1 00:01:35,383 --> 00:01:54,402 ♬~ 2 00:01:54,402 --> 00:02:14,372 ♬~ 3 00:02:14,372 --> 00:02:29,170 ♬~ 4 00:02:29,170 --> 00:02:33,491 ♬~ 5 00:02:33,491 --> 00:02:41,791 ♬~ 6 00:02:45,520 --> 00:03:02,920 ♬~ 7 00:03:04,372 --> 00:03:06,641 (店員)いらっしゃいませ。 ぜひ この機会に…。➡ 8 00:03:06,641 --> 00:03:08,676 いらっしゃいませ。 9 00:03:08,676 --> 00:03:11,713 (アニキ) おやじが実刑 決まったんだ。➡ 10 00:03:11,713 --> 00:03:13,813 懲役6年だってよ。 11 00:03:15,834 --> 00:03:18,069 (与太郎)6年ってったら うちの坊が➡ 12 00:03:18,069 --> 00:03:20,338 この春に小学校へ上がってよ➡ 13 00:03:20,338 --> 00:03:22,390 出てくる頃には中坊だぜ。 14 00:03:22,390 --> 00:03:24,425 長ぇよな…。 15 00:03:24,425 --> 00:03:27,629 でも まあ 元気でいりゃ また会えるんだしよ。 16 00:03:27,629 --> 00:03:30,832 どこ入るって? (アニキ)鈴ヶ森刑務所。 17 00:03:30,832 --> 00:03:33,101 おっかねぇとこだな。 18 00:03:33,101 --> 00:03:36,654 (アニキ)はぁ~。 なあ 与太公➡ 19 00:03:36,654 --> 00:03:39,374 時代ってのは終わるんだな。➡ 20 00:03:39,374 --> 00:03:42,774 あの人が いなくなりゃ 何もかもが変わっちまうんだよ。 21 00:03:45,497 --> 00:03:50,101 コツ コツ コツ…(足音) 22 00:03:50,101 --> 00:03:53,171 ん? (信之助)与太ちゃん おかえり! 23 00:03:53,171 --> 00:03:55,440 おっ! 坊ちゃん お出かけかい? 24 00:03:55,440 --> 00:03:57,475 (信之助)じいじと銭湯行くの。 25 00:03:57,475 --> 00:04:00,578 (有楽亭八雲)松田さんが 行ってこいって うるさいんだよ。 26 00:04:00,578 --> 00:04:03,047 (松田) ちったぁ動いてもらわねぇと。 27 00:04:03,047 --> 00:04:07,435 オイラも お相伴しよっかな。 そいつぁ頼もしい。 28 00:04:07,435 --> 00:04:09,804 ランドセル置いてけば? やだ! 29 00:04:09,804 --> 00:04:12,904 ああ~ はいはい。 いいよ 別に。 はぁ…。 30 00:04:14,626 --> 00:04:18,930 うっ ああっ ああ~! 31 00:04:18,930 --> 00:04:21,649 最高だぁ~! はははっ。 32 00:04:21,649 --> 00:04:25,036 地獄の釜みてぇな声 およしなさい。 33 00:04:25,036 --> 00:04:27,036 あい すいやせん。 34 00:04:28,973 --> 00:04:31,326 今日 アニキに会ったんすよ。 35 00:04:31,326 --> 00:04:34,345 親分さん オツトメ6年だそうで。 36 00:04:34,345 --> 00:04:37,632 決まったかぇ。 随分長いね。 37 00:04:37,632 --> 00:04:40,101 鈴ヶ森刑務所だそうです。 38 00:04:40,101 --> 00:04:43,137 オイラ 今度 慰問に行ってみようと思って。 39 00:04:43,137 --> 00:04:46,124 よくやってるんで すぐに話 通りますよ。 40 00:04:46,124 --> 00:04:48,726 そんなことをやってたんかぇ。 41 00:04:48,726 --> 00:04:51,729 なんせ オイラが 師匠に出会ったきっかけですから。 42 00:04:51,729 --> 00:04:54,415 恩返ししてんすよ。 43 00:04:54,415 --> 00:04:57,435 もう 何年前になりやすかねぇ。 44 00:04:57,435 --> 00:05:01,573 今でも 目の裏に 強烈に焼き付いてます。 45 00:05:01,573 --> 00:05:04,742 何しろ あんなハコでは そうそう見れねぇ芸ですから。 