1 00:00:01,300 --> 00:00:02,300 坊…! 2 00:00:07,600 --> 00:00:09,400 お前さん 変わらねえなぁ。 3 00:00:09,400 --> 00:00:11,567 お前さんは… 4 00:00:11,567 --> 00:00:14,200 相変わらず臭いよ。 5 00:00:34,133 --> 00:00:36,033 なんも ねえとこだけど くつろいでくれ。 6 00:00:36,033 --> 00:00:40,533 なかぁねえだろ。 よくもまあ こんなに…。 7 00:00:41,067 --> 00:00:44,067 アレが出てったら このありさまで。 8 00:00:44,067 --> 00:00:46,200 ひでえ時 来たな おめえさんも。 9 00:00:46,200 --> 00:00:48,667 どこ行ってんだい あの人は。 10 00:00:48,667 --> 00:00:51,333 仕事だよ。 もう3日も帰ってこねえ。 11 00:00:55,367 --> 00:00:58,100 言いてえことは 山ほどある。 12 00:00:58,100 --> 00:01:01,067 けど 全部 飲み込んで こいだけ言うよ。 13 00:01:02,000 --> 00:01:04,933 東京へ戻って 落語をやりなさい。 14 00:01:09,667 --> 00:01:11,667 忘れた あんなもん…。 15 00:01:13,133 --> 00:01:15,733 落語ってやつには愛想を尽かした。 16 00:01:16,533 --> 00:01:18,833 客も みんな忘れてらぁ。 17 00:01:19,733 --> 00:01:22,900 嫌だ やりたくねえ。 18 00:01:22,900 --> 00:01:27,000 八雲と助六ってぇのは 相当 因縁深い名前だ。 19 00:01:27,000 --> 00:01:30,833 助六が 八雲の名を継げば 何よりの供養になる。 20 00:01:31,467 --> 00:01:33,600 なあ 兄弟 21 00:01:33,600 --> 00:01:35,300 ずっと夢だったんだろ。 22 00:01:35,300 --> 00:01:37,900 うるせえ! 帰れ 帰れ 帰れ! 23 00:01:37,900 --> 00:01:39,500 俺は 全部 捨ててきたんだ! 24 00:01:39,500 --> 00:01:40,567 どうして まだ構うんだ! 25 00:01:40,567 --> 00:01:45,533 必要だからだ お前さんの落語が。 26 00:01:46,567 --> 00:01:49,767 子供の時分から ずっと そばで聞かされて 27 00:01:49,767 --> 00:01:54,733 まねして 目指して できなくて 諦めて… 28 00:01:54,733 --> 00:01:58,500 羨ましくて 羨ましくて 嫉妬で焦がれたこともあった。 29 00:01:58,500 --> 00:02:01,533 大っ嫌いになって 否定したこともあった。 30 00:02:02,100 --> 00:02:07,633 いいのも悪いのも あらゆる情を お前さんの落語から もらった。 31 00:02:09,567 --> 00:02:11,633 アタシは… 32 00:02:13,967 --> 00:02:16,633 お前さんを取り戻したいんだ。 33 00:02:18,267 --> 00:02:20,800 アタシの落語のために。 34 00:02:22,667 --> 00:02:26,167 落語界のためでも お客のためでもねえ。 35 00:02:27,567 --> 00:02:30,267 アタシのために やれって言ってんだ。 36 00:02:39,233 --> 00:02:42,033 小夏さん 話がある。 37 00:02:43,767 --> 00:02:45,633 こっちへ おいで。 38 00:02:52,500 --> 00:02:55,700 お前さんが東京に戻るって言うまで ここに居座るよ。 39 00:02:55,700 --> 00:02:58,233 その前に 徹底的に掃除だ。 40 00:02:58,233 --> 00:03:00,933 小夏さん お前さんも手伝いな。 41 00:03:00,933 --> 00:03:03,633 助六 今 借金は? 42 00:03:03,633 --> 00:03:05,433 おい お前 そんなふうに 決めつけてもらっちゃ…。 43 00:03:05,433 --> 00:03:07,567 あるのか ないのか。 44 00:03:07,567 --> 00:03:09,100 あります。 45 00:03:10,433 --> 00:03:12,100 これで 全部 払っちまいな。 46 00:03:12,100 --> 00:03:14,567 身ぎれいになったら職探し。 47 00:03:14,567 --> 00:03:16,900 よかったなぁ 借金 全部 返してくれるってよ。 48 00:03:16,900 --> 00:03:18,833 働いて 全部 返してもらうよ。 49 00:03:18,833 --> 00:03:20,800 東京行きの電車賃も ためないと。 50 00:03:20,800 --> 00:03:23,233 その辺で働いて 稼ぎな。 51 00:03:23,233 --> 00:03:26,600 さあ そうと決まったら 掃除 掃除! 52 00:03:26,600 --> 00:03:28,600 私も手伝う! 53 00:03:28,600 --> 00:03:31,067 私も東京へ連れてって! 54 00:03:31,067 --> 00:03:33,767 寄席で 父ちゃんの落語 見るんだ! 55 00:03:33,767 --> 00:03:35,700 小夏…。 56 00:03:39,767 --> 00:03:41,533 利害一致だね。 57 00:03:41,533 --> 00:03:43,067 ほら 行け 行け 行け! 58 00:03:44,500 --> 00:03:45,967 助六。 59 00:03:45,967 --> 00:03:48,300 -なんだ 邪魔か? -邪魔だよ。 60 00:03:49,300 --> 00:03:50,900 邪魔だっつってんだよ。 61 00:03:50,900 --> 00:03:53,367 「やだよ お前とつきあうのは」。 62 00:03:53,367 --> 00:03:56,733 「そんなこと言わねえで つきあってくれよ」。 63 00:03:56,733 --> 00:03:59,633 伸びをしながら あくびをする。 64 00:03:59,633 --> 00:04:02,167 それを見て 思わず つられて…。 65 00:04:07,533 --> 00:04:10,700 おめえさんのせいで また散財しちまったよ。 66 00:04:10,700 --> 00:04:11,733 悪ぃな。 67 00:04:11,733 --> 00:04:13,200 おう どうだい 父ちゃん 似合うか? 68 00:04:13,200 --> 00:04:14,833 -似合う! -似合うってよ。 69 00:04:14,833 --> 00:04:16,233 アタシの見立てがいいんだろ。 70 00:04:16,233 --> 00:04:18,100 父ちゃんが似合うんだよな。 71 00:04:18,100 --> 00:04:19,867 -アタシだよね? -父ちゃんだ。 