1 00:00:02,170 --> 00:00:05,870 (助六)坊… 坊! 2 00:00:10,045 --> 00:00:13,181 お前さん 変わらねえなぁ。 3 00:00:13,181 --> 00:00:17,881 (菊比古)お前さんは… 相変わらず臭いよ。 4 00:00:20,055 --> 00:00:36,404 ・~ 5 00:00:36,404 --> 00:00:39,407 なんも ねえとこだけど くつろいでくれ。 6 00:00:39,407 --> 00:00:44,145 なかぁねえだろ。 よくもまあ こんなに…。 7 00:00:44,145 --> 00:00:49,084 アレが出てったら このありさまで。 ひでえ時 来たな おめえさんも。 8 00:00:49,084 --> 00:00:52,220 どこ行ってんだい あの人は。 9 00:00:52,220 --> 00:00:55,520 仕事だよ。 もう3日も帰ってこねえ。 10 00:00:58,093 --> 00:01:01,496 言いてえことは 山ほどある。 11 00:01:01,496 --> 00:01:05,166 けど 全部 飲み込んで こいだけ言うよ。 12 00:01:05,166 --> 00:01:08,866 東京へ戻って 落語をやりなさい。 13 00:01:12,507 --> 00:01:15,844 忘れた あんなもん…。 14 00:01:15,844 --> 00:01:19,514 落語ってやつには 愛想を尽かした。 15 00:01:19,514 --> 00:01:22,851 客も みんな忘れてらぁ。 16 00:01:22,851 --> 00:01:26,187 嫌だ やりたくねえ。 17 00:01:26,187 --> 00:01:30,525 八雲と助六ってぇのは 相当 因縁深い名前だ。 18 00:01:30,525 --> 00:01:34,863 助六が 八雲の名を継げば 何よりの供養になる。 19 00:01:34,863 --> 00:01:38,533 なあ 兄弟 ずっと夢だったんだろ。 20 00:01:38,533 --> 00:01:41,202 うるせえ! 帰れ 帰れ 帰れ! 21 00:01:41,202 --> 00:01:44,105 俺は 全部 捨ててきたんだ! どうして まだ構うんだ! 22 00:01:44,105 --> 00:01:49,544 必要だからだ。 お前さんの落語が。 23 00:01:49,544 --> 00:01:52,881 子供の時分から ずっと そばで聞かされて・ 24 00:01:52,881 --> 00:01:57,552 まねして 目指して できなくて 諦めて…・ 25 00:01:57,552 --> 00:02:01,823 羨ましくて 羨ましくて 嫉妬で焦がれたこともあった。 26 00:02:01,823 --> 00:02:05,493 大っ嫌いになって 否定したこともあった。 27 00:02:05,493 --> 00:02:11,493 いいのも悪いのも あらゆる情を お前さんの落語から もらった。 28 00:02:13,168 --> 00:02:16,838 アタシは…・ 29 00:02:16,838 --> 00:02:21,176 お前さんを取り戻したいんだ。 30 00:02:21,176 --> 00:02:24,476 アタシの落語のために。 31 00:02:26,047 --> 00:02:30,518 落語界のためでも お客のためでもねえ。 32 00:02:30,518 --> 00:02:34,818 アタシのために やれって言ってんだ。 33 00:02:42,530 --> 00:02:48,830 ・小夏さん 話がある。 こっちへ おいで。 34 00:02:54,876 --> 00:02:58,746 お前さんが東京に戻るって言うまで ここに居座るよ。 35 00:02:58,746 --> 00:03:04,152 その前に 徹底的に掃除だ。 小夏さん お前さんも手伝いな。 36 00:03:04,152 --> 00:03:06,487 助六 今 借金は? 37 00:03:06,487 --> 00:03:09,390 おい お前 そんなふうに 決めつけてもらっちゃ…。 38 00:03:09,390 --> 00:03:13,161 あるのか ないのか。 あります。 39 00:03:13,161 --> 00:03:17,498 これで 全部 払っちまいな。 身ぎれいになったら職探し。 40 00:03:17,498 --> 00:03:20,401 よかったなぁ 借金 全部 返してくれるってよ。 41 00:03:20,401 --> 00:03:24,172 働いて 全部 返してもらうよ。 東京行きの電車賃も ためないと。 42 00:03:24,172 --> 00:03:27,075 その辺で働いて 稼ぎな。 えぇ~? 43 00:03:27,075 --> 00:03:30,044 さあ そうと決まったら 掃除 掃除! 44 00:03:30,044 --> 00:03:34,182 私も手伝う! 私も東京へ連れてって! 45 00:03:34,182 --> 00:03:37,085 寄席で 父ちゃんの落語 見るんだ! 46 00:03:37,085 --> 00:03:39,385 小夏…。 47 00:03:42,523 --> 00:03:45,193 利害一致だね。 48 00:03:45,193 --> 00:03:47,862 ほら 行け 行け 行け! 49 00:03:47,862 --> 00:03:51,733 助六。 なんだ 邪魔か? 邪魔だよ。 50 00:03:51,733 --> 00:03:54,535 邪魔だっつってんだよ。 51 00:03:54,535 --> 00:03:57,205 「やだよ お前と つきあうのは」。 52 00:03:57,205 --> 00:04:00,108 「そんなこと言わねえで つきあってくれよ」。 53 00:04:00,108 --> 00:04:03,011 伸びをしながら あくびをする。 54 00:04:03,011 --> 00:04:08,711 それを見て 思わず つられて… あ~あ。 55 00:04:10,485 --> 00:04:13,821 おめえさんのせいで また散財しちまったよ。 56 00:04:13,821 --> 00:04:17,158 悪ぃな。 おう どうだい 父ちゃん 似合うか? 似合う! 57 00:04:17,158 --> 00:04:19,494 似合うってよ。 アタシの見立てが いいんだろ。 58 00:04:19,494 --> 00:04:21,829 父ちゃんが似合うんだよな。 うん! 59 00:04:21,829 --> 00:04:24,165 アタシだよね? 父ちゃんだ。 60 00:04:24,165 --> 00:04:34,175 ・~ 61 00:04:34,175 --> 00:04:36,110 (2人の鼻歌) 62 00:04:36,110 --> 00:04:39,047 食べることに集中しなさいよ。 63 00:04:39,047 --> 00:04:44,819 (鼻歌) 64 00:04:44,819 --> 00:04:47,522 うるさいなぁ。 