46 00:05:04,742 --> 00:05:08,096 ♬~ 47 00:05:08,096 --> 00:05:11,065 どうして あんなとこで 「死神」やったんす? 48 00:05:11,065 --> 00:05:14,269 慰問は 親分さんに頼まれてね。 49 00:05:14,269 --> 00:05:16,971 あすこの空気は 好きでしたよ。 50 00:05:16,971 --> 00:05:19,474 「あすこ」って 刑務所がですかい? 51 00:05:19,474 --> 00:05:22,810 ああ。 ありゃ ようござんした。 52 00:05:22,810 --> 00:05:26,230 完全に冷えきったあの空気が。 53 00:05:26,230 --> 00:05:31,252 ああいう中で掛けると 本当に死神が見えるんだよ。 54 00:05:31,252 --> 00:05:34,606 サゲが あんまりにも寒々しいもんで➡ 55 00:05:34,606 --> 00:05:37,141 刑務官さんに嫌な顔されてね。 56 00:05:37,141 --> 00:05:41,212 ふふっ。 ありゃ 本当におかしかった。 57 00:05:41,212 --> 00:05:45,600 そいじゃあ オイラのために 掛けてくれた「死神」は? 58 00:05:45,600 --> 00:05:48,670 そんなことあったかぇ? ありました! 59 00:05:48,670 --> 00:05:52,473 弟子入りしてすぐ 寄席で。 忘れねぇでくださいよ。 60 00:05:52,473 --> 00:05:55,126 思いつきでがしょう。 そういや➡ 61 00:05:55,126 --> 00:05:58,062 お前さんを拾ったのも ふとした思いつきだ。 62 00:05:58,062 --> 00:06:01,633 けど オイラにとっちゃ 天啓だったんすから。 63 00:06:01,633 --> 00:06:04,152 オイラん中で 絶対 揺るぎねぇこと➡ 64 00:06:04,152 --> 00:06:06,187 それが 師匠なんす。 65 00:06:06,187 --> 00:06:10,758 丸腰んときに言われるのは なんだか ゾッとするね。 66 00:06:10,758 --> 00:06:13,594 犬みてぇに まっつぐな野郎だよ。 67 00:06:13,594 --> 00:06:16,514 お望みとあらぁ どこへでも! 68 00:06:16,514 --> 00:06:20,101 調子に乗るなぃ。 へい。 69 00:06:20,101 --> 00:06:23,488 望みなんざ 何もありゃしねぇ。 70 00:06:23,488 --> 00:06:27,041 けど たった一つ願えるなら➡ 71 00:06:27,041 --> 00:06:31,429 死ぬときゃ落語をしながら ころっと逝きたい。 72 00:06:31,429 --> 00:06:35,516 師匠 それには まず 落語を 今やらねぇと。 73 00:06:35,516 --> 00:06:38,636 家で ぼう~っとしてちゃ 高座の上で死ねねぇでしょ! 74 00:06:38,636 --> 00:06:41,522 手始めに 鈴ヶ森の慰問会に 行きやしょう。 75 00:06:41,522 --> 00:06:45,576 親分さんとの会だって 中途半端なままじゃねぇですか。 76 00:06:45,576 --> 00:06:49,764 親分と あすこに入ってる人たちが ちゃんと気持ちを入れ替えて➡ 77 00:06:49,764 --> 00:06:52,400 待ってる人んとこへ 早く帰れるように。 78 00:06:52,400 --> 00:06:54,435 そんな落語を思いつきで 一丁。 79 00:06:54,435 --> 00:06:56,804 ねえ どうです? わあっ! 80 00:06:56,804 --> 00:06:59,941 ザブン! しん坊! 81 00:06:59,941 --> 00:07:01,976 ははははっ! うう…。 82 00:07:01,976 --> 00:07:05,329 銭湯で そういうこと すんなってんだよ バカ! 83 00:07:05,329 --> 00:07:08,616 ったく しょうがねぇな。 84 00:07:08,616 --> 00:07:11,419 じいじ 落語するの? 85 00:07:11,419 --> 00:07:13,638 聞いてたんかぇ。 86 00:07:13,638 --> 00:07:15,638 僕も 聴きたいなぁ。 87 00:07:17,024 --> 00:07:19,711 ははははっ! 