1 00:01:13,339 --> 00:01:29,355 ♬~ 2 00:01:29,355 --> 00:01:35,361 <天保11年 1月。 本所亀戸にある 「武蔵屋」の別宅が➡ 3 00:01:35,361 --> 00:01:37,861 火事で消失した> 4 00:01:39,866 --> 00:01:45,366 お嬢さん… お嬢さん お嬢さん 5 00:01:53,379 --> 00:01:58,384 < しかし この火事は 江戸市中を 震撼とさせた連続殺人事件の➡ 6 00:01:58,384 --> 00:02:02,388 始まりにすぎなかった> 7 00:02:02,388 --> 00:02:14,388 ♬~ 8 00:02:22,342 --> 00:02:26,346 (売り子)さあ 買った買った 新刊 『偐紫田舎源氏』だ 9 00:02:26,346 --> 00:02:31,351 「須磨の巻」 「明石の巻」で 8冊 読んで面白いし 見て楽しい 10 00:02:31,351 --> 00:02:35,355 大人気の種彦作 国貞描くは 『偐紫田舎源氏』だ 11 00:02:35,355 --> 00:02:39,359 これを読まなきゃ 江戸っ子の 名折れだ 買った 買った 12 00:02:39,359 --> 00:02:44,364 おこよちゃん ありがとうよ 持ってってくれ…。➡ 13 00:02:44,364 --> 00:02:46,364 いつも綺麗だな… 14 00:02:53,373 --> 00:02:55,375 (おこよ)おしのちゃん 今度は 「明石の巻」よ。➡ 15 00:02:55,375 --> 00:02:58,378 「垣の卯の花 咲く頃より➡ 16 00:02:58,378 --> 00:03:02,382 お庭の萩の移ろうまで 御文の➡ 17 00:03:02,382 --> 00:03:06,319 遣り取りばかり遊ばし➡ 18 00:03:06,319 --> 00:03:08,821 脇から見る目も もどかしい」。 19 00:03:08,821 --> 00:03:11,324 (おしの)おこよちゃんは いいわね。 20 00:03:11,324 --> 00:03:15,328 私は お父っつぁんの世話で 本どころじゃないわ。 21 00:03:15,328 --> 00:03:18,831 だって おその叔母さんは? 22 00:03:18,831 --> 00:03:21,834 あ そうだ。 煎じ薬を 飲ませなくっちゃ。 23 00:03:21,834 --> 00:03:24,337 ねえ おその叔母さんは? 24 00:03:24,337 --> 00:03:29,342 おっ母さんは 亀戸の別宅へ 行ったきり とんと…。 25 00:03:29,342 --> 00:03:32,345 ごめんなさいね。 すぐに戻ってくるから。 26 00:03:32,345 --> 00:03:34,345 いいのよ 私は…。 27 00:03:47,360 --> 00:03:51,360 お父っつぁん… 熱があるんじゃないの? 28 00:03:53,366 --> 00:03:55,368 (喜兵衛)大丈夫だ。 29 00:03:55,368 --> 00:03:58,368 少し休んだら どうかしら? 30 00:04:00,373 --> 00:04:04,310 ね お父っつぁん ちょっとでも 横になった方が…。 31 00:04:04,310 --> 00:04:07,313 何を言う。 年の暮れだ それどころじゃない。 32 00:04:07,313 --> 00:04:11,317 商いの邪魔だ。 奥へ行った 行った 33 00:04:11,317 --> 00:04:13,817 さ… 行きなさい 34 00:04:25,331 --> 00:04:28,835 (徳次郎)激しい咳込みが 今朝から 2度も…。 35 00:04:28,835 --> 00:04:32,839 無理を なさらないようにと 申し上げてるんですが。 36 00:04:32,839 --> 00:04:35,842 5年前までは あんなじゃなかった。 37 00:04:35,842 --> 00:04:38,845 病気だって 随分 軽かったのに。 38 00:04:38,845 --> 00:04:44,345 隣の油屋を買い取ってからは 仕事が 倍に増えましたから。 39 00:04:54,360 --> 00:04:57,864 ≪(徳次郎)お嬢様… お嬢様 旦那様が… 40 00:04:57,864 --> 00:04:59,866 えっ?! 41 00:04:59,866 --> 00:05:02,866 血を… 血を沢山 吐かれて 42 00:05:06,305 --> 00:05:10,305 お父っつぁん… 大丈夫? 43 00:05:12,311 --> 00:05:15,311 手拭いを 冷やして 当ててくれ。 44 00:05:41,340 --> 00:05:45,344 (横山)今度は難しい。 よほど 大事にしないと➡ 45 00:05:45,344 --> 00:05:48,344 取り返しのつかぬ事に…。 46 00:05:56,355 --> 00:06:08,355 (かごかきたち)えいっほ えいっほ えいっほ…。 47 00:06:11,304 --> 00:06:14,304 御苦労さま。 (かごかき)へい どうも。 48 00:06:19,312 --> 00:06:34,312 ≪♬~(三味線) 49 00:06:49,342 --> 00:06:52,342 (おその) 途中で降られただろう。 50 00:06:55,348 --> 00:06:57,350 誰か お客さんが? 51 00:06:57,350 --> 00:07:00,350 お客なんて いやしないよ。 52 00:07:02,355 --> 00:07:07,355 おしの… 綺麗になるばっかりだね。 53 00:07:09,295 --> 00:07:14,300 おっ母さん お父っつぁんの病 今度は ひどく重いの。 54 00:07:14,300 --> 00:07:17,803 これまでに ないほど 沢山 血を吐いて。 55 00:07:17,803 --> 00:07:20,306 やめて やめて やめて。 56 00:07:20,306 --> 00:07:24,310 そんな話を聞くと 胸が むかむかするじゃないか。 57 00:07:24,310 --> 00:07:28,314 横山先生っていう お医者が 付いているんだから➡ 58 00:07:28,314 --> 00:07:31,817 病人の事は 医者に 任せとけばいいんだよ。 59 00:07:31,817 --> 00:07:35,321 お父っつぁんを こちらで養生させたいの。 60 00:07:35,321 --> 00:07:37,823 嫌よ。 絶対に駄目。 61 00:07:37,823 --> 00:07:41,827 でも 先生が…。 お父っつぁんは あの性分だから➡ 62 00:07:41,827 --> 00:07:46,332 病を押して すぐ働くから 店に置いちゃ いけないって。 63 00:07:46,332 --> 00:07:51,337 嫌よ 嫌 嫌…。 大体 あの人は ここへは 来やしないわ。 64 00:07:51,337 --> 00:07:55,841 だから おっ母さんの口から そう言ってくれれば…。 65 00:07:55,841 --> 00:08:00,846 お父っつぁんは おっ母さんの 言う事なら 何でも聞くから。 66 00:08:00,846 --> 00:08:03,849 私が そんな事を言われて 嬉しがるとでも…? 67 00:08:03,849 --> 00:08:09,288 お願いよ お願い…。 今度は 本当に危ないのよ。 68 00:08:09,288 --> 00:08:15,288 お父っつぁんを口説いて… ね…。 一生のお願いよ おっ母さん。 69 00:08:20,299 --> 00:08:27,306 おしの… あんた おっ母さんには 案外 薄情だけど 70 00:08:27,306 --> 00:08:31,310 あの人の事となると のぼせ上がるんだから…。 71 00:08:31,310 --> 00:08:36,315 たまには 私の事を考えてくれても いいんじゃないのかい。 72 00:08:36,315 --> 00:08:39,318 お父っつぁんさえ 落ち着いたら 今度は おっ母さんの 73 00:08:39,318 --> 00:08:43,318 気に入るようにするから… ね。 74 00:08:45,324 --> 00:08:49,829 負けたわ あんたには…。 はいはい。 75 00:08:49,829 --> 00:08:56,329 明日… いえ 明後日の夕方ぐらい までには 行きましょう。 76 00:08:58,337 --> 00:09:02,341 嬉しい。 本当に来てくれるわね。 おっ母さん…。 77 00:09:02,341 --> 00:09:05,341 行くと言ったら 行くわよ。 78 00:09:07,280 --> 00:09:10,280 じゃ 約束ね…。 79 00:09:14,287 --> 00:09:29,287 (かごかきたち) えいっほ えいっほ えいっほ…。 80 00:09:35,308 --> 00:09:37,310 お父っつぁん…。 81 00:09:37,310 --> 00:09:41,814 隣の油屋の様子も ご覧になりたいと おっしゃって。 82 00:09:41,814 --> 00:09:46,814 いつまで待ったって おそのは来やしないよ。 83 00:10:02,335 --> 00:10:12,278 12月は 2分と 2朱。 しめて 12両と 2分。 84 00:10:12,278 --> 00:10:16,282 12両と 2分。 12両と 2分。 85 00:10:16,282 --> 00:10:23,289 以上 しめて 430両 2分と 2朱。 86 00:10:23,289 --> 00:10:28,289 430両 2分と 2朱。 430両 2分と 2朱。 87 00:10:30,296 --> 00:10:42,296 よし これで終わった…。 今年の仕事も これで おしまいだ。 88 00:10:44,310 --> 00:10:51,310 番頭さん… 徳次郎… 利助…。 89 00:10:56,322 --> 00:10:59,325 ご苦労さまでした。 90 00:10:59,325 --> 00:11:01,327 いや 旦那様こそ…。 91 00:11:01,327 --> 00:11:06,332 お父っつぁん 薬湯を飲んで ゆっくり お休みなさいな。 