1 00:00:01,950 --> 00:00:06,280 「お巫女さんのうち?」。 「女将はね お巫女頭」。 2 00:00:06,280 --> 00:00:09,620 「いやですよ お巫女頭なんて」。 3 00:00:09,620 --> 00:00:11,560 「お初に お目にかかります」。 4 00:00:11,560 --> 00:00:14,290 (芸人)まだ二ツ目で 大したもんですね。 え~? 5 00:00:14,290 --> 00:00:18,960 (七代目)新人賞も頂いて。 今日なんか アタシの方が オマケだよ。 6 00:00:18,960 --> 00:00:23,300 真打って話も? いや それが いろいろとなぁ。 7 00:00:23,300 --> 00:00:29,170 あっ そうだ もう一人 ほら 去年の新人賞 あれ どうしてます? 8 00:00:29,170 --> 00:00:32,310 そこなんだ…。 9 00:00:32,310 --> 00:00:34,650 ちょいと失礼。 10 00:00:34,650 --> 00:00:36,580 「源兵衛さん!」。 11 00:00:36,580 --> 00:00:42,320 <昭和29年。 その前の年には テレビ放送が始まり・ 12 00:00:42,320 --> 00:00:47,990 プロレスほどではなくても 落語も ラジオに加えて テレビに重宝され・ 13 00:00:47,990 --> 00:00:51,330 前座も 二ツ目も 増えてきておりました。・ 14 00:00:51,330 --> 00:00:56,200 アタシも ようやく 真打候補と 呼ばれるようになったのですが…> 15 00:00:56,200 --> 00:01:00,610 (協会幹部)菊比古は分かる。 だが 助六は ダメだ。 16 00:01:00,610 --> 00:01:03,510 行儀も身なりも なってねえ。 17 00:01:03,510 --> 00:01:07,950 会長も同意見だ。 会長も? 18 00:01:07,950 --> 00:01:10,850 去年 木村家彦兵衛のことで・ 19 00:01:10,850 --> 00:01:15,150 アタマ痛めてらっしゃったから なおさらだよ。 20 00:01:18,290 --> 00:01:22,630 師匠 お先に勉強させて頂きました。 21 00:01:22,630 --> 00:01:28,300 そろそろ 廓噺じゃねえ噺も 覚えねえとな。 22 00:01:28,300 --> 00:01:31,970 廓噺の菊比古ってだけじゃ 弱い。 23 00:01:31,970 --> 00:01:36,840 弱い? 決まってるじゃねえか。 真打昇進の話だ。 24 00:01:36,840 --> 00:01:39,540 身ぎれいにしとけよ。 25 00:01:42,610 --> 00:01:44,550 はい! 26 00:01:44,550 --> 00:02:00,600 ・~ 27 00:02:00,600 --> 00:02:03,500 (助六)よいしょ よいしょ よいしょ…! 28 00:02:03,500 --> 00:02:07,500 おはようございます! よいしょ…! 29 00:02:09,610 --> 00:02:14,480 初 俺が立て替えてる借金 いつ返してくれるんだい。 30 00:02:14,480 --> 00:02:18,620 すぐに返しますよ。 …んなことよりね テレビの連中が・ 31 00:02:18,620 --> 00:02:21,520 なんで 俺が真打にならねえんだって うるせえんですよ。 32 00:02:21,520 --> 00:02:24,490 協会の お偉方は 何やってんだってねぇ。 33 00:02:24,490 --> 00:02:26,490 早いとこ 俺を真打にしてくれりゃ・ 34 00:02:26,490 --> 00:02:29,260 借金なんざ あっという間に きれいにしまさぁ。 35 00:02:29,260 --> 00:02:32,960 師匠。 おっ 坊! ちょっと来い! 36 00:02:35,970 --> 00:02:39,300 みよ吉が 今夜 待ってるからってよ。 37 00:02:39,300 --> 00:02:43,640 朝から 借金取りと ラジオ局の人が来て 大変だったんだよ。 38 00:02:43,640 --> 00:02:47,310 すまねえな。 あと これ 破れてんだ。 39 00:02:47,310 --> 00:02:50,980 せっかく見立ててやったのに まったく…。 40 00:02:50,980 --> 00:02:54,680 毎日 おんなじもん着てると 楽ちんだからな。 41 00:02:57,320 --> 00:03:01,190 お前さん ネタ帳 見てないだろ。 おう。 42 00:03:01,190 --> 00:03:06,600 下手の前の方 酔っ払いがいる。 今夜 お泊まりかい? 43 00:03:06,600 --> 00:03:09,930 お前さんは? たまにゃ帰ってくんのかい? 44 00:03:09,930 --> 00:03:13,810 いや… 多分 吉原だな。 45 00:03:13,810 --> 00:03:18,510 まったく…。 おっと いけねえや。 46 00:03:24,280 --> 00:03:28,950 <人気も腕も 初太郎の方が まだまだ上。・ 47 00:03:28,950 --> 00:03:34,630 そのだらしない暮らしぶりや 師匠方への 無礼が とがめられていなければ・ 48 00:03:34,630 --> 00:03:38,300 とっくに 真打になっていたことでしょう> 49 00:03:38,300 --> 00:03:41,200 え~ どうも 助六で~す! 50 00:03:41,200 --> 00:03:43,970 「ごめんなさい ごめんなさい」。 (みよ吉)菊さん。 51 00:03:43,970 --> 00:03:46,640 「はい どなた」。 田舎は どこ? 52 00:03:46,640 --> 00:03:48,570 なんだい 急に。 53 00:03:48,570 --> 00:03:51,570 お父さん お母さんは お元気? 54 00:03:53,310 --> 00:03:57,180 そんなもの とうに ありゃしないよ。 55 00:03:57,180 --> 00:04:01,590 私は 時々 四国が恋しくなる。 56 00:04:01,590 --> 00:04:05,260 いいことなんて なんにも なかったけど…。 57 00:04:05,260 --> 00:04:08,160 お盆には ほおずき飾ってね。 58 00:04:08,160 --> 00:04:11,160 ほおずきか…。 59 00:04:13,130 --> 00:04:16,870 いつ なれんの? 真打。 60 00:04:16,870 --> 00:04:19,800 まだ分かんねえけど・ 61 00:04:19,800 --> 00:04:23,270 こないだ 師匠が さりげなく言ってくれたんだ。 62 00:04:23,270 --> 00:04:26,940 真打になったら 少しは落ち着く? 