88 00:07:19,711 --> 00:07:23,097 坊ちゃんのおねだりには かなわねぇなぁ。 89 00:07:23,097 --> 00:07:26,597 子供てぇのは とんでもねぇ生き物だね。 90 00:07:33,991 --> 00:07:37,111 うう…。 (小夏)一体どういう了見だい?➡ 91 00:07:37,111 --> 00:07:40,698 あんたが 人様のために落語をやるなんて。 92 00:07:40,698 --> 00:07:45,169 なんのこたぁねぇ ほんの出来心でね。 93 00:07:45,169 --> 00:07:53,878 ♬~(出囃子) 94 00:07:53,878 --> 00:07:59,717 (拍手) 95 00:07:59,717 --> 00:08:05,807 ♬~(出囃子) 96 00:08:05,807 --> 00:08:09,360 ええ どうも。 先ほどの者に成り代わりまして➡ 97 00:08:09,360 --> 00:08:14,081 一席 お噺 申し上げます。 よろしくおつきあいのほどを。 98 00:08:14,081 --> 00:08:16,868 お久しぶりのことでございます。 99 00:08:16,868 --> 00:08:19,670 お懐かしい顔も いらっしゃいますようで。 100 00:08:19,670 --> 00:08:23,191 皆様にも きっと 待つ人がおありでしょう。 101 00:08:23,191 --> 00:08:26,611 今日は そんなお噺を一席。 102 00:08:26,611 --> 00:08:30,014 昔は お茶屋さんに芸者が入りますと➡ 103 00:08:30,014 --> 00:08:32,650 お線香を1本 立てます。 104 00:08:32,650 --> 00:08:36,070 この線香が 「たちきり」と申しまして➡ 105 00:08:36,070 --> 00:08:38,673 これが消えるまでの 2時間ひとざし➡ 106 00:08:38,673 --> 00:08:41,973 玉串というご祝儀を 頂いたんだそうで…。 107 00:08:43,361 --> 00:08:47,682 「若旦那 今日から百日 蔵住まいをしていただきます」。 108 00:08:47,682 --> 00:08:50,334 「番頭 そりゃ しどいんじゃないかぇ。➡ 109 00:08:50,334 --> 00:08:53,971 あたしが 一体 なんの悪さをしたてぇんです」。 110 00:08:53,971 --> 00:08:57,508 番頭 若旦那を蔵へ入れますと➡ 111 00:08:57,508 --> 00:09:00,878 錠前を ガチャリと閉めてしまいます。 112 00:09:00,878 --> 00:09:06,100 脅かされて蔵住まい。 いわゆる軟禁処分ですな。 113 00:09:06,100 --> 00:09:09,136 どうして こういうことに なったかてぇますと➡ 114 00:09:09,136 --> 00:09:14,141 その年の春 柳橋の料亭で 寄り合いがございました。 115 00:09:14,141 --> 00:09:16,777 大勢 芸者衆が参ります中に➡ 116 00:09:16,777 --> 00:09:20,314 「ひさのや」の小糸という娘芸者が。 117 00:09:20,314 --> 00:09:23,734 若旦那は ふいに ひと目惚れをしてしまいました。 118 00:09:23,734 --> 00:09:28,306 昼も夜も ただただ 小糸のもとへ通い詰める。 119 00:09:28,306 --> 00:09:31,342 遠くて近きが男女の仲。 120 00:09:31,342 --> 00:09:33,995 いつしか わりない仲になります。 121 00:09:33,995 --> 00:09:37,765 何しろ 花柳界のことですから 僅かの間にも➡ 122 00:09:37,765 --> 00:09:40,568 莫大もないお金を 使い込んじまって➡ 123 00:09:40,568 --> 00:09:43,871 さあ 親旦那様はご立腹。 124 00:09:43,871 --> 00:09:47,158 ズズッ… そんなわけで始まりました➡ 125 00:09:47,158 --> 00:09:49,193 若旦那の蔵ごもり。 126 00:09:49,193 --> 00:09:52,246 そこに女文字の手紙が1通。 127 00:09:52,246 --> 00:09:56,133 「おや? 『柳橋より』と書いてあるな」。 128 00:09:56,133 --> 00:10:00,433 番頭 これを封も切らずに 帳場の引き出しに放り込んじまう。 129 00:10:03,574 --> 00:10:08,312 すると 明くる日には3本。 