72 00:04:33,233 --> 00:04:35,000 食べることに集中しなさいよ。 73 00:04:42,200 --> 00:04:43,500 うるさいなぁ。 74 00:04:56,400 --> 00:04:58,967 気持ち良さそうに…。 75 00:04:58,967 --> 00:05:01,233 こっちまで眠っちまいそうだ。 76 00:05:02,400 --> 00:05:06,200 ちゃんと働いてるから ちゃんと眠くなるんだよ。 77 00:05:07,500 --> 00:05:10,767 アイツにも さんざん 働けって言われてたのに。 78 00:05:10,767 --> 00:05:14,200 いつ帰るんだい? もう1週間たつじゃないか。 79 00:05:14,200 --> 00:05:15,933 さあな。 80 00:05:17,133 --> 00:05:18,867 坊 81 00:05:18,867 --> 00:05:21,200 お前さん 所帯 持ったのか? 82 00:05:21,200 --> 00:05:23,367 いや… 83 00:05:23,367 --> 00:05:26,167 アタシは誰とも所帯は持たない。 84 00:05:27,567 --> 00:05:30,400 そんなの アイツが聞いたら 大ごとだよ。 85 00:05:31,433 --> 00:05:33,367 どういう意味だい。 86 00:05:34,467 --> 00:05:39,467 アイツには やっぱり お前さんしか見えてねえんだよ。 87 00:05:41,700 --> 00:05:43,967 間違えちゃいけねえぜ。 88 00:05:43,967 --> 00:05:48,500 小夏が生まれて 俺たちは楽しく暮らしてる。 89 00:05:50,133 --> 00:05:52,267 全部 俺が悪ぃんだ。 90 00:05:52,833 --> 00:05:55,700 小夏に落語を 聞かせてやるようになって 91 00:05:55,700 --> 00:05:58,233 小夏は喜んでくれるんだが 92 00:05:58,967 --> 00:06:02,033 アイツは とんでもなく 怒りやがって。 93 00:06:02,933 --> 00:06:04,900 なぜ? 94 00:06:04,900 --> 00:06:06,267 知らねえや…。 95 00:06:09,267 --> 00:06:13,100 帰ってきたら アタシからも話してみるよ。 96 00:06:13,100 --> 00:06:15,733 親子三人で東京に行こうって。 97 00:06:18,567 --> 00:06:20,033 もう寝るよ。 98 00:06:20,667 --> 00:06:22,000 お休み。 99 00:06:38,133 --> 00:06:41,500 どうも お呼び立てしてしもて。 100 00:06:41,500 --> 00:06:43,567 亀屋の主人です。 101 00:06:46,967 --> 00:06:49,233 いい座敷ですね。 102 00:06:49,767 --> 00:06:55,833 どうやろ ここで 落語会やって頂きたいんやけど。 103 00:06:56,267 --> 00:06:57,900 落語会…? 104 00:06:58,700 --> 00:07:00,400 どうですやろ? 105 00:07:10,967 --> 00:07:12,400 やらせて下さい。 106 00:07:27,567 --> 00:07:30,000 少し こぎれいになったじゃない。 107 00:07:30,000 --> 00:07:31,667 何かあった? 108 00:07:31,667 --> 00:07:33,900 このところ 真面目に働いてんだ。 109 00:07:34,800 --> 00:07:37,400 宿屋の風呂掃除したりしてよ。 110 00:07:37,400 --> 00:07:40,033 どういう風の吹き回し? 111 00:07:41,933 --> 00:07:45,200 落語をやりゃあ もっと 稼げるはずなんだけどなぁ…。 112 00:07:48,000 --> 00:07:49,333 冗談でぇ。 113 00:07:50,067 --> 00:07:54,067 とにかく ちゃんと働いて 金も ためるから 114 00:07:55,167 --> 00:07:58,000 また三人で 一からやり直そうぜ。 115 00:08:07,933 --> 00:08:10,933 アイツは こんな田舎にまでは 来やしねえよ。 116 00:08:24,967 --> 00:08:28,033 坊 おめえさんも入っちまえよ。 117 00:08:28,033 --> 00:08:29,900 アタシたちは 客じゃないんだよ。 118 00:08:29,900 --> 00:08:31,733 かてえこと言うなよ。 119 00:08:43,533 --> 00:08:45,233 なんだよ。 120 00:08:45,233 --> 00:08:46,300 やめろよ。 121 00:08:51,967 --> 00:08:54,733 初めて会った日 覚えてるか? 122 00:08:54,733 --> 00:08:57,700 お前さん 風呂で ビィビィビィビィ 泣きだしてよ。 123 00:08:58,900 --> 00:09:00,667 忘れたよ。 124 00:09:03,400 --> 00:09:05,633 なあ 坊。 125 00:09:05,633 --> 00:09:08,133 たまにゃ 泣き言ぐらい 言ったら どうだい。 126 00:09:13,000 --> 00:09:16,333 小さい席で落語やるってのは 楽しいもんだねぇ。 127 00:09:16,800 --> 00:09:19,367 今まで こんなふうに 思ったことなかった。 128 00:09:19,967 --> 00:09:22,800 そりゃ 客が よく見えるからだ。 129 00:09:23,467 --> 00:09:26,400 おめえは ずっと一人でいいなんて言うけど 130 00:09:26,400 --> 00:09:30,600 落語なんてもんは 一人じゃ 絶対できねえ。 131 00:09:31,733 --> 00:09:34,533 客が ちゃんと欲しがってくれて 132 00:09:34,533 --> 00:09:39,867 それにキッカリちょうどの多すぎない 少なすぎもないワリをくれて 133 00:09:39,867 --> 00:09:44,567 それに ちょうどよく見合う形の とびっきりいい芸を返して 134 00:09:45,100 --> 00:09:47,500 お互い気持ちよく取り引きをする。 135 00:09:48,300 --> 00:09:53,733 そんな落語やるためにぁ 客の姿が しっかり見えてねえと。 136 00:09:53,733 --> 00:09:57,767 そこまで分かってて どうして やらねえんだ? 137 00:09:59,433 --> 00:10:01,500 あの人のためかい? 138 00:10:03,033 --> 00:10:05,600 間があいて 怖くなっちまってるだけだ。 139 00:10:07,467 --> 00:10:12,000 亀屋の大旦那に頼まれて 大広間で落語会をやるんだ。 140 00:10:13,033 --> 00:10:14,867 そりゃ稼げるね。 141 00:10:14,867 --> 00:10:17,967 お前さんも出る 二人会だ。 