1 00:00:02,928 --> 00:00:05,681 (私の声) 視聴者諸君 この超軽量 究極のマシンを見よ 2 00:00:05,806 --> 00:00:07,433 斜め風も 推進力に変えてしまうという― 3 00:00:07,558 --> 00:00:08,642 最高のエアロホイール 4 00:00:08,768 --> 00:00:10,644 サドルは合成皮なし 成形カーボンの板 5 00:00:10,770 --> 00:00:13,356 追求された機能美は もはや 一つの芸術である 6 00:00:13,481 --> 00:00:14,982 もちろん このマシンを 手に入れるために― 7 00:00:15,107 --> 00:00:16,317 あらゆるものを犠牲にしてきた 8 00:00:16,442 --> 00:00:19,028 学業を捨て バイトに励み 自転車に乗る時間さえ惜しんで― 9 00:00:19,153 --> 00:00:20,362 このマシンに懸けてきたのだ 10 00:00:20,488 --> 00:00:21,655 しかし 週末は“しまなみ杯” 11 00:00:21,781 --> 00:00:23,407 こいつで勝利は もらったも同然だ 12 00:00:23,532 --> 00:00:24,950 そして ウイニングランの先には― 13 00:00:25,076 --> 00:00:26,911 いよいよ 薔薇色(ばらいろ)のキャンパスライフが! 14 00:00:27,036 --> 00:00:28,204 (チャイムの音) 15 00:00:28,329 --> 00:00:31,040 (女性)すいません 持ってきて 開いてるから 16 00:00:31,415 --> 00:00:33,876 (私の声)私は あらゆることに 全ての対策を取る男である 17 00:00:34,001 --> 00:00:36,212 これなら油圧カッターでも ないかぎり 切られることはない 18 00:00:37,296 --> 00:00:39,757 (油圧カッターの音) (私)ああっ! 19 00:00:39,882 --> 00:00:41,967 (私) まっ 待て! 私の自転車だ! 20 00:00:42,426 --> 00:00:43,803 私の2年間を持ってくな! 21 00:00:43,928 --> 00:00:44,762 ちょっと… ああ! 22 00:00:47,473 --> 00:00:49,225 返せ! ああ… 23 00:00:50,726 --> 00:00:52,728 (私の声)しかし あっさりと 私の2年間の結晶は 24 00:00:52,853 --> 00:00:54,355 水泡(すいほう)に帰してしまった 25 00:00:54,897 --> 00:00:56,899 ヤツらは“自転車にこやか整理軍” といい― 26 00:00:57,024 --> 00:00:59,318 違法駐輪自転車を取り締まる 謎の自治サークルだ 27 00:00:59,901 --> 00:01:01,237 そもそもは キャンパス内の自転車を― 28 00:01:01,362 --> 00:01:03,823 ひたすら整理することに奉仕する ボランティア団体だったが― 29 00:01:03,948 --> 00:01:05,074 近年では 奇妙に姿を変え― 30 00:01:05,199 --> 00:01:06,992 ちょっとでも 駐輪スペースを出た自転車を― 31 00:01:07,118 --> 00:01:09,870 強制的に撤去し その自転車は二度と返ってこない 32 00:01:09,995 --> 00:01:12,331 噂(うわさ)では京都市内のレンタサイクルに 流れるとも― 33 00:01:12,456 --> 00:01:14,959 日本海に運ばれ 北の国に 売られていくとも言われている 34 00:01:15,084 --> 00:01:17,711 最近では 学内のみならず 京都全域にも勢力を伸ばし― 35 00:01:17,837 --> 00:01:19,547 大学を出ても油断はできない 36 00:01:19,672 --> 00:01:23,551 そんな平和な生活を脅かす彼らは 京都の学生たちの憎(にっく)き敵である 37 00:01:24,093 --> 00:01:25,803 なにゆえ こんなことに なってしまったのか― 38 00:01:25,928 --> 00:01:27,847 責任者に問いただす必要がある 39 00:01:27,972 --> 00:01:29,640 責任者は どこか? 40 00:01:30,850 --> 00:01:36,856 ♪~ 41 00:02:48,701 --> 00:02:54,707 ~♪ 42 00:03:01,547 --> 00:03:04,341 (私の声) 当時 ピカピカの大学1回生だった 私の目の前には 43 00:03:04,466 --> 00:03:07,094 薔薇色のキャンパスライフへの扉が 無数に開かれていた 44 00:03:07,219 --> 00:03:09,471 しかし 私は合格発表の時から 誘いを受けていた― 45 00:03:09,596 --> 00:03:11,056 あるサークルに心を決めていた 46 00:03:12,308 --> 00:03:13,434 その名は… 47 00:03:16,729 --> 00:03:18,939 そこには光輝く 純銀製の未来があった 48 00:03:19,064 --> 00:03:21,358 黒髪の乙女たちと 組んず解れつの恋のランデブー 49 00:03:21,483 --> 00:03:23,527 場合によっては2人乗りも辞さない 50 00:03:24,153 --> 00:03:27,740 そう考えていた私は 手の施しようのないアホだった 51 00:03:28,616 --> 00:03:29,992 太陽を求めて飛んだばっかりに― 52 00:03:30,117 --> 00:03:32,036 蝋(ろう)で固めた羽が溶け 墜落したイカロス 53 00:03:32,161 --> 00:03:33,746 薔薇色のキャンパスライフを 求めた私は― 54 00:03:33,871 --> 00:03:35,581 まさしく それであり サイクリング同好会は― 55 00:03:35,706 --> 00:03:38,917 同好会とは名ばかりの ガチンコ自転車サークルであった 56 00:03:41,503 --> 00:03:44,006 そうして 早くも絶望しかけた私の足元に― 57 00:03:44,131 --> 00:03:47,635 海から上がってきた 半魚人のような顔をした男がいた 58 00:03:49,762 --> 00:03:51,889 貴様 速やかに海へ帰れ! 