明くる日には5本と➡ 130 00:10:08,312 --> 00:10:11,432 だんだん手紙が増えてまいります。 131 00:10:11,432 --> 00:10:15,219 そうこうするうちに 月日のたつのは早いもんで➡ 132 00:10:15,219 --> 00:10:18,656 あっという間に百日がたちました。 133 00:10:18,656 --> 00:10:22,476 「若旦那 よく ご辛抱なさいました」。 134 00:10:22,476 --> 00:10:26,063 「ああ 番頭さん」。 「実は これが➡ 135 00:10:26,063 --> 00:10:28,763 柳橋より届いておりました」。 136 00:10:34,739 --> 00:10:38,359 「これは 小糸の…」。 137 00:10:38,359 --> 00:10:41,529 「あたしは つくづく感心いたしました。➡ 138 00:10:41,529 --> 00:10:46,233 花柳界にも こうした殊勝な女性が いらっしゃるのかと。➡ 139 00:10:46,233 --> 00:10:49,520 しかし 八十日目になりますか…➡ 140 00:10:49,520 --> 00:10:52,556 ぴたりと手紙がやみましてな。➡ 141 00:10:52,556 --> 00:10:54,875 やはり芸者ですから 見切りがつきゃ➡ 142 00:10:54,875 --> 00:10:56,944 こんなものなのでしょう。➡ 143 00:10:56,944 --> 00:10:59,997 こちらが 最後の手紙でございます」。 144 00:10:59,997 --> 00:11:02,967 「あっ 嫌… 見たくない。➡ 145 00:11:02,967 --> 00:11:05,419 お前さん 読んどくれ」。 146 00:11:05,419 --> 00:11:07,419 「では 代わって。➡ 147 00:11:08,873 --> 00:11:11,759 『再三のお手紙 差し上げ候えども➡ 148 00:11:11,759 --> 00:11:15,813 お越しくれない。 この手紙にて お見えくださらねば➡ 149 00:11:15,813 --> 00:11:20,901 もはや若旦那様には この世にて お目に掛かれまじく存じ候。➡ 150 00:11:20,901 --> 00:11:23,871 取り急ぎ あらあらかしこ』」。 151 00:11:23,871 --> 00:11:28,442 蔵から出ました若旦那 一路 柳橋の料亭へ。 152 00:11:28,442 --> 00:11:31,842 そこには 憔悴しきった女将の姿が。 153 00:11:33,197 --> 00:11:36,567 「小糸が 死んだ!?➡ 154 00:11:36,567 --> 00:11:40,438 どうして…」。 「どうしてとおっしゃりゃあ➡ 155 00:11:40,438 --> 00:11:43,491 あなたが殺したと 言わなけりゃなりません。➡ 156 00:11:43,491 --> 00:11:45,993 あの子 痩せてしまいましてね➡ 157 00:11:45,993 --> 00:11:48,996 起き上がることも できないんです。➡ 158 00:11:48,996 --> 00:11:51,966 抱えるように抱き起こして➡ 159 00:11:51,966 --> 00:11:55,786 あなた様に頂いた 三味線を持たせますと➡ 160 00:11:55,786 --> 00:11:59,190 ひとまず しゃんと はたいたっきり➡ 161 00:11:59,190 --> 00:12:02,209 『もう つらいの』と横になって…」。 162 00:12:02,209 --> 00:12:06,497 「なんてことだ。 こんなことなら➡ 163 00:12:06,497 --> 00:12:10,634 蔵ぁ破ってでも 出てまいりましたのに」。 164 00:12:10,634 --> 00:12:15,106 「そうなんでしたの。 あなたが蔵住まいを…。➡ 165 00:12:15,106 --> 00:12:19,543 それは おつらかったでしょう。 いくら手紙を出したって➡ 166 00:12:19,543 --> 00:12:23,848 届きゃしませんわね。 さあ 仏前へ。➡ 167 00:12:23,848 --> 00:12:26,150 今日は あの子の三七日。➡ 168 00:12:26,150 --> 00:12:29,170 お線香 上げて 一杯 飲んでくださいな」。 169 00:12:29,170 --> 00:12:31,205 ♬~(三味線の演奏「雪」) 170 00:12:31,205 --> 00:12:34,842 「ねえ 三味線が聴こえませんこと?」