1 00:00:33,600 --> 00:00:37,300 (常子) 「8月15日 全てに気付いた」って。 2 00:00:40,173 --> 00:00:42,843 一体 何に気付かれたんですか? 3 00:00:42,843 --> 00:00:47,514 その時の思いが 二度と ペンを握らない理由なんですか? 4 00:00:47,514 --> 00:00:52,386 教えて下さい。 なぜ ペンを握らないのか。 5 00:00:52,386 --> 00:00:55,188 ♬「普段から」 6 00:00:55,188 --> 00:00:58,225 ♬「メイクしない 君が」 7 00:00:58,225 --> 00:01:03,897 ♬「薄化粧した朝」 8 00:01:03,897 --> 00:01:10,370 ♬「始まりと終わりの狭間で」 9 00:01:10,370 --> 00:01:18,111 ♬「忘れぬ約束した」 10 00:01:18,111 --> 00:01:23,717 ♬「花束を君に贈ろう」 11 00:01:23,717 --> 00:01:30,390 ♬「愛しい人 愛しい人」 12 00:01:30,390 --> 00:01:36,163 ♬「どんな言葉並べても」 13 00:01:36,163 --> 00:01:41,501 ♬「真実にはならないから」 14 00:01:41,501 --> 00:01:44,171 ♬「今日は贈ろう」 15 00:01:44,171 --> 00:01:52,512 ♬「涙色の花束を君に」 16 00:01:52,512 --> 00:02:01,521 ♬「涙色の花束を君に」 17 00:02:01,521 --> 00:02:08,021 ♬~ 18 00:02:09,696 --> 00:02:13,867 (花山)コーヒーは好きか? えっ? 19 00:02:13,867 --> 00:02:17,370 よく飲むのかと聞いている。 20 00:02:17,370 --> 00:02:21,041 いや あまり…。 21 00:02:21,041 --> 00:02:25,545 私は… 母親が好きでね➡ 22 00:02:25,545 --> 00:02:28,745 それで 私も好きになった。 23 00:02:32,986 --> 00:02:36,022 座りなさい。 24 00:02:36,022 --> 00:02:38,222 はい。 25 00:02:46,833 --> 00:02:50,704 うちは 貧しい家でね。 26 00:02:50,704 --> 00:02:56,404 母親が 女手一つで 私たち兄弟を育ててくれたんだ。 27 00:02:59,012 --> 00:03:03,183 生きていくのが やっとで➡ 28 00:03:03,183 --> 00:03:09,483 母は 毎日 とても苦しそうな顔をしていた。 29 00:03:12,859 --> 00:03:18,732 だが 私が10歳の ある日➡ 30 00:03:18,732 --> 00:03:21,932 母の顔が 突然 変わってね。 31 00:03:24,871 --> 00:03:29,709 「元始 女性は太陽であった。➡ 32 00:03:29,709 --> 00:03:32,312 真正の人であった」。 33 00:03:32,312 --> 00:03:34,247 平塚らいてう。 34 00:03:34,247 --> 00:03:40,447 そうだ。 らいてうの「青鞜」を読み 母は ようやく明るくなったんだ。 35 00:03:42,489 --> 00:03:45,392 言葉には➡ 36 00:03:45,392 --> 00:03:49,362 人を救う 不思議な力があるんだと➡ 37 00:03:49,362 --> 00:03:53,500 子ども心に感じてね。 38 00:03:53,500 --> 00:03:58,672 私も そんなふうに ペンで力のある言葉を生み出し➡ 39 00:03:58,672 --> 00:04:03,843 人を救ったり 人の役に立つ仕事をしたいと…。 40 00:04:03,843 --> 00:04:10,517 そうして 言葉や絵の仕事に 就くようになったんだ。 41 00:04:10,517 --> 00:04:15,188 やがて 戦争が始まり 私も召集されたんだが➡ 42 00:04:15,188 --> 00:04:18,688 戦地で結核を患い 帰国した。 43 00:04:21,695 --> 00:04:24,598 戦う事が お国のため➡ 44 00:04:24,598 --> 00:04:28,201 人々のためになると 思っていた私は➡ 45 00:04:28,201 --> 00:04:32,639 役に立てなかった自分を 責めた。 46 00:04:32,639 --> 00:04:38,979 そんな時に 内務省で 宣伝の仕事の誘いを受けたんだ。 47 00:04:38,979 --> 00:04:41,881 これは運命だと思った。 