59 00:03:52,014 --> 00:03:54,224 (小津(おづ)) あなた ヒドいことを おっしゃる 60 00:03:54,350 --> 00:03:56,310 僕は あなたの同志ですよ 61 00:03:56,435 --> 00:03:58,145 (私の声)これが小津との ファーストコンタクトであり 62 00:03:58,270 --> 00:03:59,647 ワーストコンタクトでもあった 63 00:03:59,772 --> 00:04:01,690 (小津) ひざの軟骨 すり減らしてまで― 64 00:04:01,815 --> 00:04:04,902 脚を速く回転させて 何が楽しいんでしょうかね? 65 00:04:05,361 --> 00:04:07,278 もっと楽しく生きましょうや 66 00:04:07,403 --> 00:04:10,114 (先輩)おい ラン 行くぞ (私)はい! 67 00:04:10,866 --> 00:04:14,328 運命に あらがっても しかたないですのに 68 00:04:15,871 --> 00:04:17,581 (私の声)トレーニングは 思うさま 苦しかった 69 00:04:17,706 --> 00:04:19,208 しかし この苦しみを 乗り越えてこそ― 70 00:04:19,333 --> 00:04:21,877 薔薇色の未来が待っていると信じて 私はペダルをこいだ 71 00:04:22,002 --> 00:04:24,713 ローディーの世界では 速い者のみが認められ 称賛される 72 00:04:24,838 --> 00:04:27,216 速さこそ正義だ 速さこそ 格好よさだ 73 00:04:29,343 --> 00:04:31,470 高校時代は運動部に 所属していたわけでもなく― 74 00:04:31,595 --> 00:04:33,514 むしろ できるだけ活動せずに 息を潜めて― 75 00:04:33,639 --> 00:04:36,642 同じように非活動的な男たちと くすぶっている ばかりだった 76 00:04:36,767 --> 00:04:37,810 (私)ああっ! 77 00:04:38,352 --> 00:04:40,312 (私の声)そんな私にとって 本格的な体育会など 78 00:04:40,437 --> 00:04:41,563 はなから荷が重すぎた 79 00:04:41,689 --> 00:04:43,315 体を鍛えようにも 虚弱体質なので― 80 00:04:43,440 --> 00:04:44,942 そもそも トレーニングが おぼつかない 81 00:04:45,067 --> 00:04:47,403 もちろん大会で いい結果を残せるはずもなく― 82 00:04:47,945 --> 00:04:50,989 私はズルズルと 1回生を無駄にしていった 83 00:04:53,200 --> 00:04:55,577 (ドアの開閉音) 84 00:04:55,703 --> 00:04:59,123 (小津) 相変わらず アホみたいに 鶏肉ばかり食ってますね 85 00:04:59,248 --> 00:05:01,834 (私)うるさい これが一番のタンパク源なんだ 86 00:05:01,959 --> 00:05:04,962 やれやれ 金もないくせに ご苦労なこってす 87 00:05:05,087 --> 00:05:07,256 鶏肉なんかより ねぎ付きタン塩 食わせてください 88 00:05:07,381 --> 00:05:08,215 これでも食らえ! 89 00:05:08,340 --> 00:05:10,008 (私の声)小津はサークルには 顔を出さなかったが 90 00:05:10,134 --> 00:05:12,010 私の部屋には頻繁に訪ねてきた 91 00:05:12,136 --> 00:05:13,262 なんでも この下宿の2階に― 92 00:05:13,387 --> 00:05:14,847 小津の師匠なる人物が 住んでいて― 93 00:05:14,972 --> 00:05:16,390 そこへ通う ついでらしい 94 00:05:16,515 --> 00:05:19,101 おおかた 猥談(わいだん)の師匠であろうと 私は推察していた 95 00:05:19,226 --> 00:05:20,436 あっ? 96 00:05:20,936 --> 00:05:22,563 ああ… ええっ!? 97 00:05:22,896 --> 00:05:24,606 眉毛が つり上がってますよ 98 00:05:24,732 --> 00:05:26,775 そんなに気を張って どうなるんですか? 99 00:05:26,900 --> 00:05:29,695 (私)うるさい! お前のように 無意義に過ごすつもりはないんだ! 100 00:05:29,820 --> 00:05:32,448 ヒドいなあ 私は無意義な学生生活を― 101 00:05:32,573 --> 00:05:34,408 力いっぱい エンジョイしているのです 102 00:05:34,533 --> 00:05:36,702 とやかく言われる筋合いは ございません 103 00:05:36,827 --> 00:05:37,870 (私)帰れ! (小津)ニヒヒッ 104 00:05:37,995 --> 00:05:39,580 (私)私の足を引っ張るな! 105 00:05:40,122 --> 00:05:42,541 (私)クソッ あいつめ 106 00:05:43,584 --> 00:05:45,586 んっ? こんな物を… 107 00:05:46,962 --> 00:05:49,214 (私の声)そこには 古今東西 ありとあらゆる自転車や 108 00:05:49,339 --> 00:05:51,633 エアロパーツについての情報が 満載であった 109 00:05:51,758 --> 00:05:52,759 はあっ 110 00:05:53,218 --> 00:05:54,511 (私の声)私には体力がない 111 00:05:54,636 --> 00:05:56,805 ならば 自転車のスペックで 勝負するのは どうか? 112 00:05:56,930 --> 00:05:59,725 貧弱な私にも 活路が開けるのではないか? 