。 171 00:12:34,842 --> 00:12:38,045 ♬~(三味線の演奏「雪」) 172 00:12:38,045 --> 00:12:42,645 「あの子が あなたの好きな 地唄の『雪』を唄ってますわ」。 173 00:12:44,135 --> 00:12:52,660 (小夏)♬ ほんに 174 00:12:52,660 --> 00:13:00,501 (小夏)♬ 昔の 175 00:13:00,501 --> 00:13:02,937 「な… 南無阿弥陀仏」。 176 00:13:02,937 --> 00:13:09,160 (みよ吉の声)♬ 昔の 「悪かった。 すまなかったよ。➡ 177 00:13:09,160 --> 00:13:13,114 あたしぁ 何も知らなかったんだ。➡ 178 00:13:13,114 --> 00:13:17,101 よく あたしのことを そこまで思ってくれた。➡ 179 00:13:17,101 --> 00:13:20,571 ありがとう ありがとう➡ 180 00:13:20,571 --> 00:13:23,774 ありがとう…。➡ 181 00:13:23,774 --> 00:13:26,660 そのかわり あたしも これから 生涯➡ 182 00:13:26,660 --> 00:13:29,380 女房は持たないよ。➡ 183 00:13:29,380 --> 00:13:32,680 それで許しておくれ…」。 184 00:13:35,136 --> 00:13:40,958 (みよ吉の声)♬ 待ちけん 185 00:13:40,958 --> 00:13:45,663 ♬~(三味線の演奏「雪」) 186 00:13:45,663 --> 00:13:48,063 (心の声)≪みよ吉さんの声だ≫ 187 00:13:50,835 --> 00:13:55,739 ≪あたしから みんな奪った あの人の声だ≫ 188 00:13:55,739 --> 00:14:00,795 ≪やっぱり お前さんが みんな持ってこうってのかい≫ 189 00:14:00,795 --> 00:14:06,095 ♬~(三味線の演奏「雪」) 190 00:14:11,505 --> 00:14:15,075 「ん? 三味線が消えたね。➡ 191 00:14:15,075 --> 00:14:18,475 後生だよ もう少し聴かしとくれ」。 192 00:14:19,880 --> 00:14:23,868 「若旦那 もうダメですよ。➡ 193 00:14:23,868 --> 00:14:28,868 仏様のお線香が断ち切りました」。 194 00:16:40,404 --> 00:16:42,656 (樋口)ついに あなたも 与太郎君の落語を➡ 195 00:16:42,656 --> 00:16:45,459 認める日が来ましたか。 (アマケン)認めたわけじゃ➡ 196 00:16:45,459 --> 00:16:47,795 ございません。 最近 すっかり➡ 197 00:16:47,795 --> 00:16:50,798 八雲師の落語が聴けませんからな。 198 00:16:50,798 --> 00:16:54,118 さみしさを 紛らわせに来たのです。 199 00:16:54,118 --> 00:16:56,153 ぬおっ! ちょっ ちょっ ちょっ…。 200 00:16:56,153 --> 00:16:58,973 なんですか? あれ あれ。 201 00:16:58,973 --> 00:17:01,508 ♬~(出囃子) 202 00:17:01,508 --> 00:17:04,061 (拍手) 203 00:17:04,061 --> 00:17:06,761 どうも~。 どうも どうも。 204 00:17:10,050 --> 00:17:14,071 (一同)ははははっ。 「ここは 魚が絶品だってなぁ。➡ 205 00:17:14,071 --> 00:17:16,840 そいつが 何よりも楽しみなんだ 俺ぁ。➡ 206 00:17:16,840 --> 00:17:20,440 じゃんじゃん持ってきてくれよ」。 (観客たち)ははははっ。 207 00:17:21,895 --> 00:17:24,765 ≫(樋口)師匠! ≫タッタッタッ…(足音) 208 00:17:24,765 --> 00:17:27,534 (樋口)最後まで ご覧にならないんですか? 209 00:17:27,534 --> 00:17:31,071 「『居残り』の会」なんざ これみよがしに やりゃあがって。 210 00:17:31,071 --> 00:17:33,774 見てやらなきゃ しょうがねぇもんで。 211 00:17:33,774 --> 00:17:38,762 いかがでした? ダメ。 不愉快でなりません。 