1 00:00:06,506 --> 00:00:09,801 (私の声)高野(たかの)川と鴨(かも)川に挟まれた 三角地帯に位置する下鴨(しもがも)神社 2 00:00:09,926 --> 00:00:11,636 京都に由緒正しき神社は 山ほど あれど― 3 00:00:11,761 --> 00:00:15,223 中でも下鴨神社は平安以前から 存在する屈指の大神社である 4 00:00:15,348 --> 00:00:17,392 縁結びを始め さまざまな ご神徳を得るべく― 5 00:00:17,517 --> 00:00:19,394 年間 多くの参拝客が訪れるが 6 00:00:19,519 --> 00:00:20,395 その界隈(かいわい)に 夜な夜な― 7 00:00:20,520 --> 00:00:22,063 ある屋台ラーメンが 出没することは― 8 00:00:22,188 --> 00:00:23,398 あまり知られていない 9 00:00:24,023 --> 00:00:25,275 名を“猫ラーメン”といい― 10 00:00:25,400 --> 00:00:27,485 猫でダシを取っているという噂(うわさ)の ラーメンであるが― 11 00:00:27,610 --> 00:00:28,903 真偽のほどは定かでない 12 00:00:29,029 --> 00:00:30,238 しかし その味は無類である 13 00:00:34,200 --> 00:00:36,786 (ラーメンをすする音) 14 00:00:36,911 --> 00:00:37,746 (私)あっ? 15 00:00:52,343 --> 00:00:55,180 (樋口(ひぐち)師匠) 貴君 下鴨幽水荘(ゆうすいそう)の人だろう? 16 00:00:55,305 --> 00:00:58,266 (私の声)いかにも 私は下鴨幽水荘の住人である 17 00:00:58,391 --> 00:00:59,642 そうですが… 18 00:00:59,768 --> 00:01:01,478 (樋口師匠)私も住んでいる 19 00:01:01,603 --> 00:01:04,438 (私の声)下鴨幽水荘とは 叡山(えいざん) 出町柳(でまちやなぎ)裏にある下宿で 20 00:01:04,563 --> 00:01:06,691 聞いたところによると 幕末の混乱期に焼失して― 21 00:01:06,816 --> 00:01:08,151 再建以後 そのままであるという 22 00:01:08,276 --> 00:01:10,653 窓から明かりが 漏れていなければ廃墟(はいきょ)同然 23 00:01:10,779 --> 00:01:12,655 入学したばかりのころ 大学生協(せいきょう)の紹介で― 24 00:01:12,781 --> 00:01:13,656 ここを訪れた時― 25 00:01:13,782 --> 00:01:16,659 九龍城(クーロンじょう)に迷い込んだのかもと 思ったのも 無理からぬ話だ 26 00:01:16,785 --> 00:01:18,161 そうだ この奇妙な怪人を― 27 00:01:18,286 --> 00:01:20,872 幾度か見かけていたことを 思い出した 28 00:01:21,873 --> 00:01:24,125 私は下鴨神社の神だ 29 00:01:25,460 --> 00:01:27,670 正確に言うと “かもたけつぬみのかみ”だ 30 00:01:27,796 --> 00:01:29,964 (むせる音) (私)か… かもたけ? 31 00:01:30,089 --> 00:01:32,675 “かもたけつのみのかも”だ 二度も言わすな 32 00:01:32,801 --> 00:01:34,803 (私)いや 1回目と違って… (樋口師匠)知らんのか? 33 00:01:34,928 --> 00:01:36,846 私は 君のことなら 何でも知っている 34 00:01:36,971 --> 00:01:38,264 (私)あっ? (樋口師匠)ご両親の名前や― 35 00:01:38,389 --> 00:01:39,224 しょっちゅう ゲロ吐いて― 36 00:01:39,349 --> 00:01:41,476 いつも酸っぱい臭(にお)いのする 赤ん坊だったこと 37 00:01:41,601 --> 00:01:42,727 小学校時代の あだ名 38 00:01:42,852 --> 00:01:45,522 中学校時代の学園祭 高校時代の淡い初恋 39 00:01:45,647 --> 00:01:46,523 初めてのアダルトビデオ 40 00:01:46,648 --> 00:01:47,774 (私)はっ (樋口師匠)浪人時代 41 00:01:47,899 --> 00:01:49,692 大学に入ってからの 怠惰で無為な日々 42 00:01:49,818 --> 00:01:51,152 (私)ウソだ… (樋口師匠)夢見たサークルで― 43 00:01:51,277 --> 00:01:52,654 恋に破れ 人と打ち解けられず― 44 00:01:52,779 --> 00:01:54,948 やがて人の恋路を 邪魔するようになった 45 00:01:55,073 --> 00:01:58,326 なにゆえ そんな いじける一方の 2年間を過ごしてしまったのか 46 00:01:58,451 --> 00:01:59,327 それは小津(おづ)が… 47 00:01:59,452 --> 00:02:00,954 (樋口師匠) 貴君が小津の薄汚れた魂に― 48 00:02:01,079 --> 00:02:02,288 影響をされたことは認めよう 49 00:02:02,413 --> 00:02:03,706 しかし それだけでは ないだろう 50 00:02:04,082 --> 00:02:05,917 (私の声) 私の脳裏を 来し方2年の ムニャムニャが 51 00:02:06,042 --> 00:02:07,043 走馬灯のように流れた 52 00:02:07,168 --> 00:02:08,877 よりによって 神聖なる下鴨神社の森で― 53 00:02:09,002 --> 00:02:11,965 棘(とげ)だらけの思い出に繊細なハートを わしづかみにされかけ 私は… 54 00:02:12,841 --> 00:02:15,426 …と叫びたくなったが 紳士らしく耐えた 55 00:02:15,552 --> 00:02:17,470 あっ お… 大きな お世話だ 56 00:02:17,595 --> 00:02:19,222 あんたには何も関係がない 57 00:02:21,474 --> 00:02:23,017 もうじき神無月だ 58 00:02:23,143 --> 00:02:24,853 また出雲(いずも)へと 行かなくてはならない 59 00:02:24,978 --> 00:02:26,229 それが我々の仕事だが― 60 00:02:26,354 --> 00:02:28,731 手間もかかるし 電車代もバカにならぬ 61 00:02:28,857 --> 00:02:30,859 この ご時世 それぞれ持ち寄った案件を― 62 00:02:30,984 --> 00:02:33,945 そのまま審査済みの木箱へと 放り込んでいくばかりだ 63 00:02:34,070 --> 00:02:36,030 それでも根が真面目な私は ついつい深入りし― 64 00:02:36,156 --> 00:02:38,533 1人1人にふさわしい 出会いについて じっくり考え― 65 00:02:38,658 --> 00:02:41,327 頭をかきむしる まるで結婚相談所だ 66 00:02:41,452 --> 00:02:42,912 嘆かわしい 67 00:02:43,955 --> 00:02:45,081 そう思わないか? 