65 00:04:47,522 --> 00:04:54,822 ・~ 66 00:04:59,534 --> 00:05:05,139 気持ち良さそうに…。 こっちまで眠っちまいそうだ。 67 00:05:05,139 --> 00:05:10,011 ちゃんと働いてるから ちゃんと眠くなるんだよ。 68 00:05:10,011 --> 00:05:13,815 アイツにも さんざん 働けって言われてたのに。 69 00:05:13,815 --> 00:05:17,685 いつ帰るんだい? もう1週間たつじゃないか。 70 00:05:17,685 --> 00:05:20,488 さあな。 71 00:05:20,488 --> 00:05:24,826 坊 お前さん 所帯 持ったのか? 72 00:05:24,826 --> 00:05:30,498 いや… アタシは 誰とも所帯は持たない。 73 00:05:30,498 --> 00:05:34,168 そんなの アイツが聞いたら 大ごとだよ。 74 00:05:34,168 --> 00:05:37,505 どういう意味だい。 75 00:05:37,505 --> 00:05:43,205 アイツには やっぱり お前さんしか見えてねえんだよ。 76 00:05:44,846 --> 00:05:47,515 間違えちゃいけねえぜ。 77 00:05:47,515 --> 00:05:53,187 小夏が生まれて 俺たちは 楽しく暮らしてる。 78 00:05:53,187 --> 00:05:56,090 全部 俺が悪ぃんだ。 79 00:05:56,090 --> 00:06:01,996 小夏に落語を聞かせてやるようになって 小夏は喜んでくれるんだが・ 80 00:06:01,996 --> 00:06:05,767 アイツは とんでもなく怒りやがって。 81 00:06:05,767 --> 00:06:10,067 なぜ? 知らねえや…。 82 00:06:12,140 --> 00:06:16,010 帰ってきたら アタシからも話してみるよ。 83 00:06:16,010 --> 00:06:19,310 親子三人で東京に行こうって。 84 00:06:21,482 --> 00:06:25,482 もう寝るよ。 お休み。 85 00:06:41,169 --> 00:06:47,469 どうも お呼び立てしてしもて。 亀屋の主人です。 86 00:06:49,844 --> 00:06:52,747 いい座敷ですね。 87 00:06:52,747 --> 00:06:59,187 どうやろ ここで 落語会やって頂きたいんやけど。 88 00:06:59,187 --> 00:07:01,789 落語会…? 89 00:07:01,789 --> 00:07:04,789 どうですやろ? 90 00:07:13,801 --> 00:07:16,801 やらせて下さい。 91 00:07:22,810 --> 00:07:25,110 よう。 92 00:07:30,485 --> 00:07:34,822 (みよ吉)少し こぎれいになったじゃない。 何かあった? 93 00:07:34,822 --> 00:07:40,495 このところ 真面目に働いてんだ。 宿屋の風呂掃除したりしてよ。 94 00:07:40,495 --> 00:07:43,795 どういう風の吹き回し? 95 00:07:45,366 --> 00:07:49,066 落語をやりゃあ もっと稼げるはずなんだけどなぁ…。 96 00:07:50,838 --> 00:07:53,174 冗談でぇ。 97 00:07:53,174 --> 00:07:58,045 とにかく ちゃんと働いて 金も ためるから・ 98 00:07:58,045 --> 00:08:02,045 また 三人で 一から やり直そうぜ。 99 00:08:10,658 --> 00:08:14,958 アイツは こんな田舎にまでは 来やしねえよ。 100 00:08:27,808 --> 00:08:31,145 坊 おめえさんも入っちまえよ。 101 00:08:31,145 --> 00:08:35,445 アタシたちは 客じゃないんだよ。 かてえこと言うなよ。 102 00:08:44,492 --> 00:08:47,395 おっ。 なんだよ。 103 00:08:47,395 --> 00:08:50,364 (助六が口笛を吹く音) やめろよ。 104 00:08:50,364 --> 00:08:54,835 ・~ 105 00:08:54,835 --> 00:08:58,172 初めて会った日 覚えてるか? 106 00:08:58,172 --> 00:09:02,043 お前さん 風呂で ビィビィ ビィビィ 泣きだしてよ。 107 00:09:02,043 --> 00:09:04,343 忘れたよ。 108 00:09:06,447 --> 00:09:12,119 なあ 坊。 たまにゃ 泣き言ぐらい言ったらどうだい。 109 00:09:12,119 --> 00:09:15,990 ・~ 110 00:09:15,990 --> 00:09:19,794 小さい席で落語やるってのは 楽しいもんだねぇ。 111 00:09:19,794 --> 00:09:23,130 今まで こんなふうに思ったことなかった。 112 00:09:23,130 --> 00:09:26,033 そりゃ 客が よく見えるからだ。 113 00:09:26,033 --> 00:09:29,804 おめえは ずっと一人でいいなんて言うけど・ 114 00:09:29,804 --> 00:09:34,675 落語なんてもんは 一人じゃ 絶対できねえ。 115 00:09:34,675 --> 00:09:37,678 客が ちゃんと欲しがってくれて・ 116 00:09:37,678 --> 00:09:43,150 それに キッカリちょうどの 多すぎない 少なすぎもないワリをくれて・ 117 00:09:43,150 --> 00:09:48,489 それに ちょうどよく見合う形の とびっきりいい芸を返して・ 118 00:09:48,489 --> 00:09:51,392 お互い気持ちよく取り引きをする。 119 00:09:51,392 --> 00:09:57,164 そんな落語やるためにぁ 客の姿が しっかり見えてねえと。 120 00:09:57,164 --> 00:10:02,036 そこまで分かってて どうして やらねえんだ? 121 00:10:02,036 --> 00:10:05,506 あの人のためかい? 122 00:10:05,506 --> 00:10:10,177 間があいて 怖くなっちまってるだけだ。 123 00:10:10,177 --> 00:10:15,049 亀屋の大旦那に頼まれて 大広間で落語会をやるんだ。 124 00:10:15,049 --> 00:10:18,052 へぇ~ そりゃ稼げるね。 125 00:10:18,052 --> 00:10:22,189 お前さんも出る 二人会だ。 126 00:10:22,189 --> 00:10:26,861 俺ぁ 聞いてねえぞ。 俺ぁ 絶対やんねえからな! 127 00:10:26,861 --> 00:10:30,531 借金も返してもらわないと。 お先。 