48 00:04:41,881 --> 00:04:47,654 それで 人のお役に立とうと? 49 00:04:47,654 --> 00:04:53,526 お国が勝てば 全ての国民が幸せになれる。 50 00:04:53,526 --> 00:04:59,266 それから 私は 戦地で戦う友のため➡ 51 00:04:59,266 --> 00:05:02,202 国のために尽くそうと ペンをとり 言葉を選んだ。 52 00:05:02,202 --> 00:05:05,005 ポスターも書いた。 53 00:05:05,005 --> 00:05:10,343 何の疑いもなく 「一億一心」の旗を振って➡ 54 00:05:10,343 --> 00:05:14,848 戦争に勝つ事だけを考えて 仕事をしてきた。 55 00:05:14,848 --> 00:05:21,021 だが 去年の8月15日…。 56 00:05:21,021 --> 00:05:23,523 その時 初めて気付いたんだ。 57 00:05:23,523 --> 00:05:27,694 小さい頃から 何よりも正しくて➡ 58 00:05:27,694 --> 00:05:31,364 優先して守るべき大事なものが あると 言われていた事が➡ 59 00:05:31,364 --> 00:05:33,333 実は間違っていたんじゃないかと。 60 00:05:33,333 --> 00:05:35,335 そして それまで➡ 61 00:05:35,335 --> 00:05:40,640 言葉には 人を救う力が あるものだと思ってばかりいて➡ 62 00:05:40,640 --> 00:05:44,311 言葉の力の持つ怖さの方に 無自覚のまま➡ 63 00:05:44,311 --> 00:05:47,814 それに関わってきて しまったのではないかとね。 64 00:05:47,814 --> 00:05:51,814 怖さ? そうだ。 65 00:05:53,486 --> 00:05:58,358 はぁ…。 焼夷弾は分かるよな? 66 00:05:58,358 --> 00:06:03,196 はい。 戦時中 さんざん見ましたから。 67 00:06:03,196 --> 00:06:05,999 どんなものだと教わった? 68 00:06:05,999 --> 00:06:11,671 あ… 家々を燃やすために 作られたから➡ 69 00:06:11,671 --> 00:06:14,174 落ちてきたら すぐに消すようにと。 70 00:06:14,174 --> 00:06:19,045 そう。 「爆弾は怖いが 焼夷弾は恐るるに足らず」➡ 71 00:06:19,045 --> 00:06:22,849 という言葉を 教えられただろう? はい。 72 00:06:22,849 --> 00:06:25,518 その言葉は印刷され➡ 73 00:06:25,518 --> 00:06:28,555 回覧板で回され 皆 それを目にした。 74 00:06:28,555 --> 00:06:31,791 新聞や雑誌の記事にもなった。 75 00:06:31,791 --> 00:06:37,597 だが それは 誤った言葉だったんだ。 76 00:06:37,597 --> 00:06:41,134 「爆弾は怖いが 焼夷弾は恐るるに足らず」? 77 00:06:41,134 --> 00:06:43,069 とんでもない! 78 00:06:43,069 --> 00:06:46,473 焼夷弾も 恐ろしい爆弾に 変わりはなかった。 79 00:06:46,473 --> 00:06:48,508 それを伝えてしまうと➡ 80 00:06:48,508 --> 00:06:51,344 誰も火を消そうとせず 逃げてしまう。 81 00:06:51,344 --> 00:06:53,980 火災は ますます広がる。 82 00:06:53,980 --> 00:06:59,780 それを恐れて あえて 誤った言葉を教えた。 83 00:07:01,488 --> 00:07:04,524 それを信じた人々は どうした? 84 00:07:04,524 --> 00:07:07,994 落ちてきた焼夷弾の火を 消そうと必死で➡ 85 00:07:07,994 --> 00:07:14,167 焼夷弾は怖くないと信じ込んだ 子どもたちが…➡ 86 00:07:14,167 --> 00:07:18,004 老人が 女たちが➡ 87 00:07:18,004 --> 00:07:22,204 バカ正直に バケツで水を運んだ! 88 00:07:24,511 --> 00:07:29,811 気が付いた時は 逃げ道はなかった。 89 00:07:31,618 --> 00:07:38,318 最初から逃げていれば 無駄に死なずに済んだのに…。 90 00:07:43,797 --> 00:07:47,667 私も もし 戦時中に➡ 91 00:07:47,667 --> 00:07:51,137 「『焼夷弾は怖くない』と書け」と 言われていたら➡ 92 00:07:51,137 --> 00:07:53,072 書いていただろう。 