君 68 00:02:45,206 --> 00:02:46,583 話が全然 見えません 69 00:02:46,708 --> 00:02:50,587 (樋口師匠) 秋になれば 我々は出雲に集まって 男女の縁を決める 70 00:02:53,006 --> 00:02:55,550 ここに君の知っている 明石(あかし)さんの名前がある 71 00:02:55,675 --> 00:02:59,178 そして こちらに君と小津の名前 分かるかい? 72 00:02:59,512 --> 00:03:00,763 どういうことですか? 73 00:03:00,889 --> 00:03:02,974 (樋口師匠)思いの外 アホだな 74 00:03:03,099 --> 00:03:06,019 私は縁結びの神として 君の知っている女性― 75 00:03:06,144 --> 00:03:09,355 明石さんとの縁を 誰かと結ぼうとしている 76 00:03:09,981 --> 00:03:12,859 要するに 貴君か小津君かの どちらかだ 77 00:03:14,986 --> 00:03:16,821 希望があれば 私の部屋へ来なさい 78 00:03:16,946 --> 00:03:19,407 下鴨幽水荘の210号室だ 79 00:03:19,532 --> 00:03:20,992 (私の声) この怪人は明石さんを 80 00:03:21,117 --> 00:03:24,078 私か小津のどちらかと 結びつけるという 81 00:03:24,495 --> 00:03:30,501 ♪~ 82 00:04:47,203 --> 00:04:53,209 ~♪ 83 00:05:00,133 --> 00:05:02,010 (私の声)高校のころは 特にクラブ活動もせず 84 00:05:02,135 --> 00:05:05,430 同じような非活動的な男たちと くすぶっているばかりだった 85 00:05:05,555 --> 00:05:07,932 しかし 私はピカピカの大学1回生 86 00:05:08,057 --> 00:05:10,393 幻の至宝といわれる 薔薇色(ばらいろ)の キャンパスライフへの扉が― 87 00:05:10,518 --> 00:05:13,354 今ここに 無数に開かれているのを 目の当たりにし― 88 00:05:13,479 --> 00:05:15,189 興奮半ば もうろうとしていた 89 00:05:15,815 --> 00:05:17,734 そして 私が選び取ったのは… 90 00:05:20,570 --> 00:05:22,864 黒髪の乙女たちと 爽やかに汗を流しながら― 91 00:05:22,989 --> 00:05:24,407 恋のラリーを打ち合うのだ 92 00:05:24,532 --> 00:05:27,577 そう考えていた私は 手の施しようのないアホだった 93 00:05:28,119 --> 00:05:29,203 1回生の夏 94 00:05:30,330 --> 00:05:32,415 まだ それなりに 薔薇色であった私の脳みそを― 95 00:05:32,540 --> 00:05:34,959 現実という鋭い刃(やいば)が一閃(いっせん)した 96 00:05:35,084 --> 00:05:37,754 友達100人 出来るのも悪くないと 高をくくっていたが― 97 00:05:37,879 --> 00:05:41,466 人と爽やかに交流することが いかに難しいかを思い知らされた 98 00:05:41,591 --> 00:05:43,426 ラリーどころか まともに 打ち返すことも かなわず― 99 00:05:43,551 --> 00:05:45,011 打ったボールは返ってこない 100 00:05:45,136 --> 00:05:48,014 柔軟な社交性を身につけようにも そもそも会話の中に入れない 101 00:05:48,139 --> 00:05:49,474 会話に加わるための社交性を― 102 00:05:49,599 --> 00:05:51,392 どこか よそで 身につけてくる必要があったと― 103 00:05:51,517 --> 00:05:53,102 気付いた時には 既に手遅れであり― 104 00:05:53,227 --> 00:05:55,563 私はサークルで 居場所を失っていた 105 00:05:56,606 --> 00:05:59,358 その時 私の傍らに ひどく縁起の悪そうな顔をした― 106 00:05:59,484 --> 00:06:01,235 不気味な男が立っていた 107 00:06:01,360 --> 00:06:03,988 (私) これは繊細な私だけに見える 地獄からの死者か? 108 00:06:04,113 --> 00:06:05,782 (小津) あなた ヒドいこと おっしゃる 109 00:06:05,907 --> 00:06:08,785 ご安心ください 僕は あなたの同志ですよ 110 00:06:08,910 --> 00:06:10,578 (私の声)これが小津との ファーストコンタクトであり 111 00:06:10,703 --> 00:06:12,580 ワーストコンタクトでもあった 112 00:06:18,503 --> 00:06:21,923 (小津)それにしても これは見事に明暗を分けましたね 113 00:06:22,048 --> 00:06:24,258 いっそ僕も 向こうに混ざっちゃおうかな 114 00:06:24,383 --> 00:06:26,844 (私の声)下鴨神社を下った 高野川 鴨川の合流地点は 115 00:06:26,969 --> 00:06:28,054 “鴨川デルタ”と呼ばれ― 116 00:06:28,179 --> 00:06:29,680 春から夏にかけての コンパ会場として― 117 00:06:29,806 --> 00:06:31,182 広く利用されていた 118 00:06:31,307 --> 00:06:32,683 小津は私と同学年である 119 00:06:32,809 --> 00:06:35,061 夜道で会えば10人中 8人は妖怪と間違え― 120 00:06:35,186 --> 00:06:36,395 2人は妖怪と納得する 121 00:06:36,521 --> 00:06:38,022 他人の不幸をおかずに して 飯が食える― 122 00:06:38,147 --> 00:06:39,023 およそ 褒めるべきところが― 123 00:06:39,148 --> 00:06:40,066 1つもない男だ 124 00:06:40,191 --> 00:06:41,192 もし 彼と 出会わなければ― 125 00:06:41,317 --> 00:06:43,736 きっと私の魂は もっと 清らかだったであろう 126 00:06:44,320 --> 00:06:45,279 おい 裏切るのか? 