128 00:10:30,531 --> 00:10:35,870 ちょっ… 待てって! おめえ ずりぃぞ おい! ちょっ…! 129 00:10:35,870 --> 00:10:46,170 ・~ 130 00:10:53,220 --> 00:10:55,920 早いね。 131 00:11:05,166 --> 00:11:08,069 ずいぶん髪が伸びたね。 132 00:11:08,069 --> 00:11:11,769 切ってくれる人が いないんだもん。 133 00:11:16,777 --> 00:11:22,077 昔は おとっつぁんの髪も よく切ってやったもんだ。 134 00:11:24,185 --> 00:11:29,056 お母ちゃんのこと さがすの? どうしてだい? 135 00:11:29,056 --> 00:11:32,356 あんなやつ いない方が 幸せなんだ…。 136 00:11:34,195 --> 00:11:37,865 ひでえ言いようだなぁ。 大っ嫌い! 137 00:11:37,865 --> 00:11:41,865 父ちゃんがダメになったのは あの人のせいなんだ。 138 00:11:45,206 --> 00:11:48,542 落語をやらせないのかい? 139 00:11:48,542 --> 00:11:52,880 落語を聞くと 嫌なこと思い出すんだって。 140 00:11:52,880 --> 00:11:57,752 それに 母ちゃん 人生を間違えたって いつも言う。 141 00:11:57,752 --> 00:12:02,052 きっと 私を生まなきゃよかったって 思ってんだ。 142 00:12:03,824 --> 00:12:09,497 憎まれ口ばかり たたいてると 美人も台なしだよ。 143 00:12:09,497 --> 00:12:13,834 ・~ 144 00:12:13,834 --> 00:12:19,173 おっかさんのように きれいな女の人が 聞いててくれるからこそ・ 145 00:12:19,173 --> 00:12:22,843 落語やってる方だって 張り合いが出るんだ。 146 00:12:22,843 --> 00:12:27,715 寄席なんてぇのは 浴衣一枚 羽織りゃ 気軽に入れるとこだけど・ 147 00:12:27,715 --> 00:12:31,852 そいでも 帯は お太鼓にして 髪も しどけなく結って・ 148 00:12:31,852 --> 00:12:35,723 寄席にいてくれりゃ なんとなく華やぐんだ。 149 00:12:35,723 --> 00:12:41,195 その辺の芸人は みんな舞い上がって いつもより いい芸ができる。 150 00:12:41,195 --> 00:12:44,532 はい 出来上がり。 151 00:12:44,532 --> 00:12:47,435 きれい? うん。 152 00:12:47,435 --> 00:12:50,871 じゃあ やってよ。 うん? 153 00:12:50,871 --> 00:12:53,774 きれいな女の人のために。 154 00:12:53,774 --> 00:12:59,213 どこに そんな人がいるんだい? そうだ 「野ざらし」やって! 155 00:12:59,213 --> 00:13:02,483 なんだって また そんな根多を。 156 00:13:02,483 --> 00:13:05,386 苦手なんだよ…。 157 00:13:05,386 --> 00:13:09,356 え~ どうも 一席 古いところを おつきあい願いまして…。 158 00:13:09,356 --> 00:13:13,127 まくらは いいよ 早くやってよ。 159 00:13:13,127 --> 00:13:16,030 思い出してんだよ。 160 00:13:16,030 --> 00:13:19,834 「わ~ 開けてくれ 開けてくれ!・ 161 00:13:19,834 --> 00:13:23,170 先生! わ~!」。 162 00:13:23,170 --> 00:13:29,510 「ちょいと お待ちよ。 ああ… え~ うちの戸は やわに出来てんだから」。 163 00:13:29,510 --> 00:13:33,380 浅草弁天山が打ちいだす鐘の音が・ 164 00:13:33,380 --> 00:13:40,855 え~ 陰にこもって ものすごく ごぉ~んと鳴るんだなぁ。 165 00:13:40,855 --> 00:13:44,525 方への葦が ガサガサガサー。 166 00:13:44,525 --> 00:13:49,196 カラスが す~っと出てくりゃ… あ~。 167 00:13:49,196 --> 00:13:53,534 こっちのもんなんだよ。 待ってました! 168 00:13:53,534 --> 00:14:01,141 ・「鐘が ゴンとなりゃさ 上げ潮 南さあ」 169 00:14:01,141 --> 00:14:05,813 (助六 小夏) ・「カラスが ぱっと出て こらさのさあ」 170 00:14:05,813 --> 00:14:09,149 (助六 小夏)・「骨があると さいさいさい」 171 00:14:09,149 --> 00:14:12,820 でも むやみに上がるってぇと 角のはえる人なんか座ってんじゃない? 172 00:14:12,820 --> 00:14:16,490 なに言ってやがんだ おめえって女が 来てくれたんだ そんなもの いやしねえ。 173 00:14:16,490 --> 00:14:19,393 じゃ あたし お前さんのそばに行っても かまわないかい? 174 00:14:19,393 --> 00:14:22,830 いいとも。 そうかい うれしいねぇ。 175 00:14:22,830 --> 00:14:26,700 …ってんで 骨が ツゥーっと来て 俺の脇へ ぺちゃっと座って。 176 00:14:26,700 --> 00:14:30,504 ええ ご覧よ この人 水ったまりに座っちゃったぁ。 177 00:14:30,504 --> 00:14:34,842 でも お前さん あたしゃ 本当に 一緒に暮らしても かまわないかい。 178 00:14:34,842 --> 00:14:37,177 いいとも。 …って お前さんなんだろ。 179 00:14:37,177 --> 00:14:39,113 あたしなんて すぐに飽きてきちゃって・ 180 00:14:39,113 --> 00:14:41,048 脇に若いのなんか こしらえるんじゃない? 181 00:14:41,048 --> 00:14:43,851 なに言ってやがんだ おめえって女が来てくれたんだ。 182 00:14:43,851 --> 00:14:46,186 そんなもの こしらえやしねえ。 うそだ。 183 00:14:46,186 --> 00:14:48,856 そうやって 今まで 何人の女を だましたんだよ。 184 00:14:48,856 --> 00:14:51,525 俺ぁ 女なんか だましはしねえ。 185 00:14:51,525 --> 00:14:54,862 うそだ 何人目だよ 悔しいねぇ。 186 00:14:54,862 --> 00:14:56,797 コチョコチョ。 ダメだ やめなさい。 