かえって よかねえよ。 72 00:04:45,967 --> 00:04:48,100 早めに謝っちまいな! 73 00:04:48,100 --> 00:04:51,933 そうだ 来月にでも二人会やろう。 74 00:04:53,233 --> 00:04:55,433 稽古だけは しとけよ! 75 00:05:11,433 --> 00:05:14,600 え~ よく 趣味道楽なんてことを 言いますが。 76 00:05:17,300 --> 00:05:18,867 「開けてくれ 開けてくれい!」。 77 00:05:30,033 --> 00:05:31,867 ただいま。 78 00:05:31,867 --> 00:05:33,867 お酒もらってきたよ。 79 00:05:35,600 --> 00:05:37,467 ちょうど空になったとこだ。 80 00:05:40,133 --> 00:05:43,967 今日も くたびれちゃったぁ ほうぼう挨拶して。 81 00:05:43,967 --> 00:05:45,933 仕事 辞めるのも 骨ね。 82 00:05:49,733 --> 00:05:51,633 なに見てんの~。 83 00:05:58,667 --> 00:06:01,700 菊さんは こういうの やらせてくれなかった。 84 00:06:07,967 --> 00:06:12,633 菊さんの唇って まるで女の子みたいなの。 85 00:06:12,633 --> 00:06:15,433 小さくって 薄くって 甘くって。 86 00:06:16,833 --> 00:06:18,767 会いたい! 87 00:06:18,767 --> 00:06:21,800 俺の上で あいつの話 しねえでくれよ。 88 00:06:21,800 --> 00:06:23,767 思い出しちまうだろ。 89 00:06:24,400 --> 00:06:27,400 思い出さないように 早く忘れさせて。 90 00:06:28,200 --> 00:06:30,900 おめえは もっと かてえ女かと思ってたよ。 91 00:06:30,900 --> 00:06:32,800 あれは 菊さん向け。 92 00:06:32,800 --> 00:06:35,500 品のいい女なんて あなた苦手でしょ。 93 00:06:36,067 --> 00:06:37,733 確かに。 94 00:06:39,067 --> 00:06:41,233 女なんて 95 00:06:41,233 --> 00:06:44,600 求められれば いくらでも変われるんだよ。 96 00:06:47,300 --> 00:06:49,933 求められなきゃ終わりなんだよ…。 97 00:06:51,700 --> 00:06:54,067 また落語のこと? 98 00:06:54,067 --> 00:06:56,633 ダメ。 アンタ おかしくなっちゃう。 99 00:07:01,467 --> 00:07:04,267 もうすぐ まとまったお金が入る。 100 00:07:04,267 --> 00:07:06,533 一緒に この街 出よう。 101 00:07:07,633 --> 00:07:10,333 いいとこよ 私の田舎。 102 00:07:10,333 --> 00:07:13,567 温泉があるから 働き口だって たくさん。 103 00:07:16,267 --> 00:07:20,433 二人で 楽に ゆっくり生きよう。 104 00:07:21,333 --> 00:07:23,600 その方が きっと… 105 00:07:26,633 --> 00:07:29,067 この子も幸せ。 106 00:07:29,633 --> 00:07:32,500 嫌んなるぐらいに かわいがって 107 00:07:32,500 --> 00:07:34,500 なんでも買ってあげて 108 00:07:34,500 --> 00:07:36,667 なんでも してあげるんだ。 109 00:08:01,567 --> 00:08:03,833 皆さん お帰りになられました。 110 00:08:03,833 --> 00:08:06,067 少し お部屋で休まれたら。 111 00:08:25,633 --> 00:08:28,033 坊ちゃん… あっ いや… 112 00:08:28,033 --> 00:08:31,533 師匠と お呼びすべきでしたね。 113 00:08:32,567 --> 00:08:35,433 いいよ 好きに呼んどくれ。 114 00:08:36,967 --> 00:08:42,300 助六師匠 とうとう いらっしゃいませんでしたね。 115 00:08:43,033 --> 00:08:45,867 アタシも居場所を知らなくてね。 116 00:08:46,967 --> 00:08:52,200 おかみさんも きっと 一目 お会いになりたかったでしょうに。 117 00:08:54,533 --> 00:08:56,367 あとのことは 大丈夫ですから 118 00:08:56,367 --> 00:08:59,100 どうぞ 七代目の話し相手を…。 119 00:09:00,067 --> 00:09:06,900 あんなに お寂しそうにしている 七代目 見たことがない…。 120 00:09:08,867 --> 00:09:12,500 そうだね。 そうするよ。 121 00:09:22,633 --> 00:09:23,933 師匠 122 00:09:23,933 --> 00:09:28,467 今夜は久しぶりに このうちに ごやっかいになりたいと思います。 123 00:09:44,967 --> 00:09:46,700 それは…? 124 00:09:49,100 --> 00:09:51,700 有楽亭の系図だ。 125 00:09:52,267 --> 00:09:55,833 初代は 寛政から始まってる。 126 00:09:55,833 --> 00:09:58,933 みんな とんでもねえ名人ばかり。 127 00:09:59,500 --> 00:10:02,167 アタシのおやじで六代目。 128 00:10:02,667 --> 00:10:05,600 ここでさらに名前が大きくなった。 