113 00:06:01,643 --> 00:06:04,897 光明が見えた私は 2回生になって 方向転換した 114 00:06:06,773 --> 00:06:10,068 今 思えば これが更なる不幸の始まりであった 115 00:06:10,569 --> 00:06:12,488 よい自転車を手に入れるには 金が かかる 116 00:06:13,030 --> 00:06:14,781 わずか1グラム 2グラムを 軽くするために― 117 00:06:14,907 --> 00:06:16,033 大量の金が必要になる 118 00:06:16,158 --> 00:06:17,743 ホイール タイヤ シューズの軽量化 119 00:06:17,868 --> 00:06:19,453 ハンドル ステム コンパクトクランク 120 00:06:19,578 --> 00:06:21,497 少しでも いい自転車を 手に入れるべく― 121 00:06:21,622 --> 00:06:23,957 私は勉学そっちのけで ありとあらゆるバイトに打ち込み 122 00:06:24,082 --> 00:06:26,001 時には違法なバイトにまで 手を染めた 123 00:06:27,169 --> 00:06:29,046 私は ただひたすら 貯蓄の鬼となり― 124 00:06:29,171 --> 00:06:31,465 ついに2回生の冬 友人知人から借金をして― 125 00:06:31,590 --> 00:06:34,343 考え得るフルスペックマシンを 手に入れた 126 00:06:35,844 --> 00:06:38,764 なんという軽さ これは そう… 私の翼だ 127 00:06:38,889 --> 00:06:41,767 彼女となら どこまでも 飛べる気がした 128 00:06:43,185 --> 00:06:45,729 もちろん にこやか整理軍の噂は かねてより聞いていたので― 129 00:06:46,230 --> 00:06:48,023 私は細心の注意を払った 130 00:06:48,774 --> 00:06:50,734 …とはいえ 新しい自転車は いとおしく― 131 00:06:50,859 --> 00:06:53,737 どこへ行くにも つい彼女を 連れ出してしまうのだった 132 00:06:54,696 --> 00:06:56,698 (私)すまんな まなみ 133 00:07:05,541 --> 00:07:07,209 (私の声) 一瞬の気の緩みだった 134 00:07:07,334 --> 00:07:10,587 まさか整理軍のヤツらが ここまで強引な やり口だとは 135 00:07:10,712 --> 00:07:13,173 私の愛車は恐らく もう二度と返ってこない 136 00:07:13,298 --> 00:07:14,842 これが 今の私だというのか? 137 00:07:14,967 --> 00:07:18,053 この2年間で残されたのは この貧弱な体だけだというのか? 138 00:07:18,178 --> 00:07:20,013 その事実に目をつぶっては ならぬ 139 00:07:20,347 --> 00:07:22,474 しかし いささか見るに堪えない 140 00:07:24,268 --> 00:07:25,269 (ぶつかる音) (私)うわ! 141 00:07:26,854 --> 00:07:27,980 まなみ! 142 00:07:32,442 --> 00:07:34,695 まなみー! 143 00:07:38,991 --> 00:07:40,576 気でも触れたか? 144 00:07:40,701 --> 00:07:43,078 (私)いえ 今までが どうかしてたんです 145 00:07:43,203 --> 00:07:45,038 (私の声) 私は大切なものを見失っていた 146 00:07:45,163 --> 00:07:46,290 入学時に生協で買って2年― 147 00:07:46,415 --> 00:07:48,709 ずっと苦楽を共にしてきたのは この まなみ号である 148 00:07:48,834 --> 00:07:51,753 一度はロードバイクに 心を 奪われた私だったが もう迷わない 149 00:07:51,879 --> 00:07:54,548 まなみ号こそが 私にとっての人生の伴侶である 150 00:07:55,090 --> 00:07:57,801 しかし 運命が早くも 私と まなみを引き裂いた 151 00:07:57,926 --> 00:08:00,637 (私) あっ まなみ… 私の まなみは? 152 00:08:00,762 --> 00:08:01,597 知らないよ 153 00:08:01,722 --> 00:08:03,515 (スターターピストルの音) (私)ああっ! 154 00:08:03,932 --> 00:08:05,017 (私の声) 考えられぬことだが 155 00:08:05,142 --> 00:08:06,935 まなみ号は 出場車両でないと勘違いされ― 156 00:08:07,060 --> 00:08:08,729 ゴール地点まで 運ばれてしまったという 157 00:08:08,854 --> 00:08:10,731 そのことが分かるまでに 大幅に時間が かかり― 158 00:08:10,856 --> 00:08:11,732 私がスタートしたのは― 159 00:08:11,857 --> 00:08:14,276 レース開始から4時間経(た)った 昼下がりであった 160 00:08:15,402 --> 00:08:16,904 しまなみ杯は尾道(おのみち)から四国まで― 161 00:08:17,029 --> 00:08:19,156 島々に架けられた橋を渡って 横断していく 162 00:08:19,281 --> 00:08:21,491 橋を1つ越えるごとに 島に下りて 海岸線を走り― 163 00:08:21,617 --> 00:08:24,452 また橋を上るという アップダウンの激しいコースだ 164 00:08:24,577 --> 00:08:27,497 まなみ お前は なんて重いんだー! 165 00:08:27,623 --> 00:08:30,334 うっ ああっ ああ… 166 00:08:31,460 --> 00:08:33,754 (私の声)レースの参加者たちは 今 どこを走っているのか? 167 00:08:33,879 --> 00:08:35,881 いや 果たして まだレースは 行われているのか? 