187 00:14:56,797 --> 00:14:58,732 コチョコチョ。 バカだね お前 やめなさい。 188 00:14:58,732 --> 00:15:02,136 コチョコチョコチョコチョ。 あら! あっ! 189 00:15:02,136 --> 00:15:07,007 ご覧よ この人… えっ! 魚 釣らねえで 自分の鼻 釣っちゃった。 190 00:15:07,007 --> 00:15:10,010 ちょっと 取ってこれ。 ちょっと 取って…。 191 00:15:10,010 --> 00:15:14,148 なんだ おめえ 笑ってやがんな。 いいよ てめえで取るからよ。 192 00:15:14,148 --> 00:15:19,820 あ 痛… あ 痛っ! あら! あら! 鼻血が出てきちゃった。 193 00:15:19,820 --> 00:15:23,490 ばかばかしくって 話にならないってやつだなぁ。 194 00:15:23,490 --> 00:15:26,827 こんな針で 骨が釣れるかよってんだ。 195 00:15:26,827 --> 00:15:30,497 この人 針 取っちゃった。 野ざらしで…。 196 00:15:30,497 --> 00:15:33,197 父ちゃん 日本一! 197 00:15:36,370 --> 00:15:40,507 (小夏)・「父ちゃんは すごい 父ちゃんは すごい」 198 00:15:40,507 --> 00:15:45,379 助六さん 後生です。 199 00:15:45,379 --> 00:15:49,379 八雲を継いで 落語をなさい。 200 00:15:57,524 --> 00:16:04,824 みよ吉さん 聞きました? 亀屋さんで落語会やるんですって。 201 00:16:06,333 --> 00:16:10,104 これ 旦那さんじゃないですか? 202 00:16:10,104 --> 00:16:12,806 え~? ・梅春! 203 00:16:12,806 --> 00:16:15,806 はい。 姉さん お先に。 204 00:16:19,680 --> 00:16:22,680 あの唐変木…。 205 00:16:43,771 --> 00:16:46,771 菊さん…。 206 00:16:48,509 --> 00:16:51,412 やっと来てくれた…。 207 00:16:51,412 --> 00:16:55,849 ・~ 208 00:16:55,849 --> 00:16:59,186 やらねえって どういう意味だい? 209 00:16:59,186 --> 00:17:03,457 もう チラシも配っちまったし みんな楽しみに…。 知らねえよ。 210 00:17:03,457 --> 00:17:07,127 俺は もう 落語は やらねえって決めたんだ。 211 00:17:07,127 --> 00:17:11,465 やったじゃねえか 今日だって。 小夏の前だけだ。 212 00:17:11,465 --> 00:17:15,165 俺ぁ 落語が嫌いなんだよ。 うそだ! 213 00:17:16,804 --> 00:17:20,474 お前さんは 落語なしじゃ生きていけねえ。 214 00:17:20,474 --> 00:17:26,146 アタシが お前さんの落語なしじゃ 生きていけねえのと 同じにね。 215 00:17:26,146 --> 00:17:30,818 お前さんは 落語をやるために 生まれてきたんだ。 216 00:17:30,818 --> 00:17:33,153 違う! 217 00:17:33,153 --> 00:17:37,024 今の俺は… この田舎で 親子三人で…。 218 00:17:37,024 --> 00:17:39,026 (戸が開く音) 219 00:17:39,026 --> 00:17:42,496 やって。 小夏 起きてたのか。 220 00:17:42,496 --> 00:17:47,367 やってよ。 見たいんだ 父ちゃんが 大勢の人の前で落語するとこ。 221 00:17:47,367 --> 00:17:49,837 絶対 見たい! 222 00:17:49,837 --> 00:17:53,173 ・(小夏)ねえ やって。 お願い 父ちゃん! ・うるせえ もう寝ろ! 223 00:17:53,173 --> 00:17:55,843 ・(小夏)やだ 父ちゃんが 落語やるって言うまで 寝ない! 224 00:17:55,843 --> 00:17:57,778 ・子供は黙ってろぃ! ・(小夏)寝ない! 225 00:17:57,778 --> 00:17:59,713 ・寝ろ! ・(小夏)寝ない! 226 00:17:59,713 --> 00:18:01,648 ・寝ろって! ・(小夏)寝ない! 227 00:18:01,648 --> 00:18:03,650 ・寝ろ! ・(小夏)寝ない! 228 00:18:03,650 --> 00:18:05,652 ・寝ろ! ・(小夏)寝ない! 229 00:18:05,652 --> 00:18:09,123 約束だからね。 分かったから もう寝ろ。 230 00:18:09,123 --> 00:18:12,793 絶対だよ。 分かった 分かった。 231 00:18:12,793 --> 00:18:21,493 ・~ 232 00:18:30,144 --> 00:18:33,046 助六さん そろそろ始め…。 233 00:18:33,046 --> 00:18:37,484 温泉に遊びに来てるようなやつらに 落語が分かるわけねえだろうが。 234 00:18:37,484 --> 00:18:40,821 いいから 一番太鼓 入れといで。 235 00:18:40,821 --> 00:18:43,821 (松田)助六師匠。 236 00:18:45,492 --> 00:18:48,395 松田さん!? どうして…。 237 00:18:48,395 --> 00:18:52,366 どうもこうも。 お栄さんに聞いて やっと。 238 00:18:52,366 --> 00:18:56,503 久しぶりだな! 元気だったか? 239 00:18:56,503 --> 00:19:00,174 アタシも 妻をみとりましてね…。 240 00:19:00,174 --> 00:19:05,979 周り見回したら 誰もいなくて なんだか寂しくなっちまいましてねぇ。 241 00:19:05,979 --> 00:19:08,982 そうか…。 寄席の方々 みんな・ 242 00:19:08,982 --> 00:19:13,120 助六師匠を待ち焦がれてますよ! なんべん聞かれたことか! 243 00:19:13,120 --> 00:19:16,023 もう いないとね 灯がパッと消えたみたいで。 244 00:19:16,023 --> 00:19:20,794 おべっかは いいよ。 もぎりでも なんでも お手伝いしますからね。 245 00:19:20,794 --> 00:19:26,794 さあ もう 逃げも隠れも できねえぜ。 小夏さんも楽しみにしてるんだ。 246 00:19:35,809 --> 00:19:40,480 どんどん どんとこい どんどん どんとこい。 