1 00:00:13,633 --> 00:00:15,900 もう ダメだ。 2 00:00:15,900 --> 00:00:19,033 お前には分からねえだろうが 3 00:00:19,033 --> 00:00:21,033 俺ぁよ… 4 00:00:22,933 --> 00:00:27,433 毎回 高座に上がる前に 5 00:00:27,433 --> 00:00:33,100 こうやって 震える手を握ってんだ。 6 00:00:33,733 --> 00:00:39,667 肝心なところで 噺が飛んじまったら… 7 00:00:39,667 --> 00:00:42,600 思い出せなかったら… 8 00:00:43,133 --> 00:00:45,233 怖ぇ。 9 00:00:45,233 --> 00:00:48,333 怖さとの戦いだ。 10 00:00:49,800 --> 00:00:53,433 毎回 毎回… 11 00:00:53,433 --> 00:00:56,433 もう疲れちまったよ。 12 00:00:57,533 --> 00:01:02,900 こうなったら もう お前さんに 八雲 譲って 13 00:01:02,900 --> 00:01:06,933 さっさと引退したいって 思うことも…。 14 00:01:08,133 --> 00:01:10,633 師匠 15 00:01:10,633 --> 00:01:14,133 噺家は年を取ってからが 花だって…。 16 00:01:14,667 --> 00:01:17,433 そんな恐れに負けないで下さいよ。 17 00:01:17,433 --> 00:01:22,067 まだまだ 落語を枯れるまで やっていくのが 18 00:01:22,067 --> 00:01:27,700 今 居る者 生きてる者の つとめってやつじゃねえんですか? 19 00:01:34,967 --> 00:01:37,867 お前なんかには分かるめえ。 20 00:01:38,500 --> 00:01:42,200 落語ってのはよ… 21 00:01:42,200 --> 00:01:46,333 こんなに気持ちよくて 22 00:01:46,333 --> 00:01:49,833 こんなに残酷な芸はねえ。 23 00:02:02,367 --> 00:02:05,200 師匠… 24 00:02:05,200 --> 00:02:10,233 あん時のアタシの言葉が 25 00:02:10,233 --> 00:02:14,567 今のアタシに突き刺さりますよ。 26 00:02:16,533 --> 00:02:19,267 じいじ まだ? 27 00:02:20,000 --> 00:02:22,167 もう帰ろうよ~! 28 00:02:22,167 --> 00:02:24,767 分かった 分かった。 29 00:03:02,633 --> 00:03:04,767 ずいぶん長ぇお祈りだったな。 30 00:03:04,767 --> 00:03:06,200 当たり前だろ。 31 00:03:06,200 --> 00:03:08,367 とうとう下座の初日。 32 00:03:08,367 --> 00:03:10,000 あ~ 緊張する。 33 00:03:10,000 --> 00:03:11,633 大丈夫だって。 34 00:03:11,633 --> 00:03:15,133 もう2年も 修業に修業を 重ねてきたじゃねえか。 35 00:03:15,133 --> 00:03:17,600 修業と本番は違うだろ。 36 00:03:17,600 --> 00:03:19,467 腹くくんなよ。 37 00:03:19,467 --> 00:03:21,600 いつも落語のそばにいたい 38 00:03:21,600 --> 00:03:25,267 もっともっと落語と共に暮らしたい って決心して 修業 始めて 39 00:03:25,267 --> 00:03:27,033 その夢が やっと かなう。 40 00:03:27,033 --> 00:03:29,400 あっ そうだ あとで信之助も見に来るぜ。 41 00:03:29,400 --> 00:03:30,867 なんで? 42 00:03:30,867 --> 00:03:33,367 相変わらず デリカシーがないね! 43 00:03:35,700 --> 00:03:38,833 寄席の音楽は 全部 生演奏です。 44 00:03:38,833 --> 00:03:41,533 三味線は下座さんが弾くんです。 45 00:03:41,533 --> 00:03:42,933 げざ? 46 00:03:42,933 --> 00:03:45,467 下に座ると書いて 下座。 47 00:03:45,467 --> 00:03:48,133 てっきり 録音してる音を 流してるのかと思ったよ。 48 00:03:49,133 --> 00:03:52,167 落ち着いてやれば 大丈夫だよ。 49 00:03:53,033 --> 00:03:54,400 はい…。 50 00:03:57,267 --> 00:04:00,033 小夏ちゃん 期待してますよ。 51 00:04:02,167 --> 00:04:05,167 下座も厳しい世界なんですよ。 52 00:04:05,167 --> 00:04:09,400 ちなみに 今日は新しい下座さんの デビューの日なんですよ。 53 00:04:11,367 --> 00:04:12,933 小夏ちゃん! 54 00:04:12,933 --> 00:04:14,667 -いよいよだね。 -話しかけないでっ! 55 00:04:14,667 --> 00:04:16,000 すいません。 56 00:04:22,367 --> 00:04:27,100 さあ お母さんの三味線が 聞こえてくるよ。 57 00:04:27,100 --> 00:04:29,300 お母さん 頑張れ~! 58 00:04:31,300 --> 00:04:32,933 では お願いします。 59 00:04:46,667 --> 00:04:48,867 なかなか いい音じゃねえか。 60 00:04:49,967 --> 00:04:52,053 「あっしも これからは 料簡を入れ替えまして 61 00:04:52,083 --> 00:04:54,967 一生懸命 悪事に励みますから」。 62 00:04:54,967 --> 00:04:57,933 「やい 八公! なんで そんな嘘をついた」。 63 00:04:58,900 --> 00:05:03,133 「大家さん これも出来心でございます」。 64 00:05:14,733 --> 00:05:16,733 ダメだぁ。 65 00:05:16,733 --> 00:05:19,600 テレビの仕事 続けてた方がよかった。 66 00:05:19,600 --> 00:05:22,067 10年サボったツケは 大きい…。 67 00:05:22,067 --> 00:05:24,033 いいねぇ その落ち込みっぷり! 68 00:05:24,033 --> 00:05:26,133 噺家ってなぁ そうじゃねえとな。 69 00:05:26,133 --> 00:05:29,700 「忘れちゃやだよ 死ぬんだよ」。 