63 00:04:26,940 --> 00:04:30,620 さあ どうかな。 64 00:04:30,620 --> 00:04:36,950 落ち着いたら 一緒に 四国 行かない? いいとこよ。 きっと骨休めになる。 65 00:04:36,950 --> 00:04:39,860 休んでる暇なんかないよ。 66 00:04:39,860 --> 00:04:46,630 帰る。 今夜は 初太郎が帰ってこないから 朝まで落語漬けだ。 67 00:04:46,630 --> 00:04:51,630 ここで やりなよ。 稽古は 一人で やりてえんだ。 68 00:04:56,640 --> 00:05:02,340 今度は いつ? しばらくバタバタする。 69 00:05:03,920 --> 00:05:09,790 四国に 親御さんの顔 見に行くんなら ちょいとぐらい金は出すよ。 70 00:05:09,790 --> 00:05:14,490 親は もう死んでるの。 前に言ったじゃない。 71 00:05:16,490 --> 00:05:19,490 そうだったかね…。 72 00:05:26,170 --> 00:05:29,610 ねえ 菊さん。 73 00:05:29,610 --> 00:05:32,510 私を捨てるんなら・ 74 00:05:32,510 --> 00:05:35,810 いっそ 一思いに殺してね。 75 00:05:38,950 --> 00:05:41,850 なに言ってんだい。 76 00:05:41,850 --> 00:05:51,300 ・~ 77 00:05:51,300 --> 00:05:54,000 ・(お栄)みよちゃん。 78 00:05:56,170 --> 00:05:59,170 ちゃんと言った? 79 00:05:59,170 --> 00:06:02,570 落語で頭がいっぱいだって。 80 00:06:02,570 --> 00:06:08,870 どうすんの? いつまでも 待たせとくわけにもいかないよ。 81 00:06:11,920 --> 00:06:17,590 おっ 力道山か? もう終わったよ。 なんだよ~。 82 00:06:17,590 --> 00:06:20,930 あっ こいつ おもしれえんだろ? 83 00:06:20,930 --> 00:06:24,800 「昨日から こっち 飲み続けちゃってね この羽織も借り物で。・ 84 00:06:24,800 --> 00:06:27,600 ラジオならバレねえんですけどね。・ 85 00:06:27,600 --> 00:06:30,270 こんなのが じきに 真打だっていうんだから・ 86 00:06:30,270 --> 00:06:33,600 落語ってのは おもしろいもんでね。 あたしゃ 落語をやるために・ 87 00:06:33,600 --> 00:06:36,510 八雲を継ぐために 生まれてきた男ですからね。・ 88 00:06:36,510 --> 00:06:39,480 まあ 羽織は借り物ですけどね」。 89 00:06:39,480 --> 00:06:46,180 落語やりますよ~。 今から うちで 木村家の落語やりま~す! 90 00:06:46,180 --> 00:06:50,150 木村家の落語だってよ。 木村家彦兵衛で~す! 91 00:06:50,150 --> 00:06:52,150 どうぞ。 92 00:06:59,300 --> 00:07:02,570 機関車 走らせるには 石炭・ 93 00:07:02,570 --> 00:07:05,470 え~ 自動車を走らせるには ガソリンが要ります。 94 00:07:05,470 --> 00:07:09,910 <木村家彦兵衛 去年 酒に酔って 高座に上がり・ 95 00:07:09,910 --> 00:07:14,250 客とケンカをして 協会を除名になった大先輩。・ 96 00:07:14,250 --> 00:07:19,550 もう寄席にも出られない。 腕があるのに もったいない> 97 00:07:21,590 --> 00:07:24,490 「おせえてやろうか」。 98 00:07:24,490 --> 00:07:27,490 「なんだい おめえは」。 99 00:07:29,260 --> 00:07:31,930 「死神だよ」。 100 00:07:31,930 --> 00:07:35,800 「死神? 冗談じゃねえや。 てめえみたいな野郎がいるから・ 101 00:07:35,800 --> 00:07:38,600 おらぁ 死のうなんて 心持ちになったんだよ。・ 102 00:07:38,600 --> 00:07:42,270 向こう行ってくれよ 気味悪ぃなぁ おい 行ってくれよ!・ 103 00:07:42,270 --> 00:07:44,210 フーッ」。 104 00:07:44,210 --> 00:07:47,140 「吹いたって 飛びやしねえ。・ 105 00:07:47,140 --> 00:07:51,280 てめえ 銭はねえ 仕事はねえ」。 106 00:07:51,280 --> 00:07:54,280 これだけだよ。 すいません。 107 00:07:57,960 --> 00:08:02,230 師匠 勉強させて頂きました。 108 00:08:02,230 --> 00:08:08,100 菊! 今の死神 アタシに 教えてもらえませんか。 109 00:08:08,100 --> 00:08:13,240 教える? 俺ぁ 除名になった男だぜ。 110 00:08:13,240 --> 00:08:16,570 だけど 今の死神 本当に すばらしかった。 111 00:08:16,570 --> 00:08:19,570 どうしても教わりてえんです! 112 00:08:21,250 --> 00:08:23,250 ごめんよ。 113 00:08:26,120 --> 00:08:29,420 (笑い声) 114 00:08:37,260 --> 00:08:40,560 まっ 適当に座ってくれ。 115 00:08:47,910 --> 00:08:53,610 除名のこと 会長に 頭 下げて 取り消してもらえないんですか? 116 00:08:53,610 --> 00:08:57,310 酒がねえと もうダメなんだよ。 117 00:09:01,220 --> 00:09:06,220 酒と落語 どっちが大事なんです? 118 00:09:08,090 --> 00:09:12,230 怖ぇんだよ。 怖い…? 119 00:09:12,230 --> 00:09:17,570 思い出しちまうんだ。 何を? 120 00:09:17,570 --> 00:09:20,570 地獄をさ。 121 00:09:23,240 --> 00:09:25,580 戦争ですか? 122 00:09:25,580 --> 00:09:29,450 俺ぁ 何度も本もんの死神に出くわした。・ 123 00:09:29,450 --> 00:09:34,920 やるか やられるかの戦場じゃ 人が 人じゃなくなる。 124 00:09:34,920 --> 00:09:41,260 俺自身 生きるために なんの恨みもねえ人を・ 125 00:09:41,260 --> 00:09:44,960 幾人も この手で…。 126 00:09:46,930 --> 00:09:50,600 飲まなきゃ 「死神」なんて かけられねぇ。 