127 00:06:45,404 --> 00:06:47,782 (小津)冗談ですよ (私)くっつくな 128 00:06:47,907 --> 00:06:49,784 だって 夜風が冷たいんだもの 129 00:06:49,909 --> 00:06:51,285 この寂しがり屋さんが 130 00:06:51,410 --> 00:06:52,620 きゃあ 131 00:06:52,745 --> 00:06:56,499 クソ… なぜ私の隣が 黒髪の乙女じゃなく お前なんだ 132 00:06:56,958 --> 00:06:58,876 (小津) おや 明石さんも来てますね 133 00:06:59,502 --> 00:07:00,962 ほら あそこ 134 00:07:01,087 --> 00:07:01,921 (私)貸せ! 135 00:07:05,675 --> 00:07:06,509 うん… 136 00:07:10,179 --> 00:07:11,681 (小津)彼女 工学部だから― 137 00:07:11,806 --> 00:07:14,142 バードマンの設計 やってるんじゃないかな 138 00:07:14,976 --> 00:07:18,229 おい 今日は やめにしないか? 明石さんを巻き添えにするのは… 139 00:07:18,354 --> 00:07:19,272 何を言ってるんです! 140 00:07:19,397 --> 00:07:21,899 黒いキューピットとしての誇りは どうしました? 141 00:07:22,024 --> 00:07:23,192 もちろん誇りはあるが― 142 00:07:23,317 --> 00:07:24,986 世間の人から見れば これは ただの… 143 00:07:25,111 --> 00:07:28,030 世間の目を気にして 信念を折り曲げるんですか? 144 00:07:28,156 --> 00:07:31,284 僕が身も心も捧(ささ)げたのは そんな人じゃ ありませんね 145 00:07:31,409 --> 00:07:33,119 孤独と偏見に 耐えてきたからこそ― 146 00:07:33,244 --> 00:07:34,954 今の あなたが あるんじゃないですか 147 00:07:35,079 --> 00:07:37,457 彼らは現実を見失っているんです 148 00:07:37,582 --> 00:07:39,876 あなたが軽佻浮薄(けいちょうふはく)な夢に 浮かれる者たちに― 149 00:07:40,001 --> 00:07:42,545 鉄槌(てっつい)を下さねば さあ いざ! 150 00:07:43,171 --> 00:07:45,548 やあ やあ 我こそは恋の邪魔者 151 00:07:45,673 --> 00:07:48,551 浮かれた諸君に向けて これより天誅(てんちゅう)を下す! 152 00:07:52,930 --> 00:07:55,057 “ア・ホ” 153 00:07:55,224 --> 00:07:56,934 そうとも 我はアホなり 154 00:07:57,059 --> 00:07:59,228 君たち くれぐれも 目には注意するように! 155 00:08:01,606 --> 00:08:03,274 (ロケット花火の音) 156 00:08:04,275 --> 00:08:06,152 (悲鳴) 157 00:08:06,277 --> 00:08:09,071 (私の声) 打ち上げ花火という物は 夜空に打ち上げるべき物である 158 00:08:09,530 --> 00:08:10,781 決して手に持ったり 人に向けたり― 159 00:08:10,907 --> 00:08:13,075 川向こうで 和気あいあいと コンパをしている人たちを― 160 00:08:13,201 --> 00:08:15,286 爆撃するのに使っては いけない 161 00:08:15,786 --> 00:08:17,914 (男)ひるむな 反撃しろ! 162 00:08:18,039 --> 00:08:20,166 ヘヘヘ… あれ? 163 00:08:20,291 --> 00:08:22,001 (男)この狼藉者(ろうぜきもの)めが! 164 00:08:22,126 --> 00:08:23,169 (小津)川 浅(あさ)っ! 165 00:08:23,294 --> 00:08:24,587 (男)手討ちにしてくれる! 166 00:08:24,712 --> 00:08:26,631 (私)おい 小津! まだ火が 167 00:08:26,756 --> 00:08:27,590 うおおい! 168 00:08:27,715 --> 00:08:28,925 うう… ああ! 169 00:08:29,050 --> 00:08:30,968 (男たち)ウーッ やったー! 170 00:08:32,595 --> 00:08:35,389 (私の声) 小津と知り合ってからの私は 安井金比羅宮(やすいこんぴらぐう)も かくやと 171 00:08:35,515 --> 00:08:37,308 サークル内に 張り巡らされた赤い糸を― 172 00:08:37,433 --> 00:08:39,018 切って 切って 切りまくった 173 00:08:39,143 --> 00:08:41,562 こうした工作活動にかけて 小津は天才的であり― 174 00:08:41,687 --> 00:08:42,772 およそハレンチな噂ならば― 175 00:08:42,897 --> 00:08:45,066 知らぬことは ないという 独自の情報網を駆使して― 176 00:08:45,191 --> 00:08:47,318 私が油をまく そばから 火をつけて回り― 177 00:08:47,443 --> 00:08:49,737 あること ないこと吹聴して 常にサークル内のどこかで― 178 00:08:49,862 --> 00:08:52,865 修羅場の炎が燃えさかるという 彼好みの環境を作り上げた 179 00:08:52,990 --> 00:08:55,952 まさに悪の権化にふさわしい ホモサピエンスの面汚しである 180 00:08:56,827 --> 00:08:59,705 サークルを追われたあとも 私たちの活動は緩むことなく― 181 00:08:59,830 --> 00:09:01,123 