92 00:11:06,332 --> 00:11:10,332 いや その前に ちょっと…。 93 00:11:14,340 --> 00:11:17,340 大丈夫? ああ いい いい。 94 00:11:27,353 --> 00:11:32,358 旦那様は 命を削ってます。 あのお体で 一文たりとも 95 00:11:32,358 --> 00:11:35,361 ゆるがせに しないんですから。 96 00:11:35,361 --> 00:11:39,365 商人魂だ。 頭が下がります。 97 00:11:39,365 --> 00:11:42,365 よかった。 とにかく 終わって…。 98 00:11:44,370 --> 00:11:46,370 ≪(悲鳴) 99 00:11:48,374 --> 00:11:51,377 お父っつぁん 旦那様 100 00:11:51,377 --> 00:11:54,377 水を 早く水を…。 お父っつぁん… 101 00:11:57,383 --> 00:12:07,383 ≪(笛 太鼓) 102 00:12:11,831 --> 00:12:13,833 箱根…?! 103 00:12:13,833 --> 00:12:18,337 (利助)はい。 お正月は お湯に入って のんびりするって。 104 00:12:18,337 --> 00:12:23,342 それは いつなの? 29日朝 ご出発なさったと…。 105 00:12:23,342 --> 00:12:26,345 29日って… 106 00:12:26,345 --> 00:12:31,350 ≪負けたわ あんたには…。 はいはい 明日…➡ 107 00:12:31,350 --> 00:12:37,350 いえ 明後日の夕方ぐらい までには 行きましょう≫ 108 00:12:40,359 --> 00:12:45,364 ≪最初から 嘘を言ったんだ おっ母さんは…。➡ 109 00:12:45,364 --> 00:12:51,370 あの時には もう 箱根へ行く 手はずは 決まってたんだわ。 110 00:12:51,370 --> 00:12:54,370 私を騙したんだ≫ 111 00:13:00,379 --> 00:13:03,379 (雷鳴) 112 00:13:09,321 --> 00:13:18,321 おしの… おしの…。 おしの…。 113 00:13:24,336 --> 00:13:31,336 お父っつぁん… 大丈夫? 薬湯を持ってこようか? 114 00:13:33,345 --> 00:13:35,347 おしの…。 115 00:13:35,347 --> 00:13:39,347 何? どうしたの? お父っつぁん…。 116 00:14:10,316 --> 00:14:16,316 その中に 油紙に包んだ物が あるはずだ。 117 00:14:18,324 --> 00:14:20,324 ええ…。 118 00:14:29,335 --> 00:14:36,342 この中に 870両 入ってる。 え…?! 119 00:14:36,342 --> 00:14:45,342 千両にするつもりだったが 870両にしか ならなかった…。 120 00:14:47,353 --> 00:14:51,357 どうしたの? どうして こんなお金を? 121 00:14:51,357 --> 00:15:02,357 お前の金だ。 これでも 商いに とりつく元手には なるはずだ。 122 00:15:04,303 --> 00:15:14,313 いいか。 私に もしもの事が あったら この金を持って➡ 123 00:15:14,313 --> 00:15:20,319 徳次郎と一緒に この家を出ろ。 124 00:15:20,319 --> 00:15:24,323 どういう事なの… お父っつぁん? 125 00:15:24,323 --> 00:15:32,331 私は もう駄目だ。 昨夜 倒れた時に はっきりと➡ 126 00:15:32,331 --> 00:15:34,333 それが分かった。 127 00:15:34,333 --> 00:15:43,333 嫌… 嫌よ お父っつぁんが 死んだら 私も死ぬ 128 00:15:46,345 --> 00:15:51,345 そんな事を 若い娘が 言うものじゃない。 129 00:15:53,352 --> 00:15:58,857 だって お父っつぁんが いなく なったら どうなるって言うの? 130 00:15:58,857 --> 00:16:05,297 おっ母さん独りじゃ この店も すぐ メチャメチャになってしまうわ。 131 00:16:05,297 --> 00:16:10,297 (咳込み) 132 00:16:13,305 --> 00:16:17,305 だから 出てゆくんだ。 133 00:16:20,312 --> 00:16:33,325 いいか… よくお聞き。 徳次郎は若いが 信用のおける➡ 134 00:16:33,325 --> 00:16:41,333 よくできた人間だ。 あれには もう 金の事は 話してある。 135 00:16:41,333 --> 00:16:50,333 おそのが何と言おうが 一緒に この家を出てゆくんだ。 136 00:16:53,345 --> 00:17:00,345 やめて… お父っつぁん…。 そんな話は聞きたくない 137 00:17:02,354 --> 00:17:12,354 本当は 私も出てゆきたかった。 