212 00:17:38,762 --> 00:17:42,666 笑わせるか泣かせるか それしきゃねぇんだ。 213 00:17:42,666 --> 00:17:45,786 分かりやすくだの易しくだの そんなことより➡ 214 00:17:45,786 --> 00:17:48,439 芸には 品がなくちゃあいけません。 215 00:17:48,439 --> 00:17:52,159 なのに あいつぁ それが いいと思って やってんだから➡ 216 00:17:52,159 --> 00:17:54,428 お話にならねぇ。 217 00:17:54,428 --> 00:17:58,065 与太さん がっかりするだろうなぁ。 218 00:17:58,065 --> 00:18:02,202 そろそろいいですかな? (樋口)すみません 寒い中。➡ 219 00:18:02,202 --> 00:18:05,802 お送りしましょうか? ひどい雪だ。 いえ。 220 00:18:09,543 --> 00:18:13,347 旦さん 頼みもしねぇのに この老いぼれに➡ 221 00:18:13,347 --> 00:18:17,051 かまけてくだすって ありがとうございます。 222 00:18:17,051 --> 00:18:20,337 あなたみてぇな人に 会えるんですから➡ 223 00:18:20,337 --> 00:18:24,641 この商売は まったく面白ぇもんですなぁ。 224 00:18:24,641 --> 00:18:29,596 すみませんが これを あのバカに 渡してやってくれますか? 225 00:18:29,596 --> 00:18:33,096 (樋口)なんですか? 渡しゃあ分かります。 226 00:18:34,768 --> 00:18:38,468 旦さん どうぞ助六を ご贔屓に。 227 00:18:45,396 --> 00:18:47,396 (萬月)ふふっ! 228 00:18:50,267 --> 00:18:54,171 (小太郎) 萬月師匠 お言葉ですけど…➡ 229 00:18:54,171 --> 00:18:57,474 早く帰って! やかましいわ ボケ! 230 00:18:57,474 --> 00:19:00,344 念願の 寄席の感慨にふけっとんねん。 231 00:19:00,344 --> 00:19:02,880 どうでもいいっす。 早く帰りたい。 232 00:19:02,880 --> 00:19:05,466 (萬月)帰ったらよろしおすがな。 (小太郎)師匠が➡ 233 00:19:05,466 --> 00:19:08,102 残ってらっしゃるうちは 帰れないんす。 234 00:19:08,102 --> 00:19:10,938 こらぁ どうも。 八雲師匠! 235 00:19:10,938 --> 00:19:14,308 あ~ら! どうしはりましたんえ?➡ 236 00:19:14,308 --> 00:19:18,112 今晩から泊まりなんで ぜひ 食事でも ご一緒に。 237 00:19:18,112 --> 00:19:23,212 一人になりたくて来たんです。 お引き取りください。 238 00:19:24,468 --> 00:19:27,468 あっ… はい。 239 00:19:29,957 --> 00:19:33,060 前座さん 座布団出して➡ 240 00:19:33,060 --> 00:19:36,163 高座の明かりだけ ともしといてくれ。 241 00:19:36,163 --> 00:19:40,163 そしたら お前さんも 先ぃ帰りな。 いや でも…。 242 00:19:41,702 --> 00:19:46,073 大丈夫だよ 席亭さんには言ってあるから。 243 00:19:46,073 --> 00:19:49,573 (小太郎)ええ~! 「ええ~!」じゃありませんよ。 244 00:19:51,662 --> 00:19:53,680 はい。 245 00:19:53,680 --> 00:19:57,501 ほんなら 僕 与太郎はんとこ 顔出してくるさかい。 246 00:19:57,501 --> 00:19:59,786 (小太郎)お疲れさまです。 247 00:19:59,786 --> 00:20:04,174 なあ 八雲師匠て よう こういうふうに来はるんどすか? 248 00:20:04,174 --> 00:20:07,974 いいえ 初めてのことで。 さよか。 249 00:20:16,153 --> 00:20:20,140 お前さんも 随分 古びれたね。 250 00:20:20,140 --> 00:20:23,193 よ~く頑張った。 251 00:20:23,193 --> 00:20:26,193 最後に 一席 つきあっとくれるかい。 252 00:20:29,933 --> 00:20:33,854 「誰だい お前は? 