70 00:05:31,000 --> 00:05:32,500 「さあ 殺せ」。 71 00:05:32,500 --> 00:05:35,300 「何が さあ 殺せだよ…」。 72 00:05:36,133 --> 00:05:41,433 「そうだ 金さん 海に飛び込もう」。 73 00:05:41,433 --> 00:05:45,233 「だめなんだ 俺 今 風邪ひいてんだ」。 74 00:05:45,233 --> 00:05:50,233 さあ お染の方は 一生懸命 雨戸を外すと…。 75 00:05:52,700 --> 00:05:55,767 雨戸を外すと…。 76 00:06:00,867 --> 00:06:06,333 さあ お染の方は 一生懸命 雨戸を外すと…。 77 00:06:22,867 --> 00:06:26,600 松田さん そろそろ行こうかぇ。 78 00:06:26,600 --> 00:06:28,733 はい。 79 00:06:40,833 --> 00:06:43,133 はい どうぞ。 80 00:06:43,133 --> 00:06:46,000 これ 父ちゃんのワリから 引いといて! 81 00:06:46,000 --> 00:06:47,333 はいよ。 82 00:06:47,333 --> 00:06:49,867 また そんなに甘やかして。 83 00:06:49,867 --> 00:06:53,133 なんだろうね 不思議と華のある子で 84 00:06:53,133 --> 00:06:55,067 大人は みんな参っちまう。 85 00:06:56,100 --> 00:06:58,400 さあ おとっつぁんの出番だぞ。 86 00:06:58,400 --> 00:07:01,133 本日も満員 与太ちゃんさまさまだ! 87 00:07:01,133 --> 00:07:02,767 さまさまだぁ~! 88 00:07:15,800 --> 00:07:17,933 待ってました 助六ちゃん! 89 00:07:17,933 --> 00:07:19,900 与太! しくじるなよっ! 90 00:07:22,833 --> 00:07:24,867 しっかりやれぇっ! 91 00:07:24,867 --> 00:07:28,800 分かった 分かった!もういいよ! 92 00:07:28,800 --> 00:07:31,700 今日こそは 絶対 かまねえ! 93 00:07:31,700 --> 00:07:34,267 今日やったらねぇ 舌かみ切って 94 00:07:34,267 --> 00:07:36,600 明日から 化けて 高座 上がってやらぁ! 95 00:07:38,400 --> 00:07:40,767 男の道楽は三道楽 96 00:07:40,767 --> 00:07:43,400 飲む 打つ 買う なんてぇことを言いましてねぇ。 97 00:07:43,400 --> 00:07:46,400 昔から 愛きょうだけは あるやつだったが 98 00:07:46,400 --> 00:07:48,600 ある時 ガラッと変わったんだよ。 99 00:07:48,600 --> 00:07:52,200 今じゃ テレビで見ない日が ないくらいの売れっ子だもんねぇ。 100 00:07:52,200 --> 00:07:54,867 それでも寄席に出てくれる。 101 00:07:54,867 --> 00:07:58,833 こういうやつが出てくるから 寄席は おもしれえんだよ。 102 00:08:00,367 --> 00:08:05,567 「でも 一番ボォーっとしてたわよぉ ボォーっと」。 103 00:08:05,567 --> 00:08:09,200 「身分の高い方ってぇのはねぇ ご苦労がないから 104 00:08:09,200 --> 00:08:12,000 どうしても ボォーっとしちまうんですよ」。 105 00:08:13,033 --> 00:08:14,200 はい。 106 00:08:14,200 --> 00:08:15,967 なんでぇ 与太さん 107 00:08:15,967 --> 00:08:19,033 真打が 茶いれてくれんのかい。 108 00:08:19,033 --> 00:08:20,800 人手がねえってんで。 109 00:08:20,800 --> 00:08:22,533 ありがとう。 110 00:08:22,533 --> 00:08:24,900 小夏ちゃんは ありがてえなぁ。 111 00:08:24,900 --> 00:08:30,200 ああいう若ぇ人が寄席で 働いてくれるのは 頼もしいよ。 112 00:08:30,867 --> 00:08:33,900 しかし 八雲師が よく許しましたね。 113 00:08:33,900 --> 00:08:35,500 好きにしろって。 114 00:08:35,500 --> 00:08:38,400 ほんとは アネさん 落語を やった方がいいと思うんですが 115 00:08:38,400 --> 00:08:40,700 それだけは なぜだか嫌だって言うんでねぇ。 116 00:08:40,700 --> 00:08:43,600 パーイポ パイポ! パイポの…。 117 00:08:43,600 --> 00:08:46,233 こら! 楽屋に来ちゃダメって言ったろ! 118 00:08:46,233 --> 00:08:49,367 まあ まあ この子は特別。 119 00:08:49,367 --> 00:08:52,633 この寄席 み~んなの子供だよ。 120 00:08:52,633 --> 00:08:55,233 僕 じゅげむ できるんだ! 121 00:08:55,233 --> 00:08:56,733 やってみな。 122 00:08:59,500 --> 00:09:00,767 「寿限無 寿限無 123 00:09:00,767 --> 00:09:02,733 五劫の擦り切れ 124 00:09:02,733 --> 00:09:07,833 海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末」。 125 00:09:07,833 --> 00:09:10,067 いつの間に覚えたの? 126 00:09:10,067 --> 00:09:11,500 アネさん やべえっ! 127 00:09:11,500 --> 00:09:13,533 うちの子 天才だ! 128 00:09:15,433 --> 00:09:21,867 女子供の声が こんなに響く楽屋がありますか。 129 00:09:24,000 --> 00:09:26,233 小夏さん 130 00:09:26,233 --> 00:09:31,267 こういうことを持ち込むんなら この仕事は およしなさい。 131 00:09:31,267 --> 00:09:36,900 ここは アタクシどもの 大事な場所なんです。 132 00:09:38,967 --> 00:09:40,767 すいません…。 133 00:09:44,367 --> 00:09:47,567 じいじ お母さん悪くない。 