129 00:10:06,033 --> 00:10:10,367 八雲の名を継ぐ苦労は なまはんかじゃねえ。 130 00:10:12,933 --> 00:10:18,367 名跡の重みを しっかりと 受け止めきれる度量がいるんだ…。 131 00:10:19,467 --> 00:10:22,533 アタシにゃ支えきれなかった。 132 00:10:22,533 --> 00:10:24,800 そんなことありません。 133 00:10:24,800 --> 00:10:26,233 師匠は ご立派に。 134 00:10:26,233 --> 00:10:29,500 そう見えるなら 幸いだが 135 00:10:31,233 --> 00:10:34,667 到底 名前に勝てねえって思い 136 00:10:35,333 --> 00:10:39,500 それが 一生 付いて回るんだ。 137 00:10:47,800 --> 00:10:52,567 女房ってのは 居て当たりめえだと思っていたが 138 00:10:53,267 --> 00:10:55,933 居ねえとなると寂しいもんだな。 139 00:11:00,500 --> 00:11:02,233 菊 140 00:11:03,500 --> 00:11:06,467 年くって独りじゃ みじめだぞ。 141 00:11:07,067 --> 00:11:10,567 いい頃合いだから ちゃんと話しておこう。 142 00:11:20,733 --> 00:11:25,433 あたしゃ 八代目八雲の名を 143 00:11:25,433 --> 00:11:28,300 お前に継がせたいと思ってる。 144 00:11:29,933 --> 00:11:33,300 無理です…。 アタシに そんな力はありません。 145 00:11:33,300 --> 00:11:35,767 八雲の名を継ぐのは 助六こそが ふさわしいと。 146 00:11:35,767 --> 00:11:39,433 襲名ってのは てめえの意志で どうこうできるもんじゃねえ。 147 00:11:39,433 --> 00:11:41,800 師匠だって ご存じのはずです。 148 00:11:41,800 --> 00:11:45,633 あの人が どれだけ 八雲の名に 焦がれて 落語をやってきたか。 149 00:11:45,633 --> 00:11:48,700 知ってるよ。 だから なんだ。 150 00:11:50,633 --> 00:11:55,000 まさか… 破門の原因は… 151 00:11:55,567 --> 00:11:57,333 あの人にも そう言ったんですか? 152 00:11:57,333 --> 00:12:00,933 あの野郎は 性根が腐ってる。 153 00:12:00,933 --> 00:12:05,067 アイツは 俺の落語を古くせえと言った。 154 00:12:05,067 --> 00:12:08,500 有楽亭の落語を 否定しやがったんだ。 155 00:12:10,067 --> 00:12:14,233 どうか もう一度 助六の落語を。 156 00:12:14,233 --> 00:12:17,433 俺の目が節穴だって言うのかい? 157 00:12:19,933 --> 00:12:23,600 俺は お前の方が 八雲に ふさわしいと思った。 158 00:12:24,400 --> 00:12:25,400 でも…。 159 00:12:25,400 --> 00:12:28,867 俺だって 死んだあとのことなんて 考えたくもねえ。 160 00:12:29,300 --> 00:12:31,692 けど あとで ゴタゴタしねえように 161 00:12:31,722 --> 00:12:34,300 そいだきゃあ キッチリやっとかねえと。 162 00:12:35,633 --> 00:12:41,300 なあ お前は 俺の息子だ。 163 00:12:44,867 --> 00:12:47,433 破門は… 164 00:12:47,433 --> 00:12:49,667 解いてやってください。 165 00:12:49,667 --> 00:12:53,100 アイツも もうガキじゃねえ。 166 00:12:53,100 --> 00:12:55,733 今後を決めるのは あの野郎だ。 167 00:12:57,100 --> 00:12:59,600 お前も じっくり考えろ。 168 00:13:04,267 --> 00:13:10,100 アタシは 初めて 初太郎の 灼かれている地獄を思い知りました。 169 00:13:10,567 --> 00:13:12,733 逆上した理由は 170 00:13:12,733 --> 00:13:18,567 幼いころから あれほど執着 していた「八代目八雲」の名前を 171 00:13:18,567 --> 00:13:23,000 よりにもよって アタシなんかに 取られると知ったからだったのです。 172 00:13:24,000 --> 00:13:26,065 それでも アタシは 173 00:13:26,095 --> 00:13:31,667 助六を再び落語の世界に復帰させる ことを諦めていませんでした。 174 00:13:31,667 --> 00:13:36,100 いや 諦めることが できなかったのです。 175 00:13:36,100 --> 00:13:37,800 菊比古師匠 176 00:13:37,800 --> 00:13:39,433 お客さんですよ。 177 00:13:44,367 --> 00:13:46,533 菊さん。 178 00:13:46,533 --> 00:13:47,833 どうしたぃ 急に。 179 00:13:47,833 --> 00:13:51,467 おみよちゃん どこにいるか知ってる? 180 00:13:52,433 --> 00:13:54,400 いや ちいとも会ってない。 181 00:13:54,400 --> 00:13:58,500 あの子 お店のお金 持ち逃げしちまったみたいで。 182 00:13:59,967 --> 00:14:02,900 まあ 退職金と思や いいんだけど。 