更にグローバルに展開され― 182 00:09:01,249 --> 00:09:03,209 死神の いでたちをした 黒いキューピットとして― 183 00:09:03,334 --> 00:09:04,919 その悪名を とどろかせた 184 00:09:05,044 --> 00:09:07,547 東に恋する乙女がいれば “あんな変態 やめろ”と言い― 185 00:09:07,672 --> 00:09:09,298 西に片思いに悩む男がいれば― 186 00:09:09,423 --> 00:09:10,967 “無駄なことは やめておけ”と 助言する 187 00:09:11,092 --> 00:09:13,844 南で恋の火花が散りかけていれば すぐさま 水をかけてやり 188 00:09:13,970 --> 00:09:15,846 北では常に恋愛無用論を説いた 189 00:09:15,972 --> 00:09:18,891 時に被害者に あやうく 琵琶湖疏水(びわこそすい)に沈められそうになり 190 00:09:19,016 --> 00:09:21,394 下宿を包囲され 北白川(きたしらかわ)の漫画喫茶で息を殺し 191 00:09:21,519 --> 00:09:23,896 直截(ちょくさい)に ものを言いすぎて 近衛通(このえどおり)の路上で泣かれたりした 192 00:09:24,021 --> 00:09:26,399 しかし 私は負けなかった 負けることが できなかった 193 00:09:26,524 --> 00:09:27,858 しかし 負けていたほうが 私も みんなも― 194 00:09:27,984 --> 00:09:29,402 幸せになれたに違いない 195 00:09:29,527 --> 00:09:31,779 小津は幸せに ならなくてもよい! 196 00:09:34,365 --> 00:09:36,450 (荒い息遣い) 197 00:09:36,909 --> 00:09:39,662 (私の声)木屋町(きやまち)まで逃げ切った 私が 息を整え 歩いていると 198 00:09:39,787 --> 00:09:43,457 民家の軒下から怪しげな妖気を 垂れ流している老婆が 私を捉えた 199 00:09:43,583 --> 00:09:47,211 その得体の知れない妖気には 説得力があり 私は論理的に考えた 200 00:09:47,336 --> 00:09:49,797 これだけの妖気を無料で 垂れ流している人物の占いが― 201 00:09:49,922 --> 00:09:51,340 当たらないわけが ないと 202 00:09:51,799 --> 00:09:53,634 (占い婆(ばば))何を聞きたいんじゃ? 203 00:09:54,468 --> 00:09:58,097 あなたの顔は 大変 もどかしいという顔 不満ですね 204 00:09:58,222 --> 00:10:01,851 あなたは才能を生かす環境に 恵まれていないと感じています 205 00:10:02,310 --> 00:10:03,894 そうなんです まさに そのとおり 206 00:10:04,020 --> 00:10:07,231 (占い婆)あなたは大変 真面目で 才能も おありのようじゃし 207 00:10:07,356 --> 00:10:09,066 (私の声) 老婆の慧眼(けいがん)に私は早くも脱帽した 208 00:10:09,191 --> 00:10:11,861 能ある鷹(たか)が爪を隠すがごとく 慎ましく隠しすぎたせいで― 209 00:10:11,986 --> 00:10:13,237 自分でも所在が 分からなくなっていた― 210 00:10:13,362 --> 00:10:15,114 私の良識と才能を 一目で見抜くとは 211 00:10:15,239 --> 00:10:18,075 とにかく 好機を逃さないことが肝心じゃ 212 00:10:18,200 --> 00:10:19,035 好機? 213 00:10:19,160 --> 00:10:21,662 (占い婆)好機というのは よい機会ということじゃ 214 00:10:21,787 --> 00:10:22,622 あの それは分かってます 215 00:10:23,080 --> 00:10:26,334 好機は いつでも あなたの目の前に ぶら下がってございます 216 00:10:26,459 --> 00:10:29,587 あなたは その好機を捕らえて 行動に出なくちゃいけません 217 00:10:30,046 --> 00:10:32,632 うーん やけに漠然としてますね もっと具体的に 218 00:10:32,757 --> 00:10:34,634 さもないと! 219 00:10:35,134 --> 00:10:39,138 あなたは また今と変わらぬ人生を 歩むことじゃろう 220 00:10:39,263 --> 00:10:40,431 はい 千円 221 00:10:40,556 --> 00:10:42,016 まだ何も解決してないのに 222 00:10:42,141 --> 00:10:44,143 (小津)迷える子羊ごっこですか? (私)うん? 223 00:10:45,645 --> 00:10:47,313 (羽貫(はぬき)さん) 小津くんの お友達? 224 00:10:48,356 --> 00:10:49,523 うぎゅぎゅ ぎゅぎゅぎゅ! 225 00:10:49,982 --> 00:10:50,983 このハレンチ野郎 226 00:10:51,108 --> 00:10:52,526 あのモテモテぶりは どういうことだ 227 00:10:52,985 --> 00:10:55,029 (小津)あなた ちょっと 八つ当たりが過ぎますよ 228 00:10:55,154 --> 00:10:57,239 こんな菌の塊 私に食わせて 229 00:10:57,740 --> 00:10:59,700 何すか? このヒダヒダは 230 00:10:59,825 --> 00:11:02,912 あれは 僕の通ってる 歯医者の歯科衛生士なんです 231 00:11:03,079 --> 00:11:05,956 すっかり酔っ払ってたみたいで 飲みに誘われたんですよ 232 00:11:06,082 --> 00:11:06,957 歯医者? 233 00:11:07,083 --> 00:11:08,250 あなたも どうです? 234 00:11:08,376 --> 00:11:10,920 あんな若い女性が 指を口に 突っ込んでくれる機会なんて― 235 00:11:11,045 --> 00:11:12,713 あなたには一生 ないでしょう 236 00:11:12,922 --> 00:11:14,924 一緒にするな そこまで落ちたくない 237 00:11:15,132 --> 00:11:17,259 フッフーン 知ってますよ 238 00:11:17,385 --> 00:11:20,221 あなたが下鴨神社の縁結びの神に お参りしてること 239 00:11:20,679 --> 00:11:22,723 あ あ… あれは座興で 一度やっただけだ 240 00:11:22,848 --> 00:11:25,226 そういえば あなた 明石さんて どうなんです? 