127 00:09:50,600 --> 00:09:54,270 …て言や 聞こえはいいが つまりは 酒に逃げてんだ。 128 00:09:54,270 --> 00:09:56,270 ハッハッハッハッ…。 129 00:09:58,610 --> 00:10:02,280 教えてください 師匠の死神を。 130 00:10:02,280 --> 00:10:06,620 なんでだい お前さん 廓噺の菊比古だろうが。 131 00:10:06,620 --> 00:10:09,620 その殻を破りてえんです。 132 00:10:15,630 --> 00:10:19,500 そこ座れ。 はい! 133 00:10:19,500 --> 00:10:23,500 ・~ 134 00:10:23,500 --> 00:10:28,970 え~ 困った時の神頼みなんてことを 言いますが・ 135 00:10:28,970 --> 00:10:33,640 なかには あんまり おつきあいしたくない 神様なんてぇのもございまして。・ 136 00:10:33,640 --> 00:10:37,310 貧乏神 疫病神 死神…。 137 00:10:37,310 --> 00:10:41,190 「借金まみれでもって にっちもさっちもいかねえや。・ 138 00:10:41,190 --> 00:10:45,190 また 嬶が やいのやいの うるせえからな」。 139 00:10:45,190 --> 00:10:48,660 「おせえてやろうか」。 140 00:10:48,660 --> 00:10:52,330 菊 あのな 死神がな…。 はい。 141 00:10:52,330 --> 00:10:56,000 出る時が ちょっと軽すぎんだよ。 142 00:10:56,000 --> 00:10:58,900 「おせえてやろうか」。 143 00:10:58,900 --> 00:11:02,200 うん… あのな なんかな…。 144 00:11:04,280 --> 00:11:06,940 「おせえてやろうか」。 145 00:11:06,940 --> 00:11:10,280 首を こう出すような こういう…。 はい。 146 00:11:10,280 --> 00:11:13,950 そうすっと 不気味に見えっからよ。 147 00:11:13,950 --> 00:11:16,850 「おせえてやろうか」。 148 00:11:16,850 --> 00:11:19,820 うん うん… 若い。 若い? うん 死神が若い。 149 00:11:19,820 --> 00:11:23,630 まあ おめえが若ぇから しょうがねえんだけど。 150 00:11:23,630 --> 00:11:27,300 「おせえてやろうか。・ 151 00:11:27,300 --> 00:11:33,170 消えるぞ 消えるぞ。・ 152 00:11:33,170 --> 00:11:39,640 ほら 消えた」。 153 00:11:39,640 --> 00:11:51,260 ・~ 154 00:11:51,260 --> 00:11:55,190 うん… うん まあ そんなもんだろ。 155 00:11:55,190 --> 00:11:58,660 ありがとうございました! 156 00:11:58,660 --> 00:12:01,570 気ぃ付けろよ。 157 00:12:01,570 --> 00:12:04,470 実力だけじゃ 真打になれねえ。 158 00:12:04,470 --> 00:12:10,610 師匠や 協会のお偉方の機嫌 損ねたら 一巻の終わりだ。 159 00:12:10,610 --> 00:12:14,280 助六にも そう言っとけ。 はい。 160 00:12:14,280 --> 00:12:26,290 ・~ 161 00:12:26,290 --> 00:12:29,960 「おせえてやろうか。・ 162 00:12:29,960 --> 00:12:33,300 死神だよ」。 163 00:12:33,300 --> 00:12:37,170 「死神? そっちに行けよ 気味悪ぃな おい。・ 164 00:12:37,170 --> 00:12:39,970 どっかに行ってくれよ」。 165 00:12:39,970 --> 00:12:43,270 「そう邪けんにするねぇ」。 166 00:12:45,840 --> 00:12:49,650 「みっともねえ野郎だ。・ 167 00:12:49,650 --> 00:12:52,980 これを お前にやらぁ。・ 168 00:12:52,980 --> 00:12:58,860 今にも消えそうな命の火を。 ただ…」。 169 00:12:58,860 --> 00:13:02,590 (松田)失礼します。 ・「消えると死ぬぞ」。 170 00:13:02,590 --> 00:13:07,460 お加減 いかがですか? うまくなったねぇ。 171 00:13:07,460 --> 00:13:11,940 正直 子供ん時は 向かないと思ったのに。 172 00:13:11,940 --> 00:13:16,640 本当に よ~く励んでらっしゃいます。 173 00:13:18,280 --> 00:13:23,610 いい出来だ。 ありがとうございます。 174 00:13:23,610 --> 00:13:28,290 すっかり見違ぇやがった。 てえした二ツ目だ。 175 00:13:28,290 --> 00:13:31,960 もっともっと頑張ります。 176 00:13:31,960 --> 00:13:36,830 その話 かけてみるかい? 177 00:13:36,830 --> 00:13:41,130 お前 本気で真打になりてえんだろ? 178 00:13:42,970 --> 00:13:45,870 だったら…・ 179 00:13:45,870 --> 00:13:49,310 みよ吉とは別れろ。・ 180 00:13:49,310 --> 00:13:54,180 まだ続いてんだろ? それは それでいい。 181 00:13:54,180 --> 00:13:58,980 そもそも アレを引き合わせたのは このアタシだからね。 182 00:13:58,980 --> 00:14:04,980 ただし 真打になるてぇことになると そうはいかねえ。 183 00:14:07,260 --> 00:14:10,160 (七代目)二度は言わねえ。 184 00:14:10,160 --> 00:14:15,130 落語を続けたきゃ あの女と別れろ。 185 00:14:15,130 --> 00:14:19,600 ・~ 186 00:14:19,600 --> 00:14:23,270 「みっともねえ野郎だ。・ 187 00:14:23,270 --> 00:14:28,610 今にも消えそうな命の火を こっちに つなぐことができりゃ・ 188 00:14:28,610 --> 00:14:31,950 今度 これが おめえの寿命だ。・ 189 00:14:31,950 --> 00:14:36,290 ただ 消えると死ぬぞ」。 190 00:14:36,290 --> 00:14:40,960 ・~ 191 00:14:40,960 --> 00:14:46,660 ・坊 すぐ戻ってくるからさ。 ・(みよ吉)大した用じゃないんだけどね。 