168 00:08:36,006 --> 00:08:38,050 うーん… ええっ!? 169 00:08:40,510 --> 00:08:41,637 すみません 170 00:08:41,762 --> 00:08:43,180 えっ? まだ いたの? 171 00:08:43,305 --> 00:08:45,390 にぎやかしは要らないんだよね 172 00:08:46,808 --> 00:08:48,477 (私の声) それでも なお完走だけを 目標としたが 173 00:08:48,602 --> 00:08:50,187 夜になり コースの表示も見えなくなった 174 00:08:50,812 --> 00:08:52,189 私は何のために走っているのか? 175 00:08:52,314 --> 00:08:53,941 そもそも 何のために大学に入ったのか? 176 00:08:54,066 --> 00:08:56,652 まなみ号って なんだ!? 単なるママチャリではないか! 177 00:08:58,570 --> 00:08:59,738 (アナウンサー) 続いてのニュースです 178 00:08:59,863 --> 00:09:04,201 今日 広島県尾道市で 第10回 しまなみ杯が開かれました 179 00:09:04,326 --> 00:09:08,372 総勢240人のレーサーによる 熱いレースが繰り広げられ― 180 00:09:08,497 --> 00:09:12,459 レースの結果 見事に優勝したのは 京都府の樋口(ひぐち)さん 181 00:09:14,586 --> 00:09:16,463 (私)あれは私の2年間の結晶だ! 182 00:09:17,130 --> 00:09:18,215 間違いない! 183 00:09:19,257 --> 00:09:22,427 (アナウンサー) 応援してくれた弟子たちのためにも 結果が出せて… 184 00:09:22,552 --> 00:09:23,595 (私)くうっ! 185 00:09:24,012 --> 00:09:26,181 もういい もういい! 帰る! 186 00:09:26,723 --> 00:09:28,392 (戸の開閉音) 187 00:09:29,059 --> 00:09:31,061 (私の声) 今まで私が使ってきた 膨大なエネルギーは 188 00:09:31,186 --> 00:09:32,145 どこへ消えてしまったか 189 00:09:32,270 --> 00:09:34,439 エネルギー保存則に反する 計算が合わない 190 00:09:34,564 --> 00:09:36,775 これは近代物理学への 冒涜(ぼうとく)ではないか! 191 00:09:39,444 --> 00:09:41,989 そんなことを考えているうちに 朝が来て 夜になり― 192 00:09:42,114 --> 00:09:43,365 また朝が来て 夜になり― 193 00:09:43,490 --> 00:09:45,909 気が付くと 木屋町(きやまち)へと やってきていた 194 00:09:48,245 --> 00:09:51,873 (占い婆(ばば))今の あなたの顔は 大変 もどかしいという顔 195 00:09:51,999 --> 00:09:52,916 不満ですね 196 00:09:53,375 --> 00:09:56,628 あなたは大変 真面目で 才能も おありのようじゃし 197 00:09:56,753 --> 00:09:59,131 (私の声) 老婆の慧眼(けいがん)に私は早くも脱帽した 198 00:09:59,256 --> 00:10:02,634 とにかく 好機を逃さないことが肝心じゃ 199 00:10:02,759 --> 00:10:03,760 好機? 200 00:10:03,885 --> 00:10:05,804 (占い婆)好機は いつでも あなたの目の前に― 201 00:10:05,929 --> 00:10:07,139 ぶら下がってございます 202 00:10:07,264 --> 00:10:09,141 それを捕まえてごらんなさい 203 00:10:09,266 --> 00:10:10,642 はい 3千円 204 00:10:10,767 --> 00:10:13,437 また値上がり …ていうか 早っ! 205 00:10:14,146 --> 00:10:16,732 (私の声)私は どうやら 不毛の海へと落ちてしまったらしい 206 00:10:17,858 --> 00:10:20,569 いや 最初から 飛び立ってさえないのかもしれぬ 207 00:10:23,488 --> 00:10:27,576 結局 私は小津の言うとおり 無意義な学生生活を送る運命なのだ 208 00:10:31,955 --> 00:10:36,001 (いびき) 209 00:10:39,046 --> 00:10:40,464 (明石(あかし)さん) さらってしまって すみません 210 00:10:40,839 --> 00:10:43,467 このまま 私のサークルボックスまで行きます 211 00:10:43,592 --> 00:10:45,677 先輩に 折り入って お願いが あるのです 212 00:10:45,802 --> 00:10:47,220 あっ 明石さん? 213 00:10:47,345 --> 00:10:50,682 (私の声) 明石さんは私の1つ下の学年で 工学部に所属していた 214 00:10:50,807 --> 00:10:53,060 昨年 ソレイユに 唯一の女子部員として籍を置き― 215 00:10:53,185 --> 00:10:56,354 蹴上(けあげ)で行われたロードレースでは なんと総合優勝を果たしていた 216 00:10:57,064 --> 00:10:59,107 優勝賞金は何に使うの? 