241 00:11:26,477 --> 00:11:29,105 (樋口師匠)要するに 貴君か小津君かの どちらかだ 242 00:11:29,230 --> 00:11:30,106 どうって? 243 00:11:30,231 --> 00:11:32,650 あなたというアホな人間を 理解できてしまう不幸な人は― 244 00:11:32,775 --> 00:11:34,652 これまで僕しか いなかったわけだけれども 245 00:11:34,777 --> 00:11:35,486 やかましい 246 00:11:35,945 --> 00:11:38,322 彼女には できてしまいそうなんだな 247 00:11:38,864 --> 00:11:40,241 これは好機ですよ 248 00:11:40,950 --> 00:11:44,662 あのね 俺は俺のような人間を 理解できる人より― 249 00:11:44,787 --> 00:11:45,621 フハ フハーッとして 250 00:11:45,746 --> 00:11:48,833 美しいものだけで頭がいっぱいの 黒髪の乙女がいい 251 00:11:48,958 --> 00:11:50,751 また そんな わがままを言う 252 00:11:50,876 --> 00:11:53,087 まさか1回生の時に 小日向(こひなた)さんに振られたこと― 253 00:11:53,212 --> 00:11:54,839 まだ こだわっているんじゃ ないでしょうね? 254 00:11:54,964 --> 00:11:56,465 その名前を口に出すな 255 00:11:56,590 --> 00:11:58,551 じゃ あんたの代わりに 幸せになってやろ 256 00:11:58,676 --> 00:12:00,344 この好機 僕が取っちまお 257 00:12:00,511 --> 00:12:02,596 言ってろ 明石さんは お前などに興味はない 258 00:12:02,721 --> 00:12:05,599 (小津) 不景気な顔は やめましょうよ 戦勝祝いですよ 259 00:12:05,724 --> 00:12:06,559 うるさい 260 00:12:06,684 --> 00:12:09,478 お前のせいで有意義な学生生活が 台無(だいな)しになってしまった 261 00:12:09,603 --> 00:12:11,647 あらら それは お互いさまじゃ ありませんか? 262 00:12:11,772 --> 00:12:13,607 どうせ あなたは どんな道を選んだって― 263 00:12:13,732 --> 00:12:15,609 今みたいな有(あ)り様(さま)に なっちまうんだ 264 00:12:15,734 --> 00:12:17,570 いずれにせよ 僕は あなたに出会って― 265 00:12:17,695 --> 00:12:19,613 全力で あなたをダメにします 266 00:12:19,738 --> 00:12:22,867 ああ… お前は なぜ 私に つきまとうのだ? 267 00:12:22,992 --> 00:12:24,368 僕なりの愛ですよ 268 00:12:24,493 --> 00:12:27,371 我々は運命の黒い糸で 結ばれてるというわけです 269 00:12:27,913 --> 00:12:30,791 (私の声)恐るべき幻影が 脳裏に浮かび 私は戦慄(せんりつ)した 270 00:12:32,918 --> 00:12:34,795 (ドアの開く音) 271 00:12:35,421 --> 00:12:37,715 (うなり声) 272 00:12:37,840 --> 00:12:40,426 (明石さん) 先輩 もっと食べたければ 急いでください 273 00:12:40,551 --> 00:12:41,302 あっ? 274 00:12:41,969 --> 00:12:43,512 (私) 明石さん なぜ 君がここに? 275 00:12:43,637 --> 00:12:45,723 本当に先輩は工夫がない人ですね 276 00:12:45,848 --> 00:12:47,766 ここは 2次会の 定番じゃありませんか 277 00:12:47,892 --> 00:12:50,436 先程のバードマン・サークルが あちらに陣取っております 278 00:12:50,561 --> 00:12:52,563 お肉は久しぶりなので 私も失礼 279 00:12:53,022 --> 00:12:56,066 宴会のあとで肉とは 農耕民族としての誇りはないのか 280 00:12:56,775 --> 00:12:58,068 あっ 小津は? 281 00:12:58,194 --> 00:13:00,154 既に裏口から お逃げになりました 282 00:13:00,279 --> 00:13:01,739 先輩も お逃げください 283 00:13:01,864 --> 00:13:04,033 (私) あの野郎 またも私を差し置いて 284 00:13:04,283 --> 00:13:06,702 精算は私が済ませておきましたので 裏から 285 00:13:06,827 --> 00:13:08,037 話は通してあります 286 00:13:08,162 --> 00:13:09,580 んっ この借りは いずれ 287 00:13:09,705 --> 00:13:11,582 借りは いいですから 約束を果たしてください 288 00:13:12,041 --> 00:13:13,083 (私)うん? 289 00:13:13,209 --> 00:13:15,586 もういいです お早く 私も戻ります 290 00:13:18,422 --> 00:13:19,673 (私の声) 明石さんとは去年の夏 291 00:13:19,798 --> 00:13:22,092 下鴨古本市のバイトで出会った 292 00:13:22,218 --> 00:13:25,387 私の1つ下の学年で 工学部に 所属しているという彼女は― 293 00:13:25,513 --> 00:13:27,306 何をするにも 万事 手回しがよく― 294 00:13:27,431 --> 00:13:29,517 ジッと何かを にらむような 目つきは 万引き犯も― 295 00:13:29,642 --> 00:13:31,185 手が出せないと思われた 296 00:13:34,730 --> 00:13:36,106 (店員)へえ そんななんだ 297 00:13:36,232 --> 00:13:38,025 (店員)アハハッ (バイト店員)ウフフッ 298 00:13:38,150 --> 00:13:39,860 明石さんは 休みの日って何してんの? 299 00:13:41,070 --> 00:13:43,614 なんで そんなこと あなたに言わなきゃいけないの? 