183 00:14:02,900 --> 00:14:06,733 聞いてた実家の住所も宛所がないし 184 00:14:06,733 --> 00:14:09,433 部屋も空だったの。 185 00:14:23,233 --> 00:14:26,133 菊さんなら なんか知ってるかと思って。 186 00:14:44,233 --> 00:14:47,000 折れて転んだら大変だから。 187 00:14:47,000 --> 00:14:49,433 英国製で頑丈なんだって。 188 00:15:29,300 --> 00:15:33,933 お前さん みよ吉と一緒にいるんだね。 189 00:15:35,333 --> 00:15:37,033 なんで…。 190 00:15:40,433 --> 00:15:43,833 そのへんは アタシも とやかく言えた義理じゃねえし 191 00:15:43,833 --> 00:15:45,533 好きにしなよ。 192 00:15:46,900 --> 00:15:49,067 別れを言いに来た。 193 00:15:49,867 --> 00:15:52,567 しばらく東京を離れる。 194 00:15:53,500 --> 00:15:54,933 なんで? 195 00:15:54,933 --> 00:15:56,833 アイツに… 196 00:15:58,067 --> 00:16:00,033 子供ができた。 197 00:16:01,067 --> 00:16:03,133 田舎で生むんだと… 198 00:16:03,133 --> 00:16:05,533 ついててやりてぇんだ。 199 00:16:05,533 --> 00:16:08,733 今 アレを一人にさせらんねえ。 200 00:16:08,733 --> 00:16:11,700 分かるだろ おめさんなら。 201 00:16:13,067 --> 00:16:15,100 落語は どうするんだい…。 202 00:16:15,100 --> 00:16:18,900 分かんねえ。 先のことは なんも考えてねえ。 203 00:16:18,900 --> 00:16:21,567 八雲を継ぐってぇのは どうするんだい! 204 00:16:22,800 --> 00:16:25,567 おめさんがなりゃいいじゃねえか。 205 00:16:26,333 --> 00:16:28,900 大事な大事な坊ちゃんだもんな。 206 00:16:28,900 --> 00:16:30,700 師匠からも聞いてんだろ。 207 00:16:34,000 --> 00:16:36,667 俺は ずっと 坊が羨ましかった。 208 00:16:37,800 --> 00:16:41,000 かわいがられて 甘やかされて 209 00:16:41,000 --> 00:16:43,867 なんでも師匠にやってもらってよ。 210 00:16:45,367 --> 00:16:48,000 俺は 所詮 野良犬なんだよ。 211 00:16:49,000 --> 00:16:51,567 おんなじ弟子なんか じゃねえんだよ! 212 00:16:51,567 --> 00:16:53,667 はなしやがれ! 213 00:16:59,167 --> 00:17:04,867 この背中を ずっと ずっと 憧れの目で見てきたのです。 214 00:17:05,300 --> 00:17:08,433 坊 俺ぁ お前さんが気に入った! 215 00:17:08,433 --> 00:17:12,500 オイラと お前さんと 二人で 日本中に落語を聞かせてやろうぜ。 216 00:17:12,500 --> 00:17:16,167 俺ぁ 絶対 生きて帰ってくる。 217 00:17:16,700 --> 00:17:17,967 坊! 218 00:17:23,567 --> 00:17:25,300 腹 減ったなぁ。 219 00:17:25,300 --> 00:17:28,167 ああ… 腹 減った。 220 00:17:32,400 --> 00:17:33,800 よっ 大将! 221 00:17:52,533 --> 00:17:55,133 何をしてもいいよ。 222 00:17:57,800 --> 00:17:59,867 けど… 223 00:18:00,900 --> 00:18:03,900 落語だけは やめるな。 224 00:18:09,600 --> 00:18:15,167 どうしたらいいか… もう分からねえんだよ。 225 00:18:52,333 --> 00:18:54,200 「暇乞いに伺いまして」。 226 00:18:54,200 --> 00:18:56,633 「暇乞い? なんだ 旅か? 227 00:18:56,633 --> 00:19:00,800 まあ 若ぇうちだ 行ったっていいや で どっちの方 行くんでぇ」。 228 00:19:01,533 --> 00:19:05,367 「まあ よく来てくれたわ。 心配で心配でねぇ。 229 00:19:05,367 --> 00:19:08,700 お前さんが来ないんじゃないか と思って」。 230 00:19:09,400 --> 00:19:11,000 「冗談 言っちゃいけねえ 231 00:19:11,000 --> 00:19:13,933 俺は約束したことは ちゃんと守るよ」。 232 00:19:13,933 --> 00:19:16,567 「そうかい それはうれしいねぇ。 233 00:19:17,700 --> 00:19:23,133 じゃあ 今夜は この世のお別れ どうする?」。 234 00:19:23,967 --> 00:19:27,767 「お別れだよ 飲んで食って ぱ~っとやろう!」。 235 00:19:28,500 --> 00:19:30,533 「おあし あるの?」。 236 00:19:30,533 --> 00:19:32,133 「ねえよ」。 237 00:19:32,133 --> 00:19:34,867 「なきゃ駄目じゃないさ」。 238 00:19:34,867 --> 00:19:40,267 「いいじゃねえか!今夜 あっちの ほうまで行っちまうんだろ?」。 239 00:19:41,300 --> 00:19:47,867 それから 初太郎も みよ吉も ぷっつりと音沙汰が無くなりました。 