134 00:09:47,567 --> 00:09:51,000 僕が勝手に入ってきちゃったんだ。 135 00:09:51,000 --> 00:09:53,100 ごめんなさい…。 136 00:09:58,167 --> 00:10:05,367 こうやって 礼儀を覚えていきなさい。 137 00:10:22,167 --> 00:10:24,300 お先 ありがとうございました。 138 00:10:32,767 --> 00:10:38,500 肝心なところで 噺が飛んじまったら… 139 00:10:38,500 --> 00:10:40,833 怖ぇ。 140 00:11:20,067 --> 00:11:27,000 品川の新宿に 白木屋という女郎屋がございまして 141 00:11:27,000 --> 00:11:32,333 ここの板頭を務めておりました お染さん 142 00:11:32,333 --> 00:11:35,400 まあ 昔は 大変 売れたんですが 143 00:11:35,400 --> 00:11:40,067 だんだん トシをとってきて シワが目立つようになった。 144 00:11:40,067 --> 00:11:44,600 そうなると お客は正直ですから…。 145 00:11:44,600 --> 00:11:48,067 これぞ まさに 名人芸。 146 00:11:48,067 --> 00:11:52,633 師匠は ほんとに年を取っても ちっとも衰えねえ。 147 00:11:54,533 --> 00:12:00,567 「くやしいっ もう こんな みっともないこと 148 00:12:00,567 --> 00:12:04,200 移り替えが出来ないくらいなら 死んじゃう。 149 00:12:04,800 --> 00:12:09,200 何 言ってんだよ じゃあ どうすんのよ。 150 00:12:09,200 --> 00:12:16,233 そうだ 金さん 海に飛び込もう」。 151 00:12:16,233 --> 00:12:21,400 「だめなんだ 俺 今 風邪ひいてんだよ」。 152 00:12:22,767 --> 00:12:29,500 さあ お染の方は一生懸命。 雨戸を外すと 153 00:12:29,500 --> 00:12:32,133 柵矢来になっている。 154 00:12:32,133 --> 00:12:34,933 真ん中に木戸がございまして 155 00:12:34,933 --> 00:12:36,567 表へ出るってぇと…。 156 00:12:37,333 --> 00:12:38,967 じいじ! 157 00:12:38,967 --> 00:12:42,033 師匠! すみません 158 00:12:42,033 --> 00:12:45,400 お栄さんが 信ちゃんを乗せてってくれって。 159 00:12:45,400 --> 00:12:47,067 こらぁ どうも。 160 00:12:47,067 --> 00:12:51,067 それと この度 思うところありまして 161 00:12:51,067 --> 00:12:55,800 生き恥をさらして また 落語に戻って参りました。 162 00:12:55,800 --> 00:12:58,333 協会から聞いてますよ。 163 00:12:58,333 --> 00:13:00,367 好きにするさね。 164 00:13:02,600 --> 00:13:04,367 もう一つ… 165 00:13:04,367 --> 00:13:09,467 実は 昭和の落語を記録に 残していく仕事もやってまして。 166 00:13:09,467 --> 00:13:11,833 落語の記録? 167 00:13:11,833 --> 00:13:14,200 戦前 戦中 戦後のこと 168 00:13:14,200 --> 00:13:17,567 先代の七代目八雲師のこと 169 00:13:17,567 --> 00:13:20,500 知りたいことが 山ほどあります。 170 00:13:20,500 --> 00:13:22,400 そうかぇ…。 171 00:13:22,400 --> 00:13:24,067 ちなみに 師匠は 172 00:13:24,067 --> 00:13:28,533 四国の亀屋旅館で 落語をやられたことがありますか? 173 00:13:34,467 --> 00:13:36,133 どうしてだい? 174 00:13:36,133 --> 00:13:38,000 それが ちょっと よく分からない話で 175 00:13:38,000 --> 00:13:40,767 一度 会ってみなきゃって 思ってるんですが。 176 00:13:40,767 --> 00:13:44,600 みよ吉って芸者さんのことも ご存じでしょうか? 177 00:13:49,633 --> 00:13:53,300 なぜ その名を? 178 00:13:54,433 --> 00:13:56,100 いただきま~す! 179 00:13:56,100 --> 00:13:58,700 はい 召し上がれ~。 180 00:14:02,367 --> 00:14:04,567 松田さん 米 うめえ! 181 00:14:04,567 --> 00:14:07,267 -これも おいしい! -よかった~。 182 00:14:07,267 --> 00:14:10,700 口にモノ入れて しゃべんなさんな。 183 00:14:10,700 --> 00:14:12,333 すんません! 184 00:14:14,700 --> 00:14:17,667 坊ちゃんと与太さんの食いっぷり 見てたら 185 00:14:17,667 --> 00:14:20,033 こっちまで 腹いっぱいになっちまう。 186 00:14:21,133 --> 00:14:23,967 いけない 与太さんじゃなくて 187 00:14:23,967 --> 00:14:25,900 助六師匠! 188 00:14:25,900 --> 00:14:29,700 襲名して何年たっても やっぱり与太郎が似合うんだね。 189 00:14:29,700 --> 00:14:32,300 -ちがいねえや。 -よたろう! 190 00:14:32,300 --> 00:14:36,133 アネさんが落語家になって 助六 継げばいいのにさ。 191 00:14:36,133 --> 00:14:39,700 うるさいね! 誰が落語家になりたいって言った? 192 00:14:39,700 --> 00:14:41,700 顔に書いてあるぜ。 193 00:14:41,700 --> 00:14:43,033 唐変木! 194 00:14:43,033 --> 00:14:45,567 私なりに 腹ぁくくって 下座やってんだい。 195 00:14:45,567 --> 00:14:48,133 アンタにだきゃ 四の五の言われたかないね。 196 00:14:48,133 --> 00:14:49,833 なんでぇ 強情もん! 197 00:14:49,833 --> 00:14:52,733 よたろうと ごうじょうも~ん。 198 00:14:52,733 --> 00:14:54,067 信之助! 199 00:14:54,067 --> 00:14:55,867 強情も~ん。 