300 00:13:46,325 --> 00:13:49,036 (私の声) その後 彼女に週末の予定を 聞く者はなかった 301 00:13:49,161 --> 00:13:51,247 私は彼女に “そのまま 君の道をひた走れ”と 302 00:13:51,372 --> 00:13:53,123 熱いエールを送った 303 00:13:54,625 --> 00:13:56,794 (ドアの開く音) (小津)おこんばんは 304 00:13:58,170 --> 00:14:00,297 何をしてる 勝手に入るな 305 00:14:00,839 --> 00:14:02,591 よくも ぬけぬけと 306 00:14:03,133 --> 00:14:04,635 (小津)カステラです 307 00:14:04,760 --> 00:14:06,887 これ あげるから 機嫌直してください 308 00:14:07,012 --> 00:14:09,765 珍しいではないか お前が物をくれるなんて 309 00:14:09,890 --> 00:14:11,976 大きなカステラを 1人で食べるというのは― 310 00:14:12,101 --> 00:14:13,811 孤独の極地ですからね 311 00:14:13,936 --> 00:14:16,647 人恋しさを しみじみ 味わってほしくて… 312 00:14:17,147 --> 00:14:19,108 とっとと出ていけ 俺は忙しいんだ 313 00:14:19,233 --> 00:14:20,067 まあまあ そう言わず 314 00:14:20,192 --> 00:14:21,026 (私)帰れ (小津)うあああ 315 00:14:23,153 --> 00:14:24,822 (私の声) どうせ あいつは また この下宿にいるという 316 00:14:24,947 --> 00:14:26,866 師匠の所へでも 訪ねてきたんだろう 317 00:14:26,991 --> 00:14:29,034 このカステラも その余り物に違いない 318 00:14:29,159 --> 00:14:30,494 とはいえ まさしく小津の言うとおり― 319 00:14:30,619 --> 00:14:32,705 これだけのカステラは 誰かと一緒に食べたいものだ 320 00:14:32,830 --> 00:14:35,040 断じて小津などではなく 例えば明石さ… 321 00:14:37,001 --> 00:14:39,753 明石さんの名前が出てきたのは 我ながら驚いた 322 00:14:40,170 --> 00:14:42,923 あの妙ちくりんな神を名乗る男は わざわざ出雲へ出かけて― 323 00:14:43,048 --> 00:14:44,633 男女の縁結びをすると 言っていたが― 324 00:14:44,758 --> 00:14:46,760 本当に そんなこと あってたまるか 325 00:14:48,596 --> 00:14:50,306 神無月 つまり旧暦の十月― 326 00:14:50,431 --> 00:14:52,141 八百万(やおよろず)の神々が出雲へ集まって― 327 00:14:52,266 --> 00:14:54,518 諸国が お留守になるということは 多くの人が知っていよう 328 00:14:54,643 --> 00:14:55,978 私だって知っていた 329 00:14:56,103 --> 00:14:57,855 その中には 相当 妙ちくりんな神様も― 330 00:14:57,980 --> 00:14:59,815 おわしますに違いない それは問題ない 331 00:15:00,524 --> 00:15:02,276 私が常々 疑問に思っていたのは― 332 00:15:02,401 --> 00:15:04,194 それだけの神様を わざわざ出雲へ集めて― 333 00:15:04,320 --> 00:15:06,071 何をやっているか ということだった 334 00:15:06,280 --> 00:15:09,783 そこには八百万の神々が出雲で 侃々諤々(かんかんがくがく)の論争結果― 335 00:15:09,909 --> 00:15:12,328 男女の縁を決めていると 書いてあった 336 00:15:15,122 --> 00:15:15,956 ああっ 337 00:15:17,124 --> 00:15:18,000 (私の声)真偽を確かめるには 338 00:15:18,125 --> 00:15:20,294 今から2階に上がって 神様に面会すればよい 339 00:15:20,419 --> 00:15:21,629 しかし それで昨日の神が… 340 00:15:21,754 --> 00:15:23,297 (樋口師匠) やーい ひっかかった 341 00:15:23,422 --> 00:15:25,007 (私の声) …などと言ってきたら 目も当てられない 342 00:15:25,132 --> 00:15:27,593 己を罵倒しながら 残りの半生を送る羽目(はめ)になるだろう 343 00:15:27,718 --> 00:15:30,179 よしんば あの男が 本物の神様だったとして― 344 00:15:30,304 --> 00:15:32,890 さして熱烈な恋に身を 焦がしているわけでもあるまいに 345 00:15:33,015 --> 00:15:34,975 刹那(せつな)的な寂しさから 赤の他人を求めるなど― 346 00:15:35,100 --> 00:15:36,226 私の心情に反する 347 00:15:36,352 --> 00:15:37,269 そうやって孤独に耐え得ず― 348 00:15:37,394 --> 00:15:40,147 ガツガツと他人を求める 不埒(ふらち)な 学生たちを軽蔑すればこそ― 349 00:15:40,272 --> 00:15:42,232 恋の邪魔者という 限りなく汚名に近い名を― 350 00:15:42,358 --> 00:15:44,151 はせてきたのでは なかったか? 351 00:15:47,655 --> 00:15:49,156 不毛な苦闘に憂き身をやつし― 352 00:15:49,281 --> 00:15:52,076 ついには限りなく敗北に近い勝利を 収めたのでは なかったか? 353 00:15:52,201 --> 00:15:53,619 恋の邪魔者たる私が― 354 00:15:53,744 --> 00:15:55,663 今さら 生き方を変えることなど 許されるのか? 