142 00:10:18,967 --> 00:10:20,800 俺ぁ 聞いてねえぞ。 143 00:10:21,567 --> 00:10:23,600 俺ぁ 絶対やんねえからな! 144 00:10:23,600 --> 00:10:26,033 借金も返してもらわないと。 145 00:10:26,033 --> 00:10:27,467 お先。 146 00:10:27,467 --> 00:10:29,500 ちょっ… 待てって! 147 00:10:29,500 --> 00:10:31,867 おめえ ずりぃぞ おい! ちょっ…! 148 00:10:32,967 --> 00:10:34,533 くっそ…! 149 00:10:50,600 --> 00:10:52,333 早いね。 150 00:11:02,167 --> 00:11:05,233 ずいぶん髪が伸びたね。 151 00:11:05,233 --> 00:11:07,933 切ってくれる人が いないんだもん。 152 00:11:14,000 --> 00:11:18,500 昔は おとっつぁんの髪も よく切ってやったもんだ。 153 00:11:21,367 --> 00:11:23,100 お母ちゃんのこと さがすの? 154 00:11:24,033 --> 00:11:26,133 どうしてだい? 155 00:11:26,133 --> 00:11:28,833 あんなやつ いない方が 幸せなんだ…。 156 00:11:31,200 --> 00:11:33,167 ひでえ言いようだなぁ。 157 00:11:33,167 --> 00:11:34,467 大っ嫌い! 158 00:11:34,467 --> 00:11:37,733 父ちゃんがダメになったのは あの人のせいなんだ。 159 00:11:42,567 --> 00:11:44,400 落語をやらせないのかい? 160 00:11:45,300 --> 00:11:48,600 落語を聞くと 嫌なこと思い出すんだって。 161 00:11:49,867 --> 00:11:53,667 それに 母ちゃん 人生を間違えたって いつも言う。 162 00:11:54,867 --> 00:11:58,133 きっと私を生まなきゃよかったって 思ってんだ。 163 00:12:00,933 --> 00:12:03,733 憎まれ口ばかり たたいてると 164 00:12:03,733 --> 00:12:06,000 美人も台なしだよ。 165 00:12:10,800 --> 00:12:15,867 おっかさんのように きれいな 女の人が聞いててくれるからこそ 166 00:12:15,867 --> 00:12:19,500 落語やってる方だって 張り合いが出るんだ。 167 00:12:19,500 --> 00:12:24,500 寄席なんてぇのは浴衣一枚 羽織りゃ 気軽に入れるとこだけど 168 00:12:24,500 --> 00:12:28,833 そいでも 帯は お太鼓にして 髪も しどけなく結って 169 00:12:28,833 --> 00:12:32,733 寄席にいてくれりゃ なんとなく華やぐんだ。 170 00:12:32,733 --> 00:12:36,800 その辺の芸人はみんな舞い上がって いつもより いい芸ができる。 171 00:12:37,867 --> 00:12:40,700 はい 出来上がり。 172 00:12:41,733 --> 00:12:43,200 きれい? 173 00:12:44,567 --> 00:12:46,367 じゃあ やってよ。 174 00:12:47,533 --> 00:12:50,233 きれいな女の人のために。 175 00:12:51,100 --> 00:12:53,333 どこに そんな人がいるんだい? 176 00:12:53,333 --> 00:12:55,667 そうだ 「野ざらし」やって! 177 00:12:55,667 --> 00:12:58,400 なんだって また そんな根多を。 178 00:12:59,367 --> 00:13:01,600 苦手なんだよ…。 179 00:13:02,300 --> 00:13:06,000 え~ どうも 一席 古いところを おつきあい願いまして…。 180 00:13:06,000 --> 00:13:09,400 まくらはいいよ 早くやってよ。 181 00:13:09,400 --> 00:13:11,367 思い出してんだよ。 182 00:13:14,900 --> 00:13:16,567 「開けてくれ 開けてくれ! 183 00:13:16,567 --> 00:13:17,767 先生!」。 184 00:13:19,633 --> 00:13:21,833 「ちょいと お待ちよ。 185 00:13:23,300 --> 00:13:25,767 うちの戸は やわに出来てんだから」。 186 00:13:26,533 --> 00:13:31,167 浅草弁天山が打ちいだす鐘の音が 187 00:13:31,167 --> 00:13:37,567 陰にこもって ものすごく ごぉ~んと鳴るんだなぁ。 188 00:13:37,567 --> 00:13:41,433 方への葦が ガサガサガサー。 189 00:13:41,433 --> 00:13:44,967 カラスが す~っと出てくりゃ…。 190 00:13:46,200 --> 00:13:47,833 こっちのもんなんだよ。 191 00:13:47,833 --> 00:13:49,267 待ってました! 192 00:13:50,700 --> 00:13:54,200 「鐘が ゴンとなりゃさ 193 00:13:54,200 --> 00:13:57,767 上げ潮 南さあ」 194 00:13:57,767 --> 00:14:02,367 「カラスが ぱっと出て こらさのさあ」 195 00:14:02,367 --> 00:14:05,433 「骨があると さいさいさい」 196 00:14:05,800 --> 00:14:07,133 でも むやみに上がるってぇと 197 00:14:07,133 --> 00:14:09,233 角のはえる人なんか 座ってんじゃない? 198 00:14:09,233 --> 00:14:11,467 なに言ってやがんだ おめえって女が来てくれたんだ 199 00:14:11,467 --> 00:14:12,833 そんなもの いやしねえ。 200 00:14:12,833 --> 00:14:15,967 じゃ あたし お前さんのそばに 行っても かまわないかい? 201 00:14:15,967 --> 00:14:19,367 -いいとも。 -そうかい うれしいねぇ。 202 00:14:19,367 --> 00:14:23,733 …ってんで 骨が ツゥーっと来て 俺の脇へ ぺちゃっと座って。 203 00:14:23,733 --> 00:14:27,300 ご覧よ この人 水ったまりに座っちゃったぁ。 204 00:14:27,300 --> 00:14:31,533 でも お前さん あたしゃ 本当に 一緒に暮らしても構わないかい。 205 00:14:31,533 --> 00:14:33,767 -いいとも。 -…って お前さんなんだろ。 206 00:14:33,767 --> 00:14:35,752 あたしなんて すぐに飽きてきちゃって 207 00:14:35,782 --> 00:14:37,833 脇に若いのなんか こしらえるんじゃない? 208 00:14:37,833 --> 00:14:38,933 なに言ってやがんだ 209 00:14:38,933 --> 00:14:40,267 おめえって女が来てくれたんだ。 