240 00:19:47,867 --> 00:19:51,900 アタシは…また捨てられたのです。 241 00:19:56,667 --> 00:20:00,667 初太郎が破門されてから 7年がたちました。 242 00:20:00,667 --> 00:20:03,100 協会からも除名され 243 00:20:03,100 --> 00:20:07,600 有楽亭助六の名前は 落語界から消されてしまいました。 244 00:20:08,533 --> 00:20:13,067 大人気だったのが うそのように 噂も聞かなくなり 245 00:20:13,067 --> 00:20:19,067 アタシ自身も どこで どうして いるのかも分かりませんでした。 246 00:20:19,067 --> 00:20:22,433 人の運というのは皮肉なモノで 247 00:20:22,433 --> 00:20:25,533 みよ吉とスッパリと別れたアタシは 248 00:20:25,533 --> 00:20:28,433 立て続けに大きな賞を頂き 249 00:20:28,433 --> 00:20:33,600 不本意ながら マスコミにも 顔を出す機会が増えていきました。 250 00:20:34,167 --> 00:20:36,567 自分の落語ができりゃいいんです。 251 00:20:36,567 --> 00:20:39,200 ご自身の中で ライバルは いますか? 252 00:20:41,033 --> 00:20:46,367 どこで何をやってるのか バカが一人。 253 00:20:46,367 --> 00:20:48,433 助六さんのことですか? 254 00:20:49,833 --> 00:20:53,400 助六の落語は ただ笑わせているだけで 255 00:20:53,400 --> 00:20:56,800 師匠の芸術とは比べものにならない と言う評論家も…。 256 00:20:56,800 --> 00:20:59,067 会見は おしまい。 257 00:20:59,800 --> 00:21:02,633 ものが分からない人に 話すことはありません。 258 00:21:03,867 --> 00:21:08,367 いや ちょっと待ってください。 ご自身も 今 助六はバカだって。 259 00:21:09,767 --> 00:21:14,667 あのバカの悪口を言っていいのは アタシだけです。 260 00:21:31,833 --> 00:21:33,367 大丈夫ですか。 261 00:21:33,867 --> 00:21:35,033 師匠! 262 00:21:35,033 --> 00:21:36,367 菊比古師匠! 263 00:21:36,933 --> 00:21:38,733 弟子にしてください! 264 00:21:38,733 --> 00:21:41,500 師匠のもとで 落語がやりたいんです! 265 00:21:41,500 --> 00:21:43,200 お願いします! 266 00:21:44,567 --> 00:21:48,100 ちょいと失礼します。 先に お入りください。 267 00:21:49,767 --> 00:21:52,433 人気者は つれぇな。 268 00:21:56,200 --> 00:21:59,100 今すぐ 親元へ帰んな。 269 00:21:59,100 --> 00:22:01,500 あたしゃ 弟子なんざ取りません。 270 00:22:02,033 --> 00:22:05,567 ひとさまに教えることなんざ 無いんだから。 271 00:22:05,567 --> 00:22:09,100 待ってください! 話くらい聞いてください! 272 00:22:09,100 --> 00:22:12,333 そんだけ ずうずうしいなら 教えてやらぁ。 273 00:22:12,333 --> 00:22:16,800 今日は親子会だ。 なんだって こんな日に やってきた? 274 00:22:18,167 --> 00:22:21,900 お前さんは アタシの師匠を ないがしろにして 恥をかかせた。 275 00:22:21,900 --> 00:22:24,500 そいだけで断る理由は十分だろ。 276 00:22:27,933 --> 00:22:30,478 芸人なんて なるもんじゃない。 277 00:22:30,508 --> 00:22:35,300 こんな はかねえ あぶくみてえな商売をさ。 278 00:22:38,967 --> 00:22:43,100 師匠 先ほどは失礼致しました。 279 00:22:47,000 --> 00:22:49,100 申し訳ございませんでした。 280 00:23:06,900 --> 00:23:13,567 これは ある お長屋に 住んでおります 大工の熊五郎 281 00:23:13,567 --> 00:23:17,300 大変 腕のいい 大工なんではございますが 282 00:23:17,300 --> 00:23:20,433 ちょいとばかり癖がある。 283 00:23:20,433 --> 00:23:22,967 これは何かと言いますと 284 00:23:22,967 --> 00:23:26,367 酒と女に だらしがない。 285 00:23:26,367 --> 00:23:31,200 吉原なんて所に入り浸り 仕事も…。 286 00:23:31,200 --> 00:23:33,233 師匠の「子別れ」 287 00:23:33,233 --> 00:23:36,867 今 この根多で 師匠の右に出る者はいない。 288 00:23:36,867 --> 00:23:39,267 有楽亭の お家芸 289 00:23:39,267 --> 00:23:42,400 師匠が とことん練り上げた芸だ。 290 00:23:42,400 --> 00:23:46,500 アタシや助六には 逆立ちしたって できっこない芸。 291 00:23:48,300 --> 00:23:50,800 「大きくなりやがったな」。 292 00:23:52,767 --> 00:23:55,400 「おとっつぁんも大きくなったね」 293 00:23:56,200 --> 00:24:01,000 「大人が大きくなるかよ。 元気にしてたか?」。 