192 00:14:49,300 --> 00:14:53,640 当分 忙しいって言ってたから ちょっと寄ってみたの。 193 00:14:53,640 --> 00:14:56,970 初太郎 今夜も聞いてくれるかい? 194 00:14:56,970 --> 00:15:00,310 ちょっと まだ 納得いかないところがあるんだ。 195 00:15:00,310 --> 00:15:04,920 でもよ…。 これ 渡しに来ただけだから。 196 00:15:04,920 --> 00:15:11,260 銀座の百貨店で いいのがないかなぁって ずっと探してたの。 197 00:15:11,260 --> 00:15:14,560 英国製で 頑丈なんだって。 198 00:15:19,130 --> 00:15:22,270 別にいいのに…。 199 00:15:22,270 --> 00:15:25,940 折れて転んだら大変だから。 ねっ。 200 00:15:25,940 --> 00:15:29,610 そのかわり こっち もらっていい? 201 00:15:29,610 --> 00:15:33,280 どうすんだい そんなもの。 202 00:15:33,280 --> 00:15:38,950 そこまで送ってくれない? ちょっと 話 したいこともあるし。 203 00:15:38,950 --> 00:15:42,620 ここじゃ ダメなのかい? 204 00:15:42,620 --> 00:15:47,320 ちょいと出てくる。 いいの すぐ済むから。 205 00:15:54,630 --> 00:15:57,330 私…。 206 00:15:59,300 --> 00:16:04,140 私をね 身請けしたいって お客がいて。 207 00:16:04,140 --> 00:16:09,110 身請け? どっかの大尽が おめさんを嫁さんに? 208 00:16:09,110 --> 00:16:12,250 奥さんは いる方。 もう いい年だし。 209 00:16:12,250 --> 00:16:15,950 じゃあ 妾にして囲うって話か? 210 00:16:17,920 --> 00:16:22,220 それで? どうするんだい? 211 00:16:23,790 --> 00:16:28,930 おい そんな言い方…。 まさか アタシに 止めてくれとでも? 212 00:16:28,930 --> 00:16:35,230 おい 坊。 ちょっと言ってみただけ。 お稽古 頑張って。 213 00:16:38,940 --> 00:16:43,810 なんで追いかけて行かねえんだよ? おめえに止めてもらいたくて来たんだよ。 214 00:16:43,810 --> 00:16:45,810 おい 坊! 215 00:16:47,620 --> 00:16:52,960 師匠に言われたんだ。 何を? 216 00:16:52,960 --> 00:16:58,830 あの人とは… 別れろって。 217 00:16:58,830 --> 00:17:17,150 ・~ 218 00:17:17,150 --> 00:17:20,920 (会長)八雲から聞いてると思うが・ 219 00:17:20,920 --> 00:17:24,590 春に お前さんを真打にって話がある。 220 00:17:24,590 --> 00:17:31,260 でだ 今年の納涼落語会 新橋のが 具合 悪くなってな。 221 00:17:31,260 --> 00:17:36,600 お前さん その穴 埋めてくれないかぇ? 222 00:17:36,600 --> 00:17:40,940 穴を埋める? トリだ。 223 00:17:40,940 --> 00:17:47,810 助六って声もあったんだが 会長として アタシは お前さんがいいと思ってね。 224 00:17:47,810 --> 00:17:51,580 席亭にも 話はつけてある。 225 00:17:51,580 --> 00:17:57,490 噺家にとって テレビやラジオは 所詮 顔見世みてぇなもんだ。 226 00:17:57,490 --> 00:18:05,900 どうだい 寄席で きっちりトリ取れる姿 見せてくれるかい?・ 227 00:18:05,900 --> 00:18:11,770 気持ちいいもんだぜ。 金より 酒より 女より。・ 228 00:18:11,770 --> 00:18:16,540 満員の寄席で しかも トリで拍手をもらうってのは・ 229 00:18:16,540 --> 00:18:20,240 何より 最高に気持ちいい。 230 00:18:20,240 --> 00:18:39,260 ・~ (拍手) 231 00:18:39,260 --> 00:18:43,130 (会長)どうする? 菊。 232 00:18:43,130 --> 00:18:51,840 ・~ 233 00:18:51,840 --> 00:18:57,950 納涼落語会 精いっぱい務めさせて頂きます。 234 00:18:57,950 --> 00:19:01,950 (会長)よ~し 今夜は前祝いだ。 235 00:19:04,220 --> 00:19:08,560 間もなく助六ですよ~。 いかがですか?・ 236 00:19:08,560 --> 00:19:11,460 どうぞ どうぞ いらっしゃいませ~。・ 237 00:19:11,460 --> 00:19:17,160 どうぞ いかがですか? もうすぐ始まりますよ。 助六ですよ~。 238 00:19:19,900 --> 00:19:22,240 ありがとう。 239 00:19:22,240 --> 00:19:32,250 ・~ 240 00:19:32,250 --> 00:19:34,550 よう。 241 00:19:37,920 --> 00:19:42,790 菊さん 出ないのね。 もしかしたら 会えるかと思って 行ったのに。 242 00:19:42,790 --> 00:19:47,930 相変わらず稽古の虫だい。 寝言にまで やってやがるぜ。 243 00:19:47,930 --> 00:19:52,270 祭りの日に 観音様に ご挨拶しねえで帰るなんて うそだろ。 244 00:19:52,270 --> 00:19:57,570 ついでに 一杯おごってくれ。 一杯で 愚痴30分。 どうだい? 245 00:20:00,940 --> 00:20:04,820 四万六千日 お暑いさかりでございます。 246 00:20:04,820 --> 00:20:08,290 やめて アンタまで…。 落語は嫌いかい? 247 00:20:08,290 --> 00:20:13,160 映画 見てた方が マシ。 しゃべってる 菊さんが きれいだから 見に行くの。 248 00:20:13,160 --> 00:20:15,630 男にゃ分からん。 249 00:20:15,630 --> 00:20:19,960 私 菊さんのためなら なんだって我慢する。 250 00:20:19,960 --> 00:20:22,870 一体 どういう料簡だい この人でなしが! 251 00:20:22,870 --> 00:20:25,640 …って思うことねえかい? あるよ。 252 00:20:25,640 --> 00:20:28,310 嫌って言ったら テコでも曲げないし。 