お前と一緒に家を出て…。 138 00:17:15,300 --> 00:17:25,300 別に商いを始めたかった。 おそのは 悪い女だ。 139 00:17:27,312 --> 00:17:34,312 あんな女の傍に お前を置いて ゆく事は出来ない。 140 00:17:36,321 --> 00:17:44,329 この年まで 随分 出来ない… 辛抱をした。 141 00:17:44,329 --> 00:17:52,329 でも お前というものが居るから 辛抱出来たんだ。 142 00:17:55,340 --> 00:18:01,340 でも もう駄目だ。 143 00:18:06,285 --> 00:18:17,296 徳次郎と一緒にな…。 お前達が好き合ってるのは➡ 144 00:18:17,296 --> 00:18:23,296 ちゃんと知ってたんだ。 お父っつぁん… 145 00:18:26,305 --> 00:18:38,317 最後に… 最後に… 一つだけな… 頼みがある。 146 00:18:38,317 --> 00:18:47,317 最後になんて やめて。 何なの? お父っつぁん。 147 00:18:50,829 --> 00:18:54,333 椿? 椿の花を? 148 00:18:54,333 --> 00:18:58,337 そうなの。 椿の花を 見たいって言うの。 149 00:18:58,337 --> 00:19:01,340 この季節に あるかしら? 150 00:19:01,340 --> 00:19:26,340 ♬~ 151 00:19:28,300 --> 00:19:39,311 懐かしいな この花は…。 私は 川崎在の百姓育ちでね➡ 152 00:19:39,311 --> 00:19:47,319 家の近くの池に 山椿の大きな 古木があったんだ。 153 00:19:47,319 --> 00:20:01,333 春になると 満開の花をつけて… 子供の頃 独りっきりで➡ 154 00:20:01,333 --> 00:20:08,273 いつも 見ていた。 ある時は 泣きながら➡ 155 00:20:08,273 --> 00:20:20,273 ある時は 途方に暮れながら…。 もう何十年も前の事だ…。 156 00:20:22,287 --> 00:20:36,287 この花を見ていると ありありと あの頃の自分の姿が 懐かしい 157 00:20:44,309 --> 00:20:51,316 言ってくれればいいのに…。 椿の花なら いつだって➡ 158 00:20:51,316 --> 00:20:54,316 活けてあげられたのに。 159 00:20:56,321 --> 00:21:02,327 商人というものは 隠居でもしないかぎり➡ 160 00:21:02,327 --> 00:21:06,331 花いじりは しないもんだ。 161 00:21:06,331 --> 00:21:14,331 私は 武蔵屋の身代を 興す事ばかりを考えていた。 162 00:21:16,341 --> 00:21:29,341 椿の花の事も忘れていた。 こんなに懐かしい花なのに…。 163 00:21:32,357 --> 00:21:34,860 お父っつぁん…。 164 00:21:34,860 --> 00:21:50,375 ♬~ 165 00:21:50,375 --> 00:21:53,375 おそのは… まだか? 166 00:21:56,381 --> 00:21:58,383 おっ母さん…? 167 00:21:58,383 --> 00:22:03,383 あいつに どうしても 言いたい事がある 168 00:22:08,326 --> 00:22:14,326 わしを 戸板に乗せて 亀戸に連れていけ…。 169 00:22:16,334 --> 00:22:19,337 でも そんな体で… 170 00:22:19,337 --> 00:22:28,346 死ぬ前に… 死ぬ前に… ひと言 言いたい事がある…。 171 00:22:28,346 --> 00:22:33,351 死ぬ前に… おしの 頼む… 172 00:22:33,351 --> 00:23:06,318 ♬~ 173 00:23:06,318 --> 00:23:10,318 ≪(喜兵衛)おしの…。 止めて。 174 00:23:16,328 --> 00:23:19,328 お父っつぁん… 大丈夫? 175 00:23:22,334 --> 00:23:24,334 休んでくれ…。 176 00:23:26,338 --> 00:23:29,338 駕籠屋さん。 へえ。 177 00:23:34,346 --> 00:23:37,346 苦しいの? 喉を湿しましょうか? 178 00:23:39,351 --> 00:23:44,356 何? お父っつぁん…。 何なの? 179 00:23:44,356 --> 00:23:51,356 おそのに… 言いたい事がある…。 180 00:23:53,365 --> 00:23:59,371 生きてるうちに… ひと言…。 181 00:23:59,371 --> 00:24:04,309 私が言うわ… おっ母さんには 私から言うから…。 182 00:24:04,309 --> 00:24:08,309 お父っつぁん… 何て言えばいいの? 