355 00:15:55,788 --> 00:15:57,122 それこそ 蜘蛛(くも)の糸に しがみついたところを― 356 00:15:57,247 --> 00:15:58,082 プツンと切られて― 357 00:15:58,207 --> 00:16:01,001 お釈迦(しゃか)様にエンターテイメントを 提供するのが オチではないか 358 00:16:01,502 --> 00:16:03,629 (小津) じゃあ あんたの代わりに 僕が幸せになってやろう 359 00:16:03,754 --> 00:16:05,839 (私の声)あの明石さんが 小津のような変態偏食妖怪に 360 00:16:05,965 --> 00:16:07,591 だまされるわけがないと 思う一方― 361 00:16:07,716 --> 00:16:08,968 彼女には あの妖怪のような男でも― 362 00:16:09,093 --> 00:16:11,428 面白がれるだけの 懐の深さがあると思われた 363 00:16:14,890 --> 00:16:15,891 このまま 小津と明石さんが― 364 00:16:16,016 --> 00:16:16,892 ねんごろに なるような ことがあれば― 365 00:16:17,017 --> 00:16:18,936 私一人の人恋しさの問題ではない 366 00:16:19,061 --> 00:16:20,646 明石さんの将来に関わることだ 367 00:16:20,771 --> 00:16:24,149 私の理性までが カステラのように ボロボロ崩れていくかに思えた 368 00:16:25,025 --> 00:16:28,487 (私)負けてたまるか 人恋しさに負けてたまるか 369 00:16:28,612 --> 00:16:30,447 (蛾(が)の羽音) 370 00:16:30,572 --> 00:16:31,615 んっ? 371 00:16:34,952 --> 00:16:37,079 (私) それは もう無類の味なのだが 372 00:16:37,204 --> 00:16:38,789 いかんせん どこへやってくるか分からない― 373 00:16:38,914 --> 00:16:41,291 神出鬼没のラーメン屋なのです 374 00:16:41,417 --> 00:16:43,502 先輩は よく行かれるのですね 375 00:16:43,627 --> 00:16:45,796 ああ 私は もう鼻が利くからね 376 00:16:45,921 --> 00:16:47,339 空腹に耳を傾ければ― 377 00:16:47,464 --> 00:16:49,049 猫ラーメンの風鈴の音(ね)が 聞こえてくる 378 00:16:49,591 --> 00:16:51,552 私も食してみたいです 379 00:16:53,053 --> 00:16:53,887 ぎょえええ! 380 00:16:54,013 --> 00:16:54,847 (私)うわ? 381 00:16:54,972 --> 00:16:56,890 (明石さん)イヤ イヤ! イヤー! イヤ イヤ! 382 00:16:57,016 --> 00:16:59,101 (私)離せ! 離すんだ 明石さん 383 00:16:59,226 --> 00:17:00,561 (明石さん)ヒッ うわー! 384 00:17:00,686 --> 00:17:02,187 はっ ムニュッてしてました ムニュッと 385 00:17:02,312 --> 00:17:03,564 (私)まあまあ 落ち着きたまえ 386 00:17:03,689 --> 00:17:04,565 (明石さん)はっ 387 00:17:08,027 --> 00:17:09,278 (明石さん)ハア… 388 00:17:11,821 --> 00:17:13,991 すみません 蛾(が)は苦手なんです 389 00:17:14,491 --> 00:17:16,868 これは モチグマンといって 5匹で一揃(ひとそろ)いなのですが― 390 00:17:16,993 --> 00:17:18,454 1匹 なくしてしまって 391 00:17:18,912 --> 00:17:21,165 心配するな どうせ地球は丸いのだ 392 00:17:21,290 --> 00:17:24,542 いつか また会える 何なら私が捜してあげてもいい 393 00:17:24,667 --> 00:17:26,962 それより 猫ラーメンに 連れていってください 394 00:17:27,713 --> 00:17:28,672 そんなことなら 395 00:17:29,548 --> 00:17:30,716 約束ですよ 396 00:17:34,178 --> 00:17:36,430 (私の声)約束って… そうか 397 00:17:37,264 --> 00:17:40,017 私は綿密に物事を分析して 分析し尽くした揚げ句― 398 00:17:40,142 --> 00:17:41,685 おもむろに万全の対策をとる 399 00:17:41,810 --> 00:17:43,604 むしろ万全の対策が 手遅れになることも― 400 00:17:43,729 --> 00:17:45,397 躊躇(ちゅうちょ)せずに分析する男である 401 00:17:45,522 --> 00:17:48,484 明石さんの人生 私の人生を 幾(いく)通りものパターンで分析し― 402 00:17:48,609 --> 00:17:50,736 誰が幸せになるべきで 誰が ならないべきか― 403 00:17:50,861 --> 00:17:51,820 これは すぐに結論が出た 404 00:17:51,945 --> 00:17:53,530 しかし さんざん人の恋路を 邪魔してきた私が― 405 00:17:53,655 --> 00:17:55,240 今さら生き方を 変えられるかというのが― 406 00:17:55,365 --> 00:17:56,617 最大の難問であった 407 00:18:00,829 --> 00:18:03,457 人恋しさと理性が組んず解れつの 死闘を演じた結果― 408 00:18:03,582 --> 00:18:06,668 私は寝不足の頭を抱え 210号室のドアをたたいた 409 00:18:09,880 --> 00:18:10,798 (樋口師匠)はい 410 00:18:15,344 --> 00:18:16,345 (私)小津は いけません 411 00:18:16,470 --> 00:18:18,263 私と明石さんにしてください 412 00:18:19,014 --> 00:18:22,101 うん よかろう ちょっと待ちたまえ 413 00:18:24,311 --> 00:18:26,396 (電話のダイヤル音) 414 00:18:27,606 --> 00:18:30,150 (樋口師匠) そうか 分かった 了解 了解 415 00:18:30,275 --> 00:18:31,235 (電子音) 416 00:18:32,611 --> 00:18:36,240 今夜 8時前に 賀茂大橋(かもおおはし)の東詰で待ち合わせだ 417 00:18:36,698 --> 00:18:37,908 (警備員)止まらないでください 418 00:18:38,033 --> 00:18:40,828 止まらないでください 橋の上で止まっては危険です 419 00:18:40,953 --> 00:18:42,204 (樋口師匠)今日は五山(ござん)か 420 00:18:43,038 --> 00:18:45,374 これから君は この賀茂大橋を渡る 421 00:18:45,499 --> 00:18:48,293 すると 向こうから 明石さんが歩いてくる 422 00:18:48,502 --> 00:18:50,921 何か話しかけて 逢(あ)い引(び)きに誘いなさい 423 00:18:51,046 --> 00:18:53,423 む… 無理です お断りする! 