217 00:10:59,232 --> 00:11:00,859 お答えする必要はありません 218 00:11:01,651 --> 00:11:02,652 (私の声) そんな健脚にして 219 00:11:02,778 --> 00:11:04,571 他を寄せつけぬ雰囲気を持つ 彼女だが 220 00:11:04,696 --> 00:11:06,364 レースそのものには興味が なかったらしく― 221 00:11:06,490 --> 00:11:07,741 今ではソレイユを辞めて― 222 00:11:07,866 --> 00:11:10,786 優勝賞金を全て 今のサークルに つぎ込んでいるらしい 223 00:11:11,453 --> 00:11:12,704 こちらです 224 00:11:12,829 --> 00:11:14,372 (何かの音) (私)んっ? 225 00:11:14,873 --> 00:11:16,124 (磨く音) 226 00:11:16,249 --> 00:11:17,083 (2人)ウフッ 227 00:11:17,209 --> 00:11:19,419 怪しげな所で すみません 228 00:11:19,544 --> 00:11:20,462 わあっ 229 00:11:27,344 --> 00:11:30,096 (チェーンソーの音) 230 00:11:32,974 --> 00:11:34,434 (明石さん)いらっしゃいました 231 00:11:34,559 --> 00:11:37,646 (部長)君か! ソレイユから 脱落した人っていうのは 232 00:11:37,771 --> 00:11:38,688 (私)は… はあ 233 00:11:38,814 --> 00:11:40,232 こちら うちの部長です 234 00:11:40,357 --> 00:11:43,235 (部長)なるほど 実に頼りない体をしている 235 00:11:43,360 --> 00:11:46,238 そういう人こそ 鳥人間には ふさわしい 236 00:11:46,696 --> 00:11:47,864 鳥人間? 237 00:11:47,989 --> 00:11:50,784 (部長) ようこそ 我がバードマン・チームへ 238 00:11:50,909 --> 00:11:52,744 (私)え… (明石さん)うん 239 00:11:54,663 --> 00:11:56,832 (部員1)体重 59キロ (部員2)胸囲 80センチ 240 00:11:56,957 --> 00:11:58,458 (部員3)ウエスト 70センチ 241 00:11:58,583 --> 00:12:00,585 (明石さん) さすが理想的なボディーです 242 00:12:00,877 --> 00:12:02,754 一体 これは何なのですか? 243 00:12:03,255 --> 00:12:06,216 明石君は うちの優秀なエンジニアでね 244 00:12:06,341 --> 00:12:08,802 どうやら 君に興味があるらしい 245 00:12:08,927 --> 00:12:11,346 こうして 機体は おおかた出来ているものの― 246 00:12:11,471 --> 00:12:12,806 うちのサークルには 今― 247 00:12:12,931 --> 00:12:14,975 あれに ふさわしいパイロットが いないんです 248 00:12:15,600 --> 00:12:17,394 何も しなくても構いません 249 00:12:17,519 --> 00:12:18,812 ただ 先輩の その体で― 250 00:12:19,312 --> 00:12:21,565 パイロットに なってくださいませんか? 251 00:12:21,690 --> 00:12:22,524 えっ? 252 00:12:22,649 --> 00:12:24,776 (部長) 君が あの飛行機に乗るんだ 253 00:12:24,901 --> 00:12:27,654 いや しかし 私は体力もないし ソレイユでも落ちこぼれて… 254 00:12:27,779 --> 00:12:31,700 (部長) それだ! できるだけ貧弱な体が パイロットには不可欠だ 255 00:12:31,825 --> 00:12:33,535 (明石さん)もちろん それだけでは ありませんが 256 00:12:33,660 --> 00:12:36,079 先輩は 理想的なパイロットなんです 257 00:12:36,204 --> 00:12:38,164 特別な練習は要りません ただ― 258 00:12:38,290 --> 00:12:41,251 そのままの体で 大会に来てください 259 00:12:41,376 --> 00:12:42,919 (部長)インフルエンザに かからないよう― 260 00:12:43,044 --> 00:12:45,005 体にだけは気を付けてくれよ 261 00:12:46,047 --> 00:12:46,965 うん 262 00:12:49,259 --> 00:12:50,635 (私の声)急な展開だ 263 00:12:51,177 --> 00:12:52,429 有無を言わせぬ雰囲気だったが― 264 00:12:52,554 --> 00:12:55,098 要するに体(てい)のいい ただの捨て石ではないか 265 00:12:55,223 --> 00:12:57,017 バードマン・コンテストとは こげども こげども― 266 00:12:57,142 --> 00:12:59,603 最後は必ず海に落ちるという 難儀な競技だ 267 00:12:59,728 --> 00:13:01,563 つまり 私でなくとも 誰でも よいのだ 268 00:13:01,688 --> 00:13:04,065 あの高さから真っ逆さまに 海面に… 怖いじゃないか! 269 00:13:04,190 --> 00:13:06,568 みっともないし これ以上 負けをこじらせたくない 270 00:13:06,693 --> 00:13:08,653 (蛾(が)の羽音) (私)あっ? 271 00:13:12,407 --> 00:13:15,493 (私の声)それは去年の春 蹴上のロードレースであった 272 00:13:15,952 --> 00:13:19,080 最初 勢いよく飛び出したものの 早速 息切れした私は― 273 00:13:19,205 --> 00:13:21,374 疎水(そすい)のインクラインを ボーッと見上げていた 274 00:13:22,250 --> 00:13:24,336 あそこの発電所はステキです 275 00:13:24,461 --> 00:13:27,839 怪しげな機械が入り組んでいて 心 かきたてられます 276 00:13:28,256 --> 00:13:30,800 (私) 確かに 桜の季節など格別 277 00:13:32,510 --> 00:13:34,346 あっ 明石さん 急がなくては 278 00:13:34,471 --> 00:13:36,389 女子優勝候補ではないか 279 00:13:36,806 --> 00:13:39,684 そうでした では私は これで 280 00:13:40,143 --> 00:13:41,895 