183 00:24:11,316 --> 00:24:16,316 言って… お父っつぁん… 言ってちょうだい 184 00:24:26,331 --> 00:24:31,331 お父っつぁん お父っつぁん お父っつぁん 185 00:24:59,364 --> 00:25:04,364 (おまさ) あの… 旦那様は…? 186 00:25:06,304 --> 00:25:12,310 私が付いてるから 大丈夫。 おまさ あんた 夕御飯の➡ 187 00:25:12,310 --> 00:25:16,310 買い物に行ってちょうだい。 はい。 188 00:25:24,322 --> 00:25:30,322 通夜と葬式は どうなさいますか。 こちらで? …それとも? 189 00:25:32,330 --> 00:25:35,333 どうしたら いいのかしら…。 190 00:25:35,333 --> 00:25:37,335 葬式は やはり 御近所の手前 お店から お出しになった方が➡ 191 00:25:37,335 --> 00:25:43,341 いいのでは ないでしょうか。 そうね。 192 00:25:43,341 --> 00:25:45,343 じゃ 私は その準備に。 193 00:25:45,343 --> 00:25:49,343 嫌よ… 嫌… 徳さん 194 00:25:51,349 --> 00:25:54,853 私を独りにしないで 大丈夫ですよ。 195 00:25:54,853 --> 00:25:58,857 旦那様のお言いつけどおり お嬢様は これから 私が➡ 196 00:25:58,857 --> 00:26:03,361 お守りします。 大事に いたします。 197 00:26:03,361 --> 00:26:05,361 徳さん…。 198 00:26:08,300 --> 00:26:13,300 (おそのと菊太郎が 酔って帰ってくる) 199 00:26:25,317 --> 00:26:29,321 ちょいと この人は 何してるんだろね…。 200 00:26:29,321 --> 00:26:33,325 (菊太郎)だって 御新造さんが ちゃんと立ってくれないから。 201 00:26:33,325 --> 00:26:36,325 おまさ… おまさ…。 202 00:26:38,330 --> 00:26:42,334 ああ くたびれた。 菊ちゃん 飲み直そうよ。 203 00:26:42,334 --> 00:26:46,338 私は もう沢山…。 駕籠を止めては 飲んで➡ 204 00:26:46,338 --> 00:26:53,338 また 駕籠に揺られて 飲んで揺られて 揺られて飲んで。 205 00:26:55,347 --> 00:26:59,351 おまさ… おまさ… おまさは いないのかい? 206 00:26:59,351 --> 00:27:02,354 おまさは 買い物に 行きました。 207 00:27:02,354 --> 00:27:07,292 あら おしの…。 来てたのかい? 208 00:27:07,292 --> 00:27:12,297 菊ちゃん。 いつも話してただろ? 私の娘の おしの…。 209 00:27:12,297 --> 00:27:17,297 中村菊太郎でございます。 どうぞ よろしくね。 210 00:27:27,312 --> 00:27:30,815 もういいからね。 子供の所に 帰っておやり。 211 00:27:30,815 --> 00:27:33,818 お正月にも 帰って ないんでしょ? 212 00:27:33,818 --> 00:27:37,822 でも… 内儀さん お帰りに なったんじゃ? 213 00:27:37,822 --> 00:27:40,822 いいの 後は 私がするから。 214 00:27:44,329 --> 00:27:47,332 子供に 何か 買ってやって… ね。 215 00:27:47,332 --> 00:27:53,332 ありがとうございます。 では お暇を取らせて頂きます。 216 00:28:09,287 --> 00:28:11,287 お父っつぁん…。 217 00:28:14,292 --> 00:28:21,299 お父っつぁん…。 死ぬ前に おっ母さんに➡ 218 00:28:21,299 --> 00:28:24,299 何を言いたかったの? 219 00:28:28,306 --> 00:28:34,312 聞かなくても 分かってる…。 お父っつぁんの気持ち➡ 220 00:28:34,312 --> 00:28:38,312 そっくり 手に取るように…。 221 00:28:42,320 --> 00:28:47,325 言ってやるわ。 お父っつぁんの代わりに➡ 222 00:28:47,325 --> 00:28:50,325 私から言ってやる 223 00:28:55,333 --> 00:29:02,333 ≪(おそのの鼻歌) 224 00:29:06,277 --> 00:29:14,277 菊ちゃんは 寝ちゃったよ…。 あんた こんな所で 何してるの? 225 00:29:17,288 --> 00:29:21,288 そこで寝てる人は 誰なんだい? 226 00:29:24,295 --> 00:29:26,295 お父っつぁんよ。 227 00:29:28,299 --> 00:29:35,299 ハハハハ… 馬鹿に おしでないよ。 