247 00:19:40,480 --> 00:19:43,383 「ひと間に閉じこもって 本ばかり読んでたんじゃ・ 248 00:19:43,383 --> 00:19:48,355 かえって こっちは…。 帰ってきた? ああ こりゃよかった。・ 249 00:19:48,355 --> 00:19:51,491 時次郎かい? こっちへ お入り」。 250 00:19:51,491 --> 00:19:54,394 「おとっつぁん ただいま帰りましてございます」。 251 00:19:54,394 --> 00:19:59,366 「うん どちらへ行ってなすった。 とうべえン所の稲荷祭に?」。 252 00:19:59,366 --> 00:20:03,503 「ここは お稲荷さまじゃございませんね?」。 253 00:20:03,503 --> 00:20:05,439 「そうですかねぇ」。 254 00:20:05,439 --> 00:20:09,843 「そうですかねぇじゃございません! 本で読んだことがございます。・ 255 00:20:09,843 --> 00:20:13,714 ここは 吉原というところじゃ ございませんか…!・ 256 00:20:13,714 --> 00:20:16,717 なんで あなた方 アタシを こういうところに・ 257 00:20:16,717 --> 00:20:19,853 連れて来るんでございます…」。 258 00:20:19,853 --> 00:20:23,724 ・「アタシの手を ギュウっと握って・ 259 00:20:23,724 --> 00:20:26,727 離さない…」。 260 00:20:26,727 --> 00:20:30,197 「うだっちゃったよ もう…。・ 261 00:20:30,197 --> 00:20:34,067 お前 そこでもって 甘納豆 食ってる場合じゃないんだよ」。 262 00:20:34,067 --> 00:20:38,872 「しょうがねえな …ったく あんなに大騒ぎしたのに」。 263 00:20:38,872 --> 00:20:41,775 「何してんだ しょうがねえな まったく。・ 264 00:20:41,775 --> 00:20:44,211 じゃあ いいよ 若旦那・ 265 00:20:44,211 --> 00:20:47,547 あなた モテてんだから しばらく ここに いらっしゃい。・ 266 00:20:47,547 --> 00:20:50,450 あっしらは先に帰りますから」。 267 00:20:50,450 --> 00:20:56,223 「あなた方 帰れるもんなら 帰ってごらんなさい。・ 268 00:20:56,223 --> 00:21:00,093 大門で止められますから」。 (客の笑い) 269 00:21:00,093 --> 00:21:02,829 お先。 270 00:21:02,829 --> 00:21:06,500 いい客だなぁ。 あったけぇけど 悪ウケしない。 271 00:21:06,500 --> 00:21:09,169 旅館の旦那が ごひいき筋に・ 272 00:21:09,169 --> 00:21:12,072 どういう会かって よく説明してくだすったんだ。 273 00:21:12,072 --> 00:21:16,043 気負わず気楽に聞いてくださる。 ありがてえなぁ。 274 00:21:16,043 --> 00:21:18,043 おっ。 275 00:21:19,813 --> 00:21:22,813 落語は客が語らすってのは こういうこった。 276 00:21:24,718 --> 00:21:27,854 坊。 277 00:21:27,854 --> 00:21:31,725 お前さん いい噺家になったなぁ。 278 00:21:31,725 --> 00:21:35,195 俺なんかより ず~っと いいや。 279 00:21:35,195 --> 00:21:40,067 冗談 言っちゃいけねえ。 兄弟子と思って せっかく トリを譲ったのに。 280 00:21:40,067 --> 00:21:43,870 おっ 今 兄弟子って言ったな? おめえ ついに認めやがったな! 281 00:21:43,870 --> 00:21:47,541 さあ シャンとして! この黒紋付 着てりゃあ・ 282 00:21:47,541 --> 00:21:50,444 誰だって 真打に見えらぁ。 283 00:21:50,444 --> 00:21:56,216 師匠の紋付… こりゃ 「八雲」だけの替え紋だろう。 284 00:21:56,216 --> 00:22:00,087 師匠の形見に… と思ってね。 285 00:22:00,087 --> 00:22:05,025 持ってきてよかった。 よく似合う。 286 00:22:05,025 --> 00:22:20,173 ・~ 287 00:22:20,173 --> 00:22:23,844 (拍手) 288 00:22:23,844 --> 00:22:26,747 (小夏)父ちゃん 頑張れ~! 289 00:22:26,747 --> 00:22:33,854 (拍手) 290 00:22:33,854 --> 00:22:37,190 え~ たくさんの お運びで。 291 00:22:37,190 --> 00:22:40,861 まあ こんなシャンとした格好すんのも 久しぶりでね・ 292 00:22:40,861 --> 00:22:46,199 中には こちらを ニヤニヤ ニヤニヤ 眺めてんのも ひとり ふた~り? 293 00:22:46,199 --> 00:22:50,537 え~ こう見えてね あたしゃ 東京で落語家をやってまして。 294 00:22:50,537 --> 00:22:53,837 あら 見える? 見えない? 295 00:22:55,876 --> 00:23:00,576 え~ どちらにしても 気分は悪ぃもんで。 296 00:23:02,482 --> 00:23:07,821 東京は芝の浜に まだ河岸がございました時分のお話で…。 297 00:23:07,821 --> 00:23:14,161 <芝浜… 人情噺か 珍しい> 298 00:23:14,161 --> 00:23:20,861 「あいよ。 なんだよ おい? まだ夜も明けてねえじゃねえかよぉ」。 299 00:23:22,502 --> 00:23:24,438 「おっどろいた…。・ 300 00:23:24,438 --> 00:23:28,175 お前さん 堪忍しておくれ。 いっとき早く起こしちまったなぁ」。 301 00:23:28,175 --> 00:23:32,045 「そんなことは どうでもいいんだよ おい これ見てみろ」。 302 00:23:32,045 --> 00:23:34,848 「財布かい?」。 303 00:23:34,848 --> 00:23:38,548 「浜で拾ったんだい。 中 見てみねえか」。 304 00:23:44,524 --> 00:23:48,862 「お前さん これ 二分金ばかりだよ」。 305 00:23:48,862 --> 00:23:54,534 <酒浸りの日々だった魚屋の勝五郎が 芝の浜で財布を拾って 浮かれていく。・ 306 00:23:54,534 --> 00:23:59,206 笑わさなくっても 客を引き込みやがる…> 307 00:23:59,206 --> 00:24:01,808 「夢でも見たんじゃないかい」。 