294 00:24:02,467 --> 00:24:04,200 「元気にしてた」。 295 00:24:04,200 --> 00:24:08,667 親子の掛け合いで親子の親密さを 愛きょうたっぷりに。 296 00:24:09,433 --> 00:24:13,267 「そうじゃねえんだい ひろったんじゃねえんだい」。 297 00:24:13,267 --> 00:24:15,267 「じゃ どうしたんだい?」。 298 00:24:15,267 --> 00:24:17,400 「もらったんだい」。 299 00:24:17,400 --> 00:24:21,733 父親に こっそり もらった 五十銭を見つける母親。 300 00:24:21,733 --> 00:24:25,833 子に どこで手に入れたのか トントントンと畳みかけて問い詰める。 301 00:24:25,833 --> 00:24:29,067 「亀 本当のことをお言い。 302 00:24:29,067 --> 00:24:31,833 その五十銭 どうしたんだい」。 303 00:24:31,833 --> 00:24:35,533 「だ… だから もらったんだよ 304 00:24:35,533 --> 00:24:37,533 知らない おじさんに」。 305 00:24:37,533 --> 00:24:40,133 「こっちに きやがれってんだ。 306 00:24:41,567 --> 00:24:45,700 これはね おとっつぁんと別れる時に 307 00:24:45,700 --> 00:24:49,433 道具箱から お前が持ってきた ゲンノウだよ。 308 00:24:49,433 --> 00:24:54,967 本当のこと言わなきゃ このゲンノウで おっかさん ぶってやる」。 309 00:24:55,967 --> 00:25:00,233 情感たっぷりに泣かせるところは とことん泣かせる。 310 00:25:00,233 --> 00:25:05,200 人情噺は そういう演出の方が 聞いてる方も気持ちがいい。 311 00:25:05,200 --> 00:25:06,500 「本当のこと…」。 312 00:25:06,500 --> 00:25:09,900 「はなしてくれよ 痛いよぉ。 313 00:25:09,900 --> 00:25:12,300 もらったんだ… もらったんだ 314 00:25:12,300 --> 00:25:15,233 おとっつぁんから もらったんだい!」。 315 00:25:17,367 --> 00:25:20,200 「今 お前 なんて言った? 316 00:25:20,200 --> 00:25:24,000 おとっつぁん? おとっつぁんに会ったのかい?」。 317 00:25:25,300 --> 00:25:31,167 「ねえ おとっつぁん また三人一緒におまんま食べよう。 318 00:25:31,167 --> 00:25:34,200 お湯にも 一緒に行こう。 319 00:25:34,200 --> 00:25:37,233 また 三人で… 320 00:25:37,233 --> 00:25:41,267 おまんま 食べようよぅ」。 321 00:25:42,133 --> 00:25:48,867 「三人一緒に暮らしてもらうような わけにはいかねえだろうかな」。 322 00:25:50,233 --> 00:26:00,067 「お前さんって人は… 本当に勝手な人だねぇ…」。 323 00:26:01,867 --> 00:26:05,667 「俺が悪かったんだい すまねえ。 324 00:26:05,667 --> 00:26:09,933 このとおり 堪忍してくれ」。 325 00:26:19,500 --> 00:26:27,533 「こいつを ここまで 女手ひとつで育て上げんのは 326 00:26:27,533 --> 00:26:31,000 並大抵のこっちゃなかったろう。 327 00:26:33,033 --> 00:26:36,833 改めて 礼を言うよ」。 328 00:26:48,433 --> 00:26:55,167 「子供は夫婦のかすがいだなぁ」。 329 00:26:58,500 --> 00:27:00,833 「あたいが かすがい?」。 330 00:27:02,733 --> 00:27:06,467 「それで おっかさん 331 00:27:09,700 --> 00:27:15,367 ゲンノウでぶつって言ったんだ」。 332 00:27:30,700 --> 00:27:32,367 お疲れさまでした。 333 00:27:41,933 --> 00:27:43,400 師匠。 334 00:27:44,367 --> 00:27:48,133 師匠! 師匠! 師匠! 335 00:27:48,967 --> 00:27:50,400 七代目! 336 00:27:50,400 --> 00:27:52,100 -救急車! 急いで! -はい! 337 00:27:52,733 --> 00:27:54,867 師匠! 338 00:27:56,433 --> 00:27:58,100 なんですか? 339 00:27:58,900 --> 00:28:01,433 助六…。 340 00:28:03,333 --> 00:28:04,833 今 呼びました。 341 00:28:07,467 --> 00:28:09,433 松田さん 342 00:28:09,433 --> 00:28:11,867 あとは お願いします。 343 00:28:11,867 --> 00:28:15,700 あたしゃ 落語をやらなきゃ。 344 00:28:16,533 --> 00:28:18,300 は… はい! 345 00:28:41,300 --> 00:28:44,333 今 お休みになってます。 346 00:28:46,967 --> 00:28:50,767 松田さんも 奥さんの具合 よくないんだろ。 347 00:28:50,767 --> 00:28:52,600 あとは見てるから 今日はいいよ。 348 00:28:52,600 --> 00:28:55,367 すみません こんな時に。 349 00:28:58,233 --> 00:28:59,733 では…。 