200 00:14:55,867 --> 00:14:58,500 どうしたい 松田さん。 201 00:14:58,500 --> 00:14:59,767 あっ いや…。 202 00:15:00,800 --> 00:15:04,333 なんだか もう うれしくってね…。 203 00:15:04,333 --> 00:15:08,867 お嬢さんが こうやって こんなに落語が好きで 204 00:15:08,867 --> 00:15:15,100 みんなで この家で にぎやかに暮らせて…。 205 00:15:15,100 --> 00:15:17,633 ほんとに よかったなって…。 206 00:15:20,033 --> 00:15:24,067 まあ あの… いろいろと ありましたけどねぇ。 207 00:15:25,900 --> 00:15:27,633 お代わり! 208 00:15:27,633 --> 00:15:29,267 お~ はい はい はい。 209 00:15:32,133 --> 00:15:33,400 うめえ! 210 00:15:41,467 --> 00:15:43,033 松田さん スイカ切るから…。 211 00:15:43,033 --> 00:15:44,667 はい。 212 00:15:44,667 --> 00:15:46,633 -何してるの? -あ いや あの… 213 00:15:46,633 --> 00:15:49,567 こないだ 萬月さんに頼まれて。 214 00:15:49,567 --> 00:15:54,000 昔の落語界の写真やなんかあったら 見たいって おっしゃって。 215 00:15:54,000 --> 00:15:55,200 ねえ お嬢さん 216 00:15:55,200 --> 00:15:59,233 ここにあった写真 ご存じありませんかね? 217 00:16:07,900 --> 00:16:09,800 待ってて。 218 00:16:12,400 --> 00:16:15,267 「ゴンとなりゃさ」 219 00:16:15,267 --> 00:16:20,167 「上げ潮 南さあ カラス」 220 00:16:20,167 --> 00:16:23,233 「鐘がゴンとなりゃさ」 221 00:16:23,233 --> 00:16:27,267 「上げ潮 南さあ」 222 00:16:27,267 --> 00:16:30,733 「カラスぱっと出て こらさのさあ」 223 00:16:33,833 --> 00:16:35,367 じいじ! 224 00:16:45,200 --> 00:16:46,700 これでしょ? 225 00:16:48,067 --> 00:16:51,367 これ… お嬢さんが? 226 00:16:51,367 --> 00:16:54,000 むしゃくしゃしてね…。 227 00:16:54,000 --> 00:16:56,600 昔の話だよ。 228 00:17:00,400 --> 00:17:05,433 切ったのに… 捨てなかったんですね。 229 00:17:09,733 --> 00:17:13,100 養子とはいえ 親子です。 230 00:17:13,100 --> 00:17:17,367 生みの親より 育ての親…。 231 00:17:17,367 --> 00:17:21,433 本当に嫌いになれるわけが ありませんよ。 232 00:17:22,400 --> 00:17:27,433 好きとか嫌いとか もう そういうのは置いてきたの。 233 00:17:29,967 --> 00:17:33,333 ただ…。 234 00:17:33,333 --> 00:17:39,767 ねえ 松田さんも あの夜 あの場所にいたよね? 235 00:17:41,200 --> 00:17:43,067 はい…。 236 00:17:45,167 --> 00:17:50,500 私 なんでだか あの夜のことが ずっと思い出せなかった。 237 00:17:50,500 --> 00:17:55,433 それが 最近 寄席で三味線を弾くようになって 238 00:17:55,433 --> 00:17:58,533 時々 ふわっと 思い出すことがあるんだよ。 239 00:17:59,300 --> 00:18:02,200 思い出すって 何を? 240 00:18:02,200 --> 00:18:07,267 どうも あの人から聞いた話とは 違うような…。 241 00:18:08,233 --> 00:18:11,233 大昔の話です。 242 00:18:11,233 --> 00:18:14,100 今 皆さん 幸せに暮らしてるんですから 243 00:18:14,100 --> 00:18:17,300 もう いいじゃありませんか。 244 00:18:18,767 --> 00:18:22,367 やっぱり 何か知ってるね? 245 00:18:23,233 --> 00:18:25,200 知ってるんでしょ? 246 00:18:25,200 --> 00:18:29,933 いやぁ… 私は 何も。 247 00:18:33,167 --> 00:18:34,933 今日は これで。 248 00:18:37,667 --> 00:18:39,333 お休みなさい。 249 00:18:48,900 --> 00:18:51,433 次は どれにしよっかなぁ? 250 00:18:52,567 --> 00:18:56,233 「鐘がゴンとなりゃさ 251 00:18:56,233 --> 00:19:00,667 上げ潮 南さあ」 252 00:19:00,667 --> 00:19:03,000 野ざらしも できるのかい? 253 00:19:03,000 --> 00:19:05,033 ここしか知らない。 254 00:19:05,033 --> 00:19:08,500 じいじは? やったことある? 255 00:19:09,267 --> 00:19:16,600 お前のおじい様と 二人で やったこともあったねぇ。 256 00:19:17,200 --> 00:19:22,133 けど もう 二度とやらない。 257 00:19:23,067 --> 00:19:26,567 もうひとり じいじが いるの? 258 00:19:51,933 --> 00:19:54,467 このレコード…。 259 00:19:58,900 --> 00:20:03,100 お母さんの 本当のお父さん…。 260 00:20:03,733 --> 00:20:08,133 この人は 野ざらしが うまかったよ。 261 00:20:08,133 --> 00:20:09,700 会いたい! 262 00:20:09,700 --> 00:20:14,133 もういねえんだ。 死んじゃって。 263 00:20:30,300 --> 00:20:34,833 師匠 しばらく独演会やってませんね。 264 00:20:34,833 --> 00:20:37,467 体調でも悪いんですか? 265 00:20:37,467 --> 00:20:40,467 そんなこたぁない。 