308 00:24:01,808 --> 00:24:04,711 「夢? 馬鹿なこと言ってんじゃねえ。・ 309 00:24:04,711 --> 00:24:09,011 おら おめえ 浜 行って 財布 拾ってよ…」。 310 00:24:11,151 --> 00:24:14,488 「夢かい…」。 (客の笑い) 311 00:24:14,488 --> 00:24:16,423 「おい 夢か!」。 312 00:24:16,423 --> 00:24:20,827 さあ それからは まるで 人が変わったように 一生懸命 働きます。 313 00:24:20,827 --> 00:24:26,700 <今晩の助六は すごくいい。 実感がある> 314 00:24:26,700 --> 00:24:31,838 「俺は つくづく 魚屋になって良かったって…・ 315 00:24:31,838 --> 00:24:40,514 それ聞いてね… あたし もう この人 大丈夫…・ 316 00:24:40,514 --> 00:24:47,387 もう この人 大丈夫だって そう思ってね・ 317 00:24:47,387 --> 00:24:51,087 今 お金 出したんだよ…」。 318 00:24:53,093 --> 00:24:57,531 「お前さん ごめんなさい。・ 319 00:24:57,531 --> 00:25:00,831 堪忍しておくれ」。 320 00:25:09,809 --> 00:25:15,148 「まあ お手をお上げになって。・ 321 00:25:15,148 --> 00:25:18,818 俺が 甲斐性がねえばかりに・ 322 00:25:18,818 --> 00:25:22,689 おめえに つれえ思いさしたなぁ。・ 323 00:25:22,689 --> 00:25:27,827 俺が馬鹿だった。 おめえは悪くねえよ。・ 324 00:25:27,827 --> 00:25:32,165 俺が悪かった。・ 325 00:25:32,165 --> 00:25:35,465 勘弁してくれ…」。 326 00:25:37,504 --> 00:25:41,174 「こういう うれしいときにゃ 酒 呑まないといけねえなぁ。・ 327 00:25:41,174 --> 00:25:45,512 おう ありがとよ。・ 328 00:25:45,512 --> 00:25:49,182 どうも お久しぶりです」。 329 00:25:49,182 --> 00:25:51,117 (客の笑い) 330 00:25:51,117 --> 00:25:54,117 「本当に いいんだな?」。 331 00:26:03,697 --> 00:26:06,132 「よそう」。 332 00:26:06,132 --> 00:26:08,802 「呑まないのかい?」。 333 00:26:08,802 --> 00:26:12,802 「また 夢になるといけねえ」。 334 00:26:14,674 --> 00:26:22,816 ・~ (拍手) 335 00:26:22,816 --> 00:26:25,719 父ちゃん 日本一! 336 00:26:25,719 --> 00:26:36,830 ・~ (拍手) 337 00:26:36,830 --> 00:26:49,175 ・~ 338 00:26:49,175 --> 00:26:52,512 おい そろそろ起きな。 339 00:26:52,512 --> 00:26:54,512 うん? 340 00:26:56,182 --> 00:26:59,085 もう遅いから宿へ泊まってけって・ 341 00:26:59,085 --> 00:27:03,085 大旦那さんが あっちぃ 布団 敷いてくだすったよ。 342 00:27:04,991 --> 00:27:09,462 何から何まで世話んなっちまった。 343 00:27:09,462 --> 00:27:14,334 今日は なんだか 日がな夢でも見てるみてえだ。 344 00:27:14,334 --> 00:27:18,471 あんな落語を また できたなんて・ 345 00:27:18,471 --> 00:27:21,771 神様の ご褒美なんだろうなぁ。 346 00:27:23,810 --> 00:27:27,147 見たか? コイツの顔。 347 00:27:27,147 --> 00:27:30,483 あんなに楽しそうにしてよ。 348 00:27:30,483 --> 00:27:33,820 小夏って いい名前だろ。 349 00:27:33,820 --> 00:27:38,692 春なら 小春 秋なら 千秋・ 350 00:27:38,692 --> 00:27:42,162 冬なら 小雪だ。 351 00:27:42,162 --> 00:27:46,833 夏の暑い盛りに生まれたから 小夏。 352 00:27:46,833 --> 00:27:50,833 季節は 落語に なくちゃならねえからな。 353 00:27:52,505 --> 00:27:58,378 東京へ戻ったら みんなで 師匠のお宅で暮らそうよ。 354 00:27:58,378 --> 00:28:02,678 アタシ一人で暮らすにゃ 持て余すんだ。 355 00:28:05,452 --> 00:28:10,323 おめえさん 一人になりてえって 言ってたじゃねえか。 356 00:28:10,323 --> 00:28:14,023 ああ 言ったねぇ…。 357 00:28:15,795 --> 00:28:23,470 確かに 一人で黙々と稽古すりゃあ それなりに 落語は うまくなるよ。 358 00:28:23,470 --> 00:28:29,342 ただ落語ができりゃいい ずっと そう思ってきたからね。 359 00:28:29,342 --> 00:28:37,484 けど… ここへ来て 少し 料簡が変わったんだ。 360 00:28:37,484 --> 00:28:41,354 さっきの芝浜を聞いても思った。 361 00:28:41,354 --> 00:28:46,826 人ってぇのは 全て分かり合えるわけがない。 362 00:28:46,826 --> 00:28:50,697 それでも 人は共に暮らす。 363 00:28:50,697 --> 00:28:58,171 取るに足らねえ 詮ないことを ただ分け合うことが好きな生き物なんだ。 364 00:28:58,171 --> 00:29:03,471 だから 人は 一人にならないんじゃないか。 365 00:29:06,780 --> 00:29:10,650 やっと お前さんと 料簡が合ったな。 そうかぇ? 366 00:29:10,650 --> 00:29:13,653 人生初だ。 367 00:29:13,653 --> 00:29:16,353 よしとくれよ。 368 00:29:18,124 --> 00:29:21,795 助六師匠 お嬢さんも あちらのお部屋へ。 369 00:29:21,795 --> 00:29:24,795 おう 悪いね。 370 00:29:32,138 --> 00:29:35,809 (仲居)菊さん… ですか? はい。 371 00:29:35,809 --> 00:29:40,480 (仲居)ちょっと ええでしょうか? 