210 00:14:40,267 --> 00:14:41,567 そんなもの こしらえやしねえ。 211 00:14:41,567 --> 00:14:45,267 うそだ。 そうやって 今まで 何人の女を だましたんだよ。 212 00:14:45,267 --> 00:14:47,667 俺ぁ 女なんか だましはしねえ。 213 00:14:47,667 --> 00:14:51,433 うそだ 何人目だよ 悔しいねぇ。 214 00:14:51,433 --> 00:14:53,133 ダメだ やめなさい。 215 00:14:53,133 --> 00:14:55,333 バカだね お前 やめなさい。 216 00:14:59,267 --> 00:15:01,000 ご覧よ この人… 217 00:15:01,000 --> 00:15:03,700 魚 釣らねえで 自分の鼻 釣っちゃった。 218 00:15:03,700 --> 00:15:06,400 ちょっと 取って これ。 ちょっと 取って…。 219 00:15:06,400 --> 00:15:09,267 なんだ おめえ 笑ってやがんな。 いいよ てめえで取るからよ。 220 00:15:10,700 --> 00:15:12,800 あ 痛… あ 痛っ! 221 00:15:15,067 --> 00:15:16,800 鼻血が出てきちゃった。 222 00:15:16,800 --> 00:15:19,867 ばかばかしくって 話にならないってやつだなぁ。 223 00:15:19,867 --> 00:15:23,567 こんな針で 骨が釣れるかよってんだ。 224 00:15:23,567 --> 00:15:25,333 この人 針 取っちゃった。 225 00:15:25,333 --> 00:15:27,000 野ざらしで…。 226 00:15:27,000 --> 00:15:29,200 父ちゃん 日本一! 227 00:15:33,800 --> 00:15:36,933 父ちゃんは すごい! 228 00:15:36,933 --> 00:15:38,900 助六さん 229 00:15:39,633 --> 00:15:41,733 後生です。 230 00:15:42,567 --> 00:15:45,700 八雲を継いで 落語をなさい。 231 00:15:46,733 --> 00:15:49,167 父ちゃんは日本一! 232 00:15:54,433 --> 00:15:57,533 みよ吉さん 聞きました? 233 00:15:57,533 --> 00:16:00,967 亀屋さんで落語会やるんですって。 234 00:16:03,200 --> 00:16:06,467 これ 旦那さんじゃないですか? 235 00:16:08,167 --> 00:16:10,600 -梅春! -はい。 236 00:16:10,600 --> 00:16:12,167 姉さん お先に。 237 00:16:17,000 --> 00:16:19,200 あの唐変木…。 238 00:16:41,133 --> 00:16:43,567 菊さん…。 239 00:16:45,233 --> 00:16:47,800 やっと来てくれた…。 240 00:16:53,000 --> 00:16:56,333 やらねえって どういう意味だい? 241 00:16:56,333 --> 00:16:58,200 もう チラシも配っちまったし 242 00:16:58,200 --> 00:17:00,133 -みんな楽しみに…。 -知らねえよ。 243 00:17:00,133 --> 00:17:02,633 俺は もう 落語は やらねえって決めたんだ。 244 00:17:03,633 --> 00:17:05,100 やったじゃねえか 今日だって。 245 00:17:05,100 --> 00:17:07,200 小夏の前だけだ。 246 00:17:08,567 --> 00:17:09,867 俺ぁ 落語が嫌いなんだよ。 247 00:17:09,867 --> 00:17:11,633 うそだ! 248 00:17:13,533 --> 00:17:17,133 お前さんは 落語なしじゃ 生きていけねえ。 249 00:17:17,133 --> 00:17:21,700 アタシが お前さんの落語なしじゃ 生きていけねえのと 同じにね。 250 00:17:23,133 --> 00:17:27,067 お前さんは 落語をやるために 生まれてきたんだ。 251 00:17:27,067 --> 00:17:28,933 違う! 252 00:17:29,767 --> 00:17:32,233 今の俺は… 253 00:17:32,233 --> 00:17:34,567 この田舎で 親子三人で…。 254 00:17:35,600 --> 00:17:37,067 やって。 255 00:17:37,067 --> 00:17:39,200 小夏 起きてたのか。 256 00:17:39,200 --> 00:17:44,200 やってよ 見たいんだ 父ちゃんが 大勢の人の前で落語するとこ。 257 00:17:44,200 --> 00:17:45,967 絶対 見たい! 258 00:17:46,667 --> 00:17:48,800 ねえ やって お願い 父ちゃん! 259 00:17:48,800 --> 00:17:50,167 うるせえ もう寝ろ! 260 00:17:50,167 --> 00:17:52,900 やだ 父ちゃんが 落語やるって言うまで 寝ない! 261 00:17:52,900 --> 00:17:54,000 子供は黙ってろぃ! 262 00:17:54,000 --> 00:17:54,767 寝ない! 263 00:17:54,767 --> 00:18:01,567 -寝ろ! -寝ない! 264 00:18:02,233 --> 00:18:03,967 約束だからね。 265 00:18:03,967 --> 00:18:05,400 分かったから もう寝ろ。 266 00:18:05,400 --> 00:18:09,033 -絶対だよ。 -分かった 分かった。 267 00:18:27,133 --> 00:18:29,867 助六さん そろそろ始め…。 268 00:18:29,867 --> 00:18:34,000 温泉に遊びに来てるようなやつらに 落語が分かるわけねえだろうが。 269 00:18:34,000 --> 00:18:36,933 いいから 一番太鼓 入れといで。 270 00:18:38,067 --> 00:18:39,967 助六師匠。 271 00:18:42,667 --> 00:18:44,733 松田さん!? どうして…。 272 00:18:44,733 --> 00:18:48,133 どうもこうも。 お栄さんに聞いて やっと。 273 00:18:49,533 --> 00:18:53,300 久しぶりだな! 元気だったか? 274 00:18:53,300 --> 00:18:57,067 アタシも 妻をみとりましてね…。 275 00:18:57,067 --> 00:19:00,033 周り見回したら 誰もいなくて 276 00:19:00,033 --> 00:19:02,667 なんだか 寂しくなっちまいましてねぇ。 277 00:19:02,667 --> 00:19:04,067 そうか…。 278 00:19:04,067 --> 00:19:08,167 寄席の方々 みんな 助六師匠を待ち焦がれてますよ! 279 00:19:08,167 --> 00:19:09,933 なんべん聞かれたことか! 