253 00:20:28,310 --> 00:20:33,640 右 見て 左 見たと思ったら もう機嫌が悪くなったり。 分かる。 254 00:20:33,640 --> 00:20:39,320 でも 慣れてんの。 男の人って そういうもんでしょ。 255 00:20:39,320 --> 00:20:43,020 大事なことは なんにも教えてくれない。 256 00:20:44,650 --> 00:20:48,990 私 バカだから その方が楽でいい。 257 00:20:48,990 --> 00:20:53,660 アンタみたいな優しい人は 苦手。 つれない人が好き。 258 00:20:53,660 --> 00:20:56,570 ひでえこと言うなぁ。 259 00:20:56,570 --> 00:21:01,940 満州に行ったのも 男に だまされたようなもん。 260 00:21:01,940 --> 00:21:07,640 だまされて 捨てられて… どん底だった。 261 00:21:09,280 --> 00:21:14,150 菊さんに出会ったのが 私の第二の人生の始まり。 262 00:21:14,150 --> 00:21:19,150 一人は… 二度と嫌…。 263 00:21:21,630 --> 00:21:27,500 でも 菊さんとは無理みたい。 私 また捨てられんの。 264 00:21:27,500 --> 00:21:31,970 そんなことしねえ… あいつには できねえよ。 265 00:21:31,970 --> 00:21:35,840 ほら 優しいから 気休めばっかり。 266 00:21:35,840 --> 00:21:40,980 バカね… 別れたがってんのは 空気で分かる。 267 00:21:40,980 --> 00:21:43,980 何度目だと思ってんの。 268 00:21:45,850 --> 00:21:48,150 また今度ね。 269 00:21:49,990 --> 00:21:51,920 なに…? 270 00:21:51,920 --> 00:21:54,660 やだ… 何よ? 271 00:21:54,660 --> 00:21:59,660 知らん。 俺にも分かんねえ…。 272 00:22:05,600 --> 00:22:09,600 黙って見てりゃ 何なんだい。 273 00:22:11,270 --> 00:22:15,610 菊さん…。 声 かけづらくて 待ってたんだ。 274 00:22:15,610 --> 00:22:18,520 ほおずき買って帰ろうと思ってね。 275 00:22:18,520 --> 00:22:23,950 やだ… 違う! 何もないの。 ねっ 信じてね。 276 00:22:23,950 --> 00:22:27,620 悪かったね 変なとこに来ちまって。 277 00:22:27,620 --> 00:22:30,530 やめてよ… なんで謝んの? もっと怒ってよ。 278 00:22:30,530 --> 00:22:33,500 怒るんなら理由がねえと。 279 00:22:33,500 --> 00:22:37,800 別段 腹が立つことはないよ。 280 00:22:39,970 --> 00:22:45,670 待った。 殴る気かぇ。 281 00:22:47,640 --> 00:22:51,310 覚悟して おやんなさい。 282 00:22:51,310 --> 00:22:53,610 バカ! 283 00:22:56,650 --> 00:23:01,490 おい バカ! 呼んでるぞ おい。 追いかけろって! 284 00:23:01,490 --> 00:23:05,260 お前さんが行きなよ。 たまにゃ 男 見せろよ! 285 00:23:05,260 --> 00:23:07,560 見せてるよ…。 286 00:23:09,130 --> 00:23:12,430 一世一代の大うそだ。 287 00:23:15,270 --> 00:23:21,270 ほれてるけど… あたしゃ決めたんだ。 288 00:23:23,610 --> 00:23:27,610 そんな野郎が追いかけたら酷だ。 289 00:23:31,290 --> 00:23:34,960 決めたことには何も言わねえよ。 290 00:23:34,960 --> 00:23:38,630 もう 誰とも 結婚なんざ したくない。 291 00:23:38,630 --> 00:23:44,300 とにかく 独りになりたい…。 あたしゃ その方が向いてるよ。 292 00:23:44,300 --> 00:23:47,300 俺も邪魔か…。 293 00:23:48,970 --> 00:23:51,670 そうだよ。 294 00:23:53,310 --> 00:23:56,210 お前さんといると なんでも楽しい。 295 00:23:56,210 --> 00:24:00,580 新しいことも目に入る。 なんでも分かち合いたくなる。 296 00:24:00,580 --> 00:24:05,920 ずっと そばで お前さんの落語を 聞いてられりゃ・ 297 00:24:05,920 --> 00:24:09,920 そんな楽なことはないだろうよ。 298 00:24:12,600 --> 00:24:19,470 でも それじゃ… 手前の落語と向き合えない。 299 00:24:19,470 --> 00:24:23,240 できねえのを 人のせいにすんじゃねえよ。 300 00:24:23,240 --> 00:24:26,540 他人がいなきゃ 落語は できねえぜ。 301 00:24:28,610 --> 00:24:33,480 アタシは お前さんとは違う。 302 00:24:33,480 --> 00:24:37,620 いつも 先ぃ歩いてたから 見えなかったろ。 303 00:24:37,620 --> 00:24:43,920 お前さんがいることで アタシが どれだけ苦しんだか。 304 00:24:46,300 --> 00:24:49,600 そんなふうに思ってたか…。 305 00:24:53,640 --> 00:24:55,970 よ~しよしよしよし…。 306 00:24:55,970 --> 00:24:59,310 いてっ…! もう そんなら それでいいよ。 307 00:24:59,310 --> 00:25:03,610 もう一緒にいる必要もねえよな。 ここらで お開きだよ。 308 00:25:06,920 --> 00:25:11,590 俺たちはな やり方は 違うかもしれねえけど・ 309 00:25:11,590 --> 00:25:17,260 落語が好きで この道を選んだっていう 根っこは ずっと変わんねえぞ。 310 00:25:17,260 --> 00:25:20,930 戦争が終わって 何もかも変わっちまった。 311 00:25:20,930 --> 00:25:24,600 なのに 落語は 何ひとつ変わんねえんだよ。 312 00:25:24,600 --> 00:25:29,470 この人気に甘えて むしろ変化を恐れてる。 313 00:25:29,470 --> 00:25:32,280 今は いいよ。 314 00:25:32,280 --> 00:25:37,150 けど 長く 人の娯楽であり続けるには これじゃダメなんだよ! 