先 行くぜ。 372 00:29:40,480 --> 00:29:45,780 他に お泊まりのお客様に どうしてもいうて言づかりまして。 373 00:30:09,509 --> 00:30:15,809 (みよ吉)やっと来てくれたのね。 ずいぶん遅いから待ちくたびれちゃった。 374 00:30:17,851 --> 00:30:20,753 (みよ吉)こっち見て。 375 00:30:20,753 --> 00:30:35,401 ・~ 376 00:30:35,401 --> 00:30:38,538 会いたかった…。 377 00:30:38,538 --> 00:30:43,409 ・~ 378 00:30:43,409 --> 00:30:49,182 迎えに来たんだ。 みんなで東京に帰ろう。 379 00:30:49,182 --> 00:30:53,882 嫌。 私は 菊さんと二人がいい。 380 00:30:55,555 --> 00:30:58,255 なんで…。 381 00:31:00,426 --> 00:31:05,365 あの人は 菊さんじゃないもの…。 382 00:31:05,365 --> 00:31:09,836 ・~ 383 00:31:09,836 --> 00:31:12,536 すまねぇ…。 384 00:31:14,173 --> 00:31:18,044 お前さんが こんなことをしちまったのも・ 385 00:31:18,044 --> 00:31:24,817 あの人が あんなふうに なっちまったのも…・ 386 00:31:24,817 --> 00:31:28,721 全部 全部 アタシのせいだ…。 387 00:31:28,721 --> 00:31:35,194 ・~ 388 00:31:35,194 --> 00:31:38,531 (みよ吉)そうよ。 389 00:31:38,531 --> 00:31:43,202 あの人と私 似てるの。・ 390 00:31:43,202 --> 00:31:48,875 あなたのせいで 人生が狂った人間同士。 391 00:31:48,875 --> 00:31:55,748 ・~ 392 00:31:55,748 --> 00:32:00,820 ねえ どうして来たの? 393 00:32:00,820 --> 00:32:04,490 来なけりゃ 何も変わらなかったのに・ 394 00:32:04,490 --> 00:32:09,162 わざわざ来たのは 何か変えたかったからなんでしょ? 395 00:32:09,162 --> 00:32:17,503 ・~ 396 00:32:17,503 --> 00:32:23,376 <ひとりで生きると あんなに固く心に決めたのに…・ 397 00:32:23,376 --> 00:32:29,515 なぜ 人の性分は こうも愚かなのでしょうか…> 398 00:32:29,515 --> 00:33:07,815 ・~ 399 00:33:17,030 --> 00:33:20,330 すごく きれい…。 400 00:33:22,168 --> 00:33:25,168 落ちたら大変ね。 401 00:33:36,182 --> 00:33:41,054 一緒に 死んじゃおっか。 402 00:33:41,054 --> 00:33:43,054 待て! 403 00:33:45,858 --> 00:33:50,196 あんまり遅ぇから胸騒ぎがしたんだ…。 404 00:33:50,196 --> 00:33:54,067 死のうなんざ 冗談でも言うんじゃねえ。 405 00:33:54,067 --> 00:33:58,071 来ないで! 何よ いまさら…。 406 00:33:58,071 --> 00:34:01,771 菊さんが来てたの 隠してたんでしょ! 407 00:34:07,680 --> 00:34:10,680 すまねぇ…。 408 00:34:12,819 --> 00:34:15,819 今ので 俺 腹 決めた。 409 00:34:18,691 --> 00:34:25,398 落語は やめて まっとうに働く。 410 00:34:25,398 --> 00:34:30,837 お前と小夏は…・ 411 00:34:30,837 --> 00:34:34,537 俺の宝だ。 412 00:34:38,511 --> 00:34:44,183 落語をやることで お前が不安になるってんなら…・ 413 00:34:44,183 --> 00:34:48,883 あんな浮き草稼業は 捨てたって かまわねえ。 414 00:34:51,524 --> 00:34:55,224 俺ぁ お前らの方が大事だ。 415 00:34:58,397 --> 00:35:01,397 やり直させてくれ! 416 00:35:14,147 --> 00:35:17,447 今日やった 芝浜…。 417 00:35:20,486 --> 00:35:24,486 あれは おめえが いなかったら できなかった。 418 00:35:28,361 --> 00:35:31,661 もう あれで十分だ。 419 00:35:35,501 --> 00:35:38,501 ありがとう…。 420 00:35:40,840 --> 00:35:46,540 <初めて見る 助六の涙でした> 421 00:35:48,181 --> 00:35:51,517 何よ いまさら…。 422 00:35:51,517 --> 00:35:55,188 なんで そんなこと言うの…。 423 00:35:55,188 --> 00:35:57,523 ユリエ! 424 00:35:57,523 --> 00:36:13,806 ・~ 425 00:36:13,806 --> 00:36:17,677 坊 はなせ! おめえまで落っこっちまう! 426 00:36:17,677 --> 00:36:22,815 はなせるわけねえだろ! 待ってろ 今 引き上げる! 427 00:36:22,815 --> 00:36:24,750 うっ…! 428 00:36:24,750 --> 00:36:28,154 ケガして落語できなくなっちまったら どうすんだ! 429 00:36:28,154 --> 00:36:30,154 知るかぃ! 430 00:36:31,824 --> 00:36:35,695 見ろよ こんなに震えてる。 431 00:36:35,695 --> 00:36:40,833 アンタ… ごめん… ごめんよ…。 432 00:36:40,833 --> 00:36:44,170 おめえの代わりに 俺が付いてってやる。 433 00:36:44,170 --> 00:36:47,073 こいつひとり地獄にゃ落とせねえ! 434 00:36:47,073 --> 00:36:50,843 嫌だ… なら アタシも連れてけ! 435 00:36:50,843 --> 00:36:52,843 ダメだ! 436 00:36:54,714 --> 00:36:57,414 すまん 坊…。 437 00:36:59,518 --> 00:37:02,121 頼んだよ。 438 00:37:02,121 --> 00:37:05,992 やめろ… やめろ…。 439 00:37:05,992 --> 00:37:08,292 やめろ…! 