93 00:07:53,072 --> 00:07:59,479 そうしたら それを信じた無辜の命を➡ 94 00:07:59,479 --> 00:08:02,979 どれだけ奪っていたか 分からん。 95 00:08:06,352 --> 00:08:10,190 言葉の力は 恐ろしい。 96 00:08:10,190 --> 00:08:12,992 子どもの頃から➡ 97 00:08:12,992 --> 00:08:16,029 人の役に立ちたくて 人を救いたくて➡ 98 00:08:16,029 --> 00:08:18,798 ペンを握ってきた はずだったのに➡ 99 00:08:18,798 --> 00:08:23,798 そんな事も分からずに 戦時中 言葉に関わってきてしまった。 100 00:08:29,542 --> 00:08:33,313 そして 終戦になって➡ 101 00:08:33,313 --> 00:08:36,616 信じてきた事の全てが 間違っていた事に➡ 102 00:08:36,616 --> 00:08:39,118 気付かされた時➡ 103 00:08:39,118 --> 00:08:43,118 もう ペンは握らないと決めた。 104 00:08:53,466 --> 00:08:56,135 これが全てだ。 105 00:08:56,135 --> 00:08:58,435 さあ もう帰ってくれ。 106 00:09:04,811 --> 00:09:08,681 分かりました。 107 00:09:08,681 --> 00:09:11,684 今日は 帰ります。 「今日は」じゃない! 108 00:09:11,684 --> 00:09:16,384 二度と… 来るな。 109 00:09:23,496 --> 00:09:26,796 やっぱり 諦められません。 110 00:09:30,837 --> 00:09:33,606 花山さん。 111 00:09:33,606 --> 00:09:38,111 私は どうしても➡ 112 00:09:38,111 --> 00:09:41,611 女の人の役に立つ雑誌が 作りたいんです。 113 00:09:43,449 --> 00:09:48,288 たくさんの女の人たちが 今 この戦後の日本で➡ 114 00:09:48,288 --> 00:09:55,461 物がない お金もない 仕事もない…。 115 00:09:55,461 --> 00:09:59,299 先行きが見えない この ひどい状況の中で➡ 116 00:09:59,299 --> 00:10:02,635 必死に もがきながら 生きています。 117 00:10:02,635 --> 00:10:07,974 そんな 皆さんの毎日の苦しい暮らしに➡ 118 00:10:07,974 --> 00:10:12,145 少しでも 明かりを灯せるような雑誌を➡ 119 00:10:12,145 --> 00:10:14,145 作りたいんです。 120 00:10:18,484 --> 00:10:21,154 コーヒー ありがとうございました。 121 00:10:21,154 --> 00:10:23,154 また来ます。 122 00:10:24,824 --> 00:10:27,493 来んでいい! 123 00:10:27,493 --> 00:11:00,293 ♬~ 124 00:11:08,701 --> 00:11:11,001 (ため息) 125 00:11:22,215 --> 00:11:26,052 (せつ)雨漏りが? (君子)ええ すごいんです。 126 00:11:26,052 --> 00:11:27,987 (せつ)だったら ちょうどいいわ。 127 00:11:27,987 --> 00:11:30,923 今 うち 大工さんが来てるの。 戸の立てつけが悪くて。 128 00:11:30,923 --> 00:11:33,793 うちのが終わったら 君子さんとこ寄るよう言っとくわ。 129 00:11:33,793 --> 00:11:36,162 (君子)いいんですか? いいの いいの。 130 00:11:36,162 --> 00:11:38,498 あ… でも…。 131 00:11:38,498 --> 00:11:43,169 お代なら 大丈夫よ。 うちの親戚筋だから気にしないで。 132 00:11:43,169 --> 00:11:46,506 今の世の中 持ちつ持たれつよ。 133 00:11:46,506 --> 00:11:48,441 ありがとうございます。 134 00:11:48,441 --> 00:11:51,010 じゃ 大工さんに伝えとくね。 はい すみません。 135 00:11:51,010 --> 00:11:53,010 またね。 はい。 136 00:12:25,912 --> 00:12:28,214 ごめんください。 