1 00:01:36,619 --> 00:01:39,589 (与太郎) どうも ご無沙汰しておりやして。 2 00:01:39,589 --> 00:01:41,841 といっても こちとら 頭下げっぱなしで➡ 3 00:01:41,841 --> 00:01:44,727 どいだけ たったか なんてのは よく分かっちゃいねぇんですが。 4 00:01:44,727 --> 00:01:46,913 ははっ。 なんだって? 5 00:01:46,913 --> 00:01:48,965 春が過ぎて 夏も終わり➡ 6 00:01:48,965 --> 00:01:52,435 また冬になったってぇんだから たまげたね どうも。 7 00:01:52,435 --> 00:01:55,621 オイラ 1年も頭下げっぱなし ってことになんのかい? 8 00:01:55,621 --> 00:01:58,491 どうりで こちとら どっちが頭か足元か➡ 9 00:01:58,491 --> 00:02:01,327 分かんなくなっちまうってわけだ。 10 00:02:01,327 --> 00:02:04,180 あ痛ててて… 頭 しびれてきやがった。 11 00:02:04,180 --> 00:02:07,550 ん? こっちは足か。 12 00:02:07,550 --> 00:02:11,154 さて お待ちかねの「昭和元禄落語心中」。 13 00:02:11,154 --> 00:02:13,456 この話は 刑務所帰りの与太郎が➡ 14 00:02:13,456 --> 00:02:17,043 名人・八雲師匠に弟子入りする ってとこから始まりですが➡ 15 00:02:17,043 --> 00:02:20,463 この与太郎 名前のとおり どうしようもねぇバカで➡ 16 00:02:20,463 --> 00:02:24,117 なんと 師匠の大舞台の最中に 居眠り こきやがって➡ 17 00:02:24,117 --> 00:02:26,452 大失態をかましちまう。 18 00:02:26,452 --> 00:02:29,689 これには 師匠も怒り心頭。 19 00:02:29,689 --> 00:02:33,793 「与太郎や あたしの落語は よく眠れたかい?➡ 20 00:02:33,793 --> 00:02:35,812 お前さんは破門だよ」。 21 00:02:35,812 --> 00:02:40,199 「はっ! すいやせん 師匠! 破門だきゃあ勘弁してくれ。➡ 22 00:02:40,199 --> 00:02:42,985 このとおり」! 23 00:02:42,985 --> 00:02:45,037 泣きついて 置いてかれて➡ 24 00:02:45,037 --> 00:02:49,909 ようやく話を聞いてくれた師匠は おもむろに こう切り出した。 25 00:02:49,909 --> 00:02:52,829 「破門しない代わりに なあ 与太郎。➡ 26 00:02:52,829 --> 00:02:56,929 お前さんは あたしと三つの約束を しないといけないよ」。 27 00:02:58,367 --> 00:03:03,055 「一つ あたしと助六の落語を 全部覚えること。➡ 28 00:03:03,055 --> 00:03:08,945 二つ 助六とした 二人で 落語の生きる道を作ろうって約束➡ 29 00:03:08,945 --> 00:03:11,831 欠けちまった その穴 埋めること。➡ 30 00:03:11,831 --> 00:03:16,531 三つ 絶対に あたしより先に死なねぇこと」。 31 00:03:17,937 --> 00:03:21,057 どうして師匠が そんなことを言いだしたかって? 32 00:03:21,057 --> 00:03:23,976 実は 師匠には 一緒に落語を背負ってこうとした➡ 33 00:03:23,976 --> 00:03:27,563 兄弟子であり 莫逆の友ってやつがいた。 34 00:03:27,563 --> 00:03:30,533 その人の名前が助六。 35 00:03:30,533 --> 00:03:32,885 オイラとアネさんは そのときの話を➡ 36 00:03:32,885 --> 00:03:36,322 ひと晩かけて たっぷり 語ってもらった。 37 00:03:36,322 --> 00:03:39,826 それから 月日は流れに流れて10数年。 38 00:03:39,826 --> 00:03:42,361 師匠との約束を胸に 修業を積んだオイラは➡ 39 00:03:42,361 --> 00:03:47,049 念願かなって ようやく真打ちに してもらえるって話になった。 40 00:03:47,049 --> 00:03:49,469 ところがどっこい 浮かれたオイラに➡ 41 00:03:49,469 --> 00:03:53,055 アネさんが とんでもねぇことを言ってきた。 42 00:03:53,055 --> 00:03:55,958 「与太 あたしね 子供 産むんだ」。 43 00:03:55,958 --> 00:04:00,279 「えっ 子供!? どういうこってぇ アネさん。➡ 44 00:04:00,279 --> 00:04:03,649 父親は?」。 「言いたかないね。➡ 45 00:04:03,649 --> 00:04:06,569 この子は あたしが 一人で育てるって決めたんだ。➡ 46 00:04:06,569 --> 00:04:10,790 文句は言わせないよ」。 「そうかい。➡ 47 00:04:10,790 --> 00:04:15,428 なあ アネさん。 オイラ その子の父親になれねぇかい?」。 48 00:04:15,428 --> 00:04:18,447 なんも考えず つい 口をついて出た言葉。 49 00:04:18,447 --> 00:04:20,516 だが 悪い考えじゃねぇだろ? 50 00:04:20,516 --> 00:04:23,085 アネさんが 一人で 苦労するとこなんざ➡ 51 00:04:23,085 --> 00:04:25,888 見たかねぇし。 それだけ言ったら➡ 52 00:04:25,888 --> 00:04:28,491 今度は 師匠んとこに 行かなくちゃならねぇ。 53 00:04:28,491 --> 00:04:32,595 協会の会長になった師匠は 以前にも増して大忙しだが➡ 54 00:04:32,595 --> 00:04:34,647 オイラ どうしても 真打ちになる前に➡ 55 00:04:34,647 --> 00:04:36,999 頼みてぇことが あったんだ。 