薄汚ぇナリしやがって」。 253 00:20:33,854 --> 00:20:38,442 「あたしかい? あたしゃ死神だよ。➡ 254 00:20:38,442 --> 00:20:42,379 あたしが いいこと教ぇてやろうか?」。 255 00:20:42,379 --> 00:20:46,667 「あぁ… ろうそくが どっさりついて…。➡ 256 00:20:46,667 --> 00:20:48,702 なんです こりゃあ?」。 257 00:20:48,702 --> 00:20:51,905 「み~んな 人の寿命だよ」。 258 00:20:51,905 --> 00:20:54,358 「こっちのは 今にも消ぇそうだ」。 259 00:20:54,358 --> 00:20:58,745 「そりゃ お前のだ」。 「えっ!」。 260 00:20:58,745 --> 00:21:03,233 「消ぇる途端に命はねぇ。 じきに死ぬよ」。 261 00:21:03,233 --> 00:21:06,186 「だって 死神さん 初めて会った時分に➡ 262 00:21:06,186 --> 00:21:10,207 『お前にゃ まだ長い寿命がある』 そう言ってたじゃないかぇ。➡ 263 00:21:10,207 --> 00:21:13,343 うそなのかい ありゃあ?」。 「お前さんは➡ 264 00:21:13,343 --> 00:21:17,564 金に目がくらんで 病人と 寿命 取っ替えた。➡ 265 00:21:17,564 --> 00:21:21,184 ふふふっ もうじき死ぬよ」。 266 00:21:21,184 --> 00:21:23,637 「そんなこと知らなかったんだ。➡ 267 00:21:23,637 --> 00:21:27,140 金なら返すから 元に戻しとくれよ!」。 268 00:21:27,140 --> 00:21:32,212 「ダメ」。 「そんな不人情なこと 言わねぇでくれよ。➡ 269 00:21:32,212 --> 00:21:35,632 頼むよ。 なあ 死ぃさん。 もっぺんだけ! ねっ?➡ 270 00:21:35,632 --> 00:21:39,853 金は まるっと返す。 もっぺん 寿命 取っ替えてくれ」。 271 00:21:39,853 --> 00:21:42,739 「しょうのねぇ野郎だ。➡ 272 00:21:42,739 --> 00:21:46,510 この燃えさしに ろうそくの火 移してみろ。➡ 273 00:21:46,510 --> 00:21:50,614 しくじったら そのまま死ぬ。 いいな?」。 274 00:21:50,614 --> 00:21:53,166 「ろ… ろうそくの火を…」。 275 00:21:53,166 --> 00:21:57,204 ゴクン 「上手に…」。 276 00:21:57,204 --> 00:22:01,875 「へへへっ 震えてるな。➡ 277 00:22:01,875 --> 00:22:04,144 震えると 消ぇちまう。➡ 278 00:22:04,144 --> 00:22:07,698 消ぇたら死んじまうなぁ。➡ 279 00:22:07,698 --> 00:22:12,336 ほ~ら 消ぇる➡ 280 00:22:12,336 --> 00:22:16,323 消ぇる 消ぇるよ…」。 281 00:22:16,323 --> 00:22:21,244 「よ… よしとくれよ。 黙っててくれ!」。 282 00:22:21,244 --> 00:22:27,444 「消ぇる 消ぇる 消ぇる…」。 283 00:22:30,103 --> 00:22:32,472 「はっ…」。 284 00:22:32,472 --> 00:22:36,272 「ほら 消ぇた」。 285 00:22:40,213 --> 00:22:46,019 (拍手) 286 00:22:46,019 --> 00:22:48,519 (助六)よっ 八代目! 287 00:22:50,707 --> 00:22:54,911 はぁ はぁ… どうして しゃべってんだい? 288 00:22:54,911 --> 00:22:57,764 えっ!? 聞こえてんのかい。 289 00:22:57,764 --> 00:23:01,001 ああ~ あいつのおかげか。 290 00:23:01,001 --> 00:23:05,105 へへっ 変なこと言わねぇでよかったなぁ。 291 00:23:05,105 --> 00:23:08,605 なあ 坊 いい「死神」だったぜ。 292 00:23:11,044 --> 00:23:14,815 声が 全然出ねぇんだ。 おう。 293 00:23:14,815 --> 00:23:18,085 一席やるだけで こんなに くたくただ。 294 00:23:18,085 --> 00:23:21,638 そうか。 