137 00:12:28,214 --> 00:12:30,414 (君子)は~い! 138 00:12:37,490 --> 00:12:39,425 はい。 139 00:12:39,425 --> 00:12:43,830 あの… こちらは 小橋さんのお宅ですか? 140 00:12:43,830 --> 00:12:48,000 あら 随分 お早いんですね。 141 00:12:48,000 --> 00:12:50,903 はい? お待ちしておりました。 142 00:12:50,903 --> 00:12:52,872 よろしくお願い致します。 143 00:12:52,872 --> 00:12:56,175 待っていた? 私をですか? 144 00:12:56,175 --> 00:13:00,680 ええ。 さあさあ どうぞ どうぞ こちらへ。 145 00:13:00,680 --> 00:13:05,184 さあさあ どうぞ。 いや…。 146 00:13:05,184 --> 00:13:08,884 さあさあさあ どうぞ どうぞ。 お上がりになって。 147 00:13:14,861 --> 00:13:18,197 これなんです。 148 00:13:18,197 --> 00:13:21,697 何がです? 天井です。 149 00:13:26,873 --> 00:13:29,375 随分 ガタが来ているようだが。 150 00:13:29,375 --> 00:13:31,978 さすが 分かるんですね。 151 00:13:31,978 --> 00:13:33,913 そりゃ 見れば分かりますよ。 152 00:13:33,913 --> 00:13:36,482 天井のほかにも 家のあちこちが傷んでいる。 153 00:13:36,482 --> 00:13:39,819 そうなんですよ。 女しか いないもので➡ 154 00:13:39,819 --> 00:13:42,722 どうしても 手入れが行き届かなくて。 155 00:13:42,722 --> 00:13:44,690 はぁ…。 156 00:13:44,690 --> 00:13:49,162 あっ すみません。 では お願いします。 157 00:13:49,162 --> 00:13:53,499 いや ちょっと待って下さい。 すみません。 私 夕飯の支度が。 158 00:13:53,499 --> 00:13:55,535 いやいや 待って下さい。 お願いとは 一体…。 159 00:13:55,535 --> 00:13:58,838 (美子)ただいま帰りました。 (君子)あっ お帰りなさい。 160 00:13:58,838 --> 00:14:02,038 かか 遅くなって ごめんなさい。 ううん。 161 00:14:03,676 --> 00:14:07,013 雑誌は まり姉ちゃんに任せて 手伝いに戻ってきました。 162 00:14:07,013 --> 00:14:11,184 あら いいのに。 だって 雨漏りの修理は? 163 00:14:11,184 --> 00:14:15,984 それがね 大工さんに来て頂けたの。 164 00:14:17,857 --> 00:14:19,792 そうなんですか。 165 00:14:19,792 --> 00:14:22,695 よろしくお願いします。 いや 私は…。 166 00:14:22,695 --> 00:14:24,630 私も手伝います。 そうじゃない! 167 00:14:24,630 --> 00:14:26,866 あの… 何か勘違いを なさっているようですが➡ 168 00:14:26,866 --> 00:14:29,166 私は 雨漏りの修理になど…。 169 00:14:30,736 --> 00:14:36,309 こんなに しやがって…。 170 00:14:36,309 --> 00:14:38,609 あぁ~! 171 00:14:40,980 --> 00:14:42,980 あの…。 172 00:14:44,851 --> 00:14:48,154 道具は どこだい? 173 00:14:48,154 --> 00:14:50,089 道具? 174 00:14:50,089 --> 00:14:54,827 金づちやらの大工道具だよ。 175 00:14:54,827 --> 00:14:57,663 大工さんなのに 持ってないんですか? 176 00:14:57,663 --> 00:14:59,599 いいから 持ってきなさい! 177 00:14:59,599 --> 00:15:01,599 はい! 178 00:15:06,372 --> 00:15:09,275 この ちゃぶ台 どかします。 179 00:15:09,275 --> 00:15:11,210 あっ はい。 180 00:15:11,210 --> 00:15:14,213 せ~の はい! はい! 181 00:15:14,213 --> 00:15:17,049 せ~の はい! はい! 182 00:15:17,049 --> 00:15:19,249 せ~の はい! (君子)はい!