280 00:19:09,933 --> 00:19:12,700 もう いないとね 灯がパッと消えたみたいで。 281 00:19:12,700 --> 00:19:14,100 おべっかは いいよ。 282 00:19:14,100 --> 00:19:17,167 もぎりでも なんでも お手伝いしますからね。 283 00:19:17,167 --> 00:19:20,433 さあ もう 逃げも隠れも できねえぜ。 284 00:19:20,433 --> 00:19:22,633 小夏さんも楽しみにしてるんだ。 285 00:19:37,033 --> 00:19:39,900 「ひと間に閉じこもって 本ばかり読んでたんじゃ 286 00:19:39,900 --> 00:19:41,600 かえって こっちは…。 287 00:19:41,600 --> 00:19:44,767 帰ってきた? ああ こりゃよかった。 288 00:19:44,767 --> 00:19:47,867 時次郎かい?こっちへ お入り」。 289 00:19:47,867 --> 00:19:51,500 「おとっつぁん ただいま帰りましてございます」。 290 00:19:51,500 --> 00:19:55,867 「どちらへ行ってなすった。 とうべえン所の稲荷祭に?」。 291 00:19:55,867 --> 00:19:59,333 「ここは お稲荷さまじゃ ございませんね?」。 292 00:20:00,433 --> 00:20:04,300 -「そうですかねぇ」。 -「そうですかねぇじゃございません! 293 00:20:04,300 --> 00:20:06,300 本で読んだことがございます。 294 00:20:06,300 --> 00:20:10,800 ここは 吉原というところじゃ ございませんか…! 295 00:20:10,800 --> 00:20:13,158 なんで あなた方 アタシを こういうところに 296 00:20:13,188 --> 00:20:14,500 連れて来るんでございます…」。 297 00:20:16,500 --> 00:20:23,733 「アタシの手を ギュウっと握って 離さない…」。 298 00:20:23,733 --> 00:20:26,733 「うだっちゃったよ もう…。 299 00:20:26,733 --> 00:20:30,000 お前 そこでもって 甘納豆 食ってる場合じゃないんだよ」。 300 00:20:30,900 --> 00:20:32,967 「しょうがねえな …ったく 301 00:20:32,967 --> 00:20:35,333 あんなに大騒ぎしたのに」。 302 00:20:36,233 --> 00:20:38,267 「何してんだ しょうがねえな まったく。 303 00:20:39,167 --> 00:20:40,733 じゃあ いいよ 若旦那 304 00:20:40,733 --> 00:20:43,600 あなた モテてんだから しばらく ここに いらっしゃい。 305 00:20:43,600 --> 00:20:46,367 あっしらは先に帰りますから」。 306 00:20:47,467 --> 00:20:52,800 「あなた方 帰れるもんなら 帰ってごらんなさい。 307 00:20:52,800 --> 00:20:56,067 大門で止められますから」。 308 00:20:57,367 --> 00:20:58,867 お先。 309 00:20:58,867 --> 00:21:01,133 いい客だなぁ。 310 00:21:01,133 --> 00:21:03,433 あったけぇけど 悪ウケしない。 311 00:21:03,433 --> 00:21:04,918 旅館の旦那が 312 00:21:04,948 --> 00:21:08,533 ごひいき筋に どういう会かって よく説明してくだすったんだ。 313 00:21:08,533 --> 00:21:10,967 気負わず気楽に聞いてくださる。 314 00:21:10,967 --> 00:21:12,500 ありがてえなぁ。 315 00:21:16,267 --> 00:21:19,367 落語は客が語らすってのは こういうこった。 316 00:21:21,700 --> 00:21:23,167 坊。 317 00:21:24,800 --> 00:21:27,400 お前さん いい噺家になったなぁ。 318 00:21:29,133 --> 00:21:32,033 俺なんかより ず~っと いいや。 319 00:21:32,033 --> 00:21:34,200 冗談 言っちゃいけねえ。 320 00:21:34,200 --> 00:21:37,067 兄弟子と思って せっかく トリを譲ったのに。 321 00:21:37,600 --> 00:21:39,100 今 兄弟子って言ったな? 322 00:21:39,100 --> 00:21:40,500 おめえ ついに認めやがったな! 323 00:21:40,500 --> 00:21:42,233 さあ シャンとして! 324 00:21:42,233 --> 00:21:43,867 この黒紋付 着てりゃあ 325 00:21:43,867 --> 00:21:46,200 誰だって 真打に見えらぁ。 326 00:21:47,533 --> 00:21:50,033 師匠の紋付… 327 00:21:50,033 --> 00:21:52,733 こりゃ 「八雲」だけの替え紋だろう。 328 00:21:52,733 --> 00:21:56,767 師匠の形見に… と思ってね。 329 00:21:56,767 --> 00:21:59,233 持ってきてよかった。 330 00:21:59,733 --> 00:22:01,367 よく似合う。 331 00:22:21,600 --> 00:22:23,300 父ちゃん 頑張れ~! 332 00:22:32,133 --> 00:22:34,567 たくさんの お運びで。 333 00:22:34,567 --> 00:22:37,533 まあ こんなシャンとした格好 すんのも 久しぶりでね 334 00:22:37,533 --> 00:22:42,233 中には こちらをニヤニヤニヤニヤ 眺めてんのも ひとり ふた~り? 335 00:22:43,267 --> 00:22:44,667 え~ こう見えてね 336 00:22:44,667 --> 00:22:47,533 あたしゃ 東京で 落語家をやってまして。 337 00:22:47,533 --> 00:22:49,000 あら 見える? 338 00:22:49,000 --> 00:22:50,667 見えない? 339 00:22:53,033 --> 00:22:56,433 え~ どちらにしても 気分は悪ぃもんで。 340 00:22:59,200 --> 00:23:04,400 東京は芝の浜に まだ河岸が ございました時分のお話で…。 341 00:23:04,400 --> 00:23:06,867 芝浜… 342 00:23:06,867 --> 00:23:10,167 人情噺か 珍しい。 343 00:23:13,067 --> 00:23:14,900 「なんだよ おい? 344 00:23:14,900 --> 00:23:16,800 まだ夜も明けてねえ じゃねえかよぉ」。 345 00:23:19,700 --> 00:23:21,100 「おっどろいた…。 346 00:23:21,100 --> 00:23:24,700 お前さん 堪忍しておくれ。 いっとき早く起こしちまったなぁ」 347 00:23:24,700 --> 00:23:28,633 「そんなことはどうでもいいんだよ おい これ見てみろ」。 