315 00:25:37,150 --> 00:25:42,620 俺ぁ 今な とにかく 客にウケる噺がしてえんだ。 316 00:25:42,620 --> 00:25:48,290 そのためには 客に合わせて いつも 俺が変わんなくちゃいけねえんだよ。 317 00:25:48,290 --> 00:25:52,160 そんなのは おかしい。 そんなのは もう落語とは言わねえだろ。 318 00:25:52,160 --> 00:25:55,630 変わんねえ落語も必要だよ 確かに。 319 00:25:55,630 --> 00:25:58,630 それも落語の本質だ。 320 00:26:00,300 --> 00:26:03,600 それは お前さんの仕事なんだ。 321 00:26:05,140 --> 00:26:08,110 アタシの仕事? 322 00:26:08,110 --> 00:26:12,250 二人で 落語が生き延びていく道をつくる。 323 00:26:12,250 --> 00:26:15,250 そいだけは約束しようぜ。 324 00:26:16,920 --> 00:26:21,260 貸せ。 ほら。 325 00:26:21,260 --> 00:26:26,930 ・~ 326 00:26:26,930 --> 00:26:28,870 うん。 327 00:26:28,870 --> 00:26:34,800 <初太郎と こんなふうに笑い合うのは その時が最後になりました> 328 00:26:34,800 --> 00:26:36,940 「死神だよ」。 329 00:26:36,940 --> 00:26:40,810 「死神? あ~ そっちに行けよ 気味悪ぃなぁ おい」。 330 00:26:40,810 --> 00:26:46,280 <白状すると みよ吉のことは しばらく忘れていました。・ 331 00:26:46,280 --> 00:26:50,620 納涼落語会に向け 真打に向け・ 332 00:26:50,620 --> 00:26:54,960 ただただ手前の落語と どこまでも向き合えることに・ 333 00:26:54,960 --> 00:26:58,960 飯を食うのも忘れていたのです> 334 00:27:01,560 --> 00:27:06,240 「ありがてえ 寝ちまえ 寝ちまえよ」。 335 00:27:06,240 --> 00:27:11,110 祈るように見ておりますと 頭が がくんと前に下がりましたんで・ 336 00:27:11,110 --> 00:27:14,580 ここだなっ 目配せをする。 膝を ぽ~んって打ちますってぇと・ 337 00:27:14,580 --> 00:27:17,910 布団が半分 くるっと回る。 頭だった方に足 足だった方に頭。 338 00:27:17,910 --> 00:27:20,250 あじゃらかもくれん てけれっつのぱあ。 339 00:27:20,250 --> 00:27:28,250 ・~ 340 00:27:39,270 --> 00:27:43,140 こんな時間から また飲んでるのかい? 341 00:27:43,140 --> 00:27:47,440 今日だよね 雨竹亭の納涼落語会。 342 00:27:51,280 --> 00:27:56,950 行かなくていいのかい? 菊さんの大事な日だろ。 343 00:27:56,950 --> 00:28:31,590 ・~ 344 00:28:31,590 --> 00:28:33,520 すいません! 345 00:28:33,520 --> 00:28:59,950 ・~ 346 00:28:59,950 --> 00:29:03,820 大丈夫ですか? 大丈夫ですか!? 347 00:29:03,820 --> 00:29:08,560 ・~(出囃子) 348 00:29:08,560 --> 00:29:13,900 <みよ吉との未来より 自分の落語を取った。・ 349 00:29:13,900 --> 00:29:19,570 アタシは 落語が いとおしくてたまらなかった。・ 350 00:29:19,570 --> 00:29:23,910 地獄に落ちても 落語と道連れなら・ 351 00:29:23,910 --> 00:29:28,580 落語と心中なら 本望だと・ 352 00:29:28,580 --> 00:29:32,920 その時は そう思っておりました> 353 00:29:32,920 --> 00:29:37,250 「やだ やだ 弱っちゃったなぁ どうも。・ 354 00:29:37,250 --> 00:29:40,160 仕事はねえ 銭はねえから・ 355 00:29:40,160 --> 00:29:43,590 借金まみれでもって にっちもさっちもいかねえや」。 356 00:29:43,590 --> 00:29:46,890 おい まくらなしかい。 357 00:29:50,470 --> 00:29:54,600 「いや 死のうったってなぁ 俺 初めて死ぬんだからなぁ」。 358 00:29:54,600 --> 00:29:57,270 (客の笑い) 「死にようが分からねえけど・ 359 00:29:57,270 --> 00:30:00,270 どうやったら死ねるんだろうなぁ」。 360 00:30:01,940 --> 00:30:05,280 「おせえてやろうか」。 361 00:30:05,280 --> 00:30:08,180 「なんだい てめえは」。 362 00:30:08,180 --> 00:30:10,950 「死神だよ」。 363 00:30:10,950 --> 00:30:13,620 「死神? おい そっちに行けよ!・ 364 00:30:13,620 --> 00:30:16,290 気味悪ぃなぁ おい どっかに行ってくれよ!」。 365 00:30:16,290 --> 00:30:21,160 流れよく テンポよく ウケるとこは きちんとウケてやがる。 366 00:30:21,160 --> 00:30:25,300 「寿命が尽きねえうちは 死ねねえ。・ 367 00:30:25,300 --> 00:30:29,970 おめえには まだまだ寿命がある。・ 368 00:30:29,970 --> 00:30:36,310 それよりな 仕事 世話してやろうか。・ 369 00:30:36,310 --> 00:30:40,180 震えてるなぁ。・ 370 00:30:40,180 --> 00:30:44,650 消えると死ぬぞ」。 371 00:30:44,650 --> 00:30:47,990 「余計なこと言わねえでくれよ」。 372 00:30:47,990 --> 00:30:50,990 俺には できねえ落語だ。 373 00:30:52,660 --> 00:30:57,530 「消えるぞ。 ほ~ら。・ 374 00:30:57,530 --> 00:31:04,940 ほ~ら ほ~ら・ 375 00:31:04,940 --> 00:31:10,940 ほ~ら 消えた」。 376 00:31:22,960 --> 00:31:29,260 <これが アタシの 心底 欲した 孤独> 377 00:31:34,970 --> 00:31:39,310 (拍手) 378 00:31:39,310 --> 00:31:43,180 坊 やりやがったな。 