350 00:29:25,133 --> 00:29:28,567 俺ぁ もう ダメみてぇだ…。 351 00:29:29,333 --> 00:29:31,167 師匠。 352 00:29:31,167 --> 00:29:36,200 大概のことは 悔いのねえ人生だったが 353 00:29:37,833 --> 00:29:40,900 八雲の名… 354 00:29:40,900 --> 00:29:44,633 八代目のことだけが気にかかる。 355 00:29:46,067 --> 00:29:50,633 この名前は いわくが ありすぎる。 356 00:29:54,333 --> 00:29:57,567 大正に入って間もなくだった。 357 00:29:58,467 --> 00:30:01,833 とんでもねえ弟子が 入ってきたんだ。 358 00:30:01,833 --> 00:30:05,100 お前より もっともっと 落語で師匠に気に入られてやる。 359 00:30:05,967 --> 00:30:09,900 野郎は 途方もなく うまかった。 360 00:30:12,333 --> 00:30:17,100 野郎には 全く歯が立たなかった。 361 00:30:18,333 --> 00:30:24,300 俺ぁ 息子って立場 目いっぱい使って 362 00:30:24,300 --> 00:30:32,033 次の八雲は俺にくれるって 大勢の前で おやじに約束させた。 363 00:30:32,833 --> 00:30:39,367 そうすりゃ あの野郎に 落語で勝てると思い込んでたんだ。 364 00:30:40,300 --> 00:30:45,833 野郎は 一門を抜け その後 どうなったかは 365 00:30:45,833 --> 00:30:48,300 誰も知らねえ。 366 00:30:50,533 --> 00:30:53,233 野郎の名前は… 367 00:30:55,600 --> 00:30:57,600 助六…。 368 00:31:02,667 --> 00:31:04,300 まさか…。 369 00:31:05,333 --> 00:31:09,067 これ 大事に持っといてくんねえか。 370 00:31:09,067 --> 00:31:12,067 俺に落語を教えてくれた じいさんの形見。 371 00:31:13,067 --> 00:31:15,767 その まさかだ。 372 00:31:18,633 --> 00:31:24,433 アイツを育てたってぇじいさんが 助六だ。 373 00:31:27,600 --> 00:31:33,000 落語が生き写しで すぐに分かったよ…。 374 00:31:33,667 --> 00:31:37,667 「開けとくれ 開けとくれ~! 先生!」。 375 00:31:39,400 --> 00:31:42,033 「その声は隣家の八っつぁんだな。 376 00:31:42,033 --> 00:31:43,200 待ちな 待ちな」。 377 00:31:49,300 --> 00:31:52,000 初に 378 00:31:52,000 --> 00:31:55,500 助六を名乗りてぇと言われた日にゃ 379 00:31:55,500 --> 00:31:58,500 生きた心地がしなかった。 380 00:31:59,433 --> 00:32:02,100 因果応報…。 381 00:32:04,133 --> 00:32:09,667 アイツが俺んとこに来たのも 因縁なんだ。 382 00:32:13,233 --> 00:32:19,300 俺ぁ そのことに目をつむろうと 必死だった。 383 00:32:22,633 --> 00:32:25,800 野郎と初は別だって。 384 00:32:26,567 --> 00:32:33,433 けど どんどん 呪いみてぇに 頭が かたくなる。 385 00:32:34,733 --> 00:32:37,467 助六に 386 00:32:37,467 --> 00:32:42,033 八雲の名は やらねえって 意地になって…。 387 00:32:45,067 --> 00:32:48,100 大事な息子の… 388 00:32:51,367 --> 00:32:53,933 一人を失った…。 389 00:33:07,667 --> 00:33:14,433 俺ぁ 本当に弱い 業の深ぇ人間だ。 390 00:33:15,633 --> 00:33:17,967 本当は 391 00:33:18,900 --> 00:33:23,833 お前に 八雲を渡すのだって 嫌なんだ。 392 00:33:27,667 --> 00:33:32,733 みっともねえと笑うなら 笑いやがれ。 393 00:33:34,500 --> 00:33:40,400 正直 言うと 師匠のそういうところ 394 00:33:41,167 --> 00:33:43,533 苦手です。 395 00:33:45,533 --> 00:33:48,500 もちろん 好きなところも たくさん ありますけど。 396 00:33:49,133 --> 00:33:52,267 そういうのは絶対に似たくない。 397 00:33:53,567 --> 00:33:56,367 だから アタシの落語ができたんです。 398 00:33:58,100 --> 00:34:00,167 でも 399 00:34:01,367 --> 00:34:04,233 弟子としても 息子としても 400 00:34:05,567 --> 00:34:08,700 師匠のもとに来られて よかった。 401 00:34:12,333 --> 00:34:17,767 引き取ってくれて ありがとうございます。 402 00:34:20,133 --> 00:34:22,133 そうか…。 403 00:34:25,500 --> 00:34:27,467 よかった…。 404 00:34:31,033 --> 00:34:33,067 よかった…。 405 00:34:42,100 --> 00:34:44,533 それから程なく 406 00:34:44,533 --> 00:34:46,900 師匠は 静かに 407 00:34:46,900 --> 00:34:49,433 永い眠りにつかれました。 