348 00:23:28,633 --> 00:23:30,500 「財布かい?」。 349 00:23:31,433 --> 00:23:34,100 「浜で拾ったんだい。 中 見てみねえか」。 350 00:23:41,833 --> 00:23:45,233 「お前さん これ 二分金ばかりだよ」。 351 00:23:45,233 --> 00:23:48,267 酒浸りの日々だった魚屋の勝五郎が 352 00:23:48,267 --> 00:23:51,367 芝の浜で財布を拾って 浮かれていく。 353 00:23:51,367 --> 00:23:55,333 笑わさなくっても 客を引き込みやがる…。 354 00:23:55,933 --> 00:23:58,100 「夢でも見たんじゃないかい」。 355 00:23:58,100 --> 00:24:01,133 「夢? 馬鹿なこと言ってんじゃねえ。 356 00:24:01,133 --> 00:24:04,767 おら おめえ 浜 行って 財布 拾ってよ…」。 357 00:24:08,067 --> 00:24:10,100 「夢かい…」。 358 00:24:11,267 --> 00:24:13,067 「おい 夢か!」。 359 00:24:13,067 --> 00:24:17,300 さあ それからは まるで人が 変わったように一生懸命 働きます。 360 00:24:17,300 --> 00:24:20,533 今晩の助六は すごくいい。 361 00:24:20,533 --> 00:24:22,367 実感がある。 362 00:24:23,533 --> 00:24:27,367 「俺は つくづく 魚屋になって良かったって… 363 00:24:29,100 --> 00:24:31,167 それ聞いてね… 364 00:24:32,167 --> 00:24:37,267 あたし もう この人 大丈夫… 365 00:24:37,833 --> 00:24:42,833 もう この人 大丈夫だって そう思ってね 366 00:24:45,167 --> 00:24:47,500 今 お金 出したんだよ…」。 367 00:24:50,233 --> 00:24:53,200 「お前さん ごめんなさい。 368 00:24:54,667 --> 00:24:56,567 堪忍しておくれ」。 369 00:25:06,600 --> 00:25:10,267 「まあ お手をお上げになって。 370 00:25:12,433 --> 00:25:15,467 俺が 甲斐性がねえばかりに 371 00:25:15,467 --> 00:25:18,000 おめえに つれえ思いさしたなぁ。 372 00:25:19,467 --> 00:25:23,633 俺が馬鹿だった。 おめえは悪くねえよ。 373 00:25:24,567 --> 00:25:26,600 俺が悪かった。 374 00:25:29,700 --> 00:25:32,000 勘弁してくれ…」。 375 00:25:34,633 --> 00:25:37,200 「こういう うれしいときにゃ 酒 呑まないといけねえなぁ。 376 00:25:39,267 --> 00:25:40,867 ありがとよ。 377 00:25:42,900 --> 00:25:46,233 どうも お久しぶりです」。 378 00:25:48,033 --> 00:25:49,800 「本当に いいんだな?」。 379 00:26:00,967 --> 00:26:02,633 「よそう」。 380 00:26:02,633 --> 00:26:04,233 「呑まないのかい?」。 381 00:26:05,200 --> 00:26:08,867 「また 夢になるといけねえ」。 382 00:26:20,267 --> 00:26:22,233 父ちゃん 日本一! 383 00:26:47,500 --> 00:26:49,100 そろそろ起きな。 384 00:26:53,400 --> 00:26:56,200 もう遅いから 宿へ泊まってけって 385 00:26:56,200 --> 00:26:58,767 大旦那さんが あっちぃ 布団 敷いてくだすったよ。 386 00:27:01,967 --> 00:27:05,000 何から何まで世話んなっちまった。 387 00:27:06,400 --> 00:27:09,600 今日は なんだか 日がな夢でも見てるみてえだ。 388 00:27:11,600 --> 00:27:15,367 あんな落語を また できたなんて 389 00:27:15,367 --> 00:27:17,967 神様の ご褒美なんだろうなぁ。 390 00:27:21,133 --> 00:27:23,267 見たか? コイツの顔。 391 00:27:24,133 --> 00:27:26,867 あんなに楽しそうにしてよ。 392 00:27:27,400 --> 00:27:29,367 小夏って いい名前だろ。 393 00:27:30,833 --> 00:27:32,833 春なら 小春 394 00:27:32,833 --> 00:27:35,267 秋なら 千秋 395 00:27:35,267 --> 00:27:37,767 冬なら 小雪だ。 396 00:27:38,833 --> 00:27:42,200 夏の暑い盛りに生まれたから 小夏。 397 00:27:44,067 --> 00:27:46,433 季節は 落語に なくちゃならねえからな。 398 00:27:49,033 --> 00:27:51,700 東京へ戻ったら 399 00:27:51,700 --> 00:27:54,733 みんなで師匠のお宅で暮らそうよ。 400 00:27:55,233 --> 00:27:58,667 アタシ一人で暮らすにゃ 持て余すんだ。 401 00:28:02,233 --> 00:28:07,100 おめえさん 一人になりてえって 言ってたじゃねえか。 402 00:28:07,100 --> 00:28:10,000 ああ 言ったねぇ…。 403 00:28:12,467 --> 00:28:19,367 確かに 一人で黙々と稽古すりゃあ それなりに 落語はうまくなるよ。 404 00:28:20,033 --> 00:28:22,767 ただ落語ができりゃいい 405 00:28:22,767 --> 00:28:25,300 ずっと そう思ってきたからね。 406 00:28:26,300 --> 00:28:28,233 けど… 407 00:28:30,033 --> 00:28:33,133 ここへ来て 少し 料簡が変わったんだ。 408 00:28:34,467 --> 00:28:38,100 さっきの芝浜を聞いても思った。 409 00:28:38,100 --> 00:28:43,133 人ってぇのは 全て分かり合えるわけがない。 410 00:28:43,133 --> 00:28:46,233 それでも 人は共に暮らす。 411 00:28:47,267 --> 00:28:49,245 取るに足らねえ 412 00:28:49,275 --> 00:28:53,700 詮ないことを ただ分け合うことが 好きな生き物なんだ。 413 00:28:55,333 --> 00:28:59,800 だから 人は 一人にならないんじゃないか。 414 00:29:03,933 --> 00:29:06,033 やっと お前さんと 料簡が合ったな。 415 00:29:06,033 --> 00:29:07,633 そうかぇ? 416 00:29:07,633 --> 00:29:09,200 人生初だ。 