桜 ステキですね 281 00:13:42,938 --> 00:13:44,731 (私の声)そうして 明石さんは女子優勝どころか 282 00:13:44,856 --> 00:13:46,066 総合優勝まで果たした 283 00:13:46,191 --> 00:13:47,734 その時 私が見たものは― 284 00:13:47,859 --> 00:13:49,736 明石さんが ぶら下げていた モチグマンである 285 00:13:49,861 --> 00:13:52,155 5匹で一揃(ひとそろ)いなのを 1匹 なくしてしまったらしい 286 00:13:52,656 --> 00:13:54,157 そのあと たまたま見つけたモチグマンを― 287 00:13:54,282 --> 00:13:57,619 彼女に渡すのを忘れたまま 今日まで きてしまった 288 00:13:57,744 --> 00:14:01,957 (占い婆) 好機は いつでも あなたの目の前に ぶら下がってございます 289 00:14:02,832 --> 00:14:04,250 (私の声) どうせ一度は墜落した身だ 290 00:14:04,376 --> 00:14:05,669 落ち方なら心得ている 291 00:14:05,794 --> 00:14:07,420 心を決めて エイヤッと飛ぶだけでいい 292 00:14:07,545 --> 00:14:10,006 墜落した私を明石さんは 笑顔で迎えてくれるだろう 293 00:14:10,131 --> 00:14:12,259 そして そのあとは 明石さんの後ろに乗って― 294 00:14:12,384 --> 00:14:13,843 インクラインの桜を! 295 00:14:14,219 --> 00:14:16,429 …って 待て! そんな ふやけた思いでいいのか? 296 00:14:16,554 --> 00:14:17,931 お前の夢は まずい くずきりのように― 297 00:14:18,056 --> 00:14:19,599 ペラペラで甘いもので なかったはずだ 298 00:14:19,724 --> 00:14:22,143 ここで おめおめと 未来を下方修正していいのか? 299 00:14:22,269 --> 00:14:23,144 太陽を目指すことなく― 300 00:14:23,270 --> 00:14:25,105 地上で のうのうと暮らして なにが イカロスか! 301 00:14:25,230 --> 00:14:27,649 それでは ただの羽が目障りな男ではないか 302 00:14:29,985 --> 00:14:31,861 理想と現実のはざまで 揺れ動きながら― 303 00:14:31,987 --> 00:14:33,905 私は ここ数日の 怒濤(どとう)のような展開と― 304 00:14:34,030 --> 00:14:36,324 四国から京都へ不眠不休で 帰ってきたことの疲れで― 305 00:14:36,449 --> 00:14:38,326 泥のような眠りについた 306 00:14:40,912 --> 00:14:42,664 (城ヶ崎(じょうがさき)先輩) 私に ついてこれるかな? 307 00:14:43,081 --> 00:14:45,166 (私の声)その男は 映画サークル “みそぎ”を主催する 308 00:14:45,292 --> 00:14:46,626 城ヶ崎という男だった 309 00:14:46,751 --> 00:14:48,878 女の乳とトレーニングを 生きがいとする この男に― 310 00:14:49,004 --> 00:14:50,297 私は教えを請うた 311 00:14:50,422 --> 00:14:51,715 そう 私は決めたのだ 312 00:14:51,840 --> 00:14:54,175 誰よりも遠く 誰よりも高く 飛翔(ひしょう)してみせる 313 00:14:54,301 --> 00:14:55,927 そして 優勝した暁には まなみ号の後ろに― 314 00:14:56,052 --> 00:14:59,180 明石さんを乗せて インクラインの桜を見にいくのだ 315 00:14:59,848 --> 00:15:02,475 (城ヶ崎先輩) いいか? 勝利こそが全てだ 316 00:15:02,600 --> 00:15:03,643 戦うことを逃れ― 317 00:15:03,768 --> 00:15:06,688 ひょうひょうと生きる 樋口のような男を私は許さない 318 00:15:06,813 --> 00:15:08,481 男なら 勝利をつかめ! 319 00:15:08,606 --> 00:15:11,318 勝利と女の乳をつかめ! 320 00:15:12,152 --> 00:15:14,112 (私の声)城ヶ崎先輩の教えは 実に明解であり 321 00:15:14,237 --> 00:15:16,197 私のモチベーションは どんどん上昇していった 322 00:15:16,323 --> 00:15:18,199 バードマン・コンテストは テレビ中継もされる― 323 00:15:18,325 --> 00:15:19,534 サークル活動の花形である 324 00:15:19,659 --> 00:15:21,578 そこで優勝すれば 京都全域の黒髪の乙女に― 325 00:15:21,703 --> 00:15:23,246 注目されること間違いなしだ 326 00:15:23,371 --> 00:15:24,289 明石さんのみならず― 327 00:15:24,414 --> 00:15:26,875 これからは あらゆる女性を 視野に入れる必要があるだろう 328 00:15:27,000 --> 00:15:29,461 しかし これは勝者には 避けて通れぬ試練なのだ 329 00:15:30,128 --> 00:15:33,506 ヘヘヘヘッ まったく ヒーローは ツラいですなあ 330 00:15:33,882 --> 00:15:34,758 (城ヶ崎先輩)うん? 331 00:15:36,426 --> 00:15:37,510 (ブレーキ音) 332 00:15:38,845 --> 00:15:39,763 あっ! 333 00:15:39,888 --> 00:15:40,764 ああっ! 334 00:15:40,889 --> 00:15:41,765 ええっ!? 335 00:15:41,890 --> 00:15:42,932 あああっ 336 00:15:43,058 --> 00:15:44,976 (部長) 君 なんてこと してくれたんだ! 