56 00:04:36,999 --> 00:04:39,318 先代の墓参りに 来ていた師匠。 57 00:04:39,318 --> 00:04:43,089 その墓前で オイラは 頭下げて頼み込んだ。 58 00:04:43,089 --> 00:04:47,089 「三代目 助六を 継がせてくだせぇ」ってな。 59 00:04:57,537 --> 00:05:00,590 ≫与太ちゃん おめでとう! ひひひっ。 60 00:05:00,590 --> 00:05:04,093 ≫やったな 与太郎! ≫よっ 真打ち! 61 00:05:04,093 --> 00:05:06,178 ≫きまってるね 与太! 62 00:05:06,178 --> 00:05:08,531 もう。 オイラ 名前が 変わるんだよ。 63 00:05:08,531 --> 00:05:11,467 はははっ! 助六って誰だよ。 64 00:05:11,467 --> 00:05:13,486 与太ちゃんは与太ちゃんだろ? 65 00:05:13,486 --> 00:05:16,372 お前にゃ与太郎が お似合いだよ。 66 00:05:16,372 --> 00:05:18,858 てめぇら いいかげんにしやがれ! 痛て…。 67 00:05:18,858 --> 00:05:21,928 (有楽亭八雲)これ 与太。 んん~。 68 00:05:21,928 --> 00:05:24,030 とっとと 先 進みな。 69 00:05:24,030 --> 00:05:26,349 お客様は あたしが見たくて 来てくだすってんだから。 70 00:05:26,349 --> 00:05:29,402 ≫八雲さ~ん! ≫きゃあ~ 八代目! 71 00:05:29,402 --> 00:05:31,420 はいはい こっちもかい。 72 00:05:31,420 --> 00:05:33,756 師匠がやりたかっただけでしょ。 73 00:05:33,756 --> 00:05:36,976 いいんだよ あたしが会長なんだから。 74 00:05:36,976 --> 00:05:40,229 んん~。 ≫いつまで止まってんだい? 75 00:05:40,229 --> 00:05:44,233 ≪与太ちゃん ほら 歩いて。 76 00:05:44,233 --> 00:05:48,220 与太郎 似合ってるよ! ≫おめでとさん! 77 00:05:48,220 --> 00:05:52,208 ≫与太郎 日本一! ≪よっ! 大統領! 78 00:05:52,208 --> 00:05:54,808 ≫頑張れ! ≪与太郎! 79 00:05:57,196 --> 00:06:01,417 みんな ありがとよ! ≪与太郎師匠のお通りだ! 80 00:06:01,417 --> 00:06:04,737 ≪頑張って~! ≫よかったね! 81 00:06:04,737 --> 00:06:08,537 ♬~ 82 00:06:12,228 --> 00:06:14,246 ありがとうございます どうも。 ≪(萬月)与太郎はん。 83 00:06:14,246 --> 00:06:16,649 ん? (萬月)お久しぶりどす。➡ 84 00:06:16,649 --> 00:06:19,168 この度は おめでとう。 85 00:06:19,168 --> 00:06:22,822 わあ~! 萬月兄さん! 出張 重なって➡ 86 00:06:22,822 --> 00:06:26,058 大初日に来られましたわ。 わざわざ すいやせん。 87 00:06:26,058 --> 00:06:29,946 いやいや おめでとうさん。 で 八雲師匠 いはる? 88 00:06:29,946 --> 00:06:32,498 あっ… すいやせん。 今 お一人で➡ 89 00:06:32,498 --> 00:06:34,550 今日のネタ さらってらっしゃいます。 90 00:06:34,550 --> 00:06:36,953 ほんなら 待たせてもらうわ。 91 00:06:36,953 --> 00:06:39,088 これな ご祝儀。 92 00:06:39,088 --> 00:06:41,390 えっ? いやいや いやいや こんなには頂けません…。 93 00:06:41,390 --> 00:06:43,390 ええねん。 94 00:06:45,761 --> 00:06:49,115 (萬月)あんたはん 思い切ったこと しはりましたな。 95 00:06:49,115 --> 00:06:52,635 なんやねんな 助六襲名て 今更。 96 00:06:52,635 --> 00:06:54,687 いやね 与太郎で真打ちじゃ➡ 97 00:06:54,687 --> 00:06:56,722 どうも まずいってぇし➡ 98 00:06:56,722 --> 00:06:59,508 ほかに縁のある名が あるわけじゃねぇし…。 99 00:06:59,508 --> 00:07:01,844 八雲師匠は なんて? 100 00:07:01,844 --> 00:07:06,532 へえ。 眉一つ動かさねぇで 好きにしろって そいだけ。 101 00:07:06,532 --> 00:07:09,618 はあ…。 歴史もない➡ 102 00:07:09,618 --> 00:07:12,054 大名跡でも 止め名でもねぇから➡ 103 00:07:12,054 --> 00:07:15,124 継ぐこと自体にゃ 問題はねぇってんですけど。 104 00:07:15,124 --> 00:07:18,561 せやな。 昔は熱烈なファンもおったけど➡ 105 00:07:18,561 --> 00:07:23,399 もう少ななってるし。 少しの写真と少しのレコード➡ 106 00:07:23,399 --> 00:07:28,087 それが全てや。 死んだら もう しゃべらしまへん。 107 00:07:28,087 --> 00:07:30,139 せやかて 与太郎はん…➡ 108 00:07:30,139 --> 00:07:32,458 あっ ちゃうわ 助六か。 109 00:07:32,458 --> 00:07:35,394 いや いいんですよ。 好きに呼んでください。 110 00:07:35,394 --> 00:07:38,481 ってか 兄さん 今 副業でもなさってるんで? 