424 00:18:53,882 --> 00:18:55,300 ダダをこねるな 425 00:18:55,425 --> 00:18:56,510 おかしいじゃないか! 426 00:18:56,635 --> 00:18:57,636 あんた 出雲に出かけて― 427 00:18:57,761 --> 00:18:59,638 縁結びしてくれるんじゃ ないのか 428 00:19:00,180 --> 00:19:01,598 (樋口師匠)こうした布石も大事だ 429 00:19:01,723 --> 00:19:03,976 (私)これだと ただの正攻法ではないか 430 00:19:04,101 --> 00:19:06,228 (樋口師匠) ああ つべこべ言うな 行きなさい 431 00:19:06,353 --> 00:19:07,187 (私)ああっ 432 00:19:08,063 --> 00:19:11,567 (歓声とシャッター音) 433 00:19:15,112 --> 00:19:16,572 これまでのことは水に流す 434 00:19:16,697 --> 00:19:18,323 今こそ薔薇色の キャンパスライフへと― 435 00:19:18,448 --> 00:19:19,658 邁進(まいしん)するのだ 436 00:19:21,451 --> 00:19:22,369 フンッ 437 00:19:23,287 --> 00:19:27,499 (荒い息遣い) 438 00:19:33,338 --> 00:19:35,090 あっ 先輩 こんばんは 439 00:19:35,215 --> 00:19:36,466 ああっ あ… 440 00:19:36,592 --> 00:19:38,594 昨日は無事 逃げられましたか? 441 00:19:38,719 --> 00:19:40,220 お… おかげさまで うん 442 00:19:40,345 --> 00:19:41,471 五山ですか? 443 00:19:44,600 --> 00:19:45,767 そうそう うん 444 00:19:46,435 --> 00:19:47,811 ああ それでは 445 00:19:53,358 --> 00:19:55,485 (私の声) いや よくやった 今日は ここまで 446 00:19:55,611 --> 00:19:57,988 恋路の走り方など かけらも学んでこなかった私が― 447 00:19:58,113 --> 00:20:00,532 ここまで できたのだ これで精いっぱい 448 00:20:01,241 --> 00:20:03,035 (小津)おわっ おい! 449 00:20:03,952 --> 00:20:06,914 今日は ここまでなんて 思ってるんじゃないでしょうな 450 00:20:07,039 --> 00:20:10,542 神の言葉に逆らわず とっとと恋路を走りやがれ 451 00:20:11,168 --> 00:20:13,503 さては 全部 お前のたくらみか 452 00:20:13,629 --> 00:20:15,756 縁結びの神に お願いしたでしょ? 453 00:20:15,881 --> 00:20:16,798 大きな お世話だ 454 00:20:17,341 --> 00:20:19,551 今こそ 好機をつかんでやれ 455 00:20:21,345 --> 00:20:24,556 今すぐ ガツンといかないと ここから飛び降りてやる 456 00:20:24,681 --> 00:20:25,766 ちょっと待て 457 00:20:25,891 --> 00:20:27,392 俺の恋路と お前が飛び降りることと― 458 00:20:27,517 --> 00:20:29,102 何の関係がある 459 00:20:29,728 --> 00:20:31,230 僕にも ちょっと分かりません 460 00:20:31,813 --> 00:20:34,191 (明石さん) 小津さん 水かさが増えてます 461 00:20:34,316 --> 00:20:35,859 飛び降りると死にます 462 00:20:38,237 --> 00:20:39,821 (男1)おい コラ 小津! 463 00:20:40,781 --> 00:20:42,324 (男2)下りてこい オラッ! 464 00:20:42,449 --> 00:20:44,117 (城ヶ崎(じょうがさき)先輩)この 裏切り者が! 465 00:20:44,243 --> 00:20:46,787 (相島(あいじま)) もう逃げられんぞ 小津! 466 00:20:47,371 --> 00:20:49,957 花火の仕返しか? しかし これは… 467 00:20:50,499 --> 00:20:53,210 小津先輩! また何を やらかしたのですか? 468 00:20:53,335 --> 00:20:55,128 (男)この くされ外道が (小津)おい ちょっと… わあっ 469 00:20:55,254 --> 00:20:56,838 (川に落ちた音) (私)小津! 470 00:21:00,550 --> 00:21:01,426 (私)あ… 471 00:21:01,551 --> 00:21:03,929 (男1)小津! (男2)こいつも仲間か? 472 00:21:04,054 --> 00:21:05,180 いや 私は小津と関係ない 473 00:21:05,305 --> 00:21:07,266 (男)ええーい 474 00:21:07,391 --> 00:21:09,142 (私) やめろ やめ… ああっ 475 00:21:09,268 --> 00:21:11,520 (私の声)あの運命の時計台前で テニスサークル キューピットを 476 00:21:11,645 --> 00:21:13,939 選んだことへの 後悔の念は振り払えない 477 00:21:14,064 --> 00:21:15,482 あの時 他のサークルを 選んでいれば― 478 00:21:15,607 --> 00:21:17,693 私は もっと 別の2年間を送っていただろう 479 00:21:18,151 --> 00:21:20,279 幻の至宝といわれる 薔薇色のキャンパスライフを― 480 00:21:20,404 --> 00:21:21,905 手に握っていたかもしれない 481 00:21:30,956 --> 00:21:36,962 ♪~ 482 00:22:53,246 --> 00:22:59,252 ~♪