337 00:15:45,101 --> 00:15:47,020 そのままでいいと言ってたのに! 338 00:15:47,479 --> 00:15:49,981 筋肉が ついてるじゃないか! 339 00:15:50,106 --> 00:15:51,691 (部長)台無(だいな)しだ! (私)しかし… 340 00:15:52,233 --> 00:15:54,319 明石君の飛行機は とても厳密― 341 00:15:54,444 --> 00:15:58,323 かつ繊細な航空力学に基づいて 設計されているのだよ 342 00:15:58,448 --> 00:16:00,283 体重が10グラムでも変わると― 343 00:16:00,408 --> 00:16:03,453 それに応じて図面を 引き直さねば ならんのに! 344 00:16:03,953 --> 00:16:06,206 ああ 台無しだ 台無しだあ 345 00:16:06,331 --> 00:16:08,708 もういい やはり明石君がパイロットやれ! 346 00:16:08,833 --> 00:16:12,087 君は もう その筋肉と一緒に 帰ってもらって結構だ 347 00:16:12,379 --> 00:16:15,965 それでなくても 整理軍対策で 頭が いっぱいなのにー! 348 00:16:16,800 --> 00:16:18,176 早く帰ってくれ! 349 00:16:18,593 --> 00:16:21,471 明石君 君も早く作業に戻れ! 350 00:16:25,392 --> 00:16:28,144 (明石さん)すみませんでした 変なことに巻き込んでしまって 351 00:16:28,645 --> 00:16:32,273 (私)私こそ すまなかったね 期待に応えられなくて 352 00:16:32,399 --> 00:16:35,860 (明石さん)いいえ むしろ 期待に応えられすぎてしまいました 353 00:16:36,820 --> 00:16:41,408 バードマンというのは そもそも 人間の理(ことわり)に反した不条理な行為です 354 00:16:41,533 --> 00:16:44,911 だからこそ そのパイロットは 無為なことに魂を燃やせる― 355 00:16:45,036 --> 00:16:47,789 不毛な情熱が不可欠だと考えました 356 00:16:47,914 --> 00:16:50,417 しまなみ杯を ママチャリで完走したあと― 357 00:16:50,542 --> 00:16:52,794 そのまま 四国から 帰ってこられたと聞きました 358 00:16:52,919 --> 00:16:55,380 すばらしい不毛なエネルギーです 359 00:16:55,505 --> 00:16:57,799 いや あれは 狙ってやったわけでなく… 360 00:16:58,967 --> 00:17:01,718 先輩に お願いしたのは そういうわけだったのですが 361 00:17:02,137 --> 00:17:04,430 まさかトレーニングまで してくださるとは― 362 00:17:04,555 --> 00:17:06,182 私の計算違いでした 363 00:17:06,307 --> 00:17:08,309 私も まだまだですね 364 00:17:12,313 --> 00:17:13,564 申し訳ありません 365 00:17:13,689 --> 00:17:16,650 私は設計の手直しがありますので これで 366 00:17:19,988 --> 00:17:21,072 (ため息) 367 00:17:23,491 --> 00:17:28,955 (歓声と拍手) 368 00:17:29,080 --> 00:17:30,457 (明石さん)アハハッ 369 00:17:30,582 --> 00:17:36,337 (歓声と拍手) 370 00:17:41,551 --> 00:17:44,179 (私の声)気が付くと 私は蹴上のインクラインに来ていた 371 00:17:44,304 --> 00:17:46,264 願わくば ここへ 明石さんと来たかったが― 372 00:17:46,389 --> 00:17:47,390 薔薇色のキャンパスライフが― 373 00:17:47,515 --> 00:17:50,101 二度と手の届かない所へ 遠ざかっていくように思われ― 374 00:17:50,226 --> 00:17:52,020 私は心の中で泣いた 375 00:17:52,520 --> 00:17:54,397 いっそ このまま琵琶(びわ)湖に流れて― 376 00:17:54,522 --> 00:17:57,484 湖に住む妖怪 なすカボチャとして 名をはせようか 377 00:17:57,609 --> 00:17:58,776 (きしむ音) (私)んっ? 378 00:17:58,902 --> 00:18:02,572 (きしむ音) 379 00:18:02,697 --> 00:18:04,657 (私の声) 整理軍… コートの男! 380 00:18:06,284 --> 00:18:08,661 ああっ あ~ 381 00:18:09,245 --> 00:18:10,288 あっ! 382 00:18:11,539 --> 00:18:14,584 おい 小津! 何してやがる 383 00:18:14,709 --> 00:18:16,211 (小津)あら 見つかっちゃった 384 00:18:16,669 --> 00:18:18,004 (私)お前が… 385 00:18:18,505 --> 00:18:20,548 内緒(ないしょ)にしといてくださいよ 386 00:18:20,673 --> 00:18:23,301 秘密結社の大切な資金源ですから 387 00:18:23,426 --> 00:18:24,761 (小津)ギヒヒヒッ (私)ふん! 388 00:18:24,886 --> 00:18:26,596 (私)これは明石さんの! 389 00:18:26,721 --> 00:18:28,264 (小津)今は不景気ですから 390 00:18:28,389 --> 00:18:31,267 自転車だけじゃ やっていけないのですわ 391 00:18:31,392 --> 00:18:33,186 お前 なんてことを! 