379 00:31:43,180 --> 00:31:51,180 ・~ (拍手) 380 00:31:52,860 --> 00:31:56,160 (お栄)先生 ありがとうございました。 381 00:32:00,930 --> 00:32:05,600 飲み過ぎで 肝臓が弱ってるってさ。・ 382 00:32:05,600 --> 00:32:08,500 少し控えた方がいいよ。 383 00:32:08,500 --> 00:32:12,940 ・~ 384 00:32:12,940 --> 00:32:17,280 (七代目)この前途洋々たる 若い二人の門出・ 385 00:32:17,280 --> 00:32:21,620 真打昇進披露も 本日 ついに千秋楽。 386 00:32:21,620 --> 00:32:25,960 しまいまで ごゆるりと ご堪能くださいませ。 387 00:32:25,960 --> 00:32:30,830 (拍手) 388 00:32:30,830 --> 00:32:35,300 それでは ここで 両名の前途を祝しまして・ 389 00:32:35,300 --> 00:32:38,200 三本で え~ 祝いたいと思います。 390 00:32:38,200 --> 00:32:41,640 それでは ご唱和のほどを。 よぉ~! 391 00:32:41,640 --> 00:32:44,640 (三本締めの音) 392 00:32:46,510 --> 00:32:50,980 失礼します。 おう。 393 00:32:50,980 --> 00:32:54,320 本日は どうも ありがとうございます。 394 00:32:54,320 --> 00:32:58,190 盛況だな。 ありがとうございます。 395 00:32:58,190 --> 00:33:01,120 お前さんたちの世代は 極端に人がいねえ。 396 00:33:01,120 --> 00:33:05,600 まっ 二人いっぺんにってことで しかたねえ。 397 00:33:05,600 --> 00:33:08,930 しかたねえ? おい。 398 00:33:08,930 --> 00:33:12,600 八雲の面 潰すわけにゃいかねえからな。 399 00:33:12,600 --> 00:33:18,300 あたしゃ 本来 お前さんみたいなやり方は よく思ってませんよ。 400 00:33:19,940 --> 00:33:22,610 畜生… タヌキおやじめ。 401 00:33:22,610 --> 00:33:26,480 お前さん ほんとに あの会長とは水と油だね。 402 00:33:26,480 --> 00:33:29,950 まあ 見てろ。 落語で 鼻 明かしてやらぁ。 403 00:33:29,950 --> 00:33:32,620 今日は 何を? 404 00:33:32,620 --> 00:33:35,530 まだ迷ってるけど ドカンといきてえな。 405 00:33:35,530 --> 00:33:38,490 まさか ほんとに やるなんざ 思わなかったよ。 406 00:33:38,490 --> 00:33:41,630 披露目で 毎日 違う根多かけるなんて。 407 00:33:41,630 --> 00:33:44,630 当然よ。 俺ぁ天才だからよ。 408 00:33:46,300 --> 00:33:49,640 天狗の親分みたいだよ そんなに えばって。 409 00:33:49,640 --> 00:33:52,540 俺ぁ すぐに八代目八雲を継ぐ。 410 00:33:52,540 --> 00:33:55,510 八雲の名は お前さんには渡さねえ。 411 00:33:55,510 --> 00:34:00,280 襲名なんて面倒だ。 八雲は お前さんがいいよ。 412 00:34:00,280 --> 00:34:03,190 当たりめえよ。 413 00:34:03,190 --> 00:34:06,590 俺ぁ 八雲になるために生きてきたんだ! 414 00:34:06,590 --> 00:34:09,930 ・~(出囃子) 415 00:34:09,930 --> 00:34:11,860 待ってました! 416 00:34:11,860 --> 00:34:17,600 (拍手) 417 00:34:17,600 --> 00:34:21,940 え~ どうも どうも ついに真打の登場でございます! 418 00:34:21,940 --> 00:34:27,610 (拍手) 419 00:34:27,610 --> 00:34:33,950 ええ よく 道楽ってぇことを言いますが 男の道楽は三道楽。 420 00:34:33,950 --> 00:34:36,850 飲む打つ 買うってんですね。 421 00:34:36,850 --> 00:34:39,820 で お女郎買いってぇことに なりますってぇと・ 422 00:34:39,820 --> 00:34:43,290 何と申しましても 栄えたのは吉原でございます。 423 00:34:43,290 --> 00:34:45,230 あのバカ! 424 00:34:45,230 --> 00:34:51,170 品川 新宿 板橋 千住 え~ 四宿なんてのがあったんだそうで。 425 00:34:51,170 --> 00:34:54,900 <居残り佐平次 会長の十八番。・ 426 00:34:54,900 --> 00:34:58,840 会長から じきじきに 稽古をつけてもらわない限り・ 427 00:34:58,840 --> 00:35:03,580 誰も手を出せねえネタ。 ケンカ売ってやがる…。・ 428 00:35:03,580 --> 00:35:09,450 客の前で落語をやらせりゃあ 自分が一番だってわけだ。・ 429 00:35:09,450 --> 00:35:12,590 女郎屋で無銭飲食をする佐平次。・ 430 00:35:12,590 --> 00:35:18,260 あげく 金が無いので 「居残り」となって女郎屋で働くことに…> 431 00:35:18,260 --> 00:35:22,130 ・~ 432 00:35:22,130 --> 00:35:26,940 「いのど~ん ちょいと~!」。 433 00:35:26,940 --> 00:35:31,610 <むつかしい噺だ。 登場人物も多い。・ 434 00:35:31,610 --> 00:35:34,940 佐平次の柄を どう作るかも複雑。・ 435 00:35:34,940 --> 00:35:38,280 会長の佐平次とは違う。・ 436 00:35:38,280 --> 00:35:43,150 スピード感たっぷりで 底抜けに明るい。・ 437 00:35:43,150 --> 00:35:49,890 こんな大根多も こなして あいつは 一体 どこまで いっちまうんだ…> 438 00:35:49,890 --> 00:35:56,630 ・~ 439 00:35:56,630 --> 00:36:00,500 「居残りを商売にしてるんですよ」。 (客の笑い) 440 00:36:00,500 --> 00:36:06,240 「居残りを商売? 冗談じゃねえや。 どこまで 人を おこわにかけたのか」。 441 00:36:06,240 --> 00:36:11,110 「へいっ あなたの頭が ごま塩でございますから」。 