440 00:37:21,474 --> 00:37:27,346 <アタシは また 捨てられました。・ 441 00:37:27,346 --> 00:37:33,819 甘い夢を見すぎた罰だったのでしょうか> 442 00:37:33,819 --> 00:37:55,841 ・~ 443 00:37:55,841 --> 00:38:08,120 ・~ 444 00:38:08,120 --> 00:38:11,791 (会長)そうか…・ 445 00:38:11,791 --> 00:38:15,491 そりゃ 残念なこった。 446 00:38:17,129 --> 00:38:23,469 きかねえ野郎だったが いねえとなると ぽっかり穴があいたみてえだ。 447 00:38:23,469 --> 00:38:27,139 …で 娘さんは? 448 00:38:27,139 --> 00:38:30,476 アタシが引き取ります。 449 00:38:30,476 --> 00:38:34,776 松田さんが居てくれるので しばらくは師匠の家で。 450 00:38:36,349 --> 00:38:39,151 そうかい…。 451 00:38:39,151 --> 00:38:44,490 ・~ 452 00:38:44,490 --> 00:38:51,190 さておきだ。 今いる人間で 落語界を なんとかしなくちゃならねえ。 453 00:38:53,165 --> 00:38:56,165 八雲 襲名だ。 454 00:38:57,837 --> 00:39:00,837 (会長)今 しねえで いつする。 455 00:39:13,119 --> 00:39:18,991 [ 回想 ] 東京は芝の浜に まだ 河岸が ございました時分のお話で。・ 456 00:39:18,991 --> 00:39:23,763 「ちょいと お前さん 起きとくれよ。 お前さん」。・ 457 00:39:23,763 --> 00:39:27,133 「お嬢さん ぽっくりでございますか。 それは いけませんね。・ 458 00:39:27,133 --> 00:39:29,802 危ねえから 足元 気を付けてくださいね」。 459 00:39:29,802 --> 00:39:35,474 [ 回想 ] ・「鐘が ゴンとなりゃさ 上げ潮 南さあ」 460 00:39:35,474 --> 00:39:40,813 [ 回想 ] 「でもよ 雪が積もるってぇと 花が咲いたように見えらぁ。・ 461 00:39:40,813 --> 00:39:44,150 明るくなったらねぇ こりゃあ どうも いいもんだねぇ」。・ 462 00:39:44,150 --> 00:39:47,486 「先生! わ~ 開けてくれい!」。・ 463 00:39:47,486 --> 00:39:49,822 カラスカーで夜が明ける。・ 464 00:39:49,822 --> 00:39:53,159 おまんま炊こうと思ったんですが お米のありかが分かりません。・ 465 00:39:53,159 --> 00:39:55,494 「居残りを商売にしてるんですよ」。・ 466 00:39:55,494 --> 00:39:59,165 将来は 名人になる 八代目八雲を名乗る男の初高座。・ 467 00:39:59,165 --> 00:40:01,834 皆さんね よ~く この顔 覚えといて…。・ 468 00:40:01,834 --> 00:40:05,534 「また 夢になるといけねえ」。 469 00:40:09,175 --> 00:40:14,046 <落語を 葬り去ろう…・ 470 00:40:14,046 --> 00:40:17,516 助六に捨てられた今・ 471 00:40:17,516 --> 00:40:22,188 その助六が恋い焦がれた 八雲の名と共に・ 472 00:40:22,188 --> 00:40:25,524 落語と心中しよう…。・ 473 00:40:25,524 --> 00:40:31,824 その時 心底 そう思いました> 474 00:40:33,866 --> 00:40:39,205 上げ潮… 南さあ…。 475 00:40:39,205 --> 00:40:43,505 カラス ぱっと出て…。 476 00:40:45,544 --> 00:40:50,544 骨があると さいさいさい…。 477 00:40:52,218 --> 00:40:56,889 小夏さん 落語は よしなさい。 478 00:40:56,889 --> 00:41:00,759 東京なんて 父ちゃんがいなきゃ意味ない…。 479 00:41:00,759 --> 00:41:03,162 聞きわけなさい。 480 00:41:03,162 --> 00:41:07,500 いいかい これからは アタシが お前さんの保護者だ。 481 00:41:07,500 --> 00:41:12,171 子供と暮らすなんて 考えただけでも ゾッとするけど しかたない。 482 00:41:12,171 --> 00:41:16,871 学校までは出してやらぁ。 あとは好きにしな。 483 00:41:18,511 --> 00:41:22,848 アンタが来たから こうなったんだろ! べらぼうめ! 484 00:41:22,848 --> 00:41:27,848 そんな悪態 どこで覚えた。 父ちゃんだよ。 485 00:41:29,722 --> 00:41:32,858 落語やりたいんなら 出ておいき。 486 00:41:32,858 --> 00:41:37,158 身になるわけじゃなし 騒々しいのは ごめんだよ。 487 00:41:42,868 --> 00:41:47,206 なんでぇ 言いたいことがあるんなら・ 488 00:41:47,206 --> 00:41:49,542 はっきり言ってみな。 489 00:41:49,542 --> 00:41:52,444 出ていかない。 490 00:41:52,444 --> 00:41:56,144 いつか アンタを殺してやるから。 491 00:41:58,217 --> 00:42:04,023 そんな言葉… どこで覚えた。 492 00:42:04,023 --> 00:42:06,723 母さんだよ。 493 00:42:14,166 --> 00:42:17,836 殺してくれよ…。 494 00:42:17,836 --> 00:42:21,507 せいせいすらぁ…。 495 00:42:21,507 --> 00:42:24,843 <結局 アタシは たった独り・ 496 00:42:24,843 --> 00:42:28,180 こうして生きていくほかはないのだと・ 497 00:42:28,180 --> 00:42:32,851 この時分 腹の底から実感したのです> 498 00:42:32,851 --> 00:42:36,722 「命の火を こっちに つなぐことが できりゃ・ 499 00:42:36,722 --> 00:42:40,526 今度 これが おめえの寿命だ。・ 500 00:42:40,526 --> 00:42:46,226 ただ… 消えると死ぬよ」。 501 00:42:56,875 --> 00:43:03,482 <アタシの名は 有楽亭八雲…。・ 502 00:43:03,482 --> 00:43:09,782 本当の名など とうに忘れました>