392 00:18:33,311 --> 00:18:37,273 さる北のお方が こんな お遊びの 飛行機を探しているのですわ 393 00:18:37,857 --> 00:18:39,609 どっちみち 琵琶湖に落ちるもんだから― 394 00:18:39,734 --> 00:18:40,777 有効利用でしょう 395 00:18:41,194 --> 00:18:43,029 それじゃあ 私の自転車を… 396 00:18:43,738 --> 00:18:45,657 盗んだのも お前の手引きか? 397 00:18:45,782 --> 00:18:48,159 1つ1つは関知してません 398 00:18:48,284 --> 00:18:49,702 いいじゃありませんか 399 00:18:49,827 --> 00:18:51,955 私なりの愛と捉えてくださいよ 400 00:18:52,080 --> 00:18:53,122 あなたは どうやったって― 401 00:18:53,248 --> 00:18:55,667 今みたいな有(あ)り様(さま)に なっちまうんですから 402 00:18:55,792 --> 00:18:57,377 (私)そうかもしれない 403 00:18:57,502 --> 00:19:01,548 (小津)ならば このまま 流れに身を任せるのも悪くないと 404 00:19:01,673 --> 00:19:05,176 我々は運命の黒い糸で 結ばれているというわけです 405 00:19:05,635 --> 00:19:08,429 手伝いませんか? あなた 借金あるでしょう? 406 00:19:08,555 --> 00:19:11,724 京都中の自転車 回収して回りましょうよ 407 00:19:14,352 --> 00:19:16,896 なるべく2人乗りしてるカップルを 重点的に狙おう 408 00:19:17,313 --> 00:19:19,607 ようがす! そうこなくっちゃ 409 00:19:20,233 --> 00:19:21,192 (耳打ちする声) 410 00:19:23,486 --> 00:19:24,445 どうした? 411 00:19:24,571 --> 00:19:25,947 ばれちゃったみたいです 412 00:19:26,072 --> 00:19:26,990 はっ? 413 00:19:27,115 --> 00:19:28,616 明石さんたち来るみたいです 414 00:19:28,741 --> 00:19:32,495 整理軍のこと 口外しないでね 命 危ないですから 415 00:19:32,620 --> 00:19:33,454 おい! 416 00:19:35,707 --> 00:19:37,083 一体 何なんだ! 417 00:19:37,208 --> 00:19:39,377 (きしむ音) 418 00:19:39,961 --> 00:19:41,045 うわっ 419 00:19:41,421 --> 00:19:42,338 ハア 420 00:19:43,339 --> 00:19:44,549 ええっ!? 421 00:19:44,757 --> 00:19:46,551 (砂利の音) (私)えっ? 422 00:19:46,843 --> 00:19:48,970 自転車整理軍のコートの男! 423 00:19:49,470 --> 00:19:51,723 ち… 違うんだ! 明石さん これは誤解だ 424 00:19:52,098 --> 00:19:53,474 私が やったのではない 425 00:19:53,600 --> 00:19:55,810 あくまで これは 自転車にこやか整理軍が… 426 00:19:55,935 --> 00:19:57,604 どういうことなんですか! 427 00:19:57,854 --> 00:19:59,063 説明してください! 428 00:19:59,188 --> 00:20:00,356 うわあ! ううっ 429 00:20:01,065 --> 00:20:03,359 違うんだあー! 430 00:20:04,193 --> 00:20:05,737 (動く音) (明石さん)先輩! 431 00:20:06,279 --> 00:20:07,280 あっ 432 00:20:11,993 --> 00:20:14,162 (明石さん)先輩 ブレーキは? 433 00:20:14,621 --> 00:20:15,580 分からん! 434 00:20:16,539 --> 00:20:17,749 (明石さん)先輩! 435 00:20:18,916 --> 00:20:20,460 飛び降りてください! 436 00:20:21,961 --> 00:20:23,338 (私の声) このままでは池に突っ込む 437 00:20:23,880 --> 00:20:26,382 こうなったらペダルをこいで 飛んでみせる 438 00:20:27,550 --> 00:20:30,094 今こそ 特訓の成果が ものを言う時だ! 439 00:20:34,307 --> 00:20:35,183 飛んだ! 440 00:20:35,516 --> 00:20:36,684 ペダル… ペダルは? ああっ! 441 00:20:40,229 --> 00:20:42,690 明石さん ペダルはどこだ? 442 00:20:43,316 --> 00:20:44,692 そんなもん ないです 443 00:20:45,276 --> 00:20:49,447 自由飛行部門ですからー! 444 00:20:51,115 --> 00:20:52,492 (私の声)ようやく気が付いた 445 00:20:52,617 --> 00:20:54,869 それが まさに不毛な努力であったと 446 00:20:55,078 --> 00:20:57,580 その失敗はサイクリング部に 胴上げされた瞬間から― 447 00:20:57,705 --> 00:20:59,165 始まっていたのかもしれない 448 00:20:59,290 --> 00:21:00,667 もし 他のサークルを 選んでいれば― 449 00:21:00,792 --> 00:21:03,711 私は全く別の2年間を 送っていただろう 450 00:21:03,836 --> 00:21:06,756 何より小津と出会ってしまったのは 最大の敗因である 451 00:21:07,090 --> 00:21:09,258 イカロスは むやみに羽ばたかなければ― 452 00:21:09,384 --> 00:21:11,094 風に乗っていただろうか? 453 00:21:21,312 --> 00:21:27,318 ♪~ 454 00:22:43,186 --> 00:22:49,192 ~♪