266 00:20:40,467 --> 00:20:43,067 面倒なだけだよ。 267 00:20:45,367 --> 00:20:47,733 席亭から聞いたんですけど 268 00:20:47,733 --> 00:20:52,533 今度 余一会で 独演会を ぜひって話があるんでしょ? 269 00:20:53,133 --> 00:20:55,667 できることなら 270 00:20:55,667 --> 00:21:00,300 死ぬ時ぁ 落語をしながら コロッと逝きたい。 271 00:21:01,967 --> 00:21:04,500 寄席で死ねたら 272 00:21:04,500 --> 00:21:07,967 こんな本望はないんだけどねぇ。 273 00:21:09,067 --> 00:21:11,067 不吉なこと言わないで下さい。 274 00:21:11,067 --> 00:21:14,267 師匠には ずっと元気で 落語をやってもらわないと。 275 00:21:14,267 --> 00:21:18,467 じいじの落語 も~っと聞きたい! 276 00:21:19,500 --> 00:21:21,000 聞きたいかぇ。 277 00:21:21,000 --> 00:21:23,167 聞きたい 聞きたい! 278 00:21:23,167 --> 00:21:28,533 子供ってぇのは とんでもねえ生き物だねぇ。 279 00:21:30,067 --> 00:21:34,267 この子が生まれて うちん中 まるっきり変わっちまった。 280 00:21:36,600 --> 00:21:37,767 なあ 坊! 281 00:21:37,767 --> 00:21:39,433 なあ よたろう! 282 00:21:39,433 --> 00:21:41,800 分かったよ。 283 00:21:41,800 --> 00:21:46,833 じゃあ 与太と二人で 親子会にしよう。 284 00:21:46,833 --> 00:21:48,567 本当ですかい? 285 00:21:48,567 --> 00:21:50,733 本当ですかい? 286 00:21:50,733 --> 00:21:51,900 ああ。 287 00:21:51,900 --> 00:21:54,967 やった~! やった! やった やった! 288 00:21:54,967 --> 00:21:57,267 スイカ切ったよ。 289 00:21:57,267 --> 00:22:00,033 楽しそうだねぇ なんの話? 290 00:22:00,033 --> 00:22:02,300 ないしょ! 291 00:22:03,000 --> 00:22:05,000 なんで? 教えておくれよ。 292 00:22:05,000 --> 00:22:06,733 やだ~! 293 00:22:06,733 --> 00:22:07,967 いじわる~! 294 00:22:07,967 --> 00:22:10,367 や~だ! や~だ! や~だ! 295 00:22:12,767 --> 00:22:15,067 はい 撮るよ~。 296 00:22:15,067 --> 00:22:16,567 おう! 297 00:22:18,967 --> 00:22:21,100 もう1枚いくからね。 298 00:22:21,100 --> 00:22:24,933 今更 入学式の写真 撮りたいって 言うから つきあってやったのに 299 00:22:24,933 --> 00:22:26,767 なんで紋付? 300 00:22:26,767 --> 00:22:29,600 私だけスーツじゃ おかしいだろ。 301 00:22:29,600 --> 00:22:34,700 だってよぉ スーツ着るとドサ回りの 歌手みたいになっちまうんだもん。 302 00:22:34,700 --> 00:22:37,700 アネさんこそ 着物 着てくりゃよかったのに。 303 00:22:37,700 --> 00:22:41,167 着物 貸衣装でよかったら あるよ。 304 00:22:41,167 --> 00:22:43,167 さあ どうぞ。 305 00:22:46,967 --> 00:22:48,600 白むくまで! 306 00:22:48,600 --> 00:22:52,600 オイラらも せめて 結婚の 記念写真くらい撮っときゃよかった。 307 00:22:52,600 --> 00:22:55,900 アネさんの白むく 見てみたかった~。 308 00:22:55,900 --> 00:22:57,700 着てあげよっか。 309 00:23:00,467 --> 00:23:01,800 いいのぉ!? 310 00:23:04,500 --> 00:23:11,000 20年前に 今の場所に移転して 311 00:23:11,000 --> 00:23:16,233 この建物も なんとか リフォームして 312 00:23:16,833 --> 00:23:19,800 また 寄席 やりたかったんだけどねぇ。 313 00:23:20,967 --> 00:23:24,233 関西で大きな地震もあって 314 00:23:24,233 --> 00:23:28,200 耐震基準ってのが どうにもならねえんでしょ? 315 00:23:28,200 --> 00:23:31,567 金もねえし しかたねえ。 316 00:23:31,567 --> 00:23:33,433 もう限界だ。 317 00:23:34,000 --> 00:23:36,700 いつ取り壊すんです? 318 00:23:36,700 --> 00:23:38,867 来月。 319 00:23:43,400 --> 00:23:46,533 なくなっちまうんですね…。 320 00:23:46,533 --> 00:23:48,733 目を閉じりゃ 321 00:23:48,733 --> 00:23:56,500 そこらから 七代目やら助六やらが 出てきそうな気がしないかい? 322 00:24:02,633 --> 00:24:05,933 どんどん忘れ去られて 323 00:24:05,933 --> 00:24:10,433 そうやって 前に進んでいくんだろうなぁ。 324 00:24:11,733 --> 00:24:17,533 人も落語も 幸せなら それで いいんだけど。 325 00:24:25,133 --> 00:24:26,700 もしもし? 326 00:24:28,733 --> 00:24:30,933 もしもし? 327 00:24:30,933 --> 00:24:33,667 まったく この携帯電話ってやつは…。 328 00:24:51,867 --> 00:24:57,333 落語を 聞きに来たのかい? 329 00:24:58,200 --> 00:25:03,333 それとも やりに来たのかい? 330 00:25:18,533 --> 00:25:22,567 さあ できた! 与太ちゃん呼んでくるね。 331 00:25:29,333 --> 00:25:36,333 「鐘がゴンとなりゃさ 上げ潮」 332 00:25:39,233 --> 00:25:41,800 また出たね。 