あの病人が こんな所まで…。 228 00:29:41,312 --> 00:29:46,312 死んでるのよ…。 お父っつぁんは 死んでるの。 229 00:29:49,320 --> 00:29:51,322 し… 死んでる?! 230 00:29:51,322 --> 00:29:54,322 (悲鳴) 231 00:29:56,327 --> 00:30:02,333 離して… 離してよ 気味が悪いじゃないか 232 00:30:02,333 --> 00:30:05,270 離してよ ちょっと 座ってよ…。 233 00:30:05,270 --> 00:30:10,775 お父っつぁんが どんな思いで 死んだか よく顔を見るのよ 234 00:30:10,775 --> 00:30:15,780 嫌だよ… 嫌… 嫌 死人の顔なんか 見たくないよ 235 00:30:15,780 --> 00:30:21,286 嫌だよ… 気味が悪いじゃないか。 堪忍しておくれよ…。 236 00:30:21,286 --> 00:30:24,289 おっ母さん… おっ母さん 237 00:30:24,289 --> 00:30:28,293 あんまりだと思わないの? お父っつぁんはね➡ 238 00:30:28,293 --> 00:30:33,298 武蔵屋の養子に来てから お酒も飲まず 煙草も吸わず➡ 239 00:30:33,298 --> 00:30:37,802 何の楽しみもせずに しゃにむに 働いてきたのよ。 240 00:30:37,802 --> 00:30:42,307 自分の亭主じゃないの…。 どうして もっと 夫らしく➡ 241 00:30:42,307 --> 00:30:45,810 扱ってあげなかったの? どうして こんなに ひどい➡ 242 00:30:45,810 --> 00:30:48,310 仕打ちばかり するの?! 243 00:30:50,315 --> 00:30:54,315 ふん… あんた 誰に向かって もの言ってるんだい? 244 00:30:56,321 --> 00:31:00,325 主が危篤だっていうのに 嘘ばかりついて…。 245 00:31:00,325 --> 00:31:04,329 あんな子供みたいな人を連れて 遊び回って…。 246 00:31:04,329 --> 00:31:10,329 それで 悪いとは思わないの? それで平気なの おっ母さんは?! 247 00:31:14,339 --> 00:31:18,339 あんたは 若いから分からない だろうけどね…。 248 00:31:20,345 --> 00:31:26,351 私と この人が夫婦になったのは そもそも間違いだったんだ。 249 00:31:26,351 --> 00:31:31,356 ええ 武蔵屋のために 道楽もせずに 朝から晩まで➡ 250 00:31:31,356 --> 00:31:35,360 よ~く働いてくれましたさ。 でも そんな事 私には➡ 251 00:31:35,360 --> 00:31:37,362 何の値打ちも ありゃしない。 252 00:31:37,362 --> 00:31:41,366 よく言うわ おっ母さん… ひどい事を 253 00:31:41,366 --> 00:31:44,366 ええ いくらでも言うとも…。 254 00:31:46,371 --> 00:31:50,375 亭主としては 味もそっけもない 退屈で つまらない男よ。 255 00:31:50,375 --> 00:31:55,375 女の心も分からないし…。 よして やめて 256 00:31:58,383 --> 00:32:04,322 いいかい? 女ってものはね 自分のために 何もかも捨てて➡ 257 00:32:04,322 --> 00:32:09,327 夢中になって可愛がってくれる 人が欲しいものなの。 258 00:32:09,327 --> 00:32:14,332 私のために 武蔵屋の店も 財産も くそもないってほど➡ 259 00:32:14,332 --> 00:32:19,837 打ち込んでくれれば 少しは 愛情が持てたかもしれないけど。 260 00:32:19,837 --> 00:32:22,840 この人は まるきり反対…。 261 00:32:22,840 --> 00:32:28,346 愛情だなんて おっ母さんが 言うのは おかしい… 262 00:32:28,346 --> 00:32:32,350 おっ母さんなんか ただの恥知らずで 自分勝手で➡ 263 00:32:32,350 --> 00:32:35,353 男好きなだけよ 264 00:32:35,353 --> 00:32:39,353 そうかい。 何とでも お言い。 265 00:32:41,359 --> 00:32:47,359 あんただって 今に分かるわよ。 女になれば…。 266 00:32:49,367 --> 00:32:53,371 よして。 自分と一緒に しないでちょうだい 267 00:32:53,371 --> 00:32:56,374 私と おっ母さんは 違うんだから 268 00:32:56,374 --> 00:33:00,374 そうかい。 どこが違うんだろうね。 269 00:33:06,317 --> 00:33:11,817 お父っつぁんが いたから 私は 人並みに育ったのよ。 