寒くて 舌も回らねぇ…。 295 00:23:21,638 --> 00:23:23,674 へえ~。 296 00:23:23,674 --> 00:23:26,727 あたしの好きな落語が…➡ 297 00:23:26,727 --> 00:23:29,613 客に 言葉が通じねぇんだ。 298 00:23:29,613 --> 00:23:33,500 挙句の果てにゃあ 客が一人もいやしねぇって…➡ 299 00:23:33,500 --> 00:23:35,702 このザマか。 300 00:23:35,702 --> 00:23:40,073 あたしゃ 落語を 道連れにしようとしてるんだよ。 301 00:23:40,073 --> 00:23:42,109 そうなったなぁ。 302 00:23:42,109 --> 00:23:46,113 お前さんが あんなに愛した落語じゃあないか。 303 00:23:46,113 --> 00:23:48,398 よせやぁ。 俺ぁ関係ねぇ。 304 00:23:48,398 --> 00:23:52,586 お前さんが望んで 実際に そうなったんだろ。 305 00:23:52,586 --> 00:23:54,838 怒ってないのかぇ? 306 00:23:54,838 --> 00:23:58,475 これが お前さんの落語なら しょうがねぇ。➡ 307 00:23:58,475 --> 00:24:02,275 ただな… 詰めが甘ぇな。 308 00:24:03,980 --> 00:24:06,767 情にほだされる… それが お前さんの➡ 309 00:24:06,767 --> 00:24:08,967 いちばん深ぇ業だな。➡ 310 00:24:10,587 --> 00:24:15,675 未練を断ち切れ。 これが お前の望みなんだろ? 311 00:24:15,675 --> 00:24:22,999 ♬~ 312 00:24:22,999 --> 00:24:26,937 (助六)よく燃えらぁ。 あぁ…。 313 00:24:26,937 --> 00:24:29,506 (助六)怖ぇか? 314 00:24:29,506 --> 00:24:32,776 死ぬってのは こういうもんだ。➡ 315 00:24:32,776 --> 00:24:35,028 坊 よく見ろ。 316 00:24:35,028 --> 00:24:41,435 ♬~ 317 00:24:41,435 --> 00:24:44,838 お前は死神…。 318 00:24:44,838 --> 00:24:49,326 ♬~ 319 00:24:49,326 --> 00:24:52,045 ≪芸の神様てのは➡ 320 00:24:52,045 --> 00:24:54,445 お前のことだったんだね≫ 321 00:24:56,166 --> 00:24:59,336 ≪ようやく お会いできた≫ 322 00:24:59,336 --> 00:25:12,249 ♬~ 323 00:25:12,249 --> 00:25:14,601 んんっ! あっ…。 324 00:25:14,601 --> 00:25:16,636 師匠~‼ 325 00:25:16,636 --> 00:25:21,274 ♬~ 326 00:25:21,274 --> 00:25:24,474 与太? つかまって! 早く! 327 00:25:26,630 --> 00:25:28,682 手ぇ出して! 328 00:25:28,682 --> 00:25:31,468 ♬~ 329 00:25:31,468 --> 00:25:35,268 嫌だ… 死にたくない。 330 00:25:38,124 --> 00:25:42,624 あっ! 助けて… 助けて…。 331 00:25:45,565 --> 00:25:49,765 ≪あたしゃ また未練を…≫ 332 00:25:52,589 --> 00:25:54,841 ≪残しちまうのか≫ 333 00:25:54,841 --> 00:25:59,341 ♬~ 334 00:26:01,331 --> 00:26:21,351 ♬~ 335 00:26:21,351 --> 00:26:41,388 ♬~ 336 00:26:41,388 --> 00:27:01,341 ♬~ 337 00:27:01,341 --> 00:27:21,344 ♬~ 338 00:27:21,344 --> 00:27:29,344 ♬~ 339 00:29:03,530 --> 00:29:09,002 次回 「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」➡ 340 00:29:09,002 --> 00:29:11,204 第10話。 341 00:29:11,204 --> 00:29:14,404 どうぞ ご贔屓 ご鞭撻のほどを。