111 00:07:38,481 --> 00:07:40,883 随分 景気がいいんすね。 112 00:07:40,883 --> 00:07:43,452 当たり前や バブルやで! 113 00:07:43,452 --> 00:07:46,288 今な テレビの仕事さしてもろてんねん。 114 00:07:46,288 --> 00:07:50,109 もう えらいこっちゃで 忙しぃて身がもたんわ。 115 00:07:50,109 --> 00:07:54,714 でも そんなんじゃ 稽古の時間も 取れねぇんじゃねぇですか? 116 00:07:54,714 --> 00:07:58,034 実はな 落語家は もう 廃業してん。 117 00:07:58,034 --> 00:08:00,403 えっ!? 父が亡うなって➡ 118 00:08:00,403 --> 00:08:03,189 縛りも消えたら やる気も のうなった。 119 00:08:03,189 --> 00:08:06,726 才能あるとも思われへんし。 いや でも だからって…。 120 00:08:06,726 --> 00:08:10,129 それに 上方落語は もう あきまへんわ。 121 00:08:10,129 --> 00:08:14,050 漫才でもなんでも とにかく スピードが求められる時代に➡ 122 00:08:14,050 --> 00:08:17,050 誰が悠長に 落語なんか 聴いてくれはりますねや。 123 00:08:19,922 --> 00:08:23,392 関西は ついに 寄席も のうなってしもた。➡ 124 00:08:23,392 --> 00:08:27,029 東京かて もう ここ1軒しかあらへんねやろ? 125 00:08:27,029 --> 00:08:30,132 求められんようなったら 場所も のうなってく。 126 00:08:30,132 --> 00:08:32,632 笑いいうんは そういう運命やねん。 127 00:08:34,320 --> 00:08:37,020 落語は 共感を得るための芸です。 128 00:08:38,924 --> 00:08:41,360 笑わせるだけのもんじゃない。 129 00:08:41,360 --> 00:08:45,460 共感は 時代では変わらない。 だから 大丈夫。 130 00:08:47,466 --> 00:08:51,187 って 師匠が言ってました。 (萬月)なんやねんな! 131 00:08:51,187 --> 00:08:54,173 講釈か。 偉なったな。➡ 132 00:08:54,173 --> 00:08:57,860 そないな受け売りでも 実感が目に宿ってはる。 133 00:08:57,860 --> 00:08:59,895 それだけ付きっきりで 八雲師匠に➡ 134 00:08:59,895 --> 00:09:04,583 たたっ込まれたいうことやろ。 へへへっ。 135 00:09:04,583 --> 00:09:07,553 (萬月)僕は やっぱり 見込みないんかな。➡ 136 00:09:07,553 --> 00:09:10,689 結局 一回も 見てもらわれへんかったわ。➡ 137 00:09:10,689 --> 00:09:13,008 妬ましいな。 兄さん➡ 138 00:09:13,008 --> 00:09:15,728 落語なんて いつだって できんすから。 139 00:09:15,728 --> 00:09:17,830 そっち失敗したら 戻ってきてね。 140 00:09:17,830 --> 00:09:20,683 やかましいわ! ひひっ。 141 00:09:20,683 --> 00:09:22,718 八雲師匠 上がられます。 142 00:09:22,718 --> 00:09:26,305 ≫♬~(出囃子) 143 00:09:26,305 --> 00:09:28,657 あっ。 おっ。 144 00:09:28,657 --> 00:09:30,657 あっ 師匠。 145 00:09:33,479 --> 00:09:35,531 与太。 へい。 146 00:09:35,531 --> 00:09:43,322 ♬~ 147 00:09:43,322 --> 00:09:45,357 (一同)ご苦労さまです。 148 00:09:45,357 --> 00:09:48,327 パチパチパチ…(拍手) (観客)待ってました! 149 00:09:48,327 --> 00:09:50,362 (観客)八代目! (観客)八雲さ~ん。 150 00:09:50,362 --> 00:09:57,862 ♬~ 151 00:09:59,221 --> 00:10:03,092 ええ~ どうも。 本日は このような祝いの席の➡ 152 00:10:03,092 --> 00:10:08,092 大初日に お運びいただきまして 誠に感謝申し上げます。 153 00:10:09,465 --> 00:10:13,319 こういう日には あたくしが 真打ちになったときのことを➡ 154 00:10:13,319 --> 00:10:16,255 嫌でも 思い出しちまうってもんです。 155 00:10:16,255 --> 00:10:18,757 あんときも 大師匠含め➡ 156 00:10:18,757 --> 00:10:21,093 たくさんの方に 祝っていただきました。 157 00:10:21,093 --> 00:10:24,346 (萬月) 客席の空気が 丸ごと変わった。➡ 158 00:10:24,346 --> 00:10:28,951 動いて しゃべらはるだけで こんなに 人を満足させる。➡ 159 00:10:28,951 --> 00:10:31,520 噺家の夢や。 160 00:10:31,520 --> 00:10:34,373 みんな こんな存在になりたぁて➡ 161 00:10:34,373 --> 00:10:36,692 日々 精進しはるんや。➡ 162 00:10:36,692 --> 00:10:39,862 噺家は 老いてからが華や言うけど➡ 163 00:10:39,862 --> 00:10:45,017 間違いなく 八代目は 今が いちばんお美しい。➡ 164 00:10:45,017 --> 00:10:47,820 それを この目で見れる。➡ 165 00:10:47,820 --> 00:10:50,220 こんなぜいたく あらしまへん。 