333 00:25:44,633 --> 00:25:47,767 いつまで出たら気が済むの? 334 00:25:47,767 --> 00:25:52,100 どうしたいの? 何がしたいの? 335 00:25:54,800 --> 00:25:59,567 母親らしいことなんか 何一つ してくれなかったくせに 336 00:25:59,567 --> 00:26:03,900 私のことなんか どうでもいいと思ってたくせに 337 00:26:03,900 --> 00:26:06,767 いつまで 私を縛りつけるの? 338 00:26:07,900 --> 00:26:10,133 黙ってないで なんか言ってよ! 339 00:26:10,133 --> 00:26:11,967 アネさ~ん! 340 00:26:14,500 --> 00:26:16,000 アネさん! 341 00:26:23,033 --> 00:26:25,033 きれいだ~。 342 00:26:27,200 --> 00:26:29,467 早く撮ろう。 信坊が待ってるぜ。 343 00:26:32,200 --> 00:26:35,533 泣いてたのか? なんで? 344 00:26:35,533 --> 00:26:37,500 泣いてなんかいないよ。 345 00:26:38,200 --> 00:26:39,567 分かった! 346 00:26:39,567 --> 00:26:42,467 白むく着れて うれしかったんだね! 347 00:26:42,467 --> 00:26:44,333 はいはい そうだよ。 348 00:26:44,333 --> 00:26:46,167 うれしかったんだぁ。 349 00:26:46,700 --> 00:26:48,600 撮りますよ~。 350 00:26:51,467 --> 00:26:53,367 与太ちゃん 泣いちゃダメ。 351 00:26:53,367 --> 00:26:54,933 もう1枚。 352 00:26:57,967 --> 00:26:59,533 はい! 353 00:27:39,933 --> 00:27:42,333 よござんしょ。 354 00:27:42,333 --> 00:27:45,133 今日は ここまで。 355 00:27:45,133 --> 00:27:48,067 肩の力 なるたけ抜いてね。 356 00:27:53,100 --> 00:27:55,567 どうしたぃ? 357 00:27:57,967 --> 00:28:00,933 聞いたんだろ 萬月さんに。 358 00:28:03,033 --> 00:28:08,867 四国の旅館に父ちゃんと母さんが 死んだ日の記録が残ってたって。 359 00:28:14,167 --> 00:28:16,967 なんだか言ってたねぇ。 360 00:28:18,200 --> 00:28:20,933 時々 思い出すんだ。 361 00:28:27,933 --> 00:28:29,800 何を? 362 00:28:29,800 --> 00:28:32,700 三味線を弾くたびに 363 00:28:33,667 --> 00:28:35,500 思い出すじゃなくて 364 00:28:35,500 --> 00:28:38,433 思い出しそうになるっていうか…。 365 00:28:40,333 --> 00:28:45,033 あの子を生む前から ずっと気になってた。 366 00:28:47,967 --> 00:28:51,800 私は 母さんに嫌われてた。 367 00:28:51,800 --> 00:28:54,833 だから 私も母さんが嫌いだった。 368 00:28:54,833 --> 00:28:57,800 憎んでた。 369 00:28:57,800 --> 00:29:02,267 そんな私が 母親になれんのかなって。 370 00:29:07,300 --> 00:29:11,233 あの夜 本当は何があったの? 371 00:29:15,767 --> 00:29:17,833 もう話したじゃないか。 372 00:29:17,833 --> 00:29:20,433 あの話には うそがある。 373 00:29:20,433 --> 00:29:22,700 何が どう うそかは分かんない。 374 00:29:22,700 --> 00:29:25,100 だけど うそがあることだけは分かる。 375 00:29:25,767 --> 00:29:29,500 一緒に… 死んじゃおっか。 376 00:29:30,200 --> 00:29:32,000 すまん 坊… 377 00:29:32,000 --> 00:29:33,700 頼んだよ。 378 00:29:46,300 --> 00:29:48,167 ちょっと…。 379 00:29:53,600 --> 00:29:56,533 いつか話してやるよ。 380 00:30:03,767 --> 00:30:08,900 ただね これだけは言っといてやる。 381 00:30:10,467 --> 00:30:14,400 お前さんの思い込みは間違ってる。 382 00:30:15,100 --> 00:30:16,967 どういうこと? 383 00:30:28,900 --> 00:30:30,467 ねえ! 384 00:30:40,333 --> 00:30:42,867 「若旦那 おかえんなさい」。 385 00:30:42,867 --> 00:30:45,400 「定吉 ちょっと こっちおいで」。 386 00:31:08,067 --> 00:31:16,467 あの子が あんなふうに 長い間 苦しんできたなんて 387 00:31:16,467 --> 00:31:19,733 知らなかったよ。 388 00:31:21,533 --> 00:31:23,967 ダメだね 389 00:31:23,967 --> 00:31:30,967 噺家なんてぇなあ てめえのことばっかりでさ…。 390 00:31:44,700 --> 00:31:47,100 どうしたい 391 00:31:47,900 --> 00:31:50,700 なんか言っておくれよ。 392 00:31:52,633 --> 00:31:56,800 お前さんが羨ましいよ。 393 00:31:56,800 --> 00:32:00,667 いつまでも若々しくってさぁ。 394 00:32:09,233 --> 00:32:13,067 お前さんの思い込みは間違ってる。 395 00:32:13,767 --> 00:32:16,333 間違ってるって どういう意味? 396 00:32:18,000 --> 00:32:20,600 アネさん ちょっと。 397 00:32:21,567 --> 00:32:23,267 8ミリフィルム? 398 00:32:23,267 --> 00:32:28,700 四国でやった菊比古 助六の落語会が フィルムで残ってるそうなんだ。 399 00:32:29,433 --> 00:32:31,833 それを 見られるってこと? 400 00:32:31,833 --> 00:32:33,200 ああ。 401 00:32:33,200 --> 00:32:34,600 アネさん…。 