442 00:36:11,110 --> 00:36:26,930 ・~ (拍手) 443 00:36:26,930 --> 00:36:32,800 坊! いい出来だ。 いい出来だった! いい出来だった! 444 00:36:32,800 --> 00:36:38,940 ・~ 445 00:36:38,940 --> 00:36:43,810 <真打の披露目が終わった夜 アタシには・ 446 00:36:43,810 --> 00:36:48,950 けじめをつけなくてはいけないことが 残っていました> 447 00:36:48,950 --> 00:36:53,620 ・~ 448 00:36:53,620 --> 00:36:57,490 ・(ステッキの音) 449 00:36:57,490 --> 00:37:00,190 菊さん…。 450 00:37:09,110 --> 00:37:14,240 体は どうだい 少しは よくなったかい? 451 00:37:14,240 --> 00:37:16,180 どうしたの? 452 00:37:16,180 --> 00:37:22,920 披露目の間は 不自由の身だからね。 ずいぶん間があいて すまなかった。 453 00:37:22,920 --> 00:37:26,620 お酒 持ってくる。 いいよ。 454 00:37:28,590 --> 00:37:31,890 お別れなんて聞きたくない。 455 00:37:33,460 --> 00:37:36,760 ずっと来ないでって祈ってたのよ。 456 00:37:45,610 --> 00:37:53,610 いくらでも責めとくれ。 今日は 一晩 それを聞きに来た。 457 00:37:56,620 --> 00:37:59,620 何してもいいの? 458 00:38:03,430 --> 00:38:07,130 殴るなり なんなり…。 459 00:38:10,170 --> 00:38:16,170 できっこないわ。 大好きなんだもの。 460 00:38:21,240 --> 00:38:24,580 田舎に帰ろうかな。 461 00:38:24,580 --> 00:38:29,250 身寄りもないけど ここにいるより しがらみがない。 462 00:38:29,250 --> 00:38:32,590 ジジイの お妾でもやって暮らそうかな。 463 00:38:32,590 --> 00:38:36,460 また そうやって 人を試すようなことを…。 464 00:38:36,460 --> 00:38:40,460 お願い… 一緒に逃げて。 465 00:38:45,170 --> 00:38:52,610 お前さんは 一人でも生きられる しなやかさを身につけなきゃいけねえ。 466 00:38:52,610 --> 00:38:57,950 一人は嫌。 「居場所は自分で作るもの」。 467 00:38:57,950 --> 00:39:03,550 そう教えてくれたのは お前さんだよ。 468 00:39:03,550 --> 00:39:08,890 偉そうに… 私の本名すら知らないくせに。 469 00:39:08,890 --> 00:39:12,590 お前さんだって そうだろう。 470 00:39:19,540 --> 00:39:24,840 絶対に復しゅうする… 死んで化けて出るから。 471 00:39:26,910 --> 00:39:32,250 今度 会う時は… 地獄ね。 472 00:39:32,250 --> 00:39:47,260 ・~ 473 00:39:47,260 --> 00:39:52,600 (七代目)会長の前で 居残りかけるなんざ なに考えてんだ! 474 00:39:52,600 --> 00:39:56,940 俺が どいだけ 頭 下げて 肩身の狭い思いしたか…。 475 00:39:56,940 --> 00:39:59,610 客は喜んでたじゃないっすか。 476 00:39:59,610 --> 00:40:04,480 落語は 皆で守るもの。 人の和が何より大事だ。 477 00:40:04,480 --> 00:40:09,290 ご先祖様が 代々 口伝えで 受け継いでくだすった 伝統芸。 478 00:40:09,290 --> 00:40:12,620 そんないいもんが消えてくのを 黙って見てろってんですか。 479 00:40:12,620 --> 00:40:15,520 俺ぁ 落語 大好きだ。 だからこそ…。 480 00:40:15,520 --> 00:40:20,820 そんなに好きなら なぜ壊そうとする! 壊すんじゃない! 変えるんです! 481 00:40:22,630 --> 00:40:26,630 だから 師匠の落語は 古くさくて まだるっこしいんだ。 482 00:40:30,310 --> 00:40:37,980 おめえ あちこちで 八雲の名を継ぐのは 自分だって 言いふらしてんだって? 483 00:40:37,980 --> 00:40:40,880 俺は 一日も早く 八雲の名を継いで…。 484 00:40:40,880 --> 00:40:44,850 てめえには継がせねえ。 485 00:40:44,850 --> 00:40:50,560 八雲は… 菊にやる。・ 486 00:40:50,560 --> 00:40:54,330 もう幹部会にも相談してる。 487 00:40:54,330 --> 00:41:00,000 今日の件で 会長も賛成してくれた。 488 00:41:00,000 --> 00:41:03,270 そりゃないぜ…。 489 00:41:03,270 --> 00:41:07,610 それじゃ 俺ぁ 今まで なんのために…。 490 00:41:07,610 --> 00:41:12,610 八雲は てめえみたいな 品のねえ野郎に やれる名前じゃねえ。 491 00:41:14,280 --> 00:41:19,620 そりゃねえぜ! あんまりだ! てめえ どういう料簡だ! 492 00:41:19,620 --> 00:41:22,960 俺ぁ 今まで 八雲になりたい一心で…。 493 00:41:22,960 --> 00:41:27,300 帰れ! そんなに 好き勝手に生きてえんなら・ 494 00:41:27,300 --> 00:41:30,200 この際 破門してやらぁ! 495 00:41:30,200 --> 00:41:34,200 手前で勝手に 生きろぃ! 496 00:41:42,850 --> 00:41:53,990 ・~ 497 00:41:53,990 --> 00:41:56,660 ねえ。 498 00:41:56,660 --> 00:42:01,930 ・~ 499 00:42:01,930 --> 00:42:08,800 桜って いっつも いつの間にか散っちゃうんだよね。 500 00:42:08,800 --> 00:42:29,530 ・~ 501 00:42:29,530 --> 00:42:33,300 私…・ 502 00:42:33,300 --> 00:42:36,970 ふられちゃった。 503 00:42:36,970 --> 00:42:50,980 ・~ 504 00:42:50,980 --> 00:42:53,980 何かあったの…? 505 00:42:55,850 --> 00:42:59,320 話 聞いてあげる…。 506 00:42:59,320 --> 00:43:06,320 ・~