166 00:10:53,209 --> 00:10:56,512 ええ~ まさか てめぇの弟子の➡ 167 00:10:56,512 --> 00:11:00,282 しかも あんな与太郎の膝前 務める日が来るなんざ➡ 168 00:11:00,282 --> 00:11:02,318 ついぞ思いやしませんでしたが…。 169 00:11:02,318 --> 00:11:05,087 (観客たち)はははっ。 170 00:11:05,087 --> 00:11:09,124 その与太郎が 助六を継ごうってんですから。 171 00:11:09,124 --> 00:11:12,494 あたくしも 先代から ちょうだいした名前ですから➡ 172 00:11:12,494 --> 00:11:14,680 なんとはなしに分かりますが➡ 173 00:11:14,680 --> 00:11:17,182 結局は先代と おんなじこと やったって➡ 174 00:11:17,182 --> 00:11:20,252 つまんねぇわけです。 継ごうが継ぐまいが➡ 175 00:11:20,252 --> 00:11:22,288 何も変わりゃしない。 176 00:11:22,288 --> 00:11:25,190 それが噺家の定めだってこたぁ➡ 177 00:11:25,190 --> 00:11:28,010 あの人だって 分かってるはず。 178 00:11:28,010 --> 00:11:30,229 あれ オイラのこと 言ってくれてんのかな? 179 00:11:30,229 --> 00:11:32,248 ふんっ。 180 00:11:32,248 --> 00:11:36,252 何商売でも 易しいという商売は ございませんで。 181 00:11:36,252 --> 00:11:38,971 とりわけ難しいのが 幇間。 182 00:11:38,971 --> 00:11:41,991 つまり 太鼓持ちでございますな。 183 00:11:41,991 --> 00:11:44,843 「おや お梅ちゃん おかえんなさい。➡ 184 00:11:44,843 --> 00:11:48,948 へへっ。 今日は 鬢の具合がよろしくて…。➡ 185 00:11:48,948 --> 00:11:51,483 なんだい。 スゥ~っと向こうの部屋へ➡ 186 00:11:51,483 --> 00:11:55,437 入っちった。 けど いい女だなぁ。➡ 187 00:11:55,437 --> 00:11:59,291 俺は4年半 岡惚れしてんだ。 なあ。➡ 188 00:11:59,291 --> 00:12:01,427 こりゃどうも お梅ちゃん。➡ 189 00:12:01,427 --> 00:12:05,397 鏡台の前で 諸肌脱いで。 お化粧ですか?」。 190 00:12:05,397 --> 00:12:07,449 「そっち 行ってらっしゃいよ。➡ 191 00:12:07,449 --> 00:12:10,102 男の人の来る所じゃないわよ」。 192 00:12:10,102 --> 00:12:12,702 「へへへっ。 なんですよ もう」。 193 00:12:14,757 --> 00:12:16,942 「ねえ 一八っつぁん。➡ 194 00:12:16,942 --> 00:12:20,095 いつか 寝ずの番をしてくだすったわね。➡ 195 00:12:20,095 --> 00:12:24,066 あの親切が 本当にありがたいと思ってるの。➡ 196 00:12:24,066 --> 00:12:26,468 あたしゃね 芸人のあんたと➡ 197 00:12:26,468 --> 00:12:29,588 色だの恋だのってぇ気には なれないけれど➡ 198 00:12:29,588 --> 00:12:34,126 真剣だってぇんなら 嫁にもらっていただきたいわ」。 199 00:12:34,126 --> 00:12:36,962 「えっ 本当ですかい?」。 200 00:12:36,962 --> 00:12:39,748 「いい? 今晩 2時を打ったら➡ 201 00:12:39,748 --> 00:12:41,817 あたしの部屋へ来てちょうだい」。 202 00:12:41,817 --> 00:12:43,852 「ようがす。➡ 203 00:12:43,852 --> 00:12:47,823 へへへっ うれしいな。 ついに お梅ちゃんと…。➡ 204 00:12:47,823 --> 00:12:51,427 あっ? あっ どうも 大将」。 205 00:12:51,427 --> 00:12:54,229 「なんだ 一八 そんなに浮かれて。➡ 206 00:12:54,229 --> 00:12:56,882 柳橋で夜っぴぃて騒ごうや」。 207 00:12:56,882 --> 00:12:59,982 「あっ いや 大将 今晩ばかりは…」。 208 00:13:02,271 --> 00:13:06,191 へへへっ。 ≫(松田)助六師匠。➡ 209 00:13:06,191 --> 00:13:08,410 お嬢さん こっそり いらしてましたよ。 210 00:13:08,410 --> 00:13:12,247 (小夏)松田さん よして。 ちょっと寄ってみただけだってば。 211 00:13:12,247 --> 00:13:14,247 アネさん 来てたの? (萬月)えっ! 212 00:13:15,834 --> 00:13:17,853 (萬月)うそやわ 小夏はん!➡ 213 00:13:17,853 --> 00:13:19,955 今度こそ 口説こう思うて 来たのに。➡ 214 00:13:19,955 --> 00:13:21,990 いつ結婚しはったん?➡ 215 00:13:21,990 --> 00:13:25,761 旦那は誰なん? どんな男やの? 216 00:13:25,761 --> 00:13:27,796 オイラの跡継ぎ。 (萬月)あっ…。 217 00:13:27,796 --> 00:13:30,282 四代目 助六です。 (小夏)バッ…。 218 00:13:30,282 --> 00:13:33,218 にひっ。 (萬月)うそや!➡ 219 00:13:33,218 --> 00:13:35,871 妬ましいわ!➡ 220 00:13:35,871 --> 00:13:37,871 なんで こんなもんに 持って…。 