402 00:32:34,600 --> 00:32:37,433 見たい。 絶対 見たい! 403 00:32:37,433 --> 00:32:40,433 分かった。 じゃあ 早速 手配してみるよ。 404 00:32:41,067 --> 00:32:42,767 お願いします。 405 00:32:44,067 --> 00:32:46,067 多分… 406 00:32:46,867 --> 00:32:49,767 オッサンは私に うそをついてる。 407 00:32:49,767 --> 00:32:51,600 うそ? 408 00:32:51,600 --> 00:32:56,833 あの日に何があったのか どうしても知りたい。 409 00:32:58,167 --> 00:32:59,867 どうも… 410 00:32:59,867 --> 00:33:02,633 おなじみ 与太郎こと 助六でございます。 411 00:33:02,633 --> 00:33:04,967 待ってたよ! 412 00:33:04,967 --> 00:33:07,067 今日は 師匠との親子会 413 00:33:07,067 --> 00:33:09,067 光栄の極みってやつでして。 414 00:33:09,067 --> 00:33:12,233 最近じゃ 江戸前の落語が 失われつつあります。 415 00:33:12,233 --> 00:33:13,911 八雲師匠一人によって 416 00:33:13,941 --> 00:33:17,700 ギリギリ その精神が保たれている と言っても過言ではありません。 417 00:33:17,700 --> 00:33:20,967 弟子の助六は勢いはいいが まだまだ…。 418 00:33:20,967 --> 00:33:24,667 久しぶりに じっくり師匠の落語を 聞かせて頂けるということで 419 00:33:24,667 --> 00:33:27,400 このアマケン… 感謝感激! 420 00:33:27,400 --> 00:33:29,133 まあ まあ まあ そのくらいで。 421 00:33:29,133 --> 00:33:31,600 師匠は集中して らっしゃるんですから。 422 00:33:31,600 --> 00:33:34,867 -楽しみにしております! -さっ こちらへ…こちらへどうぞ。 423 00:33:38,700 --> 00:33:40,267 楽しみにしております! 424 00:33:40,267 --> 00:33:43,467 はい こちらへ。 ありがとうございます…。 425 00:33:44,600 --> 00:33:47,767 「若旦那 おかえんなさい」。 426 00:33:47,767 --> 00:33:50,767 「定吉 ちょっと こっちおいで」。 427 00:33:50,767 --> 00:33:53,833 「へへ それが駄目なんですよ」。 428 00:33:53,833 --> 00:33:54,900 「なんで」。 429 00:33:54,900 --> 00:33:57,333 「若旦那のそば 行っちゃいけないって」。 430 00:33:57,333 --> 00:33:59,067 「いいかげんにしろ! こんちくしょう!」。 431 00:34:00,333 --> 00:34:03,767 「なんだい え~ 床下から 変な野郎が出てきやがった。 432 00:34:03,767 --> 00:34:06,433 なんだ お前は。 あ! 433 00:34:06,433 --> 00:34:09,033 泥棒だな」。 434 00:34:09,033 --> 00:34:11,967 「あっ いけねえ…。 435 00:34:11,967 --> 00:34:14,033 長い事 失業致しておりまして。 436 00:34:14,033 --> 00:34:16,433 七十を頭に 四人の子供がございます。 437 00:34:16,433 --> 00:34:20,067 八つになるお袋が長の患いで」。 438 00:34:20,067 --> 00:34:23,767 そんなに肩肘張って どうすんだい。 439 00:34:23,767 --> 00:34:26,900 余計に しくじっちまう。 440 00:34:26,900 --> 00:34:29,767 まず 大きく息をする。 441 00:34:29,767 --> 00:34:32,119 それから 442 00:34:32,149 --> 00:34:39,400 客にアンタの三味線の音を聞かせて やるくらいの料簡でおやんなさい。 443 00:34:41,100 --> 00:34:49,733 昔 お前さんの おっかさんから そう教わったんだよ…。 444 00:35:42,833 --> 00:35:46,133 「若旦那! おかえんなさい!」。 445 00:35:46,133 --> 00:35:50,667 「あ 定吉 ちょっと こっちおいで」。 446 00:35:52,133 --> 00:35:55,267 「それが駄目なんですよ」。 447 00:35:55,267 --> 00:35:56,900 「なんで」。 448 00:35:56,900 --> 00:36:02,000 「番頭さんが 若旦那のそば 行っちゃいけないって」。 449 00:36:02,000 --> 00:36:04,833 「なんでそんなこと言ってんの」。 450 00:36:05,967 --> 00:36:11,233 「あの 若旦那が そうやって 外で遊んで お帰りになって 451 00:36:11,233 --> 00:36:15,433 番頭さんが 小言 言おうかなぁと思うと…」。 452 00:36:16,333 --> 00:36:18,767 さすが八代目だね。 453 00:36:18,767 --> 00:36:21,300 そうですね。 454 00:36:21,300 --> 00:36:26,100 「そのかわり お前には お小遣いやるからって」。 455 00:36:27,600 --> 00:36:30,433 「そのお小遣い いくら?」。 456 00:36:31,967 --> 00:36:33,500 たちきり。 457 00:36:33,500 --> 00:36:39,133 今は東京じゃ 八代目八雲しか やらない やれないという大ネタ。 458 00:36:39,133 --> 00:36:46,200 芸者小糸と恋仲になった若旦那が 親に反対されて蔵に閉じ込められる。 459 00:36:46,200 --> 00:36:50,133 会えないうちに 小糸は 恋い焦がれて死んでしまう。 460 00:36:50,133 --> 00:36:52,733 それを知った若旦那…。 461 00:36:53,300 --> 00:36:55,800 「知らなかった… 462 00:36:55,800 --> 00:36:58,233 知りませんでした…。 463 00:36:59,333 --> 00:37:02,500 もし そうと分かっていたら 464 00:37:02,500 --> 00:37:06,900 あたしぁ 蔵の戸なんぞ 蹴破ってでも出てきたんだ」。 