417 00:29:10,933 --> 00:29:12,500 よしとくれよ。 418 00:29:15,067 --> 00:29:18,533 助六師匠 お嬢さんも あちらのお部屋へ。 419 00:29:19,933 --> 00:29:21,233 悪いね。 420 00:29:29,067 --> 00:29:31,533 菊さん… ですか? 421 00:29:31,533 --> 00:29:32,567 はい。 422 00:29:32,567 --> 00:29:34,600 ちょっと ええでしょうか? 423 00:29:35,100 --> 00:29:36,667 先 行くぜ。 424 00:29:37,367 --> 00:29:41,867 他に お泊まりのお客様に どうしてもいうて言づかりまして。 425 00:30:06,100 --> 00:30:08,800 やっと来てくれたのね。 426 00:30:08,800 --> 00:30:11,933 ずいぶん遅いから 待ちくたびれちゃった。 427 00:30:15,167 --> 00:30:17,467 こっち見て。 428 00:30:32,900 --> 00:30:35,367 会いたかった…。 429 00:30:40,333 --> 00:30:42,567 迎えに来たんだ。 430 00:30:43,300 --> 00:30:45,733 みんなで東京に帰ろう。 431 00:30:45,733 --> 00:30:47,533 嫌。 432 00:30:47,533 --> 00:30:50,000 私は 菊さんと二人がいい。 433 00:30:52,400 --> 00:30:54,233 なんで…。 434 00:30:57,633 --> 00:31:01,367 あの人は 菊さんじゃないもの…。 435 00:31:06,700 --> 00:31:08,967 すまねぇ…。 436 00:31:10,767 --> 00:31:14,167 お前さんが こんなことをしちまったのも 437 00:31:14,833 --> 00:31:17,967 あの人が あんなふうに なっちまったのも… 438 00:31:22,300 --> 00:31:25,433 全部 全部 アタシのせいだ…。 439 00:31:31,967 --> 00:31:34,100 そうよ。 440 00:31:35,700 --> 00:31:38,500 あの人と私 似てるの。 441 00:31:40,133 --> 00:31:45,233 あなたのせいで 人生が狂った人間同士。 442 00:31:55,167 --> 00:31:57,600 どうして来たの? 443 00:31:58,200 --> 00:32:01,600 来なけりゃ何も変わらなかったのに 444 00:32:01,600 --> 00:32:04,800 わざわざ来たのは 何か変えたかったからなんでしょ? 445 00:32:14,367 --> 00:32:20,367 ひとりで生きると あんなに固く心に決めたのに… 446 00:32:20,367 --> 00:32:25,667 なぜ 人の性分は こうも愚かなのでしょうか…。 447 00:33:14,667 --> 00:33:16,867 すごく きれい…。 448 00:33:18,967 --> 00:33:21,033 落ちたら大変ね。 449 00:33:33,200 --> 00:33:35,400 一緒に 450 00:33:35,400 --> 00:33:37,433 死んじゃおっか。 451 00:33:38,000 --> 00:33:39,767 待て! 452 00:33:43,000 --> 00:33:45,833 あんまり遅ぇから 胸騒ぎがしたんだ…。 453 00:33:47,500 --> 00:33:50,767 死のうなんざ 冗談でも言うんじゃねえ。 454 00:33:50,767 --> 00:33:53,333 来ないで! 455 00:33:53,333 --> 00:33:55,267 何よ いまさら…。 456 00:33:55,267 --> 00:33:58,300 菊さんが来てたの 隠してたんでしょ! 457 00:34:04,900 --> 00:34:07,100 すまねぇ…。 458 00:34:09,867 --> 00:34:12,767 今ので 俺 腹 決めた。 459 00:34:15,633 --> 00:34:20,867 落語はやめて まっとうに働く。 460 00:34:22,467 --> 00:34:25,200 お前と小夏は… 461 00:34:28,033 --> 00:34:30,633 俺の宝だ。 462 00:34:35,333 --> 00:34:39,267 落語をやることで お前が不安になるってんなら… 463 00:34:41,500 --> 00:34:44,933 あんな浮き草稼業は 捨てたって かまわねえ。 464 00:34:48,567 --> 00:34:51,400 俺ぁ お前らの方が大事だ。 465 00:34:55,800 --> 00:34:58,200 やり直させてくれ! 466 00:35:11,333 --> 00:35:14,167 今日やった 芝浜…。 467 00:35:17,733 --> 00:35:21,033 あれは おめえがいなかったら できなかった。 468 00:35:25,700 --> 00:35:28,267 もう あれで十分だ。 469 00:35:32,667 --> 00:35:34,933 ありがとう…。 470 00:35:37,767 --> 00:35:42,167 初めて見る 助六の涙でした。 471 00:35:44,667 --> 00:35:47,267 何よ いまさら…。 472 00:35:48,767 --> 00:35:50,400 なんで そんなこと言うの…。 473 00:35:51,967 --> 00:35:53,233 ユリエ! 474 00:36:10,700 --> 00:36:12,700 坊 はなせ! 475 00:36:12,700 --> 00:36:14,367 おめえまで落っこっちまう! 476 00:36:14,367 --> 00:36:16,367 はなせるわけねえだろ! 477 00:36:16,367 --> 00:36:19,533 待ってろ 今 引き上げる! 478 00:36:22,533 --> 00:36:24,500 ケガして落語できなく なっちまったら どうすんだ! 479 00:36:24,500 --> 00:36:26,000 知るかぃ! 480 00:36:28,467 --> 00:36:31,933 見ろよ こんなに震えてる。 481 00:36:32,633 --> 00:36:37,200 アンタ… ごめん… ごめんよ…。 482 00:36:37,767 --> 00:36:40,267 おめえの代わりに 俺が付いてってやる。 483 00:36:41,167 --> 00:36:43,700 こいつひとり地獄にゃ落とせねえ! 484 00:36:43,700 --> 00:36:45,300 嫌だ… 485 00:36:45,833 --> 00:36:48,833 -なら アタシも連れてけ! -ダメだ! 486 00:36:51,833 --> 00:36:53,867 すまん 坊…。 487 00:36:56,333 --> 00:36:58,733 頼んだよ。 488 00:36:58,733 --> 00:37:02,233 やめろ… やめろ…。 489 00:37:03,067 --> 00:37:04,633 やめろ…! 