221 00:13:41,760 --> 00:13:44,096 アネさ~ん! 222 00:13:44,096 --> 00:13:46,131 (小夏) 紋付きで うろつくんじゃないよ! 223 00:13:46,131 --> 00:13:48,417 大初日に 主役が抜けて どうすんの。➡ 224 00:13:48,417 --> 00:13:51,920 打ち上げ あんだろ? 松田さんに頼んできた。 225 00:13:51,920 --> 00:13:54,857 送って すぐ戻りゃ大丈夫でぇ。 226 00:13:54,857 --> 00:13:56,892 はい。 (小夏)あっ。 227 00:13:56,892 --> 00:13:59,728 萬月の兄さんが これ着せてやれって。 228 00:13:59,728 --> 00:14:01,764 どうしたんでぇ こんな薄着で? 229 00:14:01,764 --> 00:14:04,400 買い物ついでに 気になって入っちゃったのよ。 230 00:14:04,400 --> 00:14:08,220 あんたが あることないこと 吹聴するから…➡ 231 00:14:08,220 --> 00:14:11,023 すっかり 行きづらくなっちゃったじゃない。 232 00:14:11,023 --> 00:14:15,160 だって 一緒になってくれんだろ? 233 00:14:15,160 --> 00:14:18,997 今は披露目中だから 終わったら 役所行って➡ 234 00:14:18,997 --> 00:14:21,683 式は アネさんが やりてぇってんなら やって…。 235 00:14:21,683 --> 00:14:24,636 やっぱ やめた。 ええ~!? 236 00:14:24,636 --> 00:14:27,723 なんで~? (小夏)あんたとじゃ➡ 237 00:14:27,723 --> 00:14:29,942 あんまりにも不安すぎんのよ。➡ 238 00:14:29,942 --> 00:14:33,495 金ないし バカすぎるし 芸人だし 未来もないし。➡ 239 00:14:33,495 --> 00:14:36,131 考えれば考えるほど やっぱ無理。 240 00:14:36,131 --> 00:14:39,568 んんっ! まだるっこしいな アネさんは! 241 00:14:39,568 --> 00:14:42,070 すぐ悪い方に考える。 242 00:14:42,070 --> 00:14:46,391 (小夏)あんたのそれは哀れみよ。 同情なんて勘弁して。➡ 243 00:14:46,391 --> 00:14:48,494 あんたなんかに 何が分かるんだい。 244 00:14:48,494 --> 00:14:51,964 哀れんじゃいねぇよ! けどな➡ 245 00:14:51,964 --> 00:14:54,700 これだって 立派な情だ。 (小夏)あっ。 246 00:14:54,700 --> 00:14:58,687 同じ屋根の下で ず~っと 今まで 世話んなって 一緒に暮らして➡ 247 00:14:58,687 --> 00:15:02,658 そいで湧いてきたこれが 情以外のなんだってんだ。 248 00:15:02,658 --> 00:15:05,327 色っぽさのかけらもねぇ。 惚れた腫れたのとは➡ 249 00:15:05,327 --> 00:15:09,581 ちと違うかもしれねぇ。 なんの情だか分かんねぇけどよ➡ 250 00:15:09,581 --> 00:15:13,181 とにかく アネさんは オイラにだって大事なんだ。 251 00:15:15,621 --> 00:15:19,558 そんな苦ぇ顔で暮らしてたら どん底になっちゃうよ。 252 00:15:19,558 --> 00:15:24,346 オイラといりゃあ 大丈夫! 絶対 毎日 笑わしてやりやすから。 253 00:15:24,346 --> 00:15:27,950 どうせ 今までだってよ 一緒に暮らしてたんだし➡ 254 00:15:27,950 --> 00:15:30,586 そんなに 生活が変わるってわけでもねぇし➡ 255 00:15:30,586 --> 00:15:32,888 なんたって オイラ 真打ちに…。 (小夏)与太…。 256 00:15:32,888 --> 00:15:35,524 へっ? 257 00:15:35,524 --> 00:15:38,924 ありがと…。 へっ? 258 00:15:40,546 --> 00:15:43,182 えっ? えっ… あっ あっ…。 259 00:15:43,182 --> 00:15:45,367 おっ おおっ… おお おお…。 260 00:15:45,367 --> 00:15:48,754 んんっ んんっ… んん~! (小夏)ああ~ 寒っ! 261 00:15:48,754 --> 00:15:51,790 い… 行くよ。 んん~~! 262 00:15:51,790 --> 00:15:54,990 ま ま… 待って アネさん! 263 00:17:59,635 --> 00:18:01,653 「おい 半公! んなとこで寝てねぇで起きろぃ!➡ 264 00:18:01,653 --> 00:18:03,855 床へ来て 寝るなんざ よっぽどだな」。 265 00:18:03,855 --> 00:18:07,025 「んなこと言わねぇでさ 寝かしといてくれよ。➡ 266 00:18:07,025 --> 00:18:10,362 オイラ ここんとこ 年増にせめられて寝てねぇんだ。➡ 267 00:18:10,362 --> 00:18:13,715 ふぁ~あ…」。 「何? 年増!?➡ 268 00:18:13,715 --> 00:18:15,751 てめぇ 詳しく聞かせろぃ!」。 269 00:18:15,751 --> 00:18:19,087 「おう 言ってやらぁ。 俺が 芝居 行ったときのことだ。➡ 270 00:18:19,087 --> 00:18:22,524 升席に 女が2人 座ってる。 そしたら そのお嬢さん➡ 271 00:18:22,524 --> 00:18:25,527 『おにいさ~ん ここへ来て あたくしの代わりに➡ 272 00:18:25,527 --> 00:18:28,230 音羽屋! って 声 掛けてくださる~?』。