270 00:33:14,325 --> 00:33:18,329 おっ母さんなんか 男狂いばかりで 私の事なんか➡ 271 00:33:18,329 --> 00:33:24,335 ろくに かまってくれなかった じゃないの。 最後の最後まで➡ 272 00:33:24,335 --> 00:33:29,340 不人情な事ばかりして お父っつぁんの死に水も➡ 273 00:33:29,340 --> 00:33:35,340 取ってやらずに よくも そんな 罰当たりな事ばかり言えるわ 274 00:33:45,356 --> 00:33:52,363 あんた 自分の事 お父っつぁん子 だと思ってるんだろうけどね…。 275 00:33:52,363 --> 00:33:55,863 この人は あんたの父親じゃ ないんだよ。 276 00:33:59,370 --> 00:34:04,308 よして… 何を言うの。 口から出まかせばかり 277 00:34:04,308 --> 00:34:09,313 あんたにとっちゃ 赤の他人さ。 本当の父親は 他に居るの。 278 00:34:09,313 --> 00:34:12,316 馬鹿な事 言わないでよ 279 00:34:12,316 --> 00:34:16,320 あんたが 余り お父っつぁんの 事ばかり言うから➡ 280 00:34:16,320 --> 00:34:21,320 教えたげるんだけど…。 怖い顔してるね。 281 00:34:29,333 --> 00:34:32,333 でも 本当は 聞きたいだろう? 282 00:34:35,339 --> 00:34:39,343 日本橋よろず町の 丸梅っていう袋物問屋。 283 00:34:39,343 --> 00:34:44,348 そこの主人の源次郎って人が あんたの実の父親だよ。 284 00:34:44,348 --> 00:34:49,353 恥を言うようだけど 本当。 半年ほどしか つきあいは➡ 285 00:34:49,353 --> 00:34:53,357 なかったけど あんたが 自分の子だっていう事は➡ 286 00:34:53,357 --> 00:34:57,357 丸梅の源さんだって 承知なんだからね。 287 00:34:59,363 --> 00:35:06,304 おっ母さん… 今 言った事は 本当なのね? 288 00:35:06,304 --> 00:35:11,276 嘘で こんな事が言えるもんか。 この人だって あんたが➡ 289 00:35:11,276 --> 00:35:16,281 私の事を 「男狂いの何の」って 言うけど あんただって➡ 290 00:35:16,281 --> 00:35:19,284 そうそう ご立派な口は たたけやしない。 291 00:35:19,284 --> 00:35:24,289 私の男狂いのあげくに 生まれた子なんだからね。 292 00:35:24,289 --> 00:35:26,291 ああ 嫌だ嫌だ… 293 00:35:26,291 --> 00:35:31,291 死人と同じ屋根の下に 居るなんて 気味が悪い 294 00:35:51,316 --> 00:35:57,316 知ってたのね…。 お父っつぁん… 295 00:36:00,258 --> 00:36:04,258 知ってて 私を可愛がって くれてたのね…。 296 00:36:14,272 --> 00:36:24,272 でも こんな事 許せない…。 どうしても許せない 297 00:36:40,298 --> 00:36:44,302 火事だ… 火事だ… 燃えてるぞ 火事だ 298 00:36:44,302 --> 00:36:49,302 (半鐘) 299 00:36:52,310 --> 00:36:57,310 (炎の音) 300 00:37:02,253 --> 00:37:07,253 お嬢さん… お嬢さん… お嬢さん… 301 00:37:11,262 --> 00:37:14,262 お嬢さん… お嬢さん… 302 00:37:39,290 --> 00:37:42,293 (男性)米沢様 あっしたちは 奥を見ます。 303 00:37:42,293 --> 00:37:44,293 (作馬)おう お願いします。 304 00:37:50,301 --> 00:37:54,305 (作馬)おお もっと ゆっくり ゆっくり ゆっくり…。➡ 305 00:37:54,305 --> 00:37:56,305 何もないみたいだな。 306 00:38:01,245 --> 00:38:07,245 (作馬)あっ そこそこ そこ… その奥の方 そう。 307 00:38:10,254 --> 00:38:14,258 (作馬)青木様… ひどいもんですよ 308 00:38:14,258 --> 00:38:18,763 (千之介)皆 焼け死んだのか? はい。 309 00:38:18,763 --> 00:38:21,263 ご覧になりますか? ああ。 310 00:38:35,279 --> 00:38:39,283 これじゃ 男女の区別もつかぬな。 311 00:38:39,283 --> 00:38:45,289 この2体は 奥の間と思われる 場所に。 いまひとつは北側の間に。 312 00:38:45,289 --> 00:38:49,293 火の元は? しかとは分かりませぬが 313 00:38:49,293 --> 00:38:52,296 一面に 油が 火を引いたように…。 