408 00:34:49,967 --> 00:34:53,600 枕元に座っているときゃあ。 409 00:34:53,600 --> 00:34:58,733 アタシは また捨てられて 一人になりました。 410 00:34:59,200 --> 00:35:03,900 「ねえ 先生 あたし 上方見物に 行ったことないの。 411 00:35:03,900 --> 00:35:05,333 行ってみたいな」。 412 00:35:05,333 --> 00:35:08,433 お前の居場所なんか ないよ。 413 00:35:08,433 --> 00:35:10,967 …と笑われている気がしました。 414 00:35:10,967 --> 00:35:15,267 「一本一本が 人の寿命だ」。 415 00:35:17,600 --> 00:35:20,433 「人の命は ろうそくの 火みてえなもんだって言うが 416 00:35:20,433 --> 00:35:21,867 ほんとなんだね」。 417 00:35:24,367 --> 00:35:26,700 「震えてるな。 418 00:35:27,600 --> 00:35:30,567 消えると死ぬぞ」。 419 00:35:31,033 --> 00:35:33,900 「だめだ 汗が目に入って…」。 420 00:35:38,533 --> 00:35:43,633 「消えるぞ 消えるぞ。 421 00:35:44,467 --> 00:35:53,033 ほ~ら ほ~ら ほ~ら… 422 00:35:54,433 --> 00:35:57,233 ほ~ら 423 00:35:59,167 --> 00:36:01,567 消えた」。 424 00:36:02,500 --> 00:36:06,967 これでいいのか 本当にここなのか。 425 00:36:07,533 --> 00:36:11,367 怖い 誰もいないような気がする。 426 00:36:13,700 --> 00:36:16,500 やっと つかんだはずの 居場所なのに。 427 00:36:20,200 --> 00:36:22,267 助六に会いたい。 428 00:36:26,067 --> 00:36:28,500 もう一度 助六を 429 00:36:28,500 --> 00:36:31,400 助六の落語を 取り戻さなくてはならない。 430 00:36:34,567 --> 00:36:36,967 師匠を失った今 431 00:36:36,967 --> 00:36:41,167 助六の落語が アタシには どうしても必要だったのです。 432 00:36:50,400 --> 00:36:51,767 会長…。 433 00:36:53,200 --> 00:36:57,167 八雲のいねえ穴 埋めて よくぞ立派に務めあげた。 434 00:36:57,800 --> 00:36:59,533 恐れ入ります。 435 00:36:59,533 --> 00:37:03,533 でだ… 七代目からも 頼まれてたんだが 436 00:37:03,533 --> 00:37:07,133 いつまでも あの名前を 空けとくわけにもいかねえ。 437 00:37:07,833 --> 00:37:11,000 お前さん以外 誰が八代目になるんだ? 438 00:37:12,833 --> 00:37:14,800 よ~く考えておきなさい。 439 00:37:21,800 --> 00:37:24,533 協会には しばらく休みを頂いた。 440 00:37:24,533 --> 00:37:27,500 顔 見て 安心したら 戻ってくるよ。 441 00:37:27,967 --> 00:37:30,667 男ってのは ほんとにバカだね。 442 00:37:32,867 --> 00:37:34,467 はい これ 443 00:37:34,467 --> 00:37:36,767 一度きり来たハガキ。 444 00:37:36,767 --> 00:37:40,433 所番地なんか書いちゃいないけど 消印がある。 445 00:37:40,433 --> 00:37:42,333 無いよりマシだろ? 446 00:37:46,500 --> 00:37:50,000 「女の子を生んで 元気で過ごしております。 447 00:37:50,000 --> 00:37:52,500 心配かけて ご免ね。 448 00:37:52,500 --> 00:37:56,100 お借りしたもの いつか必ず返します」。 449 00:37:58,733 --> 00:38:01,667 今度 会う時は… 450 00:38:01,667 --> 00:38:03,400 地獄ね。 451 00:38:05,800 --> 00:38:07,433 菊さん。 452 00:38:08,000 --> 00:38:10,300 四国だよ。 453 00:38:10,300 --> 00:38:13,633 きっと あの子が生まれた里。 454 00:38:13,633 --> 00:38:16,400 親兄弟は とうにいないって 聞いたけどね。 455 00:38:30,333 --> 00:38:32,600 街は遠いかい? 456 00:38:32,600 --> 00:38:34,333 すぐ。 457 00:38:44,533 --> 00:38:47,100 この辺で落語を聞ける小屋は ないかい? 458 00:38:47,100 --> 00:38:50,667 落語? 今は もう…。 459 00:38:51,300 --> 00:38:54,233 この道 行ったら うどん屋があるで 460 00:38:54,233 --> 00:38:57,333 行ってみな。 ええもん見れるで。 461 00:39:09,800 --> 00:39:11,600 「野ざらし」? 462 00:39:14,733 --> 00:39:17,233 「何があったか知りませんけど 463 00:39:17,233 --> 00:39:21,467 こういう世の中ですから 気を しっかり持たないといけません」。 464 00:39:21,467 --> 00:39:25,033 「何を~大きな声を出すな?あん! 465 00:39:25,033 --> 00:39:29,867 何か? 