➡ 273 00:18:28,230 --> 00:18:30,248 女が ツンツ~ンっと 合図してきたから➡ 274 00:18:30,248 --> 00:18:32,551 こちとら もう とっときのでけぇ声で…➡ 275 00:18:32,551 --> 00:18:35,987 音羽屋! 音羽屋! 音羽屋! 音羽屋!➡ 276 00:18:35,987 --> 00:18:40,087 お~たおたおたおた… 音羽屋~~!」。 277 00:18:44,463 --> 00:18:47,249 ≫(樋口)与太郎君。 ん? へい。 278 00:18:47,249 --> 00:18:50,035 (樋口) ああ~ ごめん 今は助六か。➡ 279 00:18:50,035 --> 00:18:53,488 しばらく前に一度 君の高座を見たことあってね。➡ 280 00:18:53,488 --> 00:18:56,792 「与太郎」なんて すごい芸名だから覚えてたんだ。 281 00:18:56,792 --> 00:18:59,695 へへっ 見たまんまの名前でしょ? 282 00:18:59,695 --> 00:19:03,014 おかげで 今でも みんなからは 「与太郎 与太郎」って呼ばれてます。 283 00:19:03,014 --> 00:19:07,819 (樋口)はははっ。 それよりさ すんごくよかったよ 落語。 284 00:19:07,819 --> 00:19:10,155 ほんとですかい? ああ。 285 00:19:10,155 --> 00:19:13,058 悪い虫がうずいて 久々に寄席なんて来たけど➡ 286 00:19:13,058 --> 00:19:17,162 まだ こんなのが 残ってたんだ。 感激しました。 287 00:19:17,162 --> 00:19:20,148 へへへっ! そう言ってくれると ありがてぇや。 288 00:19:20,148 --> 00:19:22,250 「助六」なんて懐かしい名前➡ 289 00:19:22,250 --> 00:19:25,570 どんな噺家さんが 継いだんだろうと思ったけど➡ 290 00:19:25,570 --> 00:19:28,857 先代に劣らず 君も面白いね。 えっ? 291 00:19:28,857 --> 00:19:31,593 旦那 もしかして 助六 知ってんのかい? 292 00:19:31,593 --> 00:19:33,945 (樋口)昔 何度か高座を見たよ。 293 00:19:33,945 --> 00:19:36,715 我が強いけど いい噺家だった。 ええ~! 294 00:19:36,715 --> 00:19:40,535 助六の高座 見たの!? こりゃあ すげぇ! 295 00:19:40,535 --> 00:19:43,088 なあ 今度 その話 聞かせてくれよ。 296 00:19:43,088 --> 00:19:47,058 いいよ。 今度と言わず よかったら どうかな 今晩? 297 00:19:47,058 --> 00:19:49,094 えっ? ひひっ! 298 00:19:49,094 --> 00:19:51,263 (樋口) 与太さん 贔屓にしちゃうよ? 299 00:19:51,263 --> 00:19:53,281 オールオッケー! 300 00:19:53,281 --> 00:19:56,284 ♬~(三味線の演奏「奴さん」) 301 00:19:56,284 --> 00:19:59,404 (芸者)♬ エー 奴さん 302 00:19:59,404 --> 00:20:03,325 (芸者)♬ どちら行く 303 00:20:03,325 --> 00:20:05,360 (与太郎・芸者) ♬ ハア コリャコリャ 304 00:20:05,360 --> 00:20:09,381 (芸者)♬ 旦那 お迎えに (樋口・ハミング「奴さん」)♬ ふふん… 305 00:20:09,381 --> 00:20:13,468 (芸者)♬ さても 寒いのに (樋口)♬ ふ~んふんふん… 306 00:20:13,468 --> 00:20:15,587 (芸者)♬ 供揃え 307 00:20:15,587 --> 00:20:17,622 (与太郎・芸者)♬ 雪の 308 00:20:17,622 --> 00:20:23,345 (芸者)♬ 降る夜も 風の日も サテ 309 00:20:23,345 --> 00:20:27,132 (芸者・与太郎)♬ お供はつらいね 310 00:20:27,132 --> 00:20:30,932 ♬~(三味線の演奏「奴さん」) 311 00:20:33,188 --> 00:20:37,425 お粗末さまでした。 すごい すごい! 大したもんだ。➡ 312 00:20:37,425 --> 00:20:40,095 踊れる芸人なんて 近頃 珍しいよ。 313 00:20:40,095 --> 00:20:42,564 師匠に たたっ込まれまして。 314 00:20:42,564 --> 00:20:44,683 先生こそ 大したもんだ。 315 00:20:44,683 --> 00:20:47,352 演芸のこと べらぼうに詳しいんだな。 316 00:20:47,352 --> 00:20:51,189 嫌だ 与太ちゃん。 知らないで来んのかい この子は。 317 00:20:51,189 --> 00:20:53,959 えっ? (芸者)樋口栄助センセ。➡ 318 00:20:53,959 --> 00:20:57,162 通称・ひーさん。 売れっ子作家さんなのよ。 319 00:20:57,162 --> 00:20:59,998 えっ! そうだったのかい? (樋口)ははっ。➡ 320 00:20:59,998 --> 00:21:02,150 そんな大層なもんじゃないがね。 321 00:21:02,150 --> 00:21:05,086 (芸者) いい旦那さんに見込まれたわねぇ。 322 00:21:05,086 --> 00:21:07,086 贔屓にしてもらいなさいな。 323 00:21:08,690 --> 00:21:11,710 先生 うちの芸者も また呼んでね。 324 00:21:11,710 --> 00:21:14,913 芸者は もう こりごりだ。 お金はかかるし➡ 325 00:21:14,913 --> 00:21:18,083 奥さんが 嫌な顔するんだもんなぁ。➡ 326 00:21:18,083 --> 00:21:21,653 今日も ふらっと 寄席へ逃げ込んでみてよかったよ。 327 00:21:21,653 --> 00:21:23,972 また いい落語に会えた。 