314 00:38:52,296 --> 00:38:58,236 武蔵屋は 薬種問屋だけではなく 油屋も兼業していますので 315 00:38:58,236 --> 00:39:00,238 置いてあった油の品に 火がつき 316 00:39:00,238 --> 00:39:04,238 かくのごとき 大火になったのかと…。 317 00:39:06,244 --> 00:39:10,248 (千之介)内儀さんが 帰ってきたのは 何どきだ? 318 00:39:10,248 --> 00:39:17,255 五ツの正刻の頃でしょうか。 私は 声を聞いただけですが…。 319 00:39:17,255 --> 00:39:19,257 一人でか? 320 00:39:19,257 --> 00:39:23,261 はい。 お一人の ご様子でした。 321 00:39:23,261 --> 00:39:27,265 では お前が暇をもらって 亀戸の屋敷を出る時は 322 00:39:27,265 --> 00:39:31,269 病の旦那と 内儀さん それから 娘のおしの? 323 00:39:31,269 --> 00:39:35,269 はい。 その 3人だけです。 324 00:39:41,279 --> 00:39:45,783 (彦四郎)じゃ 兄上 ただの火事で 3人が焼け死んだと 325 00:39:45,783 --> 00:39:48,786 いうだけの事ですね? そういう事だ。 326 00:39:48,786 --> 00:39:57,228 もっと 何か ないんですかね。 怪しげで 耳を そば立てるような。 327 00:39:57,228 --> 00:40:02,233 火事で 人が死んだくらいじゃ 誰も びっくりしやしないよ。 328 00:40:02,233 --> 00:40:04,235 彦四郎… 329 00:40:04,235 --> 00:40:08,739 (お高)彦四郎様 「読み売り」などに 係らなくても 330 00:40:08,739 --> 00:40:12,743 『偐紫田舎源氏』一本で 十分じゃありませんか。 331 00:40:12,743 --> 00:40:16,747 でも 「読み売り」は 「読み売り」で 楽しいですし 332 00:40:16,747 --> 00:40:23,254 おまけに 種元は すぐ近くに…。 しかたがない。 333 00:40:23,254 --> 00:40:27,254 「武蔵屋 一家焼死」で ごまかすか 334 00:40:32,263 --> 00:40:37,268 (おこよ)≪およそ 1年が 過ぎました。 武蔵屋は➡ 335 00:40:37,268 --> 00:40:41,772 親戚中の話し合いで 分家である うちの お父っつぁんが➡ 336 00:40:41,772 --> 00:40:48,279 引き継ぐ事となり 商いの方は そのまま 何事もなく➡ 337 00:40:48,279 --> 00:40:54,279 続けられていました。 そんな ある夜の事…≫ 338 00:40:57,288 --> 00:40:59,290 殺しの場所は? 339 00:40:59,290 --> 00:41:02,793 深川門前仲町の 岡田という料理茶屋です。 340 00:41:02,793 --> 00:41:05,793 今 町方が 知らせてきました 341 00:41:12,303 --> 00:41:14,305 身元は? 342 00:41:14,305 --> 00:41:19,305 蝶太夫という常磐津の師匠で 中村座にも よく出てました。 343 00:41:21,312 --> 00:41:25,316 (七造)心の臓を ひと突きにされてますな。 344 00:41:25,316 --> 00:41:28,316 (千之介) ふむ… 銀の釵か 345 00:41:35,326 --> 00:41:38,329 これは 椿の花びらじゃないか。 346 00:41:38,329 --> 00:41:40,329 そのようですね…。 347 00:41:42,333 --> 00:41:45,336 (千之介) この家に 椿の花はあるか? 348 00:41:45,336 --> 00:41:50,341 (女将)いいえ。 どの部屋にも 飾ってありません。 349 00:41:50,341 --> 00:41:53,841 庭にも 椿は 植えておりませんが。 350 00:41:56,280 --> 00:42:01,280 死体の傍に 椿の花びらが…。 351 00:42:07,291 --> 00:42:12,296 ≪どんなことがあっても許されない 大罪を犯してしまったんです…≫ 352 00:42:12,296 --> 00:42:16,300 一体 どういう素性の女だ? (おくに)何が 得石先生だい。➡ 353 00:42:16,300 --> 00:42:20,304 お前さんの汚らわしい 裏の裏まで 知り抜いてるんだからね。 354 00:42:20,304 --> 00:42:25,309 私は 一度 死んだの 今の私は亡霊と思ってちょうだい。 355 00:42:25,309 --> 00:42:27,311 (得石)あれは 魔性の女だ。 356 00:42:27,311 --> 00:42:32,316 今日 1人 お父っつぁんの恨みを…。 357 00:42:32,316 --> 00:43:53,316 ♬~