465 00:37:07,467 --> 00:37:09,167 「一杯 飲んでってください」。 466 00:37:09,167 --> 00:37:14,433 終盤 小糸の幽霊が弾くのか 三味線が聞こえてくる。 467 00:37:14,433 --> 00:37:18,467 そのタイミング きっかけは てめえで感じるしかない…。 468 00:37:19,167 --> 00:37:22,833 「さあ 若旦那…」。 469 00:37:39,933 --> 00:37:45,067 「母さん… 三味線が…」。 470 00:37:48,233 --> 00:37:59,700 「あの子が 若旦那のお好きな 黒髪 弾いてますね…」。 471 00:38:02,833 --> 00:38:05,867 「小糸… 472 00:38:05,867 --> 00:38:12,867 自分の命を詰めてまで あたしを 想ってくれて ありがとう…。 473 00:38:13,833 --> 00:38:16,633 あたしぁ 生涯 474 00:38:16,633 --> 00:38:20,767 妻と名のつく者は持たないから 475 00:38:21,800 --> 00:38:25,033 それで許しておくれよ…」。 476 00:38:27,567 --> 00:38:36,033 「小糸 今の若旦那のお言葉 聞こえた?」。 477 00:38:39,133 --> 00:38:45,533 「綺麗なところに お参りしてね…」。 478 00:38:50,367 --> 00:38:54,433 「小糸? あたしが聴いてるんだ…」。 479 00:38:54,433 --> 00:38:59,333 母さん? あの人にも見えてんの? 480 00:38:59,333 --> 00:39:02,867 「その先も聴かせておくれよ!」。 481 00:39:05,933 --> 00:39:11,600 「若旦那 もう駄目」。 482 00:39:36,567 --> 00:39:38,967 「ごらんなさい。 483 00:39:41,033 --> 00:39:45,100 仏壇のお線香が 今 484 00:39:47,100 --> 00:39:50,200 たちきりました…」。 485 00:40:02,167 --> 00:40:04,200 -師匠! -八代目! 486 00:40:04,200 --> 00:40:05,567 オッサン! 487 00:40:05,567 --> 00:40:08,367 とりあえず 楽屋へ! 488 00:40:08,367 --> 00:40:11,133 -しっかりしろ! -大丈夫ですか? 489 00:40:12,933 --> 00:40:14,733 早く! 490 00:40:17,200 --> 00:40:19,800 オイラ 残る…。 491 00:40:20,667 --> 00:40:23,367 落語やんなきゃ。 492 00:40:23,367 --> 00:40:25,667 お客が待ってる。 493 00:40:28,567 --> 00:40:30,733 そうだね…。 494 00:40:36,567 --> 00:40:38,867 終わったら すぐ行く。 495 00:40:38,867 --> 00:40:41,367 師匠のこと頼む。 496 00:40:41,367 --> 00:40:43,800 アネさんしかいねえ。 497 00:40:43,800 --> 00:40:45,900 分かった。 498 00:40:45,900 --> 00:40:50,167 ここで落語できるのも アンタしかいないよ。 499 00:40:51,500 --> 00:40:53,133 頼んだよ。 500 00:41:02,767 --> 00:41:04,267 なに? 501 00:41:08,167 --> 00:41:11,300 -救急車は? -すぐ来ると思うんだけど。 502 00:41:13,633 --> 00:41:15,333 しっかりしろ! 503 00:41:17,200 --> 00:41:19,200 菊さん…。 504 00:41:19,833 --> 00:41:21,600 菊さん。 505 00:41:22,167 --> 00:41:23,700 こっちへ来なよ 兄弟! 506 00:41:24,267 --> 00:41:25,967 アタシを一人にしない 507 00:41:25,967 --> 00:41:27,633 約束したじゃないか。 508 00:41:27,633 --> 00:41:30,000 やっと来てくれたのね。 509 00:41:30,000 --> 00:41:32,533 ずいぶん遅いから 待ちくたびれちゃった。 510 00:41:32,533 --> 00:41:36,000 また 夢になるといけねえ。 511 00:41:37,600 --> 00:41:39,633 おめえの代わりに 俺が ついてってやる。 512 00:41:39,633 --> 00:41:41,567 コイツ一人 地獄にゃ落とせねえ! 513 00:41:41,567 --> 00:41:43,867 -なら アタシも連れてけ! -ダメだ! 514 00:41:43,867 --> 00:41:45,800 いつか アンタを殺してやるから。 515 00:41:45,800 --> 00:41:47,000 父ちゃんは… 516 00:41:47,000 --> 00:41:50,367 有楽亭助六は お前が殺したんだ! 517 00:41:51,267 --> 00:41:56,567 このまま ずっと 本当のことを ふせたままで いいんでしょうか。 518 00:41:56,567 --> 00:41:59,200 今度 会う時は… 519 00:41:59,200 --> 00:42:00,867 地獄ね。 520 00:42:02,300 --> 00:42:03,967 起きやがれ! 521 00:42:03,967 --> 00:42:05,833 寝てる場合かい! 522 00:42:16,267 --> 00:42:18,167 よかった…。 523 00:42:21,767 --> 00:42:23,833 小夏さん…。 524 00:42:25,333 --> 00:42:27,267 なに? 525 00:42:28,567 --> 00:42:32,933 なんにも言わずに死んじまったら 526 00:42:34,200 --> 00:42:36,567 怒るかい? 527 00:42:38,767 --> 00:42:41,500 あの夜の… 528 00:42:43,667 --> 00:42:46,233 本当のことを。 529 00:42:46,833 --> 00:42:49,900 そんなこと どうでもいい。 530 00:42:49,900 --> 00:42:53,267 生きて! 死ぬんじゃないよ! 531 00:43:00,700 --> 00:43:03,767 未練だねぇ…。 532 00:43:06,033 --> 00:43:09,000 まだ生きてらぁ…。 533 00:43:25,100 --> 00:43:35,467 © NHK / TELEPACK