魚に耳があんのか 魚に耳が! 466 00:39:29,867 --> 00:39:32,167 どこに付いてんだ どこに?ええ! 467 00:39:32,167 --> 00:39:34,967 えらのこの辺に引っ掛かってんのかい えらの この辺に」。 468 00:39:40,900 --> 00:39:43,600 落語 聞いたんなら ちゃんと払って! 469 00:39:46,433 --> 00:39:49,900 今の落語 助六に習ったのかい? 470 00:39:49,900 --> 00:39:51,967 お前さん 誰なんだい? 471 00:39:51,967 --> 00:39:55,767 -小夏。 -こなつ…? 472 00:39:55,767 --> 00:39:59,800 一席十円!うどんも食べてってね。 473 00:40:00,533 --> 00:40:04,400 ちゃんと食べてってよ。 お世話になってんだから。 474 00:40:04,400 --> 00:40:07,400 ずっと電車に揺られて 食欲なんか あるかぃ。 475 00:40:07,400 --> 00:40:09,000 あんたこそ 誰? 476 00:40:09,000 --> 00:40:11,067 お父っつぁんの居場所 教えな。 477 00:40:11,067 --> 00:40:13,133 やだ。 おじちゃん嫌い! 478 00:40:13,733 --> 00:40:15,067 お兄さん 479 00:40:15,067 --> 00:40:20,100 もしかして 菊ナントカ言う 落語家さんと違うん? 480 00:40:20,800 --> 00:40:23,933 やっぱり そうや! 481 00:40:23,933 --> 00:40:26,267 -どうぞ。 -おじさん… 482 00:40:26,267 --> 00:40:28,600 落語家さんなの? 483 00:40:29,900 --> 00:40:31,433 どうした 484 00:40:31,433 --> 00:40:33,467 さっきの剣幕は どうしたい…。 485 00:40:35,367 --> 00:40:38,133 もちっと ゆっくり食べたらどうだい。 486 00:40:38,133 --> 00:40:40,400 よくも まあ そんなに入るね…。 487 00:40:41,400 --> 00:40:45,400 父ちゃん すごかったんでしょ? 東京で。 488 00:40:45,400 --> 00:40:46,800 まあね。 489 00:40:46,800 --> 00:40:49,667 父ちゃんの落語は 日本一おもしろいもん。 490 00:40:49,667 --> 00:40:52,800 でもね 私にしか やってくれないの。 491 00:40:52,800 --> 00:40:54,833 みんなには言っちゃダメだって。 492 00:40:56,333 --> 00:41:00,400 お父っつぁん どうして落語しないんだい。 493 00:41:01,300 --> 00:41:03,000 母ちゃんが怒るから。 494 00:41:03,000 --> 00:41:04,967 普通に働けって。 495 00:41:04,967 --> 00:41:07,800 でも 父ちゃん 働くの嫌いなの。 496 00:41:07,800 --> 00:41:10,367 それで 今 母ちゃんが働いてんだけど 497 00:41:10,367 --> 00:41:13,000 たまに帰ってくると お酒臭くって。 498 00:41:13,000 --> 00:41:15,167 男の人と踊ったり。 499 00:41:15,167 --> 00:41:17,300 父ちゃんとも ケンカするし。 500 00:41:18,233 --> 00:41:20,567 母ちゃんは どこで働いてんだい? 501 00:41:20,567 --> 00:41:23,167 知らない あんまり帰ってこないし 502 00:41:23,167 --> 00:41:25,800 当てになんないから 私が稼いでんの。 503 00:41:27,800 --> 00:41:30,133 やっぱり そんな感じかい…。 504 00:41:32,033 --> 00:41:35,333 さあ 行くよ。 案内しな。 505 00:41:36,233 --> 00:41:37,733 ちょっ… ちょっと待ってよ。 506 00:41:40,233 --> 00:41:44,067 「上げ潮 南さあ」 507 00:41:44,067 --> 00:41:48,951 「カラス ぱっと出て こらさのさぇ」 508 00:41:57,733 --> 00:42:00,700 父ちゃ~ん! 509 00:42:00,700 --> 00:42:03,267 起きて! お客さん! 510 00:42:04,000 --> 00:42:07,533 ねえ 起きて! 父ちゃん! 511 00:42:08,800 --> 00:42:12,567 助六! とっとと起きやがれ! 512 00:42:13,000 --> 00:42:16,300 こんな小せえのに 手間かけさせやがって…。 513 00:42:16,300 --> 00:42:19,900 こちとら はるばる東京から 来てやってんだい! 514 00:42:19,900 --> 00:42:22,800 ぐずぐずしねえで 面ぁ見せろぃ! 515 00:42:30,667 --> 00:42:31,933 坊…。 516 00:42:32,767 --> 00:42:33,667 坊! 517 00:42:41,633 --> 00:42:43,667 お前さん 変わらねえなぁ。 518 00:42:44,767 --> 00:42:47,033 お前さんは… 519 00:42:47,033 --> 00:42:49,600 相変わらず 臭いよ。 520 00:43:00,167 --> 00:43:05,400 この時 7年間も止まっていた 二人の時間が 521 00:43:05,400 --> 00:43:07,967 再び動き始めたのです。 522 00:43:24,933 --> 00:43:29,833 © NHK / TELEPACK