490 00:37:18,467 --> 00:37:22,800 アタシは また 捨てられました。 491 00:37:24,367 --> 00:37:29,333 甘い夢を見すぎた 罰だったのでしょうか。 492 00:38:05,067 --> 00:38:07,067 そうか… 493 00:38:09,367 --> 00:38:12,033 そりゃ 残念なこった。 494 00:38:13,633 --> 00:38:16,867 きかねえ野郎だったが いねえとなると 495 00:38:16,867 --> 00:38:19,367 ぽっかり穴があいたみてえだ。 496 00:38:20,467 --> 00:38:23,233 …で 娘さんは? 497 00:38:24,433 --> 00:38:26,467 アタシが引き取ります。 498 00:38:27,367 --> 00:38:31,300 松田さんが居てくれるので しばらくは師匠の家で。 499 00:38:33,133 --> 00:38:35,067 そうかい…。 500 00:38:41,167 --> 00:38:47,333 さておきだ 今いる人間で落語界を なんとかしなくちゃならねえ。 501 00:38:50,033 --> 00:38:52,433 八雲 襲名だ。 502 00:38:54,300 --> 00:38:57,000 今 しねえで いつする。 503 00:39:10,533 --> 00:39:15,367 東京は芝の浜に まだ 河岸が ございました時分のお話で。 504 00:39:15,833 --> 00:39:20,633 「ちょいと お前さん 起きとくれよ お前さん」。 505 00:39:20,633 --> 00:39:23,967 「お嬢さん ぽっくりでございますか それは いけませんね。 506 00:39:23,967 --> 00:39:25,933 危ねえから 足元 気を付けてくださいね」。 507 00:39:25,933 --> 00:39:31,933 「鐘が ゴンとなりゃさ 上げ潮 南さあ」 508 00:39:31,933 --> 00:39:37,500 「でもよ 雪が積もるってぇと 花が咲いたように見えらぁ。 509 00:39:37,500 --> 00:39:40,100 明るくなったらねぇ こりゃあ どうも いいもんだねぇ」。 510 00:39:40,100 --> 00:39:44,467 「先生!わ~開けてくれい!」。 511 00:39:44,467 --> 00:39:46,443 カラスカーで夜が明ける。 512 00:39:46,473 --> 00:39:49,700 おまんま炊こうと思ったんですが お米のありかが分かりません。 513 00:39:49,700 --> 00:39:51,933 「居残りを商売にしてるんですよ」 514 00:39:51,933 --> 00:39:56,200 将来は 名人になる 八代目八雲を名乗る男の初高座。 515 00:39:56,200 --> 00:39:58,200 皆さんね よ~く この顔 覚えといて…。 516 00:39:58,200 --> 00:40:01,400 「また 夢になるといけねえ」。 517 00:40:06,067 --> 00:40:10,267 落語を 葬り去ろう… 518 00:40:11,133 --> 00:40:14,000 助六に捨てられた今 519 00:40:14,000 --> 00:40:18,767 その助六が恋い焦がれた 八雲の名と共に 520 00:40:18,767 --> 00:40:21,800 落語と心中しよう…。 521 00:40:21,800 --> 00:40:27,600 その時 心底 そう思いました。 522 00:40:30,533 --> 00:40:35,667 上げ潮… 南さあ…。 523 00:40:35,667 --> 00:40:41,100 カラス ぱっと出て…。 524 00:40:42,167 --> 00:40:46,633 骨があると さいさいさい…。 525 00:40:49,500 --> 00:40:52,800 小夏さん 落語は よしなさい。 526 00:40:53,933 --> 00:40:57,433 東京なんて 父ちゃんがいなきゃ意味ない…。 527 00:40:57,433 --> 00:40:59,167 聞きわけなさい。 528 00:40:59,167 --> 00:41:00,867 いいかい 529 00:41:00,867 --> 00:41:03,967 これからは アタシが お前さんの保護者だ。 530 00:41:03,967 --> 00:41:08,633 子供と暮らすなんて考えただけでも ゾッとするけど しかたない。 531 00:41:08,633 --> 00:41:11,067 学校までは出してやらぁ。 532 00:41:11,067 --> 00:41:13,033 あとは好きにしな。 533 00:41:15,033 --> 00:41:17,533 アンタが来たから こうなったんだろ! 534 00:41:17,533 --> 00:41:19,133 べらぼうめ! 535 00:41:19,133 --> 00:41:22,367 そんな悪態 どこで覚えた。 536 00:41:22,367 --> 00:41:24,333 父ちゃんだよ。 537 00:41:26,933 --> 00:41:29,600 落語やりたいんなら 出ておいき。 538 00:41:29,600 --> 00:41:33,233 身になるわけじゃなし 騒々しいのは ごめんだよ。 539 00:41:40,100 --> 00:41:42,733 なんでぇ 540 00:41:42,733 --> 00:41:46,267 言いたいことがあるんなら はっきり言ってみな。 541 00:41:46,267 --> 00:41:48,167 出ていかない。 542 00:41:49,633 --> 00:41:52,433 いつか アンタを殺してやるから。 543 00:41:54,467 --> 00:41:57,567 そんな言葉… 544 00:41:59,300 --> 00:42:01,167 どこで覚えた。 545 00:42:01,167 --> 00:42:03,067 母さんだよ。 546 00:42:11,233 --> 00:42:14,467 殺してくれよ…。 547 00:42:14,467 --> 00:42:18,033 せいせいすらぁ…。 548 00:42:18,033 --> 00:42:21,733 結局 アタシは たった独り 549 00:42:21,733 --> 00:42:24,800 こうして生きていくほかは ないのだと 550 00:42:24,800 --> 00:42:29,333 この時分 腹の底から実感したのです。 551 00:42:29,333 --> 00:42:33,333 「命の火を こっちに つなぐことが できりゃ 552 00:42:33,333 --> 00:42:36,433 今度 これが おめえの寿命だ。 553 00:42:37,033 --> 00:42:38,567 ただ… 554 00:42:39,633 --> 00:42:42,233 消えると死ぬよ」。 555 00:42:53,633 --> 00:42:59,200 アタシの名は 有楽亭八雲…。 556 00:43:00,067 --> 00:43:03,133 本当の名など 557 00:43:03,133 --> 00:43:05,167 とうに忘れました。 558 00:43:22,000 --> 00:43:27,033 © NHK / TELEPACK