328 00:21:23,972 --> 00:21:27,642 与太さん まあ まあ 飲まんかね。 うへぇ~! 329 00:21:27,642 --> 00:21:29,694 カコン(鹿威しの音) 330 00:21:29,694 --> 00:21:32,163 (樋口) 文化の寿命って知ってますか? 331 00:21:32,163 --> 00:21:34,199 えっ? 解説のいらない➡ 332 00:21:34,199 --> 00:21:39,304 大衆文化としての寿命は だいたい 50年だっていわれてます。 333 00:21:39,304 --> 00:21:41,356 それ以降は 残ったとしても➡ 334 00:21:41,356 --> 00:21:45,193 大衆のものでは なくなってしまうんだって。 335 00:21:45,193 --> 00:21:47,779 けれど 落語は生まれて300年。 336 00:21:47,779 --> 00:21:50,315 そして まだ 大衆に寄り添っている。 337 00:21:50,315 --> 00:21:52,315 どうしてでしょうね? 338 00:21:53,718 --> 00:21:58,256 難しすぎて分かんねぇな。 (樋口)あっは~ ですよね。 339 00:21:58,256 --> 00:22:02,627 実は昔 八雲師匠に 弟子入りを 断られたことがあるんだ。 340 00:22:02,627 --> 00:22:05,430 ええ~! いや~ 若かった。 341 00:22:05,430 --> 00:22:08,266 好きすぎて 空回ってたんだ。➡ 342 00:22:08,266 --> 00:22:13,722 断られて ヤケになって そこから 落語を断ってしまった。➡ 343 00:22:13,722 --> 00:22:16,708 あの人の落語は 圧倒的すぎて➡ 344 00:22:16,708 --> 00:22:21,008 僕なんか弟子入りしたって 考え過ぎて 絶望してたと思う。 345 00:22:22,464 --> 00:22:26,618 けど あの時期 少しでも 弟子を取ってくれてたら➡ 346 00:22:26,618 --> 00:22:30,038 現状の落語界は もう少し よかったはず。 347 00:22:30,038 --> 00:22:34,492 この状況は あの人の意志で 作られたかのようだ。➡ 348 00:22:34,492 --> 00:22:37,192 まるで 落語界の死神だよ。➡ 349 00:22:38,563 --> 00:22:40,982 その死神が どうして 君のような未練を➡ 350 00:22:40,982 --> 00:22:44,782 今更 残そうと思ったのか 非常に興味深い。 351 00:22:46,988 --> 00:22:50,575 君は 落語で 師匠を 超えられる日が来ると思う? 352 00:22:50,575 --> 00:22:54,713 天地が ひっくり返っても無理! だよね。 353 00:22:54,713 --> 00:22:58,350 惚れて弟子になるって そうだもの。 ひひっ。 354 00:22:58,350 --> 00:23:00,385 古典に挑むってことは➡ 355 00:23:00,385 --> 00:23:04,873 あまたの名人 大師匠が 全身全霊で磨き上げたものを➡ 356 00:23:04,873 --> 00:23:08,443 否定して 更新しなくてはいけない ということ。➡ 357 00:23:08,443 --> 00:23:11,663 それを 今 君がやる利点は? 358 00:23:11,663 --> 00:23:14,582 う~ん… ねぇなぁ。 359 00:23:14,582 --> 00:23:17,352 (樋口)ふっ。 けど 君が➡ 360 00:23:17,352 --> 00:23:20,789 大名人たちに勝てるところが 一つだけある。➡ 361 00:23:20,789 --> 00:23:24,275 君は 生の高座を 客に見せられる。 362 00:23:24,275 --> 00:23:28,075 それが いかに強みか 落語家さんなら すぐ分かるだろ? 363 00:23:29,898 --> 00:23:33,068 やっぱり 落語は 生で見てこその芸。 364 00:23:33,068 --> 00:23:36,621 伝わる情報量が違う。 僕は そこにこそ➡ 365 00:23:36,621 --> 00:23:39,824 落語の魅力の秘密が あると思うよ。➡ 366 00:23:39,824 --> 00:23:42,677 現代の落語だって 捨てたもんじゃないよ。➡ 367 00:23:42,677 --> 00:23:47,115 口伝の芸の弱点は 資料が ほとんど残ってないことだ。 368 00:23:47,115 --> 00:23:49,784 けど 僕らには たくさんの記録がある。➡ 369 00:23:49,784 --> 00:23:54,823 明治 大正 戦前の落語家には かなわなかった夢だ。➡ 370 00:23:54,823 --> 00:23:57,792 伝承に 血筋が必要なわけでもない。➡ 371 00:23:57,792 --> 00:24:02,013 名人や伝統を失う代わりに しがらみもなくなった。➡ 372 00:24:02,013 --> 00:24:04,713 落語は今 かつてなく自由だ。➡ 373 00:24:06,234 --> 00:24:09,320 ただし 守ってばかりでもいけない。➡ 374 00:24:09,320 --> 00:24:11,606 古典を しっかり受け継ぐこと。➡ 375 00:24:11,606 --> 00:24:14,192 それと 新しい落語を作り出すこと。 376 00:24:14,192 --> 00:24:17,746 その両方が大事だと 僕なんかは思うがね。 377 00:24:17,746 --> 00:24:20,281 どうだい 与太郎君! 僕と一緒に➡ 378 00:24:20,281 --> 00:24:22,317 新作落語を作ってみないか? 379 00:24:22,317 --> 00:24:26,154 ♬~ 380 00:24:26,154 --> 00:24:29,774 先生は物知りで すげぇな。 バン!(突っ伏す音) 381 00:24:29,774 --> 00:24:33,478 (樋口)何それ…。 先生の話は面白ぇ! 382 00:24:33,478 --> 00:24:36,598 落語が好きだって伝わってくる。 (樋口)ふん…。 383 00:24:36,598 --> 00:24:39,298 とりあえず 師匠に聞いてみっからよ。 384 00:24:41,286 --> 00:24:43,321 (信之助) ああ~ はははっ あはははっ! 385 00:24:43,321 --> 00:24:46,291 ふふふっ。 (信之助)ああ~ ああ~! 386 00:24:46,291 --> 00:24:48,760 あっ 師匠。 ざいや~すっ! 387 00:24:48,760 --> 00:24:52,460 なんだい 来てたのかぇ。 おはようさん。 388 00:24:54,933 --> 00:24:57,736 小夏さんは? お使いで出かけるってんで➡ 389 00:24:57,736 --> 00:25:00,789 留守番してます。 ちょうどよかった。 390 00:25:00,789 --> 00:25:02,889 肩 さすっとくれよ。 391 00:25:10,415 --> 00:25:15,086 師匠は 新作落語ってのは どう思ってますか? 392 00:25:15,086 --> 00:25:17,086 邪道。 393 00:25:18,923 --> 00:25:22,460 なんだぇ その面。 やりてぇってのかい? 394 00:25:22,460 --> 00:25:25,864 いや… へえ。 実は ちょっと…。 395 00:25:25,864 --> 00:25:29,467 なんでも あたしの顔色 うかがうんじゃありませんよ。 396 00:25:29,467 --> 00:25:33,605 真打ちなんですから ご自分の責任で おやんなさい。 397 00:25:33,605 --> 00:25:36,825 へい。 それから あの…➡ 398 00:25:36,825 --> 00:25:40,095 ア… アネさんとのことですけど。 399 00:25:40,095 --> 00:25:43,895 んん~? そりゃ あたしに 断ることじゃねぇだろ。 400 00:25:45,984 --> 00:25:50,922 ふぅ~…。 あの子が どう生きようと自由。 401 00:25:50,922 --> 00:25:54,275 けどね お前さんのことは どこに出したって➡ 402 00:25:54,275 --> 00:25:59,881 恥ずかしくない弟子に 育て上げたてぇ自負はありますよ。 403 00:25:59,881 --> 00:26:02,650 それにあたり 一つ お願いがありやす! 404 00:26:02,650 --> 00:26:05,186 二つ目を機に ほかで 暮らしておりましたが➡ 405 00:26:05,186 --> 00:26:07,222 また この家に ご厄介になっても➡ 406 00:26:07,222 --> 00:26:10,041 よろしいでしょうか? 407 00:26:10,041 --> 00:26:12,477 オイラ 家族になりてぇんだ➡ 408 00:26:12,477 --> 00:26:15,780 ずっと一人で生きてきた アネさんと師匠の。 409 00:26:15,780 --> 00:26:19,734 それにはさ また みんなで暮らさなくっちゃ。 410 00:26:19,734 --> 00:26:23,037 助六を名乗ったからって 代わりになんて なれっこねぇ。 411 00:26:23,037 --> 00:26:25,690 でも いつか 名前がなじみゃ➡ 412 00:26:25,690 --> 00:26:28,710 二人ん中の助六を きっと変えられる。 413 00:26:28,710 --> 00:26:31,095 師匠が あの話を 教えてくれたってことは➡ 414 00:26:31,095 --> 00:26:34,415 それを託されたんだと 思ってるよ。 415 00:26:34,415 --> 00:26:37,519 そのための三つの約束だ。 416 00:26:37,519 --> 00:26:40,155 「師匠より 先に死なない」。 417 00:26:40,155 --> 00:26:42,757 「二人の落語を 全部覚える」。 418 00:26:42,757 --> 00:26:45,057 「落語の寿命を オイラが延ばす」! 419 00:26:46,494 --> 00:26:50,081 驚ぇた。 10年も前の話だ。 420 00:26:50,081 --> 00:26:53,618 覚えてたのかぇ? 当ったり前です。 421 00:26:53,618 --> 00:26:56,454 ♬~ 422 00:26:56,454 --> 00:26:59,757 言っとくけど あたしゃ やっぱり落語なんかは➡ 423 00:26:59,757 --> 00:27:02,343 汚れる前に きれいさっぱり なくなった方が➡ 424 00:27:02,343 --> 00:27:04,629 いいと思ってるよ。 425 00:27:04,629 --> 00:27:09,329 落語と心中… それが あたしの定めさ。 426 00:27:12,036 --> 00:27:14,088 そうはさせません。 427 00:27:14,088 --> 00:27:18,743 じゃあ 与太郎 あたしも 一つだけ聞いていいかい? 428 00:27:18,743 --> 00:27:21,546 へい。 お前さん➡ 429 00:27:21,546 --> 00:27:23,946 なんのために 落語をやるんだぇ? 430 00:27:25,316 --> 00:27:27,685 へえ そりゃあもう➡ 431 00:27:27,685 --> 00:27:29,685 落語のためです。 432 00:29:03,631 --> 00:29:11,956 ♬~ 433 00:29:11,956 --> 00:29:17,795 ♬~ 434 00:29:17,795 --> 00:29:23,968 次回 「昭和元禄落語心中 ー助六再び篇ー」➡ 